説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】機械的強度に優れ、成形性が良好であり、成形品の体積固有抵抗が大きい、重量感のある熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)相対粘度2.1〜3.0の6ナイロン5〜10重量%、(B)タングステン粉末65〜85重量%、(C)硫酸バリウム10〜25重量%からなる組成物100重量部に対して、(D)下記一般式(I)で示される飽和脂肪族カルボン酸化合物0.01〜0.5重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物によって達成される。
〔CH3 (CH2 m COO〕n R・・・・・(I)
(式中mは14〜26の整数、nは1又は2、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、水素あるいは脂肪族炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、成形品の体積固有抵抗が大きい高比重熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】6ナイロンをはじめとする熱可塑性樹脂組成物は、金属材料に較べて加工が容易で、耐蝕性に優れ、かつ軽量であるうえ、比較的安価なこと、絶縁性であること等から、近年電気・電子部品、機械部品、精密部品、一般工業部品、日用雑貨などの素材や、構造材料など多くの分野において幅広く用いられている。
【0003】更に、切削加工や焼結工程を必要とする金属材料に較べ、製品の生産性に優れており、特に射出成形法を採用した場合に顕著である。複雑な形状の成形品が一工程で成形できることが高成長を遂げた理由の一つである。
【0004】しかしながら、用途によっては金属並の重量感を必要とする場合があり、通常の熱可塑性樹脂では対応できなかった。
【0005】近年、熱可塑性樹脂に金属粉等を溶融混練した材料が提案されている(特開昭60−6738号公報)。この材料を成形加工に供した場合、金属材料に優る生産性を示し、重量感のある成形品が得られるが、電気伝導性も有していた。
【0006】熱可塑性樹脂に金属粉等を多量に混合し、高比重化すると電気伝導性が現れ、電気・電子分野への使用が困難となる場合が多々生じる。電気伝導性を有する成形品を熱処理により、絶縁性の材料とする製造方法も提案されている(特開平2−127439号公報)が、熱処理の工程が増え、コスト・アップにつながる。この様に、高比重でかつ絶縁性の素材を得ることは簡単ではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的とするところは、上記従来技術の問題点を解決し、機械的強度に優れ、成形性が良好であり、成形品の体積固有抵抗が大きい、重量感のある熱可塑性樹脂組成物を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述の目的は、(A)相対粘度2.1〜3.0の6ナイロン5〜10重量%、(B)タングステン粉末65〜85重量%、(C)硫酸バリウム10〜25重量%からなる組成物100重量部に対して、(D)下記一般式(I)で示される飽和脂肪族カルボン酸化合物0.01〜0.5重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物によって達成される。
〔CH3 (CH2 m COO〕n R・・・・・(I)
(式中mは14〜26の整数、nは1又は2、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、水素あるいは脂肪族炭化水素基を表す。)
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いる(A)6ナイロンは、ε−カプロラクタムを重合させることにより得られる線状ポリマーを意味するが、6ナイロンの基本的性質を損なわない範囲において、ε−カプロラクタム以外のモノマー、及びそのポリマーが、共重合ないしはブレンドされていても構わない。
【0010】本発明に用いる(A)6ナイロンは、JIS K 6810法で測定した相対粘度が2.1〜3.0であることが肝要である。相対粘度が2.1未満の場合、機械強度が不良となり、相対粘度が3.0を超えると、成形性が不良となる。
【0011】本発明に用いる(A)6ナイロンの配合量は5〜10重量%であることが肝要である。5重量%未満の場合、成形性が不良となり、場合によっては、混練機を破損することもあり得る。10重量%を超えると、結果的に(B)タングステン粉末の配合量が減少することになり重量感に乏しくなる。
【0012】本発明に用いる(B)タングステン粉末の粒子径は、(A)6ナイロンへの分散性、得られた樹脂組成物の流動性や成形性、工程取扱時の安全性等を考慮すると、その平均粒子径は2〜25μmであり、好ましくは3〜15μmである。
【0013】本発明に用いる(B)タングステン粉末の配合量は65〜85重量%であることが肝要である。65重量%未満の場合、重量感に乏しく、85重量%を超えと、成形加工性が不良となり、また、電気伝導性も発現してくる。即ち、配合量65〜85重量%で、おおよそ比重5〜8.5、金属で言うとチタン〜銅、あるいはそれ相応の比重の合金材料の質量感を表現出来る事になる。
【0014】本発明に用いる(C)硫酸バリウムは、電気伝導性を低下させる働きをするが、その種類は工業的な製造方法によりスイヒ性硫酸バリウムと沈降性硫酸バリウムの2種が有る。粒子の粒度、均質度、純度等から沈降性硫酸バリウムが好ましい。
【0015】本発明に用いる(C)硫酸バリウムの粒子径は、(A)6ナイロンへの分散性、得られた樹脂組成物の流動性や成形性等を考慮すると、その平均粒子径は0.1〜15μmであり、好ましくは0.5〜10μmである。
【0016】本発明に用いる(C)硫酸バリウムの配合量は、10〜25重量%であることが肝要である。10重量%未満の場合、電気伝導性が発現し、25重量%を超えると、成形加工性が不良となり、重量感に乏しくなる。
【0017】本発明の熱可塑性樹脂組成物の電気伝導性は、用いる(B)タングステン粉末、及び(C)硫酸バリウムの配合量に影響され、(B)タングステン粉末が65重量%、C)硫酸バリウムが25重量%の場合、その体積固有抵抗は略々1012Ω・cmであり、(B)タングステン粉末が85重量%、C)硫酸バリウムが10重量%の場合、その体積固有抵抗は略々104 Ω・cmとなる。このような樹脂は半導電性から絶縁性の領域にある樹脂として、電気・電子部品他多くの用途展開が想定できる。
【0018】本発明では、上記一般式(I)で示される(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物を配合することが肝要である。(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の溶融時の流動性を向上させるので、成形時の加工性、加工効率、賦形性等に好結果をもたらす。(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物は、式中のmが14〜26の飽和脂肪族カルボン酸、またはその金属塩あるいはそのエステルである。m=14の場合のパルミチン酸化合物、m=16の場合のステアリン酸化合物、m=26の場合のモンタン酸化合物等が挙げられる。
【0019】金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属から成るものが挙げられる。
【0020】エステルとしては、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロパンジオール、1,3−または1,4−ブタンジオール等のアルコールでエステル化したもの等が挙げられる。
【0021】また、(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物は1種でも、2種以上組み合わされたものでもよい。
【0022】かかる(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム、エチレングリコールでエステル化したモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0023】本発明に用いる(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物の配合量は、(A)6ナイロン、(B)タングステン粉末、及び(C)硫酸バリウムから成る組成物100重量部に対して、0.01〜0.5重量部であることが肝要である。(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物の配合量が、0.01重量部未満の場合、成形加工性が不良となり、0.5重量部を超えると、機械強度が不良になる。
【0024】(D)飽和脂肪族カルボン酸化合物は、(A)6ナイロン、(B)タングステン粉末、及び(C)硫酸バリウムの成分と共に混合して用いることができる。
【0025】本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて通常の添加剤、例えば、酸化防止剤、及び熱安定剤(例えばヒンダードフェノール,ヒドロキノン,チオエーテル,ホスファイト類、及びこれらの置換体、及びその組合せを含む)、紫外線吸収剤(例えば種々のレゾルシノール,サリシレート,ベンゾトリアゾール,ベンゾフェノン等)、帯電防止剤(例えばベンゼンスルホン酸ナトリウム,ポリアルキルグリコール等)、結晶化促進剤(例えばポリエチレングリコール等)、カップリング剤(例えばシラン系、チタネート系、アルミニウム系等)、添着液(例えばシリコン系オイル等)、顔料、染料等の着色材を1種以上添加することができる。
【0026】本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の種々の方法をとりうる。例えば、単軸或は、2軸混練機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0027】
【発明の効果】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械的強度に優れ、成形性が良好であり、更に成形品の体積固有抵抗が大きく、重量感があるため電気・電子部品、機械部品等に好適である。
【0028】
【実施例】以下実施例によって本発明を具体的に説明する。尚、物性等評価は以下の方法に従って行った。
相対粘度 :JIS K 6810比重 :ASTM D 792引張強度 :ASTM D 638体積固有抵抗:ASTM D 257成形性 :良を○、不良を×とした。
【0029】6ナイロンの製造例ε−カプロラクタム100重量部、水1重量部を反応容器に仕込み、密封して260℃まで加熱した。2〜3時間そのままの圧力で反応させた後、500torrの減圧下で重合を進行させ、所定の粘度で重合を止め、押出しペレット化し、更に熱水によりモノマー、オリゴマー類を0.1%以下迄抽出し、6ナイロンを得た。
【0030】実施例1〜5,比較例1〜8上記方法で得られた種々の粘度の6−ナイロン(表1に記載)、タングステン粉末(平均粒子径4μm、日本新金属(株)製)、硫酸バリウム(平均粒子径1.2μm,堺化学工業(株)製)、飽和脂肪族カルボン酸化合物(モンタン酸ナトリウム、ヘキストジャパン(株)製)を表1に示す組成で配合し、25mmスクリュウ径の単軸押出機で溶融混合してペレットを得た。
【0031】得られたペレットを減圧下で加熱(120℃)乾燥し、成形工程に共し、成形品を得て評価した。結果を表2に示した。
【0032】
【表1】


【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)相対粘度2.1〜3.0の6ナイロン5〜10重量%、(B)タングステン粉末65〜85重量%、(C)硫酸バリウム10〜25重量%からなる組成物100重量部に対して、(D)下記一般式(I)で示される飽和脂肪族カルボン酸化合物0.01〜0.5重量部を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
〔CH3 (CH2 m COO〕n R・・・・・(I)
(式中mは14〜26の整数、nは1又は2、Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、水素あるいは脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】 樹脂組成物の比重が5以上である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】 樹脂組成物の体積固有抵抗が104 Ω・cm以上である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。