説明

燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置

【課題】継続して均一な塗布を行うことができるスプレー塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布液を噴射するスプレーガンと4、スプレーガン4に塗布液を供給する液送装置7と、高圧ガスを減圧する減圧装置3と、溶媒を減圧された高圧ガスに霧状に添加することにより霧化ガスを生成する霧化装置2と、を備える。また、液送装置7からスプレーガン4までの間の圧力を検出する圧力計測装置6を備え、塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増やし、霧化ガスの圧力を増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー塗布装置に関する。特に、燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜(陽イオン交換膜)の両側にそれぞれアノード側電極およびカソード側電極を対設して構成された単位セルを、セパレータによって挟持することにより構成される。このような単位セルの電極製造方法としては、例えば電解質膜やガス拡散層の表面に、白金等の触媒を担持したカーボンを含むインクをスプレー塗布するものが知られている。電極は一般的な塗装に比べ10〜50μmと薄く、また均一に塗布する必要がある。
【0003】
このような薄い塗装を行う方法として、少ない噴霧量でも安定した噴霧を行うことができるとともに、ガンのノズル部周辺での塗布液固形分の固着が発生しにくい塗布方法が提案されている。これは、スプレーガンにプライマーと霧化用エアーとを供給してプライマーを塗布するプライマー塗布方法であって、スプレーガンに供給されるプライマー量を制御するとともに、スプレーガンに供給される霧化用エアー内にプライマーの溶剤を供給する。また、そのための装置として、スプレーガンとプライマー容器との間に、スプレーガンへのプライマー供給量を制御する制御手段を設けるとともに、スプレーガンと高圧発生装置との間に、霧化用エアー内にプライマーの溶剤を供給する供給手段を設けている(例えば、特許文献1、参照。)。
【特許文献1】特開平10−258245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池の電極を製造するために用いる塗布液としては、純水やアルコール等にカーボン微粒子を分散させたものが用いられる。これは、非常に凝縮、付着し易く、従来のスプレー塗布方法による詰まり対策では詰まりが十分に阻止できず、継続して均一な塗布を行うことが困難であるといった問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題を鑑みて、継続して均一な塗布を行うことができるスプレー塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置であって、塗布液および霧化ガスを噴射するスプレーガンと、前記スプレーガンに塗布液を供給する塗布液供給手段と、前記スプレーガンに供給する霧化ガスを、高圧のガスに電極材料を溶媒中に分散させた塗布液と同じ溶媒を微細な霧状に添加して生成する霧化ガス生成手段と、を備える。また、前記霧化ガスの圧力を調整する圧力調整手段と、前記塗布液供給手段から前記スプレーガンまでの間の圧力を検出する圧力検出手段と、を備える。塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、前記霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増大するとともに、前記霧化ガスの圧力を上昇させる。
【0007】
また、本発明は、スプレー塗布装置であって、 塗布液および霧化ガスを噴射するスプレーガンと、前記スプレーガンに塗布液を供給する塗布液供給手段と、前記スプレーガンに供給する霧化ガスを、高圧のガスに塗布液中の溶媒と同じ溶媒を微細な霧状に添加して生成する霧化ガス生成手段と、を備える。また、前記霧化ガスの圧力を調整する圧力調整手段と、前記塗布液供給手段から前記スプレーガンまでの間の圧力を検出する圧力検出手段と、を備え、塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、前記霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増大するとともに、前記霧化ガスの圧力を上昇させる。
【発明の効果】
【0008】
このように、塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増やし、霧化ガスの圧力を上げることで、スプレーガンが詰まって閉塞する前に付着物を除去することができる。その結果、継続して均一な塗布を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の実施形態について説明する。スプレー塗布装置の構成を図1に示す。ここでは、燃料電池の電極を製造する際に用いるスプレー塗布装置について説明するが、この限りではない。
【0010】
塗布対象となる基板に塗布ガスを噴射するスプレーガン4と、スプレーガン4に霧化ガスを供給する霧化ガス供給系と、塗布液を供給する塗布液供給系と、基板の位置を調整するワーク4aと、を備える。スプレーガン4は図1中のX方向、つまり塗布面に対して垂直方向に移動可能に構成する。また、ワーク4aは、図1中のY方向、つまり塗布面に平行な方向に移動可能に構成する。
【0011】
霧化ガス供給系としては、電極材料を溶媒中に分散させた塗布液と同じ溶媒を貯蔵する溶媒タンク1と、溶媒タンク1から溶媒を取出して霧化する霧化装置2を備える。また、コンプレッサ等により生成された高圧ガスを導入する導入管11と、導入された高圧ガスを減圧する減圧装置3と、を備える。ここでは、高圧ガスをゲージ圧で50k〜200kPaとなるように減圧する。このように減圧された高圧ガスに、霧化装置2より霧状に溶媒を添加することにより霧化ガスを生成する。
【0012】
一方、塗布液供給系としては、塗布液を貯蔵する塗布液タンク8と、塗布液タンク8より塗布液を取出す液送装置7を備える。さらに、液送装置7とスプレーガン4との間の塗布液の圧力を検出する液圧計測装置6と、リリーフ弁5と、を備える。
【0013】
さらに、液圧計測装置6の出力に応じて、スプレーガン4が詰まるのを防止するための付着物の除去動作を制御するコントローラ9を備える。
【0014】
このようなスプレー塗布装置においては、液送装置7によって、スプレーガン4に送られる塗布液は、同様にスプレーガン4に送られる霧化ガスを用いて霧化される。スプレーガン4からは、略中央部分から塗布液が噴射され、塗布液の周囲を囲むように、霧化ガスが噴射される。霧化ガスには、塗布液と同じ溶媒を霧状に添加しているため、スプレーガン4の内壁は常に洗浄され、塗布液固形分の付着は生じ難くなる。
【0015】
また、カーボンの付着を放置していくと、徐々にスプレーガン4の噴出部が詰まって、塗布量が低減されてしまう。スプレーガン4内部の塗布液に含まれる固形成分の付着を落とし、初期状態までのスプレーガン4の詰まりを解消するために、スプレーガン4を分解・洗浄する方法があるが、継続して使用する場合にはこの方法は非効率的である。これに対して、塗布液をスプレーガン4から強く出すことにより、塗布液の流速と溶媒の効果を用いて洗浄を行う方法もある。しかしながら、この方法では、塗布液が塗布される効率が悪く、また、塗布液による詰まりは空気のある箇所、つまりスプレーガン4内部の塗布液の触れない部分に起り易いため、高濃度、または揮発しやすい溶媒を含む塗布液では効果的ではない。
【0016】
ここで、スプレーガン4でカーボン等の付着が生じた場合には、その噴出部の面積が小さくなるに従って塗布液の圧力も上昇する。そこで、本実施形態では、塗布液の圧力が上昇した場合に、霧化ガス中の溶媒量を増大するとともに、霧化ガスの圧力を増大することにより、付着物の除去を行う。
【0017】
ここでは、液圧計測装置6により計測される液圧が、初期圧力の1.2倍以上、望ましくは2倍に達したら、スプレーガン4の洗浄を行う。ワーク4aやスプレーガン4を移動させることにより洗浄用の位置まで移動させる。溶媒霧か装置2において霧化ガスに添加する溶媒霧化量を1.5〜3倍とする。また、減圧装置3を調整することにより、霧化ガス圧を100k〜400kPaに昇圧する。これにより、スプレーガン4の内壁に沿って、溶媒を多く含んだ霧化ガスが勢い良く流れるので、付着物を除去して、スプレーノズル4の状態を初期化することができる。
【0018】
このように、塗布液の圧力を監視することにより、詰まりが生じているか否かを判断し、洗浄には溶媒を含んだ霧化ガスを用いるので、効率的に洗浄することができる。その結果、スプレーガン4の分解する等の手間を掛けずに、継続して薄く均一な塗布を行うことができる。
【0019】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0020】
塗布液および霧化ガスを噴射するスプレーガンと4、スプレーガン4に塗布液を供給する液送装置7と、 スプレーガン4に供給する霧化ガスを、高圧のガスに塗布液中の溶媒と同じ溶媒を微細な霧状に添加して生成する霧化装置2と、霧化ガスの圧力を調整する減圧装置3と、を備える。また、液送装置7からスプレーガン4までの間の圧力を検出する圧力計測装置6を備え、塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増加するとともに、霧化ガスの圧力を上昇させる。
【0021】
このように、霧化ガスに塗布液と同じ溶媒を霧状に添加することで、溶媒のミストでノズル内部の洗浄を行うとともに、詰まりの発生による塗布量の変化を塗布液の圧力で察知する。圧力上昇を検知した場合には、霧化ガスに添加する溶媒量を増大するとともに、霧化ガス圧力を増大することにより、カーボン等の付着物を除去することができ、分解等の手間を掛けずに継続して均一な塗布を行うことができる。ここでは、所定圧力を、運転初期時設定圧力の2倍以上の値とする。
【0022】
なお、前述したように、塗布液は、電極材料を溶媒中に分散させたものに限らず、霧化ガスが、高圧のガスに塗布液中の溶媒と同じ溶媒を微細な霧状に添加したものであればよい。
【0023】
次に、第2の実施形態について説明する。以下、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0024】
塗布の基板を載せるワーク4aの表面にホットプレート10を設ける。ただし、この限りではなく、ターゲットを加熱できる手段であればよい。
【0025】
ここでは、塗布液に含まれる溶媒の量と、霧化ガスに含まれる溶媒の量と、溶媒の気化温度に応じてホットプレート10の温度を変化させる。
【0026】
ホットプレート10の温度は低すぎると溶媒によりムラができ、高すぎると基板に達する前に乾燥して塗布液に含まれる固形成分同士の接合が弱くなる。ホットプレート10の温度は塗布する溶媒にもよるが、通常は40℃以上、多量に溶媒を含む場合や、純水を溶媒に用いる場合では、80℃以上が望ましい。このように設定することで、10〜60秒程度でほぼ塗布液を乾燥させることができる。
【0027】
これにより、溶剤の乾燥を促進させ、塗布した液が垂れたり、液滴によるムラが生じるのを防ぐことができる。その結果、霧化ガスにより多くの溶媒を添加することができ、より効果的に洗浄を行うことができる。
【0028】
次に、本実施形態の効果について説明する。以下、第1の実施形態とは異なる効果のみを説明する。
【0029】
塗布対象となる基材を、塗布する溶媒の量に応じて加熱するホットプレート10を備える。塗布する溶媒の量に応じて塗布対象の基材を加熱し、溶媒の乾燥を促進することで、塗布した液のたれや液滴によるムラを防ぐことができ、より多くの溶媒を塗布ガスに含ませることができ、詰まりを効果的に防止できる。ここでは、ホットプレート10により基材の温度が80℃以上となるように加熱する。
【0030】
なお、本発明は、上記発明を実施するための最良の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術思想の範囲内で、様々な変更を為し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、スプレー塗布装置に適用することができる。特に、詰まりの生じ易い燃料電池の電極を塗布する際に用いるスプレー塗布装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態に用いるスプレー塗布装置の概略構成図である。
【図2】第2の実施形態に用いるスプレー塗布装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0033】
2 溶媒霧化装置(霧化ガス供給手段)
3 減圧装置(霧化ガス供給手段)
4 スプレーガン
4a ワーク
6 液圧計測装置(圧力検出手段)
7 液送装置(塗布液供給手段)
10 ホットプレート(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液および霧化ガスを噴射するスプレーガンと、
前記スプレーガンに塗布液を供給する塗布液供給手段と、
前記スプレーガンに供給する霧化ガスを、高圧のガスに電極材料を溶媒中に分散させた塗布液と同じ溶媒を微細な霧状に添加して生成する霧化ガス生成手段と、
前記霧化ガスの圧力を調整する圧力調整手段と、
前記塗布液供給手段から前記スプレーガンまでの間の圧力を検出する圧力検出手段と、を備え、
塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、前記霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増大するとともに、前記霧化ガスの圧力を上昇させることを特徴とする燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置。
【請求項2】
前記所定圧力を、運転初期時設定圧力の2倍以上の値とする請求項1に記載の燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置。
【請求項3】
塗布対象となる基材を、塗布する溶媒の量に応じて加熱する加熱手段を備える請求項1または2に記載の燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置。
【請求項4】
前記加熱手段により、基材の温度が80℃以上となるように加熱する請求項3に記載の燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置。
【請求項5】
塗布液および霧化ガスを噴射するスプレーガンと、
前記スプレーガンに塗布液を供給する塗布液供給手段と、
前記スプレーガンに供給する霧化ガスを、高圧のガスに塗布液中の溶媒と同じ溶媒を微細な霧状に添加して生成する霧化ガス生成手段と、
前記霧化ガスの圧力を調整する圧力調整手段と、
前記塗布液供給手段から前記スプレーガンまでの間の圧力を検出する圧力検出手段と、を備え、
塗布液の圧力が所定圧力よりも増加した時に、前記霧化ガスに霧状に添加する溶媒量を増大するとともに、前記霧化ガスの圧力を上昇させることを特徴とする燃料電池電極製造用のスプレー塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−769(P2006−769A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180747(P2004−180747)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】