説明

生体組織判定方法および生体組織判定装置

【課題】培養を経ることなく取得する細胞群の細胞数や細胞の特性を細胞の採取前に簡易に判定する。
【解決手段】生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定ステップS1と、該タンパク質濃度測定ステップS1において測定された血中タンパク質濃度に基づいて生体内の生体組織における細胞特性を推定する細胞特性推定ステップS2とを含む生体組織判定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織判定方法および生体組織判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血中タンパク質を抽出することにより、メタボリックシンドロームの予測を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−241387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細胞治療技術において、血中タンパク質を利用することについては知られていない。これまでの細胞治療では、培養することで、ある特定の細胞集団を作製してから移植する技術と、採取した組織から細胞を術場で分離し、そのまま移植する技術の2通りがある。後者は、前者のように培養という操作を含まないので、コンタミネーションを防止し、培養期間や培養コストを抑えることができるという利点がある一方、術前に患者の細胞数や細胞の特性を調べることができず、十分な治療効果が得られない場合があるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、培養を経ることなく取得する細胞群の細胞数や細胞の特性を細胞の採取前に簡易に判定することができる生体組織判定方法および生体組織判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定ステップと、該タンパク質濃度測定ステップにおいて測定された血中タンパク質濃度に基づいて前記生体内の生体組織における細胞特性を推定する細胞特性推定ステップとを含む生体組織判定方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、タンパク質濃度測定ステップにおいて、生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度が測定され、測定された血中タンパク質濃度に基づいて細胞特性推定ステップにおいて、生体内の生体組織における細胞特性が推定される。発明者は、末梢血内の血中タンパク質濃度が、生体組織における細胞特性に関係していることを見いだした。したがって、これに基づくことにより、生体組織中の細胞数や細胞の特性であっても、生体組織を採取することなく、これを簡易に判定することができ、治療効果を予測することができる。
【0008】
上記発明においては、前記細胞特性が、繊維芽細胞コロニー形成単位、細胞濃度または血管形成能であってもよい。
また、上記発明においては、前記血中タンパク質が、アルブミンであってもよい。
また、上記発明においては、脂肪組織または骨髄であってもよい。
【0009】
また、本発明は、被検者の生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定部と、該タンパク質濃度測定部により測定された血中タンパク質濃度に基づいて前記生体内の生体組織における細胞特性を推定する細胞特性推定部とを備える生体組織判定装置を提供する。
上記発明においては、前記細胞特性推定部により推定された細胞特性に基づいて、必要生体組織量を算出する組織量算出部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、培養を経ることなく取得する細胞群の細胞数や細胞の特性を細胞の採取前に簡易に判定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織判定装置を示すブロック図である。
【図2】図1の生体組織判定装置において使用される式(1)を導出するための血中アルブミン量とCFU−Fとの関係を示す図である。
【図3】図1の生体組織判定装置において使用される式(2)を導出するための血中アルブミン量と細胞収量との関係を示す図である。
【図4】図1の生体組織判定装置における細胞数算出部の詳細を示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る生体組織判定方法を示すフローチャートである。
【図6】図1の生体組織判定装置の変形例を示すブロック図である。
【図7】図1の生体組織判定装置の他の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る生体組織判定装置および生体組織判定方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織判定装置1は、図1に示されるように、患者から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定する成分分析部2と、患者から採取された生体組織、例えば、脂肪組織の重量を測定する組織重量測定部3と、成分分析部2により測定された血中タンパク質濃度と組織重量測定部3により測定された脂肪組織の重量とに基づいて、脂肪組織内に存在する生細胞数を算出する細胞数算出部4と、算出された細胞数を表示する表示部5とを備えている。
【0013】
成分分析部2は、血中タンパク質量として血中アルブミン量を測定するようになっている。血中アルブミン量の測定は、例えば、BCG法により行われる。BCG法は、アルブミンがブロムクレゾールグリーン(BCG)と特異的に結合して青色色素を生成することを利用して、この青色色素の吸光度を測定することにより血中アルブミン量を測定するものである。
組織重量測定部3は、重量計であり、採取された脂肪組織を載置することにより、脂肪組織の重量を測定するようになっている。
【0014】
ここで、発明者は、14名の患者から採取した末梢血と脂肪細胞とを用いて検査した結果、血中タンパク質としての血中アルブミンの量が、図2および図3に示されるように、脂肪細胞内における繊維芽細胞コロニー形成単位(CFU−F)および生細胞収量と相関があることを発見した。図2は、血中アルブミンとCFU−Fとの関係、図3は、血中アルブミンと生細胞の収量(脂肪組織1g中に含まれる生細胞数)との関係を示すグラフである。
CFU−Fは、脂肪組織内に含まれる幹細胞数を全細胞数で除算することにより求めた。
【0015】
その結果、図2および図3に示されるプロットに基づいて、相関係数R値を算出すると、表1および表2の通りとなった。
【0016】
【表1】

【表2】

【0017】
表1によれば、血中アルブミン量と生細胞収量との相関係数および血中アルブミン量とCFU−Fとの相関係数R値は0.4以上となり相関が存在することがわかった。特に、血中アルブミン量とCFU−Fとの相関係数R値は−0.594となり、比較的大きな相関が存在することがわかった。そして、この相関を示す関係式を以下のように導いた。
【0018】
CFU−F=−0.773×血中アルブミン量+4.153 (1)
生細胞収量=57167×血中アルブミン量−124506 (2)
【0019】
細胞数算出部4は、図4に示されるように、上記式(1)および/または式(2)を記憶していて、CFU−Fおよび/または生細胞収量を算出する第1の演算部6と、該第1の演算部6から出力されたCFU−Fおよび/または生細胞収量と組織重量測定部3により測定された脂肪組織の重量とを乗算する第2の演算部7とを備えている。
【0020】
成分分析部2により、血中アルブミン量が測定されると、第1の演算部6は、測定された血中アルブミン量に基づいて、式(1)および/または式(2)を用いてCFU−Fおよび/または生細胞収量を算出するようになっている。また、第2の演算部7においては、第1の演算部6により算出されたCFU−Fおよび/または生細胞収量と組織重量測定部3により測定された脂肪組織の重量とを乗算することにより、採取された脂肪組織内の幹細胞数および/または生細胞数が算出されるようになっている。
【0021】
表示部5は、細胞数算出部4により算出されたCFU−F値および/または生細胞収量値および/または最終的に算出された幹細胞数および/または生細胞数を表示するようになっている。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る生体組織判定装置1を用いた生体組織判定方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織判定方法は、図5に示されるように、判定すべき生体組織である脂肪組織の採取に先立って、あるいは脂肪組織の採取後に、末梢血を採取し、採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定ステップS1と、該濃度測定ステップにおいて測定された血中タンパク質濃度に基づいて、判定すべき脂肪組織の細胞特性を推定する細胞特性推定ステップS2とを含んでいる。
【0023】
タンパク質濃度測定ステップS1は、成分分析部2において行われる。タンパク質濃度測定ステップS1においては、血中タンパク質濃度は血中アルブミン量として測定される。
また、細胞特性推定ステップS2は、細胞数算出部4おいて行われる。細胞特性推定ステップS2においては、細胞特性として、CFU−F値および/または細胞収量値が算出される。
【0024】
すなわち、タンパク質濃度測定ステップS1において測定された血中アルブミン量を用いて、細胞特性推定ステップS2において、式(1)および/または式(2)からCFU−F値および/または細胞収量値が算出され、表示部5に表示される。
CFU−F値あるいは生細胞収量値を表示することで、必要数の幹細胞または生細胞を得るためにどのくらいの脂肪組織が必要であるのかを推定することができる。
【0025】
また、本実施形態に係る生体組織判定装置1によれば、組織重量測定部3により測定された脂肪組織の重量が細胞数算出部4においてCFU−F値および/または細胞収量値に乗算されることにより、採取された脂肪組織内に含まれる幹細胞数および/または生細胞数が算出され、表示部5に表示される。最終的に算出された幹細胞数および/または生細胞数を表示することで、採取された脂肪組織で足りるか否か、脂肪組織の追加採取が必要か否かを、生体組織を処理する前に判断することができる。
【0026】
このように、本実施形態に係る生体組織判定装置1および生体組織判定方法によれば、患者から採取した生体組織である脂肪組織自体を分析するのではなく、同じ患者から採取した末梢血を用いることで、脂肪組織内に含まれる幹細胞数および/または生細胞数を推定することができる。また、培養を経ないので、コンタミネーションを防止し、培養期間や培養コストを抑えることができるという利点がある。
【0027】
そして、その結果、幹細胞数および/または生細胞数を得るために要する時間を短縮して迅速に採取すべき脂肪組織の量を判定することができる。このため、必要細胞数を得るための脂肪組織を一度の採取作業で採取することができ、あるいは、追加採取する場合においても、時間をあけずに行うことができる。したがって、患者にかかる負担を軽減することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態においては、末梢血からCFU−F値、細胞収量値、幹細胞数および生細胞数の1つ以上を算出して表示することとしたが、そのうちの1つのみを表示してもよいし全てを表示してもよい。また、CFU−F値あるいは生細胞収量値を表示することなく、必要脂肪組織量を表示することにしてもよい。
【0029】
さらに、図6に示されるように、入力部8と組織量算出部9とを設け、入力部8から必要幹細胞数あるいは必要生細胞数を入力させることとして、組織量算出部9において、必要幹細胞数をCFU−F値で除算するか、必要生細胞数を細胞収量値で除算するかによって必要脂肪組織量を算出し、表示部5に表示させることにしてもよい。
【0030】
また、細胞特性として、CFU−F(線維芽細胞コロニー形成単位)および細胞収量(細胞濃度)を採用したが、これに代えて、血管形成能を採用してもよい。
また、血中タンパク質濃度として、血中アルブミン量を採用したが、これに代えて、他のタンパク質濃度を採用してもよい
また、生体組織として、脂肪組織を例示したが、これに代えて、骨髄その他の生体組織を採用してもよい。
【0031】
また、本実施形態においては、独立した生体組織判定装置1について説明したが、これに代えて、図7に示されるように、生体組織採取装置10に付属させることにしてもよい。
図7に示される生体組織採取装置10は、末梢血が供給されることにより、末梢血を分析して、CFU−F値および/または細胞収量値を算出する成分分析部2と、必要細胞数を入力するための入力部8と、脂肪組織を吸引する吸引ノズル11と、吸引された脂肪組織を収容する組織収容部12と、組織収容部12および吸引ノズル11に供給する負圧を発生するポンプ13と、負圧をオンオフするためのバルブ14と、組織収容部12に収容された脂肪組織の重量を測定する重量計3と、必要脂肪組織量を算出する処理部15と、算出された必要脂肪組織量等を表示する表示部5とを備えている。
【0032】
処理部15は、入力部8から入力された必要細胞数を、成分分析部2により算出されたCFU−F値および/または細胞収量値で除算することにより、必要脂肪組織量を算出して表示部5に出力するようになっている。また、処理部15は、脂肪組織が吸引された後には、重量計8により測定された脂肪細胞の重量を必要脂肪組織量から減算して、追加吸引が必要な脂肪組織量を算出して表示部5に出力するようにしてもよい。さらに、処理部15は、吸引された脂肪組織が必要細胞数を得るためには不足している場合には、バルブ14を開放して吸引ノズル11に負圧を供給し、脂肪組織が十分な量に達した場合には、バルブ14を閉鎖して吸引を停止することにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
S1 タンパク質濃度測定ステップ
S2 細胞特性推定ステップ
1 生体組織判定装置
2 成分分析部(タンパク質濃度測定部)
6 第1の演算部(細胞特性推定部)
9 組織量算出部
10 生体組織採取装置(生体組織判定装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定ステップと、
該タンパク質濃度測定ステップにおいて測定された血中タンパク質濃度に基づいて前記生体内の生体組織における細胞特性を推定する細胞特性推定ステップとを含む生体組織判定方法。
【請求項2】
前記細胞特性が、繊維芽細胞コロニー形成単位、細胞濃度または血管形成能である請求項1に記載の生体組織判定方法。
【請求項3】
前記血中タンパク質が、アルブミンである請求項1に記載の生体組織判定方法。
【請求項4】
前記生体組織が、脂肪組織または骨髄である請求項1に記載の生体組織判定方法。
【請求項5】
被検者の生体から採取された末梢血内の血中タンパク質濃度を測定するタンパク質濃度測定部と、
該タンパク質濃度測定部により測定された血中タンパク質濃度に基づいて前記生体内の生体組織における細胞特性を推定する細胞特性推定部とを備える生体組織判定装置。
【請求項6】
前記細胞特性推定部により推定された細胞特性に基づいて、必要生体組織量を算出する組織量算出部を備える請求項5に記載の生体組織判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75481(P2011−75481A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229395(P2009−229395)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】