説明

熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびその製造方法

【課題】ラベルとしてPETボトル等に被覆させる際の溶剤接着性が良好で、且つ、これを収縮させてボトルに装着させた場合におけるミシン目開封性が良好で、静電気によるトラブルの発生が抑制された熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】エチレンテレフタレートを主たる構成ユニットとし、所定量の非晶性モノマー由来のユニットを含有するポリエステル系樹脂からなる熱収縮性ポリエステル系フィルムで、少なくともその片面には特定のアニオン系帯電防止剤が存在しており、所定条件下におけるフィルム主収縮方向と直交する方向の破断伸度5%以下の試験片数が25%以下、溶剤接着強度が2N/15mm以上15N/15mm以下、溶剤耐浸透指数が0.2N/15mm以下、95℃の温水中における主収縮方向の温湯収縮率が50%以上80%以下、フィルムの主収縮方向と直交する方向の引裂伝播抵抗比が3.5以上6.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶やPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる延伸フィルム(所謂、熱収縮性フィルム)が使用されるようになってきている。これらの熱収縮性フィルムの内、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスが発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。
【0003】
それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加する傾向にある(特許文献1,2など)。
【特許文献1】特開平9−239833号公報
【特許文献2】特開平7−138388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主収縮方向と直交する方向(すなわち、長手方向)については、ほとんど延伸されていないため、ラベルとしてPETボトル等に収縮させて被覆させた場合に、ラベルをミシン目に沿ってうまく引き裂くことができない(すなわち、ミシン目開封性が悪い)、という不具合がある。
【0005】
また、従来のポリエステル系のフィルムは絶縁体であることから、静電気が発生・蓄積し易いといった問題もあった。静電気は加工時のトラブル、例えば、製造工程や、印刷、接着、その他の二次加工工程などにおいて、フィルムがロールに巻き付いたり、フィルムと接触した人体へショックを与えるなど、フィルムの取り扱いを困難にし、作業効率を低下させる要因となる。また、所謂印刷ヒゲの発生、ラベルとした後の開口性不良やフィルム表面の汚れの原因になるなど、商品価値の低下をもたらすといった問題があった。
【0006】
これらの状況に着目して、本発明では、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムが有する問題点を解消し、ラベルとしてPETボトル等に収縮させて被覆させた場合におけるミシン目開封性が良好で、静電気によるトラブルの発生が抑制された熱収縮性ポリエステル系フィルムとその製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得た本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムとは、エチレンテレフタレートを主たる構成ユニットとし、全ポリエステル樹脂成分中、非晶性モノマー由来のユニットが15モル%以上であるポリエステル系樹脂からなる熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、厚みが25μm以上60μm以下であり、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムの少なくとも片面には、炭素数10〜20のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤が存在していると共に、下記要件(1)〜(5)を満たすところに特徴を有する。
(1)フィルムを30℃、相対湿度85%の雰囲気下で672時間以上保管した後、主収縮方向と直交する方向について引張試験を行った場合に、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の25%以下である、
(2)フィルムの表面と裏面とをテトラヒドロフランにより溶剤接着させて1時間経過した後の接着強度が2N/15mm以上15N/15mm以下である、
(3)所定枚数重ねたフィルム上に1,3−ジオキソランを滴下した後、その滴下部分に、所定枚数のフィルムを重ねフィルム積層物とし、このフィルム積層物を所定時間に亘って所定の圧力で圧縮した後に、1,3−ジオキソランを滴下したフィルムとその下に位置するフィルムとの接着強度、および、1,3−ジオキソラン滴下したフィルムに重ね合わせたフィルムとその上側に位置するフィルムとの接着強度を測定した場合に、それらの2つの接着強度がいずれも0.2N/15mm以下である、
(4)95℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における主収縮方向の温湯収縮率が50%以上80%以下である、
(5)フィルムの主収縮方向と直交する方向の引裂伝播抵抗比が3.5以上6.0以下である。
【0008】
前記非晶性モノマー成分が、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸よりなる群から選ばれる1種を主成分とするものであるのが好ましい。
【0009】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、コア層と、当該コア層の両面にスキン層が積層された積層構造を有するものであるのが好ましい。前記コア層を構成するポリエステル系樹脂原料は、上記スキン層を構成するポリエステル系樹脂よりも低い極限粘度(IV)を有する原料からなるものであるのが好ましく、さらに、前記コア層を構成するポリエステル系樹脂原料に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率は、上記スキン層を構成するポリエステル系樹脂原料に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率よりも低いものであることが推奨される。
【0010】
本発明の製造方法とは、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するための方法であって、ポリエステル系樹脂原料を押出機から溶融押出しすることにより未延伸シートを形成するシート化工程と、シート化工程で得られた未延伸シートを、少なくとも横方向に延伸する延伸工程とを含み、前記シート化工程が、下記要件(a)〜(f)を満たすところに特徴を有している。
【0011】
(a)極限粘度(IV)の異なる2種以上のポリエステル系樹脂を、共押出法により複数の押出機から溶融押出しし、IVの低い樹脂からなるコア層と、IVの高い樹脂からなるスキン層とを積層した未延伸シートを形成する工程である、
(b)前記コア層に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率が、前記スキン層中の非晶性モノマー由来のユニットの比率より低いものである、
(c)押出機のホッパに供給されるポリエステル系樹脂チップの水分率が10ppm以上50ppm以下である、
(d)各押出機のスクリューを冷却しながら行うものである、
(e)押出機の予熱温度が200℃以上270℃以下であり、各押出機のコンプレッションゾーンの温度が290℃以上310℃以下である、
(f)前記コア層押出し用の押出機の温度が、スキン層押出し用の押出機の温度より高く、且つ、その差が5℃以上15℃以下である。
【0012】
前記ポリエステル系樹脂原料としては、IVの異なる2種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を含み、ポリエチレンテレフタレート系樹脂のIVの内、最大のIVと最小のIVとの差を0.04dl/g以上0.13dl/g以下とすることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造する方法には、前記未延伸シート、または、一軸延伸されたポリエステル系フィルムの少なくとも片面に、炭素数10〜20のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤を含有する塗布液を塗布した後、この塗布フィルムを二軸延伸または一軸延伸する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、PETボトル等の非被覆物等に収縮させて被覆させた際のミシン目開封性が良好である。また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、溶剤によって表裏面(あるいは同面同士)を接着させた際の接着力がきわめて高く、さらには制電性にも優れているので、PETボトル等のラベルを始めとする各種被覆ラベル等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成ユニットとし、全ポリエステル樹脂成分中、非晶性モノマー由来のユニットが15モル%以上であるポリエステル系樹脂からなる熱収縮性ポリエステル系フィルムである。まず、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを構成するポリエステルについて説明する。
【0016】
[ポリエステルについて]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、多価カルボン酸と多価アルコールからなるポリエステルを原料として用いるもので、これを構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物等などが挙げられる。
【0017】
本発明で使用するポリエステルを構成する多価カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸およびそのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体としては、上記芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、ジアリールエステル等の誘導体を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。さらに、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸を、必要に応じて併用してもよい。
【0018】
この他、多価アルコール類、多価カルボン酸類ではないが、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン類を一部使用することもできる。ラクトン類は、開環して両端にエステル結合を有するユニットとなるものであり、1つのラクトン類由来のユニットが、カルボン酸成分であり、かつ、アルコール成分であると考えることができる。よって、ラクトン類を用いる場合、多価アルコール成分の量は、多価アルコール成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%として計算する。また、各多価カルボン酸成分の量を計算する際も、多価カルボン酸成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%とする。
【0019】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成ユニットとする。「主たる」というのは、ポリエステルを構成する全ユニット100モル%中、50モル%以上であることを意味する。なお、エチレンテレフタレートユニットは、フィルムの耐破れ性、強度、耐熱性等に寄与する成分であり、本発明では、熱収縮性ポリエステル系フィルムの構成ユニット100モル%中、エチレンテレフタレートユニットが50モル%以上となるように選択する。エチレンテレフタレートユニットは、55モル%以上であるのが好ましく、より好ましくは60モル%以上である。
【0020】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに含まれるエチレンテレフタレートユニット以外の好ましい構成ユニットとしては、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニットおよび/またはテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットであり、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、非晶質成分となり得るものが好適に用いられる。非晶質成分を含むことで、エチレンテレフタレートユニットに由来する高結晶性を低下させられるので、フィルムの熱収縮特性と、耐破れ性および溶剤接着性をバランスよく向上させることができる。なお、具体的なエチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニットとは、非晶性モノマー成分として例示した上記多価カルボン酸成分と、例えばエチレングリコールとからなるエステルユニットであり、テレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットとは、非晶性モノマー成分として例示した上記多価アルコール成分と、例えばテレフタル酸とからなるエステルユニットを意味する。
【0021】
非晶質成分となり得る非晶性モノマー成分としては、多価カルボン酸成分では、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、多価アルコール成分では、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオールが好ましいものとして挙げられる。これらの中でも、多価アルコールでは、ネオペンチルグリコールあるいは1,4−シクロヘキサンジメタノール、多価カルボン酸ではイソフタル酸が好ましい。特に好ましいのは、ネオペンチルグリコールあるいは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0022】
かかる非晶性モノマー由来のユニットは、全ポリエステル樹脂成分中において15モル%以上であるのが好ましい。より好ましくは15.3モル%以上であり、さらに好ましくは15.5モル%以上である。なお、溶剤接着性の観点からは、少なくともフィルムの表面となる層を構成するポリエステル原料の一部に、上記好ましい非晶質成分を含むポリエステルを用いることが望ましい。好ましくは非晶性モノマー由来のユニットの比率は26モル%以下であり、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは23モル%以下である。
【0023】
本発明で使用するポリエステル原料の極限粘度は、当該ポリエステルから形成されるフィルムの極限粘度(IV)が0.62dl/g以上となるように選択するのが好ましい。フィルムの極限粘度が0.62dl/g以上であれば、フィルムの耐破れ性を確保することができ、印刷加工や溶剤接着加工時の破断等のトラブルや不良の発生を低減することができるからである。
【0024】
また、本発明では、熱収縮性ポリエステル系フィルムのポリエステル原料として、通常のポリエステル原料にリサイクル原料(PETボトル等のリサイクル原料)を混合してもよい。なお、一般的に、リサイクル原料は、フィルムの極限粘度を低下させる傾向がある。したがって、リサイクル原料を使用する場合には、フィルムの極限粘度が0.62dl/g以上となるように、リサイクル原料以外の他のポリエステル原料を選択するのが好ましい。具体的には、溶融押出しによる極限粘度の低下を考慮すれば、他のポリエステル原料の極限粘度は0.68dl/g以上であるのが好ましく、より好ましくは0.70dl/g以上、さらに好ましくは0.72dl/g以上である。なお、フィルムとしての極限粘度のより好ましい下限は0.63dl/gであり、さらに好ましくは0.64dl/gである。
【0025】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル系樹脂は、常法により溶融重合することによって製造できる。重合方法としては、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、多価カルボン酸のメチルエステル体と多価アルコールとをエステル交換反応させた後に重縮合する、いわゆるエステル交換法、その他の公知の重合方法の内から任意の重合方法を選択することができる。重合触媒としては、慣用の触媒が使用でき、たとえばチタン系触媒(チタニウムテトラブトキシド等)、アンチモン系触媒(三酸化アンチモン等)、ゲルマニウム系触媒(二酸化ゲルマニウム等)、コバルト系触媒(酢酸コバルト等)等が挙げられる。
【0026】
また、上記ポリエステル系樹脂の中には、滑剤として微粒子を添加してもよい。滑剤や微粒子を含むことで、当該ポリエステル系樹脂を用いて製造されたフィルムの滑り性が向上し、フィルムを製造する際の作業性が良好となる。微粒子としては任意のものを選択することができるが、無機系微粒子としては、たとえば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等を挙げることができる。また、有機系微粒子としては、たとえば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択すればよい。さらに、必要に応じて各種の添加剤、たとえば、ワックス類、酸化防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0027】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの少なくとも片面(好ましくは両面)には、炭素数10〜20のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤が存在している。特定のアニオン系帯電防止剤が存在することにより、フィルムの表面固有抵抗値が小さくなり、制電性が良好となるため、フィルムの二次加工時などにおいて種々のトラブルの原因となる静電気の発生・蓄積が抑制される。
【0028】
上記アニオン系帯電防止剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール酸化エチレン付加体の硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などの硫酸及びスルホン酸誘導体などのうち、炭素数が10〜20のアルキル基を有するものが挙げられる。より具体的にはアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩などで、炭素数10〜20のアルキル基を有するものが挙げられる。中でも、ドデシルスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネートなどが好適なものとして挙げられる。
【0029】
本発明において、炭素数10以上20以下のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤を用いるのは、フィルム加工時(フィルム製造時および二次加工時)において、該フィルムが熱を受けた場合にも、帯電防止剤がフィルム表面から飛散・消失してしまうことを抑制し、帯電防止効果をより確実に確保するためである。炭素数が上記範囲に満たないと、フィルム加工時に受ける熱によって、フィルムから飛散・消失する割合が極めて大きくなり、帯電防止剤による効果が十分に得られない場合がある。他方、炭素数が上記範囲を超えると、帯電防止効果が不十分になり、帯電防止剤を使用することによる効果が十分に得られない場合がある。なお、アニオン系帯電防止剤の炭素数は、12以上18以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム表面における上記アニオン系帯電防止剤の存在量は、0.001〜0.5g/m2であることが好ましい。アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を下回ると、帯電防止効果を十分に確保できないことがある。他方、アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を超えると、フィルムの透明性や耐ブロッキング性が低下することがある。
【0031】
尚、フィルム表面の制電性を良好に保つ観点からは、フィルムの表面固有抵抗値は13Ω・cm以下であるのが好ましい。より好ましくは12Ω・cm以下であり、さらに好ましくは11Ω・cm以下である。
【0032】
[要件(1)]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、当該フィルムを30℃、相対湿度85%の雰囲気下で672時間(28日間)保管した後、フィルムの主収縮方向(最大収縮方向)と直交する方向(直交方向)について引っ張り試験を行った場合に、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の25%以下であることが必要である(以下、この値を初期破断率という)。初期破断率とは、上記条件で保管した後、複数のフィルム試験片について、主収縮方向に直交する方向についての引張試験を、試験片長さ200mm、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件下で行ったときに、破断伸度5%以下の試験片数が、全試験片数の内のどれだけあるかという比率(百分率)のことである。この初期破断率が25%を超えると、フィルムを長期保管した後に加工した場合に、フィルムの耐破れ性の低下により、破断等のトラブルや不良が発生し易くなる。当該初期破断率は、20%以下であると好ましく、15%以下であるとさらに好ましい。初期破断率を25%以下とするためには、前述のフィルムの極限粘度を0.62dl/g以上とすると共に、フィルムの分子配向を一定の高い範囲内でコントロールすることが好ましい。フィルムの分子配向の指標としては、主収縮方向における熱収縮応力値(たとえば、後述する90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力)を利用することができ、その熱収縮応力値が所定範囲内の数値となるようにコントロールするのが好ましい。なお、フィルムの分子配向(熱収縮応力)を制御するには、延伸倍率・延伸温度を適正な条件として、適正な延伸応力で製膜する方法を好適に用いることができる。
【0033】
[要件(2)]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、後述する方法に従って測定される溶剤接着強度が2N/15mm以上である。溶剤接着強度が2N/15mm未満であると、このフィルムから形成されたラベルが熱収縮した後に溶剤接着部から剥れ易くなるので好ましくない。なお、溶剤接着強度は、4N/15mm以上であるとより好ましく、6N/15mm以上であると特に好ましい。溶剤接着強度は高いほど好ましいが、現段階では、当該溶剤接着強度の上限は、製膜装置の性能上から15N/15mm程度が限界であると考えている。
【0034】
[要件(3)]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、所定枚数のフィルムを重ねたフィルム積層物の最上面のフィルムに、1,3−ジオキソランを滴下し、しかる後に、その滴下部分上に、所定枚数のフィルムを重ね合わせ、それらのフィルムの積層物を所定時間に亘って所定の圧力で圧縮した後に、1,3−ジオキソランを滴下したフィルムとその下側に位置したフィルムとの接着強度、および、1,3−ジオキソランを滴下したフィルムに重ね合わせたフィルムとその下側に位置したフィルムとの接着強度を測定した場合に、それらの2つの接着強度(以下、当該接着強度を溶剤耐浸透指数と、当該特性を溶剤の耐浸透性と言う場合がある)が、いずれも0.2N/15mm以下であることが必要である(詳しい測定方法については後述する)。溶剤耐浸透指数が0.2N/15mm未満であると、2枚のフィルムを溶剤接着させてラベルとする際に、不必要なフィルムに接着されてしまう事態が起こるため、ラベルの生産効率が著しく低下するので好ましくない。なお、溶剤耐浸透指数は低いほど好ましく、引張試験機で数値として検出されない0(N/15mm)であるのが最も好ましい。
【0035】
[要件(4)]
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、95℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの主収縮方向の熱収縮率(95℃の温湯収縮率)が、50%以上80%以下であることが必要である。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)…式1
【0036】
95℃における主収縮方向の温湯熱収縮率が50%を下回ると、収縮量が小さ過ぎるために、熱収縮後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくなく、反対に、95℃における主収縮方向の温湯収縮率が80%を上回ると、ラベルとして用いる場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなったり、いわゆる「飛び上がり」が発生してしまう場合があるので好ましくない。なお、95℃における主収縮方向の温湯収縮率は、53%以上であると好ましく、56%以上であるとより好ましく、59%以上であるとさらに好ましい。また、95℃における主収縮方向の温湯収縮率は、75%以下であると好ましく、70%以下であるとより好ましく、65%以下であるとさらに好ましい。
【0037】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、95℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから上式1により算出されるフィルムの主収縮方向と直交する方向(以下、単に直交方向という)の温湯収縮率が、0%以上15%以下であると好ましい。
【0038】
95℃における直交方向の温湯収縮率が0%未満であると(すなわち、収縮率が負の値)、ボトルのラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができないので好ましくない。一方、95℃における直交方向の温湯収縮率が15%を上回ると、ラベルとして用いる場合に、熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、95℃における直交方向の温湯収縮率は1%以上であると好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましく、17%以下であると好ましく、13%以下であるとより好ましく、11%以下であると特に好ましい。
【0039】
[要件(5)]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの主収縮方向と直交する方向の引裂伝播抵抗比が3.5以上6.0以下である。直交方向の引裂伝播抵抗比が3.5未満であると、ラベルとして使用した場合に、ミシン目に沿って真っ直ぐに引き裂きにくいので好ましくない。反対に、直交方向の引裂伝播抵抗比が6.0を上回ると、ミシン目とはずれた位置で裂け易くなるので好ましくない。なお、直交方向の引裂伝播抵抗比の3.7以上であると好ましく、3.9以上であるとより好ましく、4.1以上であるとさらに好ましい。また、直交方向の引裂伝播抵抗比の上限は、5.8であると好ましく、より好ましくは5.6以下であり、さらに好ましくは5.4以下である。
【0040】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力が3MPa以上20MPa以下であると好ましい。90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力が3MPaを下回ると、ボトルのラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得難い場合があるので好ましくなく、反対に、90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力が20MPaを上回ると、ラベルとして用いた場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力の下限値は、4MPaであるとより好ましく、5MPa以上であるとさらに好ましく、6MPa以上であると特に好ましい。また、90℃に加熱したときの主収縮方向の収縮応力の上限は18MPaであるとより好ましく、16MPa以下であるとより一層好ましく、14MPa以下であるとさらに好ましく、12MPa以下であると特に好ましい。
【0041】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、示差走査熱量測定(DSC)において融点測定時の吸熱曲線のピークが検出されないことが好ましい。フィルムを構成するポリエステルを非晶性とすることで、融点測定時の吸熱曲線のピークはより発現しにくくなる。融点測定時の吸熱曲線のピークが発現しない程度まで高度に非晶化することにより、溶剤接着強度と共に、熱収縮率や最大熱収縮応力値が高められるので、これらのフィルムの特性を前述の好ましい範囲内に制御することが容易となる。
【0042】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、25μm以上60μm以下であるのがよい。たとえば、ラベル用途に用いる場合には、全体の厚みを30μm以上50μm以下とすることが推奨される。加えて、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを積層構造のものとする場合には、各層の厚みは特に限定されないが、それぞれ10μm以上とすることが好ましい。
【0043】
[フィルムの製造方法]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸シートを形成し、その未延伸シートを所定の方法により延伸することによって得られる。
【0044】
上記ポリエステル系樹脂原料を溶融押し出しする際には、ポリエステル系樹脂原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。このようにポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しシート状に押し出す方法を採用するのが好ましい。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法が採用できる。
【0045】
なお、上述した種々の特性を備えたフィルムを得る観点からは、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは多層構成の積層フィルムとするのが好ましい。かかる積層フィルムの製造には、複数の押出機によって溶融させた樹脂原料を共押出しする方法(所謂、共押出法)が好適に用いられる。また、この際、原料樹脂の一部としてリサイクル原料を用いる場合には、各層を構成する樹脂原料において、リサイクル原料とそれ以外のポリエステル系樹脂原料の量を適宜調整するのが好ましい。なお、PETボトルリサイクル原料等のリサイクル原料としては、公知の方法で洗浄、粉砕されたチップ状のものを用いるのが好ましい。
【0046】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸シートが得られる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法が好適に採用できる。なお、回転ドラム上にキャストして急冷固化させる場合には、上記押出機と回転ドラムとの間に電極を配設し、電極と回転ドラムとの間に電圧を印加し、静電気的にフィルムを回転ドラムに密着させる方法を採用すると、フィルムの厚み斑が低減されるので好ましい。
【0047】
上述のように、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造においては、従来公知の方法が採用できるが、特に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルにおける引き裂き性や熱収縮特性を確保する観点からは、上記シート化工程が下記要件を満足することが望ましいことを本発明者らは見出した。以下に、その要件について、説明する。
【0048】
[熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい製造方法(シート化工程)]
上述のように、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを主原料とするものである。通常、ポリエチレンテレフタレートを主原料とするフィルムは、ラベルにした場合に、ミシンに沿って引き裂いて開封する際の引き裂き性が良くない。このような熱収縮性ポリエステル系フィルムの欠点を改善すべく、本発明者らが研究開発を行った結果、ポリエチレンテレフタレート系樹脂から熱収縮性フィルムを製造する際に、IVの低いポリエチレンテレフタレート原料(以下、単に低IV−PET原料という)を大量に加えると、上記した引き裂き性を改善し得ることを見出した。ところが、低IV−PET原料を大量に加えると、溶剤接着性、収縮仕上がり性の悪化や、初期破断率の増加等の好ましくない現象が発生することも明らかとなった。
【0049】
これらの知見から、本発明者らは、低IV−PET原料に加える非晶性成分の種類と量を調整することによって、引き裂き性、溶剤接着性、収縮仕上がり性がいずれも良好な熱収縮性フィルムを得ることができないか検討した。しかしながら、単層の熱収縮性フィルムでは、良好な引き裂き性、溶剤接着性、収縮仕上がり性および初期破断特性をバランス良く発現させるには限界があった。そこで、出願人らは、単層の熱収縮性フィルムではなく、低IV−PET原料からなる層(以下、単に低IV層という)と高IV−PET原料からなる層(以下、単に高IV層という)とを積層した積層フィルムとすることによって、低IV−PET原料を加えた熱収縮性フィルムの溶剤接着性、収縮仕上がり性、初期破断率を改善できるのではないかと考え、鋭意検討を行った。
【0050】
検討当初は、低IV層と高IV層とを積層すると十分な熱収縮特性が得られないのではないかという懸念もあったが、低IV層と高IV層との積層方法、積層態様と積層フィルムの引き裂き性、溶剤接着性、収縮仕上がり性、初期破断特性との関係を詳細に調べた結果、当初の予測に反し、低IV層と高IV層とを積層した場合には、収縮特性に加成性が成り立つことが明らかとなった。そして、以下に示す特定の方法(共押出法)で低IV層と高IV層とを積層することにより、低IV層の特性を高IV層で補うことが可能となり、良好な引き裂き性とともに、良好な溶剤接着性、収縮仕上がり性、低い初期破断率という相反する特性を同時に満たし得ることが判明した。また、そればかりではなく、特定の方法で低IV−PET原料からなる層と高IV−PET原料からなる層とを積層することにより、耐溶剤浸透性(溶剤突き抜け性)や短時間での接着強度が飛躍的に向上することも判明した。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを効率良く製造するための製膜方法について説明する。
【0051】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためには、シート化工程において、以下の(a)〜(f)の手段を講じることが必要である。かかる手段を講じることにより、良好な引き裂き性、良好な溶剤接着性、収縮仕上がり性、低い初期破断率を同時に満たし、他に不具合のない熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。
(a)層構成の調整
(b)コア層およびスキン層における非晶質成分比率の調整
(c)原料チップ中の水分率の調整
(d)押出機のスクリューの冷却
(e)押出機の予熱部およびコンプレッションゾーンの温度の調整
(f)コア層形成用押出機およびスキン層形成用押出機の温度調整
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0052】
(a)層構成の調整
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためには、IVの異なる2種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を共押出法により複数の押出機から溶融押出しする際に、フィルムの層構成を、IVの低い樹脂を含むコア層とし、その両面に、IVの高い樹脂を含むスキン層を積層した積層構造にする必要がある。このような積層構造とすることにより、低IV−PETが本来有する良好な溶剤接着性と、高IV−PETの有する良好な収縮仕上がり性、低い初期破断率とを同時に発現させることが可能となる。なお、フィルムの層構成は、IVの低い樹脂を含むコア層の両面に、IVの高い樹脂を含むスキン層を積層したものであれば、スキン層は複数の層からなる積層構造を有するものであっても良い。
【0053】
なお、コア層とスキン層とに同程度のIVを有する原料樹脂を使用してもよく、かかる場合は、より高いIVを有する原料樹脂を含む層スキン層と、あるいは、より低いIVを有する原料樹脂を含む層をコア層とすればよい。また、各層を構成する原料樹脂が2種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を含む場合、ポリエチレンテレフタレート系樹脂のIVの内、最大のIVと最小のIVとの差は0.04dl/g以上0.13dl/g以下とするのが好ましい。より好ましくは0.05dl/g以上0.12dl/g以下であり、さらに好ましくは0.06dl/g以上0.11dl/g以下である。なお、ポリエチレンテレフタレート系樹脂とは、原料チップ中におけるエチレンテレフタレートユニット量が50モル%以上のものを意味する。
【0054】
(b)コア層およびスキン層における非晶質成分比率の調整
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためには、コア層中の非晶性モノマー由来のユニット量を、スキン層中の非晶性モノマー由来のユニット量の比率よりも低くなるようにする必要がある。コア層中の非晶性モノマー由来のユニット量の比率が多いと、溶剤接着加工した後に、浸透ブロッキングが起こり易くなるので好ましくない。
【0055】
なお、コア層に含まれる非晶質モノマー由来のユニットの比率は、フィルム全体における非晶質モノマー由来のユニット量に対して、8〜12モル%、より好ましくは7〜11モル%とするのが好ましい。
【0056】
(c)原料チップ中の水分率の調整
本発明法においては、シート化工程において、各押出機のホッパに供給する前のポリエステル系樹脂原料チップの水分率を10ppm以上50ppm以下に調整する必要がある。チップの水分率が50ppmを超えると、得られたフィルムの機械強度が劣るものとなる等の不具合が生じるので好ましくなく、反対に、チップの水分率が10ppmを下回ると、製造時に延伸しにくくなるので好ましくない。なお、原料チップ中の水分率の調整には、上述した各種乾燥機が使用できる。
【0057】
(d)押出機のスクリューの冷却
本発明法に係るシート化工程においては、各押出機のスクリューを冷却する必要がある。押出機のスクリューを冷却しない場合には、非晶質成分を含むポリエステルチップがスクリューフィード部に粘着し、正常な押出しができなくなる等の不具合が生じる場合があるので好ましくない。スクリューの冷却方法は特に限定されないが、スクリュー内部に、冷却水を循環させるなどの方法が容易であるので好ましい。
【0058】
(e)押出機の予熱部分およびコンプレッションゾーンの温度の調整
さらに、本発明法にかかるシート化工程においては、各押出機の予熱部分の温度を200℃以上270℃以下に調整し、各押出機のコンプレッションゾーンの温度を290℃以上310℃以下に調整する必要がある。各押出機の予熱部分の温度が200℃未満270℃超の場合には、ポリエステル系原料樹脂チップの滑りによる喰い込み不良やスクリューへの粘着等によって正常な押出しができなくなる等の事態が生ずることがあるので好ましくない。また、各押出機のコンプレッションゾーンの温度が290℃未満310℃超の場合には、未溶融樹脂の吐出や、押出機内で原料樹脂が熱劣化が進行する等の不具合が生じるので好ましくない。
【0059】
(f)コア層形成用押出機およびスキン層形成用押出機の温度調整
加えて、本発明法に係るシート化工程においては、コア層押出し用の押出機の温度を、スキン層押出し用の押出機の温度より高くし、且つ、その差を5℃以上15℃以下とする必要がある。このようにコア層の押出温度をスキン層の押出温度より高くし、かつ、それらの押出温度の差が5℃以上15℃以下とすることで、押出モータの負荷が増大する等の不具合の発生が防止でき、正常な押出しを実施できるからである。
【0060】
上記した(a)〜(f)の手段のうち、いずれかのみが、フィルム(ラベル)の引き裂き性、良好な溶剤接着性、収縮仕上がり性、低い初期破断率に有効に寄与するわけではなく、(a)〜(f)の手段を組み合わせて用いることにより非常に効率的に、上記特性を同時に満たし、他に不具合のない熱収縮性ポリエステル系フィルムが得られるものと考えられる。
【0061】
次いで、上記シート化工程を経て得られた未延伸シートに対して延伸処理を施す。延伸処理は、上記回転ドラム等による冷却後、連続して行っても良いし、冷却後、一旦ロール状に巻き取り、その後に行うことも可能である。なお、未延伸シートをフィルムの横(幅)方向に延伸し、主収縮方向をフィルムの横(幅)方向とすることが、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの生産効率面から最も実用的であるので、以下においては、主として、主収縮方向を横方向とする場合の延伸方法について説明する。なお、主収縮方向をフィルムの縦(長手)方向とする場合も、下記方法における延伸方向を90゜変更すること等により、主収縮方向をフィルム横方向とする場合の延伸操作に準じて延伸することができる。
【0062】
横延伸は、Tg−20℃〜Tg+40℃の範囲内の所定温度で行い、延伸倍率を2.3〜7.3倍、好ましくは2.5〜6.0倍とするのが好ましい。また、横延伸した後には、50℃〜110℃の範囲内の所定温度で、0〜15%の伸張あるいは0〜15%の緩和を施しながら熱処理し、必要に応じて40℃〜100℃の範囲内の所定温度で再度熱処理をするのが好ましい。なお、横延伸後のフィルムの厚み斑を低減させるには、横延伸工程に先立って予備加熱工程を行うことが好ましく、この予備加熱工程では、熱伝達係数が0.00544J/cm2・sec・℃(0.0013カロリー/cm2・sec・℃)以下となるように、フィルム表面温度がTg+0℃〜Tg+60℃の範囲内のある温度になるまで低風速で加熱を行うことが好ましい。
【0063】
上記横延伸工程においては、フィルム表面温度の変動を小さくすることのできる設備を使用することが好ましい。すなわち、延伸工程には、延伸前の予備加熱工程、延伸工程、延伸後の熱処理工程、緩和処理、再延伸処理工程等が含まれるが、特に、予備加熱工程、延伸工程および延伸後の熱処理工程において、任意ポイントにおいて測定されるフィルムの表面温度の変動幅が平均温度±1℃以内となるように調整するのが好ましく、平均温度±0.5℃以内に調整するとさらに好ましい。フィルムの表面温度の変動幅が小さいと、フィルム全長に亘って同一温度で延伸や熱処理されることになり、熱収縮挙動やその他の物性が均一化するためである。フィルム表面温度の変動を小さくできる設備としては、たとえば、フィルムを加熱する熱風の風速を制御するためのインバーターにより風速の変動を抑制できる設備や、熱源に500kPa以下(5kgf/cm2以下)の低圧蒸気を使用した熱風の温度変動を抑制できる設備等を挙げることができる。
【0064】
また、フィルムの延伸方法としては、テンターで横一軸に延伸する方法ばかりでなく、縦方向に1.0倍〜4.0倍、好ましくは1.1倍〜2.0倍の延伸を加える方法を採用することも可能である。このような二軸延伸を行う場合は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれをも採用することができ、必要に応じて、再延伸を行ってもよい。また、逐次二軸延伸する場合には、延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式も採用することができる。なお、フィルムに縦方向の延伸を施す場合には、横延伸と同様に、予備加熱工程、延伸工程等において、フィルム表面温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。
【0065】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その表面に特定のアニオン系帯電防止剤が存在している。フィルム表面に上記アニオン系帯電防止剤を存在させる方法としては、フィルム表面に帯電防止剤を含む塗布液を塗布する方法(塗布法)、フィルムを形成する原料樹脂に帯電防止剤を練り込み、これを用いて製膜する方法(練り込み法)があるが、本発明においては、上記塗布法を採用することが好ましい。
【0066】
通常、練り込み法を採用したフィルムでは、該フィルム内部から帯電防止剤が表面に滲み出ることによって帯電防止効果が発揮される。しかしながら、ポリエステル系フィルムの場合、一般に、ポリエステルのガラス転移温度が高いため、常温付近の温度ではフィルム表面に帯電防止剤が滲み出しにくいことが多く、帯電防止効果が不十分となる傾向にある。また、ポリエステル系フィルムは製膜温度が比較的高く、さらにポリエステルの有する極性基の反応性が高いこともあって、帯電防止剤が原料樹脂に配合されていると、製膜時にポリエステルの劣化が促されて物理的性質の低下が引き起こされたり、着色したりすることがある。
【0067】
これに対し、塗布法であれば、帯電防止剤をフィルム表面に直接存在させるため、ポリエステルのガラス転移温度の高さによらず帯電防止効果が有効に発揮され、また、帯電防止剤の導入によるフィルム劣化や着色なども防止できる。
【0068】
本発明に係るフィルム表面に帯電防止剤を含む塗布液を塗布するタイミングは特に制限されず、溶融押出後・延伸前の未延伸シートに塗布してもよく、延伸後のフィルム(一軸延伸後あるいは二軸延伸後)のフィルムに塗布してもよい。
【0069】
フィルムに塗布する塗布液には、溶剤として炭素数1〜3の低級アルコールと水の混合溶剤を用いることが好ましい。炭素数1〜3の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールなど、水と任意の割合で混合し得るものが好適である。炭素数が多いアルコール(炭素数4〜18)は、塗布液を調製する際に水と相分離してしまい、このような塗布液を用いると塗布斑が生じ易くなるため好ましくない。ただし、相分離を起こさない程度であれば、炭素数が多い高級アルコールを炭素数1〜3の低級アルコールと併用しても構わない。
【0070】
上記の低級アルコールの使用量は、塗布液中、10質量%以上とすることが好ましい。低級アルコール量が10質量%未満の場合には、塗布液の表面張力が大きくなってフィルムへの濡れ性が低下し、塗布斑が生じ易くなる。また、理由は不明であるが、塗布液をフィルム表面に塗布した後、乾燥して得られる熱収縮性フィルムにおいて、急激な温湿度変化が生じた場合に、フィルムの透明性が低下して実用性が損なわれることがある。
【0071】
また、塗布液中の低級アルコール量は60質量%以下であることが好ましい。低級アルコール量が60質量%を超える場合には、塗布液中の有機溶剤量が多くなることとなる。したがって、フィルム製造工程中(溶融押出後、延伸前の未延伸シート)に塗布液を塗布する場合に、爆発の危険性が生じるために防爆対策を講じる必要がある。なお、低級アルコールと同時に、より炭素数の多いアルコールを併用する場合には、塗布液中のアルコールの総量を60質量%以下とすることが推奨される。
【0072】
上記塗布液の塗布によるフィルム表面のアニオン系帯電防止剤の存在量は、0.001〜0.5g/m2であることが好ましい。より好ましくは0.1g/m2以下であり、さらに好ましくは0.01g/m2以下である。アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を下回ると、帯電防止効果が十分に確保できない場合がある。他方、アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を超えると、フィルムの透明性や耐ブロッキング性が低下することがある。
【0073】
[ラベルの製造方法]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを熱収縮性ラベルとするには、たとえば、収縮前の熱収縮性フィルムを、温度・湿度を制御した環境内に所定時間保管した後に取り出し、公知のチューブ状成形装置を用いて、フィルム片端の片面の端縁から少し内側に接着用溶剤を所定幅で塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着し、チューブ状に加工し、そのチューブを所定長さに裁断して熱収縮性ラベルとする方法等が好適に採用できる。
【0074】
ラベルを形成する際のフィルムの接着は、フィルムの一部を溶融させる溶融接着法を採用してもよいが、ラベルの熱収縮特性の変動等を抑制する観点からは、溶剤を用いた溶剤接着法を採用することが好ましい。この際、使用可能な溶剤としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;フェノール等のフェノール類;テトラヒドロフラン等のフラン類;1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;等の有機溶剤が挙げられるが、これらの中でも、安全性の高い1,3−ジオキソランやテトラヒドロフランを用いるのが望ましい。上記の如く形成された熱収縮性ラベルは、PETボトル等の容器に装着した後、公知の熱収縮手段(熱風トンネルやスチームトンネル等)で熱収縮させれば、容器に被覆させることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。なお、本実施例で用いる「ppm」は質量基準である。また、実施例および比較例で得られたフィルムの物性の測定方法は、以下の通りである。
【0076】
[フィルム組成]
フィルムを、クロロホルムD(ユーリソップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーリソップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に溶解させて、試料溶液を調製し、NMR(「GEMINI−200」;Varian社製)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液のプロトンのNMRを測定した。得られたチャートから、所定のプロトンのピーク強度に基づいてフィルムを構成する成分の構成比率を算出した。
【0077】
[極限粘度]
試料(チップまたはフィルム)0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒に溶解した後、オストワルド粘度計で30±0.1℃で測定した。極限粘度[η]は、下式(Huggins式)によって求められる。
【0078】
【数1】

【0079】
ここで、ηSPは、比粘度、tは、オストワルド粘度計を用いた溶媒の落下時間、tは、オストワルド粘度計を用いたチップ溶液の落下時間、Cは、チップ溶液の濃度である。なお、実際の測定では、Huggins式においてk=0.375とした下記近似式で極限粘度を算出した。
【0080】
【数2】

ここで、ηrは、相対粘度である。
【0081】
[初期破断率]
30℃、相対湿度85%の雰囲気下で672時間(28日間)保管した後の熱収縮性ポリエステル系フィルムの主収縮方向に直交する方向について、JIS K 7127に準じて引張試験を行った。なお、当該引張試験は、試験片長さ200mm、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張り速度200mm/分の条件で行い、試験片数は20とした。そして、伸度5%以下で破断した試験片数を計数し、全試験片(20個)に対する百分率(%)を求めて初期破断率(%)とした。
【0082】
[溶剤接着強度]
10cm×10cmのフィルム表面に、当該フィルムの中央部において、フィルムの主収縮方向に直交する方向平行に、1,3−ジオキソランを塗布量3±0.5g/m2、塗布幅3cmで塗布し、この溶剤塗布面に他のフィルムの裏面が接するように2枚のフィルムを重ねて貼り合わせた。フィルムの貼り合わせから1時間経過した後、貼り合わせ部が中央となるようにして、フィルムの長さ(フィルム主収縮方向)50mm、幅15mmの測定試料を切り出し、これを万能引張試験機(STM−50、(株)ボールドウィン社製)にセットし、引張速度200mm/分の条件で90°ピール試験を行った。一方のフィルムから他方のフィルムが剥離したときの引張強度を溶剤接着強度とした。
【0083】
[溶剤耐浸透指数]
フィルムを裁断してサイズ5cm×5cmの試料を10枚調製し、ロール巻内面(延伸フィルムを巻き取る際に芯部側となる面)が上方になるように5枚積み重ねた(下側試料フィルム1〜5)。重ねたフィルムの一番上の中央部(下側フィルム5)に、1,3−ジオキソランを1滴(約18μl)滴下し、直ちに、その上にロール巻内面が上方になるように5枚の試料を積み重ね(上側試料フィルム6〜10、上側試料フィルム6が下側試料フィルム5と接する)、全体をアルミホイルで包んで密封した。次いで、2kgの荷重を加えた状態で、40℃で24時間保管した後、開封し、溶剤が浸透した枚数を確認した上で、上下それぞれ1枚目と2枚目(すなわち、1,3−ジオキソランが滴下された下側試料フィルム5とその下方の下側試料フィルム4、上側試料フィルム6と7)との接着強度を上記溶剤接着強度と同じ方法で測定し、下記の基準で評価した。
○:接着強度が0.2N/15mm未満
△:接着強度が0.2N/15mm以上0.5N/15mm未満
×:接着強度が0.5N/15mm以上
【0084】
[95℃温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、95℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後、試料の縦および横方向の長さを測定し、下式1に従って熱収縮率(%)を算出した。最も収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
熱収縮率(%)={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100…式1
【0085】
[引裂伝播抵抗比]
フィルムから、主収縮方向51mm×直交方向64mmの試料と、主収縮方向64mm×直交方向51mmの試料の2種類を切り出し、これら2種類の試料を引き裂く際の各抵抗値を、JIS P 8116に準じて、東洋精機株式会社製の軽荷重引裂器を用いて測定し、得られた測定値を、主収縮方向、直交方向それぞれの引裂伝播抵抗値とした。そして、各測定値から下式2によって引裂伝播抵抗比を算出した。なお、引裂伝播抵抗値の測定は、直交方向、主収縮方向とも5回繰り返して行い、5個の引裂伝播抵抗比の平均値を引裂伝播抵抗比とした。
引裂伝播抵抗比=直交方向の引裂伝播抵抗値÷主収縮方向の引裂伝播抵抗値…式2
【0086】
[最大熱収縮応力値]
加熱炉付き引張試験機(東洋精機株式会社製「テンシロン」)を用いて測定した。熱収縮前のフィルムから、主収縮方向の長さが200mmで、幅が20mmの試料を切り出し、予め90℃に加熱しておいた引張試験機の送風を止め、試料をチャック間距離100mmに設定したチャックに取り付けた後、速やかに加熱炉の扉を閉め、送風(温度90℃、吹き出し速度5m/秒の熱風を、奥、左および右の三方向から供給)を開始して、検出される収縮応力を測定し、測定チャートから最大熱収縮応力値(MPa)を求めた。
【0087】
[収縮仕上り性]
熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。印刷したフィルムの両端部をジオキソランで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向とする)を作製した。
【0088】
次いで、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH−1500−L)を用い、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃で、蒸気圧1kg/cm2(圧力ゲージ表示:98kPa)の水蒸気を吹き付けて、500mlのPETボトル(胴直径:62mm、ネック部の最小直径:25mm)に熱収縮させることにより、ラベルを装着した。なお、装着の際には、ネック部の直径40mmの部分がラベルの一方の端となるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
◎:シワ、飛び上り、収縮不足の何れも未発生で、かつ色の斑も見られない
○:シワ、飛び上り、または収縮不足は確認できないが、若干、色の斑が見られる
△:飛び上り、収縮不足の何れも未発生だが、ネック部に斑が見られる
×:シワ、飛び上り、収縮不足が発生
【0089】
[ミシン目開封性]
予め主収縮方向とは直向する方向にミシン目を入れておいたラベルを、上記した収縮仕上り性の測定条件と同一の条件でPETボトルに装着し、熱収縮させた。ミシン目は、長さ1mmの孔を1mm間隔で、ラベルの縦方向(高さ方向)長さ120mmに亘って2本(両者間の距離22mm)形成した。ノッチは、ボトルを立てた際のラベルの上側に設けた。
【0090】
なお、ミシン目は、2つ折りにしたラベルの下に厚さ1mmのボール紙を2枚重ねて敷き、上記ミシン目孔の大きさ及び間隔に対応した形状を有するミシン刃を用い、ゲージ圧2kg/cm2でミシン刃をラベルに圧着して、2つ折りにしたラベルの端部より5mmの位置にラベル端部と平行にミシン目を入れた。
【0091】
その後、ラベルを装着したボトルに水を500ml充填し、5℃で24時間冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルのラベルのミシン目を指先で引裂き、縦方向にミシン目に沿って綺麗に裂け、ラベルをボトルから外すことができた本数を数え、30本以上を「○」、30本未満を「×」として評価した。
【0092】
[表面固有抵抗]
アドバンテスト社製表面固有抵抗測定器(本体:R8340、試料箱:R12704)を用いて、印加電圧100V、23℃・65%RHの雰囲気下で測定し、測定器の読取値を表面固有抵抗とし、表面固有抵抗の値が13Ω・cm以下のものを制電性に優れるものとして評価した。
【0093】
実施例、比較例で使用したポリエステルA〜Fの性状、組成等を表1に示す。さらに、実施例、比較例におけるポリエステル樹脂の混合組成、および、実施例、比較例で得られるフィルム組成を表2に示し、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件を表3に示す。表1および表2において、「TPA」は、テレフタル酸、「EG」は、エチレングリコール、「BD」は、1,4−ブタンジオール、「NPG」は、ネオペンチルグリコール、「CHDM」は、1,4−シクロヘキサンジメタノールを、それぞれを意味する。
【0094】
【表1】

【0095】
[アニオン系帯電防止剤塗布液の調合]
塗布液1
ドデシルスルホネート2質量%に水63質量%を加えて希釈し、さらにイソプロパノール35質量%を加えて、固形分濃度が2質量%の塗布液を調製した。
塗布液2
ドデシルベンゼンスルホネート2質量%に水63質量%を加えて希釈し、さらにイソプロパノール35質量%を加えて固形分濃度が2質量%の塗布液を調製した。
【0096】
[実施例1]
コア層形成用の樹脂を単軸の押出機(第一押出機)内にて溶融させると共に、スキン層形成用の樹脂を単軸の押出機(第二押出機)内にて溶融させ、それらの溶融樹脂を共押出法を利用して、三層Tダイ内で積層して押し出し、その後急冷して、スキン層/コア層/スキン層の3層構造からなる厚み175μmの未延伸シートを得た。
【0097】
なお、コア層形成用の樹脂としては、ポリエステルA(IV=0.70dl/g):9質量%、ポリエステルB(IV=0.70dl/g):31質量%、ポリエステルC(IV=1.20dl/g):10質量%、ポリエステルD(IV=0.65dl/g):50質量%を混合したポリエステル系樹脂を用いた。また、表裏両方のスキン層形成用の樹脂としては、ポリエステルA:15質量%、ポリエステルB:75質量%、ポリエステルC:10質量%を混合したポリエステル系樹脂を用いた。
【0098】
なお、上記した未延伸シートの作製においては、第一押出機(コア層形成用)及び第二押出機(スキン層形成用)のそれぞれに備えられたホッパに供給する前の各ポリエステル系樹脂チップの水分率を、いずれも30ppm以下に調整した。また、第一、第二押出機のスクリューを循環水によって冷却した。さらに、各押出機の予熱温度を265℃に調整すると共に、各押出機のコンプレッションゾーンの温度を300℃に調整した。加えて、上記した未延伸シートの作製においては、コア層押出し用の第一押出機の温度を280℃に調整し、スキン層押出し用の第二押出機の温度を275℃に調整した(両者の差:5℃)。
【0099】
得られた未延伸シートの片面に、予め調製しておいたアニオン系帯電防止剤塗布液1をエアナイフ方式で塗布し、88℃で10秒間予熱した後、テンター内で横方向に80℃で3.9倍延伸し、続いて78℃で10秒間熱処理し、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)、コート量0.004g/m2の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4および5に示す。
【0100】
[実施例2]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:16質量%、ポリエステルB:31質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:43質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:8質量%、ポリエステルB:75質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:7質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、実施例2においても実施例1と同様、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4に示す。
【0101】
[実施例3]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルB:31質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:50質量%、ポリエステルF(IV=0.60dl/g):9質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルB:75質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルF:15質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、実施例3においても実施例1と同様、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4に示す。
【0102】
[実施例4]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:9質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:50質量%、ポリエステルE(IV=0.70dl/g):31質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:15質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルE:75質量%に変更し、延伸温度を83℃に変更し、熱処理温度を80℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、実施例4においても実施例1と同様に、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4に示す。
【0103】
[比較例1]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:35質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:35質量%、ポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、比較例1においても実施例1と同様に、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4に示す。
【0104】
[比較例2]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルB:30質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:60質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルB:90質量%、ポリエステルC:10質量%に変更し、熱処理温度を81℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、比較例2においても実施例1と同様に、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。フィルム製造条件を表3に、上記評価方法によって評価したフィルムの特性を表4に示す。
【0105】
[比較例3]
コア層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:15質量%、ポリエステルE:75質量%に変更し、スキン層を形成するポリエステル系樹脂の混合比率を、ポリエステルA:15質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルE:75質量%に変更し、延伸温度を85℃に変更し、熱処理温度を81℃に変更し、さらにアニオン系帯電防止剤塗布液1を塗布しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ45μm(スキン層/コア層/スキン層の各厚み:11.25μm/22.5μm/11.25μm)の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、比較例3においても実施例1と同様に、延伸プロセスの各工程におけるフィルムの表面温度の変動は±0.5℃の範囲に収まっていた。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の評価方法によって評価した。評価結果を表4に示す。
【0106】
[比較例4]
実施例1と同様の単軸押出機によってコア層およびスキン層を共押出しする際に、第一押出機および第二押出機の予熱部分の温度、コンプレッションゾーンの温度を、それぞれ280℃,285℃に変更し、コア層押出温度、スキン層押出温度を、いずれも275℃に変更した。そして、実施例1と同様のポリエステル系樹脂を、スクリューの冷却をすることなく溶融押出ししようと試みたが、正常な溶融押出しをすることができず、延伸可能な未延伸シートを得ることができなかった。
【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
表4から、各実施例のフィルムは、ミシン目開封性、溶剤接着性とも非常に良好であることが分かる。加えて、各実施例のフィルムは、良好な耐溶剤突き抜け性を発現する(溶剤耐浸透指数が良好)ことが分かる。これに対して、各比較例のフィルムは、ミシン目開封性、溶剤接着性、耐溶剤突き抜け性(溶剤耐浸透指数)が不良となっていることが分かる。
【0111】
[実施例5、比較例5〜6]
フィルム表面に存在するアニオン系帯電防止剤量が表5に示す量となるようにアニオン系帯電防止剤塗布液1の塗布量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。なお、比較例6は、アニオン系帯電防止剤塗布液の塗布を行わなかった。得られたフィルムの特性を表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
表5から、熱収縮性ポリエステル系フィルムの表面に存在する帯電防止材量が0.002g/m2以上であれば、良好な制電性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記の如く、ミシン目開封性、溶剤接着性、収縮仕上がり性、溶剤耐浸透性が良好で、静電気によるトラブル発生が抑制されているなど、優れた特性を有しているので、ボトルのラベル用途等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる構成ユニットとし、全ポリエステル樹脂成分中、非晶性モノマー由来のユニットが15モル%以上であるポリエステル系樹脂からなる熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
厚みが25μm以上60μm以下であり、
上記熱収縮性ポリエステル系フィルムの少なくとも片面には、炭素数10〜20のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤が存在していると共に、
下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)フィルムを30℃、相対湿度85%の雰囲気下で672時間以上保管した後、主収縮方向と直交する方向について引張試験を行った場合に、破断伸度5%以下の試験片数が全試験片数の25%以下である、
(2)フィルムの表面と裏面とをテトラヒドロフランにより溶剤接着させて1時間経過した後の接着強度が2N/15mm以上15N/15mm以下である、
(3)所定枚数重ねたフィルム上に1,3−ジオキソランを滴下した後、その滴下部分に、所定枚数のフィルムを重ねフィルム積層物とし、このフィルム積層物を所定時間に亘って所定の圧力で圧縮した後に、1,3−ジオキソランを滴下したフィルムとその下に位置するフィルムとの接着強度、および、1,3−ジオキソラン滴下したフィルムに重ね合わせたフィルムとその上側に位置するフィルムとの接着強度を測定した場合に、それらの2つの接着強度がいずれも0.2N/15mm以下である、
(4)95℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における主収縮方向の温湯収縮率が50%以上80%以下である、
(5)フィルムの主収縮方向と直交する方向の引裂伝播抵抗比が3.5以上6.0以下である。
【請求項2】
前記非晶性モノマーが、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸よりなる群から選ばれる1種を主成分とするものである請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、コア層と、当該コア層の両面にスキン層が積層された積層構造を有するものである請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
前記コア層を構成するポリエステル系樹脂原料が、上記スキン層を構成するポリエステル系樹脂よりも低い極限粘度(IV)を有する原料からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
前記コア層を構成するポリエステル系樹脂原料に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率が、上記スキン層を構成するポリエステル系樹脂原料に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率よりも低いものである請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するための方法であって、
ポリエステル系樹脂原料を押出機から溶融押出しすることにより未延伸シートを形成するシート化工程と、シート化工程で得られた未延伸シートを、少なくとも横方向に延伸する延伸工程とを含み、
前記シート化工程が、下記要件(a)〜(f)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
(a)極限粘度(IV)の異なる2種以上のポリエステル系樹脂を、共押出法により複数の押出機から溶融押出しし、IVの低い樹脂からなるコア層と、IVの高い樹脂からなるスキン層とを積層した未延伸シートを形成する工程である、
(b)前記コア層に含まれる非晶性モノマー由来のユニットの比率が、前記スキン層中の非晶性モノマー由来のユニットの比率より低いものである、
(c)押出機のホッパに供給されるポリエステル系樹脂チップの水分率が10ppm以上50ppm以下である、
(d)各押出機のスクリューを冷却しながら行うものである、
(e)押出機の予熱温度が200℃以上270℃以下であり、各押出機のコンプレッションゾーンの温度が290℃以上310℃以下である、
(f)前記コア層押出し用の押出機の温度が、スキン層押出し用の押出機の温度より高く、且つ、その差が5℃以上15℃以下である。
【請求項7】
前記ポリエステル系樹脂原料が、IVの異なる2種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を含み、ポリエチレンテレフタレート系樹脂のIVの内、最大のIVと最小のIVとの差を0.04dl/g以上0.13dl/g以下とする請求項6に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記未延伸シート、または、一軸延伸ポリエステル系フィルムの少なくとも片面に、炭素数10〜20のアルキル基を有するアニオン系帯電防止剤を含有する塗布液を塗布した後、この塗布フィルムを二軸延伸または一軸延伸する請求項6または7のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−160788(P2009−160788A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340995(P2007−340995)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】