説明

熱収縮性フィルム

【課題】延伸性、ガスバリア性及び熱収縮性(特に低温での熱収縮性)に優れた熱収縮性フィルムを提供する。
【解決手段】特定の構造単位(I)を有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を有する熱収縮性フィルムによって達成される。


(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキレンオキシ基、エステル基、アミド基を表し、R1がアルキレンオキシ基またはエステル基の場合は主鎖に対して炭素が結合しており、R2は置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルカンジイル基を表し、個々のR2は同じであっても異なっていてもよく、R3は水素原子または置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルキル基を表し、nは10〜100の範囲の値を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を有する熱収縮性フィルムに関し、更に詳しくは延伸性、ガスバリア性及び熱収縮性(特に低温での熱収縮性)に優れた熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食肉やその加工品等の多くは形状が不規則で大きさも不揃いであるため、この様な食品包装分野においては、熱収縮性フィルムによる包装がしばしば用いられている。このような熱収縮性フィルムには、熱収縮性に加え、食品鮮度保持のため、ガスバリア性や保香性などに優れたフィルムが望まれている。このような目的のため熱収縮性フィルムに用いられるガスバリア材として、ポリ塩化ビニリデン(以下PVDCと略記することがある)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略記することがある)等が知られている。例えば特許文献1には、PVDC、EVOHをバリア層とする多層フィルムを畜肉包装材として用い、熱収縮させることに関する記載がある。
【0003】
しかしながら、PVDCをガスバリア材として使用した場合、使用後のフィルムを焼却処理する際に塩素を含有する有害な副生物が生成するといった環境への負荷が懸念される。また、EVOHを用いた場合、高い倍率で延伸が困難であるため収縮率が必ずしも充分ではなかった。
【0004】
EVOHの延伸性を改善、あるいは熱収縮性を改良するため、従前から種々の提案がなされている。例えば特許文献2にはEVOHをエポキシ化合物類にて変性した樹脂組成物を有する多層熱収縮性フィルムが記載されている。また、特許文献3には特定の構造単位を有するEVOHを有する層の片面または両面に熱可塑性樹脂含有層を積層してなる多層シュリンクフィルムが記載されている。また、特許文献4には特定の構造単位を有するEVOHと通常のEVOHを含有する層を有する多層シュリンクフィルムが記載されている。また、特許文献5には特定の構造単位を有するEVOHと通常のEVOHを特定の割合で含む樹脂組成物からなる層を有する熱収縮性フィルムが記載されている。また、特許文献6等にはオキシアルキレン基を含有するポリビニルアルコールを製膜してなるアルカリ性物質包装用のポリビニルアルコールフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−248482号公報
【特許文献2】特開2003−231715号公報
【特許文献3】特開2006−123531号公報
【特許文献4】特開2007−261075号公報
【特許文献5】特開2008−56736号公報
【特許文献6】特開昭63−168437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2から5に記載の熱収縮性フィルムは、従来のEVOH系熱収縮性フィルムと比べて熱収縮性に優れるものの、優れた熱収縮性を得るためには90℃といった温度での収縮工程が必要であり、食肉特に生肉を包装する際には、肉の鮮度保持の観点からはより低温で収縮工程を行うことが好ましく、例えば70℃で十分な収縮性を有する熱収縮性フィルムが望まれていた。また、特許文献6等に記載のオキシアルキレン基を含有するポリビニルアルコールを製膜してなるポリビニルアルコールフィルムは、専らポリビニルアルコールの有する水溶性を利用する水溶性フィルムに関するものであり、非水溶性であるエチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムとは異なる技術分野であり、熱収縮性フィルムとしての利用に関しての記載もない。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、延伸性、ガスバリア性及び熱収縮性(特に低温での熱収縮性)に優れた熱収縮性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはかかる問題点を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を有する熱収縮性フィルムにより、延伸性やガスバリア性といった性能を損なうことなく、熱収縮性、特に従来よりも低温での熱収縮性が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記式(1)で示される構造単位(以下、構造単位(I)と称する)を0.02〜1.2モル%含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を含む熱収縮性フィルムである。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキレンオキシ基、エステル基、アミド基を表し、Rがアルキレンオキシ基またはエステル基の場合は主鎖に対して炭素が結合しており、Rは置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルカンジイル基を表し、個々のRは同じであっても異なっていてもよく、Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルキル基を表し、nは10〜100の範囲の値を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱収縮性フィルムは優れた収縮性を有しており、内容物との密着性に優れている。更には高いガスバリア性を有しているため、内容物の長期保存が可能となる。また、本発明の熱収縮性フィルムは70℃といった従来よりも低温での熱収縮工程においても十分高い収縮性を有するため、食肉特に生肉といった内容物を包装する際に、肉の鮮度を維持することが可能となる。熱収縮工程を従来よりも低温で行えることは、省エネルギーといった観点においても好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱収縮性フィルムは、特定の構造単位を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を有する。以下、本発明の熱収縮性フィルムに用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を変性EVOHと略記することがある。
【0014】
本発明の熱収縮性フィルムに用いる変性EVOHはエチレン単位と、ビニルアルコール単位と、下記式(1)で表される構造単位(I)とを含む。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキレンオキシ基、エステル基、アミド基を表し、Rがアルキレンオキシ基またはエステル基の場合は主鎖に対して炭素が結合しており、Rは置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルカンジイル基を表し、個々のRは同じであっても異なっていてもよく、Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルキル基を表し、nは10〜100の範囲の値を表す。)
【0017】
構造単位(I)において、Rが表す置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキレンオキシ基としては、メチレンオキシ基、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、トリメチレンオキシ基が挙げられる。Rが表す置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、が挙げられる。個々のRは同じであっても異なっていてもよく、異なっている場合それらはランダム状に並んでいるものもブロック状に並んでいるものも同様に使用が可能である。Rが表す置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。R、RおよびRが有していてもよい置換基としては、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。ここでR、RおよびRにおけるアルキレンオキシ基、アルカンジイル基およびアルキル基の炭素数には置換基の炭素は含まない。
【0018】
本発明の好適な実施態様では、構造単位(I)のRがメチレンオキシ基または置換されたメチレンオキシ基である。より好適な実施態様では、構造単位(I)のRがメチレンオキシ基または置換されたメチレンオキシ基であり、かつRがエチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基およびテトラメチレン基からなる群より選択される少なくとも1種である。個々のRは同じであっても異なっていてもよく、異なっている場合それらはランダム状に並んでいるものもブロック状に並んでいるものも同様に使用が可能である。さらに好適な実施態様では、構造単位(I)のRがメチレンオキシ基または置換されたメチレンオキシ基であり、かつRがエチレン基またはプロピレン基より選択される少なくとも1種である。構造単位(I)のRがメチレンオキシ基または置換されたメチレンオキシ基であり、Rがエチレン基またはプロピレン基より選択される少なくとも1種であり、かつRが水素原子、メチル基、およびn−ブチル基からなる群より選択される1種であるものが、合成に必要なモノマーが市販されており入手が容易である点において特に好ましい。
【0019】
構造単位(I)におけるnの範囲としては、10〜100であり、12〜90であることが好ましく、14〜80であることが更に好ましく、16〜60であることが特に好ましい。nが10より小さい場合および100より大きい場合のいずれにおいてもガスバリア性が低下する。
【0020】
変性EVOHが有する構造単位(I)の含有量は、該変性EVOH中のビニルアルコール単位に対して0.02〜1.2モル%の範囲であり、0.1〜1.0モル%の範囲であることが好ましく、0.2〜0.9モル%の範囲であることがより好ましい。構造単位(I)の含有量が0.02モル%より少ないと、熱収縮性の改善効果が小さく、1.2モル%より多いとガスバリア性が大きく低下し、またフィルム作成時のフィッシュアイが増大するとともに、延伸時にフィッシュアイを起点としてフィルムが破れるといった問題がある。
【0021】
変性EVOHのエチレン単位含有量は18〜44モル%の範囲であるのが好ましく、22〜42モル%の範囲であるのがより好ましく、24〜40モル%の範囲であるのがさらに好ましい。エチレン単位含有量が18モル%より少ない場合は、成形性および高湿度下でのガスバリア性が悪化する傾向となり、一方、エチレン含量が44モル%より多い場合はガスバリア性が悪化する傾向となる。
【0022】
変性EVOHの、オストワルド粘度管を用いてフェノール/水=85/15(質量比)の含水フェノール溶媒中30℃で測定した極限粘度を[η]としたとき、該極限粘度[η]は、通常、0.085〜0.135L/gの範囲であり、0.095〜0.130L/gの範囲であるのがより好ましく、0.100〜0.120L/gの範囲であるのがさらに好ましい。[η]が0.085L/gより小さい場合は機械的強度が低下する傾向となり、一方、0.135L/gより大きい場合は溶融成形時にフィッシュアイが発生しやすい傾向となる。
【0023】
変性EVOH中の構造単位(I)の含有量は0.5〜20質量%の範囲であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。構造単位(I)の含有量が0.5質量%より少ない場合は熱収縮性の改善効果が低下する傾向があり、20質量%より多い場合はガスバリア性が低下する傾向がある。
【0024】
本発明の熱収縮性フィルムに用いる変性EVOHは、エチレン、ビニルエステル単量体および下記式(2)の構造で示される化合物(以下、化合物(II)と称する)とを共重合し、ついでアルカリ触媒または酸触媒を用いてけん化することにより得られる。ビニルエステル単量体としては、例えば蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニルなどが挙げられ、通常、酢酸ビニルが好適に用いられる。また、本発明の目的が阻害されない範囲であれば、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン等を共重合した変性EVOHを用いることもできる。通常これらの共重合成分は全モノマー単位の5モル%未満である。
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R、R、Rおよびnの定義および好適な態様は式(1)の場合と同様である。)
【0027】
化合物(II)は公知技術により合成することが可能であり、市販のものを用いることもできる。市販のものとしては、例えば、ポリエチレングリコールアリルエーテル(日油株式会社製ユニオックスPKA−5004(平均分子量750)、ユニオックスPKA−5005(平均分子量1500));メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル(日油株式会社製ユニオックスPKA−5009(平均分子量550)、ユニオックスPKA−5010(平均分子量1500));ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアリルエーテル(日油株式会社製ユニセーフPKA−5011(平均分子量750)、ユニセーフPKA−5012(平均分子量2000)、ユニルーブPKA−5013(平均分子量2000));ポリプロピレングリコールアリルエーテル(日油株式会社製ユニセーフPKA−5014(平均分子量1500));ブトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアリルエーテル(日油株式会社製ユニセーフPKA−5015(平均分子量1600)、ユニセーフPKA−5016(平均分子量1600)、ユニセーフPKA−5017(平均分子量2500))などが使用できる。
【0028】
共重合反応は加圧下で行うことが通常であり、ここで加圧(重合エチレン圧)の下限値は0.05MPa以上であることが好ましく、0.1MPa以上であることがより好ましく、0.15MPa以上であることがさらに好ましい。また、加圧の上限値は10MPa以下が好ましく、7MPa以下であることがより好ましく、6MPa以下であることがさらに好ましい。
【0029】
エチレンの加圧下でエチレン、ビニルエステル単量体および化合物(II)の共重合を行う反応器としては、エチレンの圧力を保つことができる加圧系の反応器であればその形式は特に限定されず、撹拌機などについても公知の物を用いることができる。共重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、溶媒としてジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどを用いることもできる。これらを2種またはそれ以上混合して重合溶媒として用いることもできる。共重合に使用される重合開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネートなどの過酸化物系開始剤といった公知の開始剤が挙げられる。回分重合方式が採用される場合には2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)のような半減期の長い重合開始剤を用いることが好ましい。重合温度については特に制限はないが、0℃〜150℃の範囲が適当である。
【0030】
前述の、エチレン、ビニルエステル単量体および化合物(II)を共重合して得られたエチレンービニルエステル共重合体のけん化には、通常のエチレン−ビニルエステル共重合体のけん化で用いられるアルカリけん化または酸けん化の手法がそのまま適用できる。すなわち、アルカリけん化の場合は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ触媒を、酸けん化の場合には鉱酸やp−トルエンスルホン酸などの酸触媒を用いて、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール、酢酸メチルなどのエステル、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどを溶媒として用いてけん化反応を行う。エチレン−ビニルエステル共重合体や触媒の溶解性を向上するためにテトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、アセトンなどの溶媒を適宜少量混合して用いても何ら差し支えない。また、ヒドロキノンやp−メトキシフェノールなどのラジカル重合禁止剤などを添加する場合もある。けん化反応の条件は、エチレン−ビニルエステル共重合体の構造や目的とするけん化度によって適宜調整されるが、通常、触媒濃度/ビニルエステル単位濃度(モル比):0.001〜5.0、反応温度:20〜180℃、反応時間:0.1〜20時間の範囲で実施される。触媒は、けん化反応の初期に一括添加してもよいし、けん化反応の途中で追加添加してもよい。バッチ法や連続法など公知の方法が適用可能である。
【0031】
変性EVOHのけん化度は、通常70モル%以上99.99モル%未満であり、80モル%以上99.99モル%未満がより好ましく、85モル%以上99.99モル%未満がさらに好ましく、90モル%以上99.99モル%未満が特に好ましい。けん化度が70モル%より低い場合にはガスバリア性が低下する傾向がある。一方、けん化度が99.99モル%より高いEVOHは生産が難しく実用的ではない。
【0032】
前述のけん化反応で得られる変性EVOHを含む反応溶液から、変性EVOHを取り出してペレット化する方法は特に限定されない。好適には、変性EVOHを含む反応溶液を、凝固浴中にストランド状に析出させた後、該ストランドを切断することにより含水ペレットを得ることができる。析出に際しては、溶液を予め濃縮することによってけん化反応時よりも変性EVOHの濃度を上昇させておいてもよいし、溶媒の一部または全部を水で置換して、変性EVOHの水/水以外の混合溶液または変性EVOHの含水組成物としておいてもよい。これを水中、あるいはアルコールを少量含むアルコール水溶液中に押し出してストランド状に析出させてから切断することで含水ペレットが得られる。また、ストランド状に析出させずに、流動状のままで切断し、水中で凝固させてペレットを製造することもできる。
【0033】
上記のようにして得られる含水ペレットは多孔質であり、けん化反応に用いた触媒残渣を洗浄除去しやすく、その後の添加剤の添加や、乾燥操作も容易である。このような含水ペレットの含水率は、該操作上の利点から含水ペレットの全質量に対して10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
含水ペレットの洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜10時間が好ましく、1時間〜6時間がより好ましい。具体的な洗浄方法としては、ペレット状の変性EVOHを多量の水に投入して撹拌する方法、シャワー水を吹き付ける方法、塔型洗浄器を用いて連続的に洗浄する方法などが挙げられる。
【0035】
本発明の熱収縮性フィルムに用いる変性EVOHは、必要に応じてさらに以下の化合物を含有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(以下、変性EVOH樹脂と略記することがある)としても良い。
【0036】
変性EVOHがアルカリ金属元素を含有する変性EVOH樹脂であることが熱安定性の観点から好ましく、その含有量がアルカリ金属元素換算で500ppm以下であることが好ましい。アルカリ金属元素の含有量を前記範囲に調整する方法は特に限定されないが、けん化反応後の変性EVOHは、通常、けん化触媒残渣としてアルカリ金属元素を含有しているので、前記の方法を用いてけん化反応後の変性EVOHを洗浄してアルカリ金属元素を除去した後、改めてアルカリ金属元素を所定量含有させ、変性EVOH樹脂を得る方法が好ましい。変性EVOHにアルカリ金属元素を含有させる方法としては、変性EVOHをアルカリ金属元素を含む溶液に浸漬させる方法、変性EVOHを溶融させてアルカリ金属塩またはアルカリ金属元素を含む溶液と混合する方法、変性EVOHを適当な溶媒に溶解させてアルカリ金属元素を含む化合物と混合させる方法などが挙げられる。変性EVOHをアルカリ金属元素を含む溶液に浸漬する場合において、該溶液中のアルカリ金属元素の濃度は特に限定されない。また溶液の溶媒も特に限定されないが、取り扱いやすさなどの観点から水溶液であることが好ましい。変性EVOHを浸漬する際の溶液質量は、通常は乾燥時の変性EVOHの質量に対して3倍以上であり、10倍以上であることが好ましい。浸漬時間は変性EVOHの形態によってその好適な範囲は異なるが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上である。溶液への浸漬処理は特に限定されず、複数の溶液に分けて浸漬してもよく、一度に処理しても構わないが、工程の簡素化の点から一度に処理することが好ましい。塔式の装置を用いて、浸漬の処理を連続的に行うことも好適に用いられる。
【0037】
変性EVOHが遊離のカルボン酸を10〜500ppm含有する変性EVOH樹脂であることも好ましい。カルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、安息香酸、カプリン酸、ラウリン酸、グリコール酸、乳酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、マロン酸などが挙げられるが、これらの中でも、酸性度が適当であり、変性EVOH樹脂のpHを制御しやすい観点から、酢酸、プロピオン酸、乳酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。カルボン酸の含有量が500ppmを越える場合は、変性EVOH樹脂の熱安定性が悪化し、得られる成形物に着色、フィッシュアイ、縦筋などの外観不良が生じることがある。カルボン酸の含有量の上限は450ppm以下であることが好ましく、400ppm以下であることがより好ましい。一方、カルボン酸の含有量の下限は15ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
変性EVOHがリン酸化合物をリン酸根換算で1〜500ppm含有する変性EVOH樹脂であることも好ましい。リン酸化合物の種類は特に限定されず、リン酸、亜リン酸などの各種の酸やその塩を用いることができる。リン酸塩としては、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形でもよく、そのカチオン種も特に限定されないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることが好ましい。中でも、リン酸、リン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウムおよびリン酸水素2カリウムの形でリン酸化合物を含有していることが好ましく、リン酸、リン酸2水素ナトリウムおよびリン酸2水素カリウムの形でリン酸化合物を添加することがより好ましい。リン酸化合物の含有量の上限は、リン酸根換算で400ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。また、リン酸化合物の含有量の下限は、3ppm以上であることがより好ましく、5ppm以上であることがさらに好ましく、10ppm以上であることが特に好ましい。
【0039】
また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、変性EVOHはホウ素化合物を含有する変性EVOH樹脂を用いてもよい。ホウ素化合物としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などのホウ酸類;ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素化合物類などが挙げられる。ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物の中でもオルトホウ酸が好ましい。ホウ素化合物を添加する場合、その含有量はホウ素元素換算で20〜2000ppmの範囲であることが好ましく、50〜1800ppmの範囲であることがより好ましい。
【0040】
以上のように、変性EVOHは、必要に応じてカルボン酸、リン酸化合物およびホウ素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する変性EVOH樹脂であってもよいが、かかる変性EVOH樹脂を製造する方法は特に限定されない。例えば、前述のアルカリ金属元素を含有させる方法と同様の方法が採用される。
【0041】
本発明の熱収縮性フィルムに用いる変性EVOHとしては、本発明の作用効果が阻害されてない範囲で、必要に応じて各種の添加剤あるいは他の高分子化合物を配合する変性EVOH樹脂を用いることもできる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラーなどが挙げられる。添加剤の具体的な例としては次のような物が挙げられる。
【0042】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチル−ハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等。
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等。
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等。
【0043】
上記で得られた変性EVOH、好適にはペレット形状での変性EVOHを、前記処理液に接触させて変性EVOH樹脂とした後、必要に応じて脱液してから乾燥工程に供される。乾燥方法は特に限定されず、熱風を用いた流動式または静置式の乾燥方法、真空乾燥、凍結乾燥といった通常の乾燥方法に加えて、ベント付きの押出機中で溶融混練しながら乾燥させるといった方法も可能である。乾燥時の劣化を抑制できるという点では乾燥を窒素雰囲気下で行う方法も好ましく用いることができる。また、乾燥時に電磁波を照射することで乾燥速度を向上させ、短時間で乾燥するといった方法も好ましい。これらの乾燥方法を組み合わせて使用することも可能である。乾燥温度は特に限定されず、通常40〜180℃の温度が採用され、乾燥が進行するに伴って温度を上昇させることもできる。乾燥後の含水率は通常1質量%以下であり、好適には0.5質量%以下である。
【0044】
本発明の熱収縮性フィルムに用いられる変性EVOHのメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)については特に制限はないが、通常0.1〜30g/10分であり、0.3〜25g/10分であるのがより好ましく、0.5〜20g/10分であるのがさらに好ましい。変性EVOHの融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度でMFRを測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値をもって、上記190℃、2160g荷重下で測定した値とみなす。
【0045】
本発明の熱収縮性フィルムに用いられる変性EVOHを含む樹脂組成物は、実質的に変性EVOH又は変性EVOH樹脂のみからなっていてもよいし、変性EVOH又は変性EVOH樹脂と他のEVOHとのブレンド物であってもよい。他のEVOHとしては、未変性EVOH及び上述の変性EVOH以外の変性されたEVOHが挙げられる。他のEVOHとのブレンド物である場合、樹脂組成物における変性EVOHの含有量は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。変性EVOHの含有量が3質量%未満であると熱収縮性の改善効果が小さくなる虞がある。
【0046】
本発明の熱収縮フィルムは、変性EVOHを含む樹脂組成物からなる層の単層からなるフィルムでもよいが、通常はさらに変性EVOH以外の熱可塑性樹脂(T)からなる層を有する多層フィルムである。
【0047】
熱可塑性樹脂(T)として、具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどの広義のポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル系樹脂;ポリスチレン;ビニルエステル系樹脂;ポリエステルエラストマー;ポリウレタンエラストマー;塩素化ポリスチレン;塩素化ポリプロピレン;芳香族または脂肪族ポリケトン、或いはこれらを還元して得られるポリアルコール類;他のEVOH等が挙げられる。
【0048】
これらの熱可塑性樹脂の中で、ヒートシール性及び収縮性の観点からはエチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリエチレン等が、また突刺強度や耐ピンホール性等の機械強度の観点からはポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。
【0049】
このような層を含む多層体の構成に特に制限はないが、変性EVOHを含む樹脂組成物からなる層(以下、単に変性EVOH層と略記することがある)をE、その他の熱可塑性樹脂層をTとしたとき、T/E、T/E/Tなどの構成を採用することができる。また、それぞれの層の間には接着層が存在していても良い。
【0050】
かかる接着層を構成する接着性樹脂としては、種々のものを使用することができ、積層させる樹脂の種類によって一概には言えないが、不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体(上述の広義のポリオレフィン系樹脂)に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができ、具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂(T)としてポリオレフィン系樹脂を用いた場合の構成例として、ポリエチレン/接着層/変性EVOH層/接着層/ポリエチレン、ポリプロピレン/接着層/変性EVOH層/接着層/ポリプロピレン、アイオノマー/接着層/変性EVOH層/接着層/アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体/接着層/変性EVOH層/接着層/エチレン−酢酸ビニル共重合体等が好適なものとして挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂(T)としてポリアミド系樹脂を用いる場合、ポリアミド系樹脂層と変性EVOH層とが隣接する構成が好ましく用いられる。この場合、ポリアミド系樹脂層と変性EVOH層との間には接着層を含むことを妨げないが、接着層を含まない構成が好ましい。このような構成をとることで優れたガスバリア性と耐突き刺し強度が得られ、さらに変性EVOH層に代えて汎用のバリア性樹脂を用いた場合に比べ、収縮後にも優れた透明性が得られる。
【0053】
このようにポリアミド系樹脂層と変性EVOH層が隣接する場合の構成として、ポリアミド系樹脂層をNとすると、N/E/T、T/N/E/N/T、N/N/E/N/Tなどの構成が例示できる。例えば、ポリアミド/変性EVOH層/接着層/エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン/接着層/ポリアミド/変性EVOH層/ポリアミド/接着層/ポリエチレン、ポリアミド/接着層/ポリアミド/変性EVOH層/ポリアミド/接着層/ポリエチレン等が好適なものとして挙げられる。
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。なお、実施例等における「部」は、特に断りがない限り質量部を表す。
【0055】
各実施例及び比較例における物性測定、性能評価は以下の方法に従って行った。
【0056】
(1)変性EVOHのエチレン単位含有量の測定
H−NMR測定により求めた。すなわち、各合成例で得られた変性EVOHをジメチルスルホキシド(DMSO)−dに溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)を用いて80℃で測定し、エチレン単位、構造単位(I)、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位のメチレンプロトン(0.6〜2.1ppm)、およびポリアルキレンオキシド部位のプロトン(3.3〜3.6ppm)のピーク強度比よりエチレン単位含有量を算出した。
【0057】
(2)変性EVOHのけん化度の測定
H−NMR測定により求めた。すなわち、各合成例で得られた変性EVOHをDMSO−dに溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)を用いて80℃で測定し、ビニルエステル単位の側鎖部位プロトン、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15〜4.15ppm)のピーク強度比より算出した。
【0058】
(3)変性EVOH中の構造単位(I)の含有量の測定
変性EVOHの前駆体である変性エチレン−ビニルエステル共重合体のH−NMR測定により求めた。共重合反応で得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体を含む反応溶液の一部をサンプリングし、アセトンに溶解/n−ヘキサンに析出させる操作を3回行った後、80℃の水により3回洗浄し、60℃で減圧乾燥して、分析用変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得た。該共重合体をクロロホルム−d(CDCl)に溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)を用いて室温で測定し、変性エチレン−ビニルエステル共重合体のビニルエステル単位のメチンプロトンとポリアルキレンオキシド部位のプロトン(3.0〜3.8ppm)のピーク強度比より算出した。
【0059】
(4)延伸性評価
各実施例及び比較例で作成した単層及び多層の二軸延伸フィルム(延伸原反)を用いて、東洋精機製パンタグラフ式二軸延伸機にて80℃で30秒間予熱後に延伸倍率4×4倍で同時二軸延伸を行い、得られた延伸フィルムの外観について目視により延伸ムラ、偏肉の有無を観察し、以下の基準に従って延伸性を評価した。
判定:基準
A:延伸ムラ、偏肉が認められず、外観良好
B:延伸ムラ、偏肉が若干認められるものの、使用可能
C:延伸時にフィルムが破断
【0060】
(5)酸素透過速度の測定
単層又は多層の二軸延伸フィルムを、20℃、65%RHで1週間調湿した後、モダンコントロール社製MOCON−OXTRAN2/20型を用いて、20℃、65%RHの条件下でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定(n=2)し、その平均値からバリア層の厚みを20μに換算した値として求めた。
【0061】
(6)高温での収縮率の測定
上記にて作成した延伸フィルムを10cm×10cmにカットし、ASTM−D2732に準じて90℃の熱水に10秒浸漬して熱収縮させ、面積収縮率(%)を下記のように算出した。
面積収縮率(%)={(S−s)/S}×100
:90℃の熱水に浸漬させる前のフィルムの面積
:90℃の熱水に浸漬させた後のフィルムの面積
【0062】
(7)低温での収縮率の測定
上記にて作成した延伸フィルムを10cm×10cmにカットし、ASTM−D2732に準じて70℃の温水に10秒浸漬して熱収縮させ、面積収縮率(%)を下記のように算出した。
面積収縮率(%)={(S−s)/S}×100
:シュリンク前のフィルムの面積
:シュリンク後のフィルムの面積
【0063】
<合成例1>
(1)ジャケット、撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に酢酸ビニルを83.4kg、メタノールを0.3kg、ポリプロピレングリコールアリルエーテル(ユニセーフPKA−5014:日油株式会社製、平均分子量1500、R=メチレンオキシ基、R=プロピレン基、R=水素原子、n=24.9)を3.05kg仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.1MPaとなるようにエチレンを導入した。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.5g/L溶液(以下、開始剤メタノール溶液と略することがある)を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温度を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液362mLを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽内圧力を5.1MPaに、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて1120mL/時間で開始剤メタノール溶液を連続添加して重合を実施した。4時間後に重合率が30%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した後、共重合により化合物(II)が導入された変性エチレン−酢酸ビニル共重合体にメタノールを添加して15質量%メタノール溶液とした。
【0064】
(2)ジャケット、攪拌機、窒素導入口、蒸気冷却器及び溶液添加口を備えた400L反応槽に上記で得た変性エチレン−酢酸ビニル共重合体の15質量%メタノール溶液100kgを仕込んだ。この溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウムの濃度が10質量%のメタノール溶液を80g/分の速度で1時間添加した。その後、前述の水酸化ナトリウムメタノール溶液を300g/分の速度でさらに1時間添加した。水酸化ナトリウムメタノール溶液の添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間撹拌してけん化反応を進行させた。その後酢酸を3.5kg添加してけん化反応を停止した。得られた変性EVOH懸濁液を遠心脱液機(株式会社コクサン製 H−130M)により脱液し、内容物をドラム缶に移した。ここに純水160kgを加えて撹拌し、これを再び遠心脱液機に移して脱液した。この操作を5回繰り返すことにより洗浄し、60℃で24時間乾燥させることで変性EVOHの粗乾燥物を得た。
【0065】
(3)ジャケット、攪拌機および還流冷却器を備えた攪拌槽に上記で得た変性EVOHの粗乾燥物4.2kg、水0.3kgおよびメタノール2.9kgを仕込み、85℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径2mmの孔を有する金型を通して5℃に冷却した水/メタノール=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることで変性EVOHの含水ペレットを得た。得られた変性EVOH−1含水ペレットの含水率をハロゲン水分計(METTLER TOLEDO製 HR73)で測定したところ、56質量%であった。
【0066】
上記で得た変性EVOHの含水ペレット3.5kgをメタノール(浴比20)に投入し、2時間撹拌洗浄した後遠心脱液機により脱液した。脱液後の含水ペレットを0.1質量%の酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄しては脱液する操作を2回繰り返し、更に水(浴比20)に投入して、2時間撹拌洗浄しては脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、けん化反応時の触媒残渣の除去された、変性EVOHの含水ペレットを得た。該含水ペレット3.2kgを酢酸ナトリウム濃度0.71g/L、酢酸濃度0.53g/Lの水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させた後遠心脱液機により脱液し、80℃で3時間、120℃で10時間乾燥させることで、ナトリウムを含有した変性EVOH樹脂(EVOH−1)を得た。
【0067】
(4)上記(1)において得られた変性エチレン−酢酸ビニル共重合体メタノール溶液を少量サンプリングし、エバポレータによりメタノールを除去した。残留物にアセトンを加えて溶解させ、このアセトン溶液をn−ヘキサンに投入して変性エチレン−酢酸ビニル共重合体を析出させた。この操作を3回繰り返すことで不純物を除去し、真空下、60℃で乾燥させることで変性エチレン−酢酸ビニル共重合体の乾燥品を得た。得られた共重合体について上述の方法に従って構造単位(I)の含有量を算出したところ、0.21モル%であった。また、上記(3)で得られたEVOH−1について上述の方法に従って分析を行ったところ、エチレン単位含有量は38モル%、けん化度は99.96モル%であった。
【0068】
<合成例2〜合成例11>
合成例1(1)における酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、化合物(II)の種類及び仕込み量、反応槽圧力、開始剤メタノール溶液の初期投入量及び逐次添加量を表1に示すように変更した以外は合成例1(1)と同様の操作により変性エチレン−酢酸ビニル共重合体の15質量%メタノール溶液を得た。その後合成例1(2)〜(3)と同様の操作により得られた変性EVOH樹脂(EVOH−2〜EVOH−11)について、合成例(4)と同様にして分析を行った。EVOH−2〜EVOH−11の分析結果を表1に併せて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
<実施例1>
合成例1で得たEVOH−1を用いて、下記の単軸押出機にて下記に示した成形条件で単層製膜を行い、厚み100μmの単層フィルム(延伸原反)を作成した。
(押出機)
単軸押出機(PLABOR GT−40−A)
口径 40mmφ、L/D 24、スクリュー 一条フルフライトタイプ
ダイス 550mmコートハンガーダイ、リップ間隙 0.3mm
(成形条件)
温度設定:供給部/圧縮部/計量部/ダイス
= 170℃/190℃/210℃/220℃
スクリュー回転数:20rpm
吐出量:5kg/時
冷却ロール温度:80℃
引取り速度:10m/分
【0071】
得られた単層フィルムを用いて、上述の方法により延伸性の評価を実施したところ、二軸延伸後のフィルム外観は延伸ムラや偏肉が認められず良好な外観でA判定となった。延伸後のフィルムについて、上述した条件により測定した酸素透過速度は1.3cc/m・day・atmであった。また、上述した方法により高温及び低温での収縮率を測定したところ、それぞれ80%と75%であった。
【0072】
次に、アイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル製「ハイミラン1652」)、接着性樹脂(三井化学製「アドマーNF500」)及びEVOH−1を用いて、下記の共押出装置にて下記に示した成形条件で共押出を行い、3種5層の多層シート(層構成:アイオノマー樹脂層/接着性樹脂層/変性EVOH層/接着性樹脂層/アイオノマー樹脂層 = 100μ/50μ/50μ/50μ/100μ)を作成した。
(共押出成形装置)
単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所 GT−32−A、アイオノマー樹脂用)
口径 32mmφ、L/D 28、スクリュー 一条フルフライトタイプ
単軸押出機(株式会社テクノベル SZW20GT−20MG−STD、接着性樹脂用)
口径 20mmφ、L/D 20、スクリュー 一条フルフライトタイプ
単軸押出機(東洋精機株式会社 ラボ機ME型CO−EXT、EVOH用)
口径 20mmφ、L/D 20、スクリュー 一条フルフライトタイプ
フィードブロック方式
ダイス 300mm幅3種5層用(株式会社プラスチック工学研究所)
(成形条件)
温度設定:供給部/圧縮部/計量部/ダイス
= 170℃/190℃/210℃/220℃(アイオノマー樹脂用)
170℃/190℃/210℃/220℃(接着性樹脂用)
170℃/190℃/210℃/220℃(EVOH用)
スクリュー回転数:80rpm(アイオノマー樹脂)
100rpm(接着性樹脂)
70rpm(EVOH)
吐出量:8.5kg/hr(アイオノマー樹脂)
2.4kg/hr(接着性樹脂)
1.5kg/hr(EVOH)
冷却ロールの温度:50℃
引取速度:2m/min.
【0073】
得られた多層シートを用いて、上述の方法により延伸性の評価を実施したところ、二軸延伸後のフィルム外観は延伸ムラや偏肉が認められず良好な外観でA判定となった。延伸後のフィルムについて、上述した条件により測定した酸素透過速度は1.3cc/m・day・atmであった。また、上述した方法により高温及び低温での収縮率を測定したところ、それぞれ72%と65%であった。
【0074】
<実施例2〜8>
EVOH−1に代えて表2に示すEVOHを用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層フィルム及び多層フィルムを作成し、各種評価を行った。結果を表2に併せて示す。
【0075】
<比較例1>
EVOH−1に代えてエチレン含有量38モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL H171B」)を用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層フィルム及び多層フィルムを作成しようとしたが、単層及び多層フィルムいずれも延伸中にフィルムが破れてしまい4×4倍の延伸を行うことができなかったため、酸素透過速度及び収縮率の評価を行うことができなかった。
【0076】
<比較例2>
EVOH−1に代えてエチレン含有量32モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL F171B」)を用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層フィルム及び多層フィルムを作成しようとしたが、単層及び多層フィルムいずれも延伸中にフィルムが破れてしまい4×4倍の延伸を行うことができなかったため、酸素透過速度及び収縮率の評価を行うことができなかった。
【0077】
<比較例3>
EVOH−1に代えてEVOH−9を用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層及び多層フィルムを作成し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
<比較例4>
EVOH−1に代えてEVOH−10を用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層フィルム及び多層フィルムを作成しようとしたが、単層及び多層フィルムいずれも延伸中にフィルムが破れてしまい4×4倍の延伸を行うことができなかったため、酸素透過速度及び収縮率の評価を行うことができなかった。
【0079】
<比較例5>
EVOH−1に代えてEVOH−11を用いた以外は実施例1と同様にして二軸延伸された単層及び多層フィルムを作成し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
<実施例9>
エチレン含有量38モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL H171B」)を80質量部とEVOH−7を20重量部の割合でドライブレンド後二軸押出機にて溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして二軸延伸された単層及び多層フィルムを作成し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
<実施例10>
エチレン含有量38モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL H171B」)を50質量部とEVOH−1を50重量部の割合でドライブレンド後二軸押出機にて溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして二軸延伸された単層及び多層フィルムを作成し、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0082】
<比較例6>
エチレン含有量38モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL H171B」)を80質量部とエチレン含有量32モル%の市販EVOH(株式会社クラレ製「EVAL F171B」)を20重量部の割合でドライブレンド後二軸押出機にて溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして二軸延伸された単層フィルム及び多層フィルムを作成しようとしたが、単層及び多層フィルムいずれも延伸中にフィルムが破れてしまい4×4倍の延伸を行うことができなかったため、酸素透過速度及び収縮率の評価を行うことができなかった。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、熱収縮性、特に70℃といった低温での熱収縮性に優れ、かつガスバリア性、製造時の熱安定性に優れた熱収縮性フィルムが提供され、食品特に生肉といった鮮度維持のために低温での処理が望まれる内容物はもとより、医薬品、工業薬品、薬品、農薬、電子部品、機械部品などの包装材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される構造単位(I)をビニルアルコール単位に対して0.02〜1.2モル%有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物からなる層を有する熱収縮性フィルム。
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数3以下のアルキレンオキシ基、エステル基、アミド基を表し、Rがアルキレンオキシ基またはエステル基の場合は主鎖に対して炭素が結合しており、Rは置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルカンジイル基を表し、個々のRは同じであっても異なっていてもよく、Rは水素原子または置換基を有していてもよい炭素数4以下のアルキル基を表し、nは10〜100の範囲の値を表す。)
【請求項2】
上記構造単位(I)において、Rがメチレンオキシ基または置換されたメチレンオキシ基である請求項1に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
上記構造単位(I)において、Rがエチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基およびテトラメチレン基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
上記構造単位(I)において、Rがエチレン基およびプロピレン基より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項5】
上記構造単位(I)において、Rが水素原子、メチル基、およびブチル基からなる群より選択される1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体中の構造単位(I)の含有量が0.5〜20質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項7】
さらに上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の熱可塑性樹脂(T)からなる層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱収縮性フィルムからなる食肉用シュリンクバッグ。

【公開番号】特開2012−207054(P2012−207054A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71473(P2011−71473)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】