説明

無線通信システムおよび無線通信装置

【課題】異なる電波伝搬環境にある通信端末との通信において、各端末の伝播環境に最も適した変調方式や変調定数が設定可能な無線通信装置および無線通信システムを提供する。
【解決手段】帯域制限されたパルス波形によって整形された複数のサブキャリアからなるマルチキャリア信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第一の通信手段と、前記第一の通信手段とは異なる変調形式または変調定数による信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第二の通信手段と、を有し、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアの少なくとも1つを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が利用しないサブキャリアの帯域を利用して通信を行う、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムおよび無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANなどの比較的近距離の無線通信システムが普及し、伝送速度の高速化が進行している。一般に伝送速度が高速化するとマルチパス伝搬による遅延広がりの影響を受けるようになり、伝送特性が劣化する。この問題に対し、無線LANや地上波ディジタルテレビジョン放送ではOFDM(直交周波数分割多重)によるマルチキャリア伝送が用いられる。マルチキャリア伝送は複数の変調されたサブキャリアによる周波数多重伝送であり、逆高速フーリエ変換(IFFT)により変調信号が生成されるため、シンボルは全て同期しており、全サブキャリアの変調は同一シンボルレートとなる。
【0003】
OFDMの送信信号には変調シンボルの先頭部分にはガードインターバル(GI)と呼ばれる区間が付加される。この区間には、送信シンボル波形の後縁部分のコピーが配置されることから、サイクリック・プリフィックス(CP)とも呼ばれる。マルチパスの遅延広がりが上記GI長以下であれば遅延歪みを補償できるが、GI長を超える遅延広がりに対してはデータ復調時の誤りが増加し特性が劣化する。GIを長くすると遅延広がりが大きい場合にも良好な誤り率特性が得られるが、OFDMシンボル長が長くなるためデータレートが低下する。従って、OFDMでは伝搬路(伝送路)で想定される遅延広がり、すなわち伝送路特性のインパルス応答長に応じた必要最小限のGI長により通信方式を設計することが一般的である。このGI長は通常固定されており、親局(基地局)装置および子局(端末)装置からなる多元接続を行う通信システムにおいても、全端末に対して共通の値が用いられている。時分割多元接続(TDMA)による通信システムの場合は、GIをタイムスロット毎に時間で切り換えることも可能だが、TDMAでは変調速度すなわちシンボルクロックが高速になることと、伝送遅延がTDMAフレーム長に比例して長くなるという別の問題があるため、前述の問題解決のための技術としては一般的ではない。
【0004】
また、OFDMの各サブキャリアは互いにスペクトルが重なっており、特定のサブキャリアの振幅を0としても当該サブキャリアの周波数には隣接または次隣接サブキャリアのスペクトルが重畳してくる。このため、ある周波数に比較的狭帯域の他の無線通信が存在していると、当該周波数に相当するサブキャリアの振幅を0としても干渉を回避することが困難となる。この問題を解決するため、特許文献1や非特許文献1ではサブキャリアをガウス関数により帯域制限したマルチキャリア伝送方式が提案され、実験結果などが開示されている。ガウス関数によって送信波形を整形することで、急峻なスペクトル減衰特性を与えることができ、自システム内での符号間干渉とサブキャリア間干渉、および他システムとの電波干渉を抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−236364号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大堀哲央,小野寺純一,五嶋研二,寺尾剛,須山聡,鈴木博,“ガウス形マルチキャリア送信機のFPGA実装による実現性評価”,電子情報通信学会技術研究報告,RCS2007-220,pp.205-210,Mar.2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術では、例えばWiMAX(IEEE802.16規格)などのOFDMによる周波数分割多元アクセス(OFDMA)を行う場合には、FFTおよびIFFT(高速フーリエ変換、逆高速フーリエ変換)により全サブキャリアを一括して変復調信号処理を行う。したがって、特定のサブキャリアだけGI長を別の値とすることができない。このため、GI長は最大の遅延広がりに合わせて設計する必要が生じ、遅延広がりが小さな伝搬路の状態である子局に対しても必要以上のGIを用いることとなり、無用の周波数資源を浪費することとなる。
【0008】
サブキャリアごとにGI長やシンボルレートなどを変えるためには、異なる2つの変復調手段を設けることも考えられる。すなわち、OFDMの変復調を行う変復調手段に加え、GIやシンボルレートなどの変調定数が異なる、あるいは全く別の変調形式による独立した別の変復調手段を親局装置に設けることも考えられる。しかし、各々の変復調手段による信号のスペクトルは重なり合っており、かつGIが異なるためこれらの信号は互いに直交関係が無い。よって、各々の信号間で干渉が生じ、ビット誤り率が大幅に増加して実用に供することはできない。
【0009】
このような、サブキャリアによって異なるGIを必要とする環境に、車両内の無線通信システムを例としてあげることができる。近年、車載機器間の通信は、有線接続の代わりに無線接続によって行われることが増えている。車両内には様々な環境があり、周囲が金属で囲まれているエンジンルームは電波の反射が起きやすく遅延広がりが大きくなるため、エンジンルーム内に設置された車載機器間での通信ではGIを大きく取る必要がある。さらに、エンジンルームに設置された車載機器と車室内に置かれた車載機器との間は金属で遮蔽されるため、直接波もなく遅延広がりも大きいので、エンジンルーム内と同様に大きなGIが必要となる。それに対して、車室内に置かれた車載機器間の伝搬路は遅延広がりがそれほど大きくならず、GIを小さくすることができる。
【0010】
さらに、OFDMAを行う子局はOFDMの変復調が必須であるため構成が複雑となり、例えば小型センサ端末などシングルキャリア低速度伝送しか実装できない子局装置には適用が困難である。例えば、車両に搭載されるセンサノードは小型かつ安価であることが求められることが多く、OFDM変復調器を設けることは困難である。
【0011】
また、OFDMのサブキャリアはサブキャリア間隔の数倍の占有帯域幅を有しているため、特定の周波数に比較的狭帯域の他の無線通信が存在している場合、当該周波数に相当するサブキャリアの振幅を0としても干渉を回避することができない。したがって、他の無線システムが用いている周波数から充分に離れた周波数からサブキャリアを割り当てる必要がある。このような理由により上記の従来技術による通信システムは、多種多様な無線システムが混在する2.4GHz帯などのISM(産業科学医療用)帯での運用が困難となる問題点があった。
【0012】
本発明は上記問題点を考慮してなされたものであり、その目的は、異なる電波伝搬環境にある通信端末との通信において、各端末の伝播環境に最も適した変調方式や変調定数が設定可能な無線通信装置および無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第一の実施形態に係る無線通信装置では、以下の手段により、異なる電波伝搬環境にある通信端末との通信において、各端末の伝播環境に最も適した変調方式や変調定数を設定可能にする。
【0014】
本発明の第一の様態に係る無線通信装置は、帯域制限されたパルス波形によって整形さ
れた複数のサブキャリアからなるマルチキャリア信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第一の通信手段と、前記第一の通信手段とは異なる変調形式または変調定数による信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第二の通信手段と、
を有し、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアの少なくとも1つを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が利用しないサブキャリアの帯域を利用して通信を行う、ことを特徴とする。
【0015】
帯域制限されたパルス波形によって送信波形を整形することで、急峻なスペクトル減衰特性を得ることができる。すなわち、スペクトルディップを深く形成することができ、キャリア間干渉を少なくすることができるため、通信に用いないサブキャリア(ヌルキャリア)を作成することで、当該ヌルキャリア帯域を使用して他の通信を行うことができる。この帯域での通信は、マルチキャリア通信に干渉を与えないため、端末毎の機能、想定される伝送路の遅延広がりなどに応じて、変調形式や変調定数を自由に設定し、FDMAによってマルチキャリア通信と同時に収容することが可能である。
【0016】
また、前記第一の通信手段が用いるサブキャリアのシンボルは、前記第二の通信手段が用いるキャリアのシンボルと非同期であることを特徴としてもよい。
【0017】
帯域制限されたパルス波形によって送信波形を整形することで、サブキャリア間の干渉を最小限に抑えることができる。つまり、第一の通信手段によって変調される信号と、第二の通信手段によって変調される信号は直交していなくても通信を行うことができため、双方のシンボルを非同期とすることができる。
【0018】
また、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に用いないサブキャリアが持つ周波数帯域で同一の信号を通信するものであり、各周波数帯域の信号を重み付けして送信するか、いずれかの周波数帯域の信号を選択して送信する
ことを特徴としてもよい。
【0019】
このように構成することにより、同一のデータによって変調された複数のキャリアを送信することができるため、周波数選択性フェージングに対応するための周波数ダイバーシティ効果を得ることができる。また、単一の送信アンテナで運用することができ、装置を小型化することができる。
【0020】
また、前記第二の通信手段は、伝送先の端末のアンテナ入力において前記複数の周波数帯域の信号が同位相となるように、前記複数の周波数帯域の信号を重み付けして送信する
ことを特徴としてもよく、前記第二の通信手段は、周波数間隔が等しい3つの周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdで信号を送信することを特徴としてもよい。
【0021】
複数の送信周波数の間隔を等しくし、同位相で送信することにより、伝送先の端末において複雑な演算をすることなく受信信号の復調を行うことができる。
【0022】
また、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域の送信信号を用いて、複数の端末に送信を行うものであり、前記複数の端末宛のデータを伝搬路特性に基づき重み付け合成して、各周波数帯域の送信信号を決定する、ことを特徴としてもよく、前記第二の通信手段は、前記複数の端末のアンテナ入力において、当該端末宛のデータが支配的に受信されるように重み付けして送信することを特徴としてもよい。
【0023】
このように構成することにより、単一の送信アンテナによって空間多重伝送を行うことができ、周波数利用効率が向上する。また、伝送先の端末においては信号分離処理が必要ないため、装置を単純化することができる。
【0024】
また、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域を用いて、信号を受信するものであり、前記各周波数帯域では、送信元から同一のデータの信号が送信されており、前記第二の通信手段は、各周波数帯域の信号を重み付け合成して受信するか、いずれかの周波数帯域の信号を選択して受信することを特徴としてもよい。
【0025】
このように構成することにより、同一の信号を複数の周波数で伝送することによる周波数ダイバーシティ効果を受信時にも得ることができる。
【0026】
また、前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域を用いて、複数の端末からの信号を受信するものであり、前記複数の端末はそれぞれが複数の周波数帯域で信号を送信しており、各周波数帯域で受信される信号を、伝搬路特性に基づき重み付け合成することで、各端末から送信される信号を抽出することを特徴としてもよい。
【0027】
このように構成することにより、空間多重伝送による周波数の利用効率向上効果を受信時にも得ることができる。
【0028】
本発明の第二の様態に係る無線通信装置は、第一の様態に係る無線通信装置が有する第二の通信手段から送信される複数の周波数帯域の信号を受信する受信手段と、入力された信号を周波数変換する周波数変換手段と、を有し、前記受信手段によって受信された複数の周波数帯域の信号を、前記周波数変換手段によって、共通の周波数帯域に変換することを特徴とする。
【0029】
このように構成することにより、単一の周波数を受信する受信手段によって、複数の周波数によって送信される信号を受信することができるため、装置構成を単純化することができる。
【0030】
また、本発明の第二の様態に係る無線通信装置は、第一の様態に係る無線通信装置の第二の通信手段から送信される周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdの信号を受信する受信手段と、入力された信号を周波数変換する周波数変換手段であって、入力信号、入力信号を周波数+fdだけ周波数変換した信号、および入力信号を周波数−fdだけ周波数変換した信号が重畳された信号を出力する周波数変換手段と、を有し、前記周波数変換手段によって、前記受信手段が周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdの信号を、周波数帯域fcに重畳加算することを特徴とすることが好ましい。
【0031】
このように構成することにより、通常のシングルキャリア送受信回路に、周波数変換手段を追加した簡易な構成で、複数の周波数帯域から信号を受信することが可能になる。
【0032】
また、本発明に係る無線通信システムは、親局装置と、1つまたは複数のマルチキャリア端末と、1つまたは複数のシングルキャリア端末から構成される無線通信システムであって、前記親局装置は、帯域制限されたパルス波形によって整形された複数のサブキャリアからなるマルチキャリア信号を用いてマルチキャリア端末と通信を行う第一の通信手段と、前記第一の通信手段とは異なる変調形式または変調定数による信号を用い通信を行う
第二の通信手段と、を有し、前記マルチキャリア端末は、前記親局装置の第一の通信手段と通信を行う通信手段を有し、前記シングルキャリア端末は、前記親局装置の第二の通信手段と通信を行う通信手段を有し、親局装置とマルチキャリア端末との間の通信では、前記複数のサブキャリアのうち少なくとも1つを利用せずに通信を行うものであり、親局装置とシングルキャリア端末との間の通信では、親局装置とマルチキャリア端末間の通信に利用しないサブキャリアの帯域を利用して通信することを特徴とする。
【0033】
このように構成することにより、本発明の第一の様態に係る無線通信装置、および第二の様態に係る無線通信装置によって無線通信システムを構築することができる。
【0034】
また、本発明に係る無線通信システムは、親局装置と、複数の端末から構成される無線通信システムであって、前記親局装置は、複数の周波数帯域の信号を用いて前記複数の端末に送信を行うものであり、前記複数の端末宛のデータを伝搬路特性に基づく重み付け合成して、各周波数帯域の送信信号を決定する送信手段を有し、前記端末は、前記親局の送信手段から送信される各周波数帯域の信号を合成して受信する、受信手段を有することを特徴としてもよく、前記親局装置の送信手段は、前記複数の端末のアンテナ入力において、当該端末宛のデータが支配的に受信されるように重み付けして送信することを特徴としてもよい。
【0035】
また、本発明に係る無線通信システムは、親局装置と、複数の端末から構成される無線通信システムであって、前記端末は、それぞれが複数の周波数帯域を用いて親局装置に信号を送信する、送信手段を有し、前記複数の周波数帯域は、前記複数の端末で共通であり、前記親局装置は、前記複数の周波数帯域で受信される信号を、伝搬路特性に基づく重み付け合成をすることで、各端末から送信される信号を抽出する、受信手段を有することを特徴としてもよい。
【0036】
このように構成することにより、単一のアンテナを用いて異なる周波数で多重伝送を行うことができる無線通信システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、異なる電波伝搬環境にある通信端末との通信において、各端末の伝播環境に最も適した変調方式や変調定数が設定可能な無線通信装置および無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る無線通信装置の機能構成図である。
【図2】ガウシアンパルスによって整形されたサブキャリアを説明する図である。
【図3】ガウシアンパルスによるサブキャリアの整形方法を説明する図である。
【図4】マルチキャリア通信のヌルキャリアに別のキャリアおよびシンボルを配置した図である。
【図5】第一の実施形態に係るマルチキャリア変調信号生成部の構成を説明する図である。
【図6】第一の実施形態に係るシングルキャリア変調信号生成部の構成を説明する図である。
【図7】第一の実施形態に係るマルチキャリア復調部の構成を説明する図である。
【図8】第一の実施形態に係るシングルキャリア端末の構成を説明する図である。
【図9】第二の実施形態に係る無線通信システムの端末構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第一の実施形態)
<システム構成>
図1は、無線通信システムのシステム構成を表す図である。
本システムは、屋内、車両内、装置内など比較的近距離の空間において、基地局、アクセスポイント、親機、あるいはシンクノードなどとも呼ばれる親局装置と、端末、子機、センサノードなどとも呼ばれる子局との間で無線伝送を行うものである。親局装置は複数の子局との間で多元接続を行う。
【0040】
本システムは、親局装置Bと、子局装置であるマルチキャリア端末TMおよびシングルキャリア端末TSから構成される。ここでは、親局装置Bは、2台のマルチキャリア端末TM1、TM2および2台のシングルキャリア端末TS1,TS2と通信する場合を例に説明するが、子局装置の台数は何台であってもかまわない。マルチキャリア端末は、シングルキャリア端末よりも伝送速度が高い。シングルキャリア端末は、伝送速度が低いが、構成が簡単で消費電力が低い。このようなシングルキャリア端末は、たとえば電源が限られ小型低消費電力が要求されるセンサ端末などの実装形態として好適である。
【0041】
本実施形態では、親局装置およびマルチキャリア端末間の通信では、マルチキャリア通信に利用可能なサブキャリアのうち、1つ又は複数のサブキャリアを使用しないでマルチキャリア通信を行う。親局装置とシングルキャリア端末間の通信では、マルチキャリア通信に使用しないサブキャリアの周波数を用いて、シングルキャリア通信を行う。
【0042】
親局装置Bのシステム構成について説明を行う。
第一の実施形態における親局装置Bは、マルチキャリア変調信号生成部111、シングルキャリア変調信号生成部112、D/A変換器113、増幅器114を有しており、これらの各部が送信手段を構成する。また、マルチキャリア復調部121、シングルキャリア復調部122、A/D変換器123、増幅器124を有しており、これらの各部が受信手段を構成する。また、送信および受信手段に共通する、スペクトル制御部101、アンテナ切換部102およびアンテナ103を有している。
【0043】
それぞれの構成について説明を行う。マルチキャリア変調信号生成部111は、入力された送信対象のデジタル信号列を、複数キャリアを持つ変調信号に変換する手段である。具体的には、送信データをパラレル変換し、それぞれのデータに対して一次変調を行い、フーリエ逆変換(IFFT)を行って複数のサブキャリア信号を生成し、ガウシアンパルスを用いた波形整形による帯域制限を行った後で合成する。ガウシアンパルスを用いた波形整形による帯域制限、およびマルチキャリア変調信号生成部111の詳細については後述する。本実施形態においては、OFDMAによる多元接続を想定しているが、TDMAやFDMAを用いて多元接続を実現してもよい。
【0044】
シングルキャリア変調信号生成部112は、入力された送信対象のデジタル信号列を、シングルキャリアによる変調信号に変換する手段である。具体的には、送信データに対して一次変調を行い、ガウシアンパルスを用いた波形整形によって帯域制限を実施する。本実施形態においては、周波数ダイバーシティ効果を得るために、同一の送信データを異なる複数の周波数にて送信する。シングルキャリア生成部112の詳細については後述する。本実施形態においては、一次変調の方式として、QAM(直角位相振幅変調:Quadrature Amplitude Modulation)やQPSK(四位相偏移変調:Quadriphase Phase-Shift Keying)を想定しているが、その他の変調方式を用いてもよい。
【0045】
マルチキャリア変調信号生成部111が生成した変調信号と、シングルキャリア変調信号生成部112が生成した変調信号は合成され、D/A変換器113へ入力される。信号の生成方法、および具体的な信号の内容については後述する。
【0046】
D/A変換器113は、生成されたベースバンド信号であるデジタル信号列を無線周波信号に変換する手段である。また、増幅器114は、変換された無線周波信号を増幅するためのパワーアンプである。D/A変換器113と増幅器114との間にはバンドパスフィルタを備えていてもよい。
【0047】
アンテナ切換部102は、アンテナ103を送受信にて共有するため、送信経路と受信経路を電気的に分離するための切換器である。受信周波数を阻止域とする送信フィルタと、送信周波数を阻止域とする受信フィルタとを、位相器を介して接続することで実現される。
【0048】
A/D変換器123は、無線周波信号をデジタル信号列に変換する手段である。また、増幅器124は、A/D変換器123に入力される無線周波信号を増幅する低ノイズアンプである。
【0049】
マルチキャリア復調部121は、マルチキャリア変調信号をベースバンド信号であるデジタル信号列に復調する手段である。また、シングルキャリア復調部122は、入力された、シングルキャリアによる変調信号をベースバンド信号であるデジタル信号列に復調する手段である。
【0050】
また、スペクトル制御部101は、各端末との通信に使用する周波数、すなわちスペクトルを決定する手段である。スペクトル制御部101の動作の詳細については後述する。
【0051】
<ガウシアンパルスによる波形整形>
親局装置Bの詳細な説明を行う前に、ガウシアンパルスを用いた波形整形による帯域制限について説明する。ガウシアンパルスとは、ガウス関数を利用したパルス信号であり、継続時間と帯域幅が共に限定されているという性質を持つ。このパルス信号と、キャリア波形とを乗算することで、周波数スペクトルに対して急峻なサイドローブ減衰を得ることができる。図2は、OFDMによる変調を行った周波数スペクトル202(点線)と、ガウシアンパルスによる乗算を行った結果の周波数スペクトル201(実線)とを比較した図である。スペクトルディップが、通常のOFDMでは10dB程度であるのに対し、ガウシアンパルスによる整形を行った結果、60dB以上の減衰を得ることができる。
【0052】
つまり、OFDMにて使用されるサブキャリアに、ガウシアンパルスを用いた波形整形によって帯域制限を行うことで、隣接するサブキャリアまたはシンボルへの影響を最小限にすることができる。なお、整形に用いるガウシアンパルスの時間方向に対する電力の標準偏差σは、小さくすることでシンボル間干渉が小さく、大きくすることでキャリア間干渉が小さくなることが知られている。この標準偏差σは、発明の目的を達成できる範囲で、どのような値が用いられてもよい。
【0053】
図3は、ガウス関数による帯域制限の方法を詳細に表した図である。図3(a)が、逆フーリエ変換を行った信号のうち、3シンボル分を表したものである。このうち、u0
t)の区間について帯域制限を実施する例を示す。図3(a)の信号に対して、ガウス波形である図3(c)の信号を以下の式によって乗算し、3シンボル分を足し合わせたものが、目的とする帯域制限された信号となる。なお、ガウス波形をg(t)、入力信号をu(t)、シンボル長をTsとし、tの範囲は0<t≦Tsとする。
g(t−Ts)u(t+Ts)+g(t)u(t)+g(t+Ts)u-1(t―Ts)
すなわち、帯域制限された信号s(t)は、数式1で表すことができる。なお、ガウス波形の打ち切り幅はM×Tsで表せられるが、本例ではM=3としている。kは任意の整数である。
【数1】

【0054】
OFDMAによって複数の端末が複数のサブキャリアにて通信を行おうとした場合には、隣接するサブキャリア同士のスペクトルが重なっているため、それぞれのキャリアは直交性を持っていなければならない。しかし、本手法を用いることで、隣接するサブキャリア同士が干渉しなくなり、直交関係が無くても通信が行えるようになるため、シンボル同士の同期を行う必要がなくなる。すなわち、複数の端末が複数のシンボルレートによって通信を行うことが可能となる。
【0055】
<送信キャリアの配置方法>
次に、送信キャリアの配置方法について説明を行う。
【0056】
親局装置もしくは子局装置のいずれかが通信を開始すると、各子局と親局との通信に使用する周波数、すなわちスペクトルをスペクトル制御部101が割り当てる。より詳細には、スペクトル制御部101は、マルチキャリア端末と親局装置との間の通信に割り当てる周波数と、シングルキャリア端末と親局装置の間の通信に割り当てる周波数を決定する。決定された周波数情報はマルチキャリア変調信号生成部111に送信される。マルチキャリア変調信号生成部111は、この情報を用いて変調信号を生成する。マルチキャリア変調信号生成部111は、マルチキャリア通信に使用しないと決定された周波数のサブキャリアにはデータを割り当てない。すなわち、このサブキャリア変調の出力は振幅が0になる。また、スペクトル制御部101が決定した周波数情報はシングルキャリア変調信号生成部112にも送信される。シングルキャリア変調信号生成部112は、この情報を用いて変調信号を生成する。
【0057】
本実施形態では、マルチキャリア通信に使用しないと決定されたサブキャリアをヌルキャリアと称する。また、DCサブキャリアなど、本来通信に使用されないサブキャリアも、ヌルキャリアと称する。
【0058】
周波数の割り当ては、例えば図4に示すようにすることができる。図4において、横軸は時間、縦軸は周波数である。白抜きの楕円(符号400)は、親局装置Bとマルチキャリア端末TMの間で送受信される変調信号のサブキャリア毎のシンボルを示す。ハッチングを加えた楕円は親局装置Bとシングルキャリア端末TSの間で送受信される変調信号のサブキャリア毎のシンボルを示す。
【0059】
ここで、Tをマルチキャリア変調信号のシンボル長(シンボル周期)とする(時間の単位は秒、以下同じ)。マルチキャリア変調信号は以下で詳述するように、逆高速フーリエ変換(IFFT)により生成されるので、サブキャリアの間隔は1/T(周波数の単位はHz。以下同じ)またはその整数倍となる。ここでは、サブキャリアの間隔は1/Tとする。また、fcはマルチキャリア変調信号の中心周波数である。
【0060】
サブキャリアの周波数は、fc+m/Tという式で与えられる。ただし、mは整数で、IFFT(逆フーリエ変換)のポイント数をNとすると、−N/2≦m≦N/2−1を満たす値である。
【0061】
この実施の形態においては、m=0、mf、−mf以外のサブキャリアを用いてマルチキャリア端末との通信を行う。すなわち、マルチキャリア通信においては、m=0、mf、−mfのサブキャリアの振幅が零に設定されている。そしてマルチキャリア端末が用いていないこれらのサブキャリアのスペクトルを、シングルキャリア端末と親局装置の間の通信に用いる。ここではシングルキャリア変調信号の占有帯域幅が1/(2T)未満の例を示す。したがって、親局装置110は1つのヌルキャリアの帯域を使って、2台のシングルキャリア端末TS1,TS2とシングルキャリア通信が可能である。シングルキャリア端末TS1とは、fc+1/(2T)、fc+(mf+1/2)/T、fc−(mf−1/2)/Tのサブキャリアのスペクトルを用いる。シングルキャリア端末TS2とは、fc−1/(2T)、fc+(mf−1/2)/T、fc−(mf+1/2)/Tのサブキャリアのスペクトルを用いる。
【0062】
ここで、マルチキャリア通信とシングルキャリア通信とでシンボルレートを変更できるのは、上述したようにマルチキャリア通信の変調信号がガウシアンパルスを用いた波形整形によって帯域制限されており、キャリア間干渉を起こさないためである。
【0063】
図4において、それぞれのシングルキャリア通信で3つのキャリアを用いているが、本実施形態ではこれらの各キャリアは同一データで変調した信号を送信する。従って同一データが3つの異なる周波数で伝送されるので、周波数ダイバーシティ効果が得られ、安定した伝送が可能になる。このように互いにスペクトルが重ならないよう、サブキャリアおよびシングルキャリアの周波数が、スペクトル制御部により配置される。
【0064】
なお、本実施の形態では以下TDD(Time Division Duplex、時分割複信)通信を行うものとして説明する。また、以降、マルチキャリア変調信号生成部111が生成するキャリアを高レートキャリア、シングルキャリア変調信号生成部112が生成するキャリアを低レートキャリアと称する。
【0065】
<高レートキャリアの送信方法>
次に、前述したキャリアの配置を実現するための具体的な方法について説明を行う。
まず、高レートキャリアの送信方法について説明を行う。図5は、マルチキャリア変調信号生成部111の構成図である。まず、通信先の相手ごとに入力された送信データは、変換器501によって、宛先マルチキャリア端末毎の1シンボル分ごとにシリアル/パラレル変換される。ここでデータM1はマルチキャリア端末TM1宛の、データM2はマルチキャリア端末TM2宛のデータを示す。そして、サブキャリアマッピング部502が、スペクトル制御部101から送信された周波数情報に従って、通信先相手ごとに適当なサブキャリアの組を割り当てる。割り当てられるサブキャリアの合計はN本以下とする。ここでNはIFFTのポイント数であり2のべき乗の数である。なお、サブキャリアマッピング部502は、fcおよびfc±fd、fcおよびfc±fdに対応するサブキャリア(文字の定義は後述)には、データを割り当てない。すなわち、これらのサブキャリアに対する変調出力の振幅は0に設定される。
【0066】
N個のサブキャリアに分割された信号は、サブキャリアごとに配置された変調器503によって、例えばQPSKやQAM変調が行われ、ポイント数NのIFFT変換器504によってマルチキャリア変調信号に変換される。
【0067】
ここまでの構成は、従来のOFDMAによる無線通信装置と同様である。従って、上記マルチキャリア変調信号は、従来のOFDMもしくはOFDMAによる伝送信号からガードインターバルを除いたものと同等である。
【0068】
次に、帯域制限部505によって、サブキャリア毎にガウシアンパルスを用いたフィルタ処理を施す。帯域制限部505は、ガウシアンパルスを用いた波形整形によって帯域制限を行うフィルタのインパルス応答の1シンボル分を乗算する畳み込み乗算手段である。帯域制限部505は、2つの遅延器506と3つのフィルタ507および加算器508から構成される。遅延器506は、レジスタもしくはメモリであり、1シンボル分の遅延を行う手段である。図中uを基準にするとu−1は1シンボル前、uは1シンボル後のOFDM信号データとなる。フィルタ507におけるフィルタ特性は、前述したようにガウス関数が好適であるが、他の関数、たとえばルートコサインロールオフフィルタ等を用いてもよい。本実施形態においては、3シンボル分のデータによってフィルタ処理、すなわちトランケーションを行っているが、処理シンボル数は増加させてもよい。増加させることによって、隣接サブキャリアおよびチャネルへの干渉をより低く抑えることができる。
【0069】
以上の処理によって生成されたマルチキャリア変調信号は、加算器508によって足し合わされる。他のサブキャリアも同様の処理が行われ、全サブキャリアの信号がシリアル変換器509によってシリアルデータに変換される。その後、低レートキャリアの変調信号と加算され、D/A変換器、送信回路を経て送信される。
【0070】
高レートキャリアの送信においては、以上で説明した方法によってサブキャリアを配置し、送信信号に対してガウス関数による帯域制限を行う。
【0071】
<低レートキャリアの送信方法>
次に、低レートキャリアの送信方法について説明を行う。図6は、シングルキャリア変調信号生成部112をさらに詳細に説明した図である。まず、シングルキャリア端末TS1に対する変調信号生成について説明する。
【0072】
シングルキャリア変調部601は、入力された通信データに対してQPSKやQAMなど通常のシングルキャリア変調を行う手段である。また、帯域フィルタ602は、例えばガウス関数もしくはルートコサインロールオフフィルタなどによって帯域制限を行う手段である。これらの処理により、従来技術と同様の基底帯域シングルキャリア変調信号が生成される。
【0073】
この生成されるシングルキャリア変調信号は、前述した高レートキャリア、すなわちマルチキャリア変調信号とシンボルレートなどの変調定数が異なっていてもよい。例えばセンサ端末など小型で簡易構成の端末への伝送では低ビットレートでの伝送が良い場合が多い。したがって、本実施形態では、シングルキャリア変調信号は、高レートキャリアに対してシンボルレートが半分、シンボル長が2倍の2T、占有帯域幅が約半分の約1/(2T)であるものとして説明を行う。
【0074】
次に、周波数変換部603が、シングルキャリア端末TS1宛の変調信号を、基底帯域においてfc−fd、fc、fc+fdとなるように3つの周波数に変換する。ここで、fc=fc+1/(2T)であり、fd=mf/Tである。これら3つの信号は、同一のデータに同一の変調が施された信号であり、キャリア周波数のみが異なるものである。中心周波数であるfcと、シフト幅であるfdは、変換後の3つの周波数が、スペクトル制御部101から受信したヌルキャリアの周波数と一致するように制御される。fcが図4における401b、fc−fdが401c、fc+fdが401aに該当する。
【0075】
周波数変換部603によって変換された3つの信号は、加算器604にて重みづけ加算される。加算に用いる重みは、上記3つの周波数の伝搬損(伝送損失)により決定し、伝
搬損が少ない周波数ほど大きい値を設定してもよいし、3つとも等振幅で出力しても良い。加算に用いられる重みは、複素数の重みであり位相制御を伴う。すなわち、伝送先の端末のアンテナ入力にて、3つが同位相になるように制御される。伝送路の伝送特性は、多くの無線システムで公知のように、トレーニング信号を送信データの先頭に付加して計測してもよい。また、3つの周波数の送信信号の位相と振幅を親局装置Bが有する受信回路で受信して比較することで伝送特性を推定してもよい。なお、加算器604は、重みづけ加算のみを行うものではなく、伝播損失が最も少ない周波数のみを選択し、他の周波数に対応する信号の出力を停止してもよい。この場合は、構成および演算が簡単化される。
【0076】
シングルキャリア端末TS2宛の送信データについても同様の構成により変調信号が生成される。シングルキャリア端末TS2宛の変調信号は、周波数変換部603により、基底帯域におけるキャリア周波数がfc−fd、fc、fc+fdの3つの周波数に変換され出力される。ここで、fc=fc−1/(2T)である。fc2が図4におけ
る402b、fc2−fdが402c、fc2+fdが402aに該当する。
【0077】
<高レートキャリアの受信方法>
次に、高レートキャリアの受信方法について説明を行う。
図7は、マルチキャリア復調部121をさらに詳細に説明した図である。受信されたマルチキャリア信号は、フロントエンド部701で増幅され、ベースバンド信号に変換される。ベースバンド信号はA/D変換器を経ることによってデジタル信号列に変換される。
【0078】
変換されたデジタル信号列は、シリアル/パラレル変換器702で、シンボルごとにNサンプルのパラレルデータに変換される。これらのパラレルデータは、図5に示す帯域制限部505と同一構成の帯域制限部703によってフィルタ処理が施される。帯域制限部703では、シンボル長Tの遅延メモリ704を介して、フィルタ705によってフィルタ処理が行われる。この帯域制限部703により、サブキャリア単位でバンドパスフィルタをかけたのと等価なフィルタ処理がなされる。フィルタ705の、フィルタ特性すなわちインパルス応答は、帯域制限部505のフィルタ507のフィルタ特性に対応する整合フィルタとすることができる。
【0079】
なお、当該フィルタ処理は必ず整合フィルタである必要はなく、サブキャリア間隔に大略等しい通過帯域幅のフィルタとすればよい。たとえば、ガウス関数のインパルス応答とする場合、ガウシアンパルス幅をやや短くすることでシンボル間干渉が減少するので、遅延広がりが大きい場合はパルス幅を短くすると特性が改善される場合がある。
【0080】
フィルタ処理された信号は、FFT変換器707により、サブキャリア毎の変調信号に変換される。以降は、従来のOFDM受信機やOFDMA受信機と全く同様の動作となる。復調部708にて信号が復調され、送信部のサブキャリアマッピングと逆の処理を行うデマッピング部709、パラレル/シリアル変換部710を経ることによって元のデータに変換される。
【0081】
<低レートキャリアの受信方法>
図1におけるシングルキャリア復調部122の構成(低レートキャリアの受信方法)については、周波数fcおよびfc±fdの3つを受信し、復調出力をダイバーシティ合成して受信データとする従来のシングルキャリア受信機の信号処理と同一であるため説明を省略する。
【0082】
<マルチキャリア端末>
マルチキャリア端末TMは、親局装置Bから、シングルキャリアの送受信に係る機能を省いたものであるため、説明を省略する。
【0083】
<低レートキャリア専用端末>
ここまでの説明では、主に親局装置Bによる送受信方法について説明を行った。次に、低レートキャリア専用端末による送受信方法について説明を行う。
【0084】
図8は、シングルキャリア端末TSの構成を説明した図である。図8における受信回路および復調手段は、従来のシングルキャリア受信機と同様のもので、キャリア周波数fcまたはfcを受信するものである。なお、fc、fcは、親局装置Bが送信する低レートキャリアの中心周波数(fc+1/(2T)またはfc−1/(2T))である。本実施形態においては、シングルキャリア端末TS1がキャリア周波数fcを、シングルキャリア端末TS2がキャリア周波数fc2を受信するものとして、TS1の周波数
を例に説明する。
【0085】
アンテナ801からの受信信号は、アンテナ切換部102と同等のデュプレクサであるアンテナ切換部802と、周波数変換回路としてのミクサ803を介して同受信回路へ入力される。ミクサ803では、局部発振器804が生成した周波数fdの局部信号と混合される。ミクサの構成には回路によっていくつかの種類があるが、ここでは入力信号周波数と局部信号周波数の和と差、および入力信号が出力に現れるものを用いる。ミクサ803は、例えばソース接地FET(電界効果トランジスタ)増幅回路の入力に入力信号と局部信号を加えるソース注入ミクサでも良いし、ギルバートセルミクサなどの、平衡変調回路の入力ポートに対する差動入力の平衡度をやや不平衡にした回路でも良い。これらは極めて一般的な高周波回路である。
【0086】
ここではミクサ803に、周波数fcおよびfc±fdの3つの周波数が入力されるものとする。ミクサからの出力には、入力信号周波数と局部信号周波数の和と差、および入力信号が出力に現れるから、fcの入力成分は出力ポートにおいてfcおよびfc±fdの周波数成分に、fc+fdの入力成分はfc、fc+fdおよびfc+2fdの周波数成分に、fc−fdの入力成分はfc、fc−fdおよびfc−2fdの周波数成分に変換されて現れる。すなわち、fcおよびfc±fdの周波数をそれぞれ持つ3つの受信信号がいずれも周波数fcに変換される。
【0087】
上記受信回路は、fcに受信周波数が設定されている。つまり、他の周波数成分は除去され、上記3つの周波数成分の信号がfcを中心に重畳加算され受信される。前述のように、親局装置Bにおけるシングルキャリア変調信号生成部112では、これら3つの周波数成分が同相となるよう位相制御されて送信されるため、これらの信号は互いに強め合い、最大比合成または等利得合成の周波数ダイバーシティ受信となる。上記位相制御は親局装置B側でなされるため、端末側では通常のシングルキャリア受信回路に、ミクサ回路と局部発振器を追加するのみでダイバーシティ受信を行うことができる。
【0088】
なお、親局装置Bにおいては、低レートキャリアの送信周波数を、fc以外にもfcなどにも設定することができるが、キャリア周波数が異なる場合であっても、シングルキャリア端末による受信のロジックは同様であることは言うまでも無い。
【0089】
なお、本実施形態は、時分割によって同一周波数で送受信を行うTDDの無線システムであるが、異なる周波数にて同時に送受信を行うFDD(Frequency Division Duplex)
システムにも用いることができる。この場合、図1のアンテナ切換部102および図8のアンテナ切換部802は、アンテナ共用器(デュプレクサ)となる。
【0090】
続いて、図8に示したシングルキャリア端末TSの構成を用いて、低レートキャリアの送信を行う方法について説明する。変調手段および送信回路は従来のシングルキャリア無
線機における送信装置と同様のものであり、キャリア周波数fcまたはfcを送信するものである。この出力には周波数変換回路としてのミクサ805が接続されている。ミクサ805の動作は受信動作で説明したミクサ803と同一である。したがってミクサ805の出力にはfcおよびfc±fdあるいはfcおよびfc±fdの3つの周波数成分が同相でそれぞれ出力され、アンテナから親局装置Bへ送信される。つまり、同等のミクサ回路を送信用に追加することで、受信時と同様の周波数ダイバーシティ効果を得ることができる。
【0091】
(第二の実施形態)
第二の実施形態は、親局装置Bとシングルキャリア端末TS1およびTS2を用いて、MIMOによる通信を行う形態である。
図9は、第二の実施形態における無線通信装置および端末の関係を表した図である。本実施形態においては、親局装置Bと、2台のシングルキャリア端末TS1、TS2を使用して通信を行う。ここでは、シングルキャリア端末を子局装置と称する。
【0092】
子局装置TS1およびTS2は、上記第一の実施形態で説明したものと同一の構成である。ただし、本実施形態では、これらの子局装置TS1,TS2に割り当てられる周波数は共通であり、fcおよびfc±fdなる同一のスペクトルを用いて通信を行う場合を説明する。図9において、H(f)、H2(f)は、周波数fにおける子局装置TS
1、TS2から親局装置までの伝送路(伝搬路)の伝達関数をそれぞれ表す。
【0093】
、xは子局装置TS1、TS2における送信信号の基底帯域信号をそれぞれ表し、y、y、yは、親局装置における受信信号の周波数fcおよびfc+fd、fc−fdのスペクトルにおける受信信号の基底帯域信号をそれぞれ表す。なお、端末TS1、TS2における送信信号の基底帯域信号は、図8の構成からも明らかなようにfcおよびfc±fdいずれの周波数におけるスペクトルでも共通である。
【0094】
以上のように構成された通信システムの動作を以下に説明する。子局装置TS1およびTS2からの送信信号x、xと親局装置における受信信号y、y、yには、数式2に記載した関係がある。
【数2】

【数3】

【0095】
これを数式3のように書き換える。ここでx、x2の列ベクトルをxとおき、y
、yの列ベクトルをyとおき、数式2右辺の3行2列の行列をHとした。親局装置の受信信号にはxとx2が混ざった信号となるので、このままでは互いに干渉して受信
できない。そこで、親局装置がHを推定し、数式4のようにHの一般化逆行列Hを両辺の左から乗ずると、HHは2行2列の単位行列に近い値となる。上記3つの受信信号yに対してHの一般化逆行列による重み付け加算を行えば、xとx2が分離されて得られ
る。つまり、所望する信号の電力と、所望しない信号すなわち干渉信号の電力の比が最少となるようにHを決定する。この信号処理はゼロフォーシング(Zero forcing)と呼ばれ
る。
【数4】

【0096】
このような、複数の伝送路により複数の信号が重畳されたものから信号を分離・復調する技術はMIMOと呼ばれ、ゼロフォーシングの他にMMSE(Minimum Mean Squared Error)など数種類の信号処理方式が知られている。MMSEを使用する場合、干渉信号電力と雑音信号電力の和に対する所望信号電力の比が最大となるよう重みづけ加算の重みを制御すればよい。また、ゼロフォーシングとMMSE以外であっても、多重伝送効果を得られる信号処理方式であれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)など他のアルゴリズムを用いても構わない。これらの信号処理方式については、例えば日本国特許庁WEBサイトで公開されている、標準技術集「MIMO(Multi Input Multi Output)関連技術」などで開示されている。
【0097】
本実施形態におけるMIMOと従来のMIMOは、以下の点で相違する。すなわち従来のMIMOによる通信では、子局装置である複数の端末と、親局装置が有する複数のアンテナによって同一周波数で空間多重伝送を行っていた。これに対し、第二の実施形態では、子局装置である複数の端末と、複数の周波数を用いて、1本のアンテナでMIMO伝送路を形成することができる。
【0098】
次に、親局装置から子局装置TS1およびTS2へ送信する場合を説明する。逆方向の通信においても、上記同様に、同一周波数において異なる端末宛の2つの信号を伝送することが可能である。以下、数式5を参照して説明する。yd1、yd2はそれぞれ、子局装置TS1、TS2での受信信号の基底帯域信号を、xd1、xd2、xd3は親局装置の周波数fc、fc+fdおよびfc−fdのスペクトルにおける送信信号の基底帯域信号を表す。
【数5】

【数6】

【0099】
はHの転置行列で、数式6はyd1、yd2、およびxd1、xd2、xd3をそれぞれ列ベクトルに書き換えたものである。そしてs、sをそれぞれ子局装置TS1、TS2に向けた送信信号の基底帯域信号とし、列ベクトルxを数式7とおくと、数式8の関係が得られる。
【数7】

【数8】

【0100】
つまり、同式の示す信号処理によりxを生成して送信すれば、子局装置側ではs、またはsの一方のみが支配的に受信できる。この場合子局装置TS1、TS2では特に信号分離のための演算は必要で無く、図8に示した周波数変換回路によりなされる。
【0101】
このように本実施形態によれば、端末装置における複雑な信号処理が不要となり、小型センサ端末などに好適な親局装置、子局装置およびそれらを用いた通信システムを提供することができる。
【0102】
(変形例)
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本発明はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうるものである。例えば、実施形態の説明では、ヌルキャリアを3本として説明したが、中心周波数よりさらに離れた位置にヌルキャリアをもう一組を設け、計5本としても構わない。また、周波数ダイバーシティを利用せず、複数の低レートキャリアを用いて別の通信を行っても構わない。
【0103】
また、シングルキャリア通信に用いるシンボルレートは、マルチキャリア通信に用いるシンボルレートの1/2である必要はなく、任意であってかまわない。
【0104】
また、上記の説明では、親局装置とマルチキャリア端末の間、および親局装置とシングルキャリア端末の間で、送受信処理を行うものとして説明したが、いずれか一方または両方において、片方向のみの通信を行うものとしてもかまわない。一例として、親局装置とマルチキャリア端末は送受信を行うが、シングルキャリア端末は親局装置に対して送信のみを行うことなどが考えられる。このような場合であっても、上記で説明したような有利な効果を奏することができる。
【0105】
また、第二の実施形態における空間多重伝送は、マルチキャリア端末を用いず、親局装置とシングルキャリア端末のみを用いて行っても構わない。このような場合であっても、子局装置である複数の端末と、複数の周波数を用いて、1本のアンテナでMIMO伝送路を形成することができる。
【0106】
また、シングルキャリア端末において、周波数変換器(ミクサ)が入力周波数をfcとして、fc+fd、fc、fc−fdの周波数を出力する構成を例として、周波数ダイバーシティ効果やMIMOの効果が得られることを説明した。しかしながら、シングルキャリア端末のミクサは、入力周波数fcに対してfc+fdとfc−fdの2つの周波数のみを出力するような構成であっても同様にダイバーシティ効果やMIMO効果を得ることができる。
【0107】
また、実施形態の説明においては、一つの親局装置が子局装置との通信を行う例を挙げたが、使用するキャリアの周波数が重複しないように制御することで、複数の親局装置と子局装置の組み合わせを互いの通信範囲内に配置することも可能である。
【符号の説明】
【0108】
B…無線通信装置(親局装置)
101…スペクトル制御部
102…アンテナ切換部
103…アンテナ
111…マルチキャリア変調信号生成部
112…シングルキャリア変調信号生成部
113…D/A変換器
114,124…増幅器
121…マルチキャリア復調部
122…シングルキャリア復調部
123…A/D変換器
TM1,TM2…マルチキャリア端末(子局装置)
TS1,TS2…シングルキャリア端末(子局装置)
301,302…ヌルキャリア
401,402…低レートキャリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯域制限されたパルス波形によって整形された複数のサブキャリアからなるマルチキャリア信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第一の通信手段と、
前記第一の通信手段とは異なる変調形式または変調定数による信号を用いて送信または受信の少なくともいずれかを行う第二の通信手段と、
を有し、
前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアの少なくとも1つを利用せずに通信を行うものであり、
前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が利用しないサブキャリアの帯域を利用して通信を行う、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記第一の通信手段が用いるサブキャリアのシンボルは、前記第二の通信手段が用いるキャリアのシンボルと非同期である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、
前記第二の通信手段は、
前記第一の通信手段が通信に用いないサブキャリアが持つ周波数帯域で同一の信号を通信するものであり、
各周波数帯域の信号を重み付けして送信するか、いずれかの周波数帯域の信号を選択して送信する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記第二の通信手段は、伝送先の端末のアンテナ入力において前記複数の周波数帯域の信号が同位相となるように、前記複数の周波数帯域の信号を重み付けして送信する、
ことを特徴とする請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記第二の通信手段は、周波数間隔が等しい3つの周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdで信号を送信する、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、
前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域の送信信号を用いて、複数の端末に送信を行うものであり、
前記複数の端末宛のデータを伝搬路特性に基づき重み付け合成して、各周波数帯域の送信信号を決定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記第二の通信手段は、前記複数の端末のアンテナ入力において、当該端末宛のデータが支配的に受信されるように重み付けして送信する、
ことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、
前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域を用いて、信号を受信するものであり、
前記各周波数帯域では、送信元から同一のデータの信号が送信されており、
前記第二の通信手段は、各周波数帯域の信号を重み付け合成して受信するか、いずれかの周波数帯域の信号を選択して受信する、
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記第一の通信手段は、前記複数のサブキャリアのうち2つ以上のサブキャリアを利用せずに通信を行うものであり、
前記第二の通信手段は、前記第一の通信手段が通信に利用しないサブキャリアが持つ周波数帯域を用いて、複数の端末からの信号を受信するものであり、
前記複数の端末はそれぞれが複数の周波数帯域で信号を送信しており、
各周波数帯域で受信される信号を、伝搬路特性に基づき重み付け合成することで、各端末から送信される信号を抽出する、
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項10】
請求項3〜5のいずれかに記載の無線通信装置の第二の通信手段から送信される複数の周波数帯域の信号を受信する受信手段と、
入力された信号を周波数変換する周波数変換手段と、
を有し、
前記受信手段によって受信された複数の周波数帯域の信号を、前記周波数変換手段によって、共通の周波数帯域に変換する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項11】
請求項5に記載の無線通信装置の第二の通信手段から送信される周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdの信号を受信する受信手段と、
入力された信号を周波数変換する周波数変換手段であって、入力信号、入力信号を周波数+fdだけ周波数変換した信号、および入力信号を周波数−fdだけ周波数変換した信号が重畳された信号を出力する周波数変換手段と、
を有し、
前記周波数変換手段によって、前記受信手段が周波数帯域fc+fd、fc、fc−fdの信号を、周波数帯域fcに重畳加算する
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項12】
親局装置と、1つまたは複数のマルチキャリア端末と、1つまたは複数のシングルキャリア端末から構成される無線通信システムであって、
前記親局装置は、
帯域制限されたパルス波形によって整形された複数のサブキャリアからなるマルチキャリア信号を用いてマルチキャリア端末と通信を行う第一の通信手段と、
前記第一の通信手段とは異なる変調形式または変調定数による信号を用い通信を行う第二の通信手段と、
を有し、
前記マルチキャリア端末は、前記親局装置の第一の通信手段と通信を行う通信手段を有し、
前記シングルキャリア端末は、前記親局装置の第二の通信手段と通信を行う通信手段を有し、
親局装置とマルチキャリア端末との間の通信では、前記複数のサブキャリアのうち少なくとも1つを利用せずに通信を行うものであり、
親局装置とシングルキャリア端末との間の通信では、親局装置とマルチキャリア端末間の通信に利用しないサブキャリアの帯域を利用して通信する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項13】
親局装置と、複数の端末から構成される無線通信システムであって、
前記親局装置は、複数の周波数帯域の信号を用いて前記複数の端末に送信を行うものであり、前記複数の端末宛のデータを伝搬路特性に基づく重み付け合成して、各周波数帯域の送信信号を決定する、送信手段を有し、
前記端末は、前記親局の送信手段から送信される各周波数帯域の信号を合成して受信する、受信手段を有する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項14】
前記親局装置の送信手段は、前記複数の端末のアンテナ入力において、当該端末宛のデータが支配的に受信されるように重み付けして送信する、
ことを特徴とする請求項13に記載の無線通信システム。
【請求項15】
親局装置と、複数の端末から構成される無線通信システムであって、
前記端末は、それぞれが複数の周波数帯域を用いて親局装置に信号を送信する、送信手段を有し、
前記複数の周波数帯域は、前記複数の端末で共通であり、
前記親局装置は、前記複数の周波数帯域で受信される信号を、伝搬路特性に基づく重み付け合成をすることで、各端末から送信される信号を抽出する、受信手段を有する、
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−90012(P2013−90012A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226208(P2011−226208)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】