説明

生化学分析装置および回転搬送方法

【課題】簡易な構造で分析チップの回転搬送時に分析チップを位置ずれしないように保持することのできる生化学分析装置および回転搬送方法を提供する。
【解決手段】複数の分析チップ12を回転中心の周りに同心円状に配して回転搬送する回転部材87と、回転部材を回転駆動するための制御部とを備え、回転部材87が分析チップを収納するための、外周に開口部を有する収納室91を備え、収納室の回転する向きに対して手前側の側面91bが、この側面91bと、回転中心と収納室に分析チップを収納した状態における分析チップの中心とを含む直線Lとの回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の検体を分析する分析用チップを用いて生化学分析を行う生化学分析装置に関し、特に複数の分析チップを回転部材に同心円状に載置して回転搬送する回転部材を有する生化学分析装置およびこの装置を用いた回転搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、検体の小滴を点着供給するだけでこの検体中に含まれている特定の化学成分または有形成分を定量分析することのできる比色タイプの乾式分析素子や検体に含まれる特定イオンのイオン活量を測定することのできる電解質タイプの乾式分析素子が開発され、実用化されている。これらの乾式分析素子を用いた生化学分析装置は、簡単かつ迅速に検体の分析を行うことができるので、医療機関、研究所等において好適に用いられている。
【0003】
比色タイプの乾式分析素子を使用する比色測定法は、検体を乾式分析素子に点着した後、これをインキュベータ内で所定時間恒温保持して呈色反応(色素生成反応)させ、次いで検体中の所定の生化学物質と乾式分析素子に含まれる試薬との組み合わせにより予め選定された波長を含む測定用照射光をこの乾式分析素子に照射してその光学濃度を測定し、この光学濃度から、予め求めておいた光学濃度と所定の生化学物質の物質濃度との対応を表す検量線を用いて該生化学物質の濃度を求めるものである。一方、電解質タイプの乾式分析素子を使用する電位差測定法は、上記の光学濃度を測定する代わりに、同種の乾式イオン選択電極の2個1組からなる電極対に点着された検体中に含まれる特定イオンの活量を、参照液を用いてポテンシオメトリで定量分析することにより求めるものである。
【0004】
上記いずれの方法においても、液状の検体は検体容器(採血管等)に収容して装置にセットするとともに、その測定に必要な乾式分析素子を装置に搭載し、乾式分析素子を搭載位置から点着部およびインキュベータへ搬送する一方、点着機構の点着ノズルによって検体を搭載位置から点着部へ供給して乾式分析素子へ点着するものである。
【0005】
上記の乾式分析素子のような分析チップを用いる分析装置には、検体の点着位置から測定位置までなど所定の区間乾式分析素子を搬送するために、回転部材の外周上面に、分析チップの挿入のために外周側を開口とした収納室を設け、かかる分析チップ保持室に分析チップを保持したまま回転部材を回転させることで、乾式分析素子を搬送することができるものがある。このような分析装置においては、分析チップを収納室に収納して回転部材を回転搬送すると、分析チップ保持室に収納された分析チップに遠心力が働くことにより、分析チップが外周側に移動し、収納室の開口から外に出てしまう可能性がある。
【0006】
ここで、特許文献1は、化学分析測定装置の回転テーブル外周に設けられた分析スライドを保持する凹部を、回転テーブルの内側に向かって下方に傾斜した底壁を備えた構造とすることにより、回転テーブルの回転に対して分析チップの外周側への位置ずれを抑制可能であることを開示している。
【0007】
また、特許文献2は、回転円盤に設けられた分析スライドを保持するための保持室に、スプリングクリップなどを設けることにより分析スライドの位置決めを可能にした装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−156835号公報
【特許文献2】特開平2−78958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、分析チップの保持室の底面を傾斜させることにより、分析チップを保持室の外周側から廃却することが難しくなり、保持室から測定済の分析チップを廃却するための機構が複雑になってしまうため好ましくない。
【0010】
また、特許文献2の方法は、分析チップを押止するためのスプリングクリップなどの押止部を分析チップの保持室に設ける必要があるため、分析チップの保持室の構造が複雑になり、さらに、押止部を備えた分、分析装置を構成する部品点数が増加してしまう。また、分析チップを押止する力により、分析チップに変形や傷などが生じる可能性があり好ましくない。
【0011】
本発明はかかる点に鑑み、簡易な構造で分析チップの回転搬送時に分析チップを位置ずれしないように保持することのできる生化学分析装置および回転搬送方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による生化学分析装置は、分析チップを使用して検体を測定する生化学分析装置であって、複数の前記分析チップを回転中心の周りに同心円状に配して回転搬送する回転部材と、前記回転部材を回転駆動するための制御部とを備え、前記回転部材が前記分析チップを収納するための、外周に開口部を有する収納室を備え、前記収納室の回転する向きに対して手前側の側面が、該側面と、前記回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明による分析チップの回転搬送方法は、分析チップを収納するための外周に開口部を設けた複数の収納室を回転中心の周りに同心円状に配した回転部材を有する生化学分析装置を用いて、前記分析チップを前記回転中心の周りに回転搬送する方法であって、前記生化学装置において、前記回転部材の回転する向きに対して手前側の前記収納室の側面に、該側面と、前記回転部材の回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜を設け、前記収納室に前記分析チップを収納した状態で前記回転部材を回転することにより、前記分析チップの回転搬送を行うことを特徴とするものである。
【0014】
また、上記生化学分析装置または方法において、前記収納室に前記分析チップを収納した状態において、前記分析チップの回転搬送時には前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力以上の大きさになる第1の速度により前記回転部材を駆動し、前記分析チップの廃却時には前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力より小さくなる第2の速度で前記回転部材を駆動することが好ましい。
【0015】
また、上記の場合、前記制御部が、前記分析チップの回転搬送時と、前記分析チップの廃却時とで、回転方向を逆にするものであってもよい。
【0016】
また、上記生化学分析装置において、前記制御部は、前記分析チップを回転搬送するために前記回転部材を両回転方向に駆動するものであり、前記収納室の両側の側面が、該側面と、前記回転部材の回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜しているものであってもよい。
【0017】
また、上記生化学分析装置において、前記傾斜する側面は、前記収納室の底面よりも大きい静止摩擦係数を有するものであることが好ましい。
【0018】
また、上記生化学分析装置において、前記収納室の前記傾斜を設けた側面の前記開口部付近に突出部を設けてもよい。
【0019】
なお、本発明における分析チップは、前記収納室の側面に接する面を有するものであり、この面は収納室の側面と該側面に接する面との間に摩擦力を生じるように構成されている。また、収納室の側面に接する面は、収納室の側面と該側面に接する面との間に摩擦力を生じるものであれば必ずしも完全な平面をなす必要はなく、鋸状の凹凸を有するものであってもよく、なだらかな曲面を描くものであってもよい。好ましくは、収納室の側面に接する面は、収納室の側面と線接触可能な平坦な領域を備えた面であることが好ましく、収納室の側面と接触可能な面積が大きい程好ましい。また、回転部材に載置された状態で回転部材の半径方向内側と外側になる両端縁は、回転部材に分析チップを出し入れする際に半径方向に移動する部材により押されて移動しやすいように、基本的に半径方向に直角に延びた直線状となっていることが好ましい。後述の実施形態では、扁平な矩形をしたスライド状のチップが使用されており、それが従来普及している通常の形態であるが、その形状は上記条件を備えていればそれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0020】
上記のような本発明によれば、分析チップを使用して検体を測定する生化学分析装置において、分析チップを収納するための外周に開口部を有する収納室を備え、この収納室の回転する向きに対して手前側の側面が、該側面と、回転中心と収納室に分析チップを収納した状態における分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜しているため、遠心力の分力により分析チップを側面に当接させることができ、側面よる摩擦力により分析チップの位置ずれを抑制できる。この結果、簡易な構造で、分析チップの回転搬送時に分析チップを位置ずれしないように好適に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態による生化学分析装置の概略構成を示す部分断面正面図
【図2】図1の生化学分析装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図
【図3】図1の乾式分析素子の搬送経路部分の断面正面図
【図4】第1の実施形態における回転部材の一部を拡大した概略図
【図5】第2の実施形態における回転部材の一部を拡大した概略図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。この実施形態では本発明を適用した生化学分析装置として説明する。図1は、第1の実施形態による生化学分析装置の概略構成を示す部分断面正面図、図2は、図1の生化学分析装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図、図3は、第1の実施形態の生化学分析装置の点着部を含む乾式分析素子の搬送経路部分の要部を示す断面正面図、図4は第1の実施形態における回転部材の一部を拡大した概略図である。
【0023】
図1〜図4により生化学分析装置1の全体構成を説明する。この生化学分析装置1の測定機構は、サンプルトレイ2、点着部3、第1のインキュベータ4、第2のインキュベータ5、点着機構6、素子搬送機構7、移送機構8、チップ廃却部9、素子廃却機構10および各種機構を制御する制御部などを備えてなる。なお、以下の実施形態では、比色測定を行う第1のインキュベータ4に本発明に係る分析チップを回転搬送するための回転部材を適用した例を示す。
【0024】
図2に示すようにサンプルトレイ2は円形で、検体を収容した検体容器11、未使用の乾式分析素子12(比色タイプの乾式分析素子および電解質タイプの乾式分析素子)を収容した素子カートリッジ13、消耗品(ノズルチップ14、希釈液容器15、混合カップ16および参照液容器17)を搭載する。なお、検体容器11は検体アダプタ18を介して搭載され、ノズルチップ14はチップラック19に多数収納されて搭載される。
【0025】
点着部3は、サンプルトレイ2の中心線の延長上に配置され、搬送された乾式分析素子12に血漿、全血、血清、尿などの検体の点着が行われるもので、点着機構6によって比色測定タイプの乾式分析素子12には検体を、電解質タイプの乾式分析素子12には検体と参照液を点着する。この点着部3に続いてノズルチップ14が廃却されるチップ廃却部9が配置されている。
【0026】
第1のインキュベータ4は円形で、チップ廃却部9の延長位置に配置され、比色タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、比色測定を行う。第2のインキュベータ5(図2参照)は、点着部3の側方における隣接位置に配設され、電解質タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、電位差測定を行う。
【0027】
素子搬送機構7(図3参照)は、詳細は示していないが、前記サンプルトレイ2の内部に配設され、このサンプルトレイ2の中心と第1のインキュベータ4の中心とを結び、点着部3およびチップ廃却部9を通る直線状の素子搬送経路R(図2)に沿って、乾式分析素子12をサンプルトレイ2から点着部3へ、さらに第1のインキュベータ4へ搬送する素子搬送部材71(搬送バー)を備える。素子搬送部材71はガイドロッド38により摺動自在に支持され、不図示の駆動機構によって往復移動操作され、先端部は縦板34のガイド穴34aに挿入され、このガイド穴34aを摺動する。
【0028】
移送機構8は点着部3を兼ねて設置され、点着部3から第2のインキュベータ5へ、素子搬送経路Rと直交する方向に、電解質タイプの乾式分析素子12を移送する。
【0029】
点着機構6は上部に配設され、昇降移動する点着ノズル45が前述の素子搬送経路Rと同一直線上を移動し、検体および参照液の点着、希釈液による検体の希釈混合を行う。点着ノズル45は、先端にノズルチップ14を装着し、該ノズルチップ14内に検体、参照液等を吸引し吐出するもので、その吸引吐出を行う不図示のシリンジ手段が付設され、使用後のノズルチップ14はチップ廃却部9で外されて落下廃却される。
【0030】
素子廃却機構10(図2参照)は第1のインキュベータ4に付設され、測定後の比色タイプの乾式分析素子12を第1のインキュベータ4の中心部に押し出して落下廃棄する。なお、前記素子搬送機構7によって廃却することもできる。また、第2のインキュベータ5で測定した後の電解質タイプの乾式分析素子12は、前記移送機構8によって廃却穴69に廃棄される。
【0031】
また、サンプルトレイ2の近傍には、血液から血漿を分離する不図示の血液濾過ユニットが設置されている。
【0032】
上記各部の機構を、以下に具体的に説明する。まず、サンプルトレイ2は、正転方向および逆転方向に回転駆動される円盤状の回転ディスク21と、その中央部の円盤状の非回転部22とを有する。
【0033】
回転ディスク21には、図2に示すように、各検体を収容した採血管等の検体容器11を検体アダプタ18を介して保持するA〜Eの5つの検体搭載部23と、これに隣接して各検体の測定項目に対応して通常複数の種類が必要とされる未使用の乾式分析素子12を積み重ねた状態で収容した素子カートリッジ13を保持する5つの素子搭載部24と、多数のノズルチップ14を保持孔に並んで収容したチップラック19を保持する2つのチップ搭載部25と、希釈液を収容した3つの希釈液容器15を保持する希釈液搭載部26と、希釈液と検体とを混合するための混合カップ16(多数のカップ状凹部が配置された成形品)を保持するカップ搭載部27とが円弧状に配置されている。
【0034】
また、非回転部22には、素子搬送経路Rの延長上で点着ノズル45の移動範囲に、参照液を収容した参照液容器17を保持する筒状の参照液搭載部28が設けられ、この参照液搭載部28には、参照液容器17の開口部を開閉する蒸発防止蓋35(図1)が設置されている。
【0035】
蒸発防止蓋35は、下端が非回転部22に揺動可能に枢支された揺動部材37に保持され、閉方向に付勢されている。揺動部材37の上端係止部37aが点着機構6の移動フレーム42の下端角部42aと当接可能であり、参照液の吸引時に近接移動した移動フレーム42により揺動部材37が開方向に揺動され、蒸発防止蓋35が参照液容器17を開口して点着ノズル45による参照液吸引が可能となる。その他の状態では蒸発防止蓋35が参照液容器17の開口部を閉塞して参照液の蒸発を防止し、その濃度変化による測定精度の低下を阻止する。
【0036】
前記回転ディスク21は、外周部が支持ローラ31で支持され、中心部が不図示の支持軸に回転自在に保持されている。また、回転ディスク21の外周には、不図示のタイミングベルトが巻き掛けられ、駆動モータによって正転方向または逆転方向に回転駆動される。非回転部22は上記支持軸に回転不能に取り付けられている。
【0037】
前記素子カートリッジ13は、図3に示すように、上方から未使用の乾式分析素子12が混在状態で通常複数枚重ねられて挿入される。前記素子搭載部24に装填されると、下端部が素子搭載部24の底壁24aに保持され、素子搬送面と同一高さに最下端部の乾式分析素子12が位置し、最下端部の前面側には1枚の乾式分析素子12のみが通過し得る開口13aが、後面側には素子搬送部材71が挿通可能な開口13bが形成されている。
【0038】
また、乾式分析素子12の下面に付与された素子情報を素子カートリッジ13の下方から読み取れるように、素子カートリッジ13の底面には窓部13cが、素子搭載部24の底壁24aにも窓部24bがそれぞれ形成されている。
【0039】
そして、サンプルトレイ2の下方に、乾式分析素子12の不図示のドット配列パターンによる素子情報を読み取る読取機33が設置されている。この読取機33は、図3に示す素子搬送位置から、サンプルトレイ2の作動により、回転ディスク21が回動し、図5に示すように、検体容器11(検体搭載部23)が点着ノズル45の移動経路(素子搬送経路R)上の吸引位置に移動したときに、その検体の測定に使用する乾式分析素子12を収容した素子カートリッジ13(素子搭載部24)が移動した位置の下方に設置されている。つまり、図示の場合、読取機33は、検体搭載部23と素子搭載部24との位相ピッチだけ素子搬送経路Rからずれた位相角度で、素子搭載部24の回転位置に設置されている。なお、図3では回転ディスク21を一部切除して読取機33を示し、図3では読取機33を便宜的に素子搬送経路Rにある素子搭載部24の下方に示している。
【0040】
上記読取機33は、ドット記録方式に対応してCCDカメラで構成される。この読取機33による乾式分析素子12の素子情報の読み取りは、対応する検体容器11からの検体吸引および乾式分析素子12の搬送に先行して行う。そして、乾式分析素子12に付与された素子情報の読み取りによって得られた6桁または4桁の数字から試薬種別情報、試薬ロット情報等を求めることができ、さらに、記録パターン等から、表裏および前後方向が認識できる。これにより、セット不良が検出でき、ワーニングを発することが可能である。
【0041】
また、前記検体アダプタ18は筒状に形成され、上部から検体容器11が挿入される。この検体アダプタ18は、不図示の識別部を有し、検体の種類(処理情報)、検体容器11の種類(サイズ)等の情報が設定され、測定の初期時点でサンプルトレイ2の外周部に配設された識別センサ30(図2)によってその識別が読み取られ、検体の希釈の有無、血漿濾過の有無などが判別されると共に、検体容器11のサイズに伴う液面変動量が算出され、それに応じた処理制御が行われる。血漿濾過が必要な検体容器11に対しては、アダプタ18に検体容器11を挿入した上に、濾過フィルターを備えたホルダーがスペーサ(いずれも不図示)を介して装着される。
【0042】
点着部3および移送機構8は、サンプルトレイ2と第1のインキュベータ4との間に素子搬送経路Rと直交する方向に長い支持台61を備え、その上に移動可能に摺動枠62が設置されている。この摺動枠62には、点着用開口63a(図3)が形成された第1素子押え63および第2素子押え64が隣接して一体に移動可能に装着されている。第1素子押え63(第2素子押え64も同様)は、支持台61に面する底面に、前記素子搬送経路Rに沿って乾式分析素子12が通過する凹部63bを有する。また、摺動枠62は、一端部がガイドバー65に案内され、他端部側の長溝62aにピン66が係合され、さらに、ラックギヤ62bに駆動モータ68の駆動ギヤ67が噛合して移動される。支持台61には、第2のインキュベータ5および廃却穴69が設置されている。
【0043】
図2のように、第1素子押え63が点着部3に位置している際には、点着後の比色タイプの乾式分析素子12は素子搬送機構によって押し出されて第1のインキュベータ4に移送される。一方、電解質タイプの乾式分析素子12への点着が行われると、摺動枠62が移動されて点着後の乾式分析素子12は第1素子押え63に保持されたまま支持台61上を滑るように第2のインキュベータ5に移送され、電位差測定が行われる。その際には、第2素子押え64が点着部3(点着位置)に移動し、その後に搬送される比色タイプの乾式分析素子12に対する検体の点着および第1のインキュベータ4への搬送が可能である。第2のインキュベータ5での測定が完了すると、摺動枠62がさらに移動されて測定後の乾式分析素子12を廃却穴69に移送して落下廃却する。
【0044】
なお、比色タイプの乾式分析素子12を搬送する際には第2素子押え64を点着部3に移動させておき、電解質タイプの乾式分析素子12が搬送されるときのみ、第1素子押え63を点着部3に移動させるようにしてもよい。
【0045】
また、上記撮像部材33は、ドット配列パターンの読み取りのほか、他の情報の読み取りを行うようになっている。そのために、不図示の追加光源が設置されている。この追加光源としては、赤外用光源、劣化検出用光源、など特定波長を有する光源が検出態様に応じて設置される。この情報読取機による点着情報、その他の読み取りについては後述する。
【0046】
点着機構6(図1)は、固定フレーム40の水平ガイドレール41に、横方向に移動可能に保持された移動フレーム42を備え、この移動フレーム42に昇降移動可能に2本の点着ノズル45が設置されている。移動フレーム42には中央に縦ガイドレール43が固着され、この縦ガイドレール43の両側に2つのノズル固定台44が摺動自在に保持されている。ノズル固定台44の下部には、それぞれ点着ノズル45の上端部が固着され、上部に上方に延びる軸状部材が駆動伝達部材47に挿通されている。ノズル固定台44と駆動伝達部材47との間に介装された圧縮バネにより、ノズルチップ14の嵌合力を得るようになっている。ノズル固定台44は駆動伝達部材47と一体に上下移動可能であると共に、点着ノズル45の先端部にノズルチップ14を嵌合する際に、圧縮バネの圧縮でノズル固定台44に対して駆動伝達部材47が下降移動可能である。上記駆動伝達部材47は、上下のプーリ49に張設されたベルト50に固定され、不図示のモーターによるベルト50の走行に応じて上下移動する。なお、ベルト50の外側部位には、バランスウェイト51が取り付けられ、非駆動時の点着ノズル45の下降移動が防止される。
【0047】
また、移動フレーム42は不図示のベルト駆動機構によって横方向に駆動され、2つのノズル固定台44は独自に上下移動するように、その横移動および上下移動が制御され、2つの点着ノズル45は、一体に横移動すると共に、独自に上下移動するようになっている。例えば、一方の点着ノズル45は検体用であり、他方の点着ノズル45は希釈液用および参照液用である。
【0048】
両点着ノズル45は棒状に形成され、内部に軸方向に延びるエア通路が設けられ、下端にはピペット状のノズルチップ14がシール状態で嵌合される。この点着ノズル45にはそれぞれ不図示のシリンジポンプ等に接続されたエアチューブが連結され、吸引・吐出圧が供給される。また、この吸引圧力の変化に基づき検体等の液面検出が行えるようになっている。
【0049】
チップ廃却部9は、搬送経路Rを上下方向に交差して設けられ、上部材81および下部材82を備える。このチップ廃却部9における支持台61には、楕円形に開口された落下口83が形成されている。上部材81は支持台61の上面に固着され、落下口83の直上部位には係合切欠き84が設けられ、下部材82は支持台61の下面に落下口83の下方を囲むように筒状に形成され、落下するノズルチップ14をガイドするようになっている。
【0050】
そして、ノズルチップ14が装着されている点着ノズル45を、上部材81内に下降させてから横方向に移動させ、その係合切欠き84にノズルチップ14の上端を係合してから、点着ノズル45を上昇移動させてノズルチップ14を抜き取り、外れたノズルチップ14は落下口83を通して落下廃却される。
【0051】
比色測定を行う第1のインキュベータ4は、外周部に円環状の回転部材87を備え、この回転部材87は内周下部に固着された傾斜回転筒88が下部のベアリング89に支持されて回転自在である。回転部材87の上部に上位部材90が一体に回転可能に配設されている。上位部材90の底面は平坦であり、回転部材87の上面には円周上に所定間隔で複数(図1の場合13個)の凹部が形成されて両部材87,90間にスリット状空間による素子室91が形成され、この素子室91の底面の高さは搬送面の高さと同一に設けられている。また、傾斜回転筒88の内孔は測定後の乾式分析素子12の廃却孔92に形成され、素子室91の乾式分析素子12がそのまま中心側に移動されて落下廃却される。なお、図2において、素子室91は、その回転部材87上における配置のみを示しており、素子室91の形状の詳細については図4に示している。
【0052】
図4は、回転部材87の1つの素子室91(分析チップの収納室)を詳細に示す部分拡大図である。素子室は、回転搬送する向きに向かって手前側の側面91bと、これに対向して設けられた側面91bと、底面91dと、回転部材外周側に設けられた素子を挿入するための開口部91eを備えている。図4に示すように、回転部材87は、矢印Pにて示す回転搬送する向きの手前側の側面91bが、側面91bと、回転部材の回転中心と収納室に分析チップを収納した状態における分析チップの中心とを含む直線Lとの回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜している。すなわち、分析チップに回転部材87の回転時に働く遠心力の分力を斜面で受けるように傾斜している。ここで、図4に示すように、直線Lに対する側面91bの傾きの角度を傾斜角θとする。
【0053】
回転部材87が回転搬送を開始すると、乾式分析素子12には、回転部材の回転速度に応じて半径方向外側向きに遠心力Fが発生する。図4に示すように、乾式分析素子12は、この遠心力の分力の作用により、搬送バー71によって半径方向に挿入された挿入位置12bから、側面91bに当接する位置まで移動し、側面91bに沿った姿勢に回転して、保持位置12aで静止する。
【0054】
保持位置12aにおいても、乾式分析素子12には、回転部材の回転速度に応じて遠心力Fが作用する。ここで、乾式分析素子の重量をm、乾式分析素子12の中心における回転速度をV、底面91dの摩擦係数をμ、側面91bの摩擦係数をμ’、重力をg、回転中心から乾式分析素子12の中心までの距離をrとすると、遠心力Fと、側面91bに沿って、乾式分析素子12を回転部材87の外周側に押す力F1と、保持位置12aに静止し続けようとする静止摩擦力F2とをそれぞれ式(1)乃至(3)によって表すことができる。なお、F・sinθが前記遠心力を受ける斜面に働く遠心力の分力に相当する。
F=mV/r ・・・(1)
F1=F・cosθ=mV/r・cosθ ・・・(2)
F2=(底面における摩擦力)+(側面における摩擦力)=μmg+μ’F・sinθ
=μmg+μ’(mV/r)・sinθ ・・・(3)
【0055】
側面91bが、上記の傾斜を備えたものでない従来の構成では、乾式分析素子12を回転部材87の外周側に押す力がF1’=mV/rとなり、静止摩擦力がF2’=μmg(底面91dにおける静止摩擦力)となる。これに対し、上記のような傾きを備えた上記装置においては、同じ回転速度V、同じ質量の乾式分析素子12を用いた場合、上記(2)、(3)式に示すように、乾式分析素子12を回転部材87の外周側に押し出す力をより小さく、かつ、乾式分析素子12の静止摩擦力をより大きくすることができる。
【0056】
また、上記式(2)、(3)に定義された力F1、F2が以下の式(4)を満たす場合には、乾式分析素子12に働く静止摩擦力が乾式分析素子12を回転部材87の外周側に押す力よりも大きいため乾式分析素子12は静止し、式(5)を満たす場合には、乾式分析素子12は、乾式分析素子12に働く静止摩擦力が乾式分析素子12を回転部材87の外周側に押す力よりも小さいため乾式分析素子12は回転部材外側に向かって移動する。
F1≦F2・・・・(4)
F1>F2・・・・(5)
【0057】
上記装置は、回転搬送時には上記式(4)を満たす速度(第1の速度V1)で回転搬送を行うことより、乾式分析素子12を保持位置に維持して搬送するものである。なお、回転部材87の回転搬送時の速度V(第1の速度V1)は,上記式(4)を満たす範囲であれば任意に設定でき、制御部は、回転部材の回転速度Vを一定に保ってもよく、種々に変化させてもよい。
【0058】
側面91bの傾斜角θは、上記式(4)を満足できるものであれば、0°<θ<90°の範囲で任意に構成することができるが、素子室91をコンパクトに維持しつつ、回転搬送時の乾式分析素子12の位置を精度良く保つために、0°<θ<45°の範囲にすることが好ましく、0°<θ<30°の範囲にすることがさらに好ましい。なお、本実施形態の生体分析装置のように、回転搬送の経路上に乾式分析素子12の測定位置があるような装置においては、特に、回転搬送時の乾式分析素子の位置を精度良く保つことが好適である。
【0059】
また、素子室91の底面91dと側面91bの静止摩擦係数μ、μ’を適切な値となるようにすることにより、式(3)に示す乾式分析素子12に作用する静止摩擦力F2を調整することができる。側面の静止摩擦力は回転搬送時に保持位置で作用する力であるため、大きいほど好ましく、静止摩擦係数μ’も大きいほど好ましい。また、底面91dにおける静止摩擦力は、乾式分析素子12の挿入または排出時にも作用するため、底面91dの静止摩擦係数μは、乾式分析素子12の挿入または廃却に支障のないものであればいかなる値でもよい。
【0060】
なお、所望の側面91bおよび底面91dの静止摩擦係数μ、μ’を実現できるものであれば、種々の方法を適用することができる。例えば、素子室91の底面91dと側面91bの表面に所望の摩擦係数を有する部材を貼付してもよく、回転部材87を所望の摩擦係数を有する材料で形成してもよい。また、素子室91の底面91dと側面91bの表面に適切な表面粗さを実現する加工を行うことにより、所望の摩擦係数を実現してもよい。
【0061】
また、図4に示すように、素子室91の開口部91eは、乾式分析素子12を挿入可能な大きさであればよく、素子室91内で乾式分析素子12を測定可能な位置に保持できる範囲で、素子室91の大きさを任意に決定してよい。例えば、図4に示すような矩形の乾式分析素子12の場合、乾式分析素子12の長手方向の長さをx1、短手方向の長さをx2(x1>x2)とすると、開口部91eの幅Wは少なくともx2より大きいものであればよい。また、回転による遠心力により乾式分析素子12が半径方向外側に向かって移動して開口部91eから出てしまうことを抑制するために、開口部91eの幅Wは、x2<W<x1であることが好ましい。
【0062】
また、さらに好ましくは、開口部91eの幅Wは、x2よりも大きく、かつ、図4に示すW’(=W・cosθ)が乾式分析素子12の短手方向の長さx2よりも小さいことが好ましい。上記場合には、回転搬送時の遠心力により乾式分析素子12が素子室91の開口部91eから外に出てしまうことが生じにくい。
【0063】
また、傾斜を設ける範囲は、乾式分析素子12を傾斜に沿って保持できるように、乾式分析素子12の側面91bに接する辺の長さより長いものであればよく、側面91bの全体を傾斜させてもよく、側面91bの一部を傾斜させてもよい。
【0064】
上位部材90には図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって素子室91内の乾式分析素子12を所定温度に恒温保持する。また上位部材90には、図4に示すように、素子室91に対応して乾式分析素子12のマウントを上から押えて検体の蒸発防止を行う押え部材93が配設されている。上位部材90の上面には保温カバー94が配設される一方、この第1のインキュベータ4は全体が遮光カバー95によって覆われる。さらに、回転部材87の各素子室91の底面中央には測光用の開口窓91aが形成され、この開口窓91aを通して図2に示す位置に配設された測光ヘッド96による乾式分析素子12の反射光学濃度の測定が行われる。第1のインキュベータ4の回転駆動は、不図示のベルト機構により行われ、往復回転駆動される。
【0065】
廃却機構10は、外周側から中心方向に素子室91内に進退移動する廃却バー101を備えている。この廃却バー101は後端部が水平方向に走行するベルト102に固定され、駆動モータ103の駆動によるベルト102の走行に応じ、素子室91から測定後の乾式分析素子12を押し出して廃却する。なお、廃却孔92の下方には測定後の乾式分析素子12を回収する回収箱が配設される。
【0066】
また、イオン活量を測定する第2のインキュベータ5は、前述の摺動枠62の第1素子押え63が上位部材となり、その底部の凹部によって測定本体97の上面との間に1つの素子室が形成される。この第2のインキュベータ5には、図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって乾式分析素子12のイオン活量を測定する部分を所定温度に恒温加熱する。さらに、測定本体97の側辺部にはイオン活量測定のための3対の電位測定用プローブ98が出没して乾式分析素子12のイオン選択電極に接触可能に設けられている。
【0067】
なお、不図示の血漿濾過ユニットは、サンプルトレイ2に保持された検体容器11(採血管)の内部に挿入され上端開口部に取り付けられたガラス繊維からなるフィルターを有する不図示のホルダーを介して血液から血漿を分離吸引し、ホルダー上端のカップ部に濾過された血漿を保持するようになっている。
【0068】
上記のような生化学分析装置1の動作、測定条件の設定等は、不図示の筐体20に設置された不図示の操作パネル55からの入力によって行われる。この操作パネル55(インターフェース)は、表示画面、スタートキー、ストップキー、検体キー、消耗品キー、手動キー、緊急キー、キャリブレーションキー、テンキー、印刷キーなど、指先で押して各種の指示操作を行う操作キーが配設されている。この操作パネル55は、不図示の制御部に接続され、そこに登録されている制御プログラムに基づく測定演算処理が設定され、自動測定動作、手動測定動作、緊急測定動作、キャリブレーション動作、印刷動作などが選択実行され、測定値に基づき前記素子情報に対応する分析情報によって分析結果を(成分濃度)を算出するようになっている。そして、測定結果を出力記録するため、設定値の確認などのために、これらのデータをプリンタ57によって印刷する。
【0069】
次いで、前述の生化学分析装置1の全体動作について説明する。まず、分析を行う前に、サンプルトレイ2の各搭載部23〜28に、各検体を収容した検体容器11、乾式分析素子12を装填した素子カートリッジ13、ノズルチップ14を収容したチップラック19、混合カップ16、希釈液容器15および参照液容器17を搭載して、測定準備を行う。
【0070】
その後、分析処理をスタートする。まず、血漿濾過が必要な検体の場合には、血液濾過ユニットにより、検体容器11内の全血を濾過して血漿成分を得る。次に、回転ディスク21を回転させて測定する検体の素子カートリッジ13を点着部3に対応する素子取り出し位置に停止させ、乾式分析素子12を素子搬送機構によって素子カートリッジ13から取り出して点着部3に搬送する。なお、点着部3に搬送される前に、乾式分析素子12に付与された分析情報が読み取られ、その後の動作が制御される。
【0071】
そして、測定項目が比色測定の場合は、素子押え64が点着部に位置している状態で、乾式分析素子12の搬送を行い、続いてサンプルトレイ2を回転させて点着ノズル45の下方にチップラック19のノズルチップ14を移動させ、点着ノズル45に装着する。続いて検体容器11を移動させ、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引し、点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。
【0072】
そして、検体が点着された比色タイプの乾式分析素子12が第1のインキュベータ4に挿入される。次に、素子室91を回転して、所定時間恒温保持した後、挿入された乾式分析素子12を順次測光ヘッド96の位置に移動させ、乾式分析素子12の反射光学濃度の測定が行われる。
【0073】
この、素子室91を回転させる際に、制御部は、先述の式(4)を満たす第1の速度V1で、回転部材87を回転させる。
【0074】
回転部材87の回転が開始すると、素子室91に収納された乾式分析素子12には、回転速度に応じて半径方向外側向きに遠心力Fが発生する。この遠心力の分力の作用により、乾式分析素子は挿入位置12bから側面91bまで移動し、側面91bに沿った姿勢に回転して、保持位置12aで静止する。
【0075】
本実施形態では、乾式分析素子12の中心位置における回転部材87の回転速度V=15[mm/sec]、回転中心から乾式分析素子12の中心までの距離r=75[mm]、乾式分析素子12の重さ3[g]、θ=45[°]であり、ほぼ一定速度で回転部材87を回転させる。また、乾式分析素子12の材質がポリアセタールであり、素子室91の表面がラバーコート処理されたものであり、側面91bと乾式分析素子12との間の静止摩擦係数μおよび底面91dと乾式分析素子12との間の静止摩擦係数μ’はともに0.8である。上記場合には、式(2)、(3)によりF1=6.36[N]、F2=7.49[N]となるため、静止摩擦力F2が乾式分析素子12を回転部材の外側に向かって移動させる力F1よりも大きく、好適に乾式分析素子12を保持位置12aに保持することができる。
【0076】
測定終了後、測定済みの乾式分析素子12は中心側に押し出して廃却する。測定結果を出力し、使用済みのノズルチップ14をチップ廃却部9で点着ノズル45から外して下方に落下廃却し、処理を終了する。この比色測定の間は、第2のインキュベータ5においては、前述のように、下ブロック71を上昇させて上ブロック63を予熱している。
【0077】
次いで、検査項目が希釈依頼の場合、例えば血液の濃度が濃すぎて正確な検査を行うことができないような場合には、その乾式分析素子12を点着位置に搬送した後、ノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引する。吸引した検体をノズルチップ14から混合カップ16に分注した後、使用済みのノズルチップ14を外す。次いで、新しいノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、希釈液容器15からノズルチップ14に希釈液を吸引する。吸引した希釈液をノズルチップ14から混合カップ16に吐出する。そして、ノズルチップ14を混合カップ16内に挿入して吸引と吐出とを繰り返して撹拌を行う。撹拌を行った後、希釈した検体をノズルチップ14に吸引し、その点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。以下同様に、恒温保持、測光、素子廃却、結果出力およびチップ廃却を行って処理を終了する。
【0078】
次いで、イオン活量の測定の場合は、前述のように上ブロック63を点着部3へ移動させて、電解質タイプの乾式分析素子12を点着位置へ搬送した後、まず、一方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、検体を吸引する。次に、他方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、参照液容器17から参照液を吸引する。次いで、一方の点着ノズル45により検体を乾式分析素子12の一方の液供給孔に点着し、さらに、他方の点着ノズル45により参照液を乾式分析素子12の他方の液供給孔に点着する。
【0079】
そして、検体および参照液が点着された乾式分析素子12が、点着部3から上ブロック63と共に摺動枠62の移動によって第2のインキュベータ5に移送され、下ブロック71の上昇で恒温保持しつつ電位測定用プローブ78によってイオン活量の測定を行う。測定終了後、測定後の乾式分析素子12を摺動枠62の移動によって廃却穴69に移送して廃却する。そして測定結果を出力し、両方の使用済みのノズルチップ14を両点着ノズル45から外して廃却し、処理を終了する。
【0080】
本実施形態によれば、側面と、回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように側面91bを傾斜させたことにより、乾式分析素子12に働く静止摩擦力を大きくすることができるため、簡易な構造で回転搬送時に好適に乾式分析素子12を保持位置に保持することができ、乾式分析素子12が回転搬送時に外向きの力を受けて移動することを好適に抑制できる。
【0081】
図5は、第1の実施形態の変形例を示す図である。上記第1の実施形態では、側面91bのみに傾斜を設けたが、両側に回転する生化学分析装置1であれば、図5に示すように、両側面91b、91cと、回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における分析チップの中心とを含む直線Lとの回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように、両側面91b、91cをそれぞれ傾斜させてもよい。乾式分析素子12をどちらの向きに回転搬送した場合にでも、簡易な構造で回転搬送時に好適に乾式分析素子12を保持位置に保持することができ、乾式分析素子12が回転搬送時に外向きの力を受けて移動することを好適に抑制できる。また、両側面91b、91cの傾斜角をそれぞれ異ならせてもよく、等しくしてもよい。
【0082】
また、上記傾斜させた側面91bの開口部91e付近に図5に破線で示すような突出部91fを設けてもよい。回転搬送時に乾式分析素子12が回転部材の外側に移動した場合であっても、乾式分析素子12が突出部91fに突き当たることにより、乾式分析素子12が回転部材の外側に向かって突出部91fより先に移動することを抑止できる。このため、乾式分析素子12が回転部材外側に出てしまうことをさらに抑制できる。なお、突出部91fは、乾式分析素子12の挿入および廃却に支障のないものであれば任意の形状およびサイズとしてよい。また、図5のように、両側に回転可能な生化学分析装置において両側面91b、91cを傾斜させた場合には、両側面91b、91cに突出部を設けてもよい。
【0083】
以下第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態における廃却機構を用いて、廃却バー101により乾式分析素子12を素子室91から押し出して廃棄することに替えて、第2の速度で回転部材87を回転させることにより、乾式分析素子12の廃却動作を行う点のみが第1の実施形態と異なる。また、第2の実施形態では、制御部が、速度を異ならせた第1および第2の速度で同じ方向に回転部材87を回転する。以下、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0084】
制御部は、回転搬送時には前述の式(4)を満たす第1の速度V1で回転部材87を回転する。このことにより、回転搬送時には乾式分析素子12に働く静止摩擦力が乾式分析素子12を回転部材外側に押す力よりも大きいため、保持位置12aで安定して乾式分析素子12を保持することができる。また、廃却時には、先述の式(5)を満たす上記第2の速度V2で回転部材87を回転する。このことにより、廃却時には、乾式分析素子12に働く静止摩擦力が乾式分析素子12を回転部材外側に押す力よりも小さいため、廃却時には、乾式分析素子12を回転部材の外側に向かって移動させて、廃却することができる。第1の速度V1は、式(4)を満たすものであれば任意に設定でき、第2の速度V2は、式(5)を満たすものであれば、任意に設定できる。
【0085】
第2の実施形態によれば、廃却バー101のような廃却機構10を設ける必要がないため、生化学分析装置1を簡易な構造とすることができ、より低コストに生化学分析装置1を製造することができる。また、制御を異ならせるだけで、従来の分析装置を第2の実施形態の生化学分析装置として用いることができ、汎用性が高い。
【0086】
第2の実施形態の変形例として、制御部が、第1および第2の速度で互いに異なる方向に回転部材87を回転するものであってもよい。この場合には、回転搬送時の回転方向の側面91bを、側面91bと直線Lとの回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜した構造とし、他方の側面91cについては、側面91cと直線Lとの回転方向の距離が半径方向外側に向かうにつれて大きくなる、または半径方向の位置に拘わらず変化しないようにする。そして、回転搬送時には上記式(4)を満たす第1の速度V1で回転し、乾式分析素子12の廃却時には、後述の式(5)’を満たす第2の速度V2で回転搬送時と逆回転する。なお、式(5)’において、F1’は、廃却時に乾式分析素子12を回転部材の外側に向かって押す力を表し、F2’は、廃却時に乾式分析素子12に負荷される静止摩擦力を表している。
F1’>F2’・・・式(5)’
【0087】
上記場合には、乾式分析素子12の回転搬送時には、第1の実施形態同様乾式分析素子12を側面91bに当接した保持位置で安定に保持する。一方、乾式分析素子12の廃却時には、回転部材87が第2の速度V2で回転を開始すると、乾式分析素子12が慣性力により側面91bから離れて側面91cに向かって移動する。このため、上記式(5)において、廃却時に乾式分析素子12を回転部材の外側に向かって押す力F1’=Fとなり、廃却時に乾式分析素子12に負荷される静止摩擦力F2’=μmgとなる。そして、廃却時にF1’とF2’が上記式(5)を満たすことにより、乾式分析素子12に働く静止摩擦力が乾式分析素子12を回転部材外側に押す力よりも小さくなるため、乾式分析素子12を回転部材外側に移動させて回転部材87の外側に落下廃却することができる。
【0088】
また、第2の実施形態の変形例において、回転搬送時に乾式分析素子12を回転部材外側に押す力F1よりも、廃却時に乾式分析素子12を回転部材外側に押す力F1’の方が大きくなり、また、廃却時の静止摩擦力F2’が保持位置に位置する場合の静止摩擦力F2よりも小さくなる。このため、回転搬送時よりも廃却時の方が乾式分析素子12を回転部材87の外側に向かって移動させやすく、廃却時の回転速度を比較的低いものとできる。
【0089】
なお、第1の速度V1は、式(4)を満たすものであれば、任意に設定でき、第2の速度V2は、廃却時に下記の式(5)’を満たすものであれば、任意に設定できる。
【0090】
なお、上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で任意に変形および応用が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 生化学分析装置
2 サンプルトレイ
3 点着部
4 第1のインキュベータ
5 第2のインキュベータ
6 点着機構
7 素子搬送機構
8 移送機構
9 チップ廃却部
10 素子廃却機構
12 乾式分析素子(分析チップ)
12a 乾式分析素子の保持位置
12b 乾式分析素子の挿入位置
87 回転部材
91 素子室(収納室)
91b、91c 側面
91e 開口部
91f 突出部
F1、F1’ 乾式分析素子を回転部材の外周側に押す力
F2、F2’ 乾式分析素子に作用する静止摩擦力
V1 第1の速度
V2 第2の速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析チップを使用して検体を測定する生化学分析装置であって、
複数の前記分析チップを回転中心の周りに同心円状に配して回転搬送する回転部材と、
前記回転部材を回転駆動するための制御部とを備え、
前記回転部材が前記分析チップを収納するための、外周に開口部を有する収納室を備え、
前記収納室の回転する向きに対して手前側の側面が、該側面と、前記回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜していることを特徴とする生化学分析装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記収納室に前記分析チップを収納した状態において、前記分析チップの回転搬送時には前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力以上の大きさになる第1の速度により前記回転部材を駆動し、前記分析チップの廃却時には前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力より小さくなる第2の速度で前記回転部材を駆動することを特徴とする請求項1記載の生化学分析装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記分析チップの回転搬送時と、前記分析チップの廃却時とで、回転方向を逆にするものであることを特徴とする請求項2記載の生化学分析装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記分析チップを回転搬送するために前記回転部材を両回転方向に駆動するものであり、
前記収納室の両側の側面が、該側面と、前記回転部材の回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜しているものであることを特徴とする請求項1記載の生化学分析装置。
【請求項5】
前記傾斜する側面が、前記収納室の底面よりも大きい静止摩擦係数を有するものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の生化学分析装置。
【請求項6】
前記収納室の前記傾斜を設けた側面の前記開口部付近に突出部を設けたことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の生化学分析装置。
【請求項7】
分析チップを収納するための外周に開口部を設けた複数の収納室を回転中心の周りに同心円状に配した回転部材を有する生化学分析装置を用いて、前記分析チップを前記回転中心の周りに回転搬送する方法であって、
前記生化学装置において、前記回転部材の回転する向きに対して手前側の前記収納室の側面に、該側面と、前記回転部材の回転中心と前記収納室に前記分析チップを収納した状態における前記分析チップの中心とを含む直線との回転方向の距離が半径方向外側になるほど小さくなるように傾斜を設け、
前記収納室に前記分析チップを収納した状態で前記回転部材を回転することにより、前記分析チップの回転搬送を行うことを特徴とする回転搬送方法。
【請求項8】
前記回転制御において、前記収納室に前記分析チップを収納した状態において、前記分析チップの回転搬送時には、前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力以上の大きさになる第1の速度により前記回転部材を駆動し、前記分析チップの廃却時には、前記分析チップに作用する静止摩擦力が前記回転部材の外側に向かって前記分析チップに作用する力より小さくなる第2の速度で前記回転部材を回転制御することを特徴とする請求項7記載の分析チップの回転搬送方法。
【請求項9】
前記回転制御において、前記分析チップの回転搬送時と、前記分析チップの廃却時とで、回転方向を逆にすることを特徴とする請求項8記載の分析チップの回転搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76683(P2013−76683A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218183(P2011−218183)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】