説明

熱音響機関

【課題】可動部を設けることなく、共鳴管の広い領域に進行波を発生させることができる熱音響機関を提供する。
【解決手段】共鳴管11を有し、共鳴管11の管路に設けられ、作動気体を加熱および冷却する蓄熱器21と、蓄熱器21の一端部(高温部21b)を加熱する加熱器22と、蓄熱器21の他端部(常温部21a)の熱を外部に放出する冷却器23と、からなる原動機20を備え、蓄熱器21の両端部間に温度勾配を形成して作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関1であって、共鳴管11は、基準管部14と、変形管部15とを有し、変形管部15は、音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような共鳴管11の所定部位から、共鳴管11の他端に向けて設けられ、変形管部15の内径は、作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化やエネルギ問題が深刻化してきている。工場や車両において発生する膨大な廃熱や、太陽光エネルギを高効率で回収することが可能であれば、地球温暖化やエネルギ問題を解決するための切り札となる。そこで、これらのエネルギを回収し、動力化するために、熱音響機関に関する研究が活発に行われている。
【0003】
熱音響機関は、管内に生じる自励振動を利用したものである。すなわち、管内に狭い流路の束(以下、蓄熱器と称する)を設置し、蓄熱器両端の温度比をある臨界値以上にすると、管内の流体が自励振動を起こす。この作用は熱力学的には可動部品の無い原動機と見ることができ、この作用を用いたものが熱音響機関である(例えば、特許文献1、2参照)。熱音響機関はスターリングサイクルで駆動する外燃機関であるために、太陽光や工業廃熱等、あらゆる熱源から高効率で仕事を取り出せる可能性がある。また音波を利用して熱交換するシンプルな構成である為に、通常のスターリングエンジンと違い、ピストン、タービン等の可動部品を全く必要とせず、安価、長寿命、メンテナンスフリーという利点を有する。
【0004】
ここで、近年において実用化を目指して研究が行われている代表的な熱音響機関(例えば、非特許文献1参照)の構成を図10に示す。図10(a)に示す熱音響発電機500は、ループ管100と共鳴管111とを備える。そして、ループ管100内には、原動機200を構成する、蓄熱器210、加熱器220および冷却器230を備え、共鳴管111の先端には発電機(リニア発電機)300を備える。熱音響発電機500においては、蓄熱器210に温度勾配を与えると、音波である自励振動(すなわち熱音響自励振動)が励起され、この音の振動エネルギ(すなわち音響エネルギ)Eをリニア発電機300で電力に変換する。熱音響発電機500は廃熱利用発電機やソーラーパネルを超える高効率太陽光発電機としての利用が想定されている。
【0005】
一方、冷房や保冷庫、極低温を生成する装置として図10(b)に示す熱音響冷凍機600(例えば、非特許文献2参照)の研究も活発に行われている。熱音響冷凍機600は、2つのループ管100,120と共鳴管111とを備える。そしてループ管100内には、原動機200を構成する、蓄熱器210、加熱器220および冷却器230を備え、ループ管120内には、冷凍機400を構成する、冷凍用蓄熱器410、冷気放出器420および冷凍用冷却器430を備える。熱音響冷凍機600では、一方のループ管100内に設置した蓄熱器210に温度勾配を与えると自励振動が励起される。この自励振動による音響エネルギEは、共鳴管111を通じてもう一方のループ管120に流れ込み、逆スターリングサイクルを実行することで冷凍用蓄熱器410を冷凍作動させる。このような管内音波である自励振動を使って低温生成を行う熱音響冷凍機600には、パルス管冷凍機を超えるポテンシャルがある。
【0006】
以上に代表される熱音響機関は、現在、熱回収や次世代エネルギ利用の観点から多くの企業で研究が行われている。しかしながら、21世紀に入り本格的な研究が始められた新しい分野であるために、未だ基盤技術が確立されていない現状がある。
【0007】
高効率の熱音響機関を実現するためには、蓄熱器を進行波発生箇所に設置し、可逆的なエネルギ変換を行う必要がある。しかしながら、熱音響機関には適切な音場分布を調整する機構が存在しないため、定在波を用いた不可逆的なエネルギ変換を行っている場合が多く、効率の低下を招いている場合が少なくない。
【0008】
さらに熱音響機関の実用化に向けたもう一つの課題として、発振温度の問題も存在する。工場廃熱の大部分は100〜300℃程度であるが、熱音響機関に適した発振温度(駆動温度)は一般に400〜600℃程度と高温である(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
発振温度の問題を解決するために蓄熱器を多段直列接続することで、大幅に発振温度を低下させることが可能な多段熱音響機関が提案されている(例えば、非特許文献4参照)。しかしながら、多段型は当然蓄熱器が音場に対して分布的に配置されるため、全ての蓄熱器を進行波位置に設置することは困難であり、効率の低下を招くという問題点が生じていた。この問題に対して、琵琶らは、図11に示すように、音響ドライバー450を用いて進行波を発生させ、さらに枝管401を用いる事で管402内の音場を能動的に調整して進行波とすることで、加熱器、蓄熱器、および冷却器から構成される原動機403を複数設けた多段熱音響機関700の効率を向上させることに成功している(例えば、特許文献3、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−118728号公報
【特許文献2】特開2009−74734号公報
【特許文献3】特開2011−99606号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.Backhaus, E.Tward and M.Petach, Appl.Phys.Lett., Vol.85, pp.1085-1087(2004)、図4
【非特許文献2】M. Miwa, T. Sumi, T. Biwa, Y. Ueda and T. Yazaki, Ultrasonics, 44, e1527-e1529(2006)、図5
【非特許文献3】S. Backhaus and G. W. Swift, Nature 399(1998), 335-338
【非特許文献4】D.L.Gardner and G.W.Swift, J.Acoust. Soc. Am.114(2003), 1905-1919
【非特許文献5】琵琶哲志, 高尾景, “多段熱音響スターリングエンジン発電機”, 日本機械学会第16回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集, (2011), pp.261-264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、従来の音場分布を適切に調整する機構が存在しない熱音響機関では、エネルギ変換の効率の低下を招いている場合が少なくないという問題がある。
また、音響ドライバーを用いた熱音響機関においては、音響ドライバーを用いて第一蓄熱器に入力する進行波を発生させているため、「可動部を持たない」という熱音響機関の優位性が低下している。そこで、音響ドライバーを用いず広域に渡って純粋な進行波を励起することが出来れば、可動部品を用いることなく、進行波発生位置に複数の蓄熱器を設置することが可能となり、熱音響機関の実用化に向け大きな進歩となる。
【0013】
ところで、定在波は反射を伴う波の重ね合わせであるために、エネルギ伝搬に伴う減衰が大きい。そのため、音波エネルギを長距離にわたって輸送することができないという問題がある。一方、進行波は一方向に進行する仕事流であるために、エネルギ伝搬に伴う減衰が少ない。そのため、音波エネルギを長距離にわたって輸送することができる。
以上のことから、可動部を設けることなく、共鳴管の広い領域に進行波を発生させることができる熱音響機関の開発が求められている。
【0014】
本発明はこのような背景のもとになされたものであり、可動部を設けることなく、共鳴管の広い領域に進行波を発生させることができる熱音響機関を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る熱音響機関は、一端から他端までに作動気体が満たされる共鳴管を有し、前記共鳴管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記共鳴管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記共鳴管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる原動機を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、前記共鳴管は、基準管部と、この基準管部に対して内径が拡大または縮小された変形管部とを有し、前記原動機は、前記基準管部の管路に設けられており、前記変形管部は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような前記共鳴管の所定部位から、前記共鳴管の他端に向けて設けられ、前記変形管部の内径は、前記作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る熱音響機関は、作動気体が封入される環状のループ管と、当該ループ管に連通して一端が接続された共鳴管と、を有し、前記ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる原動機を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、前記共鳴管は、基準管部と、この基準管部に対して内径が拡大または縮小された変形管部とを有し、前記変形管部は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような前記共鳴管の所定部位から、前記共鳴管の他端に向けて設けられ、前記変形管部の内径は、前記作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されていることを特徴とする。
【0017】
これらの構成によれば、蓄熱器の一端部が加熱器により加熱され、蓄熱器の他端部が冷却器により冷却されることで、蓄熱器の両端部間に温度差、すなわち温度勾配が生じる。そしてこの温度差により、主として作動気体の自励振動(圧力振動)による仕事流が生じる。そして、共鳴管の所定位置に変形管部を有することで、発生した仕事流はこの変形管部の全ての部位で進行波となるため、共鳴管における広い領域に渡って純粋な進行波とすることができる。
【0018】
本発明に係る熱音響機関は、さらに、前記変形管部の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記変形管部の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記変形管部の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる、1つまたは複数の原動機を備えることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、共鳴管における進行波位置に1つまたは複数の蓄熱器を設置することが可能となる。これにより、高効率のエネルギ変換が可能となる。
【0020】
本発明に係る熱音響機関は、さらに、前記共鳴管の他端に接続され、前記変形管部に連通して、前記作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機を備えることで熱音響発電機とすることができる。
このような構成によれば、作動気体に発生した自励振動による音響エネルギが、発電機によって電気エネルギに変換される。そして、変形管部に複数の蓄熱器を設置した場合には、熱音響発電機として、より高効率で駆動することができる。
【0021】
本発明に係る熱音響機関は、さらに、前記共鳴管の他端に接続され、前記変形管部に連通して接続された環状の冷凍用ループ管を有し、前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を冷却する冷凍用蓄熱器と、前記冷凍用蓄熱器の前記自励振動が伝わる一端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の一端部の熱を外部に放出する冷凍用冷却器と、前記冷凍用蓄熱器の他端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の他端部に発生する冷気を外部に放出する冷気放出器と、備えることで熱音響冷凍機とすることができる。
【0022】
このような構成によれば、冷凍用蓄熱器の一端部が冷凍用冷却器により冷却されるとともに、作動気体に発生した自励振動による音響エネルギが、冷凍用蓄熱器に伝達される。これにより、伝達された音響エネルギが冷凍用蓄熱器一端部と冷凍用蓄熱器の他端部との間における温度差に変換される。そして、この冷凍用蓄熱器の両端の温度差によって冷凍用蓄熱器の他端部に発生した冷気が、冷気放出器によって外部に取り出される。そして、変形管部に複数の蓄熱器を設置した場合には、熱音響冷凍機として、より高効率で駆動することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る熱音響機関によれば、音響ドライバー等の可動部を設けることなく、共鳴管における任意点より先の音場を全て進行波とすることが可能となる。また、進行波を用いたエネルギ輸送はエネルギ減衰が少ないため、長距離に渡って音波エネルギを輸送することが可能となる。これにより、音波エネルギ輸送を用いた、新しいエネルギ輸送ネットワークの実現を可能とする。
【0024】
また、進行波とした位置に蓄熱器を設置すれば、高効率のエネルギ変換が可能となる。さらに、広い領域が進行波となっているために、進行波とした位置に複数の蓄熱器を設置することが出来る。そして、複数の蓄熱器を設置することで、複数の廃熱を用いたエネルギ回収が可能になる。
【0025】
さらに、高効率のエネルギ変換が可能なため、装置全体の小型化が可能であり、また装置全体の体積を減少させることが可能である。
また、進行波とした位置に複数の蓄熱器を設置することが出来るため、熱音響発電機として用いた場合、従来の熱音響機関と比較して発電量の向上が可能であり、熱音響冷凍機として用いた場合、従来の熱音響機関と比較して低温駆動を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るストレート型熱音響機関の構成を模式的に示す模式図、(b)は、本発明の第2実施形態に係るループ型熱音響機関の構成を模式的に示す模式図である。
【図2】(a)、(b)は、変形管部に原動機を設置した熱音響機関の構成を模式的に示す模式図である。
【図3】本発明に係る熱音響機関を熱音響発電機として用いた場合の模式図である。
【図4】本発明に係る熱音響機関を熱音響冷凍機として用いた場合の模式図である。
【図5】(a)、(b)は、実施例で使用した熱音響機関の構成を模式的に示す模式図である。
【図6】第1実施例の本実施例における、インピーダンス分布および仕事流分布(エネルギ輸送による減衰分布)を示すグラフであり、(a)はインピーダンスの実数部、(b)はインピーダンスの虚数部、(c)は仕事流分布を示す。
【図7】第1実施例の比較例における、インピーダンス分布および仕事流分布(エネルギ輸送による減衰分布)を示すグラフであり、(a)はインピーダンスの実数部、(b)はインピーダンスの虚数部、(c)は仕事流分布を示す。
【図8】第2実施例の本実施例における、インピーダンス分布および仕事流分布(エネルギ輸送による減衰分布)を示すグラフであり、(a)はインピーダンスの実数部、(b)はインピーダンスの虚数部、(c)は仕事流分布を示す。
【図9】第2実施例の比較例における、インピーダンス分布および仕事流分布(エネルギ輸送による減衰分布)を示すグラフであり、(a)はインピーダンスの実数部、(b)はインピーダンスの虚数部、(c)は仕事流分布を示す。
【図10】従来の熱音響機関の構成を模式的に示す模式図であり、(a)は、熱音響機関を熱音響発電機として用いた場合の模式図、(b)は、熱音響機関を熱音響冷凍機として用いた場合の模式図である。
【図11】従来の音響ドライバーを用いた熱音響機関の構成を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については、原則として同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0028】
≪第1実施形態≫
第1実施形態は、ストレート型熱音響機関に係るものである。
<熱音響機関>
図1(a)に示すように、熱音響機関1は、一端11aから他端11bまでに作動気体が満たされる共鳴管11を有するものである。そして、共鳴管11の管路に、原動機20として、蓄熱器21と、加熱器22と、冷却器23と、を備える。さらに、共鳴管11は、基準管部14と、この基準管部14に対して内径が拡大または縮小された変形管部15を有している。なお、ここでは、共鳴管11の内径が縮小された場合を図示している。ただし、共鳴管11の内径が拡大されたものであってもよい。また、共鳴管11の一端11aとは、基準管部14が形成されている側の端部、すなわち、基準管部14の端部であり、他端11bとは、変形管部15が形成されている側の端部、すなわち、変形管部15の端部のことである。
以下、各構成について説明する。
【0029】
[共鳴管]
共鳴管11は、作動気体が満たされる直線状の管であり、基準管部14と、この基準管部14に対して内径が縮小された変形管部15とを有している。
なお、作動気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ヘリウムとアルゴンとの混合物や空気等がよく用いられる。
また、ここでは、共鳴管11の一端11aには、作動気体を封入するバッファータンク16が設けられている。なお、作動気体として大気圧空気を用いる場合は、バッファータンク16を設けずに、一端11aを開口していてもよい(図5(a)参照)。すなわち、バッファータンク16を設ける場合は、作動気体は共鳴管11内にも封入されて満たされるものであり、一端11aを開口した場合は、大気圧空気で満たされるものである。
【0030】
(基準管部および変形管部)
基準管部14は、共鳴管11の一部を構成するものであり、変形管部15の内径の基準となるものである。
変形管部15は、共鳴管11の一部を構成するものであり、基準管部14よりも大きいあるいは小さい内径を有する(ここでは小さい内径である)。変形管部15は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような共鳴管11の所定部位から、共鳴管11の他端11bに向けて設けられている。すなわち変形管部15は、共鳴管11の管路における所定位置以降(任意点)に設けられ、所定の内径を有する。ここで、「予め求めた音響インピーダンス分布」とは、変形管部15を設けていない所望の長さの共鳴管において、数値計算によって求めた音響インピーダンス分布のことである。
音響インピーダンスは、半導体圧力センサーを用いて、角周波数ω(2πf:fは周波数)、時間t、位相差φを測定し、下記式から求められる(特開2011−99606号公報参照)。
【0031】
音響インピーダンスを、Ζ
気体の圧力振幅を、P=|P|exp(iωt)
音波の流速振幅を、U=|U|exp{i(ωt+φ)}
とするとき、
Ζ=P/U={|P|exp(iωt)}/{|U|exp{i(ωt+φ)}}
【0032】
すなわち、音響インピーダンスは、気体の圧力振幅(P)の音波の流速振幅(U)に対する比で表され、そして、実数部と虚数部とで構成される。
【0033】
そして、変形管部15の内径は、作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されている。すなわち、変形管部15は、共鳴管11における音響インピーダンスの値がρcとなるように共鳴管11の内径が縮小された部位である。この変形管部15では、作動気体の自励振動は進行波へと調整される。
【0034】
ここで、進行波と定在波について説明する。
流体要素の往復運動は「進行波」と「定在波」に分類される。圧力振幅と流速振幅の位相差がゼロである状態を「進行波」、それ以外を「定在波」と定義する。通常の音場は空間的に定在波と進行波との両方を含む。空間的な圧力振幅分布の最大点と最小点はそれぞれ圧力振幅と流速振幅の位相差がゼロ(音響インピーダンス(圧力振幅/流速振幅)の虚数がゼロと同義)であるため、局所的に進行波である。しかし、この進行波は局所的であり音響インピーダンスの虚数がゼロである狭い領域でのみ成立し、それ以外の位置では定在波となる。「圧力振幅と流速振幅の位相差がゼロ」かつ「音響インピーダンスの値が流体要素の密度と音速を乗じた、ρcを満たす」場合のみ圧力振幅分布と流速振幅分布は空間的にフラットとなり、音場は広域に渡って純粋な進行波となる。
【0035】
熱音響機関で高効率のエネルギ変換を実現するためには、進行波を用いた可逆的なエネルギ変換が必須である。局所的な進行波に対して蓄熱器を設置することを試みる場合、進行波となる領域が狭いために、当然その全てを進行波位置に設置することは不可能である。一方、広い領域において進行波となった状態である「広域的な進行波」であれば、当然、広い領域が進行波であるために容易に複数の蓄熱器を設置することが可能である。本発明は、「広域的な進行波」を実現することを目的とするものである。また、進行波音波は一方向に進行する仕事流であるために、エネルギ伝搬に伴う減衰が少ないというメリットも有する。一方、定在波は反射を伴う波の重ね合わせであるために、エネルギ伝搬に伴う減衰が大きい。よって広域的な進行波はエネルギ輸送の面からも有意義である。
【0036】
本発明においては、自励振動動作する熱音響機関を対象に、任意点より先の音場を全て進行波位相とする。以下、「任意点より先の音場を全て進行波位相とする」手法について説明する。
【0037】
広域的な進行波音波では音響インピーダンスは空間的に一様であり、気体の密度をρ、音速をcとすると「実数部」ρcで与えられる。任意点より先の音響インピーダンスをρcとするためには、音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような共鳴管11の所定部位から、共鳴管11の他端11bに向けた所定位置において、ρcを満たす内径に共鳴管を拡大もしくは縮小すればよい。
【0038】
変形管部の内径は、下記式(1)により求めた断面積から算出する。
(π・r・(ρc)/Z)=A・・・・式(1)
ここでr:共鳴管の半径(内径の半径),Z:音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における実数部(インピーダンス値),A:断面積である。
【0039】
上式でρcが、純粋な進行波を満たす場合の音響インピーダンスであり、作動気体を25℃の大気圧空気とするとρc=約409Ns/mとなる。そして、「音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる点における実数部(インピーダンス値)」がρcより大きい場合は共鳴管を縮小、ρcより小さい場合は拡大し、虚数部がゼロとなる点以降の音響インピーダンスの値をρcとなるように調整する。
【0040】
[原動機]
原動機20は、熱音響機関1の自励振動発生手段として機能するものであり、共鳴管11における基準管部14の管路に設けられている。原動機20は、共鳴管11内に設けられた蓄熱器21と、蓄熱器21の両端を挟むように設けられた加熱器22および冷却器23とを有している。そして、加熱器22は蓄熱器21の一端側に配置され、冷却器23はその反対側、すなわち蓄熱器21の他端側に配置されている。なお、原動機20の位置は、基準管部14の管路にあって、自励振動による仕事流が、音響エネルギEとして共鳴管11の他端に伝達される位置であれば、特に限定されるものではない。
【0041】
(蓄熱器)
蓄熱器(原動機用蓄熱器)21は、共鳴管11の管路に設けられ、作動気体を加熱および冷却するものである。
蓄熱器21は、加熱器22および冷却器23によって蓄熱器21の両端部間に温度勾配を形成して作動気体の自励振動を発生させる。すなわち蓄熱器21は、その一端部(以下、適宜、高温部21bと称する)と、その他端部(以下、適宜、常温部(原動機側常温部)21aと称する)との間に生じる温度差を保つことによって、主として作動気体の自励振動(圧力振動)による仕事流を発生する機能を有している。蓄熱器21は、例えば共鳴管11の延在方向(管路方向)に多数の平行通路を有するセラミックス製のハニカム構造体や、多数枚のステンレス鋼メッシュ薄板を微小ピッチで積層した構造体とすることができる。あるいは金属繊維よりなる不織布状物等を用いることも可能である。
【0042】
(加熱器)
加熱器22は、蓄熱器21の一端側に隣接して共鳴管11の管路に設けられ、蓄熱器21の一端部(高温部21b)を加熱するものである。すなわち加熱器22は、外部熱源を用いて蓄熱器21の一端を加熱する熱入力部として機能する。加熱器22は、例えば、加熱用の熱交換器から構成される。具体的には、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされる。この加熱器22には図示しない加熱装置が接続されており、その外周に設けられた環状部材22aを介して加熱処理される構成とされている。なお、図面では便宜上、蓄熱器21と加熱器22の間に環状部材22aの左壁が示されているが、加熱器22は、この左壁を通して蓄熱器21の一端側と隣接、すなわち密着している。
【0043】
(冷却器)
冷却器23は、蓄熱器21の他端側に隣接して共鳴管11の管路に設けられ、蓄熱器21の他端部(常温部21a)の熱を外部に放出するものである。すなわち冷却器23は、冷却水や空気等を用いて蓄熱器21の他端の熱を外部に放出して冷却する機能を有している。冷却器23は、例えば、冷却用の熱交換器から構成される。冷却器23としては、基本的には加熱器22と同一構成とされており、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷却器23は、その周囲に冷却ブラケット23aが配設されている。この冷却ブラケット23aには図示しない冷却水路が接続されており、冷却水路を流れる冷却水により、冷却器23は冷却ブラケット23aを介して一定の冷却温度を維持しうる構成とされている。なお、図面では便宜上、蓄熱器21と冷却器23の間に冷却ブラケット23aの右壁が示されているが、冷却器23は、この右壁を通して蓄熱器21の他端側と隣接、すなわち密着している。
【0044】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、ループ型熱音響機関に係るものである。
<熱音響機関>
図1(b)に示すように、熱音響機関1Aは、作動気体が封入される環状のループ管10と、ループ管10に連通して一端11aが接続された共鳴管11と、を有するものである。そして、ループ管10の管路に、原動機20として、蓄熱器21と、加熱器22と、冷却器23と、を備える。さらに、共鳴管11は、基準管部14と、この基準管部14に対して内径が拡大または縮小された変形管部15とを有している。なお、ここでは、共鳴管11の内径が拡大された場合を図示している。ただし、共鳴管11の内径が縮小されたものであってもよい。
以下、各構成について説明する。
【0045】
[ループ管および共鳴管]
ループ管(原動機用ループ管)10は、作動気体が封入される環状の管であり、その管路は角丸の四角形に形成され、四辺に該当する直線部を形成する直管部10a〜10dからなる。すなわち、縦方向に略平行に並んだ2つの直管部10a、10bと、横方向に略平行に並んだ2つの直管部10c、10dと、を有している。そして、直管部10aの一端と直管部10cの一端、直管部10bの一端と直管部10cの他端、直管部10bの他端と直管部10dの一端が接続されてこの部位で湾曲している。また、直管部10aの他端と直管部10dの他端が接続されるとともに、この部位において、ループ管10に連通して共鳴管11の一端が接続されている。
【0046】
共鳴管11は、作動気体が封入される直線状の管であり、その一端11aがループ管10に連通して、すなわち作動気体がループ管10と共鳴管11とを通動可能な状態で接続されている。ここで、図1(b)の破線(符号A1)を基準として図1(b)における紙面上、左側の管部がループ管10であり、右側の管部が共鳴管11である。ここでは、共鳴管11におけるループ管10との接続部は、上側が湾曲しているが、直角に形成しているものであってもよい。また、共鳴管11とループ管10の境界は厳密に規定されるものではなく、符号A1の破線が、紙面上、やや右側(例えば、前記湾曲していない部分)に位置するものであってもよい。そして、共鳴管11は、基準管部14と、この基準管部14に対して共鳴管11の内径が拡大された変形管部15を有している。
なお、作動気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ヘリウムとアルゴンとの混合物や空気等がよく用いられる。
【0047】
(基準管部および変形管部)
基準管部14は、共鳴管11の一部を構成するものであり、変形管部15の内径の基準となるものである。
変形管部15は、共鳴管11の一部を構成するものであり、基準管部14よりも大きいあるいは小さい内径を有する(ここでは大きい内径である)。変形管部15は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような共鳴管11の所定部位から、共鳴管11の他端11bに向けて設けられている。すなわち変形管部15は、共鳴管11の管路における所定位置(任意点)以降に設けられ、所定の内径を有する。
共鳴管11の内径が拡大されていること以外については、前記第1実施形態のストレート型熱音響機関と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0048】
[原動機]
原動機20は、熱音響機関1Aの自励振動発生手段として機能するものである。原動機20は、ループ管10内に設けられた蓄熱器21と、蓄熱器21の両端を挟むように設けられた加熱器22および冷却器23とを有している。より具体的には、原動機20は、本実施形態において、ループ管10における共鳴管11が接続されている側、すなわちループ管10の直管部10aの管路に設けられている。そして、加熱器22は蓄熱器21の直管部10d側に配置され、冷却器23はその反対側、すなわち蓄熱器21の直管部10c側に配置されている。なお、原動機20の位置は、ループ管10内にあって、自励振動による仕事流が、音響エネルギEとして共鳴管11の他端11bに伝達される位置であれば、特に限定されるものではない。
【0049】
原動機20を構成する蓄熱器21、加熱器22、冷却器23については、ループ管10の管路に設けられていること以外は、前記第1実施形態のストレート型熱音響機関と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0050】
熱音響機関1,1Aは、変形管部15に、さらに1つまたは複数の原動機を備えることができる。図2(a)、(b)に示すように、熱音響機関1B,1Cは、変形管部15に、2つの原動機20(変形管部用原動機20a)を備えている。
【0051】
変形管部用原動機20aは、前記に説明した原動機20と同様に、熱音響機関1B,1Cの自励振動発生手段として機能するものである。そして、変形管部用原動機20aは、共鳴管11における変形管部15の管路に設けられ、作動気体を加熱および冷却する蓄熱器21と、蓄熱器21の一端側に隣接して変形管部15の管路に設けられ、蓄熱器21の一端部を加熱する加熱器22と、蓄熱器21の他端側に隣接して変形管部15の管路に設けられ、蓄熱器21の他端部の熱を外部に放出する冷却器23と、からなる。なお、これらについては、変形管部15の管路に設けられていること以外は前記の第1実施形態における原動機20と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0052】
変形管部15に変形管部用原動機20aを設けることで、進行波発生位置に1つまたは複数の蓄熱器21を設置することが可能となり、高効率のエネルギ変換を行なうことができる。なお、変形管部用原動機20aの設置位置は特に限定されるものではなく、適宜調整すればよい。また、変形管部用原動機20aを複数設ける場合、それらの間隔は特に限定されるものではなく、適宜調整すればよい。
【0053】
本発明の熱音響機関は、主に、熱音響発電機や、熱音響冷凍機として用いられる。
次に、図面を参照して、熱音響機関を用いた熱音響機関の一例として、前記の熱音響機関1Cを用いた場合の熱音響発電機および熱音響冷凍機について説明する。なお、ここでは、変形管部用原動機20aを備えるものについて説明するが、変形管部用原動機20aを備えないものであってもよい。また、ここでは、ループ型熱音響機関を用いた場合について説明するが、ストレート型熱音響機関においても、ループ管を備えないこと以外については同様である。
【0054】
<熱音響発電機>
図3に示すように、熱音響発電機50は、前記した熱音響機関1Cに加え、さらに、共鳴管11の他端11bに接続され、変形管部15に連通して、作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機(リニア発電機)30を備えるものである。発電機30を備える以外については、前記の熱音響機関1Cで説明したとおりであるので、ここでは発電機30について説明する。
【0055】
[発電機]
発電機30は、共鳴管11の他端11bに接続され、変形管部15に連通して、さらにループ管10の一部に連通するかたちで設けられており、作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なうリニア発電機として機能する。すなわち、音響エネルギEである自励振動に基づき内側ヨーク33を往復振動させて、音響エネルギEを電気エネルギに変換するものである。これにより、共鳴管11を通って伝達した音響エネルギEを、内側ヨーク33の往復運動を介して電気エネルギに変換する、いわゆる熱音響発電機50を形成することができる。
【0056】
発電機30は、共鳴管11の他端11b、すなわち変形管部15に接続され、ループ管10および共鳴管11の内部で生じる圧力変動に対応した内部圧力変動を受ける圧力容器39を備えている。圧力容器39内には、外側ヨーク(円筒)31,31と、外側ヨーク31,31にそれぞれ収容されるコイル32,32と、外側ヨーク31,31の間に位置する内側ヨーク(円筒)33と、外側ヨーク31,31のそれぞれと内側ヨーク33との間に設けられた永久磁石34,34と、が備えられている。なお、永久磁石34,34は、それぞれS極とN極の磁石から構成されている。
【0057】
発電機30におけるこのような構造は、コイル32,32を周回する磁束密度の時間変化により電流が発生するという原理に基づいた発電方式を採用している。すなわち、音響エネルギEである自励振動に基づき内側ヨーク33がストロークすることにより、コイル32,32を周回する磁束密度が大きく変化し、発電が行われる。また、内側ヨーク33に突起33aを取り付けることによって、エアギャップを磁束が通過することによる磁束密度の低下を抑止することができる。
【0058】
このような直線運動を直接電力に変換するリニア発電システムは、変換機構による変換ロスや摩擦損失が根本的に存在しないというメリットがあり、発電機全体を小型化することや、高効率化を期待することができる。また、往復運動のストローク変動が発生するフリーピストン型スターリングエンジンを用いたり、潮力エネルギ、振動エネルギ等を発電に利用したりした場合、振動を回転に変換することが困難であることから、高効率リニア発電機へのニーズは高まっている。
【0059】
<熱音響冷凍機>
図4に示すように、熱音響冷凍機60は、前記した熱音響機関1Cに加え、さらに、共鳴管11の他端11bに接続され、変形管部15に連通して接続された環状の冷凍用ループ管12を有する。そして、冷凍用ループ管12の管路に、冷凍機40として、冷凍用蓄熱器41と、冷凍用冷却器43と、冷気放出器42と、を備える。冷凍機40を備える以外については、前記の熱音響機関1Cで説明したとおりであるので、ここでは冷凍機40およびこれを管路に備える冷凍用ループ管12について説明する。
【0060】
[冷凍用ループ管]
冷凍用ループ管12は、作動気体が封入される環状の管であり、その管路は角丸の四角形に形成され、四辺に該当する直線部を形成する直管部12a〜12dからなる。すなわち、四辺に該当する直線部を形成する縦方向に略平行に並んだ2つの直管部12a、12bと、横方向に略平行に並んだ2つの直管部12c、12dと、を有している。そして、直管部12aの一端と直管部12cの一端、直管部12bの一端と直管部12cの他端、直管部12bの他端と直管部12dの一端が接続されて湾曲している。また、直管部12aの他端と直管部12dの他端が接続されるとともに、この部位において、冷凍用ループ管12に連通して共鳴管11の他端が接続されている。ここで、図4の破線(符号A2)を基準として図4における紙面上、右側の管部が冷凍用ループ管12であり、左側の管部が共鳴管11である。ここでは、共鳴管11における冷凍用ループ管12との接続部は、上側が湾曲しているが、直角に形成しているものであってもよい。また、共鳴管11と冷凍用ループ管12の境界は厳密に規定されるものではなく、符号A2の破線が、紙面上、やや左側(例えば、前記湾曲していない部分)に位置するものであってもよい。
【0061】
[冷凍機]
冷凍機40は、原動機20、および、変形管部用原動機20aによって発生する作動気体の自励振動による仕事流を冷気(冷熱)に変換するヒートポンプ手段として機能するものである。冷凍機40は、冷凍用ループ管12内に設けられた冷凍用蓄熱器41と、冷凍用蓄熱器41の両端を挟むように設けられた冷凍用冷却器43および冷気放出器42とを有している。より具体的には、冷凍機40は、本実施形態において、冷凍用ループ管12における共鳴管11が接続されている側、すなわち冷凍用ループ管12の直管部12aの管路に設けられている。そして、冷凍用冷却器43は冷凍用蓄熱器41の直管部12c側に配置され、冷気放出器42はその反対側、すなわち冷凍用蓄熱器41の直管部12d側に配置されている。
【0062】
(冷凍用蓄熱器)
冷凍用蓄熱器41は、冷凍用ループ管12の管路に設けられ、作動気体を冷却するものである。
冷凍用蓄熱器41は、原動機20から、共鳴管11、冷凍用ループ管12の直管部12d,12b,12c,12aの順にこれらの管を通じて冷凍用蓄熱器41の一端部(以下、適宜、常温部(冷凍機側常温部)41aと称する)に伝達された自励振動を、冷凍用蓄熱器41の一端部(常温部41a)と冷凍用蓄熱器41の他端部(以下、適宜、低温部41bと称する)との間における温度差に変換する機能を有している。冷凍用蓄熱器41の常温部41aは冷凍用冷却器43によって冷却されているため、伝達された自励振動によって、冷凍用蓄熱器41の低温部41bは、常温部41aよりも低い温度まで冷却されて冷気が発生する。この冷気は、冷気放出器42によって外部に取り出される。冷凍用蓄熱器41は、熱容量の大きい蓄冷材からなる。蓄冷材としては、例えば、ステンレス鋼、銅、鉛等を用いることができ、またその形状は多様な形状を適用することが可能である。
【0063】
(冷凍用冷却器)
冷凍用冷却器43は、冷凍用蓄熱器41の自励振動が伝わる一端側に隣接して冷凍用ループ管12の管路に設けられ、冷凍用蓄熱器41の一端部(常温部41a)の熱を外部に放出するものである。すなわち冷凍用冷却器43は、冷却水や空気等を用いて冷凍用蓄熱器41の一端の熱を外部に放出して冷却する機能を有している。冷凍用冷却器43は、例えば、冷却用の熱交換器から構成される。具体的には、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷凍用冷却器43は、その周囲に冷却ブラケット43aが配設されている。この冷却ブラケット43aには図示しない冷却水路が接続されており、冷却水路を流れる冷却水により、冷凍用冷却器43は冷却ブラケット43aを介して一定の冷却温度を維持しうる構成とされている。なお、図面では便宜上、冷凍用蓄熱器41と冷凍用冷却器43の間に冷却ブラケット43aの下壁が示されているが、冷凍用冷却器43は、この下壁を通して冷凍用蓄熱器41の一端側と隣接、すなわち密着している。
【0064】
(冷気放出器)
冷気放出器42は、冷凍用蓄熱器41の他端側に隣接して冷凍用ループ管12の管路に設けられ、冷凍用蓄熱器41の他端部(低温部41b)に発生する冷気を外部に放出するものである。すなわち冷気放出器42は、冷凍用蓄熱器41の他端において発生する冷気を外部に取り出す冷気出力部として機能する。冷気放出器42は、例えば、冷凍用の熱交換器から構成される。冷気放出器42としては、基本的には冷凍用冷却器43と同一構成とされており、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷気放出器42の外周位置には、冷気(冷熱)を取り出す高熱伝導率材料(例えば、銅)よりなる環状部材42aが配設されている。なお、図面では便宜上、冷凍用蓄熱器41と冷気放出器42の間に環状部材42aの上壁が示されているが、冷気放出器42は、この上壁を通して冷凍用蓄熱器41の他端側と隣接、すなわち密着している。
【0065】
<熱音響機関の動作>
次に熱音響機関の動作について、前記説明した熱音響発電機および熱音響冷凍機を例にして図3および図4を参照して説明する。なお、ここでは、ループ型熱音響機関を用いた場合について説明するが、ストレート型熱音響機関においても、動作としては同様である。
【0066】
[熱音響発電機の動作]
図3に示すように、まず、原動機20において、加熱器22によって蓄熱器21の高温部21bを加熱し、かつ、冷却器23によって蓄熱器21の常温部21aを冷却すると、蓄熱器21の両端に、すなわち、高温部21bと常温部21aとの間に温度差が生じる。この温度差により、原動機20(具体的には、蓄熱器21)には、主として作動気体の自励振動による仕事流が生じる。そして、原動機20において発生した自励振動による仕事流は、音響エネルギEとしてループ管10の直管部10a,10c,10b,10d、共鳴管11の順にこれらの管を通じて発電機30に伝達される。なお、ここでは変形管部用原動機20a,20aにおいても自励振動による仕事流が生じ、音響エネルギEとして発電機30に伝達される。そして発電機30に伝達された自励振動に基づき内側ヨーク33を往復振動させることで、音響エネルギEが電気エネルギに変換されて発電が行なわれる。
【0067】
[熱音響冷凍機の動作]
図4に示すように、前記した熱音響発電機の動作と同様にして、原動機20(具体的には、蓄熱器21)に主として作動気体の自励振動による仕事流が生じる。そして、原動機20において発生した自励振動による仕事流は、音響エネルギEとして共鳴管11を通じて冷凍機40に伝達される。より具体的には、蓄熱器21の高温部21bから、音響エネルギEとしてループ管10の直管部10a,10c,10b,10d、共鳴管11、冷凍用ループ管12の直管部12d,12b,12c,12aを通じて冷凍用蓄熱器41の常温部41aに伝達される。なお、ここでは変形管部用原動機20a,20aにおいても自励振動による仕事流が生じ、音響エネルギEとして冷凍機40に伝達される。
【0068】
次に、冷凍用蓄熱器41に伝達された自励振動は、冷凍用冷却器43によって外部に熱を放出して冷却されている冷凍用蓄熱器41の常温部41aと冷凍用蓄熱器41の低温部41bとの間における温度差に変換される。そして、この冷凍用蓄熱器41の両端の温度差によって冷凍用蓄熱器41の低温部41bに発生した冷気(冷熱)が、冷気放出器42によって外部に取り出されることにより、冷凍能力が得られる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明に係る実施例について説明する。本実施例では、ストレート型熱音響機関、および、ループ型熱音響機関について、それぞれ、変形管部を有するものと、従来の変形管部を有さないものについて、進行波の発生状況、および、仕事流分布を調べた。
【0070】
[第1実施例]
第1実施例では、共鳴管の一端を開口端としたストレート型熱音響機関を対象として試験を行った。対象とするストレート型熱音響機関を図5(a)に示す。なお、図5(a)においては、ストレート型熱音響機関の形状をわかりやすくするため、模式的に図示している。
本実施例として、作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの虚数部がゼロの位置においてρcを満たすよう共鳴管の内径を縮小し、音場を調整した熱音響機関を準備した。共鳴管の直径(内径)は音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる点(この位置のことをゼロ点という)まで40mmとした。一方、ゼロ点以降ではρcを満たすように共鳴管の内径を変更した。
また、比較例として、共鳴管の内径を40mmかつ一様とし、音場を未調整とした熱音響機関を準備した(図示省略)。
【0071】
本実施例の熱音響機関について、数値計算によって求めた音場調整時におけるインピーダンス分布および仕事流分布(エネルギ輸送による減衰分布)を図6に示し、比較例の熱音響機関について、音場未調整時の音響インピーダンス分布および仕事流分布を図7に示す。
【0072】
ここで、仕事流の測定方法について以下に示す(琵琶 哲志: “熱音響工学初学者のための計測入門”. 低温工学, Vol. 43, pp.517-526 (2008)参照)。
すなわち仕事流Wは、Z(音響インピーダンス実数部)と次式で関係づけられる。
W=(A/2)(Z)|U|
このときZ:音響インピーダンス実数部,A:管内流路断面積,U:流速振幅である。
上式で与えられる仕事流Wの符号は音響パワーの流れの向きを表す。正ならば座標軸の向きに流れ、負ならば逆方向への流れを表す。
【0073】
図6、7において、横軸は開口端をゼロ点としたときのゼロ点からの距離を表し、縦軸はインピーダンスまたは仕事流を表している。また、図6(a)、図7(a)はインピーダンスの実数部(Real part)、図6(b)、図7(b)はインピーダンスの虚数部(Imaginary part)、図6(c)、図7(c)は仕事流分布(Work flow)である。なお、図中の太線(Regenerator)は蓄熱器位置を示しており、破線は縦軸および横軸の目盛線のおよその位置を示している。
【0074】
図6(a)、(b)に示すように、x=1.12mより大きいときは音響インピーダンスの実数部が409Ns/m、かつ虚数部は0Ns/mを満たしていることが分かる。つまり、図5(a)の熱音響機関においてx=1.12mより先では純粋な進行波に調整されている。本例では音響インピーダンスの虚数部がゼロとなった点における実数部は5191Ns/mであるために(図7(a)、(b)参照(予め求めた音響インピーダンス分布に相当))、前記した式(1)において、共鳴管断面積Aを、π・(40mm/2)・(409Ns/m)/5191Ns/m)=99.0mm、すなわち、内径を、40mmから11.2mmに変更することで純粋な進行波を実現することができた。
【0075】
一方、図7(a)、(b)に示すように、比較例に示した熱音響機関の共鳴管の音場は定在波的であり、音響インピーダンスの実数部は空間的に大きく変動すると同時に、虚数部はゼロから大きく乖離している。また図6(c)と図7(c)の仕事流分布を比較すると、進行波になるように音場を調整した方が、仕事流の減衰が少ないことが確認できる。
以上より音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる位置でρcを満たすように管の内径を変更することにより、以降の音波を進行波位相に調整可能であることを示せた。すなわち、任意点より先を進行波とすることが可能であることが確認できた。
【0076】
[第2実施例]
第2実施例では、ループ型の熱音響機関を対象として試験を行った。対象とするループ型熱音響機関を図5(b)に示す。なお、図5(b)においては、ループ型熱音響機関の形状をわかりやすくするため、模式的に図示している。
本実施例として、作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの虚数部がゼロの位置において音響インピーダンスがρcを満たすよう共鳴管の内径を拡大し、音場を調整した熱音響機関を準備した。共鳴管の直径(内径)は音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる点まで40mmとした。一方、ゼロ点以降ではρcを満たすように共鳴管の内径を変更した。
また、比較例として、共鳴管の内径を40mmかつ一様とし、音場を未調整とした熱音響機関を準備した(図示省略)。
【0077】
本実施例の熱音響機関について、数値計算によって求めた音場調整時におけるインピーダンス分布および仕事流分布を図8に示し、比較例の熱音響機関について、音場未調整時の音響インピーダンス分布および仕事流分布を図9に示す。
図8、9において、横軸はループ管と共鳴管の継手部分(直管部10aと直管部10dの接続部分)の中央(T字部分)をゼロ点としたときのゼロ点からの距離を表し、縦軸はインピーダンスまたは仕事流を表している。また図8(a)、図9(a)はインピーダンスの実数部(Real part)、図8(b)、図9(b)はインピーダンスの虚数部(Imaginary part)、図8(c)、図9(c)は仕事流分布(Work flow)である。なお、図中の太線(Regenerator)は蓄熱器位置を示しており、破線は縦軸および横軸の目盛線のおよその位置を示している。
【0078】
図8(a)、(b)に示すように、x=2.462(図5(b)において「1.217+1.245」)m以降では音響インピーダンスの実数部が409Ns/m、かつ虚数部は0Ns/mを満たしていることが分かる。つまり図5(b)の熱音響機関においてx=2.462m以降では純粋な進行波に調整されている。本例では音響インピーダンスの虚数部がゼロとなった点における実数部は8.4674Ns/mであるために(図9(a)、(b)参照(予め求めた音響インピーダンス分布に相当))、前記した式(1)において、共鳴管断面積Aを、π・(40mm/2)・(409Ns/m)/8.4674Ns/m)=60699mm、すなわち、内径を、40mmから278mmに変更することで純粋な進行波を実現することができた。
【0079】
一方、図9(a)、(b)に示すように、比較例に示した熱音響機関の共鳴管の音場は定在波的であり、音響インピーダンスの実数部は空間的に大きく変動すると同時に、虚数部はゼロから大きく乖離している。また図8(c)と図9(c)の仕事流分布を比較すると、進行波に音場を調整した方が、仕事流の減衰が少ないことが確認できる。
【0080】
以上より音響インピーダンスの虚数部がゼロとなる位置でρcを満たすように管の内径を変更することにより、以降の音波を進行波位相に調整可能であることを示せた。すなわち、任意点より先を進行波とすることが可能であることが確認できた。
【0081】
以上、本発明について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等が可能であることはいうまでもない。
【0082】
例えば、熱音響発電機や熱音響冷凍機の構成は、前記説明した形態のものに限定されるものではなく、その他の一般的に用いられている構成の熱音響発電機や熱音響冷凍機においても、本発明における変形管部を有する構成を適用することができる。例えば、熱音響発電機においては、発電機(リニア発電機)の構成は、前記説明したものに限定されるものではなく、熱音響発電機として用いられる発電機であればどのような構成であってもよい。また、熱音響冷凍機においては、原動機と冷凍機を同一のループ管内に設け、1つのループ管を備える構成としてもよい。
【0083】
また、ループ管や冷凍用ループ管の平面視の形状は、前記した実施形態では角丸の四角形としたが、これらの形状はこれに限定されるものではなく、例えば、正方形や円、あるいは楕円の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1A,1B,1C 熱音響機関
10 ループ管
11 共鳴管
12 冷凍用ループ管
14 基準管部
15 変形管部
16 バッファータンク
20 原動機
20a 原動機(変形管部用原動機)
21 蓄熱器
22 加熱器
23 冷却器
30 発電機(リニア発電機)
40 冷凍機
41 冷凍用蓄熱器
42 冷気放出器
43 冷凍用冷却器
50 熱音響発電機
60 熱音響冷凍機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端までに作動気体が満たされる共鳴管を有し、前記共鳴管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記共鳴管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記共鳴管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる原動機を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、
前記共鳴管は、基準管部と、この基準管部に対して内径が拡大または縮小された変形管部とを有し、
前記原動機は、前記基準管部の管路に設けられており、
前記変形管部は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような前記共鳴管の所定部位から、前記共鳴管の他端に向けて設けられ、
前記変形管部の内径は、前記作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されていることを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
作動気体が封入される環状のループ管と、当該ループ管に連通して一端が接続された共鳴管と、を有し、前記ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる原動機を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、
前記共鳴管は、基準管部と、この基準管部に対して内径が拡大または縮小された変形管部とを有し、
前記変形管部は、予め求めた音響インピーダンス分布において、前記音響インピーダンスの虚数部がゼロとなるような前記共鳴管の所定部位から、前記共鳴管の他端に向けて設けられ、
前記変形管部の内径は、前記作動気体の密度をρ、音速をcとしたときに、音響インピーダンスの値がρcとなるように設定されていることを特徴とする熱音響機関。
【請求項3】
さらに、前記変形管部の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記変形管部の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記変形管部の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、からなる、1つまたは複数の原動機を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱音響機関。
【請求項4】
さらに、前記共鳴管の他端に接続され、前記変形管部に連通して、前記作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱音響機関。
【請求項5】
さらに、前記共鳴管の他端に接続され、前記変形管部に連通して接続された環状の冷凍用ループ管を有し、前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を冷却する冷凍用蓄熱器と、前記冷凍用蓄熱器の前記自励振動が伝わる一端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の一端部の熱を外部に放出する冷凍用冷却器と、前記冷凍用蓄熱器の他端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の他端部に発生する冷気を外部に放出する冷気放出器と、備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−53793(P2013−53793A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191595(P2011−191595)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)