説明

生分解性プラスチックおよびその製造方法

【課題】ポリ乳酸の高い機械的強度を維持しつつ、生分解性および汎用性が向上した、デキストリンおよびポリ乳酸を含む生分解性樹脂組成物の提供。
【解決手段】予めポリ乳酸とポリ乳酸用の可塑剤とを配合して可塑化ポリ乳酸組成物を生成し、予めデキストリンとデキストリン用可塑剤とを配合して可塑化デキストリン組成物を生成し、ついで、可塑化ポリ乳酸組成物と可塑化デキストリン組成物とを混練して、デキストリン連続相とポリ乳酸連続相が混在し互いに融着した共連続相の状態にある生分解性樹脂組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチック、特に、ポリ乳酸およびデキストリンを含有する生分解性プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽量であり、耐久性が高く、かつ、加工容易性のため、様々な分野で使用される非常に有用な材料である。しかしながら、プラスチックは、化学的に安定であり耐久性が高いという長所を有する反面、廃棄されたときに、自然に分解しないため土中や海中で永久的に残存し、環境負荷が高いだけではなく、動物や魚類が誤食、誤飲をして、生命に危険を及ぼすなどの悪影響がある。
【0003】
近年、地球環境への影響を配慮して、プラスチックの特徴である耐久性を棄てて、微生物により最終的には水と二酸化炭素にまで分解する生分解性プラスチックへの期待が高まっている。このような生分解性ポリマーは、環境中で使用されたり、使用後の回収、再利用が困難であったり、適切に処理されずに環境に放置されてしまう場合や生体内で使用される場合など、様々な分野で使用され、例えば、農業用マルチフィルム、農薬などの袋、種苗ポット、釣り糸、漁網、土木工事用の型枠、食品用のトレーや容器、手術用の縫合糸、接着剤などに適用されている。
【0004】
生分解性プラスチックは、天然物系、石油由来の化学合成系、天然物由来の化学合成系などに大きく分類することができる。現在、二酸化炭素の削減や石油資源の節約の観点から、植物等バイオマス由来であることの利点の方が重要であると考えられ、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモなどの澱粉を発酵させて得られるL−乳酸を重合させたポリ乳酸(PLA)が注目され、唯一大量生産されている。
ポリ乳酸フィルムやシートは水蒸気透過性に優れ、果物や野菜等の青果物の鮮度保存フィルムとして有用であることが知られているが、さらなる透過性が望まれている。もし、包装フィルムの水蒸気透過性が悪いと包装フィルム内面に水滴が付着して曇り、最悪のケースとしてはこれらの水滴が青果物に落下して腐る原因となることがある。
【0005】
生分解性プラスチックは、通常の環境で生分解されるのではなく土壌に埋められたときなど微生物が多量に存在する環境に置かれたときに生分解される。例えば、ポリ乳酸単体では、土壌に埋められても表面の濡れ性が低く、微生物による分解が起こりにくいことが知られている。そこで、土壌中の微生物による生分解特性を向上するために、ポリ乳酸に澱粉を混合することが行われている。澱粉を混合することによって、生分解プラスチック成形体の形状が崩壊されやすくなるだけでなく、ポリ乳酸自体の分解も促進されることが分かっている。
【0006】
特開平5−39381号公報は、生分解性ポリマー組成物として、ポリ乳酸に澱粉粉体を配合した複合体が開示されている。しかしながら、粉末の澱粉を配合するため、澱粉が均一に分散混合されず、機械的性質が大きく低下するという欠点があった。
【0007】
特開平9−137069号公報は、生分解性樹脂が有する耐水性および機械的性質を維持しつつ、その欠点を改善することを目的として、澱粉と生分解性樹脂とを含む生分解性組成物を開示する。また、特開平9−294482号公報は、同様の生分解性組成物からなる育苗ポットを開示する。この生分解性組成物は、可塑化した澱粉と生分解性樹脂とを含み、生分解性樹脂を連続相とし、可塑化澱粉を非連続な分散相として含有することを特徴とする。すなわち、この生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂を海とし、可塑化澱粉を島とする海島構造を有する。
【0008】
特開平6−184358号公報は、熱処理またはマイクロ波処理によって部分的に溶融された状態にある澱粉化合物、生分解性ポリエステルおよびヒドロキシカルボン酸塩を含む組成物を開示する。
【0009】
特開2003−73539号公報は、ポリ乳酸に糖アルコールおよび安息香酸類を配合してなり、さらに、澱粉、可塑剤および水を配合して得られる変性澱粉が配合された高強度生分解性樹脂組成物を開示する。この発明において、糖アルコールと安息香酸類とがエステルを形成し、このエステルがポリ乳酸と混和してポリ乳酸分子間の凝集力を緩和するとされている。しかしながら、この組成物においては、安息香酸類が酸やアルカリに弱いポリ乳酸を分解し、樹脂の分子量の低下が起こり、その結果、機械的強度も低下しているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−39381号公報
【特許文献2】特開平9−137069号公報
【特許文献3】特開平9−294482号公報
【特許文献4】特開平6−184358号公報
【特許文献5】特開2003−73539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記先行技術文献に開示された生分解性組成物中、澱粉とポリ乳酸とが海島構造をとるが、澱粉相およびポリ乳酸相の両方の共連続相構造とはなっていなかった。
ここで、海島構造とは、例えば、一つの成分のみが連続相となり、その中に島のように、もう一つの成分の相が孤立して点在している状態であり、共連続相構造とは、2つの成分のそれぞれが連続相を形成し、それら2つの連続相が混在し互いに融着した状態である。
【0012】
そこで、本発明は、デキストリンおよびポリ乳酸を含有する生分解性組成物であって、デキストリンの連続相とポリ乳酸の連続相とが混在し、両者が互いに融着した状態にある生分解性組成物を提供する。このように、デキストリンとポリ乳酸とが各々連続相の状態で、2つの連続相が融着した共連続相の状態にあることで、他の構造では発現しない特異な特性、例えば高い機械的性質を維持しつつ高い透湿性をもつことや、非常に大きな生分解性を発現させることが可能となった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
デキストリンは、澱粉を酸による加水分解または酵素変性によってブドウ糖にまで分解する前の中間段階で生成される種々の澱粉分解物の総称であり、澱粉よりも分子量が低い物質である。
澱粉に代えて低分子量のデキストリンを用いてシートを作成すると脆くなり、膜強度が低くなることおよび耐水性が低下することが知られていた。したがって、デキストリンおよびポリ乳酸を含有する生分解性樹脂組成物は、実用化されていなかった。
【0014】
しかしながら、驚くべきことに、本発明により、ポリ乳酸の高い機械的強度を維持しつつ、生分解性および汎用性が向上した、デキストリンおよびポリ乳酸を含む生分解性樹脂組成物を提供することが可能になった。
【0015】
本発明において、ポリ乳酸をポリ乳酸用の可塑剤と混合して、可塑化ポリ乳酸を生成し、デキストリンをデキストリン用の可塑剤と混合して、可塑化デキストリンを生成し、これら可塑化ポリ乳酸と可塑化デキストリンとを混合することによって、ポリ乳酸とデキストリンとがそれぞれ連続相を形成し、それら2つの連続相が混在し互いに融着した共連続相構造の生分解性樹脂組成物を得ることができる。
【0016】
より具体的には、本発明は、
(1)ポリ乳酸100質量部に対してポリ乳酸用可塑剤5〜25質量部が配合された可塑化ポリ乳酸系組成物の連続相およびデキストリン100質量部に対してデキストリン用可塑剤20〜75質量部が配合された可塑化デキストリン組成物の連続相が混在し互いに融着した共連続相構造を有する、生分解性樹脂組成物;
(2)透湿度が550(g/m・24h、厚さ50μm換算値、測定温度:40℃、測定湿度90%)以上であり、酸素ガス透過率が10(10−11cm(STP)/cm・s・cmHg、23℃)以下である、項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物;
(3)デキストリンが、酵素変性デキストリン、焙焼デキストリン、ブリティシュガムからなる群から選択される、項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物;
(4)デキストリンが、酵素変性デキストリン、焙焼デキストリン、ブリティシュガムのエーテル化、エステル化からなる群から選択される、項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物;
(5)デキストリンが、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリンである項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物;
(6)ポリ乳酸用可塑剤が、アジピン酸エステル、ベンジルメチルジグリコールアジペート、アセチルクエン酸トリブチルからなる群より選択される、項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物;および
(7)デキストリン用可塑剤が、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素、グルタミン酸ナトリウムからなる群より選択される、項目(1)に記載の生分解性樹脂組成物
を提供する。
【0017】
また、本発明は、
(8)項目(1)〜(7)いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなるシート;
(9)多孔性である、項目(8)に記載のシート;および
(10)透気度が1000秒以下である、項目(8)に記載のシート
を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、
(11)ポリ乳酸およびポリ乳酸用可塑剤ならびにデキストリンおよびデキストリン用可塑剤を含む生分解性樹脂組成物の製造方法であって、
(a)ポリ乳酸100質量部に対して、ポリ乳酸用可塑剤5〜25質量部を配合して、可塑化ポリ乳酸組成物を生成し、
(b)デキストリン100質量部に対して、デキストリン用可塑剤20〜75質量部を配合して、可塑化デキストリン組成物を生成し;ついで
(c)可塑化ポリ乳酸組成物100質量部に対して、可塑化デキストリン組成物25〜110質量部を配合して、生分解性樹脂組成物を生成する
工程を含む、製造方法;
(12)項目(1)〜(7)いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる多孔性のシートの製造方法であって、前記生分解性樹脂組成物からなるシートから少なくとも一部のデキストリンを脱落させることによって、シート全体に複数の孔を形成する工程を含む、多孔性のシートの製造方法;および
(13)項目(1)〜(7)いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる多孔性のシートの製造方法であって、前記生分解性樹脂組成物からなるシートを浸水処理することによって、少なくとも一部のデキストリンを脱落させる、項目(12)に記載の多孔性のシートの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デキストリンおよびポリ乳酸を含む生分解性樹脂組成物が提供され、この組成物は、ポリ乳酸の高い機械的強度を維持しつつ、生分解性および汎用性が向上しているので、生分解性樹脂組成物の適用範囲が広がった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】参考例5のサンプルを用いて作製されたシートの光学顕微鏡写真。
【図2】実施例2のサンプルを用いて作製されたシートの光学顕微鏡写真。
【図3】実施例10のサンプルを用いて作製されたシートの破断面の電子顕微鏡写真。
【図4】比較例4のサンプルを用いて作製されたシートの破断面の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、ポリ乳酸とは、乳酸がエステル結合により連結した高分子である。ポリ乳酸は、現在、主に以下の2つの合成方法により製造される。
まず、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモなどの澱粉を発酵させて乳酸を得る。乳酸を加熱脱水重合して得られた低分子量の乳酸オリゴマーをさらに、減圧下で加熱分解して乳酸の環状二量体であるラクチドを合成し、このラクチドを触媒存在下で重合させるか、または、有機溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら直接重合させ、ポリ乳酸を得る。
この他、溶融法などによってもポリ乳酸を得ることができるが、本発明においてはいずれの合成方法により得られたポリ乳酸も用いることができる。
【0022】
本発明において、デキストリンとして、酸添加の状態で焙焼し、加水分解して得られたデキストリン、無酸またはアルカリ添加の状態で焙焼し、加水分解して得られたデキストリン、および、ブリティシュガム、ならびに、アミラーゼなどの酵素を用いて変性した酵素変性デキストリンを用いることができ、例えば、酵素変性デキストリン、焙焼デキストリン、ブリティシュガム、エーテル化酵素変性デキストリン、エステル化酵素変性デキストリン、エーテル化焙焼デキストリン、エステル化焙焼デキストリン、エーテル化ブリティシュガム、エステル化ブリティシュガム、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリンなどが挙げられる。この中でも耐ブリードアウトの観点から、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリンが好ましい。
【0023】
本発明において、ポリ乳酸用の可塑剤として、ポリ乳酸系樹脂に添加することによってガラス転移温度の低下や剛性の低下を導くような混合性に優れたものであればよく、特に限定されない。エーテルエステル誘導体、グリセリン誘導体、フタル酸誘導体、グリコール酸誘導体、アジピン酸誘導体、エポキシ系可塑剤などの広範囲の可塑剤から選択して使用できる。例えば、アジピン酸エステル、ベンジルメチルジグリコールアジペート、アセチルクエン酸トリブチルなどを用いることができる。食品分野への利用の観点から、アジピン酸エステルやアセチルクエン酸トリブチルが好ましい。
【0024】
本発明において、デキストリン用の可塑剤として、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素、グルタミン酸ナトリウムなどを用いることができる。溶解性の観点から、グリセリンおよびエチレングリコールが好ましい。
【0025】
本発明の生分解性樹脂組成物は、予めポリ乳酸およびポリ乳酸用の可塑剤を配合して、可塑化ポリ乳酸組成物を生成し、予めデキストリンおよびデキストリン用可塑剤を配合して、可塑化デキストリン組成物を生成し、これら可塑化ポリ乳酸組成物および可塑化デキストリン組成物を配合することによって製造する。
【0026】
本発明の生分解性樹脂組成物において、ポリ乳酸100質量部に対して、ポリ乳酸用可塑剤5〜25質量部を配合する。ポリ乳酸用可塑剤の配合量が5質量部未満であれば、ポリ乳酸の可塑化が不充分であり、ポリ乳酸相の粘度が高いため、デキストリン相との共連続相構造が形成されず、好ましくない。ポリ乳酸用可塑剤の配合量が25質量部を超えれば、可塑剤が浸み出したり、脆く、膜強度が低いシートになったりするため、好ましくない。
【0027】
本発明の生分解性樹脂組成物において、デキストリン100質量部に対して、デキストリン用可塑剤20〜75質量部を配合する。デキストリン用可塑剤の配合量が20質量部未満であれば、デキストリンの可塑化が不充分であり、デキストリンが可塑剤と十分に混和せずに、デキストリンが粒子のままポリ乳酸中に分散するため、外観および物性に悪影響を与え、好ましくない。デキストリン用可塑剤の配合量が75質量部を超えれば、粘度が低すぎ、可塑剤が浸み出したり、脆くて膜強度が低いシートになったりするため、好ましくない。
【0028】
本発明の生分解性樹脂組成物において、可塑化ポリ乳酸組成物100質量部に対して、可塑化デキストリン組成物25〜110質量部を配合する。可塑化デキストリン組成物の配合量が25質量部未満であれば、生分解性が低くなるため好ましくなく、110質量部を超えれば、膜強度が低いシートになるため、好ましくない。
【0029】
本発明の生分解性樹脂組成物を用いて、シートを製造することができる。シートの製造方法は、通常、樹脂組成物をシート状に形成するために用いられる方法であれば、限定されず、例えば、ヒートプレス、押出成形、インフレーション等の方法が例示される。
【0030】
本発明により製造されたシートから、シートに含まれるデキストリンの少なくとも一部を脱落させることによって、多孔性のシートを製造することができる。
本発明により製造されたシートから、デキストリンの少なくとも一部を脱落させるためには、(1)シートを浸水処理することによって達成するか、または、(2)シートを延伸処理することによって達成することができる。
【0031】
本発明により製造されたシートを浸水処理することによって、含まれるデキストリンの少なくとも一部を脱落させる場合、処理に用いる水の温度(処理温度)は30℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃、より好ましくは40℃〜60℃である。処理温度が30℃未満であれば、デキストリンの脱落により時間がかかり好ましくない。100℃を超える場合は、シートからの可塑剤の流出が多くなり好ましくない。
【0032】
本発明により製造されたシートを延伸処理することによって、含まれるデキストリンの少なくとも一部を脱落させる場合、延伸機内を60℃に加温後、すぐに延伸を開始する。延伸速度は60〜80mm/分で行う。
【0033】
本発明の生分解性樹脂組成物には、ポリ乳酸の連続相とデキストリンの連続相とが混在し互いに融着した状態になることを妨げない程度で、一般に樹脂組成物に配合することができる添加物を配合することができる。本発明に用いることができる添加物は、中性物質がよく、例えば、クレー、色素顔料、二酸化チタンが例示される。酸、アルカリ類は、ポリ乳酸が分解するため、配合することは望ましくない。
【実施例】
【0034】
[測定方法]
1.溶融粘度測定
島津製作所フローテスタCFT−100Dを用いて溶融粘度を測定した。
押出し条件:定温法(160、170、180℃)、ダイ穴径 1.0mm、
シリンダ圧力 0.98MPa、剪断圧力 24.5kPa
【0035】
2.最大点強度測定および破断点伸度測定
ヒートプレス(ミニテストプレス;東洋精機製作所)を使用して、混練したサンプルを熱プレス(プレス温度:160〜180℃、プレス圧力:100kgf/cm、プレス時間:10秒)を行ってシートを作製した。
JIS K7113に準じて、万能試験機(テンシロン、株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、シートの最大点強度(gf/mm、または、MPa)および破断点伸度(%GL)を測定した。
試験条件:試験片の形状 2号型、試験片の厚さ 200μm、試験点数 5点
試験速度 50mm/分、試験室の環境温度 20℃、環境湿度 65%RH
【0036】
3.透湿度測定
JIS L1099A−1法に準じて、カップ法にて、シートの透湿度を測定した後、厚み50μmのシートとして透湿度を換算した。
試験条件:測定した試験片の厚さ 100〜500μm
試験室の環境温度 40℃、環境湿度90%RH
【0037】
4.酸素ガス透過率測定
JIS K7126−1法(ガスクロマトグラフ法)に準じて、ガス・水蒸気透過率測定装置(10XAOK;GTRテック株式会社)を用いて、シートの酸素ガス透過率を測定した。
試験条件:試験片の厚さ100〜500μm
試験室の環境温度 23℃
高圧側の加圧:49Pa
【0038】
5.透気度測定
浸水無しの場合はシートをそのまま試料とした。浸水処理を行う場合は、シートを枠に固定した上で所定の温度の温水に所定の時間浸漬した後、室温で風乾させた物を試料とした。
JIS P8117の方法(ガーレー試験機法)に準じて、B−TYPE試験器(安田精機製作所)を用いて、シートの透気度を測定した。
試験条件:試験片の形状 2号型、試験片の厚さ 40〜100μm、試験点数 5点
試験室の環境温度 23℃、環境湿度 50%RH
【0039】
6.生分解性試験
作製したシートを15×20mm角の大きさに切断し、200ppmの濃度の酵素(プロテイナーゼ K(Proteinase K、Sigma−Aldrich社製pro K)またはα−アミラーゼ(エイチビーアイ株式会社製BLA))を入れたpH緩衝溶液の中に入れ、27℃の恒温槽中で88時間放置した前後の質量差を測定することで残存率を計算し、生分解性の評価とした。酵素を含まないpH緩衝溶液を用いて同様に行った測定結果をブランクとした。緩衝溶液のpHは、プロテイナーゼ Kを用いた場合とブランクでは7、α−アミラーゼを用いた場合では6とした。
【0040】
7.顕微鏡観察
光学顕微鏡での観察の場合は、光学顕微鏡(株式会社レイマー製BX−3500T)を用いてシートを観察した。電子顕微鏡での観察の場合は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−6460LA)を用いてシートを観察した。
【0041】
[ポリ乳酸および澱粉類の混練]
ポリ乳酸として、テラマック(登録商標)TP−4000(ユニチカ株式会社)、ポリ乳酸の可塑剤として、アジピン酸エステル(DAIFATY−101;大八化学工業株式会社)を用いた。澱粉類(ここでは、澱粉および、デキストリンなどの澱粉分解物を総称する。)として、酢酸エステル化酸化澱粉(ZP−8[平均分子量約350000];日澱化學株式会社)および酵素変性デキストリン(アミコールNo.6−L[平均分子量8600];日澱化學株式会社)を用いた。
ポリ乳酸および澱粉類を予め可塑化せずに、小型混練機(ラボプラストミル;株式会社東洋精機製作所)を用いて、表1に記載した配合を180℃で10分間混練して、生分解性樹脂組成物のサンプルを作製した。
各サンプルの配合および溶融粘度を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
参考例5のサンプルの混練状態を顕微鏡観察した結果を図1に示す。図1に示す顕微鏡観察結果から分かるように、澱粉類を粉体のままポリ乳酸と180℃で混合した場合は、いずれの澱粉類も粉体のまま残ってしまい、連続相を形成しなかった。したがって、ポリ乳酸のみならず、澱粉類も可塑化する必要があることが分かった。
【0044】
[澱粉類の可塑剤の選定]
澱粉類として、酵素変性デキストリン(アミコールNo.6−L;日澱化學株式会社)、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン(ペノンPKW[平均分子量144000];日澱化學株式会社)およびヒドロキシプロピル化酸化澱粉(パイオスターチLT[平均分子量約300000];日澱化學株式会社)のそれぞれに対して10質量%、20質量%、30質量%、40質量%および50質量%の各種可塑剤をステンレスビーカーに入れて、オイルバス中で攪拌しながら180℃まで加熱した。
澱粉類と可塑剤との混和状態を顕微鏡観察した。観察結果を表2〜4に示す。表中、○は混和状態になったことを、×は混和しなかったことを、−は試験しなかったことをそれぞれ示す。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
アミコールNo.6−Lについて、グリセリン、エチレングリコールおよびプロピレングリコールが可塑剤として好ましく、エチレングリコールが10質量%の添加量で混和するため、より好ましい。
ペノンPKWについて、グリセリン、エチレングリコールおよびプロピレングリコールが可塑剤として好ましく、エチレングリコールが20質量%の添加量で混和するため、より好ましい。
パイオスターチLTについて、グリセリンおよびエチレングリコールが可塑剤として好ましく、エチレングリコールが20質量%の添加量で混和するため、より好ましい。
いずれの澱粉類についても、ソルビトールおよびペンタエリスリトールは可塑剤として働かなかった。
【0049】
[可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類の混練(1)]
ポリ乳酸として、テラマック(登録商標)TP−4000(ユニチカ株式会社)、ポリ乳酸の可塑剤として、アジピン酸エステル(DAIFATY−101;大八化学工業株式会社)を用いた。ポリ乳酸にポリ乳酸用可塑剤を配合して可塑化ポリ乳酸を生成した。
澱粉類として、酵素変性デキストリン(アミコールNo.6−L;日澱化學株式会社)、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン(ペノンPKW;日澱化學株式会社)およびヒドロキシプロピル化酸化澱粉(パイオスターチLT;日澱化學株式会社)、澱粉類の可塑剤として、エチレングリコールまたはグリセリンを用いた。
小型混練機(ラボプラストミル;株式会社東洋精機製作所)を用いて、ポリ乳酸および澱粉類をそれぞれの可塑剤と160〜180℃にて10分間混練し、可塑化した。
可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類を4:1の質量比率で混練し、生分解性樹脂組成物のサンプルを得た。
各サンプルを、180℃にてヒートプレス機で熱プレスを行ってシート状にした。これらのシートについて引張試験を行った。
各サンプルの配合および溶融粘度、ならびにシートの色、最大点強度および破断点伸度を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
実施例2のサンプルの混練状態を顕微鏡観察した結果を図2に示す。図2に示す顕微鏡観察結果から、デキストリンを可塑化して用いた場合は、デキストリンの連続相がポリ乳酸の連続相と混在し互いに融着した状態にあることが確認された。
すなわち、デキストリン(アミコールNo.6−L、ペノンPKW)を用いたサンプルは、溶融粘度および引張試験の結果が良好であった。
【0052】
一方、澱粉(パイオスターチLT)を可塑化して用いた比較例2では、2つの連続相が混在し互いに融着した状態にはならなかった。
澱粉を用いたサンプルは、デキストリンを用いたサンプルと比較して、溶融粘度が極端に低くなり、破断点伸度も低かった。
これは、澱粉と比較して分子量の低いデキストリンは、可塑化剤と混和させたとき、可塑化ポリ乳酸相と共連続相を形成するのに適した混和状態を生じるためと考えられる。
【0053】
[可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類の混練(2)]
ポリ乳酸として、テラマック(登録商標)TP−4000(ユニチカ株式会社)、ポリ乳酸の可塑剤として、アジピン酸エステル(DAIFATY−101;大八化学工業株式会社)を用いた。ポリ乳酸にポリ乳酸用可塑剤を配合して可塑化ポリ乳酸を生成した。
澱粉類として、酵素変性デキストリン(アミコールNo.6−L;日澱化學株式会社)およびヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン(ペノンPKW;日澱化學株式会社)、澱粉類の可塑剤として、エチレングリコールを用いた。
小型混練機(ラボプラストミル;株式会社東洋精機製作所)を用いて、ポリ乳酸および澱粉類をそれぞれの可塑剤と180℃で10分間混練し、可塑化した。
可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類を4:1〜4:6の質量比率で混練し、生分解性樹脂組成物のサンプルを得た。
各サンプルを、180℃にてヒートプレス機で熱プレスを行ってシート状にした。これらのシートについて引張試験を行った。
各サンプルの配合および溶融粘度、ならびにシートの色、最大点強度および破断点伸度を表6に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
比較例3のサンプルは、ヒートプレスした時に硬くて脆いシートになり、少しでも曲げると割れてしまうので、引張試験を行うことができなかった。可塑化ポリ乳酸に対して可塑化デキストリンの量が過剰であるためと考えられる。
【0056】
実施例4〜8のサンプルは、シート形成が可能であり、この範囲において、デキストリンの量を増大させても破断点伸度がかなり高く、可塑化デキストリンの連続相が可塑化ポリ乳酸の連続相と混在し互いに融着した状態にあることが確認された。デキストリン相自体は高い破断点伸度を有していないため、元来破断点伸度の高い可塑化ポリ乳酸相に可塑化デキストリン相が十分に融着していなければ、サンプル全体としての伸度は低下してしまうからである。
【0057】
[可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類の混練(3)]
ポリ乳酸として、テラマック(登録商標)TP−4000(ユニチカ株式会社)、ポリ乳酸の可塑剤として、アジピン酸エステル(DAIFATY−101;大八化学工業株式会社)またはアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を用いた。ポリ乳酸にポリ乳酸用可塑剤を配合して可塑化ポリ乳酸を生成した。
澱粉類として、酵素変性デキストリン(アミコールNo.6−L;日澱化學株式会社)、ブリティシュガム(赤玉ブリティシュガムNo.69[平均分子量190000];日澱化學株式会社)およびヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン(ペノンPKW;日澱化學株式会社)、ならびに、コーンスターチを用いた。澱粉類の可塑剤として、エチレングリコール、グリセリンおよびポリエチレングリコールを用いた。
小型混練機(ラボプラストミル;株式会社東洋精機製作所製)を用いて、PLAおよび澱粉類をそれぞれの可塑剤と180℃で10分間混練し、可塑化した。
可塑化ポリ乳酸および可塑化澱粉類を、表7または表8に記載の質量比率で混練し、生分解性樹脂組成物のサンプルを得た。
各サンプルの配合および溶融粘度、ならびに、各サンプルより作製したシートの最大点強度、破断点伸度、目視による外観の状態、透湿度、酸素ガス透過率および透気度を表7、および、表8に示す。
【0058】
[シートの気体透過性]
作製した多孔性シートの気体透過特性(透湿度及び酸素ガス透過率)を測定し、ポリ乳酸及び可塑化ポリ乳酸の結果と比較した(表7、表8)。
【0059】
比較的透湿度が大きいことが知られているポリ乳酸よりも本発明の生分解性樹脂組成物の透湿度は大きく、完全に効率的に共連続相になっている実施例15や実施例16のサンプルでは35倍もの大きな値を持ち、布製品並みであった。これは、親水性に優れる可塑化デキストリン相が連続相となっているため、水分が透過する道ができているためと考えられる。一方、可塑化デキストリン相は酸素との親和性が高いわけではないため、酸素ガス透過率はポリ乳酸の場合とあまり変わらなかった。すなわち、本発明の生分解性樹脂組成物は、共連続相の効果で、水分は布製品並みに透過するが、酸素に対してはポリ乳酸並みすなわち、低密度ポリエチレン並みのバリヤー性があり、ガス選択性に非常に優れる材料であることがわかった。
【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
[シートの生分解性]
作製したシートの生分解速度を測定し、88時間後の残存率(質量%)を算出し、ポリ乳酸及び可塑化ポリ乳酸の結果と比較した(表9、表10、表11)。
【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
【表11】

【0066】
表9から、ポリ乳酸を用いた比較例6のサンプルは、プロテイナーゼ Kを用いた場合、64%まで分解が進行した。生分解性可塑剤を添加した比較例7のサンプルは、さらにやや分解が進行した。しかし、生分解性が悪い可塑剤を添加した比較例8のサンプルは、いずれの酵素を用いてもほとんど分解しなかった。
表10と表11から、デキストリンを添加した場合は、生分解がかなり進行した。特に、実施例13および実施例14ならびに実施例17のサンプルでプロテイナーゼ Kを用いた場合は分解がほぼ完了していた。これは、酵素を入れたpH緩衝溶液に浸漬することによって共連続構造の水溶解性に優れる可塑化デキストリン連続相が除かれ、生分解を受ける作用面積が膨大に増加し、生分解性が促進されたものと考えられる。
しかし、澱粉(コーンスターチ)を用いた比較例4のサンプルは水溶解性に劣るため、生分解性が向上しなかったと考えられる。
【0067】
[浸水処理後のシート断面の顕微鏡観察]
実施例10のサンプルと比較例4のサンプルの浸水処理後のシートの断面を顕微鏡観察した結果を図3と図4に示す。図3と図4に示す顕微鏡観察結果から、実施例10のサンプルで、大きな穴の中にさらに小さな穴が存在することが観察され、共連続構造を確認することができた(図3)。一方、比較例4のサンプルでは、浸水処理したにもかかわらず穴の中に澱粉らしき残渣が残っており、穴が独立して存在することがわかった(図4)。したがって、デキストリン(赤玉ブリティシュガムNo.69)を用いたサンプルでは共連続構造によって透気度が大きく増大し、コーンスターチ(澱粉)を用いたサンプルでは共連続構造を持たないために透気度が増えなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の生分解性樹脂組成物は、ポリ乳酸およびデキストリンを含み、これらの成分のそれぞれが連続相を形成し、かつ、2つの連続相が混在し互いに融着した共連続相の状態にあるため、ポリ乳酸の高い機械的強度を維持しつつ、生分解性および汎用性が向上している。特に、共連続相を持つことで、酸素ガス透過性を押さえたままで、透湿性を布製品と同レベルまで高めることができ、これまでにない機能を提供できる。また、本発明の生分解性樹脂組成物から、温水処理によって多孔性シートを得ることができる。
かくして、本発明の生分解性樹脂組成物は、配合を変化させることによって、性状を制御することができるため、様々な分野に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸100質量部に対してポリ乳酸用可塑剤5〜25質量部が配合された可塑化ポリ乳酸系組成物の連続相およびデキストリン100質量部に対してデキストリン用可塑剤20〜75質量部が配合された可塑化デキストリン組成物の連続相が混在し互いに融着した状態にある共連続相構造を有する、生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
透湿度が550(g/m・24h、厚さ50μm換算値、測定温度:40℃、測定湿度90%)以上であり、酸素ガス透過率が10(10−11cm(STP)/cm・s・cmHg、23℃)以下である、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
デキストリンが、酵素変性デキストリン、焙焼デキストリン、ブリティシュガムからなる群から選択される、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
デキストリンが、酵素変性デキストリン、焙焼デキストリン、ブリティシュガムのエーテル化、エステル化からなる群から選択される、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
デキストリンが、ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリンである請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸用可塑剤が、アジピン酸エステル、ベンジルメチルジグリコールアジペート、アセチルクエン酸トリブチルからなる群より選択される、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
デキストリン用可塑剤が、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素、グルタミン酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなるシート。
【請求項9】
多孔性である、請求項8に記載のシート。
【請求項10】
透気度が1000秒以下である、請求項8に記載のシート。
【請求項11】
ポリ乳酸およびポリ乳酸用可塑剤ならびにデキストリンおよびデキストリン用可塑剤を含む生分解性樹脂組成物の製造方法であって、
(a)ポリ乳酸100質量部に対して、ポリ乳酸用可塑剤5〜25質量部を配合して、可塑化ポリ乳酸組成物を生成し、
(b)デキストリン100質量部に対して、デキストリン用可塑剤20〜75質量部を配合して、可塑化デキストリン組成物を生成し;ついで
(c)可塑化ポリ乳酸組成物100質量部に対して、可塑化デキストリン組成物25〜110質量部を配合して、生分解性樹脂組成物を生成する
工程を含む、製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる多孔性のシートの製造方法であって、前記生分解性樹脂組成物からなるシートから少なくとも一部のデキストリンを脱落させることによって、シート全体に複数の孔を形成する工程を含む、多孔性のシートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7いずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる多孔性のシートの製造方法であって、前記生分解性樹脂組成物からなるシートを浸水処理することによって、少なくとも一部のデキストリンを脱落させる、請求項12に記載の多孔性のシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91763(P2013−91763A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236331(P2011−236331)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】