説明

畜肉製品用改良剤及び畜肉製品

【課題】タピオカ澱粉を改良して、優れた畜肉製品用改良剤を提供し、更にそれを添加してなる畜肉製品を提供する。
【解決手段】タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を、畜肉製品用改良剤として用いる。前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2〜1質量%であり、該澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに、該澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いたブレークダウン値が200BU以下であることが好ましい。また、加熱膨潤度が20〜40倍であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の澱粉を含有する畜肉製品用改良剤及び該畜肉製品用改良剤を添加した畜肉製品に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、羊、山羊、馬等の家畜や鶏、アヒル、鴨、ガチョウ、ウズラ等の家禽を由来とする食肉を原料とする畜肉製品にはハム、プレスハム、ベーコン、焼豚、カツレツ、から揚げ、ソーセージ、ウィンナーソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、成形肉等が知られる。基本的には原料肉を脱骨・整形・血絞りした後に細切してミンチ・挽肉にした後に副原料となる澱粉、塩類、調味料、野菜類、卵、パン粉等を加えて生地を調製し、形成後加熱等の調理をしたもの(プレスハム、ソーセージ、ウィンナーソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、成形肉等)と、細切を経ずにブロック状の食肉を澱粉、塩類、調味料等から成る塩漬液(ピックル液)に漬け込む、または注射した後に、乾燥・燻煙・加熱・煮沸等の調理をしたもの(ハム、ベーコン、焼豚、カツレツ、から揚げ等)が知られる。前者は畜肉製品の中でも練り込み製品と称され、弾力性と硬さを有した食感が望まれ、後者は食感として肉汁感、肉感、肉繊維感が望まれる。
【0003】
畜肉製品に配合される澱粉、塩類(リン酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩等)、蛋白質(乳性蛋白質、大豆蛋白質、卵白、小麦蛋白質等)、アミノ酸、酵素(トランスグルタミナーゼ、プロテアーゼ等)、糖質、食物繊維等は、これらを単独または組み合わせて用いて、畜肉製品の改良剤として利用出来ることが知られている。
【0004】
このうち澱粉は、増量剤として機能するだけでなく、畜肉製品の食感向上、製品の保水性・結着性の改善、脂肪の均質化に寄与し、これらの効果は、食肉中に存在する澱粉が加熱されることで水分を吸収して、糊化して弾力に富む粒子となる変化によりもたらされているので、添加する澱粉は少量であっても、その澱粉の糊化物性が畜肉製品の性質に大きな影響を与える。これに関し、一般の天然の未処理澱粉を添加した場合は、澱粉の糊化物性が悪く畜肉製品の食感を低下させたり、冷凍処理や時間の経過とともに製品が脆くなったり、離水が生じる等の課題があった。
【0005】
従来、このような課題に対しては、畜肉製品に混合する澱粉にエステル化やエーテル化等の加工を施すことによって解決しようと試みられてきた。例えば、下記特許文献1には、エステル化澱粉を肉類練製品に添加することで、製品の弾力性、保水性及び結着性を良好に保持できることが記載されている。また、下記特許文献2には、架橋エーテル化澱粉及び架橋エステル化澱粉をソーセージ類に添加することで、製品の弾力性、保水性及び結着性を良好に保持できることが記載されている。また、下記特許文献3には、エステル化、エーテル化、架橋、酸化またはこれらの方法を組み合わせて得られる加工澱粉と、糊料(各種多糖類)とを含有するピックル液組成物を用い、これを食肉に注入してハム等の食肉製品を製造した場合、製品の容積を大きくしながら肉に近い自然な食感を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−21336号公報
【特許文献2】特開昭59−21335号公報
【特許文献3】特開平9−84555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術においては、畜肉製品に対して十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を付与する効果は十分とはいえなかった。また、上記特許文献3に記載の技術においては、畜肉製品に対して十分な肉汁感、肉感、肉繊維感を付与する効果が十分とはいえなかった。更には、ブロック状の食肉を利用した畜肉製品においては、添加する澱粉の糊化物性によって、澱粉由来の糊感やヌメリ感による食感の低下や、冷凍処理や電子レンジ加熱によるソフト感、肉汁感、肉感、肉繊維感の低下が課題となっていた。
【0008】
したがって本発明の目的は、タピオカ澱粉を改良して、澱粉の経時的な老化による畜肉製品の食感の低下や畜肉製品の離水を防止すると同時に、練り込み製品においては十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を付与することができ、ブロック状の食肉を利用した畜肉製品においては十分なソフト感、肉汁感、肉感、肉繊維感を付与することが可能な畜肉製品用改良剤を提供し、更にそれを添加してなる畜肉製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1は、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤であって、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2〜1質量%であり、該澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに、該澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いたブレークダウン値が200BU以下であることを特徴とする畜肉製品用改良剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明の第2は、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤であって、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍であることを特徴とする畜肉製品用改良剤を提供するものである。
【0012】
本発明の第1の畜肉製品用改良剤においては、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍であることが好ましい。
【0013】
本発明の第1及び第2の畜肉製品用改良剤においては、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル化タピオカ澱粉の乾燥物換算100質量部に対して油脂又は油脂及び乳化剤を0.02〜0.5質量部添加することによって得られたものであることが好ましい。
【0014】
本発明の第1及び第2の畜肉製品用改良剤においては、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化する際に、その添加後又は反応後にpH5未満に調整する処理が施されてなるものであることが好ましい。
【0015】
一方、本発明のもう1つは、上記畜肉製品用改良剤を添加してなる畜肉製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の畜肉製品用改良剤を添加して得られた畜肉製品は、澱粉の経時的な老化による食感の低下や離水が抑制されているだけでなく、十分な弾力性と硬さを兼ね備えた食感を示す。更に、澱粉由来の糊感やヌメリ感が抑制されており、且つ電子レンジ耐性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】澱粉の糊化特性を測定するアミログラフィー分析の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の畜肉製品用改良剤は、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有することを特徴としている。
【0019】
そして、本発明の畜肉製品用改良剤の第1においては、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2〜1質量%であり、該澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに、該澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いたブレークダウン値が200BU以下であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の畜肉製品用改良剤の第2においては、前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍であることを特徴としている。
【0021】
本発明に用いるアセチル化タピオカ澱粉は、例えば、以下の方法で得ることができる。
【0022】
原料となるタピオカ澱粉に水を添加して30〜45質量%、好ましくは38〜42質量%の濃度となるスラリー状に調製した後、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ剤を澱粉スラリーに添加して、pH8〜11、好ましくはpH9.5〜10.5に調整する。次いで、乾燥物換算で澱粉100質量部に対して酢酸ビニルを0.5〜3質量部添加した後、澱粉スラリーの温度を10〜45℃、好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃に保ち、10〜120分間、好ましくは20〜60分間の反応を行う。その後、例えば塩酸等の酸を添加して、澱粉スラリーをpH5未満、好ましくはpH2〜4.5、より好ましくはpH2.5〜4に調整する。以上の処理を行った澱粉スラリーを水で洗浄し、脱水した後、乾燥、包装する。さらに、前記pH調整から包装にかけての工程において、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、塩酸、硫酸、クエン酸等のpH調整剤を添加することで澱粉を所望のpHに再調整してもよい。
【0023】
本発明の畜肉製品用改良剤は、上記アセチル化タピオカ澱粉に油脂加工を施してなる油脂加工澱粉を含有するものである。例えば、アセチル化タピオカ澱粉の乾燥物換算100質量部に対して油脂又は油脂及び乳化剤を0.02〜0.5質量部添加することによって、本発明に用いる上記油脂加工澱粉を得ることができる。澱粉に油脂又は油脂及び乳化剤を添加する際、油脂と乳化剤を予め混合してから添加してもよく、油脂と乳化剤をそれぞれ個別に添加してもよい。澱粉に油脂又は油脂及び乳化剤を添加する際、澱粉が上記アセチル化タピオカ澱粉の製造工程において、水で洗浄した後の乾燥前であってもよく、乾燥後であってもよい。また、澱粉に油脂又は油脂及び乳化剤を添加する際、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ剤を添加して所望のpHに調整してもよい。
【0024】
こうして本発明に用いる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得ることができるが、必要に応じて酸処理、アルカリ処理、α化、酵素処理、加熱処理、湿熱処理、微粉砕処理等の物理加工を組み合わせて施すことができる。これらの加工処理は、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉の製造工程のいずれの箇所に組み込んでもよい。また、これらの加工が施された澱粉を原料に用いて本発明の油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を製造してもよい。
【0025】
また、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉の原資澱粉として使用するタピオカ澱粉の品種や産地は特に限定されるものではない。例えば、一般的に流通し入手可能なものとして、ウルチ種のタピオカ澱粉が挙げられる。
【0026】
後述する実施例でも示すように、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、エステル化剤として無水酢酸、アジピン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸ナトリウムのいずれも用いることなく、実質的に酢酸ビニルのみを用いてアセチル化し、これに油脂加工が施されてなるものであることが好ましい。さらに、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化する際に、その添加後もしくは反応後に、例えば塩酸等の酸を添加して、pH5未満、好ましくはpH2〜4.5、より好ましくはpH2.5〜4に調整することが好ましい。この処理により、メカニズムの詳細は不明であるが、澱粉粒の膨潤を抑制することができる。尚、この処理の効果は、酢酸ビニルの添加量が多いほど効果的である。
【0027】
上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2〜1.0質量%、より好ましくは0.3〜0.8質量%であり、且つ、ブレークダウン値が200BU以下であることが好ましく、100BU以下であることがより好ましい。
【0028】
尚、ブレークダウン値とは、澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに得られる温度−澱粉粘度曲線(アミログラム)において、その澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いた値を意味する。図1には具体的にブレークダウン値を求めるためのアミログラフィー分析の一例を示す。図中実線のアミログラムが得られた場合、そのブレークダウン値は図中Aで示される粘度差の値となる。また、図中点線のアミログラムが得られた場合、そのブレークダウン値は図中Bで示される粘度差の値となる。
【0029】
また、アセチル基含量は以下の手法で求めることができる。
【0030】
澱粉試料5.0gを精密に量り、水50ml(ただし、α化澱粉及び水可溶性澱粉については水100ml)に懸濁し、フェノールフタレイン試薬数滴を加え、液が微紅色を呈するまで0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液を滴下後、0.45mol/l水酸化ナトリウム溶液25mlを正確に加え、温度が30℃以上にならないように注意しながら栓をして30分間激しく振り混ぜる。0.2mol/l塩酸で過量の水酸化ナトリウムを滴定する。終点は液の微紅色が消えるときとする。別に空試験を行い補正する。下記式(1)により遊離アセチル基含量を含め、更に乾燥物換算を行う。
【0031】
アセチル基含量(%)=(a−b)×n×0.043×100/w…(1)
上記式(1)中、a:空試験滴定量(ml)、b:試料滴定量(ml)、n:0.2mol/l塩酸の力価、w:試料乾燥物重量(g)を意味する。
【0032】
上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍であることが好ましい。その加熱膨潤度は25〜35倍であることがより好ましく、30〜35倍であることが更により好ましい。
【0033】
澱粉の加熱膨潤度とは、以下の方法によって定量される値を意味する。
【0034】
乾燥物重量1.0gの澱粉試料を水100mlに分散し、沸騰水中で時々撹拌しながら30分間加熱後、30℃に冷却する。次いで、この糊液を遠心分離(3000rpm、10分間)して糊層と上澄液層に分け、糊層の重量を測定してこれをcとする。次いで、重量測定した糊層を105℃で乾固した後、重量を測定してこれをdとし、c/dの値を加熱膨潤度(倍)とする。
【0035】
上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、上記油脂加工のための油脂又は油脂及び乳化剤を、アセチル化タピオカ澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02〜0.5質量部添加・混合することにより得られたものであることが好ましい。また、その油脂又は油脂及び乳化剤を、アセチル化タピオカ澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.2〜0.4質量部添加・混合することにより得られたものであることがより好ましい。
【0036】
本発明に用いられる油脂又は油脂及び乳化剤に使用される油脂とは、食用として認められている油脂、調製油、及びこれらの混合物を意味する。例えば、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油、またこれらの分別油、脱臭油、加熱油、エステル交換油等の加工油脂等が挙げられる。また、油脂と乳化剤の混合物に使用される乳化剤とは、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
【0037】
本発明においては、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉をそのまま、畜肉製品用改良剤としてもよく、あるいは適宜、塩類(リン酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩等)、蛋白質(乳性蛋白質、大豆蛋白質、卵白、小麦蛋白質等)、アミノ酸、酵素(トランスグルタミナーゼ、プロテアーゼ等)、糖質、食物繊維等の一種又は二種以上を更に配合して、畜肉製品用改良剤としてもよい。また、粉末状、液状、ジェル状等、その形態を問わない。そして、この畜肉製品用改良剤を、畜肉製品の原料配合中に添加して、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を畜肉製品中に含有せしめることによって、食感等の改良された畜肉製品を得ることができる。
【0038】
一方、本発明の畜肉製品は、畜肉製品の原料配合中に少なくとも上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を配合し、加熱処理することにより得ることができる。畜肉製品の種類に特に制限はなく、ハム、プレスハム、ベーコン、焼豚、カツレツ、から揚げ、ソーセージ、ウィンナーソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、成形肉等を例示することができる。食肉の処理方法、原料及び副原料の配合組成、添加方法、生地の成形方法、加熱等の調理方法は、畜肉製品の種類に応じて、従来から知られている方法に準じて行えばよく、特に制限されるものではない。原料肉としては、牛、豚、羊、山羊、馬等の家畜や鶏、アヒル、鴨、ガチョウ、ウズラ等の家禽を由来とするブロック状の食肉や、これを細切したミンチ・挽肉が利用されることが一般的であるが、食肉を原料としていればよく、特に制限されるものではない。
【0039】
例えばブロック状の食肉を利用した畜肉製品には、ハム、ベーコン、焼豚、カツレツ、から揚げ等が挙げられる。これらは、脱骨・整形・血絞りを経て得られたブロック状の食肉を、塩類、調味料等とともに上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を配合してなる塩漬液(ピックル液)に7〜10日間程度漬け込み、塩漬液を肉内部へ浸透させた後に、乾燥・燻煙・加熱・煮沸等の調理を経て得ることができる。また、この塩漬液を食肉に直接注射する等して、漬け込みに必要な時間を短縮させてもよい。
【0040】
また、例えば細切したミンチ・挽肉を利用した畜肉製品には、プレスハム、ソーセージ、ウィンナーソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、成形肉等が挙げられる。これらは、脱骨・整形・血絞り・細切を経て得られたミンチ・挽肉に、塩、調味料、野菜類、卵、パン粉等とともに上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を加えて撹拌機等により撹拌し、生地を調製して、形成後加熱等の調理を経て得ることができる。
【0041】
上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉の配合量は、畜肉製品の種類によって適宜設定し得るが、典型的には、澱粉の乾燥物換算で加熱処理前の畜肉製品中1〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉のほか、馬鈴薯澱粉、その他の澱粉、穀粉、小麦粉、米粉等、又はそれらのエステル化、エーテル化(ヒドロキシプロピル化)、酸化、湿熱処理、油脂加工、ボールミル処理、微粉砕処理、α化、加熱処理、温水処理、漂白処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等の加工物等の他の澱粉質原料を配合してもよい。
【0042】
本発明の畜肉製品は、上記のようにして得られた製品を、更に冷凍したものであってもよい。冷凍することによって、保存、流通性をより高めることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(加工澱粉)
以下のようにして加工タピオカ澱粉を調製し又は入手した。
【0045】
<試料1:アセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
未加工のタピオカ澱粉(ウルチ種、以下同様)300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに炭酸ナトリウムを添加してpH10に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.6質量部の酢酸ビニルを添加してから30分間撹拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH3に調整することでアセチル化反応を終え、250メッシュの篩にかけて脱水し、更に2Lの水を加えて同様に脱水して棚式乾燥機で乾燥することによりアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0046】
<試料2:アセチル化タピオカ澱粉(無水酢酸)>
日食MT−01HL(日本食品化工株式会社製、無水酢酸でアセチル化されたアセチル化タピオカ澱粉)を試料2とした。
【0047】
<試料3:アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉(無水酢酸、アジピン酸)>
TAS−202(Asia Modified Starch Co.,Ltd.製、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉)を試料3とした。
【0048】
<試料4:アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、トリメタリン酸ナトリウム)>
未加工のタピオカ澱粉300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.5質量部の塩化カルシウムを添加し、次いで3%水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.06質量部のトリメタリン酸ナトリウムを添加してから60分間撹拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH7に調整することでリン酸架橋の反応を終え、次いで炭酸ナトリウムを添加してpH10に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.6質量部の酢酸ビニルを添加してから30分間撹拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH5に調整することでアセチル化反応を終え、その後は試料1と同様の処理を行い、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0049】
<試料5:アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、オキシ塩化リン)>
未加工のタピオカ澱粉300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.0質量部の硫酸ナトリウムを添加し、次いで3%水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02質量部のオキシ塩化リンを添加してから60分間撹拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH7に調整することでリン酸架橋の反応を終え、その後は試料4と同様の処理を行い、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0050】
<試料6:アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、オキシ塩化リン)>
オキシ塩化リンの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.025質量部とした以外は試料5と同様の処理を行い、アセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0051】
<試料7:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
未加工のタピオカ澱粉300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに炭酸ナトリウムを添加してpH10に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.6質量部の酢酸ビニルを添加してから30分間撹拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH3に調整することでアセチル化反応を終え、250メッシュの篩にかけて脱水し、更に2Lの水を加えて同様に脱水した。この脱水物に、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部の油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)と、pH調整剤として炭酸ナトリウム(pH5〜8付近に調整するためのpH調整剤)を添加・混合した後、この混合物を棚式乾燥機で乾燥することにより、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0052】
<試料8:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(無水酢酸)>
日食MT−01HL(日本食品化工株式会社製、無水酢酸でアセチル化調製されたアセチル化タピオカ澱粉)300g(乾燥物重量)に水を添加・混合して水分30%のウェットケーキを調製した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部の油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)を添加・混合した後、この混合物を棚式乾燥機で乾燥することにより、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0053】
<試料9:油脂加工されたアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉(無水酢酸、アジピン酸)>
TAS−202(Asia Modified Starch Co.,Ltd.製、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉)を用いて、試料8と同様の処理を行うことにより、油脂加工されたアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0054】
<試料10:油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、トリメタリン酸ナトリウム)>
未加工のタピオカ澱粉300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.5質量部の塩化カルシウムを添加し、次いで3%水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.06質量部のトリメタリン酸ナトリウムを添加してから60分間攪拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH7に調整することでリン酸架橋の反応を終え、次いで炭酸ナトリウムを添加してpH10に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.6質量部の酢酸ビニルを添加してから30分間攪拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH5に調整することでアセチル化の反応を終え、250メッシュの篩にかけて脱水し、更に2Lの水を加えて同様に脱水した。この脱水物に、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部の油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)を添加・混合した後、この混合物を棚式乾燥機で乾燥することにより、油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0055】
<試料11:油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、オキシ塩化リン)>
未加工のタピオカ澱粉300g(乾燥物重量)に水を加えて40%濃度の澱粉スラリーを調製し、30℃となるように調整した。この澱粉スラリーに、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して1.0質量部の硫酸ナトリウムを添加し、次いで3%水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02質量部のオキシ塩化リンを添加してから60分間攪拌を維持した。更に、9%塩酸を用いてpH7に調整することでリン酸架橋の反応を終え、その後は試料10と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0056】
<試料12:油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉(酢酸ビニル、オキシ塩化リン)>
オキシ塩化リンの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.025質量部とした以外は試料11と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化リン酸架橋タピオカ澱粉を得た。
【0057】
<試料13:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
9%塩酸を用いてpH4に調整することでアセチル化の反応を終えた以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0058】
<試料14:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
9%塩酸を用いてpH5に調整することでアセチル化の反応を終えた以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0059】
<試料15:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
酢酸ビニルの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0060】
<試料16:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
酢酸ビニルの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.5質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0061】
<試料17:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
酢酸ビニルの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して2.5質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0062】
<試料18:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
酢酸ビニルの添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して3質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0063】
<試料19:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
9%塩酸を用いてpH2.5に調整することでアセチル化の反応を終えた以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0064】
<試料20:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
9%塩酸を用いてpH3.5に調整することでアセチル化の反応を終えた以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0065】
<試料21:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)の添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.01質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0066】
<試料22:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)の添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0067】
<試料23:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)の添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.5質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0068】
<試料24:油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉(酢酸ビニル)>
油脂(エゴマ油とグリセリン脂肪酸エステルの混合物)の添加量を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.6質量部とした以外は試料7と同様の処理を行い、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を得た。
【0069】
各種澱粉特性を下記表1にまとめて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
<試験例1>(畜肉製品(ソーセージ)の調製)
表1に示した各種澱粉を配合した畜肉製品(ソーセージ)を、次のようにして調製した。まず、冷凍豚ウデ肉および豚脂を解凍し、直径4.8cmのプレートを取り付けたミートチョッパーでチョッピングした。さらにフードカッターで粗ずりを行った。これに、下記表2の配合により、食塩、亜硝酸ナトリウム製剤、砂糖、リン酸塩、スパイス、グルタミン酸ナトリウム、酵母エキス、くん液を添加しカッティングを行った。さらに、氷水を添加した後にカッティング、次いで各種澱粉を加えてカッティング、最後に真空状態で高速カッティングを行って均一なエマルジョン状態を形成させソーセージ生地を得た。この生地を直径45mmの筒状の塩化ビニリデンフィルムに充填し、80℃湯煎で芯温75℃まで加熱を行った。加熱後氷水中で冷却し、ソーセージを得た。
【0072】
【表2】

【0073】
(評価基準)
得られたソーセージの食感の官能検査を下記表3の基準で行った。官能評価は8名のパネラーの平均的評価で表した。
【0074】
【表3】

【0075】
また、2週間冷蔵保存した後に離水試験を行った。離水試験は、厚さ7mmにスライスしたソーセージに重さ2kgの荷重を30分間かけ、染み出した水分量を測定して質量当たりの圧出水分(%)を算出することにより行った。その評価は下記表4の基準で行った。
【0076】
【表4】

【0077】
[評価1]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料1〜12を選択し、上記ソーセージを調製したときの硬さ、弾力、離水を上記評価基準に基づいて評価した。
【0078】
【表5】

【0079】
表5に示すように、タピオカ澱粉に酢酸ビニルを用いてアセチル化した試料1、無水酢酸を用いてアセチル化した試料2、タピオカ澱粉に無水酢酸とアジピン酸を用いてアセチル化アジピン酸架橋を施した試料3、タピオカ澱粉に酢酸ビニルとトリメタリン酸ナトリウムを用いてアセチル化リン酸架橋を施した試料4、タピオカ澱粉に酢酸ビニルとオキシ塩化リンを用いてアセチル化リン酸架橋を施した試料5及び6は全て油脂加工を施していない加工澱粉であり、これらを畜肉製品(ソーセージ)に利用した場合、プリプリとした弾力がなく、脆さのある食感となった。
【0080】
これに対して、試料7〜12は試料1〜6に対して油脂を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部添加処理することで得た油脂加工タピオカ澱粉である。試料8は食感が軟らかく、噛みごたえの無い食感を呈し、試料9〜11は硬さ、弾力に改善が見られたものの、離水が多く、保存安定性が悪い物性を示した。また、試料12は軟らかく脆い食感であった。一方、試料7は硬く噛みごたえの強い食感を示し、離水も少なく、保存安定性が良い物性を示した。
【0081】
したがって、畜肉製品(ソーセージ)に加工タピオカ澱粉を添加することで食感や離水を改良する場合には、エステル化剤として酢酸ビニルを用いてアセチル化を施し、更に油脂加工を施し、なお且つアジピン酸、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リンから選ばれる架橋剤による架橋が施されていない加工タピオカ澱粉を利用することが好ましいことが明らかとなった。
【0082】
[評価2]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、13〜18を選択し、上記ソーセージを調製したときの硬さ、弾力、離水を上記評価1と同様にして評価した。
【0083】
【表6】

【0084】
表6に示すように、アセチル基含量が0.1質量%である試料15は、離水が多く、保存安定性が悪い物性となった。アセチル基含量が1.1質量%である試料18は、噛みごたえと弾力がない食感となった。試料14はアセチル基含量が試料7と同じく0.6質量%であるが、ブレークダウン値が410BUであり、噛みごたえと弾力がない脆い食感となった。これに対してアセチル基含量が0.2、0.6、又は0.9質量%であり、且つブレークダウン値が0、20、60、又は190BUである試料7、13、16、17は、おおむね評価が良好であった。
【0085】
したがって、畜肉製品(ソーセージ)に加工タピオカ澱粉を添加することでその食感や離水を改良する場合には、酢酸ビニルを用いてアセチル化された油脂加工タピオカ澱粉のアセチル基含量が0.2〜1質量%であり、且つブレークダウン値が200BU以下であることが好ましいことが明らかとなった。
【0086】
[評価3]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、13、14、19、20を選択し、上記ソーセージを調製したときの硬さ、弾力、離水を上記評価1と同様にして評価した。
【0087】
【表7】

【0088】
表7に示すように、加熱膨潤度が17.3倍である試料19は、離水が多く、保存安定性が悪い物性となった。加熱膨潤度が42.3倍である試料14は噛みごたえと弾力がない食感となった。これに対して、加熱膨潤度が21.1、30.8、又は38.9倍である試料7、13、20は、おおむね評価が良好であった。
【0089】
したがって、畜肉製品(ソーセージ)に加工タピオカ澱粉を添加することでその食感や離水を改良する場合には、酢酸ビニルを用いてアセチル化された油脂加工タピオカ澱粉の加熱膨潤度が20〜40倍であることが好ましいことが明らかとなった。
【0090】
[評価4]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、21〜24を選択し、上記ソーセージを調製したときの硬さ、弾力、離水を上記評価1と同様にして評価した。
【0091】
【表8】

【0092】
表8に示すように、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.01質量部である試料21は、離水が多く、保存安定性が悪い物性となった。また、弾力のない脆い食感となった。一方、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.6質量部である試料24では、噛みごたえのない軟らかな食感となってしまった。これに対して、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02、0.3、又は0.5質量部である試料7、22、23は、おおむね評価が良好であった。
【0093】
したがって、畜肉製品(ソーセージ)に加工タピオカ澱粉を添加することでその食感や離水を改良する場合には、油脂の添加量が酢酸ビニルを用いたアセチル化された加工タピオカ澱粉に対して、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02〜0.5質量部であることが好ましいことが明らかとなった。
【0094】
<試験例2>(畜肉製品(トンカツ)の調製)
表1に示した各種澱粉を配合したピックル液を加水したトンカツを、次のようにして調製した。まず、表9の配合に示したピックル液の原材料をホモジナイザーで混合し完全溶解した。冷凍豚ロースを解凍し、脂や筋をトリミングしておき、各種澱粉を用いたピックル液を、豚ロースに対して135v/w%量インジェクションして加水した。さらに真空タンブリングを行ってピックル液の浸透を促した。加水した豚ロース肉は、リテーナーで成型後、10mm厚にスライスした。スライス肉はバッターリング後にパン粉を付着させ急速凍結した。このサンプルを175℃5分間フライしてトンカツを調製した。
【0095】
【表9】

【0096】
(評価基準)
得られたトンカツの食感の官能検査を表10の基準で行った。官能評価は8名のパネラーの平均点評価で表した。
【0097】
【表10】

【0098】
また、トンカツを冷凍し、1か月保存した後に電子レンジにて再加熱した時の官能評価を表11の基準で行った。評価は8名のパネラーの平均的評価で表した。
【0099】
【表11】

【0100】
[評価5]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料1〜12を選択し、上記トンカツを調製したときのソフト感、肉汁感、肉繊維感、電子レンジ耐性を上記評価基準に基づいて評価した。
【0101】
【表12】

【0102】
表12に示すように、タピオカ澱粉に酢酸ビニルを用いてアセチル化した試料1、無水酢酸を用いてアセチル化した試料2、タピオカ澱粉に無水酢酸とアジピン酸を用いてアセチル化とアジピン酸架橋を施した試料3、タピオカ澱粉に酢酸ビニルとトリメタリン酸ナトリウムを用いてアセチル化とリン酸架橋を施した試料4、タピオカ澱粉に酢酸ビニルとオキシ塩化リンを用いてアセチル化リン酸架橋を施した試料5及び6は全て油脂加工を施していない加工澱粉であり、これらを畜肉製品(トンカツ)に利用した場合、肉のソフト感は向上するものの、澱粉による糊感やヌメリ感が肉汁感や肉繊維感を低下させ、評価は良好ではなかった。
【0103】
これに対して、試料7〜12は試料1〜6に対して油脂を澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.3質量部添加処理することで得た油脂加工タピオカ加工澱粉である。試料8は食感が柔く、澱粉の糊感が感じられる食感を呈し、試料9〜11は肉汁感と肉繊維感に改善が見られたものの、十分なソフト感が得られなかった。試料12はソフト感が出ていたものの肉汁が乏しい食感であった。試料7はソフトでジューシー感が感じられながらも肉繊維感のある食感を示し、電子レンジ加熱後もその食感を維持していた。
【0104】
したがって、畜肉製品(トンカツ)に加工タピオカ澱粉を添加することで肉の食感や電子レンジ耐性を改良する場合には、エステル化剤として酢酸ビニルを用いてアセチル化を施し、更に油脂加工を施し、なお且つアジピン酸、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リンから選ばれる架橋剤による架橋が施されていない加工タピオカ澱粉を利用することが好ましいことが明らかとなった。
【0105】
[評価6]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、13〜18を選択し、上記トンカツを調製したときのソフト感、肉汁感、肉繊維感、電子レンジ耐性を上記評価5と同様にして評価した。
【0106】
【表13】

【0107】
表13に示すように、アセチル基含量が0.1質量%である試料15は、電子レンジ後の食感にパサつきがみられ、電子レンジ耐性が低い結果となった。アセチル基含量が1.1質量%である試料18は、食感が柔く、肉汁感や肉繊維感に乏しい食感となった。試料14はアセチル基含量が試料7と同じく0.6質量%であるが、ブレークダウン値が410BUであり、澱粉の糊感が感じられ、肉汁感と肉繊維感の非常に乏しい食感となった。これに対してアセチル基含量が0.2、0.6、又は0.9質量%であり、且つブレークダウン値が0、20、60、又は190BUである試料7、13、16、17は、おおむね評価が良好であった。
【0108】
したがって、畜肉製品(トンカツ)に加工タピオカ澱粉を添加することで肉の食感や電子レンジ耐性を改良する場合には、酢酸ビニルを用いてアセチル化された油脂加工タピオカ澱粉のアセチル基含量が0.2〜1質量%であり、且つブレークダウン値が200BU以下であることが好ましいことが明らかとなった。
【0109】
[評価7]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、13、14、19、20を選択し、上記トンカツを調製したときのソフト感、肉汁感、肉繊維感、電子レンジ耐性を上記評価5と同様にして評価した。
【0110】
【表14】

【0111】
表14に示すように、加熱膨潤度が17.3倍である試料19は、ソフト感に乏しく、電子レンジ加熱後の食感もパサつきがあり、電子レンジ耐性が低いものであった。加熱膨潤度が42.3倍である試料14は、食感が柔く、さらに、澱粉の糊感が肉繊維感を低下させていた。これに対して、加熱膨潤度が21.1、30.8、又は38.9倍である試料7、13、20は、おおむね評価が良好であった。
【0112】
したがって、畜肉製品(トンカツ)に加工タピオカ澱粉を添加することで肉の食感や電子レンジ耐性を改良する場合には、酢酸ビニルを用いてアセチル化された油脂加工タピオカ澱粉の加熱膨潤度が20〜40倍であることが好ましいことが明らかとなった。
【0113】
[評価8]
畜肉製品に含有させる加工澱粉として上記試料7、21〜24を選択し、上記トンカツを調製したときのソフト感、肉汁感、肉繊維感、電子レンジ耐性を上記評価5と同様にして評価した。
【0114】
【表15】

【0115】
表15に示すように、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.01質量部である試料21は、肉繊維感の乏しい食感となった。一方、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.6質量部である試料24では、肉汁感が非常に低い食感となった。これに対して、油脂の添加量が澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02、0.3、又は0.5質量部である試料7、22、23は、おおむね評価が良好であった。
【0116】
したがって、畜肉製品(トンカツ)に加工タピオカ澱粉を添加することで肉の食感や電子レンジ耐性を改良する場合には、油脂の添加量が酢酸ビニルを用いてアセチル化された加工タピオカ澱粉に対して、澱粉の乾燥物換算100質量部に対して0.02〜0.5質量部であることが好ましいことが明らかとなった。
【0117】
[評価9]
タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化する際に、反応液をpH3に調整することでそのアセチル化反応を終えた試料7、pH4に調整することでそのアセチル化反応を終えた以外は試料7と同様にして調製した試料13、pH5に調整することでそのアセチル化反応を終えた以外は試料7と同様にして調製した試料14、pH2.5に調整することでそのアセチル化反応を終えた以外は試料7と同様にして調製した試料19、pH3.5に調整することでそのアセチル化反応を終えた以外は試料7と同様にして調製した試料20について、それらのブレークダウン値及び加熱膨潤度を比較した。
【0118】
【表16】

【0119】
表16に示すように、酢酸ビニルの添加後、反応を終えるためのpH条件をより低くすると、得られる加工タピオカ澱粉のブレークダウン値及び加熱膨潤度が低下する傾向を示し、酢酸ビニルの添加後、反応を終えるためのpH条件をより高くすると、ブレークダウン値及び加熱膨潤度が上昇する傾向を示した。したがって、酢酸ビニルを用いたアセチル化反応を終えるpHを調節することで、ブレークダウン値及び加熱膨潤度を制御できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤であって、
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル基含量が0.2〜1質量%であり、該澱粉の濃度が乾燥物換算で6質量%となる水懸濁液を撹拌しながら50℃から95℃に至る連続的な加温状態を30分間に亘って与えて更に95℃で30分間保持したときに、該澱粉懸濁液のピーク粘度から、95℃で30分間保持した後のボトム粘度を差し引いたブレークダウン値が200BU以下であることを特徴とする畜肉製品用改良剤。
【請求項2】
タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化してなるアセチル化タピオカ澱粉に、油脂加工を施してなる、油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉を含有する畜肉製品用改良剤であって、
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍であることを特徴とする畜肉製品用改良剤。
【請求項3】
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、加熱膨潤度が20〜40倍である請求項1記載の畜肉製品用改良剤。
【請求項4】
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、アセチル化タピオカ澱粉の乾燥物換算100質量部に対して油脂又は油脂及び乳化剤を0.02〜0.5質量部添加することによって得られたものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の畜肉製品用改良剤。
【請求項5】
前記油脂加工されたアセチル化タピオカ澱粉は、タピオカ澱粉を酢酸ビニルでアセチル化する際に、その添加後又は反応後にpH5未満に調整する処理が施されてなるものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の畜肉製品用改良剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の畜肉製品改良剤を添加してなる畜肉製品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−110973(P2013−110973A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257413(P2011−257413)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【特許番号】特許第4942856号(P4942856)
【特許公報発行日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】