説明

燃料ガス中の付臭剤除去装置

【課題】吸着層を二層に直列に配置することによりメルカプタン類の吸着、除去量を向上させた燃料ガス中のメルカプタン類の除去装置、及び、メルカプタン類に加えてスルフィド類、チオフェン類、シクロヘキセンを除去する燃料ガス中の付臭剤除去装置を得る。
【解決手段】燃料ガス中のメルカプタン類からなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、下流側に活性炭を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置、及び、メルカプタン類の吸着除去に加えて、燃料ガス中のスルフィド類、チオフェン類、シクロヘキセンを吸着除去する燃料ガス中の付臭剤除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス中の付臭剤除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガス、LPガス(液化石油ガス)、ガソリン、灯油などは、工業用や家庭用などの燃料、各種用途に利用される水素製造に用いられるほか、固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)などの燃料電池用の燃料水素の製造用原料としても使用される。水素の工業的製造方法の一つである水蒸気改質法では、それらの低級炭化水素ガスを、Ni系、Ru系等の触媒の存在下、水蒸気を加えて改質し、水素を主成分とする改質ガスが生成される。
【0003】
都市ガスやLPガス、ガソリンなどの燃料には漏洩保安を目的とする付臭剤として、メルカプタン類やスルフィド類、あるいはチオフェン類などの硫黄化合物が添加されている。また、それらの硫黄化合物のほか、その付臭剤として、炭化水素の一種であるシクロヘキセン(cyclohexene:以下、適宜“CH”と略記する)を添加することも開発されており、シクロヘキセンはメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類などと併用しても使用される(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−58701号公報
【0005】
硫黄化合物のうち、メルカプタン類は、ターシャリーブチルメルカプタン(本明細書中“TBM”と略称する)やイソプロピルメルカプタンやノルマルプロピルメルカプタンやターシャリーアミルメルカプタンやターシャリーヘプチルメルカプタンやメチルメルカプタンやエチルメルカプタンなどがあり、スルフィド類は、ジメチルサルファイド(本明細書中“DMS”と略称する)やエチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド、チオフェン類はテトラヒドロチオフェン(本明細書中“THT”と略称する)などである。
【0006】
一般に添加される付臭剤としてはDMS、TBM、THTが多く用いられ、その濃度はいずれも数ppmである。とりわけ、都市ガスにおいてはTBM及びDMSの両方を用いるケースがほとんどである。
【0007】
これらのメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類は水蒸気改質法で用いられる触媒に対して被毒影響があり、触媒の性能劣化を来たしてしまう。このため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、燃料ガスから予め除去しておく必要がある。また、硫黄化合物を除去した燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、できるだけ低濃度であることが望ましい。
【0008】
従来、燃料に含まれる硫黄化合物の除去方法の一つとして吸着剤による方法がある。この方法は吸着剤に燃料を通過させることにより硫黄化合物を吸着除去する方法である。硫黄化合物の吸着剤として活性炭、ゼオライト、金属担持のゼオライト(特許文献2〜4)などが知られている。このうち、活性炭は硫黄化合物吸着剤としては満足できる性能はなく、一方、ゼオライト、金属担持のゼオライトは高い硫黄化合物吸着能はあるものの、高価であるという欠点がある。
【0009】
硫黄化合物吸着剤としてシリカゲルや、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、鉄等の金属担持のシリカゲル(特許文献5)、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物(特許文献6、7)も知られている。これらの硫黄化合物吸着剤(上記活性炭、ゼオライト、金属担持のゼオライトを含む)は、吸着層の一層により処理対象物質を全て吸着処理するという考え方に則っている。
【0010】
また、特許文献8には、銀不含ゼオライト層(銀を含まないゼオライト層)と銀含有A型ゼオライト層に天然ガスを順に通すことにより接触させるか、もしくは両層のゼオライトを混合した層に通すことにより、水銀及びメルカプタン類やジスルフィド類等の硫黄化合物を除去する方法が開示されている。この方法は、硫黄化合物の除去に加えて、水銀を除去することを前提としている。
【0011】
このほか、特許文献9には、容器中に、被処理ガスである燃料ガスの流れ方向でみて、(a)その上流側に活性炭からなる硫黄化合物吸着剤を充填し、下流側にゼオライトにAg、Cu、Zn、Fe、Co及びNiから選ばれた一種又は二種以上の遷移金属をイオン交換により担持させてなる硫黄化合物吸着剤を充填するか、または、(b)それら二種の硫黄化合物吸着剤を混合して充填してなる燃料ガスの脱硫装置が開示されている。この脱硫装置は、種類の異なる硫黄化合物を同時に吸着除去することを技術思想としている。
【0012】
特許文献10には、大便臭の主成分である硫化水素及びメチルメルカプタン等の悪臭成分と結合することによって常温で悪臭成分を除去する第1金属酸化物と、第1金属酸化物の作用を補助する第2金属酸化物と、悪臭成分若しくは悪臭成分からの生成物を吸着する吸着剤である活性炭からなる脱臭剤が記載されている。
【0013】
【特許文献2】特開2001−286753号公報
【特許文献3】特開2002−66313号公報
【特許文献4】特開2003−64386号公報
【特許文献5】特開2003−24776号公報
【特許文献6】特開平11−519号公報
【特許文献7】特開2004−75778号公報
【特許文献8】特開平11−50069号公報
【特許文献9】特開2003−20489号公報
【特許文献10】特許第3704713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、メルカプタン類吸着層を二層に直列に配置することにより、従来技術に比べて吸着量を飛躍的に向上できるようにしてなる燃料ガス中のメルカプタン類除去装置を提供し、また、当該メルカプタン類除去装置と燃料ガス中のスルフィド類除去装置を組み合わせたメルカプタン類及びスルフィド類除去装置を提供し、また、当該メルカプタン類除去装置と燃料ガス中のチオフェン類除去装置を組み合わせたメルカプタン類及びチオフェン類除去装置を提供することを目的とするものである。
【0015】
本発明は、メルカプタン類吸着層を二層に直列に配置することにより、従来技術に比べて吸着量を飛躍的に向上できるようにしてなる燃料ガス中のメルカプタン類除去装置と燃料ガス中のシクロヘキセン除去装置を組み合わせたメルカプタン類及びシクロヘキセン除去装置を提供し、また、当該メルカプタン類除去装置とスルフィド類及びシクロヘキセン除去装置を組み合わせたメルカプタン類、スルフィド類及びシクロヘキセン除去装置を提供し、また、当該メルカプタン類除去装置と燃料ガス中のスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセン除去装置を組み合わせたメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセン除去装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(1)は、燃料ガス中のメルカプタン類からなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、下流側に活性炭を配置してなることを特徴とする。
【0017】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の下流側に活性炭を充填して構成する。
【0018】
本発明(2)は、燃料ガス中のメルカプタン類及びスルフィド類からなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類を吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。
【0019】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の中流域に活性炭を充填し、前記容器中の下流側にスルフィド類を吸着する吸着剤を充填して構成する。
【0020】
本発明(3)は、燃料ガス中のメルカプタン類及びチオフェン類からなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にチオフェン類を吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。
【0021】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の中流域に活性炭を充填し、前記容器中の下流側にチオフェン類を吸着する吸着剤を充填して構成する。
【0022】
本発明(4)は、燃料ガス中のメルカプタン類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。
【0023】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の中流域に活性炭を充填し、前記容器中の下流側にシクロヘキセンを吸着する吸着剤を充填して構成する。
【0024】
本発明(5)は、燃料ガス中のメルカプタン類、スルフィド類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。
【0025】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の中流域に活性炭を充填し、前記容器中の下流側にスルフィド類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を充填して構成する。
【0026】
本発明(6)は、燃料ガス中のメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置である。そして、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。
【0027】
この燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の中流域に活性炭を充填し、前記容器中の下流側にスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を充填して構成する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の燃料ガス中の付臭剤除去装置によれば下記の効果が得られる。
(1) メルカプタン類からなる付臭剤を含む燃料ガスからメルカプタン類を選択的に且つ確実に吸着除去することができる。
(2) メルカプタン類のほか、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンの一種または二種以上の付臭剤を含む燃料ガスからメルカプタン類を選択的に且つ確実に吸着除去することができる。
(3) メルカプタン類のほか、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンの一種または二種以上の付臭剤を含む燃料ガスからメルカプタン類を選択的に且つ確実に吸着除去し、これに続いて、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンの一種または二種以上の付臭剤を吸着除去することができる。
(4) 上記(3)において、メルカプタン類の選択的吸着除去に続くスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンの一種または二種以上の付臭剤の吸着除去に金属担持ゼオライト吸着剤を使用すると、金属担持ゼオライトでの競争吸着がないので、スルフィド類、チオフェン類、シクロヘキセンの吸着剤の吸着容量を増やすことができる。
(5) 燃料ガスからのPEFCやSOFC用の燃料水素の製造用としてコンパクト化を図ることができる。
(6) 都市ガス、LPガスその他の燃料ガス中に添加されるDMS、TBM、THT、シクロヘキセン(それらの1種または複数種)はそれぞれ数ppmレベルで添加されているが、本発明によればそれぞれ数ppbレベルにまで低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明(1)の燃料ガス中の付臭剤除去装置は、燃料ガス中のメルカプタン類を除去することを目的とし、その基本構成として、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、下流側に活性炭を配置してなることを特徴とする。
【0030】
本発明(1)の燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合は、容器に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前記容器中の上流側に遷移金属酸化物を充填し、前記容器中の下流側に活性炭を充填して構成する。すなわち、第一層としてメルカプタン類の二量化触媒である遷移金属酸化物を充填し、第二層としてメルカプタン類の二量体を吸着する吸着剤である活性炭を充填して構成する。
【0031】
本発明(1)におけるこの基本構成は、本発明(2)〜(6)においても共通して備える構成である。この基本構成のうち、燃料ガス中の付臭剤除去装置を一つの容器で構成する場合について言えば、本発明(2)〜(6)は以下のとおりとなる。
【0032】
本発明(2)は、前記基本構成に加えて、第三層として前記容器中の下流側にスルフィド類を吸着する吸着剤を充填してなることを特徴とする。本発明(3)は、前記基本構成に加えて、前記容器中の下流側にチオフェン類を吸着する吸着剤を充填してなることを特徴とする。本発明(4)は、前記基本構成に加えて、第三層として前記容器中の下流側にシクロヘキセンを吸着する吸着剤を充填してなることを特徴とする。
【0033】
本発明(5)は、前記基本構成に加えて、第三層として燃料ガス中のスルフィド類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする。本発明(6)は、前記基本構成に加えて、第三層として前記容器中の下流側にスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を充填してなることを特徴とする。
【0034】
本発明(1)〜(6)において、遷移金属酸化物はメルカプタン類の二量化触媒として利用するものである。遷移金属酸化物は、メルカプタン類の二量化触媒としての機能を有すればよいが、好ましくは二酸化マンガン(MnO2)、酸化銅(CuO)、酸化鉄(Fe23)、酸化ニッケル(NiO)またはそれらの混合物を使用する。これらはメルカプタン類を二量化する触媒としての特性を備えていればよく、例えば比表面積その他、特定の特性を備える必要はない。
【0035】
遷移金属酸化物は、従来硫黄化合物の吸着剤として利用されているが、本発明(1)〜(6)においては、遷移金属酸化物をメルカプタン類の二量化触媒として使用するものである。そして、遷移金属酸化物からなるメルカプタン類の二量化触媒を経て生成したメルカプタン類の二量体を活性炭により吸着して除去する。そのため、遷移金属酸化物を上流側に、活性炭を下流側に配置することが必須であり、前述特許文献9とは全く異なる構成である。
【0036】
活性炭は、ヤシ殻、おがくず等の植物、あるいは石炭、石油、合成樹脂等を原料とし、それらを炭素化、賦活して製造され、その形状により粒状活性炭、粉末活性炭、繊維状活性炭などに分類される。粒状活性炭には破砕状活性炭、造粒活性炭がある。本発明(1)〜(6)においては、それらいずれの活性炭も使用される。容器に充填して使用する取り扱い上の観点からは、それらのうち粒状活性炭であるのが好ましい。
【0037】
また、メルカプタン類の除去装置に続く、スルフィド類、チオフェン類、シクロヘキセンの除去装置で使用する吸着剤は、それらを吸着する吸着剤であれば特に限定はないが、好ましくはゼオライトにAg、Cu、Zn、Fe、Co及びNiから選ばれた一種又は二種以上の遷移金属を担持してなる吸着剤を使用することができる。
【0038】
それら遷移金属の中でもAg又はCuを担持させた吸着剤が特に有効である。ゼオライトとしては、好ましくはX型ゼオライト、Y型ゼオライトまたはβ型ゼオライトが用いられる。以下において、その吸着剤を適宜「金属担持ゼオライト」、「金属担持ゼオライト吸着剤」等と略称し、その具体例として、Y型ゼオライトにAgを担持したものを「Ag−Y型ゼオライト」と略称している。金属担持ゼオライトは、好ましくは金属イオンを含む水溶液を使用したイオン交換法により製造されるが、含浸法その他により製造されたものでもよい。
【0039】
金属担持ゼオライト吸着剤は、メルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類等の硫黄化合物のほか、シクロヘキセンも有効に吸着する。本発明においては、まず、メルカプタン類を、メルカプタン類の二量化触媒である遷移金属酸化物と、これに続く生成二量体を吸着する活性炭とのペアで優先的に除去するので、金属担持ゼオライト吸着剤は、当該メルカプタン類以外の付臭剤を除去するのに使用するものである。
【0040】
金属担持ゼオライト吸着剤によるシクロヘキセンの選択的吸着性については、本発明者らが本発明と相前後して明らかにし開発したものである。例えば都市ガスにはメタン、エタン、プロパン、ブタンのほか、その原料である天然ガス等に由来して微量ではあるがペンタン(C=5)、ヘキサン(C=6)等の低級炭化水素も含まれているが、金属担持ゼオライト吸着剤によりシクロヘキセンを選択的に吸着することができる。
【0041】
金属担持ゼオライトのうちでも、特に「Ag−Y型ゼオライト」が有効であり、メルカプタン類除去済みの燃料ガスから、シクロヘキセンを選択的に吸着、除去し、同時にスルフィド類、チオフェン類を吸着、除去することができる。
【0042】
以下、本発明について、その機序、機構等を含めてさらに詳しく説明する。
【0043】
〈遷移金属酸化物の触媒機能について〉
ここで、遷移金属酸化物はメルカプタン類の重合反応に関して触媒効果を持っている。例えば、TBM(t−C49SH)は、二酸化マンガン、酸化銅、酸化鉄、酸化ニッケルなどの遷移金属酸化物の表面に吸着され、下記式(1)で示される二量化反応により二量体:ジターシヤリーブチルジスルフィド(C49−S−S−C49、以下“DTBDS”と略称する)となる。
【0044】
【化1】

【0045】
〈活性炭によるDTBDSの吸着について〉
二量体:DTBDSは、そのように遷移金属酸化物の表面で生成するが、遷移金属酸化物の表面から容易に脱離する。一方、活性炭は、TBMの吸着力は小さいが、DTBDSの吸着力は大きい。このため、上記のように生成し、離脱したDTBDSは活性炭に容易に吸着される。
【0046】
本発明においては、それらの事実を利用して、供給する燃料ガスの流れ方向でみて、前段にメルカプタン類の二量化触媒層として遷移金属酸化物層を配置し、後段に生成二量体(=ジスルフィド類)の吸着剤層として活性炭層を配置して、メルカプタン類を選択的に吸着除去するものである。すなわち、容器中に遷移金属酸化物層と活性炭層をこの順に配置して両層をペアとし、メルカプタン類を選択的に吸着除去するものである。
【0047】
供給する燃料ガスの流れ方向でみて、容器中に第一の層として遷移金属酸化物層を配置し、第二の層として活性炭層を配置してメルカプタン類除去装置を構成する。なお、このメルカプタン類除去装置は、都市ガス等の燃料ガス中の硫黄化合物のうち、メルカプタン類に対しては非常に有効であるが、スルフィド類やチオフェン類は二量化しにくく、その効果を期待することはできない。
【0048】
燃料ガスに対し、付臭剤として添加される硫黄化合物であるメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類の組み合わせには、メルカプタン類単独、スルフィド類単独、チオフェン類単独、メルカプタン類とスルフィド類、メルカプタン類とチオフェン類、メルカプタン類とスルフィド類とチオフェン類、スルフィド類とチオフェン類と言うような態様がある。
【0049】
本発明のメルカプタン類除去装置は、それらの組み合わせのうち、メルカプタン類を含む燃料ガスに対して適用する。具体的には、そのうち(a)メルカプタン類単独、(b)メルカプタン類とスルフィド類、(c)メルカプタン類とチオフェン類、(d)メルカプタン類とスルフィド類とチオフェン類の各組み合わせで添加された燃料ガス中のメルカプタン類を効果的に除去することができる。
【0050】
また、燃料ガスが付臭剤として硫黄化合物とシクロヘキセンを添加した燃料ガスの場合には、硫黄化合物とシクロヘキセンの組み合わせには、(A)メルカプタン類とシクロヘキセン、(B)スルフィド類とシクロヘキセン、(C)チオフェン類とシクロヘキセン、(D)メルカプタン類とスルフィド類とシクロヘキセン、(E)メルカプタン類とチオフェン類とシクロヘキセン、(F)メルカプタン類とスルフィド類とチオフェン類とシクロヘキセン、(G)スルフィド類とチオフェン類とシクロヘキセンと言う態様がある。
【0051】
本発明のメルカプタン類除去装置によれば、それらの組み合わせのうち、燃料ガスに対し、(A)メルカプタン類とシクロヘキセン、(B)メルカプタン類とスルフィド類とシクロヘキセン、(C)メルカプタン類とチオフェン類とシクロヘキセン、(D)メルカプタン類とスルフィド類とチオフェン類とシクロヘキセンの各組み合わせで添加された燃料ガス中のメルカプタン類を効果的に除去することができる。
【0052】
そこで、本発明においては、同じく前述事実を基に、前段にメルカプタン類の二量化触媒層として遷移金属酸化物層を配置し、後段にジスルフィド類の吸着剤層として活性炭層を配置し、且つ、活性炭層の後段に金属担持のゼオライトからなる吸着剤層を配置する。これにより、遷移金属酸化物層と活性炭層をペアとして、上記(A)〜(D)の付臭剤が添加された燃料ガス中のメルカプタン類を吸着除去するとともに、(A)シクロヘキセン、(B)スルフィド類とシクロヘキセン、(C)チオフェン類とシクロヘキセン、(D)スルフィド類とチオフェン類とシクロヘキセンを効果的に吸着除去することができる。
【0053】
〈金属担持ゼオライトの競争吸着について〉
例えば、前掲特許文献3(特開2002−66313号公報)に記載の金属担持のゼオライトからなる吸着剤は、燃料ガス中のメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類の何れも吸着する。しかし、金属担持ゼオライト吸着剤は、それら硫黄化合物の種類により吸着力(硫黄化合物の側から言えば被吸着力)に違いがあり、競争吸着が行われる。
【0054】
図1は、TBMとDMSを含む燃料ガスを例に、その状況を説明する図である。TBMとDMSを含む燃料ガスを一例としてAg−Y型ゼオライト層に通すと、初期の段階では、TBMとDMSの何れも吸着するが、TBMの吸着力がDMSの吸着力より大きいために、当該吸着剤(脱硫剤)に一度吸着されたDMSをTBMが追い出し、TBMが吸着される。図1(a)にその状況を示している。そして追い出されたDMSは、吸着剤層のうちTBMが吸着されていない箇所で吸着される。図1(b)にその状況を示している。
【0055】
このため、燃料ガス中のTBMとDMSの混合付臭剤を対象とし、特許文献3に記載の硫黄化合物吸着剤層に通して脱硫を行うと、TBMよりも、DMSの方が吸着されにくく、DMSの破過が早いという特徴がある。すなわち、その硫黄化合物吸着剤層に対してTBMとDMSを同時に吸着処理すると、吸着剤層への吸着処理開始時にはTBMとDMSは同時に吸着されるが、図1(a)に示すように、TBMがDMSを追い出す効果(競争吸着)があり、TBMによって押し出されたDMSの吸着帯はその先端部(破過部)の前進速度が速くなる。
【0056】
本発明(1)において、また本発明(2)〜(6)においても、TBMの二量化触媒層である遷移金属酸化物と二量化TBMの吸着剤である活性炭とのペアによりTBMを吸着除去することから、活性炭に続き金属担持ゼオライトを使用すると、当該金属担持ゼオライトでの競争吸着は起こらないので、DMS、THTまたはCHをより有効に吸着することができるものである。
【0057】
〈メルカプタン類を除去する態様〉
図2は本発明(1)の構成態様を説明する図である。この構成態様は、本発明(2)〜(6)の基本構成にも相当しており、本〈メルカプタン類を除去する態様〉の箇所で述べる態様は本発明(2)〜(6)についても同様である。
【0058】
従来技術では、容器中にメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類等の硫黄化合物付臭剤除去用脱硫剤を充填し、これにそれらの硫黄化合物付臭剤含有燃料ガスを通すことにより、それら硫黄化合物を吸着除去する。
【0059】
これに対して、本発明においては、図2のとおり、容器中にメルカプタン類の二量化触媒層としての遷移金属酸化物とジスルフィド類の吸着剤層としての活性炭とをこの順にそれぞれ層として充填する。遷移金属酸化物層の下部、活性炭の上部、遷移金属酸化物と活性炭との間には多孔板、メッシュ等を配置する。遷移金属酸化物と活性炭との間の多孔板、メッシュ等は、層間の遷移金属酸化物と活性炭との混合を避け、多孔板、メッシュ等の孔は層間で被処理燃料ガスを流通させるためのものである。
【0060】
また、本発明においては、メルカプタン類の二量化触媒層として遷移金属酸化物とジスルフィド類の吸着剤層として活性炭とを、それぞれ別個の容器に、それぞれ層として充填してもよい。この場合にも、供給する燃料ガスの流れ方向でみて、遷移金属酸化物充填容器と活性炭充填容器とをこの順に配置することが必須である。コンパクト化の観点からは、図2のように遷移金属酸化物層と活性炭層を一つの容器中に配置するのが好ましい。
【0061】
容器は、図2では円筒状の場合を例示しているが、処理する燃料ガスの流れ方向に対して、その横断面矩形状等、適宜の形状とすることができる。本発明の装置は、縦置きでも横置きでも斜め置きでもよいが、図2には縦置きの場合を示している。これらの点は遷移金属酸化物層と活性炭層をそれぞれ別個の容器中に配置する態様の場合も同様である。
【0062】
〈先行技術:特許文献9との関係について〉
前述特許文献9には、活性炭からなる第一層と金属担持ゼオライトからなる第二層との二層によりメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類を吸着除去する技術が開示されている。この技術は、活性炭または金属酸化物のみではTBMの吸着量が少ないことを前提とし、この問題を解決するものである。
【0063】
しかし、当該特許文献9の技術は、本発明(1)、また本発明(2)〜(6)のように、二量化触媒層である金属酸化物層を第一層とし、吸着剤層である活性炭層を第二層とするのではなく、また、第一層である二量化触媒層によりメルカプタン類を二量化し、第二層である活性炭層によりジスルフィド類(=メルカプタン類の二量体)を吸着除去するものでもない。
【0064】
〈先行技術:特許文献10との関係について〉
特許文献10には、前述のとおり、大便臭の主成分である硫化水素及びメチルメルカプタン等の悪臭成分と結合することによって常温で悪臭成分を除去する第1の金属酸化物と、この第1の金属酸化物の作用を補助する第2の金属酸化物と、悪臭成分若しくは悪臭成分からの生成物を吸着する活性炭からなる脱臭剤が記載されている。このうち第1の金属酸化物と第2の金属酸化物は、硫化水素及びメチルメルカプタンから二硫化メチル、三硫化メチル及び四硫化メチルを生成するためのものであり、活性炭に、それら二硫化メチル、三硫化メチル及び四硫化メチルを同時に若しくは段階的に吸着せしめることで、硫化水素及びメチルメルカプタンを除去するとされている。
【0065】
しかし、その技術は、大便臭つまり空気雰囲気中の硫化水素及びメチルメルカプタンを除去することを目的とし、それで足りることから、特許文献10の例えば図1に示されているとおり、第1の金属酸化物と、当該第1の金属酸化物の作用を補助する第2の金属酸化物を経た気体の一部は大気へ放散しても差し支えないものである。
【0066】
これに対して、本発明の燃料ガス中の付臭剤除去装置は、燃料ガス中つまり還元雰囲気中のメルカプタン類を吸着除去することを目的とし、しかも、燃料ガスを改質触媒により改質して水素を製造するに際し、その前段の処理に使用するものであることから、特許文献10とはその目的そのものを異にし、燃料ガス中のメルカプタン類、またこれに加えてスルフィド類、チオフェン類、あるいはシクロヘキセンを徹底して除去する必要がある。
【0067】
また、特許文献10では第1金属酸化物と第2金属酸化物と活性炭とを混合して使用するのに対して、本発明の燃料ガス中の付臭剤除去装置は、その基本構成として、遷移金属酸化物層と活性炭層の二層とし、当該装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、下流側に活性炭を配置する。このように、遷移金属酸化物層と活性炭層を別個に配置するので、活性炭による二量体の吸着性能を阻害することがなく、また遷移金属酸化物と活性炭の量比を変え、交換頻度なども調整することができる。
【0068】
〈メルカプタン類の除去に加え、メルカプタン類以外の付臭剤を除去する態様〉
本発明によれば、メルカプタン類の除去に加え、メルカプタン類以外の付臭剤を除去することができる。まず、メルカプタン類は、前述〈メルカプタン類を除去する態様〉で述べたとおり、遷移金属酸化物層によりメルカプタン類を二量化し、次いで、二量化したメルカプタン類を活性炭層に吸着、除去する。そして、活性炭層に続く、メルカプタン類以外の付臭剤吸着剤層によりメルカプタン類以外の硫黄化合物を吸着、除去する。図3は、この態様を説明する図である。
【0069】
図3のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、付臭剤吸着剤層を配置する。付臭剤吸着剤層はメルカプタン類以外の付臭剤を吸着、除去する役割をする。被処理燃料ガスからメルカプタン類のみを吸着する場合には、活性炭層に続く当該付臭剤吸着剤層は不要であり、図2に示す態様となる。
【0070】
以下、メルカプタン類の除去に加え、メルカプタン類以外の付臭剤を除去する態様のうち主な態様ついて順次説明する。
【0071】
〈メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類を除去する態様〉
図4は、メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類を除去する態様を説明する図である。図4のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、スルフィド類を除去する付臭剤吸着剤層を配置する。
【0072】
〈メルカプタン類の除去に加え、チオフェン類を除去する態様〉
図5は、メルカプタン類の除去に加え、チオフェン類を除去する態様を説明する図である。図5のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、チオフェン類を除去する付臭剤吸着剤層を配置する。
【0073】
〈メルカプタン類の除去に加え、CHを除去する態様〉
図6は、メルカプタン類の除去に加え、CH(=シクロヘキセン)を除去する態様を説明する図である。図6のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、CHを除去する付臭剤吸着剤層を配置する。
【0074】
〈メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とCHを除去する態様〉
図7は、メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とCH(=シクロヘキセン)を除去する態様を説明する図である。図7のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、スルフィド類とCHを除去する付臭剤吸着剤層を配置する。
【0075】
〈メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とチオフェン類とCHを除去する態様〉
図8は、メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とチオフェン類とCH(=シクロヘキセン)を除去する態様を説明する図である。図8のとおり、遷移金属酸化物層、活性炭層に続き、スルフィド類とチオフェン類とCHを除去する付臭剤吸着剤層を配置する。
【実施例】
【0076】
以下、実験例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明がこれら実験例により制限されないことはもちろんである。
【0077】
〈試験装置、操作の説明〉
図9は、後述実験例1〜4で使用した試験装置、操作を説明する図である。図9において「吸着剤試験サンプル」として示すように、試験ガス(被処理ガス、都市ガス13A)の流れ方向でみて順次、遷移金属酸化物を充填した容器と活性炭を充填した容器とAg−Y型ゼオライトを充填した容器を配置している。この基本単位は、吸着剤試験サンプルを各実験ごとに1段(実験例1のA〜D、F〜G)、2段(遷移金属酸化物充填容器+活性炭充填容器:実験例1のE、H)、3段(実験例2〜4)とした。
【0078】
基本単位のうち、遷移金属酸化物充填容器にはMnO2とCuOの混合物(実験例1のF〜HではFe23とMn34とAl23の混合物)を充填し、活性炭充填容器には活性炭を充填し、銀ゼオライト容器にはAg−Y型ゼオライトを充填した。遷移金属酸化物充填容器とこれに続く活性炭充填容器とからなるペアがメルカプタン類の除去部に相当し、これに続くAg−Y型ゼオライト容器がスルフィド類、チオフェン類またはシクロヘキセンの除去部に相当する。この基本単位は前述図3の構成に相当している。
【0079】
図9のとおり、恒温槽中に上記基本単位、つまり遷移金属酸化物充填容器と活性炭充填容器からなるペアと、これに続くAg−Y型ゼオライト充填容器を配置する。そして、基本単位にはその出口側に試験ガスのサンプリング用導管を配置し、分析装置〔FPD(=炎光光度検出器)−GC(=ガスクロマトグラフィー)〕へ導通する。
【0080】
上記基本単位への試験ガス供給側には、TBMを含む試験ガス、TBM+DMSを含む試験ガス、TBM+THTを含む試験ガス、TBM+CHを含む試験ガス、TBM+DMS+CHを含む試験ガス、TBM+DMS+THT+CHを含む試験ガスと言うように所定の付臭剤を含む試験ガスを供給する導管を連結している。
【0081】
すなわち、基本単位への試験ガス供給側に、脱硫器、流量調節器、開閉弁V10を備える都市ガス(13A)導管、流量調節器、開閉弁V1を備えるTBM標準ガス導管、流量調節器、開閉弁V2を備えるDMS標準ガス導管、流量調節器、開閉弁V3を備えるTHT標準ガス導管、流量調節器、開閉弁V4を備えるCH標準ガス導管の各導管を配置する。各流量調節器、各開閉弁V10、V1〜V4を操作することにより、TBM、DMS、THT、CHを所定量含有する試験ガスを生成し、各試験ガスごとに試験することができる。
【0082】
例えば、TBMを含む試験ガスは、脱硫器で脱硫済みの都市ガスに対して、TBM標準ガス導管の弁V1を開とし、その流量を流量調節器により調節して混合することにより調製し、TBM+DMS+CHを含む試験ガスは、脱硫器で脱硫済みの都市ガスに対して、TBM、DMS、CHの各標準ガス導管の各弁V1〜V2、V4を開とし、それら各標準ガスの流量をそれぞれ流量調節器により調節して混合することにより調製する。同様にして、TBM+CHを含む試験ガス、TBM+DMSを含む試験ガス、TBM+THTを含む試験ガスを調製する。
【0083】
なお、都市ガス(13A)を脱硫器に供給して硫黄化合物付臭剤を除去するのは、都市ガス(13A)中に含まれている硫黄化合物付臭剤を予め除去し、都市ガスと同じ炭化水素組成の試験ガスとするためである。TBM標準ガス等の各標準ガスはTBM等の各付臭剤を窒素に添加含有させることで作ったものである。
【0084】
本試験装置の操作に際しては、恒温槽中の温度を例えば25℃というように一定に保つ。各試験ガス、すなわち脱硫器で脱硫した都市ガスに、TBM、DMS、THT、CHのうちの所定の組み合わせを選び、選んだ各成分の添加量を設定して添加したガスを基本単位に流通させる。基本単位中を流れて、流出するガス全量を石けん膜式流量計で測定しながら、開閉弁V6〜8を操作して各サンプリング用導管から各試験ガスをサンプリングし、添加した付臭剤の含有量を分析装置(FPD−GC)により計測する。この操作を各試験ガスごとに実施する。
【0085】
〈実験例1:各種吸着剤によるTBMの吸着試験〉
本実験例1では、吸着剤として以下A〜Eを使用した。これら吸着剤の形状は何れも粒子状である。
A:Ag−Y型ゼオライト吸着剤。これはY型ゼオライトに対してAgをイオン交換法により担持したものである。
B:NiO添着炭。活性炭にNiOを添着、担持したものである。
C:遷移金属酸化物(MnO2とCuOの混合物吸着剤)。二酸化マンガンと酸化銅を含む吸着剤であり、MnO2含有割合は76mass%、CuO含有割合は21mass%、残部K2CO3である。
D:活性炭。吸着剤として市販されている一般の活性炭であり、添着炭に対して「無修飾炭」とも呼ばれる。
E:Cの遷移金属酸化物とDの一般活性炭を併用したものである。試験ガス(=被処理ガス)の流れ方向でみて、順次、遷移金属酸化物と活性炭を配置して使用した。
F:遷移金属酸化物(Fe23とMn34とAl23の混合物吸着剤)。酸化鉄と酸化マンガンとアルミナを含む吸着剤であり、Fe23含有割合は56mass%、Mn34含有割合は27mass%、Al23含有割合は10mass%、残部K2CO3である。
G:活性炭。吸着剤として市販されている一般の活性炭である。
H:Fの遷移金属酸化物とGの一般活性炭を併用したものである。試験ガス(=被処理ガス)の流れ方向でみて、順次、遷移金属酸化物と活性炭を配置して使用した。
【0086】
〈試験装置〉
実験例1で使用した試験装置は、前述図9中、遷移金属酸化物を充填した容器と活性炭を充填した容器とAg−Y型ゼオライトを充填した容器とからなる基本単位を、上記A〜Hの各吸着剤の充填容器と入れ替えたものに相当する試験装置で、入れ替え部分以外は図9と同様のものである。なお、E、Hでは、遷移金属酸化物充填容器と活性炭充填容器をこの順に配置している。
【0087】
〈実験条件〉
これら各吸着剤A〜Hを円筒状容器中にそれぞれ、層状に充填し、TBMを添加した試験ガスを通すことによりTBMの吸着試験を行った。そのうちE、Hは、円筒状容器内に遷移金属酸化物と活性炭とを順次、層状に充填し、試験ガスを遷移金属酸化物層に通した後、活性炭層に通すことで試験した。他の実験条件は以下のとおりとした。この点、実験例2〜4についても同じである。
温度=25℃、圧力=常圧(大気圧)、ガス流量=1L/min、線流速(LV)=33cm/s、SV=60000h-1
【0088】
表1に各種吸着剤によるTBM吸着量の実測結果を示している。表1には各吸着剤試料のメーカー、名称(商品名等)を併記している。
【0089】
【表1】

【0090】
表1のとおり、TBMの吸着量は、Aで45mg/g、Bで220mg/g、Cで36mg/g、Dで11mg/gであった。これに対して、Eでは、355mg/gの値を示している。A〜DのうちTBMを最も多量に吸着する吸着剤は添着炭Bである。これに対して、Eでは、添着炭Bに比べて1.6倍ものTBMを吸着している。また、実験E、Hによる硫黄化合物の除去率を測定したところ、いずれも出口濃度は10ppb以下であり極微量になっており、その除去率は99.7%以上であった。
【0091】
そのように、従来法であるA〜Dそれぞれの単独吸着剤に比べて、CとDの組み合わせで且つ試験ガスの流れ方向でみて“C→D”の順に配置したEではTBMの吸着量が飛躍的に増加している。このようにTBM吸着量が増加する理由としては、遷移金属酸化物によってTBMが二量化されると、二量体(DTBDS)はTBMに比べて分子の大きさが大きくなり(約2倍)、蒸気圧が下がる。このため、遷移金属酸化物に続く活性炭の細孔内において吸着しやすい物質となるために、その吸着量が増えることによるものと考えられる。
【0092】
すなわち、燃料ガス中の他の分子に比べて、二量体(DTBDS)は分子の大きさが最大級となる。そのため蒸気圧が下がり、活性炭の細孔内にて吸着しやすくなる。このように、除去したい分子のみを選択的に大きくすることができるのが本発明の本質である。
【0093】
〈実験例2:TBM+DMSの場合についての試験〉
本実験例2は、図9の試験装置を使用し、操作して(前記〈試験装置、操作の説明〉参照)、脱硫した都市ガス中にTBM+DMSを添加した燃料ガスにおける吸着量への影響についての試験した。使用した吸着剤の種類を表2に、吸着層に導入した試験ガス中の付臭剤であるTBM、DMSの量を表3に、各付臭剤の吸着量を表4に記載している。なお、表2中、金属酸化物、活性炭は実験例1で使用したもの(C、D)と同じであり、また、銀ゼオライトは実験例1で使用したAg−Y型ゼオライトと同じである。
【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
表4のとおり、燃料ガス中にTBM、DMSが共存する場合、TBMについては先行技術(特許文献9)、本発明(本件技術)ともに全て吸着除去されている。しかし、DMSについては、先行技術では吸着量300mg/gである。これに対して、本発明では吸着量355mg/gであり、DMSが全て吸着除去されている。
【0098】
〈実験例3:TBM+CHの場合についての試験〉
本実験例3は、図9の試験装置を使用し、操作して〔前記〈試験装置、操作の説明〉参照〕、脱硫した都市ガス中にTBM+CHを添加した試験ガスにおける吸着量への影響について試験した。使用した吸着剤の種類を表5に、吸着層に導入した試験ガス中の付臭剤であるTBM、CHの量を表6に、各付臭剤の吸着量を表7に記載している。なお、表5中、金属酸化物、活性炭は実験例1で使用したもの(C、D)と同じであり、また、銀ゼオライトは実験例1で使用したAg−Y型ゼオライトと同じである。
【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
表7のとおり、燃料ガス中にTBM、CHが共存する場合、TBMについては先行技術、本発明ともに全て吸着除去されている。しかし、CHについては、先行技術では吸着量588.3mg/gである。これに対して、本発明では吸着量710mg/gであり、全て吸着除去されている。
【0103】
〈実験例4:TBM+DMS+CHの場合についての試験〉
本実験例4は、図9の試験装置を使用し、操作して〔前記〈試験装置、操作の説明〉参照〕、脱硫した都市ガス中にTBM+DMS+CHを添加した試験ガスにおける吸着量への影響について試験した。使用した吸着剤の種類を表8に、吸着層に導入した試験ガス中の付臭剤であるTBM、DMS、CHの量を表9に、各付臭剤の吸着量を表10に記載している。なお、表8中、金属酸化物、活性炭は実験例1で使用したもの(C、D)と同じであり、また、銀ゼオライトは実験例1で使用したAg−Y型ゼオライトと同じである。
【0104】
【表8】

【0105】
【表9】

【0106】
【表10】

【0107】
表10のとおり、燃料ガス中にTBM、DMS、CHが共存する場合、TBMとDMSについては先行技術、本発明ともに全て吸着除去されている。しかし、CHについては、先行技術では吸着量326mg/gである。これに対して、本発明では吸着量355mg/gであり、全て吸着除去されている。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】燃料ガス中のTBMとDMSの競争吸着の状況を説明する図
【図2】本発明の基本構成を説明する図
【図3】メルカプタン類の除去に加え、メルカプタン類以外の付臭剤を除去する態様を説明する図
【図4】メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類を除去する態様を説明する図
【図5】メルカプタン類の除去に加え、チオフェン類を除去する態様を説明する図
【図6】メルカプタン類の除去に加え、CHを除去する態様を説明する図
【図7】メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とCHを除去する態様を説明する図
【図8】メルカプタン類の除去に加え、スルフィド類とチオフェン類とCHを除去する態様を説明する図
【図9】実験例1〜4で使用した試験装置を説明する図
【符号の説明】
【0109】
V1〜V8、V10 開閉弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス中のメルカプタン類からなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、下流側に活性炭を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項2】
燃料ガス中のメルカプタン類及びスルフィド類からなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類を吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項3】
燃料ガス中のメルカプタン類及びチオフェン類からなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にチオフェン類を吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項4】
燃料ガス中のメルカプタン類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項5】
燃料ガス中のメルカプタン類、スルフィド類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項6】
燃料ガス中のメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンからなる付臭剤を除去するための装置であって、前記装置に供給する燃料ガスの流れ方向でみて、上流側に遷移金属酸化物を配置し、中流域に活性炭を配置し、下流側にスルフィド類、チオフェン類及びシクロヘキセンを吸着する吸着剤を配置してなることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料ガス中の付臭剤除去装置において、前記燃料ガス中のメルカプタン類がターシャリーブチルメルカプタンであり、スルフィド類がジメチルサルファイドであり、チオフェン類がテトラヒドロチオフェンであることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料ガス中の付臭剤除去装置において、前記遷移金属酸化物が二酸化マンガン、酸化銅、酸化鉄、酸化ニッケルまたはそれらの混合物であることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料ガス中の付臭剤除去装置において、前記スルフィド類、チオフェン類又はシクロヘキセンを吸着する吸着剤がAg担持のゼオライトであることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料ガス中の付臭剤除去装置が、燃料ガスからの燃料電池用燃料水素の製造用の付臭剤除去装置であることを特徴とする燃料ガス中の付臭剤除去装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−37480(P2010−37480A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204126(P2008−204126)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】