説明

熱収縮フィルム

【課題】自然収縮が小さく、且つ熱収縮量が十分な熱収縮フィルムを得る。
【解決手段】熱収縮フィルム10の熱収縮基材11上に、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12を形成させることによって、常温収縮率が1%以下である耐熱性熱収縮基材を熱収縮基材11として用いた場合にも、従来製品見本作成に使用されてきたヘアードライアなどの低出力な装置で実現できる70℃程度の温度域で、熱収縮基材11単体で発現する収縮量以上の収縮量を得ることができ、十分な収縮量を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層を備えた熱収縮フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットボトルや金属缶、ガラス瓶などの容器のラベルとして熱収縮基材が使用されている。これは、模様や情報などを印刷した熱収縮基材で容器を被い、所定の温度以上の熱をかけることによって熱収縮基材を収縮させ、容器の曲面に沿って密着装着させるものである。通常、熱収縮基材への印刷は印刷本機で印刷されるが、事前に作成する製品見本などは、色の再現範囲が広く、少量多品種生産に好適とされるインクジェットプリンターを用い、ヘアードライアの様な簡便な装置で熱収縮させて作成している。
従来、例えば、特許文献1に記載されているように、熱収縮基材上にインクジェットインクを受け止め定着させるインク受理層を設け、インクジェットプリンターでの印刷が可能になった、熱収縮フィルムが知られている。
【0003】
上記のような熱収縮フィルムで使用する熱収縮基材を選定する際、熱収縮基材固有の問題点を鑑みる必要がる。すなわち、熱収縮基材は、個別に設定された基材収縮を開始する温度(収縮開始温度、通常60℃程度)よりも低い温度域、具体的には、その物流上で暴露される温度域でもわずかに自然収縮してしまうため、使用時の寸法安定性や収縮特性が流通状態によってバラついてしまい、製品品質を一定に保つ事ができないという問題点がある。
【0004】
通常、熱収縮基材を扱う業界では、定温輸送、定温保管を実現し、上記問題点を解決する独自の流通システムを構築している。しかしながら、インクジェットプリンターで印刷が可能な熱収縮フィルムにおいては、同様の流通システムが構築されていないため、自然収縮が起きにくい耐熱性熱収縮基材を選定し上記問題点に対応する必要がある。
また、特許文献2などに記載のように、自然収縮が小さく収縮開始温度以上での収縮量が大きい熱収縮基材である耐熱性熱収縮基材の製造方法が知られているが、十分な収縮量を得るためには100℃程度の熱を付与する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−178352号公報
【特許文献2】特開2009−84377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自然収縮が起きにくい熱収縮基材にも固有の問題点がある。すなわち、自然収縮をおきにくくする弊害として、熱収縮フィルムの主用途である熱収縮の収縮量が著しく小さくなってしまうという問題点である。
また、特許文献2に記載の耐熱性熱収縮基材では、十分な収縮量を得るために、100℃程度の熱を付与する必要があり、従来製品見本作成に使用されてきたヘアードライアなどの低出力な装置では、100℃程度の高温を熱収縮フィルムに均一に付与することが難しく、十分な収縮量を得ることが困難であった。
さらに、熱収縮基材上にインクジェット受理層を形成することによって、熱収縮基材の収縮がインク受理層の剛性によって阻害され、熱収縮フィルムは更に不十分な量しか収縮量を得られない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
本適用例に係る熱収縮フィルムは、熱収縮基材上に、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層を有し、前記熱収縮基材は、温度40℃環境に30日間放置した際、前記放置前と比較して収縮率が1%以下である事を特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、熱収縮基材上に形成される樹脂層に、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層を選択することによって、温度40℃環境に30日間放置した際の収縮率が1%以下である耐熱性熱収縮基材を熱収縮基材として用いた場合にも、ヘアードライアなどで実現できる75℃程度の温度域で、熱収縮基材単体で発現する収縮量以上の収縮量を得ることが出来る。
さらに、温度40℃環境に30日間放置した際の収縮率が1%以下の熱収縮基材を用い、収縮開始温度以下の温度において、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層が耐熱性熱収縮基材の収縮量に与える影響が小さいため、物流上で暴露される温度域での自然収縮が小さくなる。これによって、使用時の寸法安定性や収縮特性が流通状態によってバラつかず、製品品質を一定に保つ事ができる。従って、定温輸送、定温保管といった特殊な流通システムを介さずに、通常のインクジェットフィルムと同様の物流システムでの運用でも、製品品質を一定に保つ事ができるという効果を得ることができる。
【0010】
[適用例2]
上記適用例に記載の熱収縮フィルムは、熱収縮基材がポリエステル系樹脂を含むことが好ましい。
【0011】
本適用例によれば、熱収縮基材がポリエステル系樹脂であるので、インクジェットプリンターで印刷する際の搬送時にフィルムが撓まないための十分な強度を持たせやすく、また、十分な透明性を確保できる。
【0012】
[適用例3]
上記適用例に記載のポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層は、インクジェットプリンターから吐出されるインクを表面に定着させることが出来る、インク受理層である事が好ましい。
【0013】
本適用例によれば、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層は、インクジェットプリンターから吐出されるインクジェットインクを受け止め、表面に定着させることが出来るインク受理層であるので、インクジェットプリンターを用いて容易に画像、情報等を表面に印刷することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】熱収縮フィルムの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る熱収縮フィルム10について、図面を参照して説明する。なお、以下の図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0016】
図1に熱収縮フィルム10の断面図を示した。
図1において、熱収縮フィルム10は、熱収縮基材11と樹脂層12とを備えており、熱収縮基材11上に樹脂層12が設けられている。
【0017】
熱収縮基材11は、温度40℃環境に30日間放置した際に最も大きく収縮する方向の収縮率(以下、常温収縮率とする)が1%以下である耐熱性熱収縮基材を用いることが好ましい。このような耐熱性熱収縮基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリスチレンのいずれか又は複数からなる樹脂製のフィルムなどを好適に用いることができる。
熱収縮基材11の常温収縮率が1%以下であると、物流上で暴露される温度域での自然収縮量が小さくなる。
【0018】
また、熱収縮基材11は、ポリエステル系樹脂を含んでいることが好ましい。
熱収縮基材11がポリエステル系樹脂を含むと、インクジェットプリンターで印刷する際の搬送時にフィルムが撓まないための十分な強度を持たせやすく、また、十分な透明性を確保できる。
【0019】
樹脂層12は、ポリウレタン樹脂を骨格に含むのが好ましい。
ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂としては、樹脂エマルジョン、或はエマルジョンと水溶性樹脂の混合物などを好適に用いることができる。
ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12を用いることによって、常温収縮率が1%以下である耐熱性熱収縮基材を熱収縮基材11として用いた場合にも、ヘアードライアなどで実現できる75℃程度の温度域で、熱収縮基材11単体で発現する収縮量以上の収縮量を得ることができる。さらに、収縮開始温度以下の温度において、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12が熱収縮基材11の収縮量に与える影響が小さいため、物流上で暴露される温度域での自然収縮が小さくなる。
【0020】
樹脂層12は、バーコーターやカンマコーターなど、従来公知の方法で熱収縮基材11上に塗付し、乾燥させることによって形成される。
樹脂層12の層厚は特に限定されないが、100nm以上、100μm以下にする事が好ましい。100nm以上にする事によって均一な塗膜形成が容易となり、100μm以下にする事によって樹脂層12をインク受理層としてインクジェットプリンターで印刷に用いる場合に、インク滴のインク受理層への着滴時の濡れ広がり等の挙動を十分に制御できる。
また、100μm以下にする事によって、樹脂層12の形成時の乾燥に掛かる時間が抑えられ、樹脂層12の形成に使用する材料の量も抑えられる。さらに、100μm以下にする事によって、樹脂層12の透明度が確保される。
【0021】
以下、実施例及び比較例によって実施形態に係る熱収縮フィルム10を詳しく説明する。
(実施例1)
熱収縮基材11として、耐熱性熱収縮基材のポリエチレンテレフタレートフィルム(シーアイ化成株式会社製のボンセット(登録商標)PTRN47B)を用いた。
樹脂層12は、ポリウレタン樹脂を骨格に含むDIC株式会社製パテラコール(登録商標)RSI−016を熱収縮基材11にワイヤーバーを使用して塗布した後、恒温槽にて80℃で5分放置させて形成した。なお、乾燥後の層厚は40μmであった。
【0022】
本実施例における熱収縮フィルム10は、例えば、75℃で加熱して使用される。そこで、本実施例の熱収縮フィルム10を最も大きく収縮する方向が長手方向になるようにA4サイズに切り出した試験片を温度75℃湿度50%の環境に7分放置した前後の、最も大きく収縮する方向の寸法変化を測定し、収縮率としての熱収縮率を算出したところ、熱収縮率は19%であった。以下、熱収縮率は同様の算出方法により求めるものとする。
また、本実施例の熱収縮フィルム10の常温収縮率は1%以下であった。
【0023】
(実施例2)
実施例1における樹脂層12の厚みを60μmとした以外は実施例1と同じ条件で作成した。
本実施例の熱収縮フィルム10の熱収縮率は22%であり、常温収縮率は1%以下であった。
【0024】
(実施例3)
実施例1における樹脂層12の構成樹脂を、ポリウレタン樹脂を骨格に含むDIC株式会社製パテラコール(登録商標)RSI−001とし、樹脂層12の厚みを30μmとした以外は実施例1と同じ条件で作成した。
本実施例の熱収縮フィルム10の熱収縮率は20%であり、常温収縮率は1%以下であった。
【0025】
(比較例1)
実施例1における、熱収縮基材11のみのフィルムを比較例1とした。
本比較例のフィルムの熱収縮率は15%であり、常温収縮率は1%以下であった。
【0026】
(比較例2)
実施例1における樹脂層12の構成樹脂を、アクリル系樹脂を骨格に含むDIC株式会社製パテラコール(登録商標)RSI−401とした以外は実施例1と同じ条件で作成した。
本比較例の熱収縮フィルムの熱収縮率は8%であり、常温収縮率は1%以下であった。
【0027】
表1に、実施例および比較例の熱収縮率(%)の評価を示した。表1には、40℃、50℃、60℃、70℃の各温度で、湿度50%の環境に7分放置した結果も合わせて示した。
【0028】
【表1】

【0029】
以上述べたように、本実施形態に係る熱収縮フィルム10によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)熱収縮フィルム10の熱収縮基材11上に、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12を形成させることによって、常温収縮率が1%以下である耐熱性熱収縮基材を熱収縮基材11として用いた場合にも、従来製品見本作成に使用されてきたヘアードライアなどの低出力な装置で実現できる70℃程度の温度域で、熱収縮基材11単体で発現する収縮量以上の収縮量を得ることができ、十分な収縮量を得ることができる。
さらに、熱収縮基材11の常温収縮率が1%以下であるため、また、収縮開始温度以下の温度において、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12が熱収縮基材11の収縮量に与える影響が小さいため物流上で暴露される温度域での自然収縮が小さくなり、これによって、寸法安定性や収縮特性が流通状態によってバラつかず、製品品質を一定に保つ事ができる。従って、定温輸送、定温保管といった特殊な流通システムを介さずに、通常のインクジェットフィルムと同様の物流システムでの運用でも、製品品質を一定に保つ事ができるという効果を得ることができる。
【0030】
(2)熱収縮基材11がポリエステル系樹脂であるので、インクジェットプリンターで印刷する際の搬送時にフィルムが撓まないための十分な強度を持たせやすく、また、十分な透明性を確保できる。
【0031】
(3)樹脂層12はインク受理層であるので、インクジェットプリンターから吐出されるインクジェットインクを受け止め、表面に定着させることによって、容易に画像、情報等を表面に印刷することが出来る。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良を加えることが可能である。
例えば熱収縮フィルム10は、熱収縮基材11とポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12との間にプライマー層、または接着層を備えてもよい。プライマー層、または接着層は、熱収縮基材11とポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12との密着性を向上させる。
また、熱収縮基材11とポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12との密着性向上の為に熱収縮基材11にコロナ放電処理当の表面改質処理を行ってもよい。
また、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層12は、インクジェットインクの吸収性、或はブロッキング防止の為に、複層構造になってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…熱収縮フィルム、11…熱収縮基材、12…樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮基材上に、ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層を有し、前記熱収縮基材は、温度40℃環境に30日間放置した際、前記放置前と比較して収縮率が1%以下である事を特徴とする熱収縮フィルム。
【請求項2】
前記熱収縮基材が、ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱収縮フィルム。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂を骨格に含む樹脂層がインクジェットプリンターから吐出されるインクを表面に定着させることが出来る、インク受理層である事を特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−111766(P2013−111766A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257163(P2011−257163)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】