説明

痛覚神経刺激装置

【課題】大きな電流量の刺激強度によらず、適切かつ簡易に生体の所望の神経線維(特にC線維)を選択的に刺激する。
【解決手段】生体Aに貼着される刺激電極30と、生体Aと前記刺激電極30との間に介装される外因性発痛物質60と発熱物質60の少なくともいずれか一つと、刺激電極30に対し、前記生体Aの所望の神経線維を選択的に刺激する電源供給を行う刺激電源部20とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の所望の神経線維(特にC線維)の選択的な刺激を適切に行うことを可能とする痛覚神経刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既に本願出願人による出願(特許文献1参照)において述べている通り、糖尿病の三大合併症の一つである末梢神経障害の早期発見のためなどを目的として、C線維のみを刺激して、反応を診る要望が高いものである。
【0003】
そこで、本願出願人は、C線維のみを刺激することが可能な痛覚神経刺激装置の出願を行った(特許文献1参照)。これによれば、C線維のみを刺激することが可能であり、様々な応用が期待できるものである。しかしながら、上記の痛覚神経刺激装置によって刺激する場合も個人差があり、健常者であっても同じ刺激強度(mA)に対して反応が異なることがある。
【0004】
特許文献1において、電流量の刺激強度が低い際にはC線維が刺激され、刺激強度が高くなるにつれ、Aδ線維など太い線維が刺激されることを開示した。しかし、刺激に対する感度には個人差もあるため、刺激強度を強くすると所望の線維が刺激できなかったり、さらには、大きな電流量の刺激強度によると被験者に苦痛を与えてしまうことになる。そこで、測定の当初は小さな電流量の刺激強度による刺激からはじめて、徐々に大きな電流量の刺激強度へと変化させる刺激手法も考えられる。
【0005】
しかしながら、この刺激手法によると、時間経過と共に反応が鈍くなったり、または時間経過と共に反応が過敏になったりして、適切な結果を得ることができないという問題が生じる。特に特許文献1で開示されるようにC線維のみを選択的に刺激する場合、極めて弱い電流で刺激をする必要があり、検査者の手技によっては適切に刺激がなされず、検査が上手くいかない場合があった。
【0006】
また、針電極を用いた刺激の強化を狙って内因性オピオイドの酵素分解を抑制する物質を静脈投与するものも知られている(特許文献2参照)。この手法は、静脈投与が必要であり、簡易に刺激を与えるために用いることができないという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−088802号公報
【特許文献2】米国特許第7781486号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような痛覚神経刺激装置における現状に鑑みなされたもので、その目的は、大きな電流量の刺激強度によらず、適切かつ簡易に生体の所望の神経線維(特にC線維)を選択的に刺激することが可能な痛覚神経刺激装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、生体に貼着される刺激電極と、生体と前記刺激電極との間に介装される外因性発痛物質と発熱物質の少なくともいずれか一つと、刺激電極に対し、前記生体の所望の神経線維を選択的に刺激する電源供給を行う刺激電源部とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、刺激電極は、先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、前記第1電極の周囲に導通せずに配置され皮膚に接触させて用いる第2の電極とにより構成され、刺激電源部は、前記第1電極の電気的極性を+極と−極のいずれか一方とし前記第2電極の電気的極性をいずれか他方としたパルス信号を供給することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、前記外因性発痛物質は、少なくとも、カプサイシン、サンショオール、ジンゲロン、カンフル、アリルイソチオシアネート、メントールのいずれか一つを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、前記発熱物質は、金属の酸化反応による発熱を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、前記外因性発痛物質と前記発熱物質の少なくともいずれか一つは、前記刺激電極部と一体形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る痛覚神経刺激装置は、前記外因性発痛物質と発熱物質の少なくいずれかはワセリンにより希釈されて介装されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、生体と前記刺激電極との間に外因性発痛物質と発熱物質の少なくともいずれか一つを介装し、刺激電極に対し、前記生体の所望の神経線維を選択的に刺激する電源供給を行うので、外因性発痛物質と発熱物質の少なくいずれかにより適度に刺激が与えられた状態において、大きな電流量の刺激強度によらず、適切かつ簡易にC線維やAδ線維などを選択的に刺激することが可能である。
【0016】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、刺激電極は、先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、前記第1電極の周囲に導通せずに配置され皮膚に接触させて用いる第2の電極とにより構成され、刺激電源部は、前記第1電極の電気的極性を+極と−極のいずれか一方とし前記第2電極の電気的極性をいずれか他方としたパルス信号を供給することにより、第1電極の電気的極性を+極として刺激をすればC線維を、−極として刺激をすればAδ線維を選択的に刺激できるようになる。
【0017】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、前記外因性発痛物質は、少なくとも、カプサイシン、サンショオール、ジンゲロン、カンフル、アリルイソチオシアネート、メントールのいずれか一つを含み、特に刺激部位に刺激を行う20分程度前に介装することにより、安定的かつ効果的な刺激を行うことができる。
【0018】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、前記発熱物質は、金属の酸化反応による発熱を用いることで、適度な温度で刺激部位を暖められ、安定的かつ効果的な刺激を行うことができる。
【0019】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、前記外因性発痛物質と前記発熱物質の少なくともいずれか一つは、前記刺激電極部と一体形成されることで、迅速かつ測定者によらず、安定的かつ効果的な刺激を行うことができる。
【0020】
本発明に係る痛覚神経刺激装置によれば、前記外因性発痛物質と前記発熱物質の少なくいずれかはワセリンにより希釈されて介装されることで、前記外因性発痛物質や前記と発熱物質のいずれかによる生体への影響は緩やかにされ、被験者への負担を軽減しつつ、安定的かつ効果的な刺激を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態に用いる刺激電極を示す断面図。
【図3】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態に用いる刺激電極の変形例要部を示す斜視図。
【図4】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態の要部ブロック図。
【図5】本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態により刺激を行った場合の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下添付図面を参照して、本発明に係る痛覚神経刺激装置の実施形態を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には、痛覚神経刺激装置の実施形態の構成図が示されている。痛覚神経刺激装置には、生体Aに貼着される刺激電極30が備えられている。
【0023】
刺激電極30は、例えば、その断面図が図2に示すように構成することができる。刺激電極30は、先端が皮膚内に僅かに刺せる形状を有した第1電極である針状電極31と、皮膚に接触させて用いる第2電極である接触電極32とを備える。図2より明らかなように、針状電極31は接触電極32より突出(突起)している。また、針状電極31の先端は必ずしも尖っている必要はなく、球状や棒状等であってもよい。接触電極32は、針状電極31を中心として針状電極31を取り囲む円筒状をなしても良いし、複数の接触電極32が針状電極31を中心に円筒状に位置するように配置されても良く、その内径は例えば1mmである。
【0024】
また、接触電極32の一部は皮膚内に僅かに刺せる形状を有していてもよい。接触電極32と針状電極31の間隙には、絶縁材料により構成されるスペーサ33が埋設されていてもよい。また、接触電極32の周囲には、接触電極32を芯として円柱状に形成され、絶縁材料により構成される外装部34が備えられている。
【0025】
更に、図4に示すように、図2に示した接触電極32と針状電極31のペアである刺激電極30を複数極(ここでは、3ペア(極))用いて、絶縁性樹脂によって構成される円板状のベース41に立設させ、3つの針状電極31を1本の導線に接続し、また3つの接触電極32を1本の導線に接続して、リード線42として引き出すように構成することもできる。
【0026】
いずれの刺激電極30を用いる場合においても、刺激電極30と生体Aにおける接触部位との間に外因性発痛物質60と発熱物質60の少なくともいずれかを、例えば塗布して介装させる(図1)。ここに、外因性発痛物質60としては、カプサイシン、サンショオール、ジンゲロン、カンフル、アリルイソチオシアート、メントールを挙げることができる。また、外因性発痛物質60は、発痛物質、起炎物質、刺激性物質を含む概念である。外因性発痛物質60を、塗布して介装させる際には、生体に刺激を行う20分程度前に塗布するのが望ましい。また、発熱物質60は、金属の酸化反応による発熱を用いるなど刺激部位を30℃前後になるように暖められるのが望ましい。
【0027】
刺激電極30は刺激電源部20に接続されている。刺激電源部20は、生体におけるC線維のみを刺激する電源供給を行うものであり、具体的には、パルスの電気的極性を変えて電源供給を行うもので、本願出願人が既に出願した特願2008−264298号に記載の構成と同様であり、図4に示すようである。
【0028】
即ち、刺激電源部20は、パルス発生本体部10に電流/電圧制御部21が接続され、電流/電圧制御部21に極性切換部25が接続された構成を有する。極性切換部25には、刺激電極30が接続される。電源部22は、各部に電力供給を行うものである。
【0029】
パルス発生本体部10は、アナログ/ディジタルマイクロプロセッサにより構成され、パルス信号を発生して供給するパルス信号供給手段11の他に、立上・立下制御手段12、パルス波形制御手段13を備える。立上・立下制御手段12は、パルス信号供給手段11が供給するパルス信号の立上り時間と立下り時間との少なくとも一方を変化させるものである。
【0030】
立上・立下制御手段12は、パルス信号の立上り又は立下りの形状を、直線的に立上げ又は立下げる直線モードか、指数関数的に立上げる又は立下げる指数関数モードの選択も可能とし、所要形状のパルス波形を生成可能とする。
【0031】
パルス発生本体部10に接続されている電流/電圧制御部21は、パルス信号供給手段11が供給するパルス信号の電流と電圧の少なくとも一方を変化させる刺激強度制御手段である。電流/電圧制御部21に接続されている極性切換部25は、針状電極31の電気的極性と接触電極32の電気的極性とを変換する電気的極性変換手段として機能する。
【0032】
操作部24には、パルス波形設定手段が備えられている。このパルス波形設定手段により、パルス波形制御手段13に対し所望のパルス幅・パルス間隔・パルス数のパルス信号に変化させるように設定することができる。操作部24には、刺激強度設定手段が備えられており、この刺激強度設定手段により刺激強度制御手段である電流/電圧制御部21に対し所望の電流或いは電圧のパルス信号に変化させる設定を行うことが可能である。
【0033】
操作部24には、極性変換設定手段が備えられており、この極性変換設定手段により電気的極性変換手段である極性切換部25に対し電気的極性の変換設定を指示することができる。これにより針状電極31の電気的極性を+極にして接触電極32の電気的極性を−極にすることができ、これと逆に、針状電極31の電気的極性を−極にして接触電極32の電気的極性を+極にすることができる。特許文献1からも明らかなように、針状電極31の電気的極性を−極にした場合、C線維を選択的に刺激可能とする。さらに、極性切換部25で針状電極31の電気的極性を+極にした場合、Aδ線維を選択的に刺激可能とする。
【0034】
更に、刺激電源部20に接続された操作部24を操作して、立上・立下制御手段12に対し所望の立上り時間と立下り時間のパルス信号に変化させる指示入力を与え、パルス波形制御手段13に対し所望のパルス幅・パルス間隔・パルス数のパルス信号に変化させる指示を与え、電流/電圧制御部21に対し所望の電流或いは電圧のパルス信号に変化させる指示を与える。刺激電源部20に接続された表示部23の表示により、上記操作部24から所望の設定がなされたかを確認して、刺激開始の操作を行うことが可能である。このように、操作部24には、パルス信号について、刺激強度(mA)、パルスの立上り時間、立下り時間、パルス幅・パルス間隔・パルス数、パルス形状、電極極性の少なくとも1つを設定する設定手段が備えられている。さらに、刺激電源部20による刺激は、本願出願人が既に出願した特願2010−026278号に記載した刺激と同様に、第1電極と第2電極の間に、前記第1電極においてマイナス側に凸となる第1の波形信号と、前記第1電極においてプラス側に凸となる第2の波形信号との組み合わせにより成る双極性刺激信号であっても、もちろん良い。
【0035】
外因性発痛物質として、適量(ワセリンとは重量比0.05〜0.1程度)のカプサイシンを4名の被験者に塗布した際の測定結果を表1に示す。表1は、各被験者に対し陽極刺激を行った際、各被験者のC線維が刺激された際の電流閾値と塗布後の経過時間との関係を示す。
【0036】
個人差はあるものの、概ね外因性発痛物質を塗布してから20分は減少傾向にあることが分り、特に被験者2では電流閾値が通常時の半分程度、被験者3では2/3程度まで激減することが分かった。これは、低い刺激強度(mA)でも刺激による効果を得られたため、被験者への負担を最小限にし、神経機能の確認を実現するものである。また測定者の手技による影響に左右されず、効果的な検査を行えることも併せて確認できた。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、刺激部位の温度と電流閾値との関係を図5に示す。刺激部位としては、足と手を採用し、それぞれの測定結果が図5(a)と図5(b)である。いずれも縦軸はC線維又はAδ線維を刺激した際の電流閾値(mA)であり、横軸は刺激部位の温度である。図5(a)と図5(b)から明らかなように、異なる刺激部位であっても、刺激部位の温度上昇に伴い、電流閾値が低くなる傾向にあることが確認できる。これにより刺激部位の温度を上昇させることで、低い刺激強度(mA)でも刺激による効果を得られ、被験者への負担を最小限にし、神経機能の確認をも実現する。
【0039】
外因性発痛物質60や発熱物質60を用いる場合に、これをワセリンなどによって希釈して用いることができ、その希釈の程度によって刺激強度を変更させても良い。また、外因性発痛物質60や発熱物質60の種類に対応して、刺激強度を変更させても良い。刺激強度については、外因性発痛物質60や発熱物質60の種類や希釈の程度に対応して、予め設定値をパルス発生本体部10の記憶部に記憶しておき、操作部24からの操作により読み出して表示部23へ一覧表のデータで表示させて選択し、刺激強度を選択するように構成しても良い。さらに、外因性発痛物質60や発熱物質60とは刺激電極30と一体形成されていると、被験者への刺激電極30の装着のみで、迅速かつ測定者の手技によらず、効果的な刺激を行えることとなり、極めて有用といえる。
【符号の説明】
【0040】
10 パルス発生本体部
11 パルス信号供給手段
12 立上・立下制御手段
13 パルス波形制御手段
20 刺激電源部
21 電圧制御部
22 電源部
23 表示部
24 操作部
25 極性切換部
30 刺激電極
31 針状電極
60 外因性発痛物質、発熱物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に貼着される刺激電極と、
生体と前記刺激電極との間に介装される外因性発痛物質と発熱物質の少なくともいずれか一つと、
刺激電極に対し、前記生体の所望の神経線維を選択的に刺激する電源供給を行う刺激電源部と
を具備することを特徴とする痛覚神経刺激装置。
【請求項2】
刺激電極は、先端を皮膚内に僅かに刺して用いる第1電極と、前記第1電極の周囲に導通せずに配置され皮膚に接触させて用いる第2の電極とにより構成され、
刺激電源部は、前記第1電極の電気的極性を+極と−極のいずれか一方とし前記第2電極の電気的極性をいずれか他方としたパルス信号を供給することを特徴とする請求項1に記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項3】
前記外因性発痛物質は、少なくとも、カプサイシン、サンショオール、ジンゲロン、カンフル、アリルイソチオシアネート、メントールのいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項4】
前記発熱物質は、金属の酸化反応による発熱を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項5】
前記外因性発痛物質と前記発熱物質の少なくともいずれか一つは、前記刺激電極部と一体形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の痛覚神経刺激装置。
【請求項6】
前記外因性発痛物質と前記発熱物質の少なくともいずれか一つは、ワセリンにより希釈されて介装されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の痛覚神経刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−42976(P2013−42976A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183293(P2011−183293)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】