説明

熱吸収特性と高い安定性を備えるポリマー組成物

本発明は、透明な熱可塑性材料、安定剤を含有する無機赤外吸収剤を含有する熱吸収性ポリマー組成物、本発明に係るポリマー組成物の製造および使用、ならびにそれらから製造された製品に関する。本発明は、特に、タングステン化合物から成る群から選択される無機IR吸収剤の安定化、および建築物、自動車、列車および航空機において使用する窓を製造するための、該無機IR吸収剤を含有する本発明に係るポリマー組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な熱可塑性の合成物質、無機赤外線吸収剤および安定剤を含有する熱吸収ポリマー組成物と、本発明によるポリマー組成物の製造および使用、ならびにそれらから製造される製品に関する。特に、本発明は、タングステン化合物から成る群からの無機IR吸収剤の安定化に関し、および建造物、自動車、列車または航空機において使用する窓ガラスを製造するための、これらの安定化無機IR吸収剤を含有する本発明に係るポリマー組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、透明な熱可塑性ポリマー、例えばポリカーボネートなどを含有する組成物から成る板ガラス(glazing)は、ガラスから成る常套のガラスと比べて、自動車分野および建造物に対して多くの利点を提供する。これらの利点には、例えば、増加した破壊抵抗または重量の低減が含まれ、このことは、自動車ガラスの場合、交通事故の際に乗員へのより高い安全性をもたらすことができ、およびより低い燃料消費を可能とする。最後に、透明な熱可塑性ポリマーを含有する透明材料は、それらのより簡単な成形性に起因して、著しく高いデザインの自由度をもたらす。
【0003】
しかしながら、生じる欠点は、透明な熱可塑性ポリマーの透熱性(すなわち、IR放射に関する透過性)は、太陽による影響の場合、車両および建造物の内部に望ましくない加熱を導くことである。内部空間における温度上昇は、乗員または住人の快適性を低減し、および、空調における要求を増加させ、このことは、回り回ってエネルギー消費を増加させ、そしてこのようにしてプラス効果を相殺する。それにもかかわらず、乗員に対する快適性を高い程度で提供しつつ低いエネルギー消費に対する要求を配慮するために、適当な熱保護仕上げが施された窓が要求されている。特に、このことは自動車分野に適用される。
【0004】
長期に亘り知られているように、400nm〜750nmの間の光りの可視領域に加えて、太陽エネルギーの大部分は、750nmおよび2500nmの間の近赤外(NIR)領域に分配される。例えば、浸透性の太陽放射は、自動車の室内に吸収され、5μm〜15μmの波長を有する長波熱放射として放出される。この領域において、常套の板ガラス材料(特に、可視領域において透明な熱可塑性のポリマー)は、透過的ではないので、熱放射は、外部に放射されない。温室効果がもたらされ、内部空間は熱くなる。したがって、この効果を可能な限り小さくするために、NIRにおける板ガラスの透過率を可能な限り小さくすべきである。しかしながら、常套の透明な熱可塑性ポリマー、例えばポリカーボネートなどは、可視領域およびNIRにおいて共に透過的である。
【0005】
したがって、例えば、可視領域のスペクトルにおける透明性に不都合なほどに影響を及ぼすことなく、NIRにおいて可能な限り低い透明性を示す混合物が必要とされている。
【0006】
透明な熱可塑性合成物質の中でも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリカーボネートに基づくポリマーが、板ガラス材料としての使用に特に適している。その高い靱性靱性のために、特にポリカーボネートは、このような種類の最終用途に関する極めて良好な性能特性を有する。
【0007】
これらの合成物質に熱吸収特性を付与するために、適当な赤外線吸収剤が添加剤として使用されている。この目的に関して特に興味深いものは、NIR領域(近赤外、750nm〜2500nm)における広範な吸収スペクトルを備え、同時に、可視領域において低い吸収(ごく僅かな固有色)をもたらすIR-吸収剤系である。対応するポリマー組成物は、さらに、高い耐熱性と良好な耐光性を示す。
【0008】
透明な熱可塑性材料において使用できる、有機または無機材料に基づく多くの種類IR吸収剤が既知である。このような種類の材料の選択は、例えば、J.Fabian, H.Nakazumi, H. Matsuoka, Chem. Rev. 第92巻、第1197頁(1992年)、US-A5712332またはJP-A06240146に記載されている。
【0009】
しかしながら、有機材料に基づくIR-吸収添加剤は、それらが熱負荷または放射に関してごく僅かな安定性を示すといった欠点を有する場合が多い。したがって、それらを加工する間に最大330℃の温度が要求されるので、これらの添加剤の多くは、透明な熱可塑性材料内での加工において不十分な熱安定性を示す。さらに、使用する板ガラスは、太陽放射に起因する、50℃よりも高い温度に長期間にわたって曝されることが多く、このことは、有機吸収剤の分解または変質を生じ得る。
【0010】
さらに、有機IR吸収剤は、NIR領域において十分に広い吸収バンドを示さないことが多いので、板ガラス材料におけるIR吸収剤としてのそれらの使用は効果が無く、これに関連して、さらに、これらの系において強い固有色が生じることが頻繁に生じ、このことは一般に望ましくない。
【0011】
有機添加剤と比較して、無機材料に基づくIR-吸収添加剤は、よりはっきりとした安定性を示すことが多い。多くの場合において、それらは明確により好ましいコスト/パフォーマンス率を示すので、これらの系の使用はより経済的なことが多い。したがって、微粒子ホウ化物に基づく材料、例えば、六ホウ化ランタンなどは、効果的なIR吸収剤であることが判明している。なぜならば、それらは、高い耐熱性と相まって、幅広い吸収帯が付与されているからである。La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu,Sr,Ti、Zr、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、およびCaに基づくこのようなホウ化物は、例えば、DE10392543T5またはEP1559743A1に記載されている。
【0012】
しかしながら、これらの添加剤の欠点は、それらの大きな固有色である。加工後おいて、ホウ化物含有添加剤は、透明な合成物質に対して特有の緑色の着色をもたらす。無彩色に関する目的を大きく制限するので、このことは、望ましくないことが多い。
【0013】
固有色を相殺する目的のために、比較的多量の更なる着色剤が使用されることが多い。しかしながら、このことは、組成物の光学特性を損ない、そして、可視領域において明確に減少した透過率を生じさせる。特に、自動車板ガラスの場合において、このことは望ましくないか、許容できない(運転者の視点における特定の場合において、機能を損なってはいけない)。
【0014】
さらに、タングステン化合物から成る群からのIR-吸収添加剤は、当該技術分野において既知のホウ化物に基づく無機IR吸収剤と比べて、可視スペクトル領域においてより低い自己吸収をもたらすことが知られている。
【0015】
熱可塑性材料におけるこれらの材料の製造および使用は、例えば、H.Takeda, K.Adachi, J.Am.Ceram.Soc. 第90巻、第4059〜4061頁(2007年)、WO2005/037932A1、JP2006219662A、JP2008024902A、JP2008150548A、WO2009/059901A2およびJP2008214596Aに記載されている。しかしながら、熱負荷に関する長期間安定性が不十分であることは、欠点になる。酸化タングステンの熱的不安定さがこのように既知であり記載されている一方で、例えば、Romanyuk等によるJ.Phys.Chem.C2008,第112巻、第11090頁-第11092頁によると、これらの化合物がポリマーマトリックス内で機能する場合においても、対応するポリマー組成物(例えば、ポリカーボネート組成物の場合)の昇温での熱貯蔵の間に、IR領域における吸収が著しく減少することもまた、証明されている。
【0016】
しかしながら、板ガラス分野、特に自動車板ガラスにおいて組成物を適用するためには、対応するIR-吸収ポリマー組成物がより高い温度の関係でも長期に亘る安定性を示すことは、もちろん本質的な要素である。
用語「より高い温度」によると、温度は、例えば、強烈な太陽放射の場合に、ポリカーボネートから成る物品が取り得る温度(例えば、50℃-110℃)を意味する。さらに、組成物は、その結果、既に減少しているIR-吸収特性を損なうことなく、常套の加工条件下で加工できることを保証しなければならない。
【0017】
さらに、熱可塑性材料における加工特性を改良する目的のために、熱安定剤、例えば、亜リン酸エステル、ヒンダードフェノール、芳香族、脂肪族、または脂肪族/芳香族ホスフィン、ラクトン、チオエーテル、およびヒンダードアミン(HALS、ヒンダードアミン系光安定剤)などを使用することが知られている。
【0018】
WO-A01/18101から、熱可塑性合成物質と、フタロシアニン染料またはナフタロシアニン染料を含有する成形材料が既知であり、それは、加工安定性を改良するために酸化防止剤、例えば、ホスフィット、ヒンダードフェノール、芳香族、脂肪族または混合ホスフィン、ラクトン、チオエーテルおよびヒンダードアミンなどを含有できる。その一方、本発明は、タングステンに基づく無機IR-吸収剤を含有する組成物に関する。
【0019】
EP1266931A1から、ホスフィンと併用する、ポリカーボネート組成物における有機IR吸収剤が既知である。しかしながら、熱可塑性マトリックス中の吸収剤を安定させるためのホスフィンと、無機IR吸収剤、特に、タングステンに基づく無機IR吸収剤とを組合せることは、EP1266931A1に記載されていない。
【0020】
EP1559743A1において、熱安定剤、例えばホスホニトおよびホスフィンなどと併用してホウ化物に基づく無機IR吸収剤を含有するポリカーボネート組成物が記載されており、これらの添加剤はポリカーボネートマトリックスを安定させる役割を果たす。タングステン系組成物は、記載されていない。上述の安定剤が無機IR吸収剤へ影響を及ぼすことは知られていない。
【0021】
US2006/0251996A1は、熱可塑性ポリマーとIR-吸収添加剤を含有するコア層を有する多層シートを開示し、IR-吸収添加剤は金属酸化物である。さらに、コア層は、熱安定剤を更に含有できる。しかし、本発明によるホスフィンにより安定化されるIR吸収剤を有するポリマー組成物、およびホスフィンを用いて安定化させたマスターバッチは、US2006/0251996A1において記載されていない。特に、US2006/0251996A1は、分散体中に組み込まれたナノスケールIR吸収剤の使用を開示しない。
【0022】
しかし、ここに公開されているIR吸収剤を備える熱可塑性組成物の全てにおいて、熱安定剤は、特に加工の過程における、各ポリマーマトリックスを安定化させるためにもっぱら機能する。したがって、EP1266931A1に開示されるように、これらの系を使用することにより、光りに曝した後のポリカーボネートの黄色変化は限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第5712332号明細書
【特許文献2】特開平06-240146号公報
【特許文献3】独国特許出願第10392543号T5明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1559743号A1明細書
【特許文献5】国際特許出願公開第2005/037932号A1明細書
【特許文献6】特開2006-219662号公報
【特許文献7】特開2008-024902号公報
【特許文献8】特開2008-150548号公報
【特許文献9】国際特許出願公開第2009/059901号A2明細書
【特許文献10】特開2008-214596号公報
【特許文献11】国際特許出願公開第01/18101号A明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第1266931号A1明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第1559743号A1明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2006/0251996号A1明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J.Fabian, H.Nakazumi, H. Matsuoka, Chem. Rev. 第92巻、第1197頁(1992年)
【非特許文献2】H.Takeda, K.Adachi, J.Am.Ceram.Soc. 第90巻、第4059〜4061頁(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、本発明の目的は、低い固有色を備え、同時に、高い熱安定性と光りの照射に関する安定性を備えるIR-吸収系を見出すことであり、および熱可塑性材料を有する対応する組成物を入手することである。同時に、これらの添加剤は、経済的に妥当であるか、または興味深いコスト/パフォーマンス比を示す一方で、これらの添加剤はNIR領域における幅広い吸収特性を備える。本発明の更なる目的は、既知のIR吸収剤の長期に亘る安定性を際立って改良する安定剤を提供すること、および更なる加工に関するマスターバッチのために、熱可塑性ポリマー中において高濃度で存在する安定剤とIR吸収剤を備える組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
驚くべきことに、ある種の安定剤はIR-吸収タングステン酸塩、特にセシウムタングステン酸塩の熱安定性を改良することを明らかにし、当該技術分野において既知のホウ化物に基づく無機IR吸収剤と比べて、可視スペクトル領域におけるより低い自己吸収をもたらす、タングステン酸塩の群から選択されるIR-吸収添加剤を有する組成物により、本発明の目的がもたらされる。その結果、熱負荷に関連するより高い長期間安定性のために、ホスフィンから成る群からの安定剤を用いて無機IR吸収剤が安定化され、より小さな固有色を示す熱可塑性材料がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によるタングステン酸塩の場合、以下の種類の物質である:
b1)W(W=タングステン、O=酸素;z/y=2.20〜2.99)および/または
b2)M(M=H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、レアアースからなる群からの金属、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ti、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi;x/y=0.001〜1.000;z/y=2.2〜3.0)、ただし、Mとして、H、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、FeおよびSnが好ましく、また、これらのうち、Csが正に特に好ましい。特に好ましくは、Ba0.33WO、Tl0.33WO、K0.33WO、Rb0.33WO、Cs0.33WO、Na0.33WO、Na0.75WO、およびこれらの混合物である。
【0028】
本発明における特定の実施態様において、無機IR吸収剤としてCs0.33WOを単独で使用することが正に特に好ましい。また、Cs/W比が0.20と0.25である化合物も既知である。
【0029】
さらに、驚くべきことに、これに関連して、ある種の安定剤のみが効果的であり、その一方、同様の構造の多の安定剤は、効果がないかまたは有害であり、およびIR吸収における減少を更に加速する。本発明の範囲内で、それらのホスフィン形態のリン系安定剤は、IR-吸収タングステン酸塩を安定化させ有効であることが判明し、その一方、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステルまたは亜ホスホン酸エステルの種類のリン含有安定剤の単独の使用は、殆ど効果がないか効果がないことが判明するといったことが、本発明により明らかにされるであろう。これらの化合物を含有するか形成し得るリン酸エステル、リン酸、リン酸誘導体または対応する安定剤から構成されるものを使用する場合、本発明に係るタングステン酸塩に対するより急激な損傷を生じさせる。
【0030】
本発明におけるホスフィンは、一般型Pn+2、特にPHの化合物から誘導され、この場合において、好ましくは全ての水素原子は、脂肪族および/または芳香族炭化水素残基により置換されており、この場合において、芳香族炭化水素残基は、更なる置換基、例えば、アルキル基などを示してもよい。この場合、ホスフィンはリン原子を示してもよく、あるいは、対応する脂肪族および/または芳香族炭化水素を介して架橋した数個のリン原子を示してもよい。
【0031】
本発明における「亜リン酸エステル」という用語により、一般構造P(OR)を備えるホスホン酸(亜リン酸エステルと指名される場合もある)が理解され、式中、Rは、脂肪族および/または芳香族炭化水素残基を意味し、この場合において、芳香族炭化水素残基は、更なる置換基、例えばアルキル基などを示してもよい。
【0032】
用語「ホスホン酸エステル」によると、基本構造R-PO(OH)から誘導される化合物が理解され、式中、Rは、脂肪族および/または芳香族炭化水素残基を意味し、この場合において、芳香族炭化水素残基は、更なる置換基、例えばアルキル基などを示してもよい。
【0033】
基本構造のOH基は、部分的または全体的にエステル化され、OR官能基を生じさせてもよく、式中、Rは再び脂肪族および/または芳香族炭化水素残基を意味し、この場合において、芳香族炭化水素残基は、更なる置換基、例えばアルキル基などを示してもよく、あるいは、部分的または完全に脱プロトン化され、対応する対イオンにより負の全ての電荷が相殺されていてもよい。
【0034】
本発明における用語「亜ホスホン酸エステル」によると、エステル、特に、R-P(OR)型のホスホン酸のジエステルが理解され、式中、Rは脂肪族および/または芳香族炭化水素残基を表わし、これにより、芳香族炭化水素残基は、更なる置換基、例えばアルキル基などを示してもよい。この場合において、亜ホスホン酸エステルは、リン原子を示してもよく、あるいは、対応する脂肪族および/または芳香族炭化水素を介して架橋した数個のリン原子を示してもよい。
【0035】
本発明の範囲内における用語「リン酸エステル」により、塩、部分エステルまたは完全エステルおよびリン酸(HPO)の縮合物が理解される。
【0036】
本発明の目的は、以下のものを含有するポリマー組成物によって、その結果としてもたらされる:
a)透明な熱可塑性合成物質、好ましくはポリカーボネート、ポリスチレン、芳香族ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、PET-シクロヘキサンジメタノールコポリマー(PETG)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、環状ポリオレフィンまたはポリメチルメタクリレート、より好ましくはポリカーボネート、芳香族ポリエステルまたはポリメタクリレート、および特に好ましくはポリカーボネートまたは記載された成分の混合物である、
b)タングステン酸塩、優先的に、Cs0.33WOの群からの少なくとも1種の無機IR吸収剤、
c)少なくとも1種のホスフィン化合物、優先的に、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリアルキルフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィン、またはビスジフェニルホスフィノエタンであり、トリフェニルホスフィン(TPP)が特に好ましい。
【0037】
先行技術に示されるように、無機IR吸収剤に対するホスフィンの安定化作用は未知であり、したがって、これらの系のIR特性を、特定のホスフィン系安定剤により長期に亘って改良できるということは大いに驚くべきことである。
【0038】
本発明に内在する、ポリマー組成物中の無機IR安定剤としてのタングステン酸塩の安定化に関する問題は、タングステン酸塩の安定化、特に長期間の安定化のために、ホスフィン化合物の使用を介して更に解決される。
【0039】
本発明は、本発明による組成物を調製する方法、およびそれらの使用、ならびにそれらから製造される製品に更に関する。
【0040】
本発明によるタングステン酸塩の粒径は、優先的に200nmよりも小さく、特に好ましくは100nmよりも小さい。粒子は、スペクトルの可視領域において透過であり、用語「透過」は、光りの可視領域におけるこれらのIR吸収剤の吸収が、IR領域における吸収と比べて非常に小さく、および、その結果、IR吸収剤が、組成物または個々の最終製品の透過(光りの可視領域における)の明確な減少を増加させず、または不透明性を明確に増加させないことを意味する。
【0041】
b2)型のタングステン酸塩は、非晶質、立方体、正方晶または六角形のタングステン-ブロンズ構造を示し、この場合、Mは好ましくはH、Cs、Rb、K、Tl、Ba、In、Li、Ca、Sr、FeおよびSnを表わす。
【0042】
このような原料を製造するために、タングステントリオキシド、タングステンジオキシド、タングステンオキシドの水和物、タングステンヘキサクロリド、アンモニウムタングステン酸塩またはタングステン酸、および成分Mを含有する所望による更なる塩、例えば炭酸セシウムなどは、各成分のモル比が式Mによって再現されるように、定義された化学量論比で混合される。その後、この混合物は、例えば、アルゴン/水素雰囲気下、減圧下にて100℃〜850℃の間の温度で処理され、最後に得られた粉末を不活性ガス雰囲気下、550℃〜1200℃の間の温度でアニールする。
【0043】
本発明による無機IR-吸収剤ナノ粒子を製造するために、IR吸収剤を、以下に記載の分散剤と混合させてもよく、および更なる有機溶媒、例えばトルエン、ベンゼンまたは同様の芳香族炭化水素などと混合させてもよく、および、所望の粒径分布をもたらすために、適当なミル、例えばボールミルで、酸化ジルコニウム(例えば、0.3mmの直径を有する)の添加の下、破砕してもよい。ナノ粒子は分散形態で得られる。破砕後、更なる分散剤を所望により添加してもよい。昇温および減圧条件にて溶媒を除去する。平均粒径が200nmよりも小さい、特に好ましくは100nmよりも小さいナノ粒子が好ましい。
【0044】
粒子のサイズは、透過形電子分光法(TEM)を用いて測定できる。IR吸収剤ナノ粒子に関するこのような測定は、例えば、Adachi et al,J.Am.Ceram.Soc.2008,91,2897-2902,に記載されている。
【0045】
本発明によるタングステン酸塩の製造は、より詳細には、例えば、EP1801815A1に記載されており、また、それらは、商業的に入手可能であり、例えば、住友金属鉱山社(日本)のYMDS874の名称で入手できる。
【0046】
透明な熱可塑性樹脂における使用に関して、このように得られる粒子は、有機マトリックス、例えばアクリレート中に分散され、および、所望により、上述のように、適当な補助物質、例えば二酸化ジルコニウムを用い、また、所望による有機溶媒、例えば、トルエン、ベンゼンまたは同様の炭化水素を用いて、ミルで破砕される。
【0047】
適当なポリマー系分散剤は、高い光透過を示す上記全ての、分散剤、例えば、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステルまたはポリエステルウレタン、およびそれらから誘導されるポリマーである。
【0048】
分散剤として好ましいものは、ポリアクリレート、ポリエーテルおよびポリエステル系ポリマーであり、この場合、ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレートおよびポリエステルが、高温でも安定な分散剤として特に好ましい。これらのポリマーの混合物またはアクリレート系コポリマーも使用できる。このような分散助剤およびタングステン酸塩分散系を調製する方法は、例えばJP2008214594およびAdachi等によるJ.Am.Ceram.Soz.2007,90,4059-4061に記載されている。
【0049】
本発明に適当な分散剤は、商業的に入手できる。特に、ポリアクリレートに基づく分散剤が適当である。このような適当な分散剤は、例えばチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社から商品名EFKA(登録商標)、例えばEFKA(登録商標)4500およびEFKA(登録商標)4530として入手できる。ポリエステル含有分散剤は、同様に適当である。それらは、例えば、Avecia社から、商品名Solsperse(登録商標)たとえば、Solsperse(登録商標)22000、24000Sc,26000、27000の商品名で入手可能である。さらに、ポリエーテル含有分散剤も既知であり、例えば、クスモト化学により製造されるDisparlon(登録商標)DA234およびDA325の商品名で入手可能である。ポリウレタンに基づく系もまた適当である。ポリウレタンに基づく系は、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社からEFKA(登録商標)4046、EFKA(登録商標)4047の商品名で入手可能である。Texaphor(登録商標)P60およびP63は、コグニスの対応する商品名である。
【0050】
分散剤中のIR吸収剤の量は、本発明に従い採用される無機IR吸収剤の分散体に関して、0.2〜50.0wt%、好ましくは1.0wt%〜40.0wt%、より好ましくは5wt%〜35wt%、および最も好ましくは10wt%〜30wt%である。すぐに使えるIR吸収剤配合に関する全体組成において、超高純度のIR-吸収剤物質と分散剤の更なる補助物質(二酸化ジルコニウム)に加えて、残留溶媒、例えばトルエン、ベンゼンまたは同様の芳香族炭化水素なども含有できる。
【0051】
本発明に係るポリマー組成物中の、本発明によるIR吸収性無機タングステン酸塩の量に関しては、あらゆる種類の制限はない。しかし、タングステン酸塩は、全ポリマー組成におけるタングステン酸塩の固形分として計算される場合、0.0001wt%〜10.0000wt%、好ましくは0.001wt%〜1.000wt%、および特に好ましくは0.002wt%〜0.100wt%の量で、通常使用される。
【0052】
本発明による特定の実施態様において使用される、本発明に係るタングステン酸塩の量は、全ポリマー組成におけるタングステン酸塩の固形分として再び規定される場合、0.009wt%〜0.020wt%、優先的に0.012wt%〜0.018wt%の量となる。用語「タングステン酸塩の固形分」は、この文脈では、超高純度物質としてのタングステン酸塩を意味し、分散液、懸濁液、または超高純度物質を含有する他の調合液を意味しない。これによって、タングステン酸塩含量に関する以下のデータも、他に明確な説明がない限り、常にこの固形分に関連する。
【0053】
これらの濃度は、2mm〜8mm、好ましくは3.5mm〜7.0mm、および特に好ましくは4mm〜6mmの厚さを備える完成品に優先的に適用される。
【0054】
別の実施態様においては、所望により、本発明によるタングステン酸塩に加えて、更なるIR吸収剤をIR吸収剤として付加的に使用できる。しかしながら、このことにおいて、量および/または性能に関するこのような混合物におけるそれらの比率は、上記タングステン酸塩の量をいかなる場合においても下回る。混合物の場合、これに関する組成物は、2から5を含むそれ以下、特に好ましくは2または3種の異なるIR吸収剤を含有することが好ましい。
【0055】
更なるIR吸収剤は、ホウ化物および酸化スズ、特に好ましくはLaBから成る群から優先的に選択され、またはアンチモンドープした酸化スズまたはインジウムスズ酸化物を含有する。
【0056】
本発明による別の実施態様において、本発明に係るポリマー組成物は、金属ホウ化物、例えばランタン六ホウ化物、LaBなどのいかなる種類の無機IR吸収剤を含有しない。
【0057】
別の好ましい実施態様において、付加的なIR吸収剤は、最大吸収領域が種々の最大値によりカバーされるように、使用されるタングステン酸塩の最大吸収に関するスペクトルとは異なる吸収スペクトルを示す。
【0058】
適当な付加的な有機赤外吸収剤は、例えば、M.Matsuoka,「赤外吸収染料」plenum Press, ニューヨーク、1990年における物質分類により記載されている。特に適当なものは、フタロシアニン、ナフタロシアニン、金属錯体、アゾ染料、アントラキノン、スクアリン酸誘導体、インモニウム染料、ペリレン、クォテリレン(quaterylene)およびポリメチンから成る分類からの赤外吸収剤である。これらのうち、特に適当なものは、フタロシアニンおよびナフタロシアニンである。
【0059】
熱可塑性樹脂における改良された溶解性のために、立体的に要求される(sterically demanding)側鎖を備えるフタロシアニンおよびナフタロシアニンが好ましく、それは、例えば、フェニル、フェノキシ、アルキルフェニル、アルキルフェノキシ、tert-ブチル、(-S-フェニル)、-NH-アリール、-NH-アルキルおよび同様の基である。
【0060】
更なる無機IR吸収剤は、例えば、ホウ化物またはニトリドに基づく物質、例えばランタン六ホウ化物などである。
【0061】
さらに、10原子%〜70原子%のフッ素でドープされている、あるいは2原子%〜30原子%、優先的に4原子%〜12原子%のスズ(ITO)でドープされている酸化インジウムなどの化合物を添加できる。
【0062】
特に好ましくは、10原子%〜70原子%のフッ素でドープされている、または2原子%〜60原子%のアンチモン(ATO)でドープされている更なるIR吸収剤と、酸化スズの組合せである。
【0063】
更に、特に適当には、1原子%〜30原子%、優先的に2原子%〜10原子%のアルミニウムでドープされている、あるいは、2原子%〜30原子%のインジウムまたは2原子%〜30原子%のガリウムでドープされている酸化亜鉛である。
【0064】
上記赤外吸収剤の混合物は、特に適当である。なぜならば、当業者は、標的の選択により近赤外領域における吸収の最適化を得ることができるからである。
【0065】
本発明におけるホスフィン化合物は、リン化水素(ホスフィン)の全ての有機誘導体、およびそれらの塩である。ホスフィンの選択に関して制限はなく、ホスフィン化合物は、脂肪族ホスフィン、芳香族ホスフィンおよび脂肪族/芳香族ホスフィンを含む群から好ましく選択される。
【0066】
ホスフィン化合物は一級、二級および三級ホスフィンであってもよい。好ましくは三級ホスフィンが使用され、芳香族ホスフィンが特に好ましく、および三級芳香族ホスフィンが正に特に好ましい。
【0067】
本発明の好ましい実施態様において、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリアルキルフェニルホスフィン、ビスジフェニルホスフィノエタンまたはトリナフチルホスフィンが使用され、これらのうち、トリフェニルホスフィン(TPP)が正に特に好ましく、あるいはこれらのホスフィンの混合物が使用される。
【0068】
原則として、種々のホスフィンの混合物が使用され得る。
【0069】
本発明の特別な実施態様において、本発明に係るホスフィン化合物は、亜リン酸エステルと一緒に使用されるか、またはフェノール系酸化防止剤と一緒に使用されるか、あるいは、2つの最後に記載した化合物の混合物と一緒に使用される。
【0070】
別の特定な実施態様において、熱可塑性ポリマーマトリックス内へ組み込まれる前に、本発明に係るIR吸収剤は、本発明に係るホスフィン安定剤と混合されるか、亜リン酸エステルまたはフェノール系酸化防止剤、あるいは2つの最後に記載した化合物の混合物と一緒に本発明に係るホスフィン化合物を含有する混合物と混合される。
【0071】
ホスフィン化合物の製造及び特性は、当業者に既知であり、また、例えば、EP-A0718354およびウルマンズ工業化学百科事典(Ullmans Encyclopadie der technischen Chemie),第4版、第18巻、第378〜398頁、およびKirl-Othmer,第3版、第17巻、第527〜534頁に記載されている。
【0072】
ポリマー組成物中に含有されるホスフィン化合物の量に関して制限はない。ホスフィンは、全ポリマー組成物の質量に対して、0.0001wt%〜10.0000wt%、特に好ましくは0.01wt%〜0.20wt%の量で優先的に使用される。本発明による特定の実施態様においてホスフィンは、全ポリマー組成物の質量に対して、0.05wt%〜0.15wt%の量で使用される。ホスフィン化合物の帯電に関連して、温度および滞留時間に依存するある加工条件下にて、物質が酸化されることを考慮する。酸化された部分は、タングステン酸塩系の無機IR吸収剤を安定化させるのにもはや利用可能ではない。したがって、工程段階の数および個々の加工条件を考慮しなければならない。
【0073】
最終生成物における未酸化のホスフィン化合物の量は、好ましくは0.01wt%よりも多く、より好ましくは0.02wt%よりも多い。
【0074】
上記ホスフィン安定剤の使用を通じて、ポリマーマトリックス中の、本発明によるタングステン酸塩IR吸収剤、特にCs0.33Woは、長期に亘り安定化でき、およびIR吸収の減少を防ぐことが出来る。この場合において、特に好ましくはトリフェニルホスフィン(TPP)が安定剤として使用される。
【0075】
熱可塑性マトリックスを安定化させるために、上記安定化の効果に悪影響を及ぼさない限り、更なるリン系安定剤を使用できる。
【0076】
ホスフィンが明らかにIR吸収性タングステン酸塩を安定させるのに対して、驚くべきことに、リン酸エステル、リン酸、リン酸誘導体または、これらの化合物から誘導できるまたはこれらの化合物を含有する対応する安定剤は、本発明に係るタングステン酸塩に対してより急速な損傷をもたらし、およびその結果として、IR吸収を減少させることが判明している。
【0077】
適当な付加的な安定剤は、IR吸収剤の耐久性に悪影響を及ぼさずに上記ホスフィンと併用して使用できる、亜リン酸エステルまたはフェノール系酸化防止剤またはそれらの混合物である。商業的に入手可能な適当な製品は、例えば、Iggafos(登録商標)168(トリス-(2,4-ジ−tert−ブチルフェニル)亜リン酸エステル)およびIrganox(登録商標)1076(2,6-ジ−tert−ブチル-4-(オクタデカンオキシカルボニルエチル)フェノール)であり、いずれの場合も単独または組合せてもよい。
【0078】
所望により使用される亜リン酸エステルの量は、好ましくは0.20wt%〜0.01wt%、特に好ましくは0.10wt%〜0.02wt%の量である。所望により使用されるフェノール系酸化防止剤の量は、好ましくは0.100wt%〜0.001wt%、特に好ましくは0.050wt%〜0.005wt%である。
【0079】
好ましい実施態様において、本発明によるポリマー組成物は、紫外線吸収剤を更に含有する。本発明に係るポリマー組成物中での使用に好適な紫外線吸収剤は、400nmより短い場合により低い透過を有し、400よりも長い場合により高い透過を有する化合物である。このような化合物およびその調製法は、文献から公知であり、例えば、欧州特許出願公開第A0839623号公報、国際特許出願公開第WO96/15102号公報および欧州特許出願公開第A0500496号公報に開示されている。本発明に係る組成物中での使用に特に好適な紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール、トリアジン、ベンゾフェノンおよび/またはアリール化シアノアクリレートである。
【0080】
特に好適な紫外線吸収剤は、ヒドロキシベンゾトリアゾール、例えば2-(3',5'-ビス-(1,1-ジメチルベンジル)-2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)234、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、2-(2'-ヒドロキシ-5'-(tert-オクチル)-フェニル)-ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)329、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、2-(2'-ヒドロキシ-3'-(2-ブチル)-5'-tert-ブチル)-フェニル)-ベンゾトリアゾール(Tinuvin(登録商標)350、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、ビス-(3-(2H-ベンゾトリアゾリル)-2-ヒドロキシ-5-tert-オクチル)メタン、(Tinuvin(登録商標)360、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)(フェノール)、(Tinuvin(登録商標)1577、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)など、およびベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン(Chimasorb22(登録商標)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)および2-ヒドロキシ-4-(オクチルオキシ)-ベンゾフェノン(Chimassorb81、チバ、バーゼル)、2-プロペン酸、2-シアノ-3,3-ジフェニル-、2,2-ビス[[2-シアノ-1-オキソ-3,3-ジフェニル-2-プロペニル)オキシ]メチル]-1,3-プロパンジイルエステル(9CI)(Univul(登録商標)3030、BASF AG、ルートヴィッヒシャーフェン)、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-エチルヘキシル)オキシ]フェニル-4,6-ジ(4-フェニル)フェニル-1,3,5-トリアジン(CGX UVA 006, チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、バーゼル)、またはテトラエチル-2,2'-(1,4-フェニレンジメチリデン)ビスマロネート(Hostavin(登録商標)B-Cap,クラリアントAG)
などである。
【0081】
これら紫外線吸収剤の混合物も使用してよい。
【0082】
組成物中に含有される紫外線吸収剤の量に関しては、UV放射の所望される吸収および組成物から製造される成形品の十分な透明性が保証されるのであれば、特に制限されない。本発明の好ましい態様によれば、組成物は、紫外線吸収剤を0.05wt%〜20.00wt%、特に0.07wt%〜10.00wt%の量、および正に特に好ましくは0.10wt%〜1.00wt%の量で含有する。
【0083】
本発明の範囲における透明な熱可塑性の合成物質は、例えば、エチレン性不飽和モノマーのポリマーおよび/または2官能の反応性化合物の重縮合物である。透明な熱可塑性ポリマーの例は、例えば、ジフェノールをベースとするポリカーボネートまたはコポリカーボネート、ポリアクリレート-またはコポリアクリレート、およびポリメタクリレートまたはコポリメタクリレート、例えばポリメチル若しくはコポリメチルメタクリレートなど、そしてスチレンとのコポリマー、例えば、透明なポリスチレンアクリロニトリル(PSAN)、あるいはエチレンおよび/またはプロピレンをベースとするポリマー、芳香族ポリエステル、例えば、PET、PENまたはPETGなど、並びに透明な熱可塑性ポリウレタンである。更に、環式オレフィンをベースとするポリマー(例えば、TOPAS(登録商標)、ティコナ(Ticona)の市販品)、テレフタル酸の重縮合物または共重縮合物、例えばポリエチレンテレフタレートまたはコポリエチレンテレフタレート(PETまたはCoPET)またはPETGを混入してもよい。
【0084】
数種の透明性熱可塑性ポリマーの混合物も適している。好ましくは、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリエステル、ポリカーボネートまたはコポリカーボネートであり、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0085】
特に好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールAをベースとするホモポリカーボネート、1,3-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンをベースとするホモポリカーボネート、およびビスフェノールAと1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの2種のモノマーをベースとするコポリカーボネートである。
【0086】
本発明の範囲におけるポリカーボネートは、ホモポリカーボネートとコポリカーボネートの両者である。ポリカーボネートは、直鎖状であってもよく、既知の方法により枝分かれしていてもよい。
【0087】
ポリカーボネートの製造は、ジフェノール、炭酸誘導体、適当な連鎖停止剤および分岐剤から既知の方法で行われる。
【0088】
ポリカーボネートの調製に関する詳細は、約40年間にわたる多数の特許明細書に開示されている。ここに記載される文献の一例は、例えば、シュネル著、「ポリカーボネートの物理および化学」Polymer Reviews、第9巻、インターサイエンス・パブリッシャーズ、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、1964年、およびディ・フライターグ、ユー・グリゴ・ピー・アール・ミュラー、エイチ・ヌーヴェルン著、バイエルAG、「ポリカーボネート」、エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・エンジニアリング、第11巻、第2版、1988年、第648〜718頁、ならびに、ドレス・ユー・グリゴ、ケイ・キルヒャーおよびピー・アール・ミュラー著、「ポリカーボネート」、ベッカー/ブラウン、クンシュトッフ−ハンドブッフ、第3/1、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエステル、セルロースエステル、カール・ハンサー・フェルラーク、ミュンヘン、ウィーン1992年、第117〜299頁である。
【0089】
ポリカーボネートの調製に好適なジフェノール類は、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス-(ヒドロキシフェニル)-アルカン、ビス-(ヒドロキシフェニル)-シクロアルカン、ビス-(ヒドロキシフェニル)-スルフィド、ビス-(ヒドロキシフェニル)-エーテル、ビス-(ヒドロキシフェニル)-ケトン、ビス-(ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビス-(ヒドロキシフェニル)-スルホキシド、α,α'-ビス-(ヒドロキシフェニル)-ジイソプロピルベンゼン、イサチン誘導体またはフェノールフタレイン誘導体から誘導されるフタルイミジン、およびそれらの環アルキル化および環ハロゲン化化合物である。
【0090】
好ましいジフェノールは、4,4'-ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,4-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-メタン、2,2-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、2,4-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパンおよび1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンである。
【0091】
特に好ましいジフェノールは、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサン、および1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンである。
【0092】
これらおよび他の好適なジフェノールは、例えば、US-A2999825号、US-A3148172、US-A2991273、US-A3271367号、US−A4982014およびUS-A2999846、DE-A1570703、DE-A2063050、DE-A2211956およびDE−A3832396、FR-A1.561.518、シュネルによる単行本、「ポリカーボネートの化学と物理」、インタ−サイエンス出版(Interscience Publishers,ニューヨーク)、1964年、およびJP-A62039/1986、JP-A62040/1986およびJP-A105550/1986号に記載されている。
【0093】
ホモポリカーボネートの場合、1種のジフェノールのみ使用し、コポリカーボネートの場合は、数種のジフェノールを使用する。
【0094】
適当な炭酸誘導体は、例えば、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートである。
【0095】
ポリカーボネートの調製に使用され得る適当な連鎖停止剤は、モノフェノールおよびモノカルボン酸の両者である。適当なモノフェノールは、フェノールそのもの;アルキルフェノール、例えばクレゾール、p-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、p-n-オクチルフェノール、p-イソ-オクチルフェノール、p-n-ノニルフェノールおよびp-イソノニルフェノールなど、ハロフェノール、例えば、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、p-ブロモフェノールおよび2,4,6-トリブロモフェノール、2,4,6-トリヨードフェノール、p-ヨードフェノール、ならびにそれらの混合物である。
【0096】
好ましい連鎖停止剤は、フェノール、クミルフェノールおよび/またはp-tert-ブチルフェノールである。
【0097】
さらに、適当なモノカルボン酸は、安息香酸、アルキル安息香酸およびハロ安息香酸である。
【0098】
さらに、好ましい連鎖停止剤は、直鎖または分岐状のC1〜C30アルキル残基で1度または繰り返して置換されたフェノール、好ましくはtert-ブチルで置換されたまたは未置換のフェノールである。
【0099】
使用される連鎖停止剤の量は、与えられる場合に使用されるジフェノールのモル数に対して、好ましくは0.1モル%〜5モル%の量である。連鎖停止剤の添加は、ホスゲン化の前、ホスゲン化の間、またはホスゲン化の後に行われる。
【0100】
適当な分岐剤は、ポリカーボネート化学において既知の三官能性または三官能性以上の化合物、特に、3または3以上のフェノール性OH基を有するものである。
【0101】
適当な分岐剤は、例えば、フロログルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリ−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス−[4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス−(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシ−フェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、ヘキサ−(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェニル)オルトテレテレフタル酸エステル、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタン、および1,4−ビス((4’,4''−ジヒドロキシトリフェニル)メチル)ベンゼン、ならびに2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌール酸クロライドおよび3,3−ビス−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドールである。
【0102】
所望により使用される分岐剤の量は、付与される場合に使用されるジフェノールのモル数に対して、好ましくは0.05モル%〜2.00モル%の量である。
【0103】
分岐剤は、アルカリ性の水性層中で連鎖停止剤およびジフェノールと共に充填されてもよく、または、ホスゲン化の前に、有機溶媒中に溶解させて充填してもよい。エステル交換法の場合、分岐剤は、ジフェノールと共に使用される。
【0104】
本発明による芳香族ポリカーボネートは、5000〜200000の間、優先的に10000〜80000の間、および特に好ましくは15000〜40000の間に重量平均分子量Mw(ゲル浸透クロマトグラフィおよびポリカーボネート較正による較正によって確認された)を有する(このことは、ポリスチレン標準試薬を用いる較正により確認された、12000〜330000の間、優先的に20000〜135000の間および特に好ましくは28000〜69000の間に概ね相当する)。
【0105】
本発明によるポリマー組成物は、本発明に係る安定剤に加えて、所望による更なる常套のポリマー添加剤、例えば、酸化防止剤、離型剤、防炎加工剤、着色剤、熱安定剤、UV安定剤、またはEP-A0839623、WO−A96/15102、EP-A0500496または「プラスチック添加剤ハンドブック」,Hanz Zweifel,第5版,2000年、Hanser Verlag,ミュンヘンに記載された光学的光沢剤を、個々の熱可塑性材料に対して常套の量で含有でき、これにより、本発明による特定の実施態様において、記載された更なる常套のポリマー添加剤のうち、着色剤を所望により含有するものが特に好ましい。
【0106】
更なるポリマー添加剤は、反応性の全ポリマー組成物の量に対する各事例において、0wt%〜5wt%以下、より好ましくは0.1wt%〜1wt%の量で使用される。複数の添加物質の混合物も適当である。
【0107】
本発明による特定の実施態様において、ポリマー組成物は、リン酸エステル、リン酸誘導体、または、これらの化合物を含有するか形成し得る対応する安定剤を含有しない。
【0108】
本発明の範囲における着色剤または顔料は、硫黄顔料、例えば、カドミウムレッドおよびカドミウムイエローなど、鉄-シアン化物系顔料、例えば、プルシアンブルーなど、酸化顔料、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロム、チタニウムイエロー、亜鉛/鉄系ブラウン、チタン/コバルト系グリーン、コバルトブルー、銅/クロム系ブラックおよび銅/鉄系ブラックなど、またはクロム系顔料、例えば、クロムイエローなど、フタロシアニン由来の染料、例えば、銅フタロシアニンブルーおよび銅フタロシアニングリーンなど、縮合多環染料および顔料、例えば、アゾ系染料および顔料(例えば、ニッケルアゾイエロー)、硫黄インディゴ染料、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン由来、ジオキサジン系、イソインドリノン系およびキノフタロン由来の誘導体、アントラキノン系複素環系である。
【0109】
市販品の具体例は、例えば、MACROLEX(登録商標)Blau RR、MACROLEX(登録商標)Violett 3R、MACROLEX(登録商標)Violett B(ランクセスAG、ドイツ)、Sumiplast(登録商標)Violett RR、Sumiplast(登録商標)Violett B、Sumiplast(登録商標)Blau OR(住友化学株式会社)、Diaresin(登録商標)Violett D、Diaresin(登録商標)Blau G、Diaresin(登録商標)Blau N(三菱化学株式会社)、Heliogen(登録商標)BlauまたはHeliogen(登録商標)Grun(BASF AG、ドイツ)である。
【0110】
これらのうち、シアニン誘導体、キノリン誘導体、アントラキノン誘導体、フタロシアニン誘導体か好ましい。
【0111】
本発明に係る組成物に関して特に適当な離型剤は、例えばペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)またはグリセロールモノステアレート(GMS)である。
【0112】
本発明に係るポリマー組成物を調製する方法は当業者に既知である。
【0113】
熱可塑性合成物質、タングステン化合物から成る群からの無機IR吸収剤、ホスフィン化合物および所望による更なる常套のポリマー添加剤を含有する本発明に係るポリマー組成物の製造は、個々の成分を相互に寄せ集め、混合し、および均質にすることにより、標準的な導入法で行われる。それによって、特に均質化は、好ましくは、融成物をせん断力の作用に曝して行う。相互に寄せ集めることおよび混合することは、事前混合粉末を用いて、融成物の均質化の前に所望により行われる。
【0114】
適当な溶媒中で、混合物の成分の溶液から製造された事前混合物を更に用いてもよく、均質化は、所望により溶液中でもたらされ、その後、溶媒を除去してもよい。
【0115】
特に、これに関連して、本発明に係る組成物におけるIR吸収剤、ホスフィン化合物、紫外線吸収剤及び他の添加剤は、既知の方法により導入されてもよく、またはマスターバッチにより導入されてもよい。
【0116】
マスターバッチの使用が好ましく、特に、IR吸収剤を導入する目的に対して好ましい。これにより、分散剤、優先的に、ポリアクリレート系、ポリエーテル系若しくはポリエステル系分散剤、これらのうち優先的に高温安定性の分散剤、例えばポリアクリレート(ホモポリマーまたはコポリマー)、例えば、ポリメチルメタクリレートなど、および/またはポリエステルあるいはそれらの混合物を含有し、さらに、補助物質、例えば、二酸化ジルコニウムおよび所望による残留溶媒、例えばトルエン、ベンゼンまた同様の芳香族炭化水素を含有し、すぐに使えるIR-吸収剤配合物の形態でIR吸収剤が導入されている、ポリカーボネート系マスターバッチが特に使用される。対応するIR吸収剤配合物と組合せてこれらのマスターバッチを使用することにより、ポリマー組成物中におけるIR吸収剤の凝集を効果的に防ぐ。
【0117】
これに関連して、組成物は、相互に導入され、混合され均質化され、その後、常套の装置、例えばスクリュー押出機(例えば、二軸押出機)、ニーダー、ブラベンダーミルまたはバンバリーミルなどで押出すことができる。押出の後、押出物を冷却して粉砕できる。個々の成分を予め混合させて、次いで、残りの初期材料をそれぞれ添加してもよくおよび/または同様に混合してもよい。
【0118】
特定の実施態様において、熱可塑性ポリマーマトリックス内へ組み込まれる前に、マスターバッチを形成するために、本発明に係るIR吸収剤を、本発明に係るホスフィン安定剤と混合させ、または亜リン酸エステルもしくはフェノール系酸化防止剤もしくは2つの最後に記載した化合物の混合物と共に本発明に係るホスフィン化合物を含有する混合物と混合させる。好ましくは、混合は、融成物をせん断力の作用にさらして行われる(例えば、ニーダーまたは二軸押出機を用いて行われる)。この方法は、配合する間にIR吸収剤が既に保護され、IR吸収剤に対する損傷が避けられるという利点をもたらす。マスターバッチを製造するために、最終的な全ポリマー組成物の主成分を構成する熱可塑性合成物質がポリマーマトリックスの目的で好ましく選択される。
【0119】
この方法で調製されるマスターバッチは、以下のものを含有する:
a. 85.00wt%〜98.89wt%、好ましくは93.00wt%〜98.89wt%の透明な熱可塑性合成物質;
b. 0.1wt%〜2.0wt%の無機IR吸収剤としてのタングステン酸塩、優先的にCs0.33WO;および
c. 1.0wt%〜4.8wt%の分散剤、
d. 0.01wt%〜0.20wt%のホスフィン系安定剤、優先的にトリフェニルホスフィン(TPP)、
e. 所望による0〜8.0wt%の少なくとも1種の更なる補助物質および/または添加剤、例えば、二酸化ジルコニウムなど、
ただし、成分a〜eの合計は100wt%となる。
【0120】
好ましい実施態様において、無機IR吸収剤はアクリレートマトリックス中に存在する。別の好ましい実施態様において、透明な熱可塑性合成物質はポリカーボネートである。別の好ましい実施態様は安定剤としてトリフェニルホスフィン(TPP)をもたらす。
【0121】
本発明によるポリマー組成物は、例えば、まず、ポリマー組成物を記載されたように粒状に押出し、この粒状体を適当な方法により既知の方法で種々の製品または成形品へと加工することにより、製品または成形品へと加工できる。
【0122】
これに関連して、本発明に係る組成物は、例えば、ホットプレス、スピニング、ブロー成形、熱成形、押出または射出成形により、製品もしくは成形品、成形物、例えば、玩具部品、繊維、フィルム、テープ、シート、例えばソリッドシート、多層シート、2層シートまたは波形シートなど、容器、チューブまたは他の物品へと変換できる。また、興味深いことは、多層系の使用である。適用は、例えば、共押出または多成分射出成形により、基体の成形直後または同時に行われる。しかし、予め成形した基体上へ施すことも、例えば、フィルムでラミネーションすることまたは溶液でコーティングすることにより行うことができる。
【0123】
しかしながら、基層と所望による最上層からなるシートは、(共)押出により好ましく製造される。
【0124】
押出のために、(所望により、例えば乾燥によって予め処理された)ポリマー組成物は、押出機に供給され、押出機の可塑化システムで融解される。次いで、プラスチック融成物はスリットダイまたは多層シートダイを介して押出され、その工程において、変形され、平滑カレンダーのローラー間隙で所望の最終的な形態にもたらされ、次いで、周囲空気の条件下、平滑ローラーで相互に冷却することにより形態を固定させる。ポリマー組成物を押出加工するのに必要な温度が設定され、これにより、製造者の指示は通常継続できる。ポリマー組成物が、例えば、高い溶融粘度を有するポリカーボネートを含有する場合、これらは、通常、260℃〜320℃の溶融温度で加工され、可塑化シリンダーのシリンダー温度およびダイ温度も対応して調整される。
【0125】
1種以上の補助押出機とマルチマニホールドダイ、またはスリットダイ上流の所望による適当な溶融アダプターの使用を介して、種々の組成物の熱可塑性融成物を積み重ねることができ、そしてその結果、多層シートまたはフィルムが生成される(共押出しに関して、例えばEP-A0110221、EP−A0110238およびEP−A0716919を参照;アダプターおよびダイに関する方法の詳細に関して、ヨハンナバー及びアスト著「プラスチック機能ガイドブック」ハンサー出版(ドイツ)、2000年;およびプラスチック工業協会編:「共押出フィルム/プレート:将来の展望、要望、設備と生産、品質保全」VDI出版(ドイツ)、1990年を参照)。
【0126】
本発明に関連して好ましい製品または成形品は、本発明に係る組成物を含有するシート、フィルム、板ガラス、例えば車の窓、車のサンルーフ、パノラミックルーフ、屋根ふき材または建造物板ガラスである。これに関連して、2層シートまたは多層シートからなるものが使用され得る。本発明による製品における更なる成分を用いることで、本発明による組成物に加えて、例えば更なる材料部分が、本発明による製品に含有され得る。例えば、板ガラスは、板ガラスの端にてパッキング部分を示してもよい。屋根ふき材は、例えば屋根ふき要素を締めるまたは案内する役割を果たすねじ、金属ピンまたは同様のもの等の金属要素を示してもよい。さらに、他の材料を、例えば2成分系射出成形機により本発明に係る組成物と組合せることができる。したがって、IR吸収能を備える対応する要素は、例えば、接着に役立つ端を施されても良い。
【0127】
本発明によるポリマー組成物を含有する物品は、5%未満、好ましくは4%未満の不透明度を有する。
【0128】
さらに、物品は、好ましくは80%未満のTDS値を示す(TDS:直射太陽透過率;この値は、4mmの厚さを有する光学的なカラーサンプルシートに関して測定される。総透過率TDSの算出はISO13837、計算規定「A」に従いおこなわれる)。
【0129】
特定の実施態様において、物品は、本発明による組成物によって被覆される。このコーティングは、一般的な風化の影響(例えば日光による損傷)に対して熱可塑性材料を保護する機能を果たし、および、表面の機械的な損傷(例えばひっかき傷)に対して熱可塑性材料を保護する機能を果たし、その結果として、関連する最終物品の耐久性を増加させる。
【0130】
ポリカーボネートは、種々のコーティングを用いることによりUV放射に対して保護できる。通常、これらのコーティングはUV吸収剤を含有する。また、これらの層は関連する物品の引掻き抵抗性を増加させる。本発明に起因する物品は、単層または多層系を有する。それらは、片側または両側を被覆できる。好ましい実施態様において、物品は、UV吸収剤含有の耐引っ掻き性ラッカーを有する。
【0131】
板ガラス材料の場合、物品は、少なくとも片側に、少なくとも1種の耐引っ掻きまたは反射防止コーティングを有する。
【0132】
コーティング、例えば反射防止コーティングの調製は、種々の方法を介して行うことができる。例えば、コーティングは蒸着の種々の方法を介して、例えば電子ビーム法、抵抗加熱法およびプラズマ蒸着を介して、または種々のスパッタリング法、例えば高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングなど、DC,RF、HCD法を用いるイオンメッキ、反応性イオンメッキなど、または化学蒸着を介してもたらされてもよい。さらに、反射防止コーティングを、溶液から施すことが出来る。
【0133】
したがって、シリコーン系ラッカーの場合、高い屈折率を有する金属酸化物、例えばZrO、TiO、Sb、またはWOなどの分散系を介して、コーティングプラスチック物品に適している、対応するコーティング溶液を調製でき、また、熱的に硬化できあるいはUV支援法で硬化できる。
【0134】
プラスチック物品上に耐引っ掻きコーティングを製造するための様々な方法が知られている。例えば、エポキシ系、アクリル系、ポリシロキサン系、コロイダルシリカゲル系、または無機/有機(ハイブリッド系)に基づくラッカーを使用できる。これらの系は、例えば、ディッピング法、スピンコーティング、噴霧法またはフローコーティングを介して行なえる。硬化は、熱的にまたはUV放射を用いて行なえる。単層または多層系を使用できる。耐引っ掻きコーティングは、例えば、プライマーを用いて基体表面の調製後または直接的に施すことができる。更に、耐引っ掻きコーティングは、プラズマ補助重合法、例えばSiOプラズマを介して施すことができる。カブリ防止または反射防止コーティングは、プラズマ法を介して同様に製造できる。さらに、ある種の射出成形法、例えば、表面処理フィルムの後ろ注入を介して、得られる成形品上に耐引っ掻きコーティングを施すことが可能である。例えば、種々の添加剤、例えば、トリアゾールまたはトリアジンから誘導されるUV吸収剤を、耐引っ掻き層に存在させてもよい。さらに、有機または無機性のIR吸収剤を含有してもよい。これらの添加剤は、耐引っ掻きラッカー自体に含有されてもよく、またはプライマー層に含有されてもよい。耐引っ掻き層の厚さは1μm〜20μm、好ましくは2μm〜15μmである。1μmを下回ると、耐引っ掻き層の耐久性が不十分である。20μmを上回ると、ラッカーにおける亀裂がより高頻度で生じる。射出成形物品の完全な加工後、好ましくは、本発明に記載される本発明によるベース材料は、上記耐引っ掻き層および/または反射防止層を付与される。なぜならば、適用の好ましい分野は、窓ガラスまたは自動車板ガラスに位置するからである。
【0135】
ポリカーボネートに関して、耐引掻性ラッカーの接着性を改良するために、UV吸収剤を含有するプライマーが好ましく使用される。プライマーは、更なる安定剤、例えばHALS系(立体障害アミンに基づく安定剤)、カップリング剤、流動助剤などを含有してもよい。各樹脂は多数の材料から選択でき、および例えば、「ウルマンズ工業化学百科事典」、第5版、第.A18巻、第368頁〜第426頁、VCH、ワインハイム1991年に記載されている。ポリアクリレート、ポリウレタン、フェノール系、メラミン系、エポキシおよびアルキド系またはこれらの系の混合物が使用できる。樹脂は、一般に、適当な溶媒中に溶解され、多くの場合、アルコール中に溶解される。選択される樹脂に依存して、硬化は、室温または昇温条件下で行うことができる。50℃〜130℃の間の温度が好ましく使用され、溶媒の大部分を室温で簡単に除去したのちに施されることが多い。商業的に入手可能な系は、例えば、Momentive Performance Material社により製造されたSHP470、SHP470FT2050およびSHP401である。このようなコーティングは、例えばUS6350512B1、US5869185、EP1308084、WO2006/108520に記載されている。
【0136】
耐引掻性きラッカー(ハードコート)は、好ましくは、シロキサンから構成され、好ましくはUV吸収剤を含有する。それらは、好ましくは、ディッピング法または流動法を介して施される。硬化は、50℃〜130℃の温度で行われる。商業的に入手可能な系は、例えば、Momentive Performance Material社製のAS40000、SHC5020、およびAS4700である。このような系は、例えば、US5041313、DE3121385、US5391795、WO2008/109072に記載されている。これらの材料の合成は、通常、アルコキシシランおよび/またはアルキルアルコキシシランを酸触媒または塩基触媒に曝す縮合により行われる。所望により、ナノ粒子を導入できる。好ましい溶媒は、アルコール、例えば、ブタノール、イソプロパノール、メタノール、エタノールおよびそれらの混合物である。
【0137】
プライマーと耐引っ掻きコーティングの組合せの代わりに、1成分ハイブリッド系を使用できる。これらは、例えば、EP0570165またはWO2008/071363またはDE2804283に記載されている。商業的に入手可能なハイブリッド系は、例えば、Momentive Performance Material社からPHC587またはUVHC3000の名前で入手できる。
【実施例】
【0138】
以下において、本発明は、例となる実施例に基づきより詳細に説明される。これによって、ここに記載された測定法は、逆の記載がない限り、本発明による全ての対応量に適用されることが判る。
【0139】
メルトボリューム-フローレート(MVR)の測定は、ISO1133(300℃にて、1.2kg)に従い行う。
【0140】
DS値(直射太陽透過率)の測定:
透過および反射の測定は、光度計球を備えるPerkin Elmer Lambda900スペクトル光度計でおこなった(すなわち、拡散と直接透過の測定、および拡散と直接反射の測定により全透過を算出する)。全ての値は、320nm〜2300nmで測定された。
【0141】
全透過TDSの計算は、ISO13837、計算規定「A」に従い行われた。
【0142】
試験片の蓄熱は、循環空気オーブン中で行う。蓄熱は、110℃にて行った。測定値から、換算値中の変化率を算出した。結果を表1に示す。
【0143】
試験片を製造するために、ISO1133に従い300℃および1.2kgの加重で12cm/10分のメルトボリュームインデックス(MVR)を有する、バイエルマテリアルサイエンスにより製造された、添加剤を含有しないポリカーボネートMakrolon2608(直鎖状のビスフェノールAポリカーボネート)を使用した。
【0144】
添加剤の配合は、表1において規定された添加剤量を用い、100rpmの回転速度、270℃の溶融温度、および260℃のケーシング温度にて、KrausMaffei Berstorff製のZE25型の2軸押出機を用いて行った。
【0145】
粒子を、真空条件下、120℃にて3時間乾燥させ、続いて、60mm×40mm×4mm寸法を有する色彩サンプルシート(colour-sample sheet)を形成するために、90℃の金型温度、および300℃の溶融温度にて、25の射出装置を有する、Arburg370型の射出成形機を用いて加工した。
【0146】
セシウムタングステン酸塩(Cs0.33WO)分散体(住友金属鉱山(日本)により製造されたYMDS874)をIR吸収剤として使用し、分散体のセシウムタングステン酸塩の固形分は、合計25wt%に達する。実施例における重量データは、超高純度物質としてのセシウムタングステン酸塩に関する。
【0147】
無機IR吸収剤を安定化するための安定剤に、以下の化合物を使用した:
T1:トリフェニルホスフィン(TPP、シグマ-アルドリッヒ、82018 Taufkirchen、ドイツ)
T2:tris-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)亜リン酸エステル(Irgafos(登録商標)168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、バーゼル、スイス)
T3:1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(シグマ-アルドリッヒ、82018 Taufkirchen、ドイツ)
T4:トリ-o-トリルホスフィン(シグマ-アルドリッヒ、82018 Taufkirchen、ドイツ)
【0148】
例1(参考例)
Makrolon(登録商標)2608を、上述のようにして、0.015wt%のセシウムタングステン酸塩、Cs0.33WO(0.060wt%のYMDS874分散体に相当する)と混合させる。蓄熱の結果を表1に記載する。
【0149】
例2(参考例)
Makrolon(登録商標)2608を、上述のようにして、0.015wt%のセシウムタングステン酸塩、Cs0.33WO(0.060wt%のYMDS874分散体に相当する)、および0.1wt%のIrgafos168と混合させる。蓄熱の結果を表1に記載する。
【0150】
例3(本発明による)
上記条件下、0.015wt%のセシウムタングステン酸塩、Cs0.33WO(0.060wt%のYMDS874分散体に相当する)、および0.1wt%の1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンに、Makrolon(登録商標)2608を添加する。
【0151】
例4(本発明による)
Makrolon(登録商標)2608を、上述のようにして、0.015wt%のセシウムタングステン酸塩、Cs0.33WO(0.060wt%のYMDS874分散体に相当する)、および0.1wt%のトリフェニルホスフィン(TPP)と混合させる。蓄熱の結果を表1に記載する。
【0152】
例5(本発明による)
上記条件下、0.015wt%のセシウムタングステン酸塩、Cs0.33WO(0.060wt%のYMDS874分散体に相当する)、および0.1wt%のトリ-o-トリルホスフィンに、Makrolon(登録商標)2608を添加する。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
本発明に係る組成物から製造された試験片は、本発明によらない組成物と比べて、ΔTDSにおいてより少ない変化を示す。110℃にて1000時間の熱劣化の後であっても、本発明に係る組成物は良好なIR吸収特性を示す。驚くべきことに、ホスフィンに基づかない他の熱安定剤の添加は、IR吸収特性において明確な改良を示さない(例2)。本発明による組成物のTDS値は、参考例の値と比べて、蓄熱前の初期値と比較した蓄熱後の値がほとんど増加しておらず、蓄熱後の良好なIR吸収特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも一種の透明な熱可塑性合成物質;
b.無機IR吸収剤としてのセシウムタングステン酸塩;および
c.少なくとも1種のホスフィン系安定剤;
を含有するポリマー組成物。
【請求項2】
安定剤が、脂肪族ホスフィン、芳香族ホスフィンおよび脂肪族/芳香族ホスフィンから成る群から選択されるホスフィンであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
安定剤が、トリフェニルホスフィン、トリアルキルフェニルホスフィン、ビスジフェニルホスフィノエタン、トリナフチルホスフィンおよびこれらのホスフィンの混合物を含む群から選択されるホスフィンを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ホスフィン化合物が、全組成物に対して、0.01wt%〜0.20wt%の量で含有されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
タングステン酸塩に基づく固形分を有する赤外吸収剤が、全組成物に対して、0.0001wt%〜10.0000wt%の量で含有されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
透明な熱可塑性材料が、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートおよびコポリカーボネートを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、ホウ化物および酸化スズからなる群から優先的に選択される、少なくとも1種の更なるIR吸収剤を含有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
組成物が、紫外線吸収剤、着色剤、離型剤、防炎加工剤および熱安定剤から成る群からの少なくとも1種の化合物を更なる成分として含有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
以下のものを含有するマスターバッチ:
a. 85.00wt%〜98.89wt%、好ましくは93.00wt%〜98.89wt%の透明な熱可塑性合成物質;
b. 0.1wt%〜2.0wt%の無機IR吸収剤としてのタングステン酸塩、優先的にCs0.33WO;および
c. 1.0wt%〜4.8wt%の分散剤、
d. 0.01wt%〜0.20wt%のホスフィン系安定剤、優先的にトリフェニルホスフィン、
e. 所望による0〜8.0wt%の少なくとも1種の更なる補助物質および/または添加剤、例えば、二酸化ジルコニウムなど、
ただし、成分a〜eの合計は100wt%となる。
【請求項10】
無機IR吸収剤がアクリレートマトリックス中に存在し、透明な熱可塑性合成物質がポリカーボネートであり、および安定剤がトリフェニルホスフィンであることを特徴とする、請求項9に記載のマスターバッチ
【請求項11】
以下のものを含有するポリマー組成物:
a.少なくとも一種の透明な熱可塑性合成物質;
b.無機IR吸収剤としてのタングステン酸塩;
c.少なくとも1種のホスフィン系安定剤;および
d.少なくとも1種の亜リン酸エステル系安定剤。
【請求項12】
ポリマー組成物中における、IR吸収剤としてのタングステン酸塩を安定化させるためのホスフィンの使用。
【請求項13】
ホスフィンがトリフェニルホスフィン(TPP)であり、タングステン酸塩がCs0.33WOであり、およびポリマーがポリカーボネートであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
自動車板ガラスおよび建築用板ガラスを製造するための、請求項1から11に記載のポリマー組成物の使用。
【請求項15】
以下の工程を含む、請求項1から8または11のいずれか1つに記載のポリマー組成物を調製する方法:
a)以下のものを含有するマスターバッチの調製
-熱可塑性ポリマー、
-IR吸収剤としてのアクリレートマトリックス中のタングステン酸塩、
-ホスフィン系安定剤、
b)押出機を用いて組成物の成分を混合し、該混合の間に透明な該熱可塑性合成物質を融解させる。

【公表番号】特表2013−513708(P2013−513708A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543621(P2012−543621)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069317
【国際公開番号】WO2011/082940
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】