説明

無線通信装置および無線通信方法

【課題】1本の漏洩ケーブルで複数系統のMIMO伝送を可能とする無線通信装置を提供する。
【解決手段】MIMO通信をするための無線通信装置100は、第1の系統の送受信信号と第2の系統の送受信信号とを含む信号を、漏洩ケーブル110の給電装置114−1および114−2を介して送受信する。漏洩ケーブル110には、スロット112−1〜112−3が設けられる。無線装置100は、給電装置114−1から受信した信号から第1の系統の受信信号を、給電装置114−2から受信した信号から第2の系統の受信信号を、それぞれ分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩ケーブルを介してMIMO(Multiple Input−Multiple Output)通信を行う無線通信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漏洩同軸ケーブルに代表される漏洩ケーブルは、高周波ケーブルに複数の小アンテナ(スロット)を設けたもので、スロットで送受信される高周波により、ケーブル沿いに連続的な無線エリアを形成可能である。
【0003】
このような漏洩同軸ケーブルによる無線通信は、たとえば、日本の東海道新幹線のデジタル列車無線にも利用されている(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0004】
あるいは、屋内を無線LANシステムで面内にカバーするための方法として、漏洩同軸ケーブルを配置する方法も提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0005】
まず、図8は、漏洩ケーブルを用いる従来の無線システム8000の構成例を示す図である。
【0006】
図8において、無線装置700の送受信ノードは漏洩ケーブル710の一端側に接続される。無線装置700に入力された信号Sは、変調、増幅などの後、漏洩ケーブル710に送出される。送出された信号は、漏洩ケーブル710を進行する途中、ケーブル710上の各スロット710−1〜710−3から空間に放射され、これら放射された信号は空間で合成されて無線装置800のアンテナ810で受信される。無線装置800の受信部は、受信信号を復調し、信号Sを再生して出力する。
【0007】
一方、無線装置800に入力された信号Tは、変調、増幅などの後、アンテナ810から送信される。アンテナ810からの信号は、漏洩ケーブル710の各スロットで受信された後、ケーブル710上を進行しつつ合成されて無線装置700の受信入力部で受信される。無線装置700の受信部は、受信信号を復調し、信号Tを再生して出力する。
【0008】
図8の構成は、一般的なSISO(Single Input-Single Outpt:同一周波数帯域で1系統の信号を送受信)の構成である。ただし、限られた周波数帯域で大量の情報を伝送する場合、特許文献1に示されるようなMIMO伝送によって、同一周波数帯域で複数系統の信号を送受信する構成も知られる。
図9は、漏洩ケーブルを用いて2×2(送信側アンテナ2本、受信側アンテナ2本)のMIMO伝送を行う従来の無線システム8100の構成例を示す図である。
【0009】
図9に示されるように、無線装置700に接続した2本の漏洩ケーブル710−1および710−2と、無線装置800に2本のアンテナ810−1および810−2を設けることで、同一周波数帯域で2系統の信号を送受信できる。図9では、無線装置700に入力された2系統の信号S1,S2は、変調、増幅などの後、漏洩ケーブル710−1,710−2を介し各スロット712−1〜712−3,714−1〜714−3より送信され、空間で合成された後、無線装置800のアンテナ810−1、アンテナ810−2で受信される。
【0010】
無線装置800の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号S1,S2を再生して出力する。一方、無線装置800に入力された2系統の信号T1,T2は、変調、増幅などの後、アンテナ810−1、アンテナ810−2から送信される。
【0011】
アンテナ810−1、アンテナ810−2からの送信信号は、空間で合成され、漏洩ケーブル710−1,710−2の各スロットに到達後、各ケーブル上を進行しつつ合成されて無線装置700の各受信入力で受信される。無線装置700の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号T1,T2を再生して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011-71704号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】杉山博之,前野博明,古田武志,丸山等,丸山久幸、足達芳昭,「東海道新幹線デジタル列車無線の開発と導入」,2010.02 日立評論,pp.36−39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、図9に示す従来のMIMO通信の構成では、送受信する系統数に等しい本数の漏洩ケーブルが必要である。
【0015】
通常のアンテナを用いる無線通信システムと異なり、漏洩ケーブルによる無線システムは、無線エリアを形成する範囲全体に渡って漏洩ケーブルを敷設する必要があるため、この本数を増やすことは設置費用を大幅に上昇させる。
【0016】
また、SISO用に敷設済みの漏洩ケーブルが存在する場合でも、これをMIMO伝送に用いるためには新たに別の漏洩ケーブルを敷設する必要があり、特に形成する無線エリアが広大あるいは長大である場合には、敷設のための追加費用は莫大なものとなる。
【0017】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、1本の漏洩ケーブルで複数系統のMIMO伝送を可能とする無線通信装置および無縁通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明の1つの局面に従うと、複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信をするための無線通信装置であって、複数の互いに異なる漏洩位置と複数の互いに異なる給電部とを有する1本の漏洩ケーブルと、複数の互いに異なる給電部と結合し、漏洩ケーブルをアンテナとして複数の系統の信号についてMIMO通信を行うための無線部とを備える。
【0019】
好ましくは、無線部は、複数の系統の信号を、それぞれ複数の互いに異なる給電部へ送出する送信部を含む。
【0020】
好ましくは、無線部は、複数の互いに異なる給電部からの入力信号から、複数の系統の信号を分離するための受信部を含む。
【0021】
好ましくは、漏洩ケーブルは、いずれかの給電部により部分に分割されるとき、該給電部は、他の給電部から漏洩ケーブルに供給された信号を通過させつつ、送信部から該給電部に送出された信号を漏洩ケーブルの両方向の部分に分配して送出し、漏洩ケーブルで受信され、部分から該給電装置に向けて進行してくる受信信号を、反対側の部分と受信部へと分配して出力する。
【0022】
この発明の他の局面に従うと、複数の系統の信号について、MIMO通信するための無線通信方法であって、複数の系統の信号から、複数の送信信号を生成するステップと、複数の互いに異なる漏洩位置と複数の互いに異なる給電位置とを有する1本の漏洩ケーブルに対して、複数の系統の送信信号を複数の互いに異なる給電位置へそれぞれ送出するステップとを備える。
【0023】
この発明のさらに他の局面に従うと、複数の系統の信号について、MIMO通信するための無線通信方法であって、複数の互いに異なる漏洩位置と、複数の互いに異なる給電位置とを有する1本の漏洩ケーブルに対して、複数の互いに異なる給電位置から複数の受信信号を入力するステップと、複数の受信信号から複数の系統の信号を分離するステップを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の無線通信装置によれば、無線装置1台あたり1本の漏洩ケーブルを使用して、MIMO通信を実現することが可能となる。
【0025】
また、無線エリアを形成する範囲全体に渡って漏洩ケーブルを敷設する際にも、漏洩ケーブルの本数を最小限とすることができ、設置費用を抑制することが可能となる。
【0026】
あるいは、既設の漏洩ケーブルを改修してMIMO通信のシステムを構築する場合でも、新たな漏洩ケーブルの敷設が不要であり、追加費用を最小限に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1の無線通信システム1000の構成を示す図である。
【図2】漏洩ケーブル110における信号の伝達状況を、伝達関数によって詳細に示した説明図である。
【図3】無線装置100の構成を説明するための機能ブロック図である。
【図4】実施の形態2の無線通信システム1100の構成を示す図である。
【図5】給電装置116の構成を示すブロック図である。
【図6】漏洩ケーブル110に給電する他の構成を示す図である。
【図7】実施の形態3の無線通信システム2000の構成を示す図である。
【図8】漏洩ケーブルを用いる従来の無線システムの構成例を示す図である。
【図9】漏洩ケーブルを用いて2×2のMIMO伝送を行う従来の無線システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の無線通信システム1000の構成を示す図である。
【0029】
図1においては、2×2のMIMO伝送を実現する構成例が示される。
【0030】
無線通信システム1000において、無線装置100の一方の系統の送信出力および受信入力は漏洩ケーブル110の一方の端点に設けられた給電装置114−1に接続され、無線装置100の他方の系統の送信出力および受信入力は漏洩ケーブル110の他方の端点に設けられた給電装置114−2に接続される。ここで、給電装置114−1および給電装置114−2は、漏洩ケーブル110へ無線装置100から送出される信号と、漏洩ケーブル110から無線装置100へ伝達される信号を分離するための装置であって、たとえば、サーキュレータなどを用いることができる。
【0031】
一方、MIMO方式の端末無線装置200は2本のアンテナ210−1および210−2を備える。ここで、端末無線装置200は、特に限定されないが、移動可能な端末であり、周知のMIMO送受信機の構成を有するものとする。
【0032】
無線装置100には、図示しない外部の装置で生成され、漏洩ケーブル110から無線送信するための情報を表す信号S1および信号S2が、供給される。特に限定されないが、たとえば、信号S1と信号S2とは、別系統のストリーム信号でありうる。
【0033】
無線装置100に入力された信号S1は、変調、増幅などの後、漏洩ケーブル110へ給電装置114−1から入力され、図1の左から右に向かって漏洩ケーブル110中を進行しながら、途中のスロット112−1,112−2,112−3より順次放射される。
【0034】
一方、無線装置100に入力された信号S2は、同様に変調、増幅などの後、漏洩ケーブル110へ給電装置114−2から入力され、図1の右から左に向かって漏洩ケーブル110中を進行しながら、途中のスロット112−3,112−2,112−1より順次放射される。
【0035】
放射された各送信信号は、空間で合成されて無線装置200のアンテナ210−1、アンテナ210−2で受信される。無線装置200の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号S1,S2を再生し出力する。
【0036】
一方、無線装置200に入力された信号T1,T2は、変調、増幅などの後、アンテナ210−1、アンテナ210−2から送信される。アンテナ210−1、アンテナ210−2からの送信信号は、空間で合成され、漏洩ケーブル110の各スロット112−1,112−2,112−3に到達する。各スロットに到達後、左側に進行しながら合成された信号は、漏洩ケーブル110の給電装置114−1から無線装置100の一方の系統の受信入力で受信される。一方、各スロットに到達後、右側に進行しながら合成された信号は、漏洩ケーブル110の給電装置114−2から無線装置100の他方の系統の受信入力で受信される。無線装置100の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号T1,T2を再生する。
【0037】
なお、本明細書においては、漏洩ケーブルの途中でスロットが設けられており、このように漏洩ケーブルにおいて、空間への電波の送出または空間からの電波の受信をする位置を「漏洩ケーブルの漏洩位置」と呼び、漏洩ケーブルに送信信号を供給し、または、漏洩ケーブルから受信信号を受けるための給電点の設けられる位置を「漏洩ケーブルの給電位置」と呼ぶ。実施の形態1では、漏洩ケーブルにこのような給電点が2つ設けられ、これらの2つの給電点間に複数の漏洩位置が存在する。そして、これら2つの給電点にそれぞれ給電装置114−1および114−2が設けられる構成となっている。
【0038】
図2は、漏洩ケーブル110における信号の伝達状況を、伝達関数によって詳細に示した説明図である。
【0039】
図2では、漏洩ケーブル110のスロット数が3の場合について示しており、図2(a)はアンテナ210−1との伝達関数を、図2(b)はアンテナ210−2との伝達関数を表している。
【0040】
また、図2では、簡単のため漏洩ケーブルからアンテナ210−1、アンテナ210−2へ向けた方向の伝達関数を示しているが、伝搬路の相反性により、アンテナ210−1、アンテナ210−2から漏洩ケーブル110への伝達関数も同様に記述できる。
【0041】
図2(a)からわかるように、給電装置114−1,114−2から入力された信号は、漏洩ケーブルのスロット112−1,112−2,112−3を介してアンテナ210−1に到達する。したがって、伝達関数hnm,kを、漏洩ケーブル110の給電装置114−nからスロット112−mを介してアンテナ210−kに到達する伝搬路の伝達係数とし、給電装置114−1からの入力信号をX1、給電装置114−2からの入力信号をX2とすれば、アンテナ210−1での受信信号Y1は式(1)で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
一方、図2(b)からわかるように、アンテナ210−2での受信信号Y2は式(2)で表される。
【0044】
【数2】

【0045】
各伝達関数hnm,kは、その伝達経路がそれぞれ異なるため独立な値をとり、その和もまた独立である。したがって、給電装置114−1,114−2からアンテナ210―1,210−2への伝達関数は、式(3)の行列によって表現できる。
【0046】
【数3】

【0047】
ただし、以下のように定義されているものとする。
【0048】
【数4】

【0049】
H11、H21、H12、H22の各要素は独立であるので、図2の構成により2×2のMIMO伝送が可能である。
【0050】
このように伝達関数の各要素が独立になるのは、漏洩ケーブルに送信信号を供給し、または、漏洩ケーブルから受信信号を受けるための給電装置114−1,114−2の間に、少なくとも複数の漏洩位置が存在するからである。
【0051】
図3は、無線装置100の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0052】
特に限定されないが、無線装置100は、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexingの略)方式の送受信装置であるものとして説明する。したがって、端末無線装置200も、周知の直交周波数分割多重方式の送受信装置とすることができる。
【0053】
図3を参照して、無線装置100は、送受共用部1010、受信部1011、送信部1021、および信号処理部1032を備えている。
【0054】
送受共用部1010は、受信部1011と送信部1021と、給電装置114−1および114−2とについて、送受信時の高周波伝送路を切り替えるためのものである。すなわち、たとえば、同一の周波数帯で送信と受信とが時分割で行われる場合は、送信タイミングと受信タイミングとで、給電装置114−1および114−2と、受信部1011または送信部1021との接続を切り替える構成を有する。また、たとえば、送受共用部1010は、送信時には、給電装置114−1から漏洩ケーブル110に入力し給電装置114−2経由で無線装置100に戻ってきた信号を終端し、同時に、逆に、給電装置114−2から漏洩ケーブル110に入力し給電装置114−1経由で無線装置100に戻ってきた信号を終端する機能を有している。なお、このような終端機能は、給電装置114−1および114−2が有していてもよい。
【0055】
さらに、同一の周波数帯で送信と受信を行うのではなく、周波数分割で送受信が行われる場合は、送受共用部1010は、送信と受信との周波数帯を分離して、受信部1011または送信部1021とを接続する構成としてもよい。
【0056】
受信部1011は、低雑音増幅部1012、周波数変換部1014、AD変換部1016を備えている。
【0057】
周波数変換部1014は、信号基準信号を発生する図示しない発振器を有し、低雑音増幅部1012で増幅された電波信号を発振器が発振する信号に基づいて、所定の中間周波数の信号に変換する。
【0058】
AD変換部1016は、周波数変換部1014から入力される信号に対して、AD変換を行う。
【0059】
なお、図3では、受信部1011は、一系統について例示的に示しているが、実際は、送受信される信号の系統数分(図3では二系統)だけ受信処理系列が設けられる。
【0060】
送信部1021は、信号処理部1032から信号に対して、DA変換を施すDA変換部1022と、DA変換部1022の出力を高周波信号までアップコンバートする周波数変換部1024とを含む。周波数変換部1024の出力が、電力増幅部1026で増幅され、送受共用部1010を経由して、給電装置114−1また114−2に送出される。送信部1021についても、送信される信号系列数分だけ送信処理系列が設けられる。
【0061】
信号処理部1032は、外部からの信号S1またはS2を、それぞれ、OFDM送信するためにシリアル・パラレル変換し、所定の方式で変調して、各系統について重みづけ処理を施す等の信号処理を行うとともに、受信した信号を分離して、それぞれ信号T1またはT2として出力するために、各系統について重みづけ処理をした後に、所定の変調方式に対応した復調処理をして、パラレル・シリアル変換等の信号処理を実行する。
【0062】
以上説明したような実施の形態1の無線通信システム1000の構成により、1本の漏洩ケーブルを使用して、MIMO通信を実現することが可能となる。
【0063】
したがって、無線エリアを形成する範囲全体に渡って漏洩ケーブルを敷設する際にも、漏洩ケーブルの本数を最小限とすることができ、設置費用を抑制することが可能となる。
【0064】
あるいは、既設の漏洩ケーブルを改修してMIMO通信のシステムを構築する場合でも、新たな漏洩ケーブルの敷設が不要であり、追加費用を最小限に抑制することが可能となる。
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2の無線通信システム1100の構成を示す図である。
【0065】
図4では、3×3のMIMO伝送を実現する構成を示す。無線装置100の3系統の送信出力および受信入力は、漏洩ケーブルの給電装置114−1、給電装置114−2および漏洩ケーブルの途中に挿入された給電装置116に接続される。無線装置200は3本のアンテナ210−1,210−2,210−3を備える。
【0066】
したがって、無線装置100は、図3に示した構成において、送受信の系統数を3となるように変更したものである。
【0067】
図4において、給電装置116は、給電装置114−1および給電装置114−2から漏洩ケーブル110に注入された送信信号を漏洩ケーブル110の反対側に通過させつつ、無線装置100からの第3の送信出力を漏洩ケーブル110の両方向に分配して送出する。さらに、給電装置116は、漏洩ケーブル110で受信され、両方向から給電装置116に向け進行してくる受信信号を反対側へ通過させつつ、これらを無線装置100の第3の受信入力へと分配して出力する。
【0068】
ここで、漏洩ケーブル110のうち、給電装置114−1と給電装置116との間の部分を漏洩ケーブル110−1と呼び、給電装置116と給電装置114−2との間の部分を漏洩ケーブル110−2と呼ぶものとする。漏洩ケーブル110−1と漏洩ケーブル110−2とは、各々、複数の漏洩位置を有する。
【0069】
図5は、図4に示した給電装置116の構成を示すブロック図である。
【0070】
図5に示される給電装置116は、「合成/分配器」を組み合わせて構成される。合成/分配器は、コンバイナあるいはディバイダの名称で知られる素子である。
【0071】
合成/分配器については、たとえば、以下の文献に開示されている。
【0072】
文献:広畑 敦「ディバイダ/コンバイナの種類と使い方」、トランジスタ技術、2004年12月号
合成/分配器にはNA、NB、NCの3端子があり、端子NAからの入力信号は端子NBおよび端子NCに分配して出力し、端子NBおよび端子NCからの入力信号はこれを合成して端子NAに出力する作用を有する。
【0073】
図5を参照して、給電装置116は、漏洩ケーブル110−1と端子NAとが結合する合成/分配器1162と、合成/分配器1162の端子NBと自身の端子NAが結合する合成/分配器1164と、合成/分配器1162の端子NCと自身の端子NBが結合する合成/分配器1168とを含む。給電装置116は、さらに、合成/分配器1164の端子NCと自身の端子NBが結合し、合成/分配器1168の端子NCと自身の端子NCとが結合する合成/分配器1170と、合成/分配器1164の端子NBと自身の端子NBが結合し、合成/分配器1168の端子NAと自身の端子NCとが結合し、自身の端子NAが漏洩ケーブル110−2と結合する合成/分配器1166とを含む。合成/分配器1170の端子NAは、サーキュレータ1172を介して、無線装置100と結合する。すなわち、無線装置100から漏洩ケーブル110−1および110−2への送信信号と、漏洩ケーブル110−1および110−2から無線装置100への受信信号とは、サーキュレータ1172により分離される。
【0074】
図5に示すように、合成/分配器1162〜1170を接続することで、無線装置100から合成/分配器1170へ供給された送信出力は左右の漏洩ケーブル110−1と110−2に分配されて出力される。一方、漏洩ケーブル110−1から給電装置116へ入力された信号は、反対側の漏洩ケーブル110−2に向けて通過するとともに、合成/分配器1170を経て無線装置100の受信入力にも分配される。漏洩ケーブル110−2から給電装置116へ入力された信号は、反対側の漏洩ケーブル110−1に向けて通過するとともに、合成/分配器1170を経て無線装置100の受信入力にも分配される。
【0075】
なお、合成/分配器には挿入、合成、分配の各損失が生じるので、内部の信号を必要に応じ増幅するなどの構成を設けてもよい。また、実施の形態1において、送信時に、漏洩ケーブル110の反対側から給電装置114−1または114−2を経由して無線装置100に戻ってくる信号と同様に、合成/分配器1170およびサーキュレータ1172を経て無線装置100の受信入力にも分配された信号は、無線装置100の送受共用部1010により終端される構成とすることができる。
【0076】
以上説明したように、図5の給電装置116を用い、図4の無線システム1100のように構成することにより、漏洩ケーブル110の両端点側から供給される送信出力は、実施の形態1と同様に、独立な伝達経路(伝達関数)で無線装置200のアンテナに到達する。さらに、給電装置116からの送信出力も、両端点側から供給される2つの送信出力とは独立な伝達経路で無線装置200のアンテナに到達するため、3×3のMIMO伝送が可能となる。受信側のMIMO伝送についても同様である。
【0077】
なお、漏洩ケーブル100の途中に複数の給電装置116を設けることにより、同様な原理で、より一般的に、N×NあるいはN×M(M、Nは自然数:N,Mは2以上)のMIMO伝送が可能である。
【0078】
以上のような構成によっても、実施の形態1と同様に、1本の漏洩ケーブルを使用して、MIMO通信を実現することができる。
【0079】
なお、実施の形態2の図4に示した例では、漏洩ケーブル110の物理的な端部に給電装置114−1および114−2が設けられている。さらに、給電装置116が漏洩ケーブルの途中に設けられ、この給電装置116は、送信については、漏洩ケーブルの一方側から進行する信号を他方側に通過させるとともに、給電装置116に供給される送信信号を、漏洩ケーブルの両方向に分配する、との機能を有する。さらに、受信については、給電装置116は、漏洩ケーブルで受信され、漏洩ケーブルの両側の部分から給電装置116に向けて進行してくる受信信号を、漏洩ケーブルの反対側の部分と無線装置100の受信部へと分配して出力する。
【0080】
ただし、漏洩ケーブルに給電装置が給電する位置は、このような構成に必ずしも限定されない。
【0081】
図6は、漏洩ケーブル110に給電する他の構成を示す図である。
【0082】
図6に示す例では、漏洩ケーブル110の物理的な両端は、終端されており、漏洩ケーブル110の途中位置に、2つの給電装置が設けられている。図6の例では、一方の終端と給電装置116−1との間には、スロット112−1、112−2が設けられ、給電装置116−1と給電装置116−2との間には、スロット112−3、112−4が設けられ、他方の終端と給電装置116−2との間には、スロット112−5、112−6が設けられる。そして、給電装置116−1、116−2には、上述したような給電装置116と同様の構成の給電装置を設置することができる。すなわち、以上のような構成でも、1つの給電装置あたり、1つの漏洩ケーブル上の複数の漏洩位置が存在することになる。
(実施の形態3)
図7は、実施の形態3の無線通信システム2000の構成を示す図である。
【0083】
図7においては、実施の形態1の図1と同様に2×2のMIMO伝送を実現する構成例を示す。
【0084】
図7では、無線装置200には、2本のアンテナに代えて、漏洩ケーブル210についての給電装置214−1および214−2を接続した構成となっている。
【0085】
ここで、漏洩ケーブル210および給電装置214−1および214−2の構成は、実施の形態1の漏洩ケーブル110および給電装置114−1および114−2の構成と同様である。
【0086】
以上のような図7の構成により、2×2のMIMO伝送を行うことができる。
【0087】
また、図4の実施の形態2のように、給電装置116を設ける構成とすれば、2×2のMIMO伝送に限られず、N×M(M、Nは自然数:N,Mは2以上)のMIMO伝送を行う構成とすることも可能である。
【0088】
このような構成によっても、無線装置1台あたり1本の漏洩ケーブルを設けるだけで済み、敷設する漏洩ケーブルの本数を抑制して、複数の信号系統の送受信を同時に実行することが可能である。
【0089】
なお、以上の説明は、無線装置100と無線装置2の間で双方向通信を行う例であったが、これに限らず、単方向通信を行う構成でもよい。また、1対1の通信を行う場合について説明したが、これによらず、1台の無線装置が複数の無線装置と通信を行う構成とすることも可能である。いずれの場合も、従来のMIMO通信の無線装置における複数のアンテナへの接続に代え、漏洩ケーブルに対する複数の給電点(端点および給電装置)に接続することによってシステムを構成する。
【0090】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
100 無線装置、110 漏洩ケーブル、112−1,112−2,112−3,112−4 スロット、114−1,114−2,116,116−1,116−2 給電装置、200 端末無線装置、210−1,210−2 アンテナ、1000 無線通信システム、1010 送受共用部、1011 受信部、1021 送信部、1032 信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信をするための無線通信装置であって、
複数の互いに異なる漏洩位置と複数の互いに異なる給電部とを有する1本の漏洩ケーブルと、
前記複数の互いに異なる給電部と結合し、前記漏洩ケーブルをアンテナとして前記複数の系統の信号についてMIMO通信を行うための無線部とを備える、無線通信装置。
【請求項2】
前記無線部は、
前記複数の系統の信号を、それぞれ前記複数の互いに異なる給電部へ送出する送信部を含む、請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記無線部は、
前記複数の互いに異なる給電部からの入力信号から、前記複数の系統の信号を分離するための受信部を含む、請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記漏洩ケーブルは、いずれかの前記給電部により部分に分割されるとき、
該給電部は、他の前記給電部から前記漏洩ケーブルに供給された信号を通過させつつ、前記送信部から該給電部に送出された信号を前記漏洩ケーブルの両方向の前記部分に分配して送出し、前記漏洩ケーブルで受信され、前記部分から該給電装置に向けて進行してくる受信信号を、反対側の前記部分と前記受信部へと分配して出力する、請求項2または3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
複数の系統の信号について、MIMO通信するための無線通信方法であって、
前記複数の系統の信号から、複数の送信信号を生成するステップと、
複数の互いに異なる漏洩位置と複数の互いに異なる給電位置とを有する1本の漏洩ケーブルに対して、前記複数の系統の送信信号を前記複数の互いに異なる給電位置へそれぞれ送出するステップとを備える、無線通信方法。
【請求項6】
複数の系統の信号について、MIMO通信するための無線通信方法であって、
複数の互いに異なる漏洩位置と、複数の互いに異なる給電位置とを有する1本の漏洩ケーブルに対して、前記複数の互いに異なる給電位置から複数の受信信号を入力するステップと、
前記複数の受信信号から前記複数の系統の信号を分離するステップを備える、無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−90044(P2013−90044A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226878(P2011−226878)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】