説明

無電解ニッケルめっき浴および無電解ニッケルめっき方法

【課題】密着性に優れためっき被膜を形成することができる無電解ニッケルめっき浴、及び、無電解ニッケルめっき方法を提供する。
【解決手段】水1Lに、次亜リン酸を110〜130g/L、硫酸ニッケルを98〜120g/L、酢酸ナトリウムを45〜60g/L、硝酸鉛を0.005〜0.025g/L、チオ尿素を0.003〜0.023g/L、リンゴ酸を70〜95g/L、さらに、pH緩衝剤として苛性ソーダを30〜50g/L溶解させて、pH4.8〜5.3に調節した無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を浸漬し、該被めっき物表面にニッケルめっき皮膜を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき浴および該無電ニッケルめっき浴を用いた無電解ニッケルめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルめっきは無電解めっきの一種であり、めっき浴に含まれる還元剤の酸化によって放出された電子により被めっき物に金属ニッケル皮膜を析出させる手法である。このように、本手法は電気めっきと異なり通電を要しないため、電気ニッケルめっきに比べて微細な部分へのめっきが容易となり、複雑形状の電気・電子部品などを被めっき物とすることができる(特許文献1〜特許文献4)。
【0003】
上記無電解ニッケルめっきのめっき浴には、酸性浴またはアルカリ浴がある。一般的に、酸性浴には、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを用いる。またアルカリ浴には、還元剤として次亜リン酸ナトリウムや水素化ホウ素化合物を用い、アルカリ源として塩化アンモニウムや水酸化ナトリウムやヒドラジンを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-280551号公報
【特許文献2】特開2008-274444 号公報
【特許文献3】特開2008-266668 号公報
【特許文献4】特開2008-248318 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の無電解ニッケルめっきにおいては、pHが高くなるとめっき浴中のリンイオンが減少し、これにより析出速度が落ちて密着性の低いめっき被膜が形成されてしまうという問題があった。また、めっき浴が高温になると、緻密なめっき膜が形成されにくく、まためっき浴自体が自然分解し易くなるため、めっき浴自体の安定性が低下してしまう問題があった。
そこで、本発明は、上記課題を解決することができる密着性に優れためっき被膜を形成することができる無電解ニッケルめっき浴、及び、該無電解ニッケルめっき浴を用いた無電解ニッケルめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであり、水1Lに、次亜リン酸を110〜130g/L、硫酸ニッケルを98〜120g/L、酢酸ナトリウムを45〜60g/L、硝酸鉛を0.005〜0.025g/L、チオ尿素を0.003〜0.023g/L、リンゴ酸を70〜95g/L溶解させたことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴である。さらに、pH緩衝剤として苛性ソーダを30〜50g/L溶解させて、pH4.8〜5.3に調節することが望ましい。
また、本発明は、上記無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を浸漬し、該被めっき物表面にシルバー色のニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とする無電解ニッケルめっき方法である。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
上記構成とすることにより、密着性に優れためっき被膜が得られる。なお、該めっき被膜は、シルバー色であり、その表面は光沢を有する鏡面となる。また、めっき浴を、pH4.8〜5.3とすると、さらにめっき被膜の密着性が向上する。使用済みのめっき浴は、水で10倍以上希釈する、又は苛性ソーダ、消石灰、生石灰のいずれかを利用してpH調整後、廃棄処理する。
【0008】
〔効果〕
本発明によれば、密着性に優れためっき被膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例における被めっき物のめっき被膜表面を撮影した電子顕微鏡写真
【図2】図1における電子顕微鏡写真とは倍率を異ならせた電子顕微鏡写真
【図3】実施例における被めっき物の密着性試験(熱衝撃試験)の成績表を示す説明図
【図4】実施例における被めっき物の密着性試験(曲げ試験)の成績表を示す説明図
【図5】曲げ試験を行った実施例における被めっき物の外観写真
【図6】曲げ試験を行った比較例における被めっき物の外観写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、めっき処理の手順を説明する。
〔無電解ニッケルめっき浴の作製〕
純水あるいは非沸騰水で満たされた普通の水1Lに、次亜リン酸を110〜130g、硫酸ニッケルを98〜120g、酢酸ナトリウムを45〜60g、硝酸鉛を0.005〜0.025g、チオ尿素を0.003〜0.023g、リンゴ酸を70〜95g、苛性ソーダを30〜50g溶解させ、当該溶液を約90℃(86℃〜93℃)に加熱しながら攪拌し、pH4.8〜5.3に調節して無電解ニッケルめっき浴を作製する。
【0011】
〔鉄板の脱脂処理〕
研磨処理した鉄板(8cm×0.3cm×10cm)を30〜35%の希塩酸水溶液に45秒〜6分間常温で浸漬して酸脱脂した後、あるいはアルカリ性溶液に1〜6分間50℃で浸漬してアルカリ脱脂を行ってから酸脱脂した後に、さらに超音波洗浄を2〜5分間行い、最後に、水洗あるいは超音波水洗、及び湯洗処理を行う。酸脱脂することにより、油分を除去することができ、被処理体である鉄板表面が電荷調整される。また、超音波洗浄を行うことにより、極めて微細な付着物、及び油分を除去できる。
【0012】
〔めっき処理〕
上記鉄板を上記無電解ニッケルめっき浴にめっき浴温度90℃で20〜60分間浸漬して、無電解めっき処理を施す。その後、めっき処理された上記鉄板を無電解ニッケルめっき浴から取り出し20分間自然乾燥あるいは電気炉内で乾燥させて、被めっき物を得る。
該被めっき物のめっき被膜は、シルバー色で光沢を有し、鏡面に近い仕上がりとなるため装飾性に優れている。また、該めっき被膜の膜厚を薄く設定しても、干渉色が表れない利点がある。さらに、該被めっき物は硬度、及び耐食性にも優れている。また、本発明の無電解ニッケルめっき浴は、ターン数に関わらず上記被めっき物を得ることができ、経済的に有利である。
【0013】
〔実施例〕
上記被めっき物を試料とし、めっき被膜の表面を電子顕微鏡にて観察した(図1,2参照)。図1は、該試料のめっき被膜は、めっき被膜表面に並んだ粒子の粒子経が小さく、かつ粒子数が少ない。このため、本発明に係る試料のめっき被膜は、緻密に形成されていることがわかる。
【0014】
上記被めっき物を試料とし、JIS H 8504に準じる熱衝撃試験によりめっき被膜の密着性試験を行った。その結果、本試料において、めっきのはく離、ふくれは認められず、密着性に優れていることがわかった(図3参照)。
【0015】
上記被めっき物を試料とし、JIS H 8504に準じる曲げ試験により、めっき被膜の密着性試験を行った。その結果、本試料において、めっきのはく離、ふくれは認められず、密着性に優れていることがわかった(図4,5参照)。
【0016】
〔比較例〕
比較例として、従来技術の亜鉛めっき処理を施した鉄板を準備し、該鉄板を当て金に固定して90°曲げた。その結果、該鉄板において、被膜がはく離した(図6参照)。
【0017】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水1Lに、次亜リン酸を110〜130g/L、硫酸ニッケルを98〜120g/L、酢酸ナトリウムを45〜60g/L、硝酸鉛を0.005〜0.025g/L、チオ尿素を0.003〜0.023g/L、リンゴ酸を70〜95g/L溶解させたことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
【請求項2】
さらに、pH緩衝剤として苛性ソーダを30〜50g/L溶解させて、pH4.8〜5.3に調節した請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を浸漬して、該被めっき物表面にシルバー色のニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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