説明

燃料電池

【課題】ギ酸を燃料に用いた燃料電池における、時間の経過に伴う出力の低下を抑制することができる、燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料のギ酸を貯留する燃料貯留槽1と、拡散層34と触媒層35とから成るアノード電極31と、拡散層37と触媒層36とから成るカソード電極33と、アノード電極31とカソード電極33との間に配置された電解質膜32と、アノード側の集電体2と、カソード側の集電体2とを備え、カソード電極33とカソード側の集電体2との間に、多孔質であり、かつ撥水性を有する撥水性多孔質体5が配置された燃料電池を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料としてギ酸を使用する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はその用途によって様々な種類があり、自動車用途では水素、コジェネレーション用途では都市ガスやLPG、携帯機器向け用途ではメタノール、エタノール、ギ酸等の液体燃料を用いる燃料電池の開発が進んでいる。
中でも、メタノール等の液体を燃料として使用する、液体燃料電池は、水素を燃料として使用する燃料電池に比べて、取り扱いが容易であり、体積当たりのエネルギー密度が高い。このことから、小型・軽量で長時間駆動を実現する小型電源としての利用が期待されている。
【0003】
しかし、メタノールを使用した燃料電池では、(1)比較的低い出力密度しか得られない、即ち、エネルギーはあるがわずかなパワーしか出せない、(2)メタノールが未反応のまま電解質膜を透過してしまい、燃料の損失と電極性能の低下を引き起こす、メタノールクロスオーバーが生じる、等の課題がある。
【0004】
そこで、メタノールの代わりにギ酸を燃料として使用する、燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3を参照)。
燃料にギ酸を用いた場合には、メタノールを用いた場合と比較して、3〜6倍の出力密度が得られ、水素燃料電池に匹敵する出力が得られる。
また、クロスオーバー量もメタノールの1/6〜1/10程度と著しく小さい。
【0005】
ただし、ギ酸を燃料に使用した場合、酸化還元反応によりカルボキシル基COOH等が触媒表面に蓄積し、その結果、発電時間の経過に伴い出力が大きく低下する、という問題がある。
この発電時間の経過に伴う出力低下への対策としては、アノードへ水を流してアノードを洗浄すること(例えば、特許文献4を参照)や、アノードに高い電位(例えば、1V程度)を印加すること(例えば、非特許文献1〜非特許文献3を参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−522015号公報
【特許文献2】特開2006−93128号公報
【特許文献3】特開2009−217975号公報
【特許文献4】特開2008−192525号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Ha et al.,Fuel cells,4,(2004),337
【非特許文献2】Y. Zhu et al.,Journal of Power Sources,139,(2005),15
【非特許文献3】W. S. Jung et al., Journal of Power Sources,173,(2007),53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アノードへ水を流してアノードを洗浄する方法では、洗浄水のタンクや水流通用のポンプ等、洗浄のための設備が必要になり、燃料電池が大型化してしまう。
また、アノードを洗浄するためには、発電を停止する必要があるため、その分、発電量が低下する。
さらにまた、アノードへ水を流す設備を設けるので、パッシブ型の燃料電池には適用することができない。
【0009】
アノードに電圧を印加する方法でも、同様に、電圧印加用の電源が必要になるため、燃料電池が大型化してしまう。
また、アノードに電圧を印加するためには、発電を停止する必要があるため、その分、発電量が低下する。
【0010】
さらに、電極反応やクロスオーバーしたギ酸の酸化反応によって生じるカソード生成水や、クロスオーバーしたギ酸そのものが、カソードに蓄積することにより、カソードの過電圧が増大することも性能低下の因子である。これは、特にパッシブ型の燃料電池において、大きな問題である。
上述した改善策は、いずれもアノード側のみに注目したものであり、カソード側の性能低下に対する改善策は提案されていない。
【0011】
上述した問題の解決のために、本発明においては、ギ酸を燃料に用いた燃料電池における、時間の経過に伴う出力の低下を抑制することができる、燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の燃料電池は、燃料としてギ酸を使用する燃料電池である。そして、燃料のギ酸を貯留する燃料貯留槽と、拡散層と触媒層とから成るアノード電極と、拡散層と触媒層とから成るカソード電極と、アノード電極とカソード電極との間に配置された電解質膜と、アノード側の集電体と、カソード側の集電体とを備えている。さらに、カソード電極とカソード側の集電体との間に、多孔質であり、かつ撥水性を有する撥水性多孔質体が配置されたものである。
【0013】
本発明の燃料電池において、アノード電極と電解質膜とカソード電極とが接合されて一体化した膜電極接合体が構成され、撥水性多孔質体は、膜電極接合体のカソード側に接している構成とすることも可能である。
また、本発明の燃料電池において、アノード電極の触媒層がPdを触媒として含む構成とすることも可能である。
【0014】
上述の本発明の燃料電池の構成によれば、カソード電極とカソード側の集電体との間に、多孔質であり、かつ撥水性を有する撥水性多孔質体が配置されたことにより、カソード側の撥水性が変化する。これにより、燃料貯留槽からカソードへの水の透過量が大幅に増加することから、アノード電極の触媒層の近傍の水の流れも増加する。
その結果、アノード電極の触媒層の触媒材料(Pd等)の表面の吸着物(例えば、ギ酸又はカルボキシル基)を低減又は除去することができる。
さらに、撥水性多孔質体を配置したことにより、カソード表面に水又はクロスオーバーしたギ酸が付着することを抑制することができる。これにより、カソードの過電圧を抑制することができる。
【0015】
本発明の燃料電池において、アノード電極と電解質膜とカソード電極とが接合されて一体化した膜電極接合体が構成され、撥水性多孔質体が膜電極接合体のカソード側に接している構成としたときには、従来からある膜電極接合体を使用して、撥水性多孔質体を加えるだけで、本発明の燃料電池を構成することができる。
また、本発明の燃料電池において、アノード電極の触媒層がPdを触媒として含む構成としたときには、ギ酸を燃料として用いた燃料電池の出力を高くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述の本発明によれば、アノード電極の触媒層の触媒材料(Pd等)の表面の吸着物(例えば、ギ酸又はカルボキシル基)を低減又は除去することができるので、触媒材料に吸着物が蓄積することなく、長時間にわたって初期の性能を維持することが可能になる。
さらに、カソード表面に、水又はクロスオーバーしたギ酸が付着しないため、カソードの酸素供給の阻害を抑制することもできる。
従って、時間の経過に伴う出力の低下を抑制することができ、性能の良好なギ酸燃料電池を構成することができる。
【0017】
また、撥水性多孔質体が膜電極接合体のカソード側に接している構成としたときには、従来の膜電極接合体をそのまま使用して、撥水性多孔質体を加えるだけで、出力低下が少なく性能の良好な燃料電池を構成することができる。
これにより、簡便な構成で安いコストで、出力低下が少なく性能の良好なギ酸燃料電池を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の燃料電池の一実施の形態の概略構成図(分解斜視図)である。
【図2】図1の燃料電池の要部の断面図である。
【図3】図1の燃料電池の模式的な断面図である。
【図4】図1の燃料貯留槽の拡大斜視図である。
【図5】実施例1と比較例1の試料の時間経過と出力との関係を示す図である。
【図6】実施例2と比較例2の試料の時間経過と出力との関係を示す図である。
【図7】実施例3と比較例3の試料の時間経過と出力との関係を示す図である。
【図8】実施例2と比較例2の試料及び文献に報告されている例の時間経過と出力との関係を比較して示す図である。
【図9】従来の直接型ギ酸燃料電池の概略構成図(分解斜視図)である。
【図10】図9の燃料電池の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.実施例
【0020】
<1.実施の形態>
本発明の燃料電池の一実施の形態の概略構成図(分解斜視図)を、図1に示す。
この燃料電池は、パッシブ型のギ酸直接型燃料電池に本発明を適用したものであり、図1に示すように、上から、燃料貯留槽1、集電板2、MEA(膜電極接合体)3、集電板2、カソードカバー4を備えて、構成されている。
ここまでの構成は、図9に示す従来の直接型ギ酸燃料電池と同様である。図9に示す従来のパッシブ型直接型ギ酸燃料電池は、上から、燃料貯留槽101、集電板102、MEA(膜電極接合体)103、集電板102、カソードカバー104を備えて、構成されている。
【0021】
燃料貯留槽1には、燃料であるギ酸が貯留される。ギ酸は、水溶液の状態で燃料貯留槽1に貯留させる。
MEA(膜電極接合体)3は、カソード及びアノードの両電極と、その間の電解質膜とを、接合して一体化したものである。
【0022】
本実施の形態の燃料電池においては、特に、MEA3と、カソード側の集電板2との間に、撥水性多孔質体5が設けられている。
この撥水性多孔質体5は、多孔質で、かつ撥水性を有する構成である。撥水性多孔質体5は、例えば、多孔質の基材に、撥水性を有する物質を含ませることによって形成することができる。
MEA3とカソード側の集電板2との間に、この撥水性多孔質体5を設けたことにより、ギ酸燃料電池の運転時間の経過に伴う出力の低下を抑制することができる。
【0023】
ここで、図1の燃料電池の要部の断面図を、図2に示す。
図2に示すように、撥水性多孔質体5は、アノード電極31と電解質膜32とカソード電極33とが積層されて一体化されて成る、MEA3のカソード電極33に接している。
一方、図9の従来の燃料電池の要部の断面図を、図10に示す。
図10に示すように、アノード電極111と電解質膜112とカソード電極113とが積層されて一体化されてMEA103が構成されている。即ち、図2の撥水性多孔質体5がない以外は、図2と同じ構成となっている。
【0024】
また、図1の燃料電池のより具体的な構成の一形態として、図1の燃料電池の模式的な断面図を、図3に示す。
図3に示すように、上から、燃料貯留槽1、集電板2、MEA(膜電極接合体)3、集電板2が積層されている。MEA(膜電極接合体)3は、図2にも示したように、アノード電極31と電解質膜32とカソード電極33とが積層されて一体化されて成る。
そして、MEA3のアノード電極31は、燃料貯留槽1側のガス拡散層34と、電解質膜32側の触媒層(燃料極)35とから成る。MEA3のカソード電極33は、電解質膜32側の触媒層(空気極)36と、撥水性多孔質体5側のガス拡散層37とから成る。
また、撥水性多孔質体5は、基材51と、基材51に撥水剤を含有させた撥水剤層52とから成る。
【0025】
MEA3のアノード電極31には、例えば、カーボン支持体(カーボンクロス、カーボンペーパー等)の上に触媒(例えば、Pd)を塗布して触媒層35を形成したものを使用することができる。
MEA3のカソード電極33には、例えば、カーボン支持体(カーボンクロス、カーボンペーパー等)の上に触媒(例えば、Pt)を塗布して触媒層36を形成したものを使用することができる。
なお、アノード電極31の触媒層35の触媒にPdを使用した場合には、他の触媒を使用した場合と比較して、燃料電池の出力を大幅に高くすることができる。
【0026】
撥水性多孔質体5の基材51としては、各種の多孔質材を使用することができる。
例えば、MEA3の電極31,33用の基材として用いられている、カーボンペーパーやカーボンクロス等の、多孔質のカーボン支持体を使用することができる。
また、基材51として、不織布を使用することもできる。
【0027】
撥水剤層52の撥水剤としては、各種の撥水剤を使用することができる。例えば、商品名テフロン(登録商標)として知られている、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用することができる。その他にも、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)等、各種のフッ素含有樹脂を使用することができる。
【0028】
撥水剤層52の作製方法としては、例えば、撥水剤をカーボンブラック等と混合して、溶媒中に分散させた塗布液を作製して、この塗布液を基材に塗布すれば良い。
また、撥水剤により処理されて撥水性を有する基材を用いて、基材兼撥水剤層から成る撥水性多孔質体を構成することも可能である。例えば、前述したカーボン支持体を撥水剤で処理した構成や、不織布をフッ素等で撥水処理すると共にカーボン処理を行った構成等が考えられる。
【0029】
さらに、図1の燃料電池の燃料貯留槽1付近から見た拡大斜視図を、図4に示す。
図4に示すように、燃料貯留槽1は、筐体11の中央部に燃料タンク15が設けられ、燃料タンク15から横方向に筐体11の外部まで延びる燃料供給用パイプ12が設けられて構成されている。
また、燃料貯留槽1からカソード側の集電板2までを上下方向に貫通して、アノードホルダ(図示せず)と燃料貯留槽1と集電板2とカソードカバー(図示せず、図1を参照)とを締め付けるための、ねじ穴13とねじ14が設けられている。なお、図4においては図示していないが、アノード側の集電板2とカソード側の集電板2との間に、MEA3及び撥水性多孔質体5がある。また、アノード側の集電板2とカソード側の集電板2とは、図示しない絶縁材により絶縁されている。
【0030】
上述の本実施の形態の燃料電池の構成によれば、MEA3のカソード電極33側の表面に、撥水性多孔質体5を設けたことにより、カソード側の撥水性が変化する。これにより、燃料貯留槽1からカソードへの水の透過量が大幅に増加することから、アノード電極31の触媒層35の近傍の水の流れも増加する。
その結果、アノード電極31の触媒層35の触媒材料(Pd等)の表面の吸着物(例えば、ギ酸又はカルボキシル基)を低減又は除去することができる。
従って、触媒材料に吸着物が蓄積することなく、長時間にわたって初期の性能を維持することが可能になる。
【0031】
また、本実施の形態の燃料電池の構成の構成によれば、MEA3のカソード側に撥水性多孔質体5を取り付けたことにより、従来のMEAをそのまま使用して、撥水性多孔質体5を加えるだけで、出力低下が少なく性能の良好な燃料電池を構成することができる。
これにより、簡便な構成で安いコストで、出力低下が少なく性能の良好なギ酸燃料電池を構成することができる。
【0032】
なお、本発明の燃料電池は、MEAのカソード側に撥水性多孔質体を取り付けた構成に限定されるものではなく、カソード側の拡散層と集電体との間に撥水性多孔質体を設けた構成であれば、同様に、出力低下が少なく性能の良好なギ酸燃料電池を構成することができる効果が得られる。
例えば、カソードの拡散層及び触媒層の基材と、撥水性多孔質体の基材とを、同一の基材により一体化した構成とすることも可能である。
【0033】
また、本発明の燃料電池において、撥水性多孔質体を設けたことによる、出力低下を抑制する効果は、撥水性多孔質体に用いられる材料の撥水性によって異なる。
例えば、撥水性多孔質体に用いる撥水剤によって、出力低下を抑制する効果の程度が異なる。
【0034】
また、本発明の燃料電池は、従来から提案されている構成のギ酸燃料電池と同様に、燃料を改質せずに供給する直接型であり、かつ、燃料と空気を濃度勾配や対流を利用して供給するパッシブ型である構成に、特に好適である。
しかし、本発明の燃料電池は、図1〜図4で説明した実施の形態のような、パッシブ型である構成だけでなく、燃料と空気をポンプやファン等を用いて強制的に供給するアクティブ型の構成にも、同様に適用することが可能である。
【0035】
また、図3では、撥水性多孔質体5の撥水剤層52を、MEA3のカソード電極33側に配置していた。この配置とすれば、図3とは逆に基材51をMEA3のカソード電極33側に配置した場合と比較して、アノード側の吸着物を低減する効果やカソードの過電圧を抑制する効果が高くなる。
なお、本発明は、図3とは逆に撥水性多孔質体の基材をカソード電極側に配置した構成や、基材全体に撥水剤を分布させて基材全体を撥水剤層とした構成も含むものである。
【0036】
<2.実施例>
次に、本発明の実施例として、実際に本発明の燃料電池を作製して、発電時間の経過に伴う出力の変化を調べた。そして、従来のギ酸燃料電池と比較を行った。
【0037】
(実施例1)
以下に説明するようにして、図3の断面図に示した構成の燃料電池を作製した。
まず、燃料電池を構成するMEA3を作製した。
Pd0.055gと蒸留水0.11gとを混合して、超音波処理を10分行った。
次に、Nafion(登録商標;商品名)の分散液を0.174g混合して、超音波処理を10分行った。
さらに、Pdの粒子が分散されるまで、2−プロパノールを適量投入して、アノード電極用のインクを作製した。
次に、作製したアノード電極用のインクを、カーボンクロスから成る拡散層34に、100μlずつ滴下した。
そして、室温で1時間乾燥させた後に、80℃で1時間乾燥させて、アノード電極31を形成した。
【0038】
Pt0.055gと蒸留水0.11gとを混合して、超音波処理を10分行った。
次に、Nafionの分散液を0.11g混合して、超音波処理を10分行った。
さらに、Ptの粒子が分散されるまで、2−プロパノールを適量投入して、カソード電極用のインクを作製した。
次に、作製したカソード電極用のインクを、カーボンペーパーから成る拡散層37に、100μlずつ滴下した。
そして、室温で1時間乾燥させた後に、80℃で1時間乾燥させて、カソード電極33を形成した。
次に、固体高分子電解質膜32として、Nafion(登録商標) NR212を用意して、この固体高分子電解質膜32を、アノード電極31及びカソード電極33によって挟み、137℃・5MPaでホットプレスを行った。
このようにして、電極面積が4.84cmである、MEA3を作製した。
次に、テフロン(登録商標)35wt%で処理されたカーボンペーパーである、東陽テクニカ製EC-TP1-060Tを使用して、この材料に、2−プロパノールと蒸留水にて分散したカーボンブラックをスクリーンプリンタによって、塗布量2mg/cmで塗布した。
その後、100℃で1時間乾燥させて、撥水性多孔質体5を作製した。
MEA3に、作製した撥水性多孔質体5を接着した。
さらに、上下にそれぞれ集電体2を取り付け、さらに、燃料貯留槽1、カソードカバー4及びアノードカバーを取り付けて、図4に示したように、ねじ穴13にねじ14を入れて締め付けた。このようにして、燃料電池を作製して、実施例1の試料とした。
なお、この実施例1の試料では、カーボンペーパーがテフロン(登録商標)で処理されていることによって、カーボンペーパー自体が撥水性を有しているので、カーボンペーパーが基材と撥水剤層とを兼ねている。
【0039】
また、図9及び図10に示した従来の構造の燃料電池を、実施例1と同様の材料を使用して作製して、比較例1の試料とした。
実施例1及び比較例1の各試料を使用して、パッシブ構造の燃料電池を構成して、下記の運転条件でそれぞれ発電を行った。
セル電圧:0.4V
使用ギ酸濃度:7mol/l(35wt%)
運転温度:室温
【0040】
そして、発電を行いながら、出力の測定を行い、時間経過に伴う出力の変化を調べた。
測定結果として、時間経過と出力との関係を、図5に示す。図5において、Novelが実施例1の結果を示し、Conv.が比較例1の結果を示している。また、図5の縦軸は、初期の出力を1として規格化した出力の値を示している。
【0041】
図5より、従来の構成である比較例1は、30分で0.4程度にまで出力が低下している。
これに対して、実施例1は、60分経過した後も0.95以上の出力があり、ほとんど出力が低下していない。
【0042】
(実施例2)
MEA3の固体高分子電解質膜32として、Nafion(登録商標) 117を使用した。
また、撥水性多孔質体5の基材51として、テフロン(登録商標)処理されていないカーボンペーパーである、東レ製TGP-H060を使用した。そして、この基材51に、実施例1と同様に、カーボンブラックを塗布量2mg/cmで塗布して、100℃で1時間乾燥させた。
さらに、撥水剤である、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の水溶液(濃度15wt%)をスプレーして、100℃で1時間乾燥させた。FEPの質量がカーボンブラックの質量の50wt%(1mg/cm)になるまで、FEPの水溶液の塗布と乾燥とを繰り返して、撥水性多孔質体5を形成した。
その他は、実施例1と同様にして燃料電池を作製して、実施例2の試料とした。
なお、この実施例2の試料では、カーボンペーパーがテフロン(登録商標)で処理されていないので、カーボンペーパーが撥水性多孔質体5の基材51となり、基材51にFEPが塗布された部分が撥水剤層52となる。
【0043】
また、図9及び図10に示した従来の構造の燃料電池を、実施例2と同様の材料を使用して作製して、比較例2の試料とした。
実施例2及び比較例2の各試料を使用して、パッシブ構造の燃料電池を構成して、下記の運転条件でそれぞれ発電を行った。
セル電圧:0.4V
使用ギ酸濃度:10mol/l(41wt%)
運転温度:室温
【0044】
そして、発電を行いながら、出力の測定を行い、時間経過に伴う出力の変化を調べた。
測定結果として、時間経過と出力との関係を、図6に示す。図6において、Novelが実施例2の結果を示し、Conv.が比較例2の結果を示している。また、図6の縦軸は、初期の出力を1として規格化した出力の値を示している。
【0045】
図6より、従来の構成である比較例2は、40分で0.4程度にまで出力が低下し、120分後には0.3以下に低下している。
これに対して、実施例2は、120分経過した後に0.65程度の出力があり、比較例2よりも低下が少ない。また、5分後から120分後までの出力の低下は、0.1程度と少ない。
【0046】
(実施例3)
MEA3の固体高分子電解質膜32として、Nafion(登録商標) 115を使用した。
また、撥水性多孔質体5の基材51として、テフロン(登録商標)35wt%で処理されたカーボンクロスである、東陽テクニカ製EC-CC1-060Tを使用した。そして、この基材51に、実施例1や実施例2と同様に、カーボンブラックを塗布量2mg/cmで塗布して、100℃で1時間乾燥させた。
さらに、FEPの水溶液(濃度15wt%)をスプレーして、100℃で1時間乾燥させた。FEPの質量がカーボンブラックの質量の62wt%(1mg/cm)になるまで、FEPの水溶液の塗布と乾燥とを繰り返して、撥水性多孔質体5を形成した。
その他は、実施例1と同様にして燃料電池を作製して、実施例3の試料とした。
【0047】
また、図9及び図10に示した従来の構造の燃料電池を、実施例3と同様の材料を使用して作製して、比較例3の試料とした。
実施例3及び比較例3の各試料を使用して、パッシブ構造の燃料電池を構成して、下記の運転条件でそれぞれ発電を行った。
セル電圧:0.3V
使用ギ酸濃度:7mol/l(35wt%)
運転温度:室温
【0048】
そして、発電を行いながら、出力の測定を行い、時間経過に伴う出力の変化を調べた。
測定結果として、時間経過と出力との関係を、図7に示す。図7において、Novelが実施例3の結果を示し、Conv.が比較例3の結果を示している。また、図7の縦軸は、初期の出力を1として規格化した出力の値を示している。
【0049】
図7より、従来の構成である比較例3は、30分で0.25程度にまで出力が低下している。
これに対して、実施例3は、60分経過した後に0.5以上の出力があり、比較例3よりも低下が少ない。
【0050】
さらに、実施例の結果を、文献等で報告されているギ酸燃料電池の例とも比較した結果を、図8に示す。
図8において、Conv.0は、図6におけるConv.(比較例2)を示しており、Novelは、図6におけるNovel(実施例2)を示している。Conv.1は、S. Ha, R. Larsen, R.I. Masel Journal of Power Sources 144(1) 28-34 (2005) より引用したデータである。Conv.2は、S. Ha, Z. Dunbar, R.I. Masel J.Powersources 158(1) 129-136 2006より引用したデータである。Conv.3は、Yu XW, Pickup PG J.Power sources 187(2) 493-499 (2009)より引用したデータである。
図8より、実施例2では、Conv.2やConv.3と比較しても、時間の経過に伴う出力の低下が少ないことがわかる。
なお、Conv.1は0.9時間までしかデータがないため、実施例2との差が大きくないが、0.9時間までほぼ一様に出力が低下しており、2時間経過後には、実施例2と比較して出力に大きな差が生じると予想される。
【0051】
さらに、実施例1及び実施例2で使用したカーボンペーパーと、実施例3で使用したカーボンクロスについて、細孔径分布を調べた。
実施例1及び実施例2で使用したカーボンペーパーは、いずれも、平均細孔直径が40μm程度であり、空隙率が78%程度であり、細孔径の分布は、4μm〜140μmに広く均等に分布している。
実施例3で使用したカーボンクロスは、平均細孔直径が40μm程度であり、空隙率が68%程度であった。また、細孔径の分布は、4μm〜140μmの細孔が存在するが、20μm〜60μmに大きな分布があり、その他はごく微量であった。
【0052】
この細孔径分布と、図5〜図7に示した出力の経時変化の結果から、出力の低下を抑止するために、好ましい多孔質体の細孔径は数μm〜150μm程度と考えられる。
また、空隙率に関しては、70%〜80%程度のものが好ましいと考えられる。
【0053】
さらにまた、実施例2及び比較例2の各試料について、ギ酸クロスオーバーの量と、水クロスオーバーの量とを測定した。
測定結果を、表1に示す。表1において、「従来型セル」は比較例2の結果を示し、「改良型セル」は実施例2の結果を示す。なお、クロスオーバーの量の符号は、符号なし(+)がアノードからカソードへクロスオーバーすることを示し、負(−)がカソードからアノードへクロスオーバーすることを示している。
【0054】
【表1】

【0055】
表1より、従来型セルと本発明による改良型セルとを比較すると、ギ酸クロスオーバーの量には大きな差はないが、本発明による改良型セルでは、水クロスオーバーの量が大幅に増大していることがわかる。
本発明による改良型セルでは、水クロスオーバーの量が大幅に増大したことにより、電極の表面や電解質膜に蓄積及び吸着した、ギ酸もしくはカルボキシル基の除去が進んで、時間経過に伴う出力の低下が抑制されると考えられる。
そして、カソード側に撥水性多孔質体があることによって、水滴の状態では移動しにくいが、この水滴の状態が崩されて水蒸気の状態となることにより、移動しやすくなっていると考えられる。
【0056】
本発明は、上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0057】
1 燃料貯留槽、2 集電板、3 MEA(膜電極接合体)、4 カソードカバー、5 撥水性多孔質体、12 燃料供給用パイプ、15 燃料タンク、31 アノード電極、32 電解質膜、33 カソード電極、34 ガス拡散層、35 触媒槽(燃料極)、36 触媒槽(空気極)、37 ガス拡散層、51 基材、52 撥水剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料としてギ酸を使用する燃料電池であって、
燃料のギ酸を貯留する燃料貯留槽と、
拡散層と触媒層とから成るアノード電極と、
拡散層と触媒層とから成るカソード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜と、
アノード側の集電体と、
カソード側の集電体とを備え、
前記カソード電極と前記カソード側の集電体との間に、多孔質であり、かつ撥水性を有する撥水性多孔質体が配置された
燃料電池。
【請求項2】
前記アノード電極と前記電解質膜と前記カソード電極とが接合されて一体化した膜電極接合体が構成され、前記撥水性多孔質体は、前記膜電極接合体のカソード側に接している請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記アノード電極の前記触媒層がPdを触媒として含む請求項1又は請求項2に記載の燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−195131(P2012−195131A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57528(P2011−57528)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】