説明

獣医学におけるメロキシカム製剤の使用

本発明は、哺乳動物の炎症性疾患、特に乳腺炎の乳房内治療用の獣医薬組成物を調製するための、メロキシカム又は有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩、1種以上のビヒクル及び1種以上の適切な添加剤を含有する製剤の使用に関する。乳房内投与は、標的組織内で有効な濃度をもたらし、この濃度は非常に迅速に達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣医学、特に食物生産動物における乳腺炎の治療のためのメロキシカム製剤の新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
乳腺炎は乳牛の最も重要な病気の1つであり、世界の酪農業に対する損失の重大な原因である。米国国立乳腺炎議会(National Mastitis Council)(NMC)は、酪農業に対する年間の損失は18億〜20億USドル、或いはウシ1頭当たり185〜200USドルに達すると見積もっている。処分される牛乳による損失だけで10億USドルに達すると考えられる。すべての乳牛の50%までが乳腺炎に冒されていると考えられる。
乳腺炎は乳腺の炎症であり、生産減少又は淘汰率(culling rate)増加によって酪農業に重大な損失をもたらす。乳腺炎を引き起こす病原は乳房と関連する伝染性病原(すなわちスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、及びストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae))と、ウシの環境に存在する環境病原(大腸菌及びストレプトコッカス・アガラクティエ以外の連鎖球菌、及び凝固酵素-ネガティブ連鎖球菌)に分類することができる。
【0003】
感染は、重症な病気の徴候により臨床的に明かなこともあり、或いは明白な徴候がなく無症状の場合もある。一般的な臨床的徴候は、直腸温の上昇(高熱まで)及びウシの一般的な健康状態の激しい悪化(食物摂取が無いか又は減少、全身状態の障害)を意味する。局所的な臨床徴候には、患部クォーター(quarter, 乳牛の乳房区)の典型的な炎症反応(赤い、腫れた、温かい及び痛い)と関係ある肉眼で見た牛乳の品質の変化が含まれる。
臨床的乳腺炎と無症状の乳腺炎の両方が牛乳生産減少につながる。通常、牛乳中に存在する体細胞の数を測定することによって乳牛の乳房感染の程度を評価する。
乳房の感染の治療及び予防のため一般的に抗生物質を使用し、種々の製品が入手可能である。新しい抗生物質の提示に着手し続けているが、動物健康企業及び酪農業は、乳腺炎の治療、メタ感染防御(metaphylaxia)及び予防の代替法に対する期待が高まっている。抗生物質は、一般的に乳房内注射で投与され、感染が重症な場合、抗生物質をさらに腸管外投与することもできる。乳房内製剤は、使い捨ての単回使用シリンジ又はチューブで供給される。
【0004】
炎症を低減するため(抗炎症性)及び体温を下げるため(解熱性)、抗生物質との併用においてステロイド性抗炎症薬(SAID)がよく定着している。SAIDは、腸管外及び/又は乳房内抗生物質治療と併用して全身投与することができる。乳房内治療では、併用製品(抗生物質及びSAID)として数製品が利用可能である。しかしながら、これら製品の多くは、例えば、古いデータ及びさらなる製品供給の完全な開発の調査の必要性のため、その登録手順に失敗した。ステロイド注射器は現在最大の市場規模を有するが、おそらく将来消滅するだろう。
【0005】
最近、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)はSAIDに比べて免疫抑制効果を持たず、かつ炎症の低減(抗炎症性)、疼痛の低減(鎮痛性)、体温の低下(解熱性)及び内毒素関連徴候の減少に有効であることが判ったので、乳腺炎治療、すなわち急性臨床的乳腺炎症例におけるNSAIDの価値が非常に重要になってきた。現在、数種のSAID、すなわちフルニキシンメグルミン(flunixin meglumine)(Finadyne(登録商標)Injection, Schering-Plough Animal Health)、ケプロフェン(ketoprofen)(Ketofen(登録商標) 10%, Merial)、メロキシカム(Metacam(登録商標),Boehringer Ingelheim)及びトルフェンアミド酸(tolfenamid acid)(Tolfedine(登録商標))がウシ用に市販され、EU内の数カ国で許可されている。すべての製品は腸管外投与用に許可されている。
【0006】
最初の予備データは、NSAIDフルニキシンメグルミンの乳房内使用のために利用可能である(Fitzpatrick, J., Young F.J., Eckersall, D., Logue D.N., Knight C. J., Nolan, A., 1998, Recognizing and controlling pain and inflammation on mastitis Proceedings, British Mastitis Conference)。特殊な調製ビヒクル中、Schering-Plough Animal Health製の抗生物質(アモキシシリン/クラブラン酸)と共にフルニキシンを乳房内注入した。しかし、フルニキシの使用は痛覚に対して有益な効果がなかった。すなわち、乳腺炎の乳房内治療は、痛みに対して反応しなくなるという副作用を生じさせた。局所投与すると、NSAIDフルニキシンの刺激によってこの副作用が生じたのだろう。これらの知見は、NSAIDの局所投与についての文献にも記載された(Loscher W., Ungemach F.R. und Kroker R., Pharmakotherapie bei Haus- und Nutztieren, 5. uberarbeitete Auflage, aus: Lokale Therapie (Haut, Euter, Auge) Ungemach F.R., Kietzmann M. und Ehinger A.M., S. 445, 2002)。
【0007】
現在、授乳中のウシにおける急性乳腺炎の治療用のNSAID乳房内注射器は市販されていない。
しかしながら、メロキシカムの医薬品用途又は特性に関する先行技術が存在する。
その中でもとりわけ、EP-A-0 002 482は、メロキシカムのメグルミン塩、塩化ナトリウム及び水から成るメロキシカムの2%注射用液を示している。
EP-A-0 945 134は、メロキシカム及びその塩、すなわち、ナトリウム塩、アンモニウム塩及びメグルミン塩の水溶液中におけるpH-依存性溶解特性を開示している。
WO 99/59634 A1は、0.5%のメロキシカムを含有する点眼液について記載している。
さらに、市販の0.5%及び2%メロキシカム溶液が小動物、ウシ及びブタに使用されている。適応症は、炎症性疾患、例えば呼吸器疾患、跛行及び乳腺炎である。
最後に、WO 03/049733は、哺乳動物の呼吸器疾患と炎症を治療するための、35〜100mg/mlの溶解メロキシカム塩と1種以上の適切な添加剤を含有する無針注入用の高い濃縮状態の安定したメロキシカム溶液を開示している。
従って、既知のNSAIDの使用に関連する上記問題を克服する、炎症性疾患、特に乳腺炎、特に急性症例の治療用医薬組成物を提供することが本発明の目的である。さらに、本発明の治療は、抗生物質に対する付加療法として、及び/又は全身治療として利用可能である。
【発明の開示】
【0008】
〔発明の説明〕
驚くべきことに、急性乳腺炎症例の乳房内治療のために適切なメロキシカム製剤を用いて、乳房の炎症の局所的な臨床徴候を低減し、かつ痛みを軽減できることが分かった。
従って、本発明は、哺乳動物における微生物誘発疾患の乳房内治療用、特に乳腺炎の乳房内治療用の獣医薬組成物を調製するための、メロキシカム又は有機若しくは無機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩、1種以上のビヒクル及び1種以上の適切な添加剤を含有する製剤の使用を提供する。
【0009】
既に述べたように、現在までに先行技術で知られているNSAIDは、乳房内使用のためではない。上述した研究は、NSAIDの局所投与、例えば乳房内注入が痛みに対して無反応になるという副作用を生じさせることを示した。結果として、NSAIDの1種、すなわちメロキシカムを乳房上で直接使用し、又は他のNSAIDによって与えられる負の効果を示すことなく乳房中に投与して優れた治癒効果をもたらすことは期待できないだろう。
実際、本発明のメロキシカム製剤の使用は、乳腺炎のような炎症性疾患を患っている乳房のクォーター内の乳頭管を通じて導入したとき、その局所的な炎症徴候の減少をもたらす。本発明に従って使用するメロキシカム製剤は局所的な抗炎症効果を示し、臨床的改善のみならず乳房内媒介物質濃度の低減をも招来する。
メロキシカム含有製剤は良い局所耐性を有する。乳房内投与は、標的組織内で有効な濃度をもたらし、この濃度は特に迅速に達成される。
【0010】
好ましい態様によれば、本発明の製剤は、0.1〜50mg/ml、好ましくは0.5〜30mg/ml、さらに好ましくは1〜20mg/ml、特に好ましくは2〜15mg/ml、特に好ましくは3〜8mg/ml、特に4〜6mg/mlの濃度のメロキシカム又はメロキシカム塩を含む。最も好ましい濃度は、5mg/mlである。
本発明によれば、乳房クォーター毎のメロキシカム又はメロキシカム塩の好ましい量は1〜100mg、好ましくは5〜60mg、さらに好ましくは10〜40mg、特に好ましくは15〜40mg、特に好ましくは20〜40mg、特に25〜35mgという量である。最も好ましい量は30mgである。
従って、この活性物質は、1〜50mgの範囲の低量で投与される。それゆえ、炎症性疾患を治療するために必要な薬剤の使用を最小限にすることができる。
【0011】
本発明で使用するメロキシカム含有製剤は、メロキシカム又はメロキシカム塩に加え、1種以上のビヒクル及び1種以上の添加剤を含んでよい。ビヒクルに応じて他の添加剤を選択する。水及び/又は油からビヒクルを選択して水系又は油系とすることができ;中間系も使用可能である。
本発明では、用語“水系又は油系”とは、ビヒクルの主要部分が水由来か又は油由来であると解釈するものとする。用語“ビヒクル”は、該製剤が、水溶液、ヒドロゲル、エマルジョン(例えば、マイクロエマルジョン、水中油エマルジョン若しくは油中水エマルジョン)、又は懸濁液などのような溶液として形成されるように、活性物質、すなわちメロキシカムと添加剤を本質的に分散させる媒体又は担体であると解釈するものとする。
本発明の枠組み内では、“溶液”という表現は、分散系並びに真溶液及び中間状態を含むものと解釈する。
【0012】
水系を選択する場合、メロキシカムを塩の形態で使用する。本発明で使用するメロキシカム塩は、メグルミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩でよく、好ましくはメロキシカムメグルミン塩を挙げることができる。
メグルミンとメロキシカムを9:8〜12:8のモル比、好ましくは11:8のモル比、特に約10:8のモル比で使用することができる。
水性媒体中では、可溶化剤、保存剤、至適pH範囲を達成するための緩衝物質及び任意的な他の添加剤から成る群より添加剤を選択すると有利である。この系は、例えば任意に粘性水溶液又はヒドロゲルをもたらす適切なゲル化剤及び/又は粘度増強剤を含みうる。好適な系は、無菌の粘性水溶液若しくはヒドロゲル、無菌エマルジョン(例えば、水中油)、又は無菌の油性懸濁液でよい。
さらに、クエン酸、レシチン、グルコン酸、酒石酸、リン酸及びEDTA又はこれらの塩から成る群より添加剤を選択することができる。
【0013】
油系を選択する場合、添加剤は、好ましくは1種以上の油、1種以上の抗酸化剤及び任意的な1種以上のシックナーから選択される。他の添加剤が存在することもある。
好適な製剤は、非常に低濃度、例えば0.1〜数%、例えば約2%の活性物質メロキシカムを含む乳房内使用(例えば、Ph. Eur.の要求に準拠)のための製剤(この製剤中に添加剤が存在する)について以下に詳述する。
添加剤は、緩衝液、可溶化剤、ゲル化剤、粘度増強剤、保存剤、油、抗酸化剤、乳化剤、泡形成剤、等張剤、噴霧ガス及び/又はシックナーから成る群より選択される。しかし、たとえ水系又は油系のどちらかで添加剤について述べているとしても、必要又は望ましい場合、前記添加剤が他方の系中でも存在しうる。
【0014】
水系の好ましい添加剤:
可溶化剤として、獣医学部門に好適ないずれの既知の可溶化剤も使用でき、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばポロキサマー188)、グルコフロール、アルギニン、リジン、ヒマシ油、プロピレングリコール、ソルケタール(solketal)、ポリソルベート、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ポリビニルピロリドン、レシチン、コレステロール、12-ヒドロキシステアリン酸-PEG660-エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ポリオキシ-40-硬化ヒマシ油、ポリオキシル-10-オレイル-エーテル、ポリオキシル-20-セト-ステアリルエーテル及びポリオキシル-40-ステアレート又はソルビトール、マンニトール及びキシリトールの混合物、好ましくはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、グリコフロール、ポリビニルピロリドン、レシチン、コレステロール、12-ヒドロキシ-ステアリン酸-PEG660-エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ポリオキシ-40-硬化ヒマシ油、ポリオキシル-10-オレイル-エーテル、ポリオキシル-20-セトステアリルエーテル及びポリオキシル-40-ステアレートを使用しうる。特に好ましくはポリエチレングリコール、グルコフロール及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-コポリマー、特にポリエチレングリコール(例えば Macrogol 300)及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばPoloxamer 188)である。
【0015】
医薬品分野での用途が知られているいずれの保存剤も使用でき、例えば、エタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、硝酸フェニル水銀、メチル-、エチル-、プロピル-若しくはブチル-p-ヒドロキシベンゾエート、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール又は塩化ベンザルコニウムを使用しうる。特に好ましくは、エタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール及びメチル、エチル、プロピル若しくはブチルp-ヒドロキシベンゾエート、好ましくはエタノール、安息香酸とそのナトリウム若しくはカリウム塩、ソルビン酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩、特にエタノールである。
【0016】
本発明の水性媒体を含有する製剤がアルカリ性範囲のpH値を有することが有利だろう。従って、pH値を8〜10、好ましくは8.5〜9の範囲、さらに好ましくは8.7〜8.9、特に8.8のpHに調整することができる。しかし、酸性範囲のpH値も使用可能であるが、アルカリ性のpH範囲が特に好ましい。アルカリ性領域になるほど、メロキシカム含有製剤が好ましく真の水溶液になる傾向があり、酸性領域になるほど、メロキシカム含有製剤が懸濁液になる傾向がある。
従って、8〜10のpH値を達成するために使用する緩衝系は、例えば、グリシン、グリシンとHClの混合物、グリシンと水酸化ナトリウム溶液の混合物、及びそのナトリウム塩とカリウム塩、フタル酸水素カリウムと塩酸の混合物、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウム溶液の混合物又はグルタミン酸とグルタメートの混合物でよい。特に、グリシン、グリシンとHClの混合物及びグリシン/水酸化ナトリウム溶液の混合物、特にグリシンが好ましい。
【0017】
好適なゲル化剤は、例えばセルロース誘導体、例えば、ヒドロキシエチルセルロースである。
他の好適な添加剤は、例えば、クエン酸、レシチン、グルコン酸、酒石酸、リン酸、等張剤、例えば、塩化ナトリウム及びEDTA又はそのアルカリ金属塩である。
本発明の好ましく使用されるある製剤は、メロキシカムのメグルミン塩又はナトリウム塩に加えて、可溶性剤としてポリエチレングリコール、グリコフロール及び/又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、特にポリエチレングリコール(例えばMacrogol 300)及び/又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えばPoloxamer 188)、保存剤としてエタノール、安息香酸とそのナトリウム塩若しくはカリウム塩又はソルビン酸とそのナトリウム若しくはカリウム塩、特にエタノール、緩衝液としてグリシン、グリシン/HClの混合物若しくはグリシン/水酸化ナトリウム溶液の混合物、好ましくはグリシン、及び任意的なさらなる添加剤として二ナトリウムEDTAを含む。
【0018】
油系の好ましい添加剤:
医薬品の調製のため先行技術で知られるいずれの活性物質も適切な油性成分であり、例えば、植物油、特に綿実油、ピーナツ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ゴマ油及び大豆油、又は適度な鎖長のトリグリセリド、例えば分別ヤシ油、又はミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル又は鉱油若しくはオレイン酸エチル又はこれらの混合物が挙げられる。好ましい油は、綿実油、ゴマ油、及びピーナツ油のような植物油から選択される。
【0019】
使用する抗酸化剤は、先行技術から既知のいずれの抗酸化剤でもよく、好ましくはセサモール(sesamol)、α-トコフェロール(ビタミンE)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)又はブチルヒドロキシアニソール(BELA)でよい。
例えばモノステアリン酸アルミニウム、硬化ヒマシ油、カルボキシメチルセルロース又はその塩のようなシックナーの使用も好適でありうる。
【0020】
存在しうる他の添加剤は、乳化剤、泡形成剤及び噴霧ガスである。
先行技術から既知の乳化剤とは別に使用される好ましい乳化剤として、ヒマシ油のポリオキシエチレン誘導体又はポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
使用する泡形成剤は、薬物許可法下で許容されるいずれのものでもよく、かつ先行技術から既知であり、好ましくは種々の脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリソルベート)である。
好適な噴霧ガスは、医薬品分野での使用が許可されているもの及び先行技術から既知のすべてのものであり、例えば、CO2、N2O、N2、プロパン/ブタン混合物、イソブタン、クロロペンタフルオロエタン(CClF2-CF3)、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)である。
例としてのいくつかの製剤は実験セクションに従う。
【0021】
水系又は油系である本発明の製剤は、開封後、周囲温度で数週間以上という通常の貯蔵寿命を有しうる。
本発明で使用する製剤は、微生物誘発疾患、特に乳腺炎(急性症例も)の治療に好適である。本製剤は、哺乳動物、特に労働動物又は家畜の治療に好適である。治療は、全身投与及び/又は局所投与される抗生物質と共に施すことができる。
文献公知の製剤の調製方法を用いて本発明の製剤を調製することができる。例えば、メロキシカム/メロキシカム塩製剤に適切な添加剤を添加することができる。
【0022】
本発明のメロキシカム含有製剤は、クリーム、軟膏、ローション、油中水若しくは水中油エマルジョン、エアロゾルフォーム又は注射器用製剤の形態で投与することができる。この種の医薬品形態の調製は、それ自体先行技術から周知である。
好ましくは、注射器用製剤を利用する。注射器は、製剤を乳房内に、すなわち乳頭管を通じて乳房中に注入させる手段を含み、該製剤はケーシング、レザバー、薬びん(phiole)、シリンジ又はチューブなどに存在し、前記注射器は使い捨てで、かつ単回使用のために提供され、適切な開口、チャンネル又は鈍針のような供給システムを含む。この形態の乳房内投与は、活性が高まると共に標的器官内で良い分布を達成することができる。
【0023】
本発明の利点は、以下のように多種多様である。
本発明の製剤の使用は、炎症性疾患、特に乳腺炎の治療のために乳房内投与しうる活性物質メロキシカム/メロキシカム塩の製剤を与えることによって、先行技術から生じる問題を克服する。
乳房組織は非常に敏感な組織であるが、本発明のメロキシカム製剤の使用は良い局所耐性を有する。腸管外投与のみ可能な他の既知のNSAIDは組織刺激を引き起こすであろうことから乳房内投与には適さない。
【0024】
他方、炎症性疾患、例えば乳腺炎を患う乳房クォーターに導入される本発明のメロキシカム製剤の使用は、局所的な炎症徴候の低減をもたらす。メロキシカム製剤は、局所的な抗炎症効果を示し、臨床的な改善のみならず炎症媒介物質の濃度の低減をも招来する。さらに、乳房内投与は、標的組織内で有効な濃度もたらし、この濃度は非常に迅速に達成される。
後述する実験による知見は、本発明の低量のメロキシカムの使用による哺乳動物の乳腺炎の有望な治療の明白な証拠を提供する。
以下、種々の他の態様に従い、かつ当業者には本明細書から明白になるであろう実施例によって本発明を説明する。しかしながら、実施例及び説明は、単なる例示を意図したものであり、本発明を限定するものでないことを明白に指摘する。
【実施例】
【0025】
以下の実施例1〜3では、水系又は油系中にメロキシカム又はメロキシカム塩を含有する乳房内使用(Ph. Eur.の要求に準拠)のために本発明の製剤を調製した。下表1〜3に処方を示す。
実施例4及び5では、本発明の製剤の局所組織耐性と効力を示すために行った研究を示す。
実施例1:
本発明の製剤1を注射器用液の形態で調製した。
【0026】
表1

【0027】
実施例2:
本発明の製剤2を注射器用液の形態で調製した。









【0028】
表2

【0029】
実施例3:
本発明の製剤3を油性懸濁液の形態で調製した。
【0030】
表3

【0031】
実施例4:
−局所組織耐性研究−
乳牛の乳腺におけるメロキシカムの耐性を調査する研究を1983年に行った(Ziv G., 1983, Udder irritation studies with compound UH-AC 62 XX in cows, Internal Report of Boehringer Ingelheim GmbH, 現在まで未公表)。この研究では、全部で12頭のウシを含み:正常、すなわち病原が単離されなかった乳房を有する8頭の乳牛は体細胞数(SCC)が500,000細胞/1ml(牛乳)未満であり、4頭のウシは、750,000細胞/1ml(牛乳)より多く含む牛乳を分泌する少なくとも1クォーターの乳房を有する。
メロキシカムをピーナツ油に溶かし、10mgのメロキシカムを含有する体積10mlを乳房に注入した。2つの左側クォーターをメロキシカムで処理し、右側クォーターには10mlのピーナツ油を注入した(コントロール)。8頭のウシ(4頭のウシは正常な乳房分泌で4頭のウシは体細胞数が増加)では、治療を1回行い、別の4頭のウシ(正常な乳房分泌)では、24時間後に治療を繰り返した。単回治療と反復治療後、一時的な穏やかなSCCの上昇があったが、正常なクォーターでは体細胞数は500,000 SCC/mlを超えず、治療後2又は3日で治療前レベルまで減少した。一般的に、メロキシカムによる治療は、コントロールクォーターに比べてほんのわずかだけ高いSCCをもたらした。一時的な炎症クォーターでは、メロキシカム又はピーナツ油の注入後、SCCは高いままである。SCCの増加は、不十分な局所耐性を示唆すると考えられる。
従って、メロキシカムは、1クォーター当たり10mgの用量で乳房内投与した場合、正常なクォーター及び一時的な炎症クォーターでは組織刺激を生じさせなかった。
【0032】
実施例5:
−効力と用量の決定−
〔研究の設計と方法〕
2003年に平衡群設計による盲検in vivo研究を行った。この研究はGood Laboratory Practicesに準拠して行った。
1つの後ろクォーターに大腸菌内毒素 026:B6 リポ多糖類を乳房内注入することによって、20頭の乳牛に実験的に臨床的な乳腺炎を誘発した。内毒素誘発の2時間後に、誘発された乳房クォーターを、実験製剤のメロキシカムの局所投与で処理した。ウシを4つの処理群(各群は5頭のウシ)に割り当てた:未処理、内毒素誘発乳房クォーター当たり10mgのメロキシカム、30mgのメロキシカム、50mgのメロキシカム。
内毒素誘発前と、内毒素誘発後2時間(処理前)、4時間、6時間、8時間、10時間、24時間、34時間、48時間、72時間、7日、及び14日に動物を臨床的に検査した。
【0033】
誘発された乳房クォーターの大きさを以下のスコアを用いて考証した:
0:正常
1:20%までわずかに増加
2:20〜50%増加
3:50%より多い増加
左の異常な腰椎窩(paralumbar fossa)の聴診で2分間、反芻胃の収縮を検査した。いずれの種類の有痛性条件でも、反芻動物における反芻胃の収縮頻度は減少する傾向にある。
内毒素誘発前と、内毒素誘発後2時間(処理前)、4時間、6時間、8時間、10時間及び24時間にトロンボキサンB2(TBX)−炎症の関連媒介物質−の分析用牛乳試料を内毒素誘発クォーターから採取した。
内毒素誘発前と、内毒素誘発後10時間、24時間、34時間、48時間、72時間、7日、及び14日に牛乳の体細胞数(SCC)を測定した。
【0034】
〔結果〕
内毒素誘発2時間後、ウシは乳腺炎の全身的及び局所的徴候を発した。ウシは、全身の行動障害、呼吸数の増加、直腸温の上昇、及び反芻胃の収縮頻度の減少を示した。局所症候は、誘発された乳房クォーターにおける膨潤、疼痛及び分泌の変化であった。これら症候は、内毒素誘発後4〜6時間で最も激しかった。その後、内毒素誘発後24時間でこれら症候は少なくなった。
誘発後24時間の内毒素誘発乳房クォーターの大きさを図1に示す。
注意:全グラフで、処理群による平均±95%信頼区間を示す。矢印は、メロキシカム−による処理(検査直後2時間)を指し示す。
【0035】
内毒素誘発前(0時間)、すべての乳房クォーターはスコア0であった。2時間(処理前)で、乳房クォーターは大きさの妥当な増加を示した。未処理乳房クォーターは誘発後24時間の間、より大きいという明白な傾向があった。この差の関連性を実証するため、例として未処理群と30mgのメロキシカム群の10時間後の平均スコアを比較した。未処理群の平均±標準偏差(S.D.)は2.2±0.84であり、30mgのメロキシカム群では1.2±0.44であった。従って、標準化差異−S.D.で割った平均の差異−は、最悪の場合には、より大きいS.D.(未処理群)で計算した場合、1.2であった。標準化差異のコーエンの(Cohen's)評価によれば、標準化差異が0.8を超えると大きいとみなされる。
誘発後全処理群で反芻胃の収縮頻度は減少し、2〜6時間が最小であった(図2参照:2分間の反芻胃収縮)。反芻胃の収縮頻度はメロキシカム処理ウシではより速く増加する傾向であった。24時間で、未処理群の平均±S.D.は2.4±1.14であり、30mgのメロキシカム群では3.4±0.55であった。
従って、より大きいS.D.で計算した標準化差異(未処理群)は0.9であった。これは、コーエンによる大きな差異を示している(上記参照)。
【0036】
誘発されたクォーターの牛乳中のTBX-濃度は、誘発前は低かった。誘発後、TBX-濃度の大きな上昇が観察された(図3参照:内毒素誘発された乳房クォーターの牛乳中のトロンボキサンB2濃度)。定量化の下限は0.3ng/mlであり、上限は4ng/mlであった。この限界を超える値は、それぞれ0.3及び4ng/mlに向かった。処理クォーターのTBX-濃度は、未処理クォーターより低いピーク濃度に達した。さらに、TBX-濃度がより速く減少する傾向があった。未処理クォーターとメロキシカム処理クォーターとの差異は明白に関連している。誘発後6時間−ピーク濃度を有する時間−で、未処理クォーターと30mgのメロキシカム処理クォーターの95%信頼区間は重ならず、統計的に有意な差異を示唆している。
臨床検査及びSCCは、処理後2週間におけるメロキシカム処理の不十分な局所耐性の徴候がないことを明かにした。
【0037】
〔結論〕
病気に冒された乳房クォーター当たり10〜50mgの用量範囲の乳房内メロキシカムによる処理は、内毒素誘発されたウシ乳腺炎における局所炎症と痛みを軽減した。居所耐性及び全身耐性は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】誘発後24時間の内毒素誘発乳房クォーターの大きさを示す。
【図2】2分間の反芻胃の収縮頻度を示す。
【図3】内毒素誘発乳房クォーターの牛乳中のトロンボキサンB2濃度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における炎症性疾患の乳房内治療用獣医薬組成物を調製するための、メロキシカム又は無機若しくは有機塩基の薬理学的に許容しうるメロキシカム塩、1種以上のビヒクル及び1種以上の適切な添加剤を含有する製剤の使用。
【請求項2】
乳腺炎の乳房内治療用獣医薬組成物を調製するための、請求項1記載の製剤の使用。
【請求項3】
前記メロキシカム又はメロキシカム塩の量が、1投与当たり1〜50mgであることを特徴とする請求項1又は2記載の製剤の使用。
【請求項4】
前記ビヒクルが水及び/又は油から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項5】
製剤が、水溶液、ヒドロゲル、エマルジョン、又は懸濁液の形態であることを特徴とする請求項4記載の製剤の使用。
【請求項6】
前記メロキシカム塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩又はメグルミン塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項7】
緩衝液、可溶化剤、ゲル化剤、粘度増強剤、保存剤、油、抗酸化剤、乳化剤、泡形成剤、等張剤、噴霧ガス及び/又はシックナーから成る群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項8】
水性製剤が8.0〜10のpH値を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項9】
メロキシカム、メグルミン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、エタノール、グリシン、水並びに任意的に水酸化ナトリウム、塩酸及び/又は二ナトリウムEDTAを含むか又は基本的に前記成分から成ることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項10】
メロキシカム、1種以上の油、1種以上の抗酸化剤及び任意的に1種以上のシックナーを含むか又は基本的に前記成分から成ることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534717(P2007−534717A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509944(P2007−509944)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004344
【国際公開番号】WO2005/105101
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(504225895)ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (34)
【Fターム(参考)】