説明

生体防御機能因子の発現亢進剤

【課題】甘草抽出物についての新規用途で実施可能な生体防御機能因子の発現亢進剤を提供することである。
【解決手段】水およびエタノール可溶性でありかつグリチルリチンおよびグラブリジン非含有の甘草抽出物を有効成分として含有し、生体防御機能因子であるBCL−XL、サバイビン(survivin)、P53、SODおよびHO−1の発現亢進作用を有し、かつiNOSの発現抑制作用を有する生体防御機能因子の発現亢進剤とする。BCL−XL発現亢進剤、サバイビン(survivin)発現亢進剤、P53発現亢進剤、SOD発現亢進剤、HO−1発現亢進剤または酸化ストレス促進性のあるiNOSの発現抑制剤として使用可能なものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アポトーシス抑制因子、DNA修復因子または酸化ストレス抑制因子における生体防御機能因子の発現亢進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、生薬としてよく知られた甘草(カンゾウ)は、薬用または甘味料原料として用いられ、化粧料などの皮膚外用剤の成分としても用いられている。また、水やアルコール水溶液などの水性溶媒で抽出された甘草の葉の抽出物は、皮膚の繊維芽細胞のコラーゲン産生を促進する作用のあることが知られている。
【0003】
また本願の発明者による甘草に含まれている美白成分の純度を精製して高め、特にリクイリチン以外の美白成分を精選し、すなわちチロシナーゼ阻害活性以外の作用によって美白効果を高めた美白性皮膚外用剤が公知である(特許文献1)。
【0004】
ところで、生体防御機能として、ヒトは様々な機能を有しているが、皮膚その他の組織のプログラムされた細胞死であるアポトーシスは、様々な疾患の原因となったり、疾患の症状を進行させたりする生命現象であるため、疾患に伴うアポトーシスを調整するための技術が要望され、医薬品の開発もなされている。
【0005】
例えば、DNA損傷によりアポトーシスが始まった場合には、BCL−2蛋白、BCL−XL蛋白、サバイビン(survivin)蛋白等によるアポトーシス抑制因子がアポトーシスによる細胞死を妨げる。
【0006】
また、アポトーシスが始まる以前のDNA損傷に対して、P53蛋白は、細胞増殖を停止させ、ART等によるDNA修復のための時間稼ぎをすることにより生体防御機能を発揮する。
【0007】
その他にも生体防御機能因子として、活性酸素を除去するSODと言う酵素があり、またHO−1蛋白は、活性酸素から生体を防御している、一方iNOS蛋白は、一酸化窒素(NO)を産生し、血管平滑筋を拡張させ、高血圧、動脈硬化を予防する。
【0008】
因みに、医療分野では、NOを産生するニトログリセリンが狭心症の特効薬となり、これは生体防御機能がある。
【0009】
しかし、NOが過剰に増加すると活性酸素と反応し、強いパーオキシナイトライト(ペルオキシ亜硝酸;過酸化亜硝酸)を産生し、パーオキシナイトライトはDNAを損傷し、突然変異や発癌を惹起する。
また、iNOS蛋白の産生するNOは、少量では生体防御機能を有するが、多量になると酸化ストレス効果が出現し生体防御を損なう因子となる。
【0010】
これらP53、ART、BCL−2、BCL−XL、サバイビン(survivin)、SOD、HO−1、iNOS等の発現により生成される蛋白は、全て細胞のDNAが作用して細胞内で生成されている。これらの蛋白を生体内で増加させまたは抑制させるよう調整することは、種々のストレスを抑制して生体を防御するためにも有効である。
【0011】
このような生体防御機能因子となる蛋白の発現を亢進させる成分は、植物由来からも採集することができることが知られており、ベニバナ、ニンジン、アマチャ、パセリ、レイ
シ、オノニス、ウイキョウ、ボウイにはBCL−2蛋白の増加作用のある成分が含まれていることが知られている(特許文献2)。
【0012】
また、ニンジンは、BCL−XL蛋白の生成増加作用があることが知られ(特許文献3)、担子菌培養物はiNOSの生成を抑制することが知られている(特許文献4)。また、甘草抽出物のエタノール可溶性かつ水溶性分画が、BCL−2蛋白量を増加させる効果のあることは知られている(特許文献5)。
【0013】
また、甘草に含まれるグリチルリチンおよびグラブリジンは、抗炎症成分であることが知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−028157号公報
【特許文献2】特開2002−080382号公報
【特許文献3】特開2001−139483号公報
【特許文献4】特開2008−013550号公報
【特許文献5】特開2008−239573号公報
【特許文献6】特開2011−068574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記した背景技術のうち、甘草抽出物を用いた特許文献5には、BCL−2蛋白が増加している結果が記載されているが、その他の生体防御機能性のある蛋白については開示されておらず、有害な蛋白の生成を阻害している可能性については未解明であるという問題点があり、それらについての新規な用途を発見する必要性が認められた。
【0016】
特に、従来の甘草抽出物中に含まれるグリチルリチンおよびグラブリジン以外の甘草抽出成分の性質について未知なものがあると考えられ、それらの有用性を明らかにする必要がある。
【0017】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、甘草抽出物について新規な用途で実施可能な生体防御機能因子の発現亢進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、この発明においては、水およびエタノール可溶性でありかつグリチルリチンおよびグラブリジン非含有の甘草抽出物を有効成分として含有し、生体防御機能因子であるBCL−XL、サバイビン(survivin)、P53、SODおよびHO−1の発現亢進作用を有し、かつiNOSの発現抑制作用を有する生体防御機能因子の発現亢進剤としたのである。
【0019】
上記したように構成されるこの発明の生体防御機能因子の発現亢進剤は、後述の実験結果からも明らかなように、BCL−XL発現亢進剤、サバイビン(survivin)発現亢進剤、P53発現亢進剤、SOD発現亢進剤、HO−1発現亢進剤及びiNOS発現抑制剤として使用可能な効果を有し、これらの新規な用途について、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分とすることができる。
【0020】
また、上記した生体防御機能因子が、BCL−XL蛋白またはサバイビン(survivin)蛋白からなるアポトーシス抑制因子である場合において、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分とする生体防御機能因子の発現亢進剤とすることもできる。
【0021】
また、上記した生体防御機能因子が、P53蛋白からなるDNA修復因子である場合において、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分とする生体防御機能因子の発現亢進剤とすることもできる。
【0022】
また、上記した生体防御機能因子が、酸化ストレス抑制因子であるSOD及びHO−1の発現促進作用を有する場合、または酸化ストレス促進性のあるiNOSの発現を抑制する酸化ストレス抑制因子である場合において、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分とする生体防御機能因子の発現亢進剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物を有効成分として含有するので、BCL−XLまたはサバイビン(survivin)からなるアポトーシス抑制因子、P53からなるDNA修復因子、酸化ストレス抑制因子であるSOD及びHO−1の発現促進効果を有し、または酸化ストレス促進性のあるiNOSの発現を抑制する酸化ストレス抑制因子である生体防御機能因子の発現亢進性を有し、BCL−XL発現亢進剤、サバイビン(survivin)発現亢進剤、P53発現亢進剤、SOD発現亢進剤、HO−1発現亢進剤またはiNOS発現抑制剤という新規な用途において生体防御機能因子の発現亢進剤となる利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に用いる甘草は、スペイン、シベリア、中国などに産するマメ科の薬用植物であるカンゾウを乾燥して保存性を高めた生薬であり、その学名はグリシルリーザ ウラレンシス フィッシャー(Glycyrrhiza urarelensis Fischer)またはグリシルリーザ
グラブラ エル バー グランダリフェラ レグ エ ヘルド(Glycyrrhiza glabra l var.glandulifera REG.Et HERD)と称される植物またはその近縁種である。
【0025】
この植物の好ましくは根または根茎(葡萄茎またはストロンとも呼ばれる)を皮付きの状態、またはコルク皮を除いて粉砕もしくは摩砕して粉末状としたもの、これらを水もしくはエタノールまたはその他の水性溶媒で抽出したものを有効成分の抽出材料として用いることができる。一般的な甘草抽出物の皮膚に対する安全性はよく知られているところである。
【0026】
この発明において有効成分を抽出するために用いる溶媒は、水(中性、弱酸または弱アルカリ性のいずれであってもよい。)または水を主成分として適宜に他の溶媒(有機溶媒であってもよい。)を添加した水性の抽出溶媒であり、アルコール含有の水溶液なども採用できる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタ
ノール等の周知のアルコール溶媒が挙げられる。なお、これらの溶媒で抽出された有効成分は、いずれも水およびエタノール(=エチルアルコール)に可溶性である。
【0027】
このような水性溶媒による抽出操作は、抽出効率を高めるために温水または熱水の状態で行なうことが好ましい。特に100℃以上、好ましくは100〜130℃で抽出操作を行なうと、前記した生体防御機能因子の発現亢進に有効な成分が効率よく抽出される。
【0028】
抽出工程において、抽出液を、活性炭などの吸着剤に接触通過させて濾過するか、または固体と液体との比重差、重力または遠心力による沈降速度の差を利用して固液分離し、懸濁物質を除去することが好ましい。
【0029】
吸着剤としては、活性炭等のように、多量の正吸着を起こさせるような界面を提供する物質であればよく、上記のようにして得られた透明性液体を濃縮し再び水やエタノールな
どで希釈した後、濃縮により生じた不溶物を濾過などで分離除去し、精製をより完全なものにすることが好ましい。吸着剤の具体例としては、活性炭のような多孔質体からなる無機系吸着剤のほかにも合成吸着剤(有機系吸着剤)が挙げられる。
【0030】
このように懸濁物質を除去する固液分離その他の操作としては、活性炭の粒を詰めたカラムなどの容器に抽出液を通過させるか、または抽出液に活性炭粉末(必要に応じてタルクなどの濾過補助剤)を加えて攪拌し、その混合物をろ紙や濾布などの前記活性炭の粉末粒子を捕捉するフィルターでろ過する方法も採用することができ、その他にも遠心分離や沈降速度差による周知の固液分離手段を採用してもよい。
【0031】
水性溶媒抽出物に対しての濃縮操作は、減圧操作や加熱濃縮などの周知の濃縮手段を採用できる。濃縮割合は、2〜100倍程度、特に5〜50倍程度であることは好ましく、通常、10倍程度の濃縮することが好ましい。
【0032】
得られた濃縮物は、前記した水性溶媒抽出液またはそれに相当する水性溶媒で再び希釈することが好ましい。希釈率は特に限定する必要性は少ないが、例えば濃縮前の容積に戻す程度の希釈率が好ましいと考えられ、例えば2〜100倍程度である。そして、前記濃縮と希釈の操作を1工程として、2工程以上繰り返して行なうことが好ましい。
【0033】
このようにして得られた液体を、さらに精製するには、濃縮した後、抽出溶媒としてエタノール濃度99.5%以上の無水アルコールを用いることが好ましい。
【0034】
固液分離して得られた水およびエチルアルコール可溶性成分を生体防御機能因子の発現亢進剤に調製するには、外用剤、内服薬、皮下注射薬などに調製できる。
例えば、皮膚外用剤として調製するには、適当な親水性・親油性があって、皮膚付着性の良い皮膚外用剤用の基剤に混和するか、または抽出液をクリーム、軟膏、乳液などの基材に混合すれば、皮膚に塗布できるような製剤形態に調製できる。
【0035】
後述するように、水およびエタノール可溶性の甘草抽出物のBCL−XL、サバイビン(survivin)、P53、SOD、HO−1の発現亢進性を有しかつiNOSの発現を抑制する生体防御機能因子の発現亢進剤としての有効成分は、最終濃縮物を乾燥させた物(乾燥固形物)としての配合重量%で、皮膚に対して0.1〜20重量%という濃度で処方されるように配合することが好ましい。
【実施例】
【0036】
[カンゾウ抽出液(T)実生産の製造方法]
1)東北カンゾウ刻200kgに水2000リットル(以下、リットルをLで示す)を加え、95℃で2.5時間抽出し、抽出液を製振動篩(300メッシュ、ステンレス製)でろ過した。得られた抽出ろ液を濃縮(液温60℃以下、減圧)し、濃縮液(スプレードライ原液)を噴霧乾燥し、乾燥エキスを得た。これを篩過(60メッシュ、ステンレス製)し、収量20kgのカンゾウ乾燥エキス(T原)を得た。
2) 1)で得た東北カンゾウ乾燥エキス(T原)20kgに局方エタノール100Lを
加え、6時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。
3) ろ液に局方エタノールを加えて100Lとし、活性炭(粒状白鷺KL)4.5kgを加えて3時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。この工程を3回繰り返し行なった。
【0037】
4) 3)で得られたろ液に局方エタノールを加えて100Lとし、これを10Lに濃縮(50℃以下、減圧)した。さらに活性炭(粒状白鷺KL)400gを加え2時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。この工程を6回繰り返し行なった。
5) 4)で得られたろ液に局方エタノールを加えて10Lとし、2Lまで濃縮した。
これに局方エタノール1Lと活性炭(粒状白鷺KL)100gを加えて3時間攪拌し、2号ろ紙でろ過した。
6) 5)で得られたろ液に局方エタノールを加えて2Lとし、活性炭(粒状白鷺KL)100gを加えて3時間攪拌し2号ろ紙でろ過した。
7) 6)で得られたろ液に局方エタノールを加えて2Lとし、5号ろ紙でろ過した。
8) 7)で得られたろ液を濃縮(40℃以下、減圧)乾固した後水300mLを加えて抽出(振とう、室温)し5号ろ紙でろ過した。この工程を3回行なった。
9)8)で得られたろ液は1Lとした。
【0038】
9)で得られたろ液250mLを、95℃以下(常温〜95℃、好ましくは常温〜95℃未満、以下同様。)に加熱して得た濃縮物(37.1g)に99.5%無水エタノール
(コニシ株式会社)1Lを加え、エタノール可溶性分画を取り95℃以下に加熱して濃縮物(21.5g)を得た。
【0039】
これに精製水250mLと活性炭(和光純薬社製:活性炭素粉末)50gを加えて攪拌
すると共に、75gのタルク(丸石製薬社製)を加えて更に攪拌した後、濾紙にて濾過した。得られた濾液を95℃以下に加熱して得た濃縮物(14.7g)に99.5%無水エタノール(和光純薬社製)400mlを加え、エタノール可溶性分画をとり、95℃以下に加熱して得た濃縮物(11.7g)に、精製水250mLと活性炭(和光純薬社製:活
性炭素粉末)30gを加えて攪拌すると共に、50gのタルク(丸石製薬社製)を加えて
更に攪拌した。その後、濾紙にて濾過し、得られた濾液を95℃以下に加熱して得た濃縮物(8.6g)に99.5%無水エタノール(和光純薬社製)400mlを加えエタノー
ル可溶性分画をとり、95℃以下に加熱して得た濃縮物(5.2g)とした。この濃縮物2.0gに精製水を加え12gとしたものを試料とした。
【0040】
甘草抽出物の有効成分については、上記の最終濃縮物(2.0g)を乾燥させた物の配合重量%として換算すると、皮膚に対して0.1〜20重量%という濃度の範囲で接触させることがこの発明の効果を得るために有効であると考えられる。
【0041】
評価実験方法[A:培養細胞を用いた検討]
1)ヒト口腔扇平上皮癌細胞HSC4を用いて試料の影響を検討した。実験は以下の4条件で4群に分けて行なった。なお、リン酸緩衝食塩水を以下、PBSと略記する。
第1群:PBS処理(24時間)
第2群:試料処理(24時間)
第3群:紫外線照射前後PBS処理(照射1時間前から24時間)
第4群:紫外線照射前後試料処理(照射1時間前から24時間)
【0042】
2)処理濃度は原液の1/200とした。
3)UV照射は、培養液を除去しPBSにて2回洗浄後、PBSを取り除き、紫外線発生装置(xx−15BLB、UVP、Co.Tokyo,Japan)を用い、紫外線強度5j/cm2で照
射距離5cmで1.5分間照射した。照射後、培養液を添加した(条件に応じて試料、PBSを添加した)。
【0043】
4)処理後の細胞はPBSにて洗浄後剥離回収し、RNeasy kit (Qiagen、Germany)によりRNAを抽出し、ReverTra Ace-a-RT kit(Toyobo、Japan)を用いてcDNAを作製した。定量的RT−PCR反応は、East SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、Step One Real-Time PCR Systems(Applied Biosystems、Foster City , CA,USA)により行ない、rerative standard curve quantification methodにより半定量化し、ACT
BmRNAをinternal contorolとして標準化した。
【0044】
評価実験方法[B:マウスを用いた検討]
1)4週齢のC56BL6雄性マウス(日本SLC)を1週間馴化した後、剃毛後群分
けを行った。実験群は第1群から第4群までの4群であり、各群マウス10匹を用いた。第1群:剃毛+PBS塗布
第2群:剃毛+試料塗布
第3群:剃毛+紫外線照射前後PBS塗布
第4群:剃毛+紫外線照射前後試料塗布
【0045】
2)試料は4℃保存し塗布前に室温に戻した。
3)紫外線照射では、全波長紫外線(UV-A,−B,−C)を照射し皮膚に急性紫外線障害を惹起させるが、その際、試料を紫外線照射前24時間および紫外線照射直後にマウス皮膚に塗布し急性紫外線障害の変化を検討した。
4)剃毛部位は有肋骨胸椎下縁と脊推の交点を中心とする2cm平方で剃毛面積は4cmである。剃毛は電動バリカン(ナショナル)を用いて行い、剃刀は使用しなかった。
【0046】
5)紫外線照射は、紫外線発生装置(xx−15BLB、UVP、Co.Tokyo,Japan)を用い、紫外線強度5J/cmで照射距離5cmにて15分間照射した。
6)照射時にはネンブタール(mg/mouse皮下注)にてマウスに麻酔をかけたうえで
、四肢をテープ固定し照射中の体位の安静を保った。
7)試料は200μlを綿棒にて剃毛部に全量を乾燥させながら塗布した。
8)マウスは紫外線照射後24時間後に頚推脱臼により屠殺し、剃毛部皮膚を周囲非剃毛部を含めて筋膜上で剥離し、液体窒素にて凍結した。
【0047】
9)凍結標本はホモジナイザーにて粉砕し、RNeasy kit (Qiagen、Germany)によりRNAを抽出し、ReverTra Ace-a-RT kit(Toyobo、Japan)を用いてcDNAを作製した。定量的RT−PCR反応は、East SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、StepOne Real-Time PCR Systems(Applied Biosystems、Foster City , CA,USA)により行な
い、rerative standard curve quantification methodにより半定量化し、ACTBmR
NAをinternal contorolとして標準化した。
【0048】
以下の表中に、上記評価試験の結果をまとめて示した。なお、表中のP<0.05は、比較する数値の差が偶然である確率は5%以下であることを示し、表中、同じ英小文字が付された群同士の数値の差が偶然である確率は5%以下であることを示している。例えば、表1中のHSC4細胞について言えば、e P<0.05は1群と4群の数値の差が偶然である確立は5%以下であることを示している。
【0049】
そして、試料の5倍希釈液を高速液体クロマトグラフ法にて分析したところ、グリチルリチンは含有量測定検出限界0.005g/kgの精度において検出されず、またグラブ
リジンは、含有量測定検出限界0.5mg/100gの精度において検出されなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
表1〜8の結果からも明らかなように、1群と3群を比較すると、紫外線照射によりP53、BCL−2、BCL−XL、サバイビン(survivin)、SOD、HO−1、iNOSの生成が増加していることがわかる。これは紫外線照射という強いストレスにより生体防御機能が活性化したものであり、統一された一つの反応であると言える。なお、iNOS
の増加は、その産生産物NOすなわち一酸化窒素が少量では生体防御に有効なので、生体防御因子活性化の作用によるものであると解釈できる。
【0059】
また、表1〜8の1群と2群を比較すると、P53、BCL−2、BCL−XL、サバイビン(survivin)、SOD、HO−1、iNOSの測定値は、殆ど差異がなく、生体にストレスがなければ、試料は、特定の蛋白質を増減させる遺伝子発現の影響がなかったといえる。
【0060】
しかしながら、第3群と第4群とを比較してみると、グリチルリチンおよびグラブリジン非含有の甘草抽出物を有効成分として含有する試料で処理された第4群は、P53、BCL−2、BCL−XL、サバイビン(survivin)、SOD、HO−1の遺伝子発現を促進し、酸化ストレスの促進剤であるiNOS遺伝子の発現を抑制したことがわかる。
【0061】
このことによって、水およびエタノール可溶性でありかつグリチルリチンおよびグラブリジン非含有の甘草抽出物を有効成分として含有する生体防御機能因子の発現亢進剤は、上記の生体に備わったストレスに対する生体防御機構を強化する一連の作用を奏し、BCL−2、BCL−XL及びサバイビン(survivin)からなるアポトーシス抑制因子の発現を亢進し、P53からなるDNA修復因子の発現を亢進し、またSOD、HO−1からなる酸化ストレス抑制因子の発現を亢進し、酸化ストレス性のあるiNOSの発現を抑制したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
1)この発明の生体防御機能因子の発現亢進剤は、アポトーシス研究用の試薬としての利用ができる。抗癌剤は初期には著名な効果を挙げるが、使用中にがん細胞は薬剤耐性を獲得し、抗癌剤の効果は低減し無効となる。これは癌細胞が抗アポトーシス能力を獲得するからである。本剤は広範な抗アポトーシス作用を有し、その作用点である細胞の受容体に対する拮抗剤を開発すれば、抗癌剤と併用することにより薬剤投与による癌疾患完治が期待できる。
【0063】
2)抗アポトーシス効果は、AIDSの発症予防に有用である。AIDSの症状の本態はCD4細胞の減少である。しかしHIV感染CD4細胞は、全CD4細胞の十万分の一以下である。通常ならCD4細胞の減少は生じないはずである。しかし、HIV感染CD4細胞は、正常なCD4細胞を何らかのメカニズムでアポトーシスさせる。そのためCD4細胞は減少する。本剤は、抗アポトーシス作用があるので、例えHIV感染してもCD4細胞の減少を阻止するので、AIDS発症が予防できる。そして、本剤は、宿主(ヒト)の側に作用するので耐性が生じない。
【0064】
3)アルツハイマー病は、中枢神経細胞が、ニ型糖尿病はインスリン分泌細胞がアポトーシスにより死滅するのが病状の本態である。従って、抗アポトーシス剤は、これらの疾病治療に有益である。
4)この発明の生体防御機能因子の発現亢進剤は、AIDS、アルツハイマー、糖尿病をはじめとするアポトーシスが原因となる全ての疾病の治療に本剤は有益である。
5)P53蛋白は、癌発生を予防し、発生した癌細胞を消滅させる効果がある。この発明の生体防御機能因子の発現亢進剤によるP53遺伝子の発現増強は、癌治療に有益である。
【0065】
6)この発明の生体防御機能因子の発現亢進剤は、酸化ストレス抑制因子の発現を促進し、酸化ストレス促進性のあるiNOSの発現を抑制する。酸化ストレスは、アルツハイマー病、パーキンソン病、狭心症、心筋梗塞、統合失調症等の疾病の原因である、酸化ストレスを抑制すれば上記疾病の発症予防が可能である。
7)組織幹細胞の枯渇が、ヒトの老化の主要な原因と考えられ、枯渇の原因は、組織幹細胞のアポトーシスである。そのため、この発明の生体防御機能因子の発現亢進剤を抗アポトーシス剤として使用することにより、組織幹細胞を増加させ、その結果、老化の予防、さらには若返り効果が期待できる。また、組織幹細胞の増加は、組織の再生能力を強化し、失われた組織の再生を可能とし、具体的には事故や戦傷により失われた四肢の再生、脊髄損傷の完全治癒等が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水およびエタノール可溶性でありかつグリチルリチンおよびグラブリジン非含有の甘草抽出物を有効成分として含有し、生体防御機能因子であるBCL−XL、サバイビン(survivin)、P53、SODおよびHO−1の発現亢進作用を有し、かつiNOSの発現抑制作用を有する生体防御機能因子の発現亢進剤。
【請求項2】
生体防御機能因子が、BCL−XLまたはサバイビン(survivin)からなるアポトーシス抑制因子である請求項1に記載の生体防御機能因子の発現亢進剤。
【請求項3】
生体防御機能因子が、P53からなるDNA修復因子である請求項1に記載の生体防御機能因子の発現亢進剤。
【請求項4】
生体防御機能因子が、SOD、HO−1からなる酸化ストレス抑制因子である請求項1に記載の生体防御機能因子の発現亢進剤。
【請求項5】
生体防御機能因子が、酸化ストレス促進性のあるiNOSの発現を抑制する酸化ストレス抑制因子である請求項1に記載の生体防御機能因子の発現亢進剤。

【公開番号】特開2013−75882(P2013−75882A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115634(P2012−115634)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2011−214456(P2011−214456)の分割
【原出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(507100384)有限会社西原 (3)
【Fターム(参考)】