説明

炭素材料の表面改質方法及び表面改質された炭素材料

【課題】炭素材料の表面改質する方法および当該方法で表面改質された炭素材料を提供する。
【解決手段】炭素材料をヘキサフルオロプロペン二量体またはヘキサフルオロプロペン三量体を含有する溶液に浸漬させて表面改質を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料の表面改質方法および表面改質された炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、顔料、導電材、ガス吸蔵材料、補強材、石油の脱硫などの吸着剤を始め、極めて幅広い用途に用いられている。炭素材料の表面修飾を行い、特定の性質を付与することは従来行われている。粒子状炭素材料ではこれらの用途・目的にあわせて、液中に分散させた形態にて処理されることも多いため、水や有機溶媒への分散性向上を目的とした表面改質処理についてこれまでに種々検討されている。あるいは粒子状の炭素材料に限らず、他材料との親和性向上を目的とした炭素材料の表面改質処理についても検討されている。炭素材料を分散させるための溶媒として水や溶剤など様々なものが使用されているが、屈折率制御や耐熱性、耐薬品性等の溶剤安定性、嫌水性の観点から最近ではフッ素系溶剤が多くの場合で使用されている。フッ素系溶剤は、高価ではあるものの、前記のような特性に加え、乾燥性に優れるにも関わらず引火点が無いという特性を持つために有用されている。
【0003】
フッ素系溶剤中での炭素材料の分散性や撥水性を向上させる方法として炭素材料表面のフッ素化が挙げられる。しかし、炭素材料の表面改質においては、フッ素化に限らずいずれの方法でも高温加熱や真空減圧等を必要とし、カーボンマイクロビーズへのフッ素化に400℃の加温が必要となる(特許文献1)。また設備面でも非常に複雑な手法と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3291803号
【特許文献2】特表2010−535689
【0005】
以上のように、従来、炭素材料は分散性向上、撥水性向上等のの表面改質手法が煩雑であり、このような問題点を解決するために、簡便に表面改質された炭素材料を得る手法が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の従来技術の問題点を解消した炭素材料の表面改質方法および表面改質された炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、炭素材料の分散性や撥水性を向上させるための表面改質手法において、高温加熱や真空減圧といった非常に煩雑な手法を用いなければならないという問題点を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するフッ素化合物を用いることで、フッ素化合物を含有する改質溶液に炭素材料を浸漬するのみで、炭素材料表面に当該フッ素化合物を付加修飾し、炭素材料の表面改質を行う手法を見出した。この表面改質方法により、炭素材料の撥水性、あるいはフッ素系溶剤への分散性を著しく向上させることができる。即ち本発明は、下記項1〜4の改質された炭素材料と炭素材料の改質方法に関する。
項1.炭素材料をヘキサフルオロプロペン二量体またはヘキサフルオロプロペン三量体を含有する溶液に浸漬させて表面改質を行うことを特徴とする炭素材料の表面改質方法。
項2.前記炭素材料が粒子状炭素材料および/または、シート状炭素材料から選択される、項1に記載の表面改質方法。
項3.項1または項2に記載の方法で表面改質された炭素材料。
項4.項3に記載の表面改質された粒子状炭素材料を分散させてなる材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素材料の簡便な表面改質方法が提供される。本発明の表面改質方法により表面改質された炭素材料は炭素材料表面の撥水性や炭素材料の分散性を向上させることができる。本発明の表面改質された炭素材料は炭素材料とフルオロアルケニル基が化学的に結合しているため、表面修飾の性質を長期間維持できる。また、改質条件や当該フッ素化合物の種類等を選択することにより、分散性や撥水性を調整することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の炭素材料の表面改質方法について詳述する。
【0010】

被表面改質炭素材料
改質の対象となる炭素材料はフッ素化合物と反応し得るような官能基を有するものであれば特に限定される物ではなく、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ハードブラック、ソフトブラック、カーボンナノチューブ、墨、ダイヤモンドライクカーボン等が挙げられる。また、形状も特定ではなく粉体状、棒状、円盤状、シート状、繊維状等どのような形態であってもよく、既に他の基材に被覆された状態でもよい。
【0011】
本発明の目的に適した炭素材料としては、とりわけカーボンブラック等の粒子状炭素材料、およびシート状炭素材料を挙げることができる。
【0012】
フッ素化合物
フッ素化合物であるヘキサフルオロプロペン二量体またはヘキサフルオロプロペン三量体は下記構造式(1)〜(3)で表される。当該フッ素化合物は室温において液体状であるため、それ自身溶媒を兼ねて表面改質を行ってもよいが、フッ素系溶剤で希釈して用いてもよい。
【化1】

【0013】
溶剤成分
溶剤は、当該フッ素化合物が溶解すればどのような溶剤でもよく、例えば、HFE−7100(住友スリーエム(株)製)、HFE−7200(住友スリーエム(株)製)、HFE−7300(住友スリーエム(株)製)、HFE−7600(住友スリーエム(株)製)、アサヒクリンAK−225(旭硝子(株)製)、アサヒクリンAK−3000(旭硝子(株)製)、ガルデンHT70(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT110(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT135(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT170(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT200(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT230(ソルベイソレクシス(株)製)、ガルデンHT270(ソルベイソレクシス(株)製)、バートレルXF(三井デュポンフロロケミカル(株))、バートレルXE(三井デュポンフロロケミカル(株)製)、バートレルX−DA3(三井デュポンフロロケミカル(株)製)、バートレルX−E10(三井デュポンフロロケミカル(株)製)、バートレルMCAplus(三井デュポンフロロケミカル(株)製)、バートレルSMT(三井デュポンフロロケミカル(株)製)、バートレルX−GY(三井デュポンフロロケミカル(株)製)のような溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単一で用いてもよく、2種類以上の溶剤を併用してもよい。また、フッ素系溶剤以外の溶剤を併用することも可能である。
【0014】
表面改質方法
炭素材料を表面改質する方法は、当該フッ素化合物溶液に炭素材料が浸漬すれば特定の方法で無くともよい。浸漬時間は、一概には言えないが、一般的に10分以上の浸漬は必要である。通常は1時間の浸漬を行えば十分であるが、それ以上の時間の浸漬を行っても特に問題ではない。
【0015】
当該フッ素化合物溶液中の当該フッ素化合物濃度は特に規定されるものではないが、例えば0.2から100重量%が好ましい。濃度が0.2重量%より低い場合には表面改質の効率が悪くなる。一方、濃度が高い場合には当該フッ素化合物の沸点(揮発温度)に留意して表面改質する必要がある。また、浸漬中に超音波照射、加温、触媒添加等の方法を併用してもよく、それにより表面改質の効率が向上し、表面改質に掛かる時間を短縮することが出来る。触媒としてはトリエチルアミン等の塩基性化合物が例として挙げられるが、特に言及するものではない。
【0016】
炭素材料はそのまま用いてもよいが、濃硫酸等の酸あるいは水酸化カリウム等のアルカリ溶液で前処理した後、上記方法で表面改質を行ってもよい。
【0017】
浸漬終了後は、その後の表面改質された炭素材料の使用形態に応じて処理すればよい。例えば、粉体状で使用する場合は、溶液から取り出した後、フッ素系溶剤で洗浄し、乾燥器などで乾燥させればよい。
【0018】
表面改質された粒子状炭素材料は、単独でもその優れた特性を利用した種々の用途に利用できるが、液体または固体に添加分散した形態の材料として使用することができる。液体としては例えばオイル、有機溶剤、イオン液体等を、固体としては樹脂やゴム等の成形体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
本発明の内容を以下の実施例により説明するが、本発明の内容は実施例により限定して解釈されるものではない。
【0020】
実施例1
濃硫酸10mL中にアセチレンブラック0.2gを投入後、振盪させた。アセチレンブラックを濾取し、イオン交換水およびアセトンで洗浄した。
洗浄したアセチレンブラックを乾燥後、HFE−7300(住友スリーエム(株)製)中に投入し、ヘキサフルオロプロペン三量体(構造式(1)および/または構造式(2))およびトリエチルアミンを加えて1時間浸漬させた。アセチレンブラックを再度濾取し、アセトンおよびHFE−7300で洗浄し、乾燥させた。
【化2】

【0021】
実施例2
実施例1で1時間浸漬させる代わりに、超音波照射させながら10分間浸漬させること以外は実施例1と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0022】
実施例3
実施例2の濃硫酸の代わりに、濃硝酸を用いる以外は実施例2と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0023】
実施例4
実施例2の濃硫酸の代わりに、4M水酸化カリウム水溶液を用いる以外は実施例2と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0024】
実施例5
実施例2の濃硫酸の代わりに、4M水酸化ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例2と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0025】
実施例6
実施例2の濃硫酸の代わりに、トリエチルアミンを用いる以外は実施例2と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0026】
実施例7
実施例2の濃硫酸での処理を行わないこと以外は実施例2と同様の方法でアセチレンブラックを処理した。
【0027】
実施例8
4M水酸化カリウム水溶液中にカーボンシート(クレハ製クレカペーパー)を投入後、10分間超音波照射した。カーボンシートを取り出し、イオン交換水およびアセトンで洗浄した。
洗浄したカーボンシートを乾燥後、ヘキサフルオロプロペン三量体(構造式(1)および/または構造式(2))を加えて10分間超音波照射した。カーボンシートを再度取り出し、アセトンおよびHFE−7300で洗浄し、乾燥させた。
【化3】

【0028】
実施例9
実施例8の4M水酸化カリウム水溶液での処理を行わないこと以外は実施例8と同様の方法でカーボンシートを処理した。
【0029】
比較例1
実施例2と同様に濃硫酸で処理したが、その後フッ素化処理を行わなかった。
【0030】
比較例2
実施例3と同様に濃硝酸で処理したが、その後フッ素化処理を行わなかった。
【0031】
比較例3
実施例4と同様に4M水酸化カリウム水溶液で処理したが、その後フッ素化処理を行わなかった。
【0032】
比較例4
実施例5と同様に4M水酸化ナトリウム水溶液で処理したが、その後フッ素化処理を行わなかった。
【0033】
比較例5
実施例6と同様にトリエチルアミンで処理したが、その後フッ素化処理を行わなかった。
【0034】
比較例6
アセチレンブラックをHFE−7300で洗浄し、乾燥させた。
【0035】
分散性評価
実施例1〜7および比較例1〜6により処理したアセチレンブラックをフッ素系溶剤であるHFE−7300(住友スリーエム(株)製)に分散させ、その分散状態を目視で確認した。HFE−7300に投入し振盪させた際に炭素材料が分散したものを○、しなかったものを×とした。
【0036】
【表1】

【0037】
XPS分析
実施例8及び実施例9のカーボンシートのXPS測定を行った。これより本発明の方法で処理された炭素材料はフッ素基で修飾されていることが確認された。
【0038】
【表2】

【0039】
表1に示したとおり、本発明による表面改質処理を行なうことでフッ素系溶剤に対する炭素材料の分散性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明による、炭素材料の表面改質方法は、電池、光学材料、塗料等の分野で用いられる炭素材料の表面改質方法として有用であり、炭素材料表面の撥水性や炭素材料の分散性を簡便に向上させることが出来る手法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料をヘキサフルオロプロペン二量体またはヘキサフルオロプロペン三量体を含有する溶液に浸漬させて表面改質を行うことを特徴とする炭素材料の表面改質方法。
【請求項2】
前記炭素材料が粒子状炭素材料および/または、シート状炭素材料から選択される、請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法で表面改質された炭素材料。
【請求項4】
請求項3に記載の表面改質された粒子状炭素材料を分散させてなる材料。

【公開番号】特開2013−75775(P2013−75775A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215500(P2011−215500)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】