説明

炭素触媒及び炭素触媒の製造方法

【課題】高価な白金や白金合金等の貴金属を含まなくとも高い酸素還元能を有する、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素触媒を提供すること。
【解決手段】上記炭素触媒は、構成元素として少なくとも炭素、窒素及び水素を含有する炭素触媒であって、炭素触媒中における炭素の存在割合が80質量%以上であり、水素の炭素に対する元素比率が0.04〜0.28であり、そして窒素の炭素に対する元素比率が0.005〜0.06であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素触媒及びその製造方法に関する。更に詳しくは、固体高分子型燃料電池用の電極等に使用する触媒として好適な炭素触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率、無公害の燃料電池、特に電気自動車(FCEV)や定置用電熱併供システム(CG−FC)に用いられる固体高分子型燃料電池の実用化は、地球温暖化、環境汚染問題に対する重要な解決策の一つとして注目されている。燃料電池では、そのカソードで起こる酸素還元反応を促進するために、資源量が少なく極めて高価な白金を触媒として多量に使用する必要があり、これが燃料電池の実用化の大きな障壁になっている。そこで白金等の高価な貴金属を必要としない、燃料電池用電極触媒の開発が大きな注目を集め、わが国はもとより米国をはじめとする世界中で精力的にその研究開発が行われている。それらの研究の主流は鉄やコバルト等の卑金属を活性中心とする電極触媒の開発であったが、得られた電極触媒の発電性能は十分ではなく、また耐久性の面でも問題があり実用化に至ってはいない。
【0003】
一方、実質的に貴金属を使用しない燃料電池用電極触媒としては、窒素原子を含有する炭素触媒が古くから注目され盛んに研究されている(特許文献1〜特許文献4)。例えば、特許文献4では、多数の平均粒径10〜20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合した炭素触媒及び該炭素触媒におけるに好適な窒素原子の存在比が開示されている。また、特許文献5では、炭素触媒において有効な窒素原子の存在状態が検討示されている。特許文献6では、炭素触媒において有効な酸素原子の存在比が検討されている。そして、炭素触媒における窒素原子の役割等についても各種の検討がなされ(特許文献7)、反応機構等に関する提案もなされている。
また近年、グラファイトの末端の窒素原子近傍の炭素原子が酸素還元反応の活性部位であるとの報告がある(非特許文献1〜3)ほか、有機高分子材料の炭素化の際に金属の存在により窒素原子の脱離とグラファイト化の進行が促進されるとの報告がある(非特許文献4)。
更に特許文献8では、炭素触媒を用いた膜電極接合体(以下、「MEA」と略記することがある)、燃料電池部材、これらを用いた燃料電池等について開示されている。しかし、未だに燃料電池用電極触媒、特にカソード(空気極)用として充分な性能を有する炭素触媒は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭47−21388号公報
【特許文献2】特開2004−330181号公報
【特許文献3】特開2006−331846号公報
【特許文献4】特開2007−207662号公報
【特許文献5】特開2009−291706号公報
【特許文献6】特開2009−291707号公報
【特許文献7】特開2007−26746号公報
【特許文献8】特開2009−291714号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. C 112 (2008) 14706−14709
【非特許文献2】J. Power Sources 187 (2009) 93−97
【非特許文献3】ECS Trans, 25 (2009) 1251−1259
【非特許文献4】Carbon, 32 (1994) 329−334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高価な白金等の貴金属、それらの合金等を含まなくとも高い酸素還元能を有する、燃料電池用電極触媒等として好適に用いることのできる炭素触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の元素組成を有する炭素触媒が際立って優れた酸素還元能を有しており、特に固体高分子電解質型燃料電池のカソード(空気極)の酸素還元触媒として際めて好適であることを見出した。更にこのような炭素触媒は、炭素化工程及び金属元素の除去工程からなる触媒化処理を2回(2サイクル)以上繰り返すことにより、好適に製造できることを見出して本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によると、本発明の上記目的及び利点は、第一に、
構成元素として少なくとも炭素、窒素及び水素を含有する炭素触媒であって、炭素触媒中における炭素の存在割合が80質量%以上であり、水素の炭素に対する元素比率が0.04〜0.28であり、そして窒素の炭素に対する元素比率が0.005〜0.06である前記炭素触媒によって達成される。
本発明の上記目的及び利点は、第二に、
有機高分子材料と金属元素とを含む前駆体(該前駆体中の金属元素量は0.1〜20質量%)に対して、以下の工程A及びBからなる触媒化処理を2回以上繰り返すことを特徴とする、上記の炭素触媒の製造方法によって達成される;
工程A:非酸化性雰囲気下、400〜1,500℃における炭素化工程、及び
工程B:金属元素の除去工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素触媒は、高分子固体電解質型燃料電池用のカソード(空気極)として高い酸素還元特性を有し、燃料電池用電極触媒として好適に用いられるほか、各種化学反応の触媒として好適に用いることができる。
本発明の炭素触媒の製造方法は、上記の如き高い性能を有する炭素触媒を、簡易な方法によって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1−1、実施例2−1、実施例3−1、実施例4−1及び比較例1−1において製造したMEAの発電特性試験によって得られた電流密度とセル電圧との関係を表す電流電圧曲線である。
【図2】実施例1−1、実施例2−1、実施例3−1、実施例4−1及び比較例1−1において製造したMEAの発電特性試験によって得られた出力密度と電流密度との関係を表す出力密度曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について述べる。
[炭素触媒]
本発明の炭素触媒は、構成元素として少なくとも炭素、窒素及び水素を含有する炭素触媒であって、炭素触媒中における炭素の存在割合が80質量%以上であり、水素の炭素に対する元素比率が0.04〜0.28であり、そして窒素の炭素に対する元素比率が0.005〜0.06である。
ここで、炭素の存在割合が80質量%未満である炭素触媒は、炭素化が不十分であり、従って炭素触媒の活性点の形成が不十分なものであるため、触媒活性が低い。本発明の炭素触媒における炭素の存在割合は、85質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましい。本発明の炭素触媒における炭素の存在割合の上限については、構成元素として炭素、窒素及び水素以外の元素が含まれず、且つ、水素の炭素に対する元素比率及び窒素の炭素に対する元素比率が最小である場合の99.1質量%が理論上の上限であるが、高い炭素含有率を得るための炭素化工程に要するコストの観点から、炭素の存在割合は97質量%以下であると好ましく、95質量%以下であるとより好ましい。
本発明の炭素触媒においては、水素の炭素に対する元素比率が0.04〜0.28である。水素の炭素に対する元素比率が0.04未満である炭素触媒は、良好な触媒活性を有することが困難である。また、水素の炭素に対する元素比率が0.28を超える炭素触媒は、酸素還元反応において水素イオンと電子の供給が行われる導電経路が寸断される可能性が高くなる。水素の炭素に対する元素比率の下限としては、0.07以上が好ましく、0.09以上がより好ましく、0.11以上であることが更に好ましい。また、水素の炭素に対する元素比率の上限としては、0.25以下が好ましく、0.23以下がより好ましく、0.21以下であることが更に好ましい。
【0011】
本発明の炭素触媒は、窒素の炭素に対する元素比率が0.005〜0.06の範囲にある。本発明の炭素触媒は窒素原子を含有することにより触媒活性を示す。窒素の炭素に対する元素比率が、0.005未満の炭素触媒は高い活性を示すことが困難である。窒素の炭素に対する元素比率が、0.06を超過する炭素触媒は、炭素化が不十分であり、従って炭素触媒の活性点の形成が不十分なものであるため、高い活性を示し難い。本発明の炭素触媒において、窒素の炭素に対する元素比率の下限は0.006以上であることがより好ましく、0.007以上であることが更に好ましく、上限は0.05以下であることがより好ましく、0.045以下であることが更に好ましい。
本発明の炭素触媒は、構成元素として更に1種類以上の金属元素を含み、該金属元素の割合が炭素に対して質量比で0.05以下であるものが好ましく、0.04以下であるとより好ましい。当該金属元素の割合が炭素に対して質量比で0.05より大きい炭素触媒は金属による副反応、例えば過酸化水素の生成、ヒドロキシラジカルの生成反応等が進行する可能性があり、好ましくない。
本発明の炭素触媒における、金属元素の割合の下限は特に限定されないが、後述の方法によって本発明の炭素触媒を製造する際に、炭素触媒から金属元素が検出されなくなるまで金属の除去工程を行うことは製造コストの上昇を伴うこととなるほか、金属の含有割合を0とすることは困難であることが多く、そもそも金属の含有割合を敢えて0とする必要もない。よって本発明の炭素触媒における、金属元素の割合の下限としては、該金属元素の含有割合が炭素に対して質量比0.001以上であると好ましく、0.003以上であるとより好ましい。
本発明の炭素触媒に含有されることのできる上記金属元素としては、鉄、コバルト及びニッケルよりなる群から選ばれる1種類以上であると好ましい。
本発明の炭素触媒は、触媒の表面で反応が進行するため高い比表面積を有することが好ましく、具体的には、BET法によって窒素を吸着質として測定した比表面積(以下、「BET比表面積」と略称することがある。)が200m/g以上であると好ましく、300m/g以上であるとより好ましく、400m/g以上であると更に好ましい。比表面積が200m/gより小さい炭素触媒は、触媒表面上に存在する活性点が少なくなり、十分な触媒特性を示さないおそれがある。本発明の炭素触媒において、BET法で測定した比表面積は、高い方が好ましいが、製造の容易さから好ましい上限は2,000m/gであり、1,500m/g以下であるとより好ましく、1,000m/g以下であると更に好ましい。
【0012】
[炭素触媒の製造方法]
本発明の炭素触媒の製造方法は、有機高分子材料と金属元素とを含む前駆体(該前駆体中の金属元素量は0.1〜20質量%)に対して、以下の工程A及びBからなる触媒化処理を2回(2サイクル)以上繰り返すことを特徴とする製造方法である;
工程A:非酸化性雰囲気下、400〜1,500℃における炭素化工程、及び
工程B:金属元素の除去工程。
ここで使用される前駆体としては、例えば以下のものを挙げることができる。(1)有機高分子材料が構造中に金属元素を有することにより金属元素を含む前駆体。この態様の例としては、例えばハイパーブランチ型金属フタロシアニン、ポリアクリル酸金属塩、ポリフェロセン等を挙げることができる。
(2)構造中に金属元素を有する有機高分子材料と金属化合物または金属単体との混合物である前駆体。
(3)構造中に金属元素を有しない有機高分子材料と金属化合物または金属単体との混合物である前駆体。
(4)構造中に金属元素を有しない有機高分子材料と構造中に金属元素を有する有機高分子材料との混合物である前駆体。
(5)構造中に金属元素を有しない有機高分子材料と構造中に金属元素を有する有機高分子材料と金属化合物または金属単体との混合物である前駆体。
【0013】
本発明の炭素触媒の製造方法において用いられる有機高分子材料は、熱硬化性、熱可塑性いずれの有機高分子材料も使用可能であり、炭素化において炭素の残存量の多いものが好ましい。これらは、分子構造中に窒素原子を含んでいても含んでいなくても使用可能である。ただし、窒素原子を含んでいない樹脂材料を使用する場合には、後述のように窒素の供給源となる、含窒素化合物の共存下で炭素化する必要がある。
窒素を含有しない有機高分子材料としては、熱硬化性のものとして例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を;
熱可塑性のものとして例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリスルフィド等を、それぞれ例示することができる。
窒素を含有する有機高分子材料としては、熱硬化性のものとして例えば尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等を;
熱可塑性ものとして例えばポリアミド、ポリイミド、ポリアゾール、テトラミン誘導体とテトラカルボン酸誘導体との共重合体、ポリアニリン、ポリピロール、アクリロニトリル(共)重合体等を;
その他のものとしてハイパーブランチ金属フタロシアニン等を、それぞれ例示することができる。
【0014】
窒素を含有する有機高分子材料としては、上記のうちポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ型芳香族ポリアミド;
ポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ型芳香族ポリアミド;
コポリパラフェニレン3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド等の共重合型芳香族ポリアミド;
パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−オキシフェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと
ピロメリット酸3,4:3’,4’−ビフェニレンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸又はこれらの酸無水物と
の共重合体からなるポリイミド;
ポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズチアゾールからなるポリアゾール;
3,3’−ジアミノベンジディン、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、2,3,5,6−テトラアミノピリジン等のテトラミン又はこれらの強酸塩及び水和物よりなる群から選択される少なくとも1種と
ピロメリット酸、3,4:3’,4’−ビフェニレンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸又はこれらの酸無水物と
の重合体からなるラダーポリマー;
ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;
アクリロニトリル(共)重合体;
4,4’−(1,3−フェニレンビス(オキシ))ジフタロニトリル、4,4’−(1,4−フェニレンビス(オキシ))ジフタロニトリル、4,4’−(4,4’−ビフェニレンビス(オキシ))ジフタロニトリル、4,4’−(4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンビフェニレンビス (オキシ))ジフタロニトリル等のジフタロニトリル化合物と
塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)等のハロゲン化金属と
の縮合体であるハイパーブランチ型金属フタロシアニン等よりなる群から選ばれる1種類以上を使用することが好ましい。
【0015】
本発明の炭素触媒の製造方法における有機高分子材料としては、上記のうち、フェノール樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリオレフィン、ポリアミド(特に芳香族ポリアミド)、ポリイミド、アゾール、ラダーポリマー、ポリアクリロニトリル及びハイパーブランチ型金属フタロシアニンよりなる群から選ばれる1種以上を使用することが特に好ましい。
本発明の製造方法において、前駆体が含む金属元素としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、スズ、マンガン、亜鉛等の遷移金属化合物よりなる群から選ばれる1種以上のものを好ましく使用することができる。これらのうち、鉄、コバルト及びニッケルよりなる群から選ばれる1種以上の金属元素がより好ましい。
本発明における前駆体に用いることができる金属化合物としては、例えば鉄化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、銅化合物、スズ化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物等の遷移金属化合物及びこれらの混合物を挙げることができ、これらよりなる群から選ばれる1種以上のものを好ましく使用することができる。これらのうち、鉄化合物、コバルト化合物及びニッケル化合物よりなる群から選ばれる1種以上のものがより好ましい。中でもこれらの金属を有する金属フタロシアニン、金属ポルフィリン等の如き金属とともに窒素を含有する金属化合物及びフッ化鉄、塩化物、臭化物、ヨウ化物の如き金属ハロゲン化物よりなる群から選ばれる1種以上のものを使用することが好ましい。
【0016】
有機高分子材料として窒素原子を含んでいない材料を使用する場合には、金属フタロシアニン、金属ポルフィリン等の如き窒素を含有する金属化合物よりなる群から選ばれる1つ以上のものを組み合わせて用いることが好ましい。更には鉄フタロシアニン、鉄ポルフィリン等の如き窒素を含有する鉄化合物及びフッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄の如きような鉄ハロゲン化物よりなる群から選ばれる1種以上を使用することが極めて好ましい。
本発明の炭素触媒の製造方法において、有機高分子材料と金属元素とを含む前駆体における金属元素量は、該前駆体の全重量を基準として0.1〜20質量%であり、0.5〜15質量%となる割合であると好ましく、1〜10質量%となる割合であるとより好ましい。該前駆体中の金属元素の割合が、金属元素換算の割合として0.1質量%より少ない割合であると、後述の炭素化工程におけるグラファイト化の進行が遅くなるため、活性点の形成が起こり難くなり、その結果高活性の炭素触媒を得ることが困難となる。一方、この値が20質量%より多いと、後述の金属元素の除去が困難となる。
有機高分子材料と金属化合物とを混合して前駆体を調製する方法としては、例えば有機高分子材料を溶解した溶液中に金属化合物を加える方法;有機高分子材料を溶解した溶液中に金属化合物を分散した分散液を加える方法;有機高分子材料と金属化合物を同時に溶媒に加える方法;溶媒を用いずに有機高分子材料と金属化合物とを共に固体のまま混合する方法;有機高分子材料を溶融させて金属化合物と混合する方法等が挙げられるが、この限りではない。
両者を混合する際、メカニカルスターラー等公知の混錬装置を用いることができるほか、超音波による分散、加熱処理等を行ってもよい。
【0017】
本発明の炭素触媒の製造方法においては、前記の如き前駆体に対して、以下の工程A及びBからなる触媒化処理を2回以上繰り返す;
工程A:非酸化性雰囲気下、400〜1,500℃における炭素化工程、及び
工程B:金属元素の除去工程。
上記工程Aの非酸化性雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス及びアンモニア、水素、水蒸気等の炭素を賦活化する効果があるガスからなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気が好ましい。
工程Aにおける炭素化工程の温度が400℃未満では原料である前駆体の炭素化が十分に進行せず、一方この温度が1,500℃を超過する場合には原料である前駆体の炭素化の進行が過度になり、いずれも良好な炭素触媒を得ることが困難になる。特に、最初の(1サイクル目の)工程Aの炭素化工程を400℃未満で行い、2回目以降の炭素化工程をより高い温度で行うと、窒素の離脱が顕著になり、好ましくない。
炭素化工程の時間としては、0.1時間から10時間が好ましく、更には0.5時間から6時間が好ましい。炭素化の時間が0.1時間未満の場合には炭素化が十分に進行しないおそれがあり、10時間超過の場合には炭素化が過度に進行することがあり、好ましくない。
【0018】
上記工程Bにおける金属元素の除去方法としては、洗浄によることが好ましい。この洗浄方法としては、工程Aを施した後の材料を、例えば酸性液、アルカリ性液キレート性液等の適宜に洗浄液と接触させる方法を挙げることができる。上記酸性液としては、例えば塩化水素酸、硫酸、硝酸、これらの水溶液等を;
上記アルカリ性液としては、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化合物の水溶液等を;
上記キレート性液としては、例えばキレート剤を含有する溶液、キレート能を有する有機溶媒等を、それぞれ挙げることができる。
上記洗浄に用いる洗浄液としては、0.01mol/L以上、好ましくは0.1mol/L以上の酸又はアルカリを含有する酸性液又はアルカリ性液を用いることが好ましい。ここで、酸又はアルカリの濃度が0.01mol/L未満の場合には、材料から金属成分を効率よく除去することが困難となって好ましくない。酸又はアルカリの濃度の上限は特にないが、あまり高濃度であると洗浄液の取扱いが困難になるので、5mol/L以下であると好ましく、2mol/L以下であると更に好ましい。
上記洗浄に用いる洗浄液としては、特に塩化水素酸、硝酸、硫酸及びリン酸からなる群より選ばれる1種類以上を含む酸性の水溶液が好ましい。
洗浄による金属元素除去の時間としては、特に制限はないが、1分〜24時間が好ましく、0.5〜20時間であるとより好ましく、1〜15時間であると更に好ましい。この洗浄による金属元素除去の際、攪拌処理、超音波処理、加熱処理等を伴ってもよい。
【0019】
本発明の炭素触媒の製造方法においては、上記の如き工程A及び工程Bからなる触媒化処理を2回以上繰り返すことを特徴とする。
ここで、2回目以降の触媒化処理における炭素化工程は、最初の触媒化処理の炭素化工程で採用した温度よりも高温で行うことが好ましい。
本発明の炭素触媒の製造方法の特に好ましい態様は、最初の触媒化処理において、炭素化工程を400〜800℃で行い、金属原子の除去工程を金属元素が炭素元素に対して質量比で0.05以下になるまで行い、そして
2回目以降の触媒化処理において、炭素化工程を650〜1,500℃にて行うことである。このとき、最初の触媒化処理中の炭素化工程において前駆体を炭素化する際の温度は、前駆体からの窒素原子の急激な脱離を防ぎ窒素含有量の多い炭素触媒を製造するとの観点から、400〜800℃であるが、500〜700℃とすると好ましい。
この最初の触媒化処理における炭素化工程の時間は、炭素化温度が比較的低温であるため、1〜10時間、更には2〜6時間と、比較的長時間とすることが好ましい。最初の炭素化工程の時間が1時間より短いと、この段階での炭素化が十分に進行せず、その結果2回目以降の触媒化処理の炭素化工程において窒素が脱離してしまい窒素原子の存在比率が低下するため好ましくない。一方この時間が10時間より長い場合には、炭素化の過度の進行により、得られる炭素触媒の分子末端の数が不足する、窒素原子の存在比率が低下する等によって触媒活性が損なわれることとなり、好ましくない。
最初の触媒化処理における炭素化は、窒素を多く含む炭素触媒を得るために、窒素、アルゴン等の不活性ガスからなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気下で行われることが好ましい。
最初の触媒化処理中の金属元素の除去工程では、金属元素が炭素元素に対して質量比で0.04以下となるまで行うことが好ましい。しかしながら、この質量比が0になるまで金属元素を除去することは、製造コストの上昇を伴うおそれがあるので、当該質量比は0.001以上であると好ましく、0.003以上であるとより好ましい。なお、触媒化処理の前後で炭素触媒中の金属元素の割合を測定すると、金属元素が除去されているにもかかわらず、炭素化による有機高分子材料由来の成分の分解や飛散による減量により、見かけ上、金属元素の存在割合(質量%)が増加した結果となることがあるので、炭素原子に対する金属元素の質量比にて確認することが重要である。
【0020】
上述のとおり、2回目以降の触媒化処理における炭素化工程の温度としては、最初の触媒化処理の炭素化工程の温度より高温で行うことが好ましい。この温度は、650〜1、500℃であるが、好ましくは700〜1,200℃であり、より好ましくは750〜1,100℃である。2回目以降の炭素化工程の温度が650℃未満の場合には、この段階における炭素化が十分に進行せず、炭素触媒の活性点の形成が十分でなく、活性がやや劣るおそれがあり好ましくない。
2回目以降の触媒化処理の炭素化工程の時間としては、加熱温度が比較的高温であることから過度の炭素化の進行を防ぐため、0.1〜4時間が好ましく、0.5〜2時間であるとより好ましい。この場合、炭素化の時間が0.1時間より短いと、炭素化が十分に進行せず、炭素触媒の活性点の形成が十分でなく、高い活性をしめさず好ましくない。また、炭素化時間が4時間より長い場合には、炭素化の過度の進行により、得られる炭素触媒の分子末端の数が不足する、窒素原子の存在比率の低下がする等によって触媒活性が損なわれることとなり、好ましくない。
2回目以降の触媒化処理の炭素化工程では、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気のほか、アンモニア、水素、水蒸気等も好ましく用いることができるが、最初の触媒化処理で得られた比較的窒素を多く含む炭素触媒の特性を更に向上させるために、アンモニア、水素及び水蒸気からなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気が好ましく、更に好ましくはアンモニアガスの雰囲気が、より大きい比表面積を有する炭素触媒を得られやすいためより好ましい。
2回目以降の触媒化処理における金属元素の除去工程は、1回目の金属元素の除去工程と同様にして行うことができる。
本発明の炭素触媒の製造方法においては、上記の如き工程A及び工程Bからなる触媒化処理を、上記の如くして少なくとも2回繰り返し行う。この触媒化処理は、2回だけ行ってもよく、あるいは3回以上行ってもよい。
【0021】
触媒化処理を3回以上行う場合、3回目以降の触媒化処理における炭素化工程の温度は、2回目の触媒化処理における炭素化工程の温度よりも高温で行うことが好ましく、2回目の炭素化工程の温度よりも高温且つ850〜1,200℃とすることがより好ましく、900〜1、100℃とすることが更に好ましい。3回目以降の触媒化処理における炭素化工程の温度を2回目よりも低温で行ったり、850℃未満で行ったりすると、製造コストが余計にかかる割には炭素触媒の活性点の更なる形成の進行が不十分になるおそれがある。3回目以降の触媒化処理における炭素化工程の時間は、0.1〜4時間とすることが好ましい。
3回目以降の触媒化処理における金属元素の除去工程は、1回目の金属元素の除去工程と同様にして行うことができる。
本発明の炭素触媒の製造方法における触媒化処理の回数は、得られる炭素触媒の触媒活性とその製造コストとのバランスから、2回又は3回とすることが好ましい。
【0022】
[燃料電池用膜/電極接合体(MEA)及び燃料電池]
上記のようにして本発明の炭素触媒を製造することができる。
本発明の炭素触媒は、高分子固体電解質型燃料電池用のカソード(空気極)として高い酸素還元特性を有するから、燃料電池用電極触媒として好適に用いることができる。特に、イオン伝導性を有する電解質の膜の両表面上に水素極の触媒電極と空気極(カソード)の触媒電極とを有し、該空気極の酸素還元触媒として本発明の炭素触媒を用いてなる燃料電池用膜/電極接合体(MEA)及び該MEAを有する燃料電池に好適である。
上記MEAのイオン伝導性を有する電解質の膜における、電解質の種類としては、例えばNafion(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、ダウ膜等のパーフルオロスルホン酸電解質ポリマー;
スルホン化トリフルオロポリスチレン等の部分フッ素化電解質ポリマー;
ポリイミドやポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチックのスルホン化体;
ポリベンズイミダゾールのリン酸ドープ体等の炭化水素系高分子電解質等のプロトン伝導性を有する電解質等のほか;
分子中にアンモニウム塩、ピリジニウム塩を有する、OH−伝導性を有する電解質等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれる1種類以上を好ましいものとして用いることができる。
【0023】
水素極の触媒電極は、触媒金属とイオン伝導性を有する電解質とともに導電材に担持したものである。触媒金属としては、水素の酸化反応を促進する金属であればいずれでもよい。例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム又はこれらの合金からなる群より選ばれる1種類以上が挙げられる。特に白金が、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の導電材に坦持された状態で好適に用いられる。
触媒金属の担持割合としては、電極が成形された状態で0.01〜10mg/cmが好ましい。触媒金属の担持割合が0.01mg/cmより小さいと、十分な発電性能を示すことができず、10mg/cmより大きいと、得られるMEAの厚みが大きくなり、燃料電池の発電効率が小さくなり好ましくない。
空気極の触媒電極は、本発明の炭素触媒とイオン伝導性を有する電解質とからなるものである。また、空気極で用いる炭素触媒に上述の水素極の触媒を組み合わせて用いてもよい。炭素触媒の担持割合は電極が成形された状態で0.01〜100mg/cmが好ましく、更には0.1〜10mg/cmが好ましい。炭素触媒の担持割合が0.01mg/cmより小さいと、十分な発電性能を示すことができず、100mg/cmより大きいと、得られるMEAの厚みが大きくなり、燃料電池の発電効率が小さくなり好ましくない。
MEAの製造は、例えば水素極、空気極の触媒層及び電解質は、溶液に分散させてインク状にし、電解質膜に直接塗布する方法;
テフロン(登録商標)等のプラスチック性シートに塗布後電解質膜に転写する方法;
後述のガス拡散層に塗布して電解質膜とガス拡散層(以下、「GDL」ともいう。)とを組み合わせて用いる方法等によることができる。
【0024】
本発明の燃料電池は、上述の燃料電池用膜/電極接合体の外側に、GDLとセパレータとを配したものを単セルとし、このような単セル単独で用いるか、あるいは単セルの複数個を冷却板等を介して積層して使用することも可能である。
GDLは燃料である水素や空気の電極への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿等を担い、カーボンペーパー、カーボンクロス等ガス透過性、対酸性、電気伝導製、機械強度に優れた素材を用いることができる。
セパレータとしては、燃料電池積層体間の燃料や空気を遮断し、燃料流路を配したもので、炭素材料やステンレス等の金属材料を用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
実施例における各種の評価は以下の方法によった。
1)酸素還元活性測定
酸素還元活性は、回転電極法により、(有)日厚計測製、回転リングディスク電極装置「RDE−1」を用い、リニアスイープボルタンメトリーを行って測定した酸素還元開始電位として求めた。ここで、電圧値及び酸素還元開始電位は、それぞれ、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を用いて測定した値を標準水素電極(NHE)基準値に換算して示した。
リニアスイープボルタンメトリーの手順は以下A〜Dに示した。
A.プラスチックバイアルに、得られた炭素触媒5mgをとり、ガラスビーズをスパチュラ一杯、Nafion(登録商標)50μL並びに蒸留水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ加え、20分間超音波をあててスラリーとした。
B.上記スラリーを4μLとり、回転電極のガラス状炭素上に塗付し、飽和水蒸気雰囲気下で乾燥した。
C.乾燥後の回転電極を作用極とし、Ag/AgCl電極を参照極とし、白金線を対極とした。電解液である0.5mol/L硫酸水溶液に酸素を30分バブリングした後、自然電位を測定した。
D.次いで、600s初期電位を印加した後に、掃引速度1mV/s、回転速度1,500rpmで、0.8V vs.Ag/AgClから−0.2V vs.Ag/AgClまで測定を行った。
E.本測定で得られたボルタモグラムより−10μA・cm(−0.01mA・cm)における電圧値を酸素還元開始電位として求めたほか、0.5Vを与える電流密度を求めた。
【0026】
2)炭素触媒の炭素、水素及び窒素組成分析
Yanaco社製「CHN corder MT−6」を用い、元素分析測定により炭素、水素及び窒素元素の存在比(質量%)を求めた。この各元素の存在比から各元素のモル比を求め、水素の炭素に対する元素比率及び窒素の炭素に対する元素比率を算出した。
3)炭素触媒の金属組成分析
炭素触媒の粉末を、バインダーを用いることなくペレット状に加工したものを試料として用いて、電子プローブマイクロアナライザ(日本電子(株)製の電子線マイクロアナライザ(EPMA)、「JXA−8100」)により、炭素触媒中の金属元素の存在割合を質量%単位で求めた。更に、この金属元素の存在割合の値と、前項記載のように組成分析にて求めた炭素の存在比の値から、金属元素の炭素に対する質量比を求めた。
4)炭素触媒の比表面積
日本ベル(株)製、「Belsorp−mini II」を用い、炭素触媒50mgにつき、装置内で350℃において1時間加熱脱気を行った後、−196℃における窒素吸着法(BET法)により炭素触媒のBET比表面積を求めた。
【0027】
5)燃料電池用膜/電極接合体(MEA)の製造及び発電性能試験
a)空気極の触媒層の作成
炭素触媒を、アルドリッチ社製Nafion(登録商標)20%水−アルコール溶液中に炭素触媒とNafion(登録商標)との質量比が3:1になるように加え、超音波処理によって分散処理することにより、空気極の触媒インクを得た。
得られた空気極の触媒インクをPTFEのフィルム上にスクリーン印刷にて塗布し、125℃にて乾燥して触媒層を形成した。その際の炭素材料の担持割合が約4mg/cmとなるように調製した。
PTFE上の空気極の触媒層は140℃、3MPa、10分間ホットプレスすることによりDuPont社製Nafion 115へと転写した。
b)水素極の触媒層の作成
白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、白金坦持45.7質量%)を、n−ブチルアセテート及びアルドリッチ社製Nafion(登録商標)20%水−アルコール溶液からなる混合溶液中に、白金担持カーボンとNafion(登録商標)との質量比が2:1になるように加え超音波処理によって分散処理することにより、水素極の触媒インクを得た。
水素極の触媒インクを、白金坦持量が0.5mg/cmになるようにChemix社製ガス拡散層(GDL)「H120H」上に塗布し、125℃において乾燥することにより、水素極の触媒層を有するGDLを得た。
c)燃料電池用膜/電極接合体(MEA)の製造
Chemix社製ガス拡散層(GDL)「H60H」、a)で得た空気極の触媒を有するNafion(登録商標)膜及びb)で得た水素極の触媒層を有するGDLを120℃において1.5MPaの圧力下、2分間ホットプレスすることにより、ガス拡散層(GDL)を有する燃料電池用膜/電極接合体(MEA)を製造した。
d)燃料電池の発電性能試験
上記のc)項の操作にて得られたGDLを有するMEAを燃料電池発電性能評価用単セルとし、セル温度80℃、空気極の酸素、水素極の水素を0.2MPaにて供給し、発電性能の試験を行った。
【0028】
<フェノール樹脂−鉄フタロシアニン混合物を前駆体とする炭素触媒>
調製例1[フェノール樹脂−鉄フタロシアニン混合物の調製]
フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製、ノボラック型フェノール樹脂「PSK−2320」)3.3質量部をアセトン237質量部に溶解し、1.0質量部の鉄フタロシアニン(金属元素として0.098質量部、前駆体中2.3質量%)を加えアセトンを減圧留去し、フェノール樹脂と鉄フタロシアニンとの混合物である前駆体を得た。
実施例1[触媒化処理を2回実施。2回目の触媒化処理における炭素化工程をアンモニア雰囲気で実施。]
上記調製例1で得られた前駆体を窒素雰囲気下600℃において5時間加熱して炭素化した後、12mol/Lの濃塩酸中、室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素化物を得た(最初の触媒化処理)。
更にこの炭素化物を、1時間アンモニア雰囲気下800℃において加熱して炭素化を行った後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た(2回目の触媒化処理)。
各触媒化処理における炭素化の条件を表1に、得られた炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表2に示した。
【0029】
実施例2[触媒化処理を2回実施。2回目の触媒化処理の炭素化工程を窒素雰囲気で実施。]
2回目の触媒化処理の炭素化工程を窒素雰囲気で行った以外は、実施例1と同様に操作を行った。各触媒化処理における炭素化の条件を表1に、得られた炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表2に示した。
実施例3[触媒化処理を3回実施。]
実施例1と同様にして得られた炭素触媒を、更にアンモニア雰囲気下1,000℃において1時間加熱して炭素化した後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た。各触媒化処理における炭素化の条件を表1に、得られた炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表2に示した。
比較例1[触媒化処理を1回のみ実施。]
上記調製例1で得られた前駆体を窒素雰囲気下600℃、5時間加熱して炭素化した後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た。触媒化処理における炭素化の条件を表1に、得られた炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表2に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
<全芳香族ポリアミドと塩化鉄との混合物を前駆体とする炭素触媒>
調製例2[全芳香族ポリアミドと塩化鉄との混合物である前駆体の調製]
十分に乾燥した攪拌装置付きの三口フラスコに、脱水精製したNMP(N−メチルピロリドン)250質量部及びm−フェニレンジアミン22質量部を常温下において添加し窒素中で溶解した後、氷冷下に攪拌しながらイソフタル酸ジクロリド41.302質量部を添加した。その後徐々に昇温して最終的に60℃とし、合計の反応時間として120分経過した時点で水酸化カルシウム15.07質量部を添加して中和反応を行い、全芳香族ポリアミドのNMP溶液を得た。
得られた溶液を大量のイオン交換水中に投入して全芳香族ポリアミドを析出させた。この析出物を濾取して、水で2回及びメタノールで1回、順次に洗浄後、真空乾燥することにより、ポリアミドメタフェニレンイソフタルアミドを単離した。この単離したポリアミドの特有粘度(ηinh)を測定したところ、1.36dL/gであった。
得られた全芳香族ポリアミド0.807質量部にDMAc(ジメチルアセトアミド)9.3質量部を加え全芳香族ポリアミドのDMAc溶液を調製した。これに、DMAc5質量部に分散させたFeCl0.056質量部を加え、室温にて12時間攪拌した。得られた混合物を塩化メチレン中に投入して再沈澱を行った。沈殿物を回収し、40℃において6時間減圧乾燥することにより、鉄元素を2.8質量%含む前駆体を得た。
【0033】
実施例4[触媒化処理を2回実施。2回目の触媒化処理における炭素化工程をアンモニア雰囲気で実施。]
上記実施例1において、フェノール樹脂と鉄フタロシアニンとの混合物である前駆体の代わりに上記調製例2で得られた前駆体を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、炭素触媒を得た。得られた炭素触媒の各元素の組成及び酸素還元開始電位を表3に示した。
比較例2[触媒化処理を1回のみ実施。]
上記比較例1において、フェノール樹脂と鉄フタロシアニンとの混合物である前駆体の代わりに上記調製例2で得られた前駆体を用いた以外は比較例1と同様の操作を行って、炭素触媒を得た。得られた炭素触媒の各元素の組成及び酸素還元開始電位を表3に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと鉄フタロシアニンとの混合物を前駆体とする炭素触媒>
調製例3[全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと鉄フタロシアニンとの混合物である前駆体の調製]
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、3,3’−ジアミノベンジディン4.1質量部を仕込み、DMAc(ジメチルアセトアミド)91.7質量部を加え完全に溶解した後、氷浴下0℃まで冷却した。この冷却した3,3’−ジアミノベンジディン溶液に無水ピロメリット酸4.2質量部を添加して反応を行った。反応温度を25℃まで上昇し、冷却を継続しつつ更に一時間反応を行って中間体ポリマー溶液を得た。
得られた中間体ポリマー溶液100質量部に鉄フタロシアニン2.18質量部を加えて攪拌し、得られた溶液を大量のイオン交換水中に投入してポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾取し、水で2回及びメタノールで1回順次に洗浄後、真空乾燥して、中間体ポリマーと鉄フタロシアニンとの混合物を得た。この混合物を100℃において1時間、200℃において1時間及び300℃において1時間、順次に熱処理することにより、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと鉄フタロシアニンとの混合物である前駆体(鉄元素を2.4質量%含む)を得た。
【0036】
実施例5[触媒化処理を3回実施。]
上記調製例3で得られた前駆体を窒素雰囲気下、600℃において5時間加熱して炭素化した後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た(最初の触媒化処理)。
更に得られた炭素触媒をアンモニア雰囲気下、800℃において1時間加熱して炭素化を行った後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た(2回目の触媒化処理)。
更にこの炭素触媒をアンモニア雰囲気下、1,000℃において1時間加熱して炭素化した後、12mol/Lの濃塩酸にて室温において14時間洗浄することにより金属を除去して炭素触媒を得た。この炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表4に示した。
【0037】
【表4】

【0038】
<ハイパーブランチ鉄フタロシアニンを前駆体とする炭素触媒>
調製例4[ハイパーブランチ鉄フタロシアニンの合成]
ナスフラスコ中、上記調製例1で得られた4,4’−(1,3−フェニレンビス(オキシ))ジフタロニトリルのうちの10質量部をエトキシエタノール107質量部に溶解した。この溶液にFeCl0.875質量部を添加し、窒素雰囲気化、160℃において6時間攪拌して溶媒に不溶の沈殿物を得た。
反応終了後、沈殿物を濾取し、濃度3質量%の塩酸、水、エタノール及びクロロホルムで順次に洗浄した後、80℃において6時間乾燥することにより、ハイパーブランチ鉄フタロシアニン(鉄元素の含有量3.5質量%)を得た。
実施例6[触媒化処理を3回実施。]
上記実施例5において、上記調製例3で得られた前駆体の代わりに上記調製例4で得られたハイパーブランチ鉄フタロシアニンを前駆体として用いた以外は実施例5と同じ操作を行うことにより炭素触媒を得た。この炭素触媒の各元素の組成、BET比表面積及び酸素還元開始電位を表5に示した。
【0039】
【表5】

【0040】
<燃料電池用膜/電極接合体(MEA)による発電性能試験>
実施例1−1
上記実施例1で得られた炭素触媒を用いてMEAを製造し、前記の手順にて発電性能試験を行った。電流電圧曲線を図1に、出力密度曲線を図2に、それぞれ示した。
実施例2−1
上記実施例2で得られた炭素触媒を用いてMEAを製造し、前記の手順にて発電性能試験を行った。電流電圧曲線を図1に、出力密度曲線を図2に、それぞれ示した。
実施例3−1
上記実施例3で得られた炭素触媒を用いてMEAを製造し、前記の手順にて発電性能試験を行った。電流電圧曲線を図1に、出力密度曲線を図2に、それぞれ示した。
実施例4−1
上記実施例4で得られた炭素触媒を用いてMEAを製造し、前記の手順にて発電性能試験を行った。電流電圧曲線を図1に、出力密度曲線を図2に、それぞれ示した。
[比較例1−1]
上記比較例1で得られた炭素触媒を用いてMEAを製造し、前記の手順にて発電性能試験を行った。電流電圧曲線を図1に、出力密度曲線を図2に、それぞれ示した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の炭素触媒は、燃料電池用の電極触媒、各種化学反応の触媒等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
■:実施例1−1にて作成したMEAの発電特性試験により得られたデータを示すマークである。
▲:実施例2−1にて作成したMEAの発電特性試験により得られたデータを示すマークである。
×:実施例3−1にて作成したMEAの発電特性試験により得られたデータを示すマークである。
*:実施例4−1にて作成したMEAの発電特性試験により得られたデータを示すマークである。
◆:比較例1−1にて作成したMEAの発電特性試験により得られたデータを示すマークである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として少なくとも炭素、窒素及び水素を含有する炭素触媒であって、炭素触媒中における炭素の存在割合が80質量%以上であり、水素の炭素に対する元素比率が0.04〜0.28であり、そして窒素の炭素に対する元素比率が0.005〜0.06であることを特徴とする、前記炭素触媒。
【請求項2】
構成元素として更に1種類以上の金属元素を含み、該金属元素の存在割合が炭素に対して質量比で0.05以下である、請求項1に記載の炭素触媒。
【請求項3】
金属元素が、鉄、コバルト、ニッケルよりなる群から選ばれる1種類以上である、請求項2に記載の炭素触媒。
【請求項4】
BET法で測定した比表面積が200m/g以上である、請求項1に記載の炭素触媒。
【請求項5】
有機高分子材料と金属元素とを含む前駆体(該前駆体中の金属元素量は0.1〜20質量%)に対して、以下の工程AおよびBからなる触媒化処理を2回以上繰り返すことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素触媒の製造方法;
工程A:非酸化性雰囲気下、400〜1,500℃における炭素化工程、及び
工程B:金属元素の除去工程。
【請求項6】
最初の触媒化処理において、炭素化工程を400〜800℃で行い、金属元素の除去工程を金属元素が炭素元素に対して質量比で0.05以下になるまで行い、そして
2回目以降の触媒化処理において、炭素化工程を650〜1,500℃にて行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
有機高分子材料が、フェノール樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、アゾール、ラダーポリマー、ポリアクリロニトリル及びハイパーブランチ型金属フタロシアニンよりなる群から選ばれる1種以上である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前駆体が少なくとも1種類の金属化合物を含むものである請求項5または6に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項9】
前駆体が、金属元素を含む有機高分子材料を少なくとも1種類含むものである請求項5または6に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項10】
金属元素が、鉄、コバルト及びニッケルよりなる群から選ばれる1種以上である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項11】
触媒化処理における炭素化工程を行う際の非酸化性雰囲気が、窒素、アルゴン、水素、水蒸気及びアンモニアからなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気である、請求項5〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
最初の触媒化処理における炭素化を行う際の非酸化性雰囲気が、窒素、アルゴン、水素、水蒸気及びアンモニアからなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気であり、2回目以降の触媒化処理における炭素化工程を行う際の非酸化性雰囲気が、水素、水蒸気及びアンモニアからなる群より選ばれる1種類以上のガスの雰囲気である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜4に記載の炭素触媒を空気極の酸素還元触媒として用いることを特徴とする、燃料電池用膜/電極接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の燃料電池用膜/電極接合体を有することを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−230099(P2011−230099A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105491(P2010−105491)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】