説明

熱伝導性樹脂組成物

【課題】
熱可塑性樹脂に熱伝導率の高い充填材料を少量添加しても熱を伝える経路を効率よく形成することが可能であり、成形性を損なうことがなく、また樹脂本来の電気絶縁性を供えた熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
同一平面内あるいは異なる平面において核部と該核部から異なる2軸以上、好ましくは4軸方向に伸びた針状結晶部とからなる酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上、平均厚さが0.1μm以上の平板形状無機充填材料を熱可塑性樹脂に配合して成形して得られる熱伝導率が1.0W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物とした。ここで、核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平板形状無機充填材の配合量合計10体積%〜70体積%であり、好ましくは40体積%〜60体積%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種部品の射出成形材料として用いることが可能な熱伝導性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の小型化、高性能化にともない部品内での発熱が顕著となり、熱の蓄積による機器の性能低下が問題となっている。そこで、安全性や信頼性の観点から熱伝導性に優れた材料が求められている。従来、高い熱伝導性を必要とする材料には金属材料が用いられてきたが、部品の小型化、高性能化のため材料には軽量性や易成形加工性が要求されており、樹脂への代替が進んでいる。しかしながら、樹脂は熱伝導性が元々低く、樹脂自体の高熱伝導化には限界がある。
【0003】
熱伝導率の高い充填材料を樹脂に高充填し、樹脂組成物を高熱伝導率化する方法が行われている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂100重量部に対し、湿式法により得られた平均粒子径1〜15μmの酸化亜鉛20〜900重量部を配合した熱放散性に優れた熱可塑性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2では、液晶性高分子100重量部に対して、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、炭素繊維等の熱伝導性充填剤を5〜800重量部を配合した熱伝導性高分子成形体が開示されている。
【0004】
粒子状充填材料を樹脂に配合した場合、樹脂成形体の高熱伝導化には多量の充填材料が必要となる。充填量が多いと成形体の流動性が低下し成形加工が困難となるため、樹脂化のメリットが小さくなる。繊維状充填材料を配合した場合、繊維同士の接触確率は粒子状充填材料と比較して高く熱伝導路が形成されやすいため、粒子状充填材料より少ない充填量で高い熱伝導率が期待できる。しかしながら、射出成形により樹脂成形体を作製した場合、繊維は射出方向に平行に配向する傾向にあるため、繊維同士の接触確率は繊維がランダムに分散した場合と比較して低くなってしまう。
【0005】
フィラーの接触点を増やして熱伝導率を向上させる技術として特許文献3においてテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーとナノサイズの酸化亜鉛を組み合わせる方法が行なわれているが、どちらのフィラーも酸化亜鉛であるため、複合樹脂材料の熱伝導率は高々1.5W/m・Kであり、更には表面積が非常に大きいナノサイズのフィラーを用いると流動性が著しく低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−73651号公報
【特許文献2】特開2004−51852号公報
【特許文献3】特開2006−57064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、熱可塑性樹脂に熱伝導率の高い充填材料を少量添加しても熱を伝える経路を効率よく形成することが可能であり、成形性を損なうことがなく、また樹脂本来の電気絶縁性を供えた熱伝導性樹脂組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、同一平面内あるいは異なる平面において核部と該核部から異なる2軸以上、好ましくは4軸方向に伸びた針状結晶部とからなる酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上、平均厚さが0.1μm以上の平板形状無機充填材料を熱可塑性樹脂に配合して成形して得られる熱伝導率が1.0W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物を構成した(請求項1)。
【0009】
ここで、核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平板形状無機充填材の配合量合計10体積%〜70体積%であり、好ましくは40体積%〜60体積%であることが好ましい(請求項2)。
【0010】
更に、前記テトラポット型酸化亜鉛ウィスカーと前記平板形状無機充填材料の配合比が1:99〜50:50であり、好ましくは5:95〜40:60である(請求項3)。
【0011】
そして、前記平板形状無機充填材料の熱伝導率が20℃において10W/m・K以上であるものを用いる(請求項4)。
【0012】
更に、前記平板形状無機充填材の平均粒子径が、1μm以上50μm以下及び平均厚さが0.1μm以上50μm以下であり、平均厚さに対する平均粒子径の比が1より大きく500以下である(請求項5)。更に好ましくは、前記平板形状無機充填材の平均粒子径が、3μm以上20μm以下及び平均厚さが0.1μm以上20μm以下であり(請求項6)、前記平板形状無機充填材の平均厚さに対する平均粒子径の比が1より大きく200以下である(請求項7)。
【0013】
そして、前記平板形状無機充填材が、六方晶窒化ホウ素又は平板形状酸化アルミであるとより好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、同一平面内あるいは異なる平面において核部と該核部から異なる2軸以上、好ましくは4軸方向に伸びた針状結晶部とからなる酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上、平均厚さが0.1μm以上の平板形状無機充填材料を熱可塑性樹脂に配合して成形して得られる熱伝導率が1.0W/m・K以上、好ましくは2W/m・K以上であるので、高い熱伝導性を付与することができる。
【0015】
また、核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平板形状無機充填材の配合量合計10体積%〜70体積%であり、好ましくは40体積%〜60体積%であるので、比較的少量の熱伝導性充填材の添加によって、高い熱伝導性を付与でき、射出成形性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】窒化ホウ素の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、比較的少量のテトラポット形状の充填材及び平板形状充填材の添加によって、高い熱伝導性を付与し、射出成形性も良好なことが特徴である。
【0018】
本発明で用いる酸化亜鉛ウィスカーは、核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部を備えており、本発明の技術的思想は、四方に伸びた針状結晶部により熱を伝える経路を効率よく形成することにある。特に、平均厚さに対する平均粒子径の比(アスペクト比)の高い平板形状無機充填材料との組み合わせにより、各々を単一に充填した場合よりも高い熱伝導率を得られ、樹脂成形体においてより高い熱伝導率を達成できる。
【0019】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性充填材として、核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上の平板形状無機充填材料を熱可塑性樹脂に配合して得られ、この熱伝導性樹脂組成物を成形してペレット化し、樹脂成形材料として提供するものである。
【0020】
本発明においては、熱伝導性充填材としては、テトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上の平板形状無機充填材料が必須成分である。本発明に使用されるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカーは、核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなり、前記針状結晶部の基部の径は好ましくは0.7〜14μmであり、前記針状結晶部の基部から先端までの長さは好ましくは3〜200μmである。かかるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカーは、特開平1−252599号公報記載の方法で得られ、また、株式会社アムテックから種々のグレードが市販されている。
【0021】
通常、テトラポット状酸化亜鉛ウィスカーは、異なる平面において核部と該核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるが、一部の針状結晶部が欠損して同一平面内に2軸の針状結晶部を有するもの、あるいは3軸の針状結晶部を有するものを用いても良い。
【0022】
平板形状無機充填材料とは、平均粒子径が1μm以上50μm以下及び平均厚さが0.1μm以上50μm以下、アスペクト比が1より大きく500以下であり、好ましくは平均粒子径が3μm以上20μm以下及び平均厚さが0.1μm以上20μm以下、アスペクト比が1より大きく200以下であり、20℃において熱伝導率が10W/m・K以上のものを指すが、特に六方晶窒化ホウ素と酸化アルミで効果が高い。図1に窒化ホウ素の走査電子顕微鏡写真を示す。ここで、平板形状無機充填材料の平均粒子径とは、平面内の長軸方向の粒子径とし、厚みとは最も小さい軸方向長さとする。
【0023】
本発明の熱伝導性樹脂組成物に使用される熱可塑性樹脂とは、LCP、PBT、PEEK、PEI、PES、TPIなどの成形加工が可能な合成樹脂を指す。特に、熱可塑性樹脂として、ポリアリーレン系樹脂(PPS、LCPなど)及びポリアミド樹脂(PA6、PA12、PA66、PA9Tなど)が好適に使用できる。
【0024】
本発明においては、前記テトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び前記平板形状無機充填材料の配合量合計の樹脂成形体全体に対する体積分率は10体積%以上であることが好ましい。該配合量合計が少ないと、充填材同士の接触点が少なく熱伝導率の向上に効果的でなくなってくる。該配合量合計が多すぎると、成形加工時の流動性が低下し更に成形体が脆くなるため、該配合量合計は70体積%以下であることが好ましい。更に、充填材の配合量合計の樹脂成形体全体に対する体積分率は40体積%〜60体積%であるとより好ましい。本発明の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率は、1.0W/m・K以上、好ましくは2W/m・K以上になるように熱伝導性充填材を配合する。
【0025】
そして、前記テトラポット状酸化亜鉛ウィスカーと前記平板形状無機充填材料の配合比は、特に制限はなく広い範囲から適宜選択してよいが、好ましくは1:99〜50:50であり、更に好ましくは5:95〜40:60である。また、従来の樹脂組成物と同様に、樹脂と充填材の密着性を高めるため、充填材の表面を配合に先立ち予めシランカップリング剤等で処理して用いることができる。
【0026】
また、本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、ガラス繊維や有機繊維などの充填材、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤、染料,顔料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、界面活性剤などの通常の添加剤を1種以上添加して用いてもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものを1種以上添加して用いてもよい。
【0027】
また、本発明における配合手段は特に限定されない。熱可塑性樹脂および充填材をヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練することが好ましい。本発明の成形体にはペレット形状のものも含まれるが、本発明は、射出成形して得られる熱可塑性樹脂成形体に特に好適である。本発明の熱可塑性樹脂成形体は、照明器具やコイルボビン、リレー部品、コネクターなどの電子部品等の材料として有用なものである。
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0029】
(実施例1、2)
本実施例では熱可塑性樹脂(DIC社製PPS T−1)をマトリックスとした。そして、表1に示す組成で熱可塑性樹脂と平均粒子径10μmのテトラポット型酸化亜鉛ウィスカー(株式会社アムテック製 パナテトラWZ−0511)及び平均粒子径10μm、厚さ0.5μmの平板形状無機フィラー(水島合金鉄株式会社製 窒化ホウ素 HP−1W)とをヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)を用いて混合した。その後、2軸押出機(池貝株式会社製PCM30型)を用いて溶融混練した後、ストランドを押し出して、該ストランドを空冷後切断してペレットを得た。このペレットを130℃で3時間以上乾燥させた後、形状が100×50×3t(mm)の成形体を射出成形し、熱伝導率を熱線法(京都電子工業株式会社製 QTM500)により測定した。また、体積抵抗率を絶縁抵抗計(Agilent Technologies社製 ハイ・レジスタンス・メータ)により測定した。この結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(比較例1)
熱可塑性樹脂と平均粒子径10μmの平板形状無機フィラーとを表1に示す組成でヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、2軸押出機を用いて溶融混練した後、ストランドを押し出して、該ストランドを空冷後切断してペレットを得た。押し出しの際、吐出が安定せず、加工性が著しく低下した。
【0032】
(比較例2)
熱可塑性樹脂と平均粒子径10μmのテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーとを表1に示す組成でヘンシェルミキサーを用いて混合した。その後、2軸押出機を用いて溶融混練した後、ストランドを押し出して、該ストランドを空冷後切断してペレットを得た。20体積%より多くのテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーを充填した系では、材料の流動性が著しく低下し、射出成形が困難となり成形体を得られなかった。
【0033】
一般に、窒化ホウ素の長軸方向への熱伝導率が200W/m・Kである。比較例1において熱伝導率の高い窒化ホウ素を50体積%充填した材料の熱伝導率がせいぜい2.7W/m・Kであるのに対し、実施例1,2で示すように、比較例1の50体積%の窒化ホウ素の一部をテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーに置き換えた場合、つまり窒化ホウ素を40体積%とテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーを10体積%充填した実施例1、窒化ホウ素を45体積%とテトラポット型酸化亜鉛ウィスカーを5体積%充填した実施例2では、熱伝導率は3.2〜3.5W/m・Kという高い値となる。一方、テトラポット状酸化亜鉛ウィスカーは20体積%より多く充填した材料では、材料の流動性が著しく低下し射出成形では成形体を得られなかった。比較例2では射出成形で成形体を得られるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー20体積%充填した材料の熱伝導率を示しているが、せいぜい1.0W/m・Kと低い。テトラポット型酸化亜鉛ウィスカーの材質である酸化亜鉛の熱伝導率は25W/m・Kであることを考えると50体積%でも比較例1より高い熱伝導率にはならないことが容易に推測できる。したがって、実施例1及び2に示す熱伝導率の向上は各無機フィラーを単一に充填した場合には容易に達成できない値であると言える。これは各無機フィラーの形状が重要な役割を果たしており、実施例における無機フィラーの組み合わせにおいて効率よく熱を伝えるパスが形成され高熱伝導率を達成していると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面内あるいは異なる平面において核部と該核部から異なる2軸以上、好ましくは4軸方向に伸びた針状結晶部とからなる酸化亜鉛ウィスカー及び平均粒子径が1μm以上、平均厚さが0.1μm以上の平板形状無機充填材料を熱可塑性樹脂に配合して成形して得られる熱伝導率が1.0W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
核部から異なる4軸方向に伸びた針状結晶部とからなるテトラポット状酸化亜鉛ウィスカー及び平板形状無機充填材の配合量合計10体積%〜70体積%であり、好ましくは40体積%〜60体積%である請求項1記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記テトラポット型酸化亜鉛ウィスカーと前記平板形状無機充填材料の配合比が1:99〜50:50であり、好ましくは5:95〜40:60である請求項1又は2記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記平板形状無機充填材料の熱伝導率が20℃において10W/m・K以上である請求項1〜3何れかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記平板形状無機充填材の平均粒子径が、1μm以上50μm以下及び平均厚さが0.1μm以上50μm以下であり、平均厚さに対する平均粒子径の比が1より大きく500以下である請求項1〜4何れかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記平板形状無機充填材の平均粒子径が、3μm以上20μm以下及び平均厚さが0.1μm以上20μm以下である請求項5記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記平板形状無機充填材の平均厚さに対する平均粒子径の比が1より大きく200以下である請求項5又は6記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記平板形状無機充填材が、六方晶窒化ホウ素又は平板形状酸化アルミである請求項1〜7何れかに記載の熱伝導性樹脂組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2011−132264(P2011−132264A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274117(P2009−274117)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】