説明

生体溶解性無機繊維及びその製造方法

【課題】加工し易い生体溶解性無機繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】生体溶解性繊維に界面活性剤が付着している無機繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体溶解性無機繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維は、軽量で扱いやすく、且つ耐熱性に優れるため、例えば、耐熱性のシール材として使用されている。一方、近年、無機繊維が人体に吸入されて肺に侵入することによる問題が指摘されている。そこで、人体に吸入されても問題を起こさない又は起こしにくい生体溶解性無機繊維が開発されている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
生体溶解性無機繊維は、用途に応じて、ロープ、ヤーン、クロス等の紡織品の原料として使用される他、ブランケット、ボード、フェルト等の成形品や、コーティング材や漆喰等の不定形品に二次加工されて用いられる。
【0004】
また、特許文献3,4には、繊維成分の溶出を抑制するために、生体溶解性無機繊維をリン酸塩、モリブデン化合物、亜鉛化合物等で被覆することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公報第3753416号
【特許文献2】特表2005−514318号公報
【特許文献3】特開2007−197264号公報
【特許文献4】特開2008−162853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、加工し易い生体溶解性無機繊維及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の無機繊維及びその製造方法が提供される。
1.生体溶解性繊維に界面活性剤が付着している無機繊維。
2.前記生体溶解性繊維が以下の組成を有する1記載の無機繊維。
SiOとAlとZrOとTiOとの合計 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 18〜50重量%
3.前記生体溶解性繊維が以下の組成を有する1記載の無機繊維。
SiO 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 10〜43重量%
4.前記生体溶解性繊維が以下の組成1又は2を有する1記載の無機繊維。
[組成1]
SiO 70〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜29重量%
Al 3重量%未満
[組成2]
SiO 70〜82重量%
CaO 10〜29重量%
MgO 1重量%以下
Al 5重量%未満
5.前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤である1〜4のいずれか記載の無機繊維。
6.前記界面活性剤が、アルキルアミン・酢酸塩である1〜5のいずれか記載の無機繊維。
7.前記界面活性剤の量が、前記界面活性剤が付着した無機繊維全体を100重量%としたとき、0.01〜2重量%である1〜6のいずれか記載の無機繊維。
8.生体溶解性繊維に、界面活性剤を吹き付けるまたは含浸させる1〜7のいずれかのいずれか記載の無機繊維を製造する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工し易い生体溶解性無機繊維及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1において湿潤状態を説明するための図である。
【図2】実施例1において沈降状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の無機繊維は、生体溶解性繊維が界面活性剤で処理されていることを特徴とする。具体的には、生体溶解性繊維に界面活性剤が付着して一体化している。界面活性剤は主に表面に付着し、好ましくは表面を覆っている。
界面活性剤が付着していると、繊維間の摩擦が抑えられ繊維が柔軟になるため、加工の際、折れ難くなる。また、他の成分と均一に混合し易くなり、安定して二次製品を製造できる。例えば、フェルトを製造するときは針で刺し、不定形品を製造するときは溶媒等と混練するが、そのような加工時において折れ難くなる。その結果、強度が高くなり得る。
【0011】
さらに、付着する界面活性剤の量により、用途に対応させて、繊維全体の親水性、疎水性、撥水性を調節できる。
例えば、目地充填材等の不定形品を製造する際は親水性が高いことが求められる。織物を製造する際は柔軟性、または疎水性が高いことが求められる。
界面活性剤の量は、通常、界面活性剤が付着している無機繊維全体を100重量%としたとき、0.01〜2重量%であり、好ましくは0.01〜1.5重量%であり、より好ましくは0.01〜1.0重量%であり、0.01重量%以上0.25重量%未満であってもよく、0.25重量%以上1.0重量%以下であってもよい。用途により、この範囲で、又はこの範囲を超えて増減できる。
【0012】
性能上好ましい界面活性剤は、アルキルアミン(1級、2級、3級、ジアミン、トリアミン)・酢酸塩、アルキルジメチルベタイン、ポリオキシエチレンアルキルアミン・乳酸塩、アルキルアマイドアミン誘導体、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン系界面活性剤である。アルキル基は牛脂(C8〜C18)由来のものが好ましく、アルキルアミン・酢酸塩がより好ましい。
尚、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)は、塩の部分がNa(ナトリウム塩)、NH(アンモニウム塩)である。さらに、EDTAの末端基は酢酸(CHCOO)の構造なので、塩(カウンターイオン)として酢酸塩にならない。従って、アルキルアミン・酢酸塩には、EDTAは含まれない。通常、界面活性剤はこのようなキレート剤は含まない。
【0013】
生体溶解性繊維は40℃における生理食塩水溶解率が1%以上の繊維である。
生理食塩水溶解率は、例えば、次のようにして測定される。すなわち、先ず、無機繊維を200メッシュ以下に粉砕して調製された試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(容積300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、三角フラスコに、毎分120回転の水平振動を50時間継続して加える。その後、ろ過により得られた濾液に含有されている各元素の濃度(mg/L)をICP発光分析装置により測定する。そして、測定された各元素の濃度と、溶解前の無機繊維における各元素の含有量(重量%)と、に基づいて、生理食塩水溶解率(%)を算出する。すなわち、例えば、測定元素が、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)である場合には、次の式により、生理食塩水溶解率C(%)を算出する;C(%)=[ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100]/[溶解前の無機繊維の重量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100]。この式において、a1、a2、a3及びa4は、それぞれ測定されたケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの濃度(mg/L)であり、b1、b2、b3及びb4は、それぞれ溶解前の無機繊維におけるケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの含有量(重量%)である。
【0014】
生体溶解性繊維として、具体的に、以下の組成を挙げることができる。
SiOとAlとZrOとTiOとの合計 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 18〜50重量%
【0015】
また、以下の組成を挙げることができる。
SiO 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 10〜43重量%
【0016】
生体溶解性繊維は、MgOを多く含むMgシリケート繊維と、CaOを多く含むCaシリケート繊維に大別できる。Mgシリケート繊維として以下の組成を例示できる。
SiO 66〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜30重量%
Al 3重量%以下
他の酸化物 2重量%未満
【0017】
Caシリケート繊維として以下の組成を例示できる。この組成の繊維は加熱後の生体溶解性、耐火性に優れる。
SiO 66〜82重量%(例えば、68〜80重量%、70〜80重量%、71〜80重量%又は71〜76重量%とできる)
CaO 10〜34重量%(例えば、20〜30重量%又は21〜26重量%とできる)
MgO 3重量%以下(例えば、1重量%以下とできる)
Al 5重量%以下(例えば3.5重量%以下又は3重量%以下とできる。また、1重量%以上又は2重量%以上とできる)
他の酸化物 2重量%未満
【0018】
SiOが上記範囲であると耐熱性に優れる。CaOとMgOが上記範囲であると加熱前後の生体溶解性に優れる。
【0019】
Al含有量は、例えば、3.4重量%以下又は3.0重量%以下とできる。また、1.1重量%以上又は2.0重量%以上とできる。好ましくは0〜3重量%、より好ましくは1〜3重量%である。この範囲でAlを含むと強度が高くなる。
【0020】
上記の無機繊維は、他の酸化物として、アルカリ金属酸化物(KO、NaO等)、Fe、ZrO、P、B、TiO、MnO、R(RはSc,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y又はこれらの混合物から選択される)等を1以上含んでもよく、含まなくてもよい。他の酸化物は、それぞれ、0.2重量%以下又は0.1重量%以下としてよい。アルカリ金属酸化物は各酸化物を0.2重量%以下としてもよく、アルカリ金属酸化物の合計を0.2重量%以下としてもよい。
【0021】
また、生体溶解性繊維は、SiO、CaO、MgO、Alの合計を98重量%超又は99重量%超としてよい。
【0022】
次に繊維への界面活性剤の付着の方法について説明する。
界面活性剤の付着の方法については、適量を付着させられる方法であればよく、特に制限はされないが、例えば生体溶解性繊維の繊維化直後に周囲から吹き付けてもよいし、バルク、ブランケット状となった繊維の集合体等、2次加工を施す前に吹き付けてもよいし、含浸してもよい。界面活性剤は適当な溶媒で希釈して処理に用いてもよい。溶媒として水、有機溶媒で希釈をしてもよいし、酢酸、硝酸、塩酸、硫酸、アンモニア等でPH調整を行ってもよい。通常、設備や安全性等の観点から水、酢酸、アンモニア等で調整することが好ましい。特に制限されるわけではないが安全性の観点からPHは6〜8程度が望ましい。
さらに界面活性剤が完全に消失しない、またはその効果が発揮される範囲の温度で適宜加熱、乾燥処理をしてもよい。
【0023】
本発明の界面活性剤が付着した繊維はそのまま紡織品、バルクとして使用でき、また、ブランケット、ボード、フェルト等の成形品や、コーティング材や漆喰等の不定形品に加工して用いることができる。
【0024】
尚、本発明の繊維は、界面活性剤のみを付着させる構成としてよいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の物質を付着させてもよい。リン酸塩、モリブデン化合物、亜鉛化合物、ポリアミジン化合物、エチレンイミン化合物、アルミニウム化合物、ニトリロ3酢酸、エチレンジアミン4酢酸、疎水性化剤(シリコーン等)、防腐剤、(天然)デンプン、(天然)デンプンスルファメート、又はスルファミン酸等は付着させない構成としてもよい。
【実施例】
【0025】
実施例1,2
SiOを73質量%、CaOを24質量%、MgOを0.3質量%、Alを2質量%含む原料を加熱して溶融液を製造した。次に、この溶融液を繊維化する際、アルキルアミン酢酸塩(界面活性剤)を横から吹き付けて、無機繊維を製造した。表1に示されるように繊維への界面活性剤付着量を変えた。
【0026】
得られた繊維を両手で軽くこすり合わせてボール状に丸め試料を作製した。200mlの水道水が入った200mlメスシリンダーに、試料を落とし、湿潤及び沈降するまでの時間を連続して測定した。結果を表1に示す。
尚、湿潤時間は、試料をメスシリンダーに落としてから、図1に示すように試料全体が水面下になるまでの時間である。沈降時間は、試料をメスシリンダーに落としてから、図2に示すように試料がメスシリンダーの底に沈降するまでの時間である。
【0027】
比較例1
界面活性剤を付着させなかった他は実施例1と同様にして繊維を製造し評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1の繊維は、紡織品のバルクに適している。また、湿分等の多い環境で使用され撥水性が求められる目地充填材としても使用できる。
実施例2の繊維は柔軟性と適当な親水性と撥水性(水に沈み難く完全に浮かない程度)があり、繊維を折らずに均一に撹拌し易く、不定形断熱材に用いるのに適している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の無機繊維は、断熱材、またアスベストの代替品として、様々な用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体溶解性繊維に界面活性剤が付着している無機繊維。
【請求項2】
前記生体溶解性繊維が以下の組成を有する請求項1記載の無機繊維。
SiOとAlとZrOとTiOとの合計 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 18〜50重量%
【請求項3】
前記生体溶解性繊維が以下の組成を有する請求項1記載の無機繊維。
SiO 50〜82重量%
CaOとMgOとの合計 10〜43重量%
【請求項4】
前記生体溶解性繊維が以下の組成1又は2を有する請求項1記載の無機繊維。
[組成1]
SiO 70〜82重量%
CaO 1〜9重量%
MgO 10〜29重量%
Al 3重量%未満
[組成2]
SiO 70〜82重量%
CaO 10〜29重量%
MgO 1重量%以下
Al 5重量%未満
【請求項5】
前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤である請求項1〜4のいずれか記載の無機繊維。
【請求項6】
前記界面活性剤が、アルキルアミン・酢酸塩である請求項1〜5のいずれか記載の無機繊維。
【請求項7】
前記界面活性剤の量が、前記界面活性剤が付着した無機繊維全体を100重量%としたとき、0.01〜2重量%である請求項1〜6のいずれか記載の無機繊維。
【請求項8】
生体溶解性繊維に、界面活性剤を吹き付けるまたは含浸させる請求項1〜7のいずれかのいずれか記載の無機繊維を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−112602(P2013−112602A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263414(P2011−263414)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【特許番号】特許第5138806号(P5138806)
【特許公報発行日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】