説明

熱放射性塗料及び構造体

【課題】電気・電子・自動車等の分野のパワーデバイス、特に高出力インバーター、高出力モーター等の分野での使用される種々冷却方法としてフィラーを含まず耐熱性に優れ、同時に熱放射性に優れた熱放射性樹脂、及び該熱放射性樹脂を塗工乾燥硬化して成る構造体を提供すること。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


(式中、m、nは平均値で、0.005≦n/(m+n)<1を示し、また、m+nは0〜230の正数である。Arは2価の芳香族基、Arはフェノール性水酸基を有する二価の芳香族基、Arは二価の芳香族基を示す)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、硬化触媒(C)の合計100重量部に対して有機溶媒(D)を30〜2000重量部含有することを特徴とする熱放射性塗料

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性に優れた塗料、及び該塗料の塗工された構造体に関する。より詳細には、熱の蓄積しやすい物体に塗布することにより塗膜を形成し、その塗膜によって蓄積した熱を放出しやすくすることにより、物体の温度上昇を抑える作用を持つ熱放射性に優れた電気絶縁性塗料、及び該電気絶縁性塗料を金属熱伝導体に塗工して得られる構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年モーターや半導体モジュールなどの電気・電気機器においては機器のパワーアップに伴い、作動時の発熱が大きな問題となっている。この熱を適切に除去することが出来ず機器の温度が上昇した場合、機器の能力が低下する他、機器の寿命を短くする事さえある。
遠赤外線放射用塗料は古くから知られており、例えば遠赤外線ヒーターなどの発熱体の熱効率を高めるために用いられている。これらの塗料は酸化アルミニウムやチタン、ケイ素、ジルコニウム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、マンガン、クロムなどの無機酸化物フィラーをバインダーに分散させたものが殆どである。バインダーとしてはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、リン酸塩、ケイ酸塩などが用いられている。(特許文献1)
アクリル樹脂やエポキシ樹脂をバインダーに用いた場合は、耐熱性が高くても150℃前後であり、長期間高温下で使用した場合、塗膜が劣化し剥離するといった問題がある。また、無機フィラーを分散させた場合フィラーの比重が高いとフィラーの沈降が生じ、塗膜表面が不均一になるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−136848
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無機フィラーを使用しなくても、耐熱性、絶縁性に優れしかも塗工仕上げ面の平滑な熱放射性塗料を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造のポリマーおよびエポキシ樹脂からなる樹脂組成物を用いて製造された塗料が、上記目的を満たすものであることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)下記式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、m、nは平均値で、0.005≦n/(m+n)<1を示し、また、m+nは0〜230の正数である。Arは2価の芳香族基、Arはフェノール性水酸基を有する二価の芳香族基、Arは二価の芳香族基を示す)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、硬化触媒(C)の合計100重量部に対して有機溶媒(D)を30〜2000重量部含有することを特徴とする熱放射性塗料、
(2)式(1)の化合物におけるArがフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、フマル酸からなる群から選ばれる1種以上の酸の残基、Arが5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸からなる群から選ばれる1種以上の酸の残基、及びArが3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上のアミンの残基である上記(1)記載の熱放射性塗料、
(3)無機フィラーを含有しない上記(1)または(2)記載の熱放射性塗料、
(4)熱伝導体及びその再外面に上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の熱放射性塗料を塗工乾燥、硬化した層を有する構造体、
(5)熱放射性塗料層の厚さが0.5〜300μmである上記(4)の構造体、
に関するものである。
なお、本明細書において「酸の残基」及び「アミンの残基」は、ジカルボン酸とジアミンの脱水縮合により形成される、当業者における技術常識である残基構造を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明による塗膜の耐熱性は250℃と非常に高く、熱放熱性に優れる他、絶縁性に優れ、無機フィラーを含まないために塗膜物性が不均一化することが無く表面平滑性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明においては、成分(A)であるフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂を成分(B)であるエポキシ樹脂の硬化剤として使用する。成分(A)のポリアミド樹脂は、例えば特開2006−124545号公報の記載に準じて合成することができる。以下に本発明において使用する成(A)の製法につき詳細に説明する。
【0011】
成分(A)の芳香族ポリアミド樹脂の製造においては、下記芳香族ジアミン(式(A))を、芳香族ジカルボン酸(式(B)及び必要により式(C))の総モル数に対して過剰になるように仕込んで縮合する。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中Arは二価の芳香族基を表す。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中Arはフェノール性水酸基を有する二価の芳香族基を表す。)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中Arは二価の芳香族基を表す。)
【0018】
式(A)で表される芳香族ジアミンの例としてはジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、ジアミノフェノール、ジアミノメチルベンゼン、ジアミノメシチレン、ジアミノクロロベンゼン、ジアミノニトロベンゼンまたはジアミノアゾベンゼン等のジアミノベンゼン類;ジアミノナフタレン等のジアミノナフタレン類;ジアミノビフェニルまたはジアミノジメトキシビフェニル等のジアミノビフェニル類;3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテルまたはジアミノジメチルジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエール類、メチレンジアニリン、メチレンビス(メトキシアニリン)、メチレンビス(ジメトキシアニリン)、メチレンビス(エチルアニリン)、メチレンビス(ジエトキシアニリン)、メチレンビス(エトキシアニリン)、メチレンビス(ジエトキシアニリン)、メチレンビス(ジブロモアニリン)、イソプロピリデンジアニリンまたはヘキサフルオロイソプロピリデンジアニリン等のアニリン類、ジアミノベンゾフェノン等のジアミノジメチルベンゾフェノン等のジアミノベンゾフェノン類;ジアミノアントラキノン、ジアミノジフェニルチオエーテル、ジアミノジフェニルスルホキシドやジアミノフルオレンなどが挙げられ、中でも3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。芳香族ジアミンの使用量は、下記する芳香族ジカルボン酸1モルに対して、通常1.001〜1.5モルである。
【0019】
式(B)のフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸の例としては、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸等のヒドロキシイソフタル酸、ジヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシイソフタル酸類;ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸等のヒドロキシテレフタル酸類等が挙げられ、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸が好ましい。式(C)のフェノール性水酸基を有しない芳香族ジカルボン酸の例としてはフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のフタル酸類、ベンゼン二酢酸、ベンゼンジプロピオン酸、ビフェニルジカルボン酸、オキシジ安息香酸、チオジ安息香酸、ジチオジ安息香酸、ジチオビス(ニトロ安息香酸)、カルボニルジ安息香酸、スルホニルジ安息香酸、ナフタレンジカルボン酸、メチレンジ安息香酸、イソプロピリデンジ安息香酸、ヘキサフルオロイソプロピリデン安息香酸等の安息香酸類、ナフタレンジカルボン酸、ピリジンジカルボン酸などが挙げられ、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、フマル酸が好ましい。成分(A)の芳香族ポリアミド樹脂においては、これら芳香族ジカルボン酸のうち、式(B)の芳香族ジカルボン酸を必須とするが、式(C)の芳香族ジカルボン酸を併用するほうが、硬化物に柔軟性を与えやすく、好ましい。併用する場合、式(B)と式(C)の芳香族ジカルボン酸の構造は、両者ともイソフタル酸骨格を有する組み合わせが好ましい。式(B)のジカルボン酸と式(C)の芳香族ジカルボン酸は、ジカルボン酸成分中に水酸基が含まれる割合が通常0.5モル%以上、好ましくは1モル%以上、特に好ましくは、5モル%以上となる範囲で両者を使用する。なお、以下において単に芳香族ジカルボン酸といった場合は、式(B)と式(C)の芳香族ジカルボン酸の両者をさす。
また、前記芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸において、好ましい化合物の組み合わせは、更に好ましい。
【0020】
芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンの縮合反応は、縮合剤としての芳香族亜リン酸エステルの存在下に行う。また、この際ピリジン誘導体を触媒として使用するのが好ましい。
【0021】
ここで用いられる芳香族亜リン酸エステルとしては、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリ−o−トリル、亜リン酸ジ−o−トリル、亜リン酸トリ−m−トリル、亜リン酸ジ−m−トリル、亜リン酸トリ−p−トリル、亜リン酸ジ−p−トリル、亜リン酸トリ−p−クロロフェニルなどが挙げられる。芳香族亜リン酸エステルの使用量は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸の合計1モルに対して、通常0.6〜1.5モル、好ましくは0.7〜1.2モルである。
【0022】
ピリジン誘導体としては、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジンなどが挙げられる。ピリジン誘導体の使用量は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸の合計1モルに対して、通常1.0〜5.0モル、好ましくは2.0〜4.0モルである。
【0023】
また、より大きい分子量の芳香族ポリアミド樹脂を得るために、塩化リチウム等の無機塩類を添加し反応を行うこともできる。無機塩類の使用量は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸の合計1モルに対して、通常0.01〜0.5モル、好ましくは0.05〜0.3モルである。
【0024】
反応は溶媒中に芳香族ジカルボン酸、芳香族ジアミン及び縮合剤並びに必要によりピリジン誘導体及び無機塩類を仕込んで行う。溶媒としては、芳香族ポリアミド樹脂と溶媒和を起こす溶媒であれば特に制限は無いが、具体例としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等やこれらの混合溶媒が挙げられるが、特にN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。また溶媒の使用量は、生成する芳香族ポリアミド樹脂の濃度が2〜50重量%となる量が好ましいが、生産効率と操作性の良い溶液粘度とを考慮すると5〜30重量%となる量が特に好ましい。縮合反応における反応温度は通常60〜150℃、好ましくは70〜120℃、反応時間は通常1〜15時間、好ましくは2〜10時間である。
【0025】
こうして得られる芳香族ポリアミドは通常下記式(1)で表される。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、m、nは平均値で、0.005≦n/(m+n)<1を示し、また、m+nは0〜230の正数である。Arは2価の芳香族基、Arはフェノール性水酸基を有する二価の芳香族基、Arは二価の芳香族基を示す)
【0028】
上記式(1)において、mとnの値は芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸の仕込み比によって決定され、通常平均値でn+m=0〜230であり、好ましくは5〜150である。
【0029】
この、好ましい平均重合度を有する芳香族ポリアミド樹脂の固有粘度値(30℃における0.5g/dlのN,N−ジメチルアセトアミド溶液で測定)は0.1〜4.0dl/gの範囲にある。一般に好ましい平均重合度を有するか否かは、固有粘度を参照することにより判断する。固有粘度が0.1dl/gより小さいと、成膜性や芳香族ポリアミド樹脂としての性質出現が不十分であるため、好ましくない場合がある。逆に固有粘度が4.0dl/gより大きいと、重合度が高すぎ溶剤溶解性が悪くなり、かつ成形加工性が悪くなるといった問題が発生する恐れがある。
【0030】
成分(A)の製造方法では、縮合反応終了後に反応系内に水を添加し、芳香族亜リン酸エステルを加水分解する。水の添加は、撹拌下に通常60〜110℃、好ましくは70〜100℃に加熱して行う。水の添加は撹拌下において油層と水層とが層分離を起こし始めるまで続けるが、反応液の総重量に対して通常10〜230重量%、好ましくは20〜150重量%で充分である。なお、加水分解が充分行われるように、水の添加は必要量全量を一度に添加するのではなく、通常、30分〜15時間、好ましくは1〜10時間かけて滴下するのが好ましい。この水の滴下工程において芳香族亜リン酸エステルは、リン酸イオン及びフェノール類へ加水分解される。
【0031】
層分離が始まった時点で撹拌を止め静置し、上層(水層)と下層(樹脂を含む油層)とに分離した時点で、上層の水層を除去する。この場合、通常油層は粘度が高くスラリー状になっているのでデカンテーションなどによって容易に水層は除去できる。またポンプなどで系外に送液することも可能である。水層中にはリン酸、亜リン酸、触媒、フェノール類、ピリジン誘導体などの不純物及び溶剤の一部が含まれている。
【0032】
水層を除去して残された油層は溶剤も一部取り除かれており、粘度が上昇して扱いにくいため、再度有機溶剤を加えて希釈する。この場合使用し得る有機溶剤はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどである。使用する溶剤の量は粘度が十分に下がる範囲であれば特に規定はされないが、通常油層の重量に対して5〜100重量%であり、好ましくは10〜80重量%である。
【0033】
次いで、希釈された油層を貧溶媒に加え芳香族ポリアミド樹脂を析出させる。貧溶媒としては芳香族ポリアミド樹脂と溶媒和を起こし難い液体であれば特に制限は無いが、具体例としては水、メタノール、エタノールなどやこれらの混合溶媒が挙げられる。その使用量は析出した芳香族ポリアミド樹脂が操作上問題なく濾別できる範囲で出来るだけ少量であることが望ましく、反応に用いられた溶媒(前記希釈溶媒も含む)1重量部に対して0.5〜50重量部が好ましく、特に1〜10重量部が好ましい。
【0034】
希釈された油層と貧溶媒の混合は反応液中に撹拌下で貧溶媒を徐々に添加しても良いし、貧溶媒中に撹拌下で油層の希釈液を添加しても良い。送液ポンプ、コンプレッサー及び2流体ノズル、あるいは送液ポンプ及び1流体ノズルを用いて油層の希釈液を貧溶媒中に噴霧する方法は、適度な粒径の芳香族ポリアミド樹脂が容易に析出するため好ましい。油層の希釈液と貧溶媒の混合を行う温度は通常0〜100℃、好ましくは20〜80℃である。
【0035】
貧溶媒との混合により析出した芳香族ポリアミド樹脂は、濾別により単離され、水でケーキ洗浄することによりイオン性不純物が除去される。このケーキを乾燥することにより芳香族ポリアミド樹脂が得られるが、更に水溶性有機溶剤で洗浄することによりイオン性不純物をより低減することが出来る。
【0036】
使用できる水溶性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類やアセトンなどが挙げられ、これらは単独で、または混合して用いられるが、メタノールが特に好ましい。
【0037】
水溶性有機溶剤での洗浄は、上記で濾別により単離されたポリアミド樹脂ケーキを濾過器上で洗浄しても効果があるが、ウエット状態、すなわち良溶媒と貧溶媒を含んだ芳香族ポリアミド樹脂ケーキまたはこのケーキをいったん乾燥により良溶媒及び貧溶媒を除いた芳香族ポリアミド樹脂と上記水溶性有機溶剤とを新たに容器に仕込み、撹拌懸濁させた後、再度濾別することにより、更に優れた精製効果を発揮する。この場合の水溶性有機溶剤の使用量は、正味のポリアミド樹脂1重量部に対して1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部であり、撹拌の温度は常温から懸濁液の沸点が好ましく、特に沸点での撹拌が好ましい。また、撹拌時間は0.1〜24時間、好ましくは、1〜5時間である。更に通常この操作は常圧下で行われるが、加圧化で行うことも出来る。
【0038】
上記、懸濁処理を行った後、ポリアミド樹脂を濾別し、通常更に上記水溶性有機溶剤を用いてケーキ洗浄を行い、次いで場合により更に水でケーキ洗浄を行った後、乾燥することにより目的のイオン性不純物の少ないポリアミド樹脂を得ることが出来る。
【0039】
成分(B)であるエポキシ樹脂としては1分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に制限はない。具体的にはノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール縮合型エポキシ樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
これらのエポキシ樹脂は2種以上を併用することも出来る。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤として、式(1)で表されるフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂以外に他の硬化剤を併用する事が出来る。併用できる硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、フェノ−ルノボラック、フェノールアラルキル、トリフェニルメタン及びこれらの変性物、イミダゾ−ル、BF−アミン錯体、グアニジン誘導体などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらを併用する場合、式(1)で表されるフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂が全硬化剤中に占める割合としては通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上である。
【0041】
成分(C)である硬化促進剤の具体例としては例えば2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾ−ル類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部が必要に応じ用いられる。
【0042】
本発明の熱放射性塗料に使用される成分(D)である有機溶剤としては、例えばγ−ブチロラクトン類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられるがこれら有機溶剤に限定されるものではない。本発明の熱放射性塗料の各組成分を均一に溶解均一化できる溶剤であれば極性、非極性溶剤を問わず使用出来る。本発明の熱放射性塗料中の有機溶剤濃度はフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、硬化触媒(C)の合計100重量部に対して30〜2000重量部であり、重量%では全組成物を100重量%とした場合、通常20〜95重量%、好ましくは30〜90重量%である。有機溶剤の使用量が極端に少ないと粘度が高くなり塗工性が低下する、また極端に多いと塗工時にムラが生じたり充分な塗膜の形成が出来なかったりする場合がある。
【0043】
更に本発明の熱放射性塗料には、シランカップリング剤、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、分散剤、相溶化剤、安定剤、酸化防止剤、表面改質剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料等の種々の配合剤を耐熱性、放熱性、絶縁性、表面平滑性等を損なわない範囲で添加使用することができる。
【0044】
本発明の熱放射性塗料は、成分(A)、(B)、(C)、(D)並びに必要により他の成分を均一に混合することにより得ることができる。混合方法としてはアイリッヒミキサー、プラネタリミキサー、ロールミル、ディゾルバーなどが使用できるが特に限定されるものではない。
【0045】
こうして得られた熱放射性塗料を、被着体である熱伝導体の最外面に塗布、乾燥することにより熱放射性塗料の層を有する本発明の構造体を得ることができる。具体的には得られた樹脂組成物を銅やアルミニュウム等の熱伝導体に対してロールコーター、バーコーター、刷毛塗り、スプレー、ローラー、ドブ漬け、インクジェット、印刷などにより塗布する。この場合被着体表面は樹脂組成物を付着し易くするため予め酸やアルカリを使用して処理したり、物理的に粗面化処理したりした被着体を使用することも出来る。被着体としては熱放射性の観点から、金属が好ましい。
塗布工程後、更に加温にて有機溶剤を除去乾燥させ、次いで更に高樹脂成分(成分(A)及(B))の硬化反応を進行させることにより、本発明の構造体を得ることが出来る。
【0046】
乾燥及び硬化を行う温度は通常50〜300℃であり、特に80〜250℃が好ましい。乾燥及び硬化を行う時間は通常5分〜3時間であり、好ましくは10分〜2時間である。成分(D)の含有量が多い塗料では、比較的低い温度で乾燥させ成分(D)が少なく成るに従い温度を高くするような乾燥工程が好ましい、急激に温度を上げると塗布表面や内部に気泡を生じる場合が有るので注意が必要である。乾燥後の塗膜の厚さは通常、0.5〜300μmであり、好ましくは2〜230μmである。塗膜が薄すぎると後で加工する場合に金属筐体が部分的に露出し充分な効果を発揮しない、余り厚膜だと金属筐体と塗膜表面までの熱抵抗が大きく成り表面の熱放射性とは無関係に金属筐体からの塗膜表面への速やかな熱伝導を阻害することとなる。
【0047】
本発明の熱放射性塗料は有機、及び無機のフィラーを含まず、金属筐体に塗布乾燥後の表面が滑らかであり均一である。また無機フィラーを含まないため長期に塗料を保存した場合でも無機フィラーの沈降等の不均一化が生じない。従って、本発明の熱放射性塗料は、塗布前の攪拌混合等の操作が必要なく作業性に優れた塗料である。また、本発明の熱放射性塗料はポリアミド骨格を主成分とするため耐熱性が高く絶縁性に優れる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例で更に詳細に説明する。
尚、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また以下において、ポリアミド樹脂の活性水素当量とは水酸基、及び末端活性水素1個あたりの化合物の平均的質量。エポキシ当量とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の質量。水酸基当量とは水酸基(OH基)1個あたりの化合物の質量である。
また、以下において「部」及び「%」は、特に記述ない限り重量基準である。尚、熱放射性試験は熱放射性樹脂を塗工・乾燥した金属基板の一定温度に加熱した部位から一定距離における計測温度を熱放射性樹脂の塗布の有無により計測した値で放熱性に優れる構造体ほど計測温度は低くなる。また、印加加熱部を一定に保つための印加電力量は放熱性に優れる構造体ほど大きく成り、放熱性が低いほど小さくなる。
【0049】
配合実施例1
前記式(1)で示されるフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂(Ar:イソフタル酸残基、Ar:5−ヒドロキシイソフタル酸残基、Ar:3,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基、n=2、m=198日本化薬株式会社製 商品名CPAM−750、水酸基当量4900g/eq.)、γ−ブチロラクトン、エポキシ樹脂(ビフェニル−フェノール縮合型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製 商品名NC−3000、エポキシ当量280g/eq.)、硬化剤(ビフェニル−フェノール縮合樹脂、日本化薬株式会社製 商品名GPH−65、水酸基当量203g/eq.)、硬化促進剤(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成株式会社製 商品名C11Z−A)を表1に示される組成配分で夫々順番に溶解させながら加え、均一で褐色透明な本発明の熱放射性塗料を得た。この塗料の25℃におけるE型粘度計での粘度は153cPsであった。
【0050】
実施例1
表面が充分に脱脂洗浄された巾50mm、長さ250mm、厚み1mmの表面無処理アルミニウム基板の片面中央部に50mm四方の未塗工部分が出来るようにポリイミドテープを使用しマスキングを施した後、前記配合実施例1で得られた熱放射性塗料を、スプレーガンを用いて表裏全面に塗工した。次いで150℃に設定した循環式オーブンに投入し10分間乾燥した、更に上記のスプレー塗工、乾燥操作を二度繰り返した後170℃に設定した循環式オーブンにて1時間乾燥硬化させ塗膜厚さが25μmの放熱構造体を得た。次いで得られた構造体の中央ポリイミドテープマスキング部を剥がしフィルム状の温度コントロール用熱電対を密着させた、更に50mm角で厚み200μmのフィルム状ヒーター(40V・50W)、50mm角で厚み1mmのアルミ板2枚を順次重ね4辺をクリップで固定した。次いで試験片中央部から110mm離れた両端部表面中央に夫々温度計測用フィルムタイプ熱電対を、テフロン(登録商標)コートを施したクリップにて密着させ熱放射性計測サンプルを作成した。次いで前記加熱計測可能と成った試験構造体を外部からの温度、風、熱反射等の影響を受け難いボックスに収め、フィルム状ヒーターにはパワーサプライ電源からの導線を、温度調節計を介して接続し両端部の温度計測用熱電対は温度記録計に接続した。次いでヒーター設定温度180℃、ヒーター印加電圧40Vの設定で試験片中央部を加熱し端部の温度が十分に安定した時の両端部の平均温度を表1に示す。また、ヒーター印加電圧を調整し温度調節計のオン、オフが殆どなく180℃を維持出来る電圧に調製した時の電圧を表1に示す。
【0051】
また配合実施例1で得られた熱放射性塗料を離型PET、(PET−38AL5(リンテック(株)製))に乾燥後の厚みが25μmと成るようにバーコーターを用いて塗工、次いで150℃で30分間乾燥後に離型PETから剥離し更に170℃で1時間乾燥・硬化させ熱試験サンプルを得た。次いで得られた試験片を10mm巾にカットし粘弾性測定装置DMS6100(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を使用し昇温速度5℃/minで測定を行った時のtanδ最大値での温度を表1に示す。
【0052】
実施例2
配合実施例1においてエポキシ樹脂としてエポキシ樹脂として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製 商品名EOCN−1020 エポキシ当量280g/eq)、硬化剤としてフェノールノボラック型樹脂H−1(明和化成株式会社製、水酸基当量105g/eq)を表1に示される組成配分で配合した他は配合実施例1と同様に配合し、25℃におけるE型粘度計での粘度140cPsの熱放射性塗料を得た(配合実施例2)。次いで実施例1と同様に塗工乾燥硬化し熱放射性計測サンプル、および粘弾性測定用試験片を作成し実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
エポキシ樹脂としてNC−3000、硬化剤としてGPH−65、硬化促進剤としてC11Z−Aを表11に示される組成配分で配合した他は配合実施例1と同様に配合し、25℃におけるE型粘度計での粘度153cPsの熱放射性塗料を得た(配合実施例3)。次いで実施例1と同様に塗工、乾燥、硬化し熱放射性計測サンプル、および粘弾性測定用試験片を作成し実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
表面に樹脂組成分を全く塗工しない無処理アルミニウム基板にフィルムヒーターを取り付け実施例1と同様に評価した時の放熱性を表1に示す。
【0055】
比較例2
γ−ブチロラクトン、エポキシ樹脂NC−3000、硬化剤GPH−65、硬化促進剤C11Z−Aを表1に示される組成配分で配合しフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂を含まない樹脂組成物を調製し25℃におけるE型粘度計での粘度121cPsの比較用の塗料を得た(配合比較例)。次いで実施例1と同様に塗工、乾燥、硬化し評価した結果を表1に示す。尚、粘弾性測定はフィルム化物では脆く測定装置にセット不可能なため乾燥後に離型PETから剥離した未硬化フィルム化物を重ね、更に170℃×1時間プレス加熱硬化し厚さ2mmの試験片を作成し測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
尚、表1において略号は下記のものを示す。
A:フェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂:CPAM−750
B:エポキシ樹脂:NC−3000
C:エポキシ樹脂:EOCN−1020エポキシ当量195)
D:硬化剤 :GPH−65
E:硬化剤 :H−1
F:硬化促進剤 :C11Z−A
【0058】
表1からも明らかなように本発明の熱放射性塗料、及び本発明の熱放射性塗料を塗工乾燥硬化してなる構造体は端部の温度が極めて低く成っている。また、発熱部の熱を速やかに外部に放出する事が出来るため加熱部を一定温度に保つにはより大きな印加電圧を必要とする。これらの事から各種発熱体と接続加工する事により高負荷時でも発熱部温度をより低く維持する事が可能である。従って本発明の熱放射性塗料を塗工乾燥硬化してなる構造体は電気・電子・自動車等の分野のパワーデバイス、特に高出力インバーター、高出力モーター等の分野での使用が期待出来る物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、m、nは平均値で、0.005≦n/(m+n)<1を示し、また、m+nは0〜230の正数である。Arは2価の芳香族基、Arはフェノール性水酸基を有する二価の芳香族基、Arは二価の芳香族基を示す)で表される構造を有するフェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、硬化触媒(C)の合計100重量部に対して有機溶媒(D)を30〜2000重量部含有することを特徴とする熱放射性塗料。
【請求項2】
式(1)の化合物におけるArがフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、フマル酸からなる群から選ばれる1種以上の酸の残基、Arが5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸からなる群から選ばれる1種以上の酸の残基、及びArが3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上のアミンの残基である請求項1記載の熱放射性塗料。
【請求項3】
無機フィラーを含有しない請求項1または2記載の熱放射性塗料。
【請求項4】
熱伝導体の最外面に請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱放射性塗料を塗工乾燥、硬化した層を有する構造体。
【請求項5】
熱放射性塗料層の皮膜の厚さが0.5〜300μmである請求項4記載の構造体。

【公開番号】特開2013−100409(P2013−100409A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245027(P2011−245027)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】