異種金属板材の接合方法
【課題】接着剤を介在させた異種金属板材をスポット溶接する方法において、スポット溶接時の接着剤の逃げを抑制しながら散りよる溶接部のシール不良を防止する。
【解決手段】位置決め治具にセットされたルーフパネル7の車体前端部には溶接位置に対応して車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8が複数形成されている。溶接前の状態としては、凸部8の下端部8aが接着剤21上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。前記位置関係に位置決めした後、溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、凸部8とフロントヘッダー4のフランジ部4aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で通電を行う。電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル7とフロントヘッダー4とは溶接完了となる。
【解決手段】位置決め治具にセットされたルーフパネル7の車体前端部には溶接位置に対応して車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8が複数形成されている。溶接前の状態としては、凸部8の下端部8aが接着剤21上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。前記位置関係に位置決めした後、溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、凸部8とフロントヘッダー4のフランジ部4aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で通電を行う。電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル7とフロントヘッダー4とは溶接完了となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異種金属板材の接合方法に関し、特に、2枚の金属板材の間に接着剤を介在させて電気抵抗スポット溶接する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体においては、燃費の向上や車両の操作性向上等の観点より車体の軽量化が推進されている。この軽量化の有効な手段として、鋼板からアルミニウム板への置き換えが挙げられる。このアルミニウム板の適用箇所としては、車体に装着されるトランクリットやドアなどの蓋物から、最近ではルーフパネルのように車体本体の剛性に影響する部位まで広がっている。
【0003】
一方で、車体の剛性部位、例えばピラーやルーフレール等では、衝突や側突対策として高張力鋼板や引張り強さ980MPa以上の超高張力鋼板が採用されている。前述のように鋼板からアルミニウム板への置き換えが強度剛性上困難な部位も存在しており、このような部位では鋼材とアルミニウム板とを組合せた異種金属板材の構造体となる。鋼材とアルミニウム板とは融点、熱伝導率、抵抗等の物性値が相互に大きく異なっているため、自動車の組立てで最も多用される電気抵抗スポット溶接、特に既存の鋼板同士のスポット溶接設備では難しいとされている。これは、アルミニウム板が鋼材に比べて電気伝導率及び熱伝導率が高く、大電流を必要とするからである。また、例え溶接部を形成したとしても、鋼材とアルミニウム板とでは電位差が異なることから、水等の電解質によりその溶接部が局部電池を構成し腐食所謂、電食の問題が存在している。
【0004】
電気抵抗溶接の手法として、スポット溶接と接着剤とを併用したウェルドボンド法がある。このウェルドボンド法はスポット溶接だけの接合に比べ、疲労特性、剛性等が改善されると共に溶接部の周囲にシール性が付与され前述した耐食性が向上する利点を有している。特開平6−55277号公報には、アルミ合金をコーティングした鋼板とアルミニウム板とをウェルドボンド法で接合することで、接合界面にシール性を有したAl−Feの合金層を形成し高い接合強度を得る技術が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−55277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼板とアルミニウム板との接合のメカニズムはアルミニウム板の界面部分を溶融し、Al−Fe間の拡散を生じさせることで接合強度を得ることから、アルミニウム板が溶融飛散する所謂、散りが発生する。特に、溶接時の供給電流が大きくなる程散りの発生は多くなる傾向にある。この散りが発生した場合、溶融したアルミニウムが接着剤を横切る状態で進行するため接合部のシール性が十分に確保できないという問題が存在する。
【0007】
図17及び図18に示すように、前述したウェルドボンド法による接合について実験を行った。図17に示すように、アルミニウム合金板Aと鋼板Bとの間に接着剤Cを介在させた状態で重ね合せて配置した。尚、接着剤Cは熱硬化性樹脂を用いている。次に、図18に示すように、位置決め治具等により位置決めした後、電極Dにて接合部を加圧し通電を行い溶接部を形成した。
【0008】
接合部の要部断面図を図19に示す。アルミニウム合金板Aと鋼板Bとは電極Dにより加圧されたため、溶接部を基点として反った凹形状に変形しており、この変形に伴い接合界面に隙間が形成されている。また、右側の隙間の接着剤Cには散り発生に起因する接着剤切れEが観察された。
【0009】
図20に鋼板Bを除いた溶接部の平面図を示す。接合部周囲の半分以上は接着剤Cによる接着面積を確保できているが、残りは散りによる接着剤切れE領域が発生している。一部では散りが接着剤Cの外周縁部まで達していることが分かる。以上のことから、電極Dによる加圧力により金属板材が凹形状に変形し、接合界面に生じた隙間に接着剤Cが逃げることにより散りの飛散、進行が拡大しているものと考えられる。
【0010】
また、散りが発生すると引張り剪断強度が一旦下降するがその後向上することが判明した。この理由としては、溶融することによってアルミニウム合金表面の酸化皮膜が破壊され、更に、界面に存在する不純物を外に放出することができ、Al−Fe間の拡散接合が強化されると推測される。つまり、高い接合強度を得るには、散りの発生を許容しながら接着剤切れを対策する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、接着剤を介在させた異種金属板材をスポット溶接する方法において、スポット溶接時の接着剤の逃げを抑制しながら散りよる溶接部のシール不良を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の異種金属板材の接合方法は、第1金属板材の被接合部とこの第1金属板材より融点の高い第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させ、前記両被接合部を1対の電極で加圧した状態で電気抵抗スポット溶接する接合方法において、前記第1金属板材の被接合部と第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させる第1工程と、前記第1金属板材と前記第2金属板材との溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める第2工程と、前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めた状態で1対の電極で溶接する第3工程とを備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項2の異種金属板材の接合方法は、請求項1発明において、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を予め設け、加圧手段は1対の電極の加圧力を用いて動作することを特徴としている。
【0014】
請求項3の異種金属板材の接合方法は、請求項2の発明において、両金属板材の何れか一方の金属板材の被接合部の溶接位置に対応させて凸部を形成し、一方の電極で前記凸部を加圧して溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることを特徴としている。
【0015】
請求項4の異種金属板材の接合方法は、請求項3の発明において、第1金属板材はアルミニウム合金板、第2金属板材は鋼板であり、このアルミニウム合金板に凸部を形成したことを特徴としている。
【0016】
請求項5の異種金属板材の接合方法は、請求項3又は4の発明において、第1金属板材と第2金属板材とは車体の構成板材であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、接着剤を介在させた異種金属をスポット溶接する方法において、散り発生に起因する接着剤切れを防止し、接合強度確保とシール性確保とが可能となる。つまり、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることで、電極の加圧に起因する金属板材の反りを防止し、接着剤の逃げを抑制することが可能となる。従って、散りが接着剤の外周縁部まで広い範囲に渡って進行することを防止できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を設け、電極による溶接時の加圧動作を利用して加圧手段を動作させることが可能となる。従って、別途重ね合せ力を発生させる駆動源を用いることなく、効果的に溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることが可能となる。
【0019】
請求項3の発明によれば、金属板材の形状変更により、別途重ね合せ力を発生させる駆動源及び加圧する機構を用いることなく溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることが可能となる。
【0020】
請求項4の発明によれば、第1金属板材はアルミニウム合金板、第2金属板材は鋼板において、請求項3の発明と同様の効果を得ることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、車体の構成板材において、請求項3の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例1について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1,図2に示すように、ワゴン系の自動車の車体構造Mは、左右1対のフロントピラー1、左右1対のセンタピラー2、左右1対のリヤピラー3、左右1対のフロントピラー1の上端部を連結するフロントヘッダー4、左右1対のリヤピラー3の上端部を連結するリヤヘッダー5、フロントピラー1の上端部とリヤピラー3の上端部とに渡って延設された左右1対のルーフサイドレール6と、ルーフパネル7とを有している。ルーフパネル7以外の諸部材は鋼板製である。尚、図2はルーフパネル7を省略して図示した自動車の車体構造Mの要部平面図である。
【0025】
6000系アルミニウム合金板からなるルーフパネル7は、前後左右端部に溶接位置に対応させて車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8と左右端部に立上部9とを有している。車体上部前端はルーフパネル7の前端部分とフロントヘッダー4とによる閉断面構造、車体上部後端はルーフパネル7の後端部分とリヤヘッダー5とによる閉断面構造を形成している。また、鋼製の補強板部材10a〜10dが左右1対のルーフサイドレール6に架渡されルーフ強度を補強している。車体上部側端のルーフサイドレール6は、キャブサイドアウタ11とキャビン側のルーフレールインナ12とで閉断面を構成し、この閉断面を2分割するようにルーフレールレインフォースメント13が配置される構成となっている。ルーフパネル7はフロントヘッダー4、リヤヘッダー5及びルーフサイドレール6に電気抵抗スポット溶接によって車体本体Mに接合される。
【0026】
前記スポット溶接を行う電気抵抗スポット溶接装置14について、図3に基づいて説明する。スポット溶接装置14は溶接ガン15を装備したロボット16と、溶接ガン15とロボット16とを駆動制御する制御装置17と、溶接ガン15でスポット接合する際、金属板材を重ね合せた状態で位置決め保持する位置決め治具(図示略)とを備えている。ロボット16は汎用の6軸垂直多関節型ロボットであり、そのロボットハンドの先端部に溶接ガン15が装着されている。このロボット16が、溶接ガン15を位置決め治具で保持された金属構成部材の溶接動作位置と、溶接動作位置から退避した待機位置とに移動動作させる。
【0027】
溶接ガン15は、コの字状のフレームになっており、電極支持部18に設置された第1電極20と電極支持部19に設置された第2電極21と駆動機構22とを有する。第1電極20と第2電極21とは対向配置され、駆動機構22が前記電極を軸上で移動させることで第1電極20と第2電極21との加圧力及びその間隔を制御している。尚、溶接条件としては、通電可能な電流値は8K〜16KA、加圧力は300〜500Kgf及び通電時間は0.05〜0.3秒に設定されている。
【0028】
以下に、ルーフパネル7とルーフサイドレール1とのスポット溶接工程を説明する。
図4に示すように、車両構造Mを位置決め治具にセットした後、フロントヘッダー4の車体下方に位置するフランジ部4a上には溶接位置を覆う状態で1液性熱硬化型エポキシ系の接着剤23が車幅方向に沿って所定間隔おきに複数箇所に塗布されている。尚、接着剤としては、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等他の熱硬化型接着剤であっても良く、電気絶縁性を確保できるものであれば良い。また、接着剤23の厚みは100μm程度である。
フロントヘッダー4の車体上方に位置するフランジ部4bには、車幅方向に沿って間欠的にゴム系のシーラ24が配置されている。尚、シーラ24は、例えばブチルゴム、ポリイソブチレン等のエラストマと粘着樹脂の混合物を基材としている。
【0029】
図5に示すように、別途位置決め治具にセットされたルーフパネル7がフロントヘッダー4に対して位置決めされる。前述したように、ルーフパネル7の車体前端部には溶接位置に対応して車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8が複数形成されている。溶接前の状態としては、ルーフパネル7の凸部8の下端部8aが接着剤23上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。尚、ルーフパネル7は板厚が1.2mmの6000系アルミニウム合金板である。
【0030】
前記位置関係に位置決めした後、スポット溶接装置14にて溶接を行う。溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、ルーフパネル7の凸部8とフロントヘッダー4のフランジ部4aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で通電を行う。図6に示すように、電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル7とフロントヘッダー4とは溶接完了となる。次に、同様の方法でリヤヘッダー5とルーフパネル7との接合が行われる。
【0031】
図7〜図9に基づいて、実施例1の作用を説明する。
図7に示すように、ルーフパネル7の凸部8は円錐形状となっており、その下端部8aより広い範囲に接着剤23は塗布されている。実施例1では凸部8で形成される空間に一部接着剤23が充填される状態となっている。
【0032】
図8に示すように、電極20,21の加圧動作後、電極20が凸部8の頂点8bに、また、電極21がフロントヘッダー4のフランジ部4aに当接する。更に電極20,21による加圧が進むと、凸部8の下端部8aが接着剤23を押付け、下端部8aとフランジ部4aとが圧接し接着剤23を収容する閉空間を形成する。圧接後の電極20,21の更なる加圧力により、凸部8の下端部8aとフランジ部4aとが圧接した状態で前記閉空間が押し潰される状態となり、凸部8の頂点8bとフランジ部4aとが圧接された状態で通電されることになる。
【0033】
図9に示すように、接着剤23を凸部8とフランジ部4aとで形成する閉空間に密封した状態で凸部8の頂点8b部分とフランジ部4aとが溶接部位を形成している。つまり、凸部8の形状を利用して、電極の加圧力による金属板材の反りを抑制するだけでなく、積極的に閉空間を形成して接着剤23の逃げを防止することにより、散り発生に起因する接着剤切れを抑制している。尚、凸部8の頂点8b部分とフランジ部4aとの界面にはAl−Feの合金層が形成されている。
【実施例2】
【0034】
次に、実施例2に係るルーフパネル7とルーフサイドレール6との接合方法について、図10〜12に基づいて説明する。尚、この接合方法のうち、前記実施例1の接合方法と同様の部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0035】
図10に示すように、キャブサイドアウタ11とルーフレールインナ12とルーフレールレインフォースメント13との車体内側のフランジ部11a,12a,13a及び車体外側フランジ部11b,12b,13bとは車体組立て工程にてスポット溶接等により予め閉断面を構成している。尚、キャブサイドアウタ11は板厚が0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき軟鋼板、ルーフレールレインフォースメント13は板厚が1.4mmの980MPa級高張力鋼板を用いている。
このルーフサイドレール6を含む車両構造Mを位置決め治具にセットした後、キャブサイドアウタ11の車体内側のフランジ部11a上に溶接位置を覆う状態でエポキシ系の接着剤6を厚み100μm程度塗布する。
【0036】
図11に示すように、別途位置決め治具にセットされたルーフパネル7がルーフサイドレール6に対して位置決めされる。前述したように、ルーフパネル7の車体外側の左右端部には外縁部に立上部9が形成されると共に、接着剤23に相当する部位には300μm程度の凸部8が車幅方向に沿って所定間隔おきに形成されている。溶接前の状態としては、ルーフパネル7の凸部8の下端部8aが接着剤23上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。
【0037】
前記位置関係に位置決めした後、スポット溶接装置14にて溶接を行う。溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、ルーフパネル7の凸部8とキャブサイドアウタ11とルーフレールレインフォースメント13との接合フランジ部11a,12aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で12KAの通電を行う。図12に示すように、電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル5とルーフサイドレール6とは溶接完了となる。
【0038】
図13〜図15に基づいて、実施例2の作用を説明する。
実施例1と同様に、電極20,21の加圧動作後、電極20が凸部8の頂点8bに、また、電極21がルーフレールレインフォースメント13のフランジ部13aに当接する。更に電極20,21による加圧が進むと、凸部8の下端部8aが接着剤23を押付け、下端部8aとキャブサイドアウタ11のフランジ部11aとが圧接し接着剤23を収容する閉空間を形成する。圧接後の電極20,21の更なる加圧力により、凸部8の下端部8aとフランジ部11aとが圧接した状態で前記閉空間が押し潰される状態となり、凸部8の頂点8bとフランジ部11aとが圧接された状態で通電されることになる。
【0039】
図15に示すように、接着剤23を凸部8とフランジ部11aとで形成する閉空間に密封した状態で凸部8の頂点8b部分とフランジ部11aとが溶接部位を形成しており、散り発生に起因する接着剤切れを抑制している。
キャブサイドアウタ11のフランジ部11aとルーフレールレインフォースメント13のフランジ部13aとの間には双方にナゲットN1が確認され、ルーフレールレインフォースメント13の溶接領域の組織は粗大化していた。また、ルーフパネル7とキャブサイドアウタ11のフランジ部11aとの接合部分では、ルーフパネル7側のN2領域にナゲットが確認され、その界面は拡散接合されていることが観察された。特に、キャブサイドアウタ11とルーフレールレインフォースメント13との板組とルーフパネル7との溶接では実施例1に比べ通電抵抗を高くすることができ、ルーフパネル7側のナゲットを短時間で形成でき且つ、高い接合強度を得ることが可能となる。
【実施例3】
【0040】
次に、実施例3に係る電極の構造について、図16に基づいて説明する。
溶接ガン15の電極20,21の外周には夫々円環形状の把持部25,26が設置されている。把持部25,26の先端部25a,26aは電極20,21の先端より前方に位置しており、電極20,21が近接動作すると電極より先に当接するように設定されている。また、電極20,21を電極支持部18,19に連結する連結部材20a,21aは把持部25,26に対して相対移動可能とされている。
【0041】
把持部25,26の溶接動作について説明する。
溶接時、加圧動作が開始されると電極支持部18,19が被溶接板材に近接し、これに伴い電極20,21及び把持部25,26も近接する。前述したように、把持部25,26の先端部25a,26aが電極20,21より先に被溶接板材に当接し、被溶接板材を上下で把持する状態になる。更に動作が進み、把持する加圧力が所定値以上になると把持部25,26に対して連結部材20a,21aが独立して移動し、電極20,21による溶接部位の加圧通電が行われる。尚、前記所定値とは、電極20,21の加圧により接着剤23の逃げを発生させない値としている。
【0042】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例1,2においては、ワゴン系の自動車の車体構造に本発明の接合方法を適用した場合の例について説明したが、セダン系の自動車の車体構造にも、本発明の接合方法を適用できる。
【0043】
2〕前記実施例1,2においては、アルミニウム合金板のルーフパネルと合金化溶融亜鉛めっき軟鋼板のフロントヘッダー及びキャブサイドアウタと980MPa級高張力鋼板のルーフレールレインフォースメントの接合技術を例として説明したが、共に他金属板材の組合せ又は同種金属板材の組合せでも本発明を適用できる。また、金属板材は3枚以上の接合でもよく、特に、融点の低い金属板材の接合では3枚以上を重ね合せて接合することが好ましい。更に、適用部位としては実施例の部位に限られるものではなく、エンジンルーム内のエンジン支持メンバー等腐食対策の必要な箇所に本発明の接合方法を適用可能である。
【0044】
3〕前記実施例1,2においては、スポット溶接の電流値は、金属板材の枚数や材質に応じて変更可能である。特に、8K〜16KAの範囲であれば、既存の鋼板用スポット溶接装置を利用可能であり、実施例1の2枚溶接では接合強度を高めるために、高い値の電流値が必要である。
【0045】
4〕前記実施例1,2においては、凸部形状を円錐形状としたが、半球形状等接着剤を収容でき且つ、接着剤の逃げを抑制できるものであれば良い。また、ルーフパネルに形成した凸部を300μmとしたが、接着剤の逃げを抑制し且つ接着剤が収容できる範囲で設定可能である。また、1mm以下であれば、ルーフパネルの延びによる歪を吸収し、端部の剛性を向上させることも可能である。
【0046】
5〕前記実施例3においては、把持部先端を円環状としたが、溶接位置構造に合せて把持部先端形状を形成するものでも良い。
【0047】
6〕前記実施例3においては、電極と同軸に把持部を形成したが、駆動機構による電極の加圧力を兼用できる構造であれば良く、電極と別体として構成することもできる。
【0048】
7〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1の車体構造とルーフパネルとの分解斜視図である。
【図2】ルーフパネルを除いた車体構造の要部平面図である。
【図3】電気抵抗スポット溶接装置の側面図である。
【図4】本発明の実施例1の接合前のフロントヘッダーの断面図である。
【図5】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合時の断面図である。
【図6】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合完了後の断面図である。
【図7】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合初期の要部断面図である。
【図8】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合後期の要部断面図である。
【図9】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合完了後の要部断面図である。
【図10】本発明の実施例2の接合前のルーフレールの断面図である。
【図11】ルーフパネルとルーフレールとの接合時の断面図である。
【図12】ルーフパネルとルーフレールとの接合完了後の断面図である。
【図13】ルーフパネルとルーフレールとの接合初期の要部断面図である。
【図14】ルーフパネルとルーフレールとの接合後期の要部断面図である。
【図15】ルーフパネルとルーフレールとの接合完了後の要部断面図である。
【図16】本発明の実施例3の電極周辺の拡大斜視図である。
【図17】従来のウエルドボンド法における接合初期の要部断面図である。
【図18】従来のウエルドボンド法における接合後期の要部断面図である。
【図19】従来のウエルドボンド法における接合完了後の要部断面図である。
【図20】従来のウエルドボンド法における接合完了後の溶接部の平面図である。
【符号の説明】
【0050】
M 車体構造
4 フロントヘッダー
4a フランジ部
7 ルーフパネル
8 凸部
11 キャブサイドアウタ
11a フランジ部
13 ルーフレールレインフォースメント
13a フランジ部
14 スポット溶接装置
15 溶接ガン
20 第1電極
21 第2電極
23 接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は異種金属板材の接合方法に関し、特に、2枚の金属板材の間に接着剤を介在させて電気抵抗スポット溶接する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体においては、燃費の向上や車両の操作性向上等の観点より車体の軽量化が推進されている。この軽量化の有効な手段として、鋼板からアルミニウム板への置き換えが挙げられる。このアルミニウム板の適用箇所としては、車体に装着されるトランクリットやドアなどの蓋物から、最近ではルーフパネルのように車体本体の剛性に影響する部位まで広がっている。
【0003】
一方で、車体の剛性部位、例えばピラーやルーフレール等では、衝突や側突対策として高張力鋼板や引張り強さ980MPa以上の超高張力鋼板が採用されている。前述のように鋼板からアルミニウム板への置き換えが強度剛性上困難な部位も存在しており、このような部位では鋼材とアルミニウム板とを組合せた異種金属板材の構造体となる。鋼材とアルミニウム板とは融点、熱伝導率、抵抗等の物性値が相互に大きく異なっているため、自動車の組立てで最も多用される電気抵抗スポット溶接、特に既存の鋼板同士のスポット溶接設備では難しいとされている。これは、アルミニウム板が鋼材に比べて電気伝導率及び熱伝導率が高く、大電流を必要とするからである。また、例え溶接部を形成したとしても、鋼材とアルミニウム板とでは電位差が異なることから、水等の電解質によりその溶接部が局部電池を構成し腐食所謂、電食の問題が存在している。
【0004】
電気抵抗溶接の手法として、スポット溶接と接着剤とを併用したウェルドボンド法がある。このウェルドボンド法はスポット溶接だけの接合に比べ、疲労特性、剛性等が改善されると共に溶接部の周囲にシール性が付与され前述した耐食性が向上する利点を有している。特開平6−55277号公報には、アルミ合金をコーティングした鋼板とアルミニウム板とをウェルドボンド法で接合することで、接合界面にシール性を有したAl−Feの合金層を形成し高い接合強度を得る技術が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−55277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼板とアルミニウム板との接合のメカニズムはアルミニウム板の界面部分を溶融し、Al−Fe間の拡散を生じさせることで接合強度を得ることから、アルミニウム板が溶融飛散する所謂、散りが発生する。特に、溶接時の供給電流が大きくなる程散りの発生は多くなる傾向にある。この散りが発生した場合、溶融したアルミニウムが接着剤を横切る状態で進行するため接合部のシール性が十分に確保できないという問題が存在する。
【0007】
図17及び図18に示すように、前述したウェルドボンド法による接合について実験を行った。図17に示すように、アルミニウム合金板Aと鋼板Bとの間に接着剤Cを介在させた状態で重ね合せて配置した。尚、接着剤Cは熱硬化性樹脂を用いている。次に、図18に示すように、位置決め治具等により位置決めした後、電極Dにて接合部を加圧し通電を行い溶接部を形成した。
【0008】
接合部の要部断面図を図19に示す。アルミニウム合金板Aと鋼板Bとは電極Dにより加圧されたため、溶接部を基点として反った凹形状に変形しており、この変形に伴い接合界面に隙間が形成されている。また、右側の隙間の接着剤Cには散り発生に起因する接着剤切れEが観察された。
【0009】
図20に鋼板Bを除いた溶接部の平面図を示す。接合部周囲の半分以上は接着剤Cによる接着面積を確保できているが、残りは散りによる接着剤切れE領域が発生している。一部では散りが接着剤Cの外周縁部まで達していることが分かる。以上のことから、電極Dによる加圧力により金属板材が凹形状に変形し、接合界面に生じた隙間に接着剤Cが逃げることにより散りの飛散、進行が拡大しているものと考えられる。
【0010】
また、散りが発生すると引張り剪断強度が一旦下降するがその後向上することが判明した。この理由としては、溶融することによってアルミニウム合金表面の酸化皮膜が破壊され、更に、界面に存在する不純物を外に放出することができ、Al−Fe間の拡散接合が強化されると推測される。つまり、高い接合強度を得るには、散りの発生を許容しながら接着剤切れを対策する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、接着剤を介在させた異種金属板材をスポット溶接する方法において、スポット溶接時の接着剤の逃げを抑制しながら散りよる溶接部のシール不良を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の異種金属板材の接合方法は、第1金属板材の被接合部とこの第1金属板材より融点の高い第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させ、前記両被接合部を1対の電極で加圧した状態で電気抵抗スポット溶接する接合方法において、前記第1金属板材の被接合部と第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させる第1工程と、前記第1金属板材と前記第2金属板材との溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める第2工程と、前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めた状態で1対の電極で溶接する第3工程とを備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項2の異種金属板材の接合方法は、請求項1発明において、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を予め設け、加圧手段は1対の電極の加圧力を用いて動作することを特徴としている。
【0014】
請求項3の異種金属板材の接合方法は、請求項2の発明において、両金属板材の何れか一方の金属板材の被接合部の溶接位置に対応させて凸部を形成し、一方の電極で前記凸部を加圧して溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることを特徴としている。
【0015】
請求項4の異種金属板材の接合方法は、請求項3の発明において、第1金属板材はアルミニウム合金板、第2金属板材は鋼板であり、このアルミニウム合金板に凸部を形成したことを特徴としている。
【0016】
請求項5の異種金属板材の接合方法は、請求項3又は4の発明において、第1金属板材と第2金属板材とは車体の構成板材であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、接着剤を介在させた異種金属をスポット溶接する方法において、散り発生に起因する接着剤切れを防止し、接合強度確保とシール性確保とが可能となる。つまり、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることで、電極の加圧に起因する金属板材の反りを防止し、接着剤の逃げを抑制することが可能となる。従って、散りが接着剤の外周縁部まで広い範囲に渡って進行することを防止できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を設け、電極による溶接時の加圧動作を利用して加圧手段を動作させることが可能となる。従って、別途重ね合せ力を発生させる駆動源を用いることなく、効果的に溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることが可能となる。
【0019】
請求項3の発明によれば、金属板材の形状変更により、別途重ね合せ力を発生させる駆動源及び加圧する機構を用いることなく溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることが可能となる。
【0020】
請求項4の発明によれば、第1金属板材はアルミニウム合金板、第2金属板材は鋼板において、請求項3の発明と同様の効果を得ることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、車体の構成板材において、請求項3の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例1について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1,図2に示すように、ワゴン系の自動車の車体構造Mは、左右1対のフロントピラー1、左右1対のセンタピラー2、左右1対のリヤピラー3、左右1対のフロントピラー1の上端部を連結するフロントヘッダー4、左右1対のリヤピラー3の上端部を連結するリヤヘッダー5、フロントピラー1の上端部とリヤピラー3の上端部とに渡って延設された左右1対のルーフサイドレール6と、ルーフパネル7とを有している。ルーフパネル7以外の諸部材は鋼板製である。尚、図2はルーフパネル7を省略して図示した自動車の車体構造Mの要部平面図である。
【0025】
6000系アルミニウム合金板からなるルーフパネル7は、前後左右端部に溶接位置に対応させて車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8と左右端部に立上部9とを有している。車体上部前端はルーフパネル7の前端部分とフロントヘッダー4とによる閉断面構造、車体上部後端はルーフパネル7の後端部分とリヤヘッダー5とによる閉断面構造を形成している。また、鋼製の補強板部材10a〜10dが左右1対のルーフサイドレール6に架渡されルーフ強度を補強している。車体上部側端のルーフサイドレール6は、キャブサイドアウタ11とキャビン側のルーフレールインナ12とで閉断面を構成し、この閉断面を2分割するようにルーフレールレインフォースメント13が配置される構成となっている。ルーフパネル7はフロントヘッダー4、リヤヘッダー5及びルーフサイドレール6に電気抵抗スポット溶接によって車体本体Mに接合される。
【0026】
前記スポット溶接を行う電気抵抗スポット溶接装置14について、図3に基づいて説明する。スポット溶接装置14は溶接ガン15を装備したロボット16と、溶接ガン15とロボット16とを駆動制御する制御装置17と、溶接ガン15でスポット接合する際、金属板材を重ね合せた状態で位置決め保持する位置決め治具(図示略)とを備えている。ロボット16は汎用の6軸垂直多関節型ロボットであり、そのロボットハンドの先端部に溶接ガン15が装着されている。このロボット16が、溶接ガン15を位置決め治具で保持された金属構成部材の溶接動作位置と、溶接動作位置から退避した待機位置とに移動動作させる。
【0027】
溶接ガン15は、コの字状のフレームになっており、電極支持部18に設置された第1電極20と電極支持部19に設置された第2電極21と駆動機構22とを有する。第1電極20と第2電極21とは対向配置され、駆動機構22が前記電極を軸上で移動させることで第1電極20と第2電極21との加圧力及びその間隔を制御している。尚、溶接条件としては、通電可能な電流値は8K〜16KA、加圧力は300〜500Kgf及び通電時間は0.05〜0.3秒に設定されている。
【0028】
以下に、ルーフパネル7とルーフサイドレール1とのスポット溶接工程を説明する。
図4に示すように、車両構造Mを位置決め治具にセットした後、フロントヘッダー4の車体下方に位置するフランジ部4a上には溶接位置を覆う状態で1液性熱硬化型エポキシ系の接着剤23が車幅方向に沿って所定間隔おきに複数箇所に塗布されている。尚、接着剤としては、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等他の熱硬化型接着剤であっても良く、電気絶縁性を確保できるものであれば良い。また、接着剤23の厚みは100μm程度である。
フロントヘッダー4の車体上方に位置するフランジ部4bには、車幅方向に沿って間欠的にゴム系のシーラ24が配置されている。尚、シーラ24は、例えばブチルゴム、ポリイソブチレン等のエラストマと粘着樹脂の混合物を基材としている。
【0029】
図5に示すように、別途位置決め治具にセットされたルーフパネル7がフロントヘッダー4に対して位置決めされる。前述したように、ルーフパネル7の車体前端部には溶接位置に対応して車幅方向に沿って所定間隔おきに円錐形状の凸部8が複数形成されている。溶接前の状態としては、ルーフパネル7の凸部8の下端部8aが接着剤23上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。尚、ルーフパネル7は板厚が1.2mmの6000系アルミニウム合金板である。
【0030】
前記位置関係に位置決めした後、スポット溶接装置14にて溶接を行う。溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、ルーフパネル7の凸部8とフロントヘッダー4のフランジ部4aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で通電を行う。図6に示すように、電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル7とフロントヘッダー4とは溶接完了となる。次に、同様の方法でリヤヘッダー5とルーフパネル7との接合が行われる。
【0031】
図7〜図9に基づいて、実施例1の作用を説明する。
図7に示すように、ルーフパネル7の凸部8は円錐形状となっており、その下端部8aより広い範囲に接着剤23は塗布されている。実施例1では凸部8で形成される空間に一部接着剤23が充填される状態となっている。
【0032】
図8に示すように、電極20,21の加圧動作後、電極20が凸部8の頂点8bに、また、電極21がフロントヘッダー4のフランジ部4aに当接する。更に電極20,21による加圧が進むと、凸部8の下端部8aが接着剤23を押付け、下端部8aとフランジ部4aとが圧接し接着剤23を収容する閉空間を形成する。圧接後の電極20,21の更なる加圧力により、凸部8の下端部8aとフランジ部4aとが圧接した状態で前記閉空間が押し潰される状態となり、凸部8の頂点8bとフランジ部4aとが圧接された状態で通電されることになる。
【0033】
図9に示すように、接着剤23を凸部8とフランジ部4aとで形成する閉空間に密封した状態で凸部8の頂点8b部分とフランジ部4aとが溶接部位を形成している。つまり、凸部8の形状を利用して、電極の加圧力による金属板材の反りを抑制するだけでなく、積極的に閉空間を形成して接着剤23の逃げを防止することにより、散り発生に起因する接着剤切れを抑制している。尚、凸部8の頂点8b部分とフランジ部4aとの界面にはAl−Feの合金層が形成されている。
【実施例2】
【0034】
次に、実施例2に係るルーフパネル7とルーフサイドレール6との接合方法について、図10〜12に基づいて説明する。尚、この接合方法のうち、前記実施例1の接合方法と同様の部材に同一の符号を付して説明を省略する。
【0035】
図10に示すように、キャブサイドアウタ11とルーフレールインナ12とルーフレールレインフォースメント13との車体内側のフランジ部11a,12a,13a及び車体外側フランジ部11b,12b,13bとは車体組立て工程にてスポット溶接等により予め閉断面を構成している。尚、キャブサイドアウタ11は板厚が0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき軟鋼板、ルーフレールレインフォースメント13は板厚が1.4mmの980MPa級高張力鋼板を用いている。
このルーフサイドレール6を含む車両構造Mを位置決め治具にセットした後、キャブサイドアウタ11の車体内側のフランジ部11a上に溶接位置を覆う状態でエポキシ系の接着剤6を厚み100μm程度塗布する。
【0036】
図11に示すように、別途位置決め治具にセットされたルーフパネル7がルーフサイドレール6に対して位置決めされる。前述したように、ルーフパネル7の車体外側の左右端部には外縁部に立上部9が形成されると共に、接着剤23に相当する部位には300μm程度の凸部8が車幅方向に沿って所定間隔おきに形成されている。溶接前の状態としては、ルーフパネル7の凸部8の下端部8aが接着剤23上に当接し、凸部8で形成される空間に一部接着剤23が収容される形となっている。
【0037】
前記位置関係に位置決めした後、スポット溶接装置14にて溶接を行う。溶接ガン15を移動させて、電極20,21を前記凸部8の位置で接近動作させ、ルーフパネル7の凸部8とキャブサイドアウタ11とルーフレールレインフォースメント13との接合フランジ部11a,12aとを接着剤23を介在させた状態で加圧し、その後加圧した状態で12KAの通電を行う。図12に示すように、電極20,21の加圧力によって凸部8は押し潰された状態になり、ルーフパネル5とルーフサイドレール6とは溶接完了となる。
【0038】
図13〜図15に基づいて、実施例2の作用を説明する。
実施例1と同様に、電極20,21の加圧動作後、電極20が凸部8の頂点8bに、また、電極21がルーフレールレインフォースメント13のフランジ部13aに当接する。更に電極20,21による加圧が進むと、凸部8の下端部8aが接着剤23を押付け、下端部8aとキャブサイドアウタ11のフランジ部11aとが圧接し接着剤23を収容する閉空間を形成する。圧接後の電極20,21の更なる加圧力により、凸部8の下端部8aとフランジ部11aとが圧接した状態で前記閉空間が押し潰される状態となり、凸部8の頂点8bとフランジ部11aとが圧接された状態で通電されることになる。
【0039】
図15に示すように、接着剤23を凸部8とフランジ部11aとで形成する閉空間に密封した状態で凸部8の頂点8b部分とフランジ部11aとが溶接部位を形成しており、散り発生に起因する接着剤切れを抑制している。
キャブサイドアウタ11のフランジ部11aとルーフレールレインフォースメント13のフランジ部13aとの間には双方にナゲットN1が確認され、ルーフレールレインフォースメント13の溶接領域の組織は粗大化していた。また、ルーフパネル7とキャブサイドアウタ11のフランジ部11aとの接合部分では、ルーフパネル7側のN2領域にナゲットが確認され、その界面は拡散接合されていることが観察された。特に、キャブサイドアウタ11とルーフレールレインフォースメント13との板組とルーフパネル7との溶接では実施例1に比べ通電抵抗を高くすることができ、ルーフパネル7側のナゲットを短時間で形成でき且つ、高い接合強度を得ることが可能となる。
【実施例3】
【0040】
次に、実施例3に係る電極の構造について、図16に基づいて説明する。
溶接ガン15の電極20,21の外周には夫々円環形状の把持部25,26が設置されている。把持部25,26の先端部25a,26aは電極20,21の先端より前方に位置しており、電極20,21が近接動作すると電極より先に当接するように設定されている。また、電極20,21を電極支持部18,19に連結する連結部材20a,21aは把持部25,26に対して相対移動可能とされている。
【0041】
把持部25,26の溶接動作について説明する。
溶接時、加圧動作が開始されると電極支持部18,19が被溶接板材に近接し、これに伴い電極20,21及び把持部25,26も近接する。前述したように、把持部25,26の先端部25a,26aが電極20,21より先に被溶接板材に当接し、被溶接板材を上下で把持する状態になる。更に動作が進み、把持する加圧力が所定値以上になると把持部25,26に対して連結部材20a,21aが独立して移動し、電極20,21による溶接部位の加圧通電が行われる。尚、前記所定値とは、電極20,21の加圧により接着剤23の逃げを発生させない値としている。
【0042】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例1,2においては、ワゴン系の自動車の車体構造に本発明の接合方法を適用した場合の例について説明したが、セダン系の自動車の車体構造にも、本発明の接合方法を適用できる。
【0043】
2〕前記実施例1,2においては、アルミニウム合金板のルーフパネルと合金化溶融亜鉛めっき軟鋼板のフロントヘッダー及びキャブサイドアウタと980MPa級高張力鋼板のルーフレールレインフォースメントの接合技術を例として説明したが、共に他金属板材の組合せ又は同種金属板材の組合せでも本発明を適用できる。また、金属板材は3枚以上の接合でもよく、特に、融点の低い金属板材の接合では3枚以上を重ね合せて接合することが好ましい。更に、適用部位としては実施例の部位に限られるものではなく、エンジンルーム内のエンジン支持メンバー等腐食対策の必要な箇所に本発明の接合方法を適用可能である。
【0044】
3〕前記実施例1,2においては、スポット溶接の電流値は、金属板材の枚数や材質に応じて変更可能である。特に、8K〜16KAの範囲であれば、既存の鋼板用スポット溶接装置を利用可能であり、実施例1の2枚溶接では接合強度を高めるために、高い値の電流値が必要である。
【0045】
4〕前記実施例1,2においては、凸部形状を円錐形状としたが、半球形状等接着剤を収容でき且つ、接着剤の逃げを抑制できるものであれば良い。また、ルーフパネルに形成した凸部を300μmとしたが、接着剤の逃げを抑制し且つ接着剤が収容できる範囲で設定可能である。また、1mm以下であれば、ルーフパネルの延びによる歪を吸収し、端部の剛性を向上させることも可能である。
【0046】
5〕前記実施例3においては、把持部先端を円環状としたが、溶接位置構造に合せて把持部先端形状を形成するものでも良い。
【0047】
6〕前記実施例3においては、電極と同軸に把持部を形成したが、駆動機構による電極の加圧力を兼用できる構造であれば良く、電極と別体として構成することもできる。
【0048】
7〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1の車体構造とルーフパネルとの分解斜視図である。
【図2】ルーフパネルを除いた車体構造の要部平面図である。
【図3】電気抵抗スポット溶接装置の側面図である。
【図4】本発明の実施例1の接合前のフロントヘッダーの断面図である。
【図5】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合時の断面図である。
【図6】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合完了後の断面図である。
【図7】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合初期の要部断面図である。
【図8】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合後期の要部断面図である。
【図9】ルーフパネルとフロントヘッダーとの接合完了後の要部断面図である。
【図10】本発明の実施例2の接合前のルーフレールの断面図である。
【図11】ルーフパネルとルーフレールとの接合時の断面図である。
【図12】ルーフパネルとルーフレールとの接合完了後の断面図である。
【図13】ルーフパネルとルーフレールとの接合初期の要部断面図である。
【図14】ルーフパネルとルーフレールとの接合後期の要部断面図である。
【図15】ルーフパネルとルーフレールとの接合完了後の要部断面図である。
【図16】本発明の実施例3の電極周辺の拡大斜視図である。
【図17】従来のウエルドボンド法における接合初期の要部断面図である。
【図18】従来のウエルドボンド法における接合後期の要部断面図である。
【図19】従来のウエルドボンド法における接合完了後の要部断面図である。
【図20】従来のウエルドボンド法における接合完了後の溶接部の平面図である。
【符号の説明】
【0050】
M 車体構造
4 フロントヘッダー
4a フランジ部
7 ルーフパネル
8 凸部
11 キャブサイドアウタ
11a フランジ部
13 ルーフレールレインフォースメント
13a フランジ部
14 スポット溶接装置
15 溶接ガン
20 第1電極
21 第2電極
23 接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属板材の被接合部とこの第1金属板材より融点の高い第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させ、前記両被接合部を1対の電極で加圧した状態で電気抵抗スポット溶接する異種金属板材の接合方法において、
前記第1金属板材の被接合部と第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させる第1工程と、
前記第1金属板材と前記第2金属板材との溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める第2工程と、
前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めた状態で1対の電極で溶接する第3工程と、
を備えたことを特徴とする異種金属板材の接合方法。
【請求項2】
前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を予め設け、前記加圧手段は1対の電極の加圧力を用いて動作することを特徴とする請求項1に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項3】
前記両金属板材の何れか一方の金属板材の被接合部の溶接位置に対応させて凸部を形成し、一方の電極で前記凸部を加圧して溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることを特徴とする請求項2に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項4】
前記第1金属板材はアルミニウム合金板、前記第2金属板材は鋼板であり、このアルミニウム合金板に凸部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項5】
前記第1金属板材と前記第2金属板材とは車体の構成板材であることを特徴とする請求項3又は4に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項1】
第1金属板材の被接合部とこの第1金属板材より融点の高い第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させ、前記両被接合部を1対の電極で加圧した状態で電気抵抗スポット溶接する異種金属板材の接合方法において、
前記第1金属板材の被接合部と第2金属板材の被接合部との間に接着剤を介在させる第1工程と、
前記第1金属板材と前記第2金属板材との溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める第2工程と、
前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めた状態で1対の電極で溶接する第3工程と、
を備えたことを特徴とする異種金属板材の接合方法。
【請求項2】
前記溶接位置の周囲の重ね合せ力を高める加圧手段を予め設け、前記加圧手段は1対の電極の加圧力を用いて動作することを特徴とする請求項1に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項3】
前記両金属板材の何れか一方の金属板材の被接合部の溶接位置に対応させて凸部を形成し、一方の電極で前記凸部を加圧して溶接位置の周囲の重ね合せ力を高めることを特徴とする請求項2に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項4】
前記第1金属板材はアルミニウム合金板、前記第2金属板材は鋼板であり、このアルミニウム合金板に凸部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の異種金属板材の接合方法。
【請求項5】
前記第1金属板材と前記第2金属板材とは車体の構成板材であることを特徴とする請求項3又は4に記載の異種金属板材の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−190051(P2009−190051A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31608(P2008−31608)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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