説明

珪化バナジウム及び珪化バナジウム線材の製造方法

【課題】従来のブロンズ法に代表される拡散法に替わる、珪化バナジウム及び珪化バナジウム線材の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する原料粉末をテルミット反応に供することを特徴とする、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムの製造方法、並びに、当該珪化バナジウムを粉砕した後、金属製パイプに充填して伸線加工することを特徴とする、珪化バナジウム線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導材料や耐熱性に優れた構造材料として有用な珪化バナジウム、並びに珪化バナジウム線材の簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導材料は、体内の情報を画像化することのできる医療機器(MRI)や高感度磁気測定装置(SQUID)などとして実用化されている。また、超伝導を利用したリニアモーターカーへの応用や送電時の電力損失がほぼゼロとなる超伝導電線及び電力を高効率で蓄えることができる超伝導電力貯蔵システムの研究も進められており、超伝導材料は将来のエネルギー技術を担う高機能性材料として期待が寄せられている。
【0003】
現在、実用化されている超伝導材料は、金属超伝導体としてはニオブ−チタン合金、酸化物高温超伝導体としてはビスマス系超伝導体が挙げられる。更に、二ホウ化マグネシウムなどの高い転移温度をもつ超伝導材料についても研究が進められている。
【0004】
他方、VSi(珪化バナジウム)が臨界温度T:17K級で且つ上部臨界磁界Hc2(4.2K):20T以上である金属超伝導体であることが1953年に見いだされている(非特許文献1)。また、VSi等のバナジウム−シリコン合金は低放射化材料であり、将来の核融合発電時の高磁界中での使用も期待されている。
【0005】
しかしながら、VSiは原料のバナジウムが活性金属である上、VSiの融点が1925℃と高温であって工業的に大量生産することが困難であるため、融解を用いないブロンズ法に代表される拡散法によりVSiを製造することが確立されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、「Cu−Si合金(ブロンズ)マトリックスとV芯から構成される複合体において、ブロンズの組成ならびにマトリックス/芯の体積比を調整してVとSiの組成比(V原子数/Si原子数)を1.7以上に制御し、この複合体を中間焼鈍と冷間加工によってV芯径が10μm以下になるまで線状に加工したのち、V芯の廻りにブロンズ側からVSi層およびVSi層を拡散生成させる熱処理を行い、生成したVSi層をVSiフィラメント間の物理的及び電気的結合を切る高電気抵抗層とし、またSi濃度が低減したブロンズを安定化材とする強磁界特性の優れた交流用のVSi超電導極細多芯線材の製造方法。」が記載されている。
【0007】
上記ブロンズ法に代表される拡散法を用いたVSiの製造は、工程が簡便でない点で適用し難く、しかもコスト面でも改善の余地がある。そこで、珪化バナジウム及び珪化バナジウム線材の簡便な製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−196033号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】G. Hardy et al, Phys. Rev. 89 884 (1953)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来のブロンズ法に代表される拡散法に替わる、珪化バナジウム及び珪化バナジウム線材の簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する原料粉末をテルミット反応に供することにより、簡便に珪化バナジウムを製造できること、並びに、当該珪化バナジウムをステンレス製のパイプに充填して伸線加工することにより、簡便に珪化バナジウム線材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は下記の珪化バナジウム及び珪化バナジウム線材の製造方法に関する。
1. 酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する原料粉末をテルミット反応に供することを特徴とする、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムの製造方法。
2. 前記珪化バナジウムは超伝導材料及び/又は構造材料である、上記項1に記載の珪化バナジウムの製造方法。
3. 上記項1に記載の製造方法により得られる珪化バナジウムを粉砕した後、当該粉砕物を金属製パイプに充填して伸線加工することを特徴とする、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウム線材の製造方法。
4. 前記珪化バナジウム線材は超伝導線材である、上記項3に記載の珪化バナジウム線材の製造方法。
【0013】
以下、本発明の珪化バナジウム及びその線材の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
珪化バナジウムの製造方法
本発明の珪化バナジウムの製造方法は、酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する原料粉末をテルミット反応に供することを特徴とし、それによりV3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムが得られる。
【0015】
上記特徴を有する本発明の珪化バナジウムの製造方法は、原料粉末をテルミット反応に供するという簡便な方法によりV3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムを得ることができる。本発明の製造方法により得られる珪化バナジウムは従来の拡散法により得られる珪化バナジウムと同等の物性(超伝導性、耐熱強度等)を有しており、製造コストを有意に削減することができる。また、本発明の製造方法により得られる珪化バナジウムは容易に粉砕できるため、珪化バナジウム粉末を金属製パイプに充填して伸線加工することにより、簡便に線材を製造することもできる。
【0016】
上記原料粉末は、酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する。
【0017】
酸化バナジウムとしては限定的ではないが、例えば、五酸化バナジウム、二酸化バナジウム、三酸化二バナジウム等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易である点では、五酸化バナジウムが好ましい。
【0018】
珪素としては限定的ではなく、例えば、金属珪素、酸化珪素等が挙げられるが、通常は金属珪素を用いる。
【0019】
アルミニウムは、酸化バナジウムを還元するための還元剤であり、酸化バナジウムとして五酸化バナジウムを用いる場合には、下記化学反応式に従って五酸化バナジウムを還元する。
【0020】
3V+10Al→6V+5Al
アルミニウムは、アトマイズ法などの公知の造粒法により0.5mm以下、好ましくは0.1〜0.5mm程度に整粒されたものを使用することが好ましい。また、上記酸化バナジウム及び珪素もアルミニウムと同程度の粒度に整粒されていることが好ましい。
【0021】
原料粉末中の酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムの含有割合は限定的ではないが、酸化バナジウム100重量部に対して、珪素8〜12重量部程度及びアルミニウム45〜55重量部程度であることが好ましい。
【0022】
テルミット反応に供する際は、先ず、酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムが所定の割合となるように秤量・混合して原料粉末を調製する。次に、例えば、アルミナ耐火物でライニングされた反応容器に原料粉末を収容し、着火材を用いて原料粉末に着火させる。着火材としては限定されず、例えば、マグネシウム粉と過酸化バリウム粉とを混合した公知の着火材が使用できる。
【0023】
テルミット反応の際は反応熱によって2000℃以上の温度に達する。反応は数秒〜数十秒で終了し、反応終了時は高温のため珪化バナジウム合金とスラグ(アルミナ)は液体状態となっており、比重の差によって合金とスラグは上下に分離する。これを冷却して、合金とスラグを界面から分離することにより、合金を得ることができる。
【0024】
上記テルミット反応により、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウム合金(金属間化合物)が得られる。上記xは−1.33≦x≦21であればよいが、その中でも、0.03≦x≦1.5の範囲がより好ましい。xの範囲をかかる範囲に設定することにより、超伝導特性が得られ易くなる。
【0025】
本発明で採用するテルミット反応の利点としては、高融点の合金を簡便に製造できる点及び融点差が大きい金属どうしの合金化を簡便にできることが挙げられる。よって、珪化バナジウム合金だけでなく、超伝導材料として公知のNbSnについてもテルミット反応を利用することにより製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法により得られる珪化バナジウム(V3+xSi)は、高磁場及び高強度に耐え得る超伝導材料及び/又は低放射化及び高温強度に優れた構造材料として有用である。また、従来の拡散法により得られる珪化バナジウムと比べても同等の物性(超伝導性、耐熱強度等)を有しており、本発明の製造方法の採用により、製造コストを有意に削減することができる。
【0027】
超伝導材料や構造材料とする場合には、得られた珪化バナジウム合金のインゴットを、適当な粉砕機により粉砕した後、金属パイプなどに充填・伸線することにより線材に加工して超伝導線材とすることができる。また、前記粉砕物を粉末冶金法により所望の形状の構造材料に加工することができる。更に、前記粉砕物は塗布材料としても使用できる。
【0028】
珪化バナジウム線材の製造方法
本発明の製造方法により得られる珪化バナジウム(V3+xSi)は、金属製パイプに充填して伸線加工することにより簡便に線材とすることができる。金属製パイプとしては、伸線加工が容易な展延性に優れた金属製が好ましく、ステンレス製パイプや銅製パイプが好ましいものとして挙げられる。
【0029】
伸線加工する際は、先に珪化バナジウムをジョークラッシャーなどの粗砕機で解砕し、更に振動ミルやアトライターなどの微粉砕機で粉砕して数μm〜250μm、好ましくは2〜10μmの微粉末とすることが好ましい。次にこの微粉末を金属製パイプ、例えば、予め片方の端部を封じたSUS304(6.0/3.0mmφ)のパイプに詰め、タップを繰り返し行った後、開口部をTIG(Tungsten Inert Gas)溶接で封じる。次にこのパイプを、例えば、冷間で溝ロール、カセットローラーダイスによる伸線加工を行い、φ1mmまで熱処理無しで加工することにより伸線することができる。
【0030】
上記方法により、φ0.5〜1mm程度の線材を簡便に製造することができ、更に適当な熱処理を施すことでより細線にすることもできる。このような線材は電力損失がほぼゼロとなる超伝導電線として有用である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の珪化バナジウムの製造方法は、原料粉末をテルミット反応に供するという簡便な方法によりV3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムを得ることができる。本発明の製造方法により得られる珪化バナジウムは従来の拡散法により得られる珪化バナジウムと同等の物性(超伝導性、耐熱強度等)を有しており、製造コストを有意に削減することができる。また、本発明の製造方法により得られる珪化バナジウムは容易に粉砕できるため、珪化バナジウム粉末を金属製パイプに充填して伸線加工することにより、簡便に線材を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1(テルミット反応)で得られたVSiと比較例1(アーク熔製)で得られたV4.88SiのX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1(テルミット反応)で得られたVSiのSQUID特性図である。
【図3】比較例1(アーク熔製)で得られたV4.88SiのSQUID特性図である。
【図4】実施例1(テルミット反応)で得られたVSiにおける、2Kから300Kまでの温度領域における抵抗の変化を示す図である。
【図5】図4の一部温度領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0034】
実施例1
原料である五酸化バナジウム粉末(平均粒径0.1mm)1624g、シリコン粉末(平均粒径0.5mm以下)145g、アルミニウム粉末(平均粒径0.5mm以下)803gを混合した粉末と適当量の着火剤(マグネシウム粉末と過酸化バリウムとの混合物)をともに反応容器内に入れ、着火剤に点火して、テルミット反応させた。反応終了後、冷却して得られたバナジウム−シリコン合金をSUS製の粉砕機で粉砕し、篩い分けして0.5〜1.0mmの粒度に調整した。
【0035】
得られたバナジウム−シリコン合金の化学分析値を表1に示し、粉末X線回折結果を図1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
※s-Alとは金属のアルミニウムを指し、t-Alとは金属のアルミニウムと酸化アルミニウムを足し合わせた全アルミニウムを指す
得られた0.5〜1.0mmの粒を25.5mg秤取り、測定用チューブに入れSQUID磁束計MPMS−XL(Quantum design社)で測定した結果を図2に示す。図2中のFCとは0.1Tの磁場をかけてから30Kから2Kまで温度を変化させて磁化率を測定する手法である。ZFCとは2Kまで冷やしてから0.1Tの磁場をかけて30Kまで温度を変化させて磁化率を測定する手法である。
【0038】
比較例1
インゴットから切り出した角柱のバナジウム(純度99.94wt%)32.3428 gと粒径2〜5mmの金属シリコン3.5954gをそれぞれ秤量し、日本特殊機械株式会社製のトリアーク熔解炉内の水冷銅坩堝上にセットした。炉内を2回アルゴンで置換した後、アルゴンで炉内圧を1.05×10Paとした後、アーク熔解を行い、バナジウム−シリコン合金のボタンインゴットを作製した。得られたボタンインゴットからφ15 mm×t4mmの円柱をワイヤー放電加工機で切り出した。得られたバナジウム−シリコン合金の化学分析を表2に示し、その粉末X線回折結果を図1に示す。
【0039】
得られた1.0319gの円柱を実施例1と同様に磁化率の変化を調査した。その結果を図3に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例2
実施例1で作製したテルミット合金を振動ミルで45〜250μmの粒径まで粉砕した。アトライターを用いれば5μmの粒径まで粉砕できることが分かった。予め片方を封じたSUS製のパイプ(6.0/3.0mmφ、容積1.5cc)に45〜250μmの粒径の粉体5.42gを詰めた後、開口部をネジで留め、更にTIG溶接を行い加工時のシース材の破断に備えた。この線材を溝ロールで1.6mmφまで冷間加工し、更にカセットローラーダイスで1.1mmφまで熱処理無しで冷間加工した。
【0042】
作製した超伝導線材試料を5mm切り取って、ワニスで固定し、アルミニウム線でボンディングを行い、物理特性測定装置PPMS(Quantum design社)のチャンバー内に納めた。超伝導転移観測のため5mAの微少電流を印加し、抵抗測定は4端子法でロックインアンプを用いて行った。電圧端子間は約4mmであった。2Kから300Kまでの温度領域における抵抗の変化を図4に示す。10K付近の温度において超伝導転移に起因する抵抗の急激な現象が見られた。図4の5Kから15Kまでの温度領域を拡大したものを図5に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化バナジウム、珪素及びアルミニウムを含有する原料粉末をテルミット反応に供することを特徴とする、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウムの製造方法。
【請求項2】
前記珪化バナジウムは超伝導材料及び/又は構造材料である、請求項1に記載の珪化バナジウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により得られる珪化バナジウムを粉砕した後、当該粉砕物を金属製パイプに充填して伸線加工することを特徴とする、V3+xSi(但し、xは−1.33≦x≦21)で示される珪化バナジウム線材の製造方法。
【請求項4】
前記珪化バナジウム線材は超伝導線材である、請求項3に記載の珪化バナジウム線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−79162(P2013−79162A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219435(P2011−219435)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(391033517)太陽鉱工株式会社 (6)
【Fターム(参考)】