説明

無線基地局装置及びそれらに用いる周波数調整方法

【課題】 現場に行って調整を行うことなくかつ運用を妨げることなく、自動で発振器の周波数調整を行うことが可能な無線基地局装置を提供する。
【解決手段】 CPU1は自装置が運用開始したことを知らせると、起動回路5は内部のタイマ機能を動作させる。起動回路5は任意の時間Tを計時すると、水晶発振器8へ電源を供給するとともに、CPU1へも水晶発振器8に電源供給を開始したことを通知する。CPU1は水晶発振器8の出力信号を基準として、温度補償型水晶発振器6の出力信号の位相比較を行い、比較の結果から周波数の調整値を算出し、この調整値と温度センサ2からの温度とメモリ3に保存されている基準値及び温度変動値とから実際に温度補償型水晶発振器6に対する周波数調整を算出し、D/Aコンバータ7を介して温度補償型水晶発振器6に制御電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線基地局装置及びそれらに用いる周波数調整方法に関し、特に無線基地局装置に搭載された発振器に対する周波数調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線基地局装置においては、図9に示すように、アンテナ61と、送受共用器62と、受信機63と、送信機64と、D/A(ディジタル/アナログ)コンバータ65と、水晶発振器66と、シンセサイザ67と、制御部68と、周波数調整部69と、メモリ70と、モード設定部71とから構成されている。
【0003】
送信機64は送信信号の周波数変換を行って送信周波数に変換し、既定の送信電力へと増幅する。送受共用器62は送信信号の不要波を抑圧し、また後述するアンテナ61で受信した信号の不要波を抑圧する。アンテナ61は送信信号を送信し、また受信信号を受信する。
【0004】
受信機63は周波数変換、帯域制限を行い、ベースバンド信号へと変換する。制御部68は変調した送信ベースバンド信号を生成し、また受信したベースバンド信号を復調する。また、制御部68は後述するD/Aコンバータ65のデータを生成する。
【0005】
D/Aコンバータ65は制御部68からのデータを直流電圧に変換する。水晶発振器66はD/Aコンバータ65からの電圧制御を受け、周波数安定度の高い発振周波数を出力する。シンセサイザ67は水晶発振器66から出力される周波数を基準として、送信機64、受信機63の周波数変換用の局発信号を生成する。
【0006】
周波数調整部69は可変抵抗器等で構成され、制御部68、D/Aコンバータ65を経由して水晶発振器66の発振周波数を調整する。メモリ70は水晶発振器66に対応する制御電圧情報が保存されている。モード設定部71は水晶発振器66の周波数調整を行う際に、テストモードに設定する。
【0007】
一方、従来の移動体通信用の無線基地局装置では、無線基地局制御装置と接続されている伝送路から送られてくるクロック信号に同期している。無線基地局制御装置は無線基地局装置と比較して運用台数も少なく、また周波数安定度の高い発振器を使用しているため、この無線基地局制御装置から送られてくる伝送路のクロック信号に同期させれば無線基地局装置の発振器も周波数安定度を高く保つことが可能である。
【0008】
しかしながら、運用経費(ランニングコスト)を低減させることが可能であること等の理由から、無線基地局装置と無線基地局制御装置との伝送路にIP(Internet Protocol)プロトコルを利用したイーサネット(登録商標)を使用することがある。
【0009】
この場合、伝送路にクロック信号を送ることができないため、無線基地局装置内に内蔵する発振器に対しても、無線基地局制御装置と同様に、周波数安定度が高く、運用期間中の経年変化も許容範囲内であることが要求される。周波数安定度の高い発振器は高価であるため、運用台数の多い無線基地局装置に配設することは設備コストの上昇となり、非経済的である。そこで、無線基地局装置の設置されている場所まで行き、簡単に経年変化による周波数変動を調整する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特許第3034319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の周波数調整方法では、モード設定を行うため、運用中には調整することができないという問題がある。また、従来の周波数調整方法では、周波数調整部が可変抵抗器等で構成されているため、人手によって現場で調整を行う必要があるという問題もある。さらに、従来の周波数調整方法では、周波数調整を行う際に、アンテナから出力される送信信号を使用するため、周波数を測定するための測定器を準備しなければいけないという問題がある。
【0012】
一方、上記の特許文献1に記載の方法では、無線基地局装置の設置場所まで出向かなければならず、待受け状態時にテストモードに切替えなければならず、その間、運用を停止しなければならないという問題がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は上記の問題点を解消し、現場に行って調整を行うことなくかつ運用を妨げることなく、自動で発振器の周波数調整を行うことができる無線基地局装置及びそれらに用いる周波数調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による無線基地局装置は、発振する周波数が経年変化で変動する発振器を使用する無線基地局装置であって、予め設定された任意の時間の経過を検出するタイマ手段と、前記タイマ手段が前記任意の時間を検出した時に起動される第2の発振器と、前記第2の発振器から発振される信号を基準として前記発振器の経年変化を調整する手段とを備えている。
【0015】
本発明による周波数調整方法は、発振する周波数が経年変化で変動する発振器を使用する無線基地局装置に用いる周波数調整方法であって、前記無線基地局装置が、予め設定された任意の時間の経過を検出する処理と、前記任意の時間が検出された時に第2の発振器を起動する処理と、前記第2の発振器から発振される信号を基準として前記発振器の経年変化を調整する処理とを実行している。
【0016】
すなわち、本発明の無線基地局装置は、発振器の通電時間によって経年変化が進行することに着目し、無線基地局装置の経年変化による周波数変動が許容値を越える時間を、使用する発振器の特性から推定しておき、起動回路に有しているタイマ機能によって任意の時間経過後に別の発振器を起動させ、この経年変化が起きていない発振器を基準として、無線基地局装置内で使用している発振器の経年変化を調整することで、発振器の経年変化による周波数変動を運用の妨げにならないよう自動で調整している。
【0017】
これによって、本発明の無線基地局装置では、移動体通信用の無線基地局装置において用いられる発振器に対して、経年変化における発振器の周波数変動を運用の妨げにならないように自動で調整可能とすることを特徴としている。
【0018】
より具体的に説明すると、本発明の無線基地局装置では、温度補償型水晶発振器を自装置内の基準発振器として使用し、その温度補償型水晶発振器に対して直流電圧の印加による発振周波数の調整を可能とし、周波数安定度の高い信号を出力させている。
【0019】
また、本発明の無線基地局装置では、温度補償型水晶発振器のほかに、水晶発振器を配設し、その水晶発振器に対して直流電圧の印加による発振周波数の調整を可能とし、温度補償型水晶発振器の周波数調整時の基準信号を出力させている。
【0020】
さらに、本発明の無線基地局装置では、温度補償型水晶発振器の発振周波数を調整するための直流電圧を出力する第1のD/A(ディジタル/アナログ)コンバータと、水晶発振器の発振周波数を調整するための直流電圧を出力する第2のD/Aコンバータとを配設している。
【0021】
この無線基地局装置内のCPU(中央処理装置)は、後述する温度センサ及び第1のメモリの値から第1のD/Aコンバータのデータを生成して出力し、また後述する温度センサ及び第2のメモリの値から第2のD/Aコンバータのデータを生成して出力している。
【0022】
温度センサは自装置内の温度を検出し、その温度をCPUへ報告する。第1のメモリは温度補償型水晶発振器の任意の一定温度における発振周波数と第1のD/Aコンバータから出力される直流電圧との関係をデータ列として保存するとともに、温度補償型水晶発振器の温度変動に対する第1のD/Aコンバータから出力される直流電圧との関係をデータ列として保存している。第2のメモリは水晶発振器の任意の一定温度における発振周波数と第2のD/Aコンバータから出力される直流電圧との関係をデータ列として保存するとともに、水晶発振器の温度変動に対する第2のD/Aコンバータから出力される直流電圧の関係をデータ列として保存している。起動回路はタイマを有し、CPUの指令によって水晶発振器の電源を起動させる。
【0023】
上記のように、本発明の無線基地局装置では、起動回路によって任意の時間に起動させた水晶発振器を用いて、温度補償型水晶発振器の経年変化による周波数変動を自動で調整することで、保守者が自装置の設置場所に出向くことなく、また運用を妨げることなく、自動で周波数の調整を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下に述べるような構成及び動作とすることで、現場に行って調整を行うことなくかつ運用を妨げることなく、自動で発振器の周波数調整を行うことができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例による移動体通信用の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。図1において、本発明の一実施例による無線基地局装置はCPU(中央処理装置)1と、温度センサ2と、メモリ3,4と、起動回路5と、温度補償型水晶発振器6と、D/Aコンバータ7,9と、水晶発振器8とから構成されている。
【0026】
温度補償型水晶発振器6は自装置(本発明の一実施例による移動体通信用の無線基地局装置)内の基準発振器として使用され、直流電圧を印加することで発振周波数の調整が可能となっており、周波数安定度の高い信号を出力する。水晶発振器8は直流電圧を印加することで発振周波数の調整が可能となっており、温度補償型水晶発振器6の周波数調整時の基準信号を出力するが、その信号の周波数安定度は温度補償型水晶発振器6より低い。
【0027】
D/Aコンバータ7は温度補償型水晶発振器6の発振周波数を調整するための直流電圧を出力する。D/Aコンバータ9は水晶発振器8の発振周波数を調整するための直流電圧を出力する。
【0028】
CPU1は温度センサ2及びメモリ3の値からD/Aコンバータ7のデータを生成して出力するとともに、温度センサ2及びメモリ4の値からD/Aコンバータ9のデータを生成して出力する。温度センサ2は自装置内の温度を検出し、その温度をCPU1へ報告する。
【0029】
メモリ3は温度補償型水晶発振器6の任意の一定温度における発振周波数とD/Aコンバータ7から出力される直流電圧との関係をデータ列として保存するとともに、温度補償型水晶発振器6の温度変動に対するD/Aコンバータ7から出力される直流電圧の関係をデータ列として保存する。
【0030】
メモリ4は水晶発振器8の任意の一定温度における発振周波数とD/Aコンバータ9から出力される直流電圧との関係をデータ列として保存するとともに、水晶発振器8の温度変動に対するD/Aコンバータ9から出力される直流電圧の関係をデータ列として保存する。起動回路5はタイマ(図示せず)を備えており、CPU1の指令によって水晶発振器8の電源を起動させる。
【0031】
図2は図1のCPU11の構成を示すブロック図である。図2において、CPU1はデータ生成部11と、切替部12と、周波数調整部13とを備えている。データ生成部11は温度センサ2からの温度とメモリ3に保存されているデータ列とからD/Aコンバータ7を制御するためのデータを生成する。周波数調整部13は温度補償型水晶発振器6及び水晶発振器8各々の周波数を比較して周波数調整値を算出し、D/Aコンバータ7を制御するためのデータを生成する。
【0032】
切替部12は通常の運用時に、データ生成部11から出力されるデータを選択して出力し、調整時に周波数調整部13から出力されるデータを選択して出力することで、通常の運用時のデータと周波数調整を行う際のデータとを切替える機能を持つ。
【0033】
図3は図1の起動回路5の構成を示すブロック図である。図3において、起動回路5はタイマ回路51と、電源制御回路52とを備えている。タイマ回路51はCPU1からの信号をトリガとして時間の計算を算出し、任意の時間経過後、その旨を電源制御回路52への信号として送出する。時間の算出方法は、任意の設定時間によりハードウェアまたはソフトウェアでの実現方法がある。電源制御回路52は水晶発振器8の電源供給回路で、タイマ回路51から信号を受取ると、水晶発振器8に電源を供給する。
【0034】
図4は図1のCPU1における図2に図示していない部分の構成を示すブロック図である。図4において、データ生成部21は温度センサ2からの温度とメモリ4に保存されているデータ列とからD/Aコンバータ9を制御するためのデータを生成する。
【0035】
図5は図2の周波数調整部13の構成を示すブロック図である。図5において、周波数調整部13は比較部131と、調整値算出部132と、データ生成部133とを備えている。
【0036】
比較部131は温度補償型水晶発振器6の発振周波数と水晶発振器8の発振周波数とを比較する。調整値算出部132は比較部131で得られた温度補償型水晶発振器6の発振周波数と水晶発振器8の発振周波数との差分から、温度補償型水晶発振器6の周波数を調整するための電圧値を算出する。データ生成部133は温度センサ2からの温度とメモリ3に保存されているデータ列とからD/Aコンバータ7を制御するためのデータを生成する。
【0037】
尚、上述した本発明の一実施例では、CPU1内の各構成要素については、機能的な分類として構成しているため、実現としてはハードウェア、ソフトウェアのいずれかを問わない。同様に、起動回路5内の各構成要素についても、機能的な分類として構成しているため、実現としてはハードウェア、ソフトウェアのいずれかを問わない。
【0038】
図6は図1の温度センサ2の検出値と本発明の一実施例による温度補償型水晶発振器6に対する温度調整との関係を示す図であり、図7は図5のデータ生成部133によるデータ生成を説明するための図である。これら図1〜図6を参照して本発明の一実施例による温度補償型水晶発振器6に対する温度調整について説明する。
【0039】
本実施例では、温度補償型水晶発振器6が所望の発振周波数にて出力されるようにD/Aコンバータ7の電圧値を決定する。まず、CPU1は温度センサ2によって自装置内の温度を検出する。次に、CPU1はD/Aコンバータ7に対して、温度補償型水晶発振器6に印加する直流電圧のデータを送る。本実施例では、D/Aコンバータ7の出力電圧値を変化させながら、温度補償型水晶発振器6から出力される発振周波数が所望の周波数になるように設定する。
【0040】
CPU1は所望の発振周波数となったら、その時、D/Aコンバータ7へ送っているデータと温度センサ2の値(検出温度)とをメモリ3に保存する。この時の値を「基準値#1」(図6参照)とする。一例として、「基準値#1」は、「温度センサ2の値:30℃」、「D/Aコンバータ12の出力値:1.0V」とする。
【0041】
続いて、CPU1は温度補償型水晶発振器6の温度変動による発振周波数変動値をメモリ3に保存する。本発明では温度補償型水晶発振器6の温度変動による発振周波数を事前に確認し、その値をメモリ3に保存するものとする。この時の値を「温度変動値#1」(図6参照)とする。
【0042】
同様に、CPU1は水晶発振器8が所望の発振周波数にて出力されるようにD/Aコンバータ9の電圧値を決定する。まず、自装置の起動時には起動回路5によって水晶発振器8の電源供給が停止している。そこで、CPU1は起動回路5に対して信号Aを送る。起動回路5は信号Aを受信した場合、すぐに水晶発振器8の電源供給を開始する。
【0043】
次に、CPU1は温度センサ2によって自装置内の温度を検出し、D/Aコンバータ9に対して水晶発振器8に印加する直流電圧のデータを送る。CPU1はD/Aコンバータ9の出力電圧値を変化させながら、水晶発振器8から出力される発振周波数が所望の周波数になるように設定する。CPU1は所望の発振周波数になると、その時、D/Aコンバータ9へ送っているデータと温度センサ2の値(検出温度)とをメモリ4に保存する。この時の値を「基準値#2」とする。一例として、「基準値2」は「温度センサ2の値:30℃」、「D/Aコンバータ9の出力値:1.5V」とする。
【0044】
続いて、CPU1は水晶発振器8の温度変動による発振周波数変動値をメモリ4に保存する。本実施例では、水晶発振器8の温度変動による発振周波数を事前に確認しておき、その値をメモリ4に保存している。この時の値を「温度変動値#2」とする。CPU1はメモリ4への保存が終了したら、起動回路5に対して信号Bを送る。信号Bを受信した起動回路5は、水晶発振器8の電源供給を停止する。
【0045】
一方、本発明の一実施例による無線基地局装置が運用中の場合、CPU1は温度センサ2から得られる自装置内の温度とメモリ3に保存されている「基準値#1」及び「温度変動値#1」とを用いて温度補償型水晶発振器6に印加する制御電圧を算出し、D/Aコンバータ7に送る。D/Aコンバータ7はCPU1からのデータで直流電圧を生成し、温度補償型水晶発振器6に電圧を印加する。これによって、温度補償型水晶発振器6からは所望の周波数成分を含んだクロック信号が自装置内へと供給されることとなる。
【0046】
また、運用開始時において、CPU1は自装置が運用開始したことを知らせる信号Cを起動回路5に送る。この信号Cを受けて起動回路5内のタイマ回路51が機能し、任意に設定された時間Tが経過するまで、水晶発振器8へは電源を供給しない。ここで、設定する任意の時間Tは、温度補償型水晶発振器6の経年変化によって周波数安定度規格内を保証できる時間とする。例えば、温度補償型水晶発振器6の周波数安定度として0.1ppmを5年間まで保証することができるのであれば、起動回路5における設定時間Tは5年間とする。
【0047】
起動回路5におけるタイマ回路51が任意の時間Tを計時すると、水晶発振器8へ電源を供給するとともに、CPU1へも水晶発振器8に電源供給を開始したことを信号Dとして通知する。水晶発振器8は運用開始以降初めて電源が投入されることになり、水晶発振器8は経年変化を受けないことになる。
【0048】
CPU1は信号Dを受信したら、水晶発振器8の起動時間tだけ待機する。この起動時間tによって水晶発振器8は安定した動作を行うことができる。また、この間、CPU1は温度センサ2から得られる自装置内の温度とメモリ4に保存されている「基準値#2」及び「温度変動値#2」とを用いて水晶発振器8に印加する制御電圧を算出し、D/Aコンバータ9に送る。D/Aコンバータ9はCPU1からのデータで直流電圧を生成し、水晶発振器8に電圧を印加する。これによって、水晶発振器8からは所望の周波数成分を含んだクロック信号がCPU1へ供給されることとなる。
【0049】
起動時間t経過後、CPU1は水晶発振器8の出力信号を基準として、温度補償型水晶発振器6の出力信号の位相比較を行う。比較の結果から周波数の「調整値」を算出し、この「調整値」と、温度センサ2からの温度と、メモリ3に保存されている「基準値#1」及び「温度変動値#1」とから実際に温度補償型水晶発振器6に対する周波数調整を算出する。
【0050】
CPU1は算出結果をD/Aコンバータ7へ送り、温度補償型水晶発振器6に対して制御電圧を印加することで、温度補償型水晶発振器6の経年変化による周波数変動を調整することができる。CPU1は温度補償型水晶発振器6と水晶発振器8との位相比較を行い、位相が一致した場合には周波数変動の調整が終了したとして、信号Bを起動回路5へ送る。起動回路5は信号Bを受信したら、水晶発振器8に対して電源の供給停止を行い、水晶発振器8が経年変化による周波数変動が起きないようにその機能を停止させておく。
【0051】
また、本発明の一実施例による無線基地局装置が運用中の場合、CPU1においては、データ生成部11が温度センサ2から得られる自装置内の温度と、メモリ3に保存されている「基準値#1」及び「温度変動値#1」とを用いて温度補償型水晶発振器6に印加する制御電圧を算出する。
【0052】
この算出方法の一例を以下に示す。「基準値#1」は上述した一例を用い、「温度変動値#1」は図6に示す値を用いる。まず、データ生成部11は「基準値#1」の温度=30℃と、「温度変動値#1」の温度=30℃とを合わせ、「温度調整値#1」を作成する(図6参照)。
【0053】
次に、データ生成部11は現在の温度センサ2の温度を読取る。温度=40℃であった場合、データ生成部11は「温度調整値#1」から温度=40℃の時の制御電圧値を読取る。この場合には、図6に示す例より「1.3V」とする。データ生成部11はこの制御電圧値(「制御電圧値A」とする)をD/Aコンバータ7から出力させるために、D/Aコンバータ7のデータフォーマットに変換する。
【0054】
データ生成部11はこの変換したデータを信号#1として切替部12に送る。切替部12では、自装置の運用中、データ生成部11からの信号#1をD/Aコンバータ7へ送るように切替えられているため、信号#1はD/Aコンバータ7に送られることになる。
【0055】
まず、自装置の電源投入時に、起動回路5においては電源制御回路52から水晶発振器8に対して電源供給を行わない。そこで、自装置の運用前の準備に際して、CPU1はタイマ回路51に対して信号Aを送る。タイマ回路51は信号Aを受信した場合、すぐに電源制御回路52を起動させるための信号A’を送り、水晶発振器8の電源供給を開始する。
【0056】
自装置の運用前の準備が終了したら、CPU1はタイマ回路51に対して信号Bを送る。タイマ回路51は信号Bを受信した場合、電源制御回路52に対して機能停止の信号B’を送る。これを受けて電源制御回路52は水晶発振器8に対して電源の供給停止を行う。
【0057】
運用開始時において、CPU1は自装置が運用開始したことを知らせる信号Cをタイマ回路51に送る。タイマ回路51は信号Cを受信した場合、時間の計算を開始する。タイマ回路51には任意の時間Tが設定可能となっており、時間Tが経過するまでタイマ回路51から電源制御回路52へは何も制御を行わない。
【0058】
タイマ回路51は任意の時間Tが経過すると、電源制御回路52を起動させる信号C’を送る。これを受けて電源制御回路52が起動し、水晶発振器8の電源供給を開始する。これと同時に、電源制御回路52はCPU1に対して水晶発振器8に電源供給を開始したことを信号Dとして通知する。この後、CPU1は温度補償型水晶発振器6の周波数調整を開始し、調整終了時にタイマ回路51へ信号Bを送る。タイマ回路51は信号Bを受信した場合、電源制御回路52に対して機能停止の信号B’を送る。これを受けて電源制御回路52は水晶発振器8に対して電源の供給停止を行う。
【0059】
次に、水晶発振器8の起動時、データ生成部21は温度センサ2から得られる自装置内の温度と、メモリ4に保存されている「基準値#2」及び「温度変動値#2」とを用いて水晶発振器8に印加する制御電圧を算出する。算出方法はデータ生成部11と同様であるため、その説明は省略する。データ生成部21は算出した値「温度調整値2」をD/Aコンバータ9のデータフォーマットに変換し、D/Aコンバータ9へと送る。
【0060】
周波数調整部13は周波数調整を行う場合、温度補償型水晶発振器6の出力信号と水晶発振器8の出力信号とを比較部131へ入力する。比較部131は水晶発振器8の信号を基準とし、二つの信号の位相比較を行う。この時の温度補償型水晶発振器6の位相変動分(「位相変動値」と呼び、Hzの単位で換算される)の調整を行うため、比較部131は「位相変動値」を調整値算出部132へ送る。
【0061】
調整値算出部132では温度補償型水晶発振器6の制御電圧と発振周波数との関係を表した変調感度(一般的にはHz/Vの単位で表現される)の値を事前に保存しておく。調整値算出部132はこの保存している変調感度の値と、「位相変動値」とから温度補償型水晶発振器6に調整を行うための制御電圧値「制御電圧調整値」を算出してデータ生成部133に送る。
【0062】
データ生成部133では現在データ生成部11で算出し、D/Aコンバータ7へと送っている信号#1を受取る。この時、データ生成部133は信号#1に記載されている制御電圧値を、「制御電圧値A」と「制御電圧調整値」とからある係数aを持つ一次関数(y=ax)に変換する。ここで、xを時間とし、yをD/Aコンバータ7から出力される制御電圧値とする。周波数調整直前の時間をx=0とし、この時の制御電圧値をy=「制御電圧値A」とする。ある一定時間Sを空けた、x=Sの時、y=「制御電圧調整値」として一次関数(y=ax)を作成する(図7参照)。
【0063】
切替器12がデータ生成部11の信号#1からデータ生成部133の信号#2へと切替えると、温度補償型水晶発振器6に対する制御電圧が急激に変化し、温度補償型水晶発振器6から出力されるクロック信号の発振周波数も急激に変化することから、自装置の動作に影響を及ぼす懸念がある。そこで、自装置の動作に影響を及ぼさない程度のゆっくりした時間で徐々に切替える必要が生じる。それを時間Sと一次関数(y=ax)の係数aとで実現する。
【0064】
したがって、データ生成部133は一次関数(y=ax)が作成できた時点で、切替器12に信号yを送り、切替器12はD/Aコンバータ7へ信号yを送るように経路を切替える。信号yは、データ生成部303送出開始時をx=0とし、「制御電圧値A」から「制御電圧調整値」へと一次関数(y=ax)にしたがって徐々に信号yを換えてゆく。信号yが「制御電圧調整値」となった時点で、再度、比較器131が温度補償型水晶発振器6と水晶発振器8との位相比較を行い、その処理を「位相変動値」が「0」になるまで続ける。「位相変動値」=0となった時点で、周波数調整が終了とになる。
【0065】
このように、本実施例では、温度補償型水晶発振器6以外に別の水晶発振器8を有しているので、この水晶発振器8を基準として自装置内で使用している温度補償型水晶発振器6の周波数調整を行うことができる。
【0066】
また、本実施例では、水晶発振器8への電源供給を行う起動回路5を有しているので、任意に設定した時間で水晶発振器8を起動させて、自動で周波数の調整が行うことができる。
【0067】
さらに、本実施例では、起動回路5により任意の時間で水晶発振器8を起動させることで、水晶発振器8が経年変化による周波数安定度の劣化を受けないようにすることができる。
【0068】
さらにまた、本実施例では、周波数調整を行う際に一次関数を算出させることで、温度補償型水晶発振器6の発振周波数が急激に変動することなく、運用中の自装置の運用に影響を及ぼさずに周波数の調整を行うことができる。
【0069】
図8は本発明の他の実施例による移動通信用の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。図8において、本発明の他の実施例による無線基地局装置の基本構成は、水晶発振器8の代わりに温度補償型水晶発振器32を配設し、起動回路31と切替回路33とを追加して周波数調整についてさらに工夫した以外は、上記の図1に示す本発明の一実施例による無線基地局装置と同様の構成となっており、同一構成要素には同一符号を付してある。
【0070】
温度補償型水晶発振器32は温度補償型水晶発振器6と同じものを使用することで、上述した本発明の一実施例よりも周波数安定度の高い基準信号を使用することが可能となる。切替回路33は温度補償型水晶発振器6から出力されるクロック信号と温度補償型水晶発振器32から出力されるクロック信号とを切替える。起動回路31は温度補償型水晶発振器6へ電源供給及び停止を行う。
【0071】
次に、本発明の他の実施例による無線基地局装置の動作について説明する。温度補償型水晶発振器6から出力されるクロック信号はそのまま自装置内に供給されるのでなく、切替回路33を経由して供給される。また、温度補償型水晶発振器32から出力されるクロック信号も切替回路33を経由して自装置内に供給される。
【0072】
さらに、起動回路31は温度補償型水晶発振器6へ電源供給を行い、CPU1から信号を受けるまでは電源供給を続け、CPU1から信号を受けると、電源供給の停止を行う。運用開始時には、上述した本発明の一実施例でも述べたように、CPU1から自装置が運用開始したことを知らせる信号Cを起動回路5に送る。この信号Cを受けて起動回路5内のタイマ回路51が機能し、任意に設定された時間Tが経過するまで温度補償型水晶発振器32へは電源を供給しない。ここで、設定する任意の時間Tは、温度補償型水晶発振器6の経年変化によって周波数安定度規格内を保証できる時間とする。
【0073】
起動回路5はタイマ回路51が任意の時間Tの経過を検出すると、温度補償型水晶発振器32へ電源を供給するとともに、CPU1へも温度補償型水晶発振器32に電源供給を開始したことを信号Dとして通知する。温度補償型水晶発振器32は運用開始以降初めて電源が投入されることになり、温度補償型水晶発振器32は経年変化を受けないことになる。
【0074】
CPU1は信号Dを受信すると、温度補償型水晶発振器32の起動時間tだけ待機する。この起動時間tによって、温度補償型水晶発振器32は安定した動作を行うことができる。起動時間t経過後、CPU1は切替回路33に対して信号Eを送る。切替回路33は信号Eを受信すると、温度補償型水晶発振器32から出力されるクロック信号が自装置内へ供給されるように経路切替えを行う。
【0075】
切替え後、CPU1は自装置内の動作に支障がないと判断すると、上述した本発明の一実施例と同様にして、温度補償型水晶発振器32からの信号に基づいて温度補償型水晶発振器6の周波数調整を行い、その後に、信号Fを起動回路31に送る。起動回路31は信号Fを受けると、温度補償型水晶発振器6の電源供給を停止させ、温度補償型水晶発振器6の機能を停止させる。
【0076】
このように、本実施例では、温度補償型水晶発振器6の周波数安定度が規格から外れる前に、他の発振器である温度補償型水晶発振器32を動作させてクロック信号の信号生成源を切替えているので、上記の本発明の一実施例の効果のほかに、温度補償型水晶発振器6の周波数調整を行う間、温度補償型水晶発振器32からの出力を自装置内に供給できるので、温度補償型水晶発振器6の経年変化による周波数変動での影響時間を短縮することができるという効果が得られる。尚、温度補償型水晶発振器6の周波数調整を行った後には、温度補償型水晶発振器6の出力に切替えてもよいし、温度補償型水晶発振器32の出力をそのまま供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例による移動体通信用の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のCPUの構成を示すブロック図である。
【図3】図1の起動回路の構成を示すブロック図である。
【図4】図1のCPUにおける図2に図示していない部分の構成を示すブロック図である。
【図5】図2の周波数調整部の構成を示すブロック図である。
【図6】図1の温度センサの検出値と本発明の一実施例による温度補償型水晶発振器に対する温度調整との関係を示す図である。
【図7】図5のデータ生成部によるデータ生成を説明するための図である。
【図8】本発明の他の実施例による移動通信用の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図9】従来例による移動通信用の無線基地局装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0078】
1 CPU
2 温度センサ
3,4 メモリ
5 起動回路
6,32 温度補償型水晶発振器
7,9 D/Aコンバータ
8 水晶発振器
11,21 データ生成部
12 切替部
13 周波数調整部
51 タイマ回路
52 電源制御回路
131 比較部
132 調整値算出部
133 データ生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振する周波数が経年変化で変動する発振器を使用する無線基地局装置であって、予め設定された任意の時間の経過を検出するタイマ手段と、前記タイマ手段が前記任意の時間を検出した時に起動される第2の発振器と、前記第2の発振器から発振される信号を基準として前記発振器の経年変化を調整する手段とを有することを特徴とする無線基地局装置。
【請求項2】
前記任意の時間が、前記発振器の特性から予め推定されかつ前記経年変化による周波数変動が許容値を越える時間であることを特徴とする請求項1記載の無線基地局装置。
【請求項3】
前記発振器の経年変化を調整する手段は、前記周波数調整を行う際に一次関数を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線基地局装置。
【請求項4】
前記第2の発振器は、前記発振器の経年変化を調整する間のみ電源が供給されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか記載の無線基地局装置。
【請求項5】
前記発振器は、温度補償型水晶発振器であり、
前記第2の発振器は、水晶発振器であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の無線基地局装置。
【請求項6】
前記発振器及び前記第2の発振器は、温度補償型水晶発振器であり、
前記発振器から発振される信号と前記第2の発振器から発振される信号との切替えを行う手段を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の無線基地局装置。
【請求項7】
発振する周波数が経年変化で変動する発振器を使用する無線基地局装置に用いる周波数調整方法であって、前記無線基地局装置が、予め設定された任意の時間の経過を検出する処理と、前記任意の時間が検出された時に第2の発振器を起動する処理と、前記第2の発振器から発振される信号を基準として前記発振器の経年変化を調整する処理とを実行することを特徴とする周波数調整方法。
【請求項8】
前記任意の時間が、前記発振器の特性から予め推定されかつ前記経年変化による周波数変動が許容値を越える時間であることを特徴とする請求項7記載の周波数調整方法。
【請求項9】
前記発振器の経年変化を調整する処理は、前記周波数調整を行う際に一次関数を算出することを特徴とする請求項7または請求項8記載の周波数調整方法。
【請求項10】
前記第2の発振器に対して前記発振器の経年変化を調整する間のみ電源を供給することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか記載の周波数調整方法。
【請求項11】
前記発振器が温度補償型水晶発振器であり、前記第2の発振器が水晶発振器であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか記載の周波数調整方法。
【請求項12】
前記発振器及び前記第2の発振器が温度補償型水晶発振器であり、
前記無線基地局装置が、前記発振器から発振される信号と前記第2の発振器から発振される信号との切替えを行う処理を実行することを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか周波数調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−303837(P2006−303837A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121780(P2005−121780)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】