説明

熱収縮性物品、その製造法および複合シート

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は新規な構造を有する熱収縮性物品、その製造法および該熱収縮性物品の製造等に用いることのできる複合シートに関する。
【0002】
【従来の技術】電力ケーブル、通信ケーブル等の接続部、ガス、石油等を輸送するパイプライン用の鋼管接続部には防湿、防水、ガスリーク防止等を目的とする被覆が施される。この被覆法として、ケーブル接続部上に熱収縮性物品を配置し、これを加熱して収縮させる方法が多用されている。
【0003】上記被覆法に用いる熱収縮性物品としては、ゴム、プラスチックを主成分とするシート、チューブに熱収縮性を付与したものがある。ところで、近年、かような被覆法に対する信頼性向上の要求が強く、例えば、ケーブル接続部の被覆については遮水性(防水性乃至防湿性)の改善が期待されている。このため熱収縮性層の間に金属箔を介在せしめた構造の熱収縮性物品が提案された(特開昭59−62142号公報、実公昭63−12996号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この熱収縮性物品は金属箔の存在により熱収縮性層の熱収縮が抑制されたり、均一な熱収縮が得られなかったりすることがある。そして、不均一収縮を起こすと、収縮度合いの大きな部分と小さな部分との境界部において金属箔に過大な応力が作用して破断を生ずるという懸念がある。また、大径部とそれに連続する小径部を有する異径物品の被覆に用いた場合には、大径部と小径部との境界付近で熱収縮性層が異径形状に沿うように(段差部を形成するように)熱収縮した際に金属箔が追随できず、破断を生じ実質的に遮水性を喪失してしまうこともある。
【0005】従って、本発明は金属層を有するにもかかわらず、熱収縮性層の熱収縮の抑制や不均一収縮を生じ難く、また、異径物品にも適用可能な熱収縮性物品、その製造法および該物品の製造等に用いることのできる複合シートを提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は従来技術の有する上記問題を解決するため鋭意研究の結果、金属層として加熱により波状に変形する機能を有するものを用い、これを熱収縮性層に介在させることにより、所期の目的が達成されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち、本発明に係る熱収縮性物品は、金属層と、該金属層の両面に設けられた熱収縮性層から成り、それら両層は形状記憶機能によりともに加熱によって波状に変形するものであることを特徴とする。
【0008】図1および図2は本発明に係る熱収縮性物品の実例であり、加熱により波状に変形する金属層1の両面に熱収縮性層2および3が設けられて成るシート状物あるいはチューブ状物を示している。これら熱収縮性物品はその表面に接着剤層を設け、被覆対象物との密着性を向上させることができる。
【0009】なお、図2に示すチューブ状熱収縮性物品では、金属層がその円周方向の両端部において所定幅で重なり合うようにされている。この重なり幅は、熱収縮性物品を被覆対象物上で熱収縮させた際に、金属層の円周方向両端の重なり状態が維持されるように設定する。熱収縮させた際に重なりがないと、この部分から水の浸透現象を生じ易くなる。また、金属層を複数回巻付ける(例えば、円周方向に複数回すし巻きする)ことによっても同様な効果が得られる。
【0010】そして、この熱収縮性物品における熱収縮性層の熱収縮温度と金属層の波状変形温度はほぼ同温度に設定されている。従って、加熱により所定温度に達すると、熱収縮性層の熱収縮と金属層の波状変形が生ずる。金属層はこの波状変形のため柔軟性となり、熱収縮性層の熱収縮力に対する抵抗力が減少するので、該層の均一収縮を保証できる。また、金属層の波状変形は熱収縮性層の熱収縮への追随性の向上をもたらす効果もある。例えば、大径部とそれに連続する小径部を有する異径物品の被覆に用いて熱収縮させた場合、大径部と小径部との境界付近では段差部のため、熱収縮性層の熱収縮に追随して金属層がかなり大きく引っ張られるが、本発明の熱収縮性物品では金属層がその波状高さを減少乃至喪失してこれに対応し得るので、破断等の不都合を生ずる可能性は低くなる。勿論、遮水性は金属層の存在により優れたものとなる。
【0011】本発明に係る熱収縮性物品の形状は図示したものに限られず、加熱により波状に変形する金属層の両面に熱収縮性層が設けられた構造であれば、Y字筒体、大径筒状部の片端または両端に複数の小径分岐筒状部を有する分岐管等いずれであってもよい。
【0012】次に、かような熱収縮性物品の製造法の一例について述べる。この熱収縮性物品は加熱により波状に変形する金属層の両面に熱収縮性シートを重ね合せ上、この積層体を波状に型付けし、次いで積層体の波形形状を消失乃至減少せしめて金属層を波状に変形させることなく熱収縮性シートと一体化する方法により製造できる。
【0013】この製造法に用いる加熱により波状に変形する金属層は、例えば、アルミニウム箔、鉄箔、銅箔、鉛箔、チタン箔等の金属箔(その厚さは、約5〜300μmであるのが好ましい)の少なくとも片面に熱可塑性プラスチック層を直接あるいは接着剤を介して間接的に積層し、この積層体を表面波状の型材に押しつけることにより波状に型付けし(以下、波付けという)、次いで波付け温度よりも低い温度で加圧することにより波形形状を消失乃至減少せしめる(平坦状にする)方法により得られる複合シートであることができる。この際の波付け高さ(波の頂部から底部までの垂直距離)は約0.3〜1mmとするのが好ましいことが判明している。なお、この複合シートの波状変形温度は熱可塑性プラスチックの軟化点または融点によって決定される。
【0014】かようにして得られる複合シートは、金属層と少なくともその片面に設けられたプラスチック層から成るもので、波付け加工温度以上に加熱されるとプラスチック層が形状記憶機能を発揮し、薄手の金属層はそれに追随するので全体が波状に変形する。なお、プラスチック層はポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、変成ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂から形成でき、その厚さは、通常、約30〜300μmである。また、この熱可塑性プラスチックは形状記憶機能を高度なものにするため、波付け加工後に架橋しておくのが好ましいものである。
【0015】本発明に係る製造法においては、先ず、かようにして得られる加熱により波状に変形する金属層の両面に熱収縮性シートが重ね合わされる。熱収縮性シートは、従来のものと同じでよく、例えば、熱収縮性付与加工可能な熱可塑性プラスチック、ゴムあるいはこれらの混合物に所望により添加剤(老化防止剤、着色剤、難燃剤、充填剤等)を適量配合してシート成形した後延伸率が約30〜500%になるように熱延伸し、この延伸状態を保持して冷却する方法により得られるものを使用できる。なお、熱可塑性プラスチックあるいはゴムは、通常、熱延伸前に架橋される。
【0016】加熱により変形する金属層と熱収縮性シートの重ね合わせの態様は目的とする熱収縮性物品の形状に応じて決定する。例えば、(a)シート状の熱収縮性物品を得る場合には、加熱により波状に変形する金属層の両面に各々所望枚数の熱収縮性シートを重ね合わせればよく、(b)チューブ状の熱収縮性物品を得る場合には、金属、フッ素樹脂等から成る耐熱性芯体上に熱収縮性シート、加熱により波状に変形する金属層および熱収縮性シートをこの順序で各々所定回数巻き付けるか、あるいは波状に変形する金属層の少なくとも片面に熱収縮性シートを重ね合わせた後これを芯体上に所定回数巻き付ければよい。
【0017】このようにして加熱により波状に変形する金属層と熱収縮性シートを重ね合わせた後、金属層を波状に変形させることなく両者を一体化する。この一体化はホットメルト型接着剤による方法、あるいは熱収縮性シートを軟化乃至溶融させ、この軟化乃至溶融により接着する方法、等により行うことができる。一体化を前者の方法で行う場合には、両者の重ね合わせに際し、両者間にホットメルト型接着剤を配置する。
【0018】本発明に係る製造法においては両者の一体化を加圧条件下で行い、金属層の波状変形を抑制することが好ましい。この加圧によれば、両者の一体化が促進されたり、両者の密着度が向上されたり、熱収縮性シートの熱収縮能の減少を防止し得る効果がある。
【0019】ただし、この加圧は必ずしも必須ではない。例えば、両者の重ね合わせを上記(b)の態様とした場合には、加圧の省略が可能である。(b)のように重ね合わされた両者を加熱により一体化すると、温度上昇により金属層には波状への変形機能が生ずるが、該金属層はその外周の熱収縮性シートの存在により押圧状態とされているので、外部からの加圧力がなくても波状変形が抑制されるのである。また、熱収縮性シートがその熱収縮温度以上に加熱されても、芯体により該シートの熱収縮は抑制されるので、該シートにおける熱収縮性の大幅な減少乃至喪失という不都合を招くこともない。
【0020】かようにして得られる熱収縮性物品は加熱により、例えば、図3に示すように熱収縮性層2、3が熱収縮すると共に金属層1が波状に変形する。変形後の波高さは金属層を得る際の波付け高さよりは低くなるが、その度合いは種々の条件により変わり得る。
【0021】
【発明の効果】本発明は上記のように構成され、金属層と熱収縮性層の両層が形状記憶機能によりともに加熱によって波状に変形するので、遮水性を維持したまま、追随性および均一収縮性を改善できる。また、熱収縮性物品を簡単に製造できる利点もある。(以上)
【0022】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0023】実施例1厚さ100μmの銅箔の両面に厚さ100μmのポリエチレンシートを各々重ね合わせ、これを小間隙を有するようにセットされたゴムロールと金属ロール(表面温度150℃)の前記小間隙を通して積層し、次いで室温に冷却する。
【0024】この積層体を波型表面を有する賦型ロールを用いて、室温にて波付け高さが約0.5mmになるように波付け加工し、次いで、ポリエチレン層に電子線を照射して架橋(ゲル分率50%)した後、表面温度60〜80℃の一対の金属ロール間を通し平坦状として複合シートを得る。この複合シートは加熱すると温度約150℃で波状変形(変形後の波高さは約0.5mmであり、波付け加工時とほぼ同じ)することを確認した。
【0025】次に、円筒状の耐熱性芯体に長尺の熱収縮性シートを該シートの長さ方向が芯体の円周方向となるようにして5回すし巻きし、この上に上記複合シートを1回すし巻きし(シートの両端での重なり幅が10cmとなるように巻く)、更に、同じ熱収縮性シートを5回すし巻きし、巻き終わり端を耐熱性粘着テープで固定する。なお、耐熱性芯体としては外径105mmのステンレスパイプの外周をシリコーン樹脂の塗布により離型処理したものを、熱収縮性シートとしては長尺ポリエチレンシートを電子線照射により架橋(ゲル分率40%)し、これを温度50℃で延伸率が300%になるように長尺方向に1軸延伸して得た熱収縮率75%のものを用いた。
【0026】そして、温度160℃で約30分間加熱することにより、熱収縮性シート相互および熱収縮性シートと複合シートを融着一体化せしめ、室温まで冷却した後芯体および粘着テープを除去し、内径約100mm、肉厚1.3mmの熱収縮性チューブを得た。なお、このチューブの内周面には厚さ0.6mmのブチルゴム系接着剤層を設けた。
【0027】この熱収縮性チューブを直径75mmの遮水構造の通信ケーブルの接続部上に配置してバーナーで加熱して熱収縮させて被覆層を形成した。そして、この被覆部を90℃、1kg/cm2 の加圧水中に浸漬したが、30日経過後においても被覆層内への水の浸透は認められず、被覆層の遮水性能は充分なことが判った。
【0028】また、被覆層を切断し、複合シートの状態を目視観察したところ全周にわたり波状に変形(波高さ0.2〜0.3mm)していることが確認された。
【0029】更に、この熱収縮性チューブを直径95mmの円筒状大径部とそれに連続する直径50mmの円筒状小径部を有する物品上に配置してバーナーで加熱して熱収縮させ大径部および小径部を被覆した。そして、大径部と小径部の境界部において外側の熱収縮性層を除去し、複合シートの状態を観察したところ、破断は認められなかった。
【0030】実施例2複合シートとして、厚さ50μmの鉄箔の両面に厚さ100μmのポリエチレン層(架橋によりゲル分率50%とされている)を設け、更に一方のポリエチレン層上に厚さ50μmのエチレン−エチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート含量60重量%)系ホットメルト接着剤層を設けたものを用いること、および耐熱性芯体への複合シートの巻付けに際し、接着剤層が外側になるようにすること以外は実施例1と同様に作業して、内径約100mm、肉厚1.25mmの熱収縮性チューブを得た。この熱収縮性チューブについて、実施例1と同様な試験を行い、同等の結果を得た。
【0031】実施例3厚さ20μmのステンレス箔の両面に変成ポリエチレンから成る厚さ50μmのホットメルト接着剤フィルム(三井石油化学工業社製、商品名アドマーVE−300)を重ね合わせ、小間隙を有するようにセットされたゴムロールと金属ロール(表面温度150℃)の間に通して積層し、次いで室温まで冷却する。
【0032】次に、賦型ロールにより波付け高さが約1mmになるように室温にて波付け加工し、次いでこれを電子線照射により変成ポリエチレンを架橋(ゲル分率35%)し、その後表面温度60〜80℃の一対の金属ロール間を通して平坦状とし、複合シートを得る。この複合シートは加熱すると温度約130℃で波状変形(変形後の波の高さは約1mmであり、波付け加工時とほぼ同じ)することが確認された。
【0033】一方、これとは別に厚さ500μmの長尺ポリエチレンシートを電子線照射によりゲル分率が60%になるように架橋し、温度25℃で長尺方向に延伸率が160%になるように1軸延伸した後冷却し、厚さ330μm、熱収縮率30%の熱収縮性シートを得る。
【0034】そして、上記複合シートの両面に長さ1mに切断した熱収縮性シートを2枚ずつ重ね合わせ、プレス機により温度150℃、圧力2kg/cm2 の条件で15分間加熱加圧し、加圧状態を維持したまま室温まで冷却し、肉厚0.8mm、熱収縮率30%の熱収縮性シートを得た。このプレス作業に際しては、プレス機とこれらシートの重ね合わせ体の間には離型シートとしてフッ素樹脂シートを介在させた。そして、この熱収縮性シートの片面にはエチレン−酢酸ビニル共重合体系ホットメルト接着剤層を設けた。
【0035】この熱収縮性シートを外径250mmの鋼管の溶接部上に接着剤層を内側にしてすし巻きし(巻き内径約300mm)、巻き終わり端を耐熱性粘着テープで固定し、バーナーで加熱し熱収縮により密着させた。
【0036】この被覆層を切断し、複合シートの状態を観察したところ、このような大口径でも一部分のみで大きくシワになることなく円周方向に均一に波状になっているのが観察された。
【0037】比較例複合シートに代え、厚さ100μmの銅箔を使用すること以外は実施例1と同様に作業し、肉厚1.1mm、熱収縮率75%の熱収縮性チューブを得た。
【0038】この熱収縮性チューブについて、実施例1と同じ試験を行ったところ、30日経過後に水の浸透が認められた。また、異径物品への被覆試験では境界部において銅箔が破断しているのが観察された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実例を示す正面図である。
【図2】本発明の実例を示す正面図である。
【図3】本発明に係る熱収縮性物品を熱収縮させた後の状態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
1 金属層
2 熱収縮性層
3 熱収縮性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属層と、該金属層の両面に設けられた熱収縮性層から成り、それら両層は形状記憶機能によりともに加熱によって波状に変形するものである熱収縮性物品。
【請求項2】 金属層が、金属層その少なくとも片面に設けられた熱可塑性プラスチック層から成る複合シートである請求項1記載の熱収縮性物品。
【請求項3】 加熱により波状に変形する金属層の両面に熱収縮性シートを重ね合せた上、この積層体を波状に型付けし、次いで積層体の波形形状を消失乃至減少せしめて金属層を波状に変形させることなく熱収縮性シートと一体化することを特徴とする熱収縮性物品の製造法。
【請求項4】 平坦な金属層と平坦なプラスチック層から成り、それら両層は形状記憶機能によりともに加熱によって波状に変形するものである複合シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3065711号(P3065711)
【登録日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【発行日】平成12年7月17日(2000.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−124735
【出願日】平成3年4月26日(1991.4.26)
【公開番号】特開平4−327932
【公開日】平成4年11月17日(1992.11.17)
【審査請求日】平成9年11月19日(1997.11.19)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【参考文献】
【文献】特開 平1−177384(JP,A)
【文献】特開 平2−226617(JP,A)
【文献】特開 昭58−29659(JP,A)
【文献】実開 昭64−22425(JP,U)
【文献】実開 平1−74125(JP,U)
【文献】実開 平1−79337(JP,U)
【文献】実開 昭63−184573(JP,U)