説明

癌免疫療法組成物およびその使用方法

【課題】腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導するための細胞組成物および方法の提供。
【解決手段】この細胞組成物は、腫瘍抗原および細胞を含み、この細胞は、サイトカイン、ならびに腫瘍抗原、抗CTLA4抗体、およびさらなるサイトカインの1つ以上を発現するように改変された細胞を含む。この細胞組成物は、癌を処置するための方法において有用である。ヒト被験体への細胞ベースの免疫療法組成物の投与後、腫瘍抗原に対する免疫応答が検出され、ここで、この免疫応答は、細胞組成物を投与する前にヒト被験体において検出されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本願は、米国仮特許出願第60/788,296号(2006年3月31日出願)に基づく優先権の利益を主張する。この先の出願は、明確に、その全体が本明細書に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導するための細胞組成物および方法に関する。この細胞組成物は、抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原−4(CTLA−4)抗体およびサイトカインを発現するように遺伝的に改変された細胞を含み、それによって、免疫化部位における局所的な細胞ベースの抗CTLA−4抗体の持続発現が、全身投与と比較して、治療濃度を顕著に減少させる。
【0003】
(背景技術)
癌に対する1つの治療的アプローチは、抗腫瘍免疫を増強するためのワクチンとしての自己由来または同種異系の癌細胞の使用である(非特許文献1;非特許文献2ならびに非特許文献3)。このアプローチの拡張は、免疫療法部位において局所的にサイトカインを発現する遺伝的に改変された腫瘍細胞の使用を伴う。
【0004】
多数のサイトカインが、腫瘍に対する免疫応答の制御において役割を果たしていることが示されてきた。例えば特許文献1は、既存の腫瘍に対抗するための相乗的な有効量のTNF、IL−2およびIFN−βの組み合わせの使用を記載している。特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5は、腫瘍の処置のためのGM−CSFの使用を記載している。非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14、および非特許文献15にそれぞれ記載されているように、IL−4、IL−2、TNF−α、G−CSF、IL−7、IL−6およびGM−CSFを含む種々の免疫調節サイトカインを使用する腫瘍モデルにおいて活性が実証されてきた。GM−CSFを発現する自己由来または同種異系の細胞ワクチン(GVAX(登録商標))を使用する臨床試験は、前立腺癌、黒色腫、肺癌、膵臓癌、腎臓癌および多発性骨髄腫の処置のために開始されている(非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;および非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23)。
【0005】
GM−CSFを発現する自己由来または同種異系細胞の癌免疫療法は、以前に記載されている(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、および特許文献11を参照のこと)。しかし、癌の処置のための改善されたGVAX(登録商標)ベースの免疫療法ストラテジーの需要が依然として存在する。
【0006】
細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA−4;CD152)は、活性化T細胞およびCD4+CD25+T細胞のサブセット上で発現される免疫抑制分子である。CTLA−4は、T細胞活性化の周知の調節因子である(非特許文献24)。CTLA−4シグナル伝達は、IL−2転写のレベルと細胞周期のIL−2非依存性事象のレベルの両方でT細胞活性化の初期の事象を阻害することが示されてきた(非特許文献25)。
【0007】
B7−1/2に結合するCTLA−4は、T細胞応答のダウンレギュレーションのために必須である。ctla−4−/−マウスは、制御されないT細胞増殖によって開始される致死的なリンパ球増殖性応答の難点があることが観察されてきた。従って、CD28およびCTLA−4は、T細胞応答の初期段階を制御する際に決定的な役割を果たしている。CTLA−4はまた、マウスにおける実験的な自己免疫疾患の発生と重篤度の両方を制御することが示されてきた(非特許文献26)。
【0008】
ヒトCTLA−4に対する完全なヒトモノクローナル抗体は、第I/II相試験および第II相試験において抗腫瘍活性を示した(Medarex)。黒色腫ペプチドワクチンと組み合わせた、完全なヒトのCTLA−4遮断モノクローナル抗体(MDX−010)の投与を伴う第I相研究において、MDX−010の反復用量を服薬した第III期または第IV期の転移性黒色腫を切除した19例の患者のうちで8例が、顕著な自己免疫毒性を発生した。徴候としては、ブドウ膜炎、発疹、および胃腸反応(下痢および腹痛)があった。例えば非特許文献24を参照のこと。
【0009】
別の研究において、転移性黒色腫を有する14例の患者が、完全なヒト抗CTLA−4抗体(MDX−010)の静脈内投与を3週間毎に3mg/kgで受け、2つの改変HLA−A 0201−制限gp100ペプチドを用いる皮下ワクチン投与とともに耐容性を示した。これらの結果は、3例の患者が目標の癌の退縮を有したのに対して、6例の患者(43%)が自己免疫事象を発症したことを示した。これには、皮膚炎を有する3例の患者、大腸炎/全腸炎を有する2例、および肝炎を有する1例が含まれ、これらのすべてが自己限定的であるか、または全身ステロイドに対して応答性であった(非特許文献27)。これらのデータは、CTLA−4が、治療的利点を有し得るが、臨床的な状況における効力を達成するために十分な抗CTLA4抗体の全身的な投与は関連する毒性を有し得ることを示唆する。従って、低下した全身レベルでありかつ有効な抗CTLA4抗体を準備することによって、潜在的な毒性を克服する組成物を開発する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,098,702号明細書
【特許文献2】米国特許第5,078,996号明細書
【特許文献3】米国特許第5,637,483号明細書
【特許文献4】米国特許第5,904,920号明細書
【特許文献5】米国特許第6,350,445号明細書
【特許文献6】米国特許第6,464,973号明細書
【特許文献7】米国特許第6,350,445号明細書
【特許文献8】米国特許第6,187,306号明細書
【特許文献9】米国特許第6,033,674号明細書
【特許文献10】米国特許第5,985,290号明細書
【特許文献11】米国特許第5,637,483号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Oettgenら、「The History of Cancer Immunotherapy」Biologic Therapy of Cancer、Devitaら(編)J.Lippincot Co.、87−199頁所収、1991年
【非特許文献2】Armstrong TDおよびJaffee EM、Surg Oncol Clin N Am.11(3):681−96、2002年
【非特許文献3】Bodey Bら、Anticancer Res 20(4):2665−76、2000年
【非特許文献4】Golumbeck PTら、Science 254:13−716、1991年
【非特許文献5】Gansbacher Bら、J.Exp.Med.172:1217−1224、1990年
【非特許文献6】Fearon ERら、Cell 60:397−403、1990年
【非特許文献7】Gansbacher Bら、Cancer Res.50:7820−25、1990年
【非特許文献8】Teng Mら、PNAS 88:3535−3539、1991年
【非特許文献9】Columbo MPら、J.Exp.Med.174:1291−1298、1991年
【非特許文献10】Aokiら、Proc Natl Acad Sci USA.89(9):3850−4、1992年
【非特許文献11】Porgador Aら、Nat Immun.13(2−3):113−30、1994年
【非特許文献12】Dranoff Gら、PNAS 90:3539−3543、1993年
【非特許文献13】Lee CTら、Human Gene Therapy 8:187−193、1997年
【非特許文献14】Nagai Eら、Cancer Immunol.Immonther.47:2−80、1998年
【非特許文献15】Chang Aら、Human Gene Therapy 11:839−850、2000年
【非特許文献16】Dummer R.、Curr Opin Investig Drugs 2(6):844−8、2001年
【非特許文献17】Simons Jら、Cancer Res.15;59(20):5160−8、1999年
【非特許文献18】Soiffer Rら、PNAS 95:13141−13146、1998年
【非特許文献19】Simons Jら、Cancer Res.15;57:1537−1546、1997年
【非特許文献20】Jaffee Eら、J.Clin Oncol.19:145−156、2001年
【非特許文献21】Salgia Rら、J.Clin Oncol.21:624−630、2003年
【非特許文献22】Soifferら、J Clin Oncol 2003年 21:3343B50
【非特許文献23】Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日 96(4):326−31
【非特許文献24】Sanderson K.ら、J Clin Oncol 23:741−750、2005年
【非特許文献25】Brunnerら、J.Immunol.、1999年、162:5813−5820
【非特許文献26】Allison,J.P.、Cancer Immunity、Vol.5 補遺1、p.9;6 2005年4月
【非特許文献27】G.Q.Phanら、Proc Am Soc Clin Oncol 22:852頁、2003年、Abstr 3424
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、ヒト被験体における癌に対する免疫応答を生成するための細胞免疫療法組成物および患者における癌の処置のためにその組成物を使用する方法を提供し、ここで、細胞ベースの免疫療法組成物は、腫瘍抗原および細胞の1つ以上の集団を含み、この細胞は、抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原−4(CTLA−4)抗体およびサイトカイン、例えばGM−CSFを発現するように遺伝的に改変されている。ヒト被験体への細胞ベースの免疫療法組成物の投与後、腫瘍抗原に対する免疫応答が検出され、ここで、この免疫応答は、細胞組成物を投与する前にヒト被験体において検出されない。
【0013】
1つの局面において、腫瘍抗原は細胞によって発現され、細胞は遺伝的に改変されている。
【0014】
細胞の同じかまたは異なる集団は、サイトカインまたは抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されてもよい。
【0015】
1つの局面において、腫瘍抗原発現細胞集団は、サイトカインと抗CTLA4抗体の両方のコード配列を発現するように遺伝的に改変される。
【0016】
遺伝的に改変された細胞は、自己由来細胞、同種異系細胞、またはバイスタンダー細胞であり、腫瘍抗原を発現してもよいし、発現しなくてもよい。
【0017】
1つの実施形態において、自己由来細胞、同種異系細胞、またはバイスタンダー細胞である、腫瘍抗原発現細胞集団は、GM−CSFなどのサイトカインのコード配列を発現するように遺伝的に改変されている。
【0018】
別の実施形態において、自己由来細胞、同種異系細胞、またはバイスタンダー細胞である、腫瘍抗原発現細胞集団は、GM−CSFなどのサイトカイン、および抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている。
【0019】
なお別の実施形態において、自己由来細胞、同種異系細胞、またはバイスタンダー細胞である、腫瘍抗原発現細胞集団は、抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒト被験体における癌に対する免疫応答を生成するための細胞組成物であって、腫瘍抗原、ならびにサイトカインのコード配列および抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原−4(CTLA−4)抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変された細胞の1つ以上の集団を含む、細胞組成物。
(項目2)
前記腫瘍抗原が細胞によって発現される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
細胞の同じ集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体についてのコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
細胞の2つの異なる集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体についてのコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記遺伝的に改変された細胞の1つ以上の集団の少なくとも1つが腫瘍細胞である、項目1または4に記載の組成物。
(項目6)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
前記抗CTLA4抗体が、
5’から3’方向に、抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、タンパク質分解的切断部位、自己プロセシング切断部位をコードする配列、および抗CTLA4抗体の第2鎖のコード配列
を含むベクターを使用して発現され、ここで、該自己プロセシング切断部位をコードする配列が、該抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列と第2鎖のコード配列との間に挿入される、項目6に記載の組成物。
(項目8)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、サイトカインのコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目9)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目10)
項目9に記載の組成物であって、前記抗CTLA4抗体が、
5’から3’方向に、抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、タンパク質分解的切断部位、自己プロセシング切断部位をコードする配列、および抗CTLA4抗体の第2鎖のコード配列
を含むベクターを使用して発現され、ここで、該自己プロセシング切断部位をコードする配列が、該抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列と第2鎖のコード配列との間に挿入される、組成物。
(項目11)
前記細胞の少なくとも1つの集団が自己由来である、項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
(項目12)
前記細胞の少なくとも1つの集団が同種異系である、項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
(項目13)
前記細胞の少なくとも1つの集団がバイスタンダー細胞である、項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
(項目14)
前記サイトカインがGM−CSFである、項目1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
(項目15)
癌に対する免疫応答を生成するための医薬の製造における項目1〜13のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、腫瘍抗原、ならびにサイトカインのコード配列および抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原−4(CTLA4)抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変された細胞の1つ以上の集団を含み、ここで、被験体への該組成物の投与が、腫瘍抗原およびサイトカインのコード配列のみを発現するように遺伝的に改変された細胞の集団の投与と比較して、免疫応答の増強をもたらす、使用。
(項目16)
前記腫瘍抗原が細胞によって発現される、項目15に記載の使用。
(項目17)
細胞の同じ集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目15または16に記載の使用。
(項目18)
細胞の2つの異なる集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目15に記載の使用。
(項目19)
前記遺伝的に改変された細胞の1つ以上の集団の少なくとも1つが腫瘍細胞である、項目15または18に記載の使用。
(項目20)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、サイトカインおよび抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目15または18に記載の使用。
(項目21)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、サイトカインのコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目15〜20のいずれか1項に記載の使用。
(項目22)
前記腫瘍抗原発現細胞集団が、抗CTLA4抗体のコード配列を発現するように遺伝的に改変されている、項目15〜20のいずれか1項に記載の使用。
(項目23)
項目15または22のいずれか1項に記載の使用であって、前記抗CTLA4抗体が、
5’から3’方向に、抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、タンパク質分解的切断部位、自己プロセシング切断部位をコードする配列、および抗CTLA4抗体の第2鎖のコード配列
を含むベクターを使用して発現され、ここで、該自己プロセシング切断部位をコードする配列が、該抗CTLA4抗体の第1鎖のコード配列と第2鎖のコード配列との間に挿入される、使用。
(項目24)
前記細胞が自己由来である、項目15〜23のいずれか1項に記載の使用。
(項目25)
前記細胞が同種異系である、項目15〜23のいずれか1項に記載の使用。
(項目26)
前記細胞がバイスタンダー細胞である、項目15〜23のいずれか1項に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、その構成が実施例1に記載されている、抗CTLA4導入ベクターと名付けられたレトロウイルスベクターを示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、研究の概略(図2A)および結果(図2B)を図示し、これらは、レトロウイルスによって形質導入されるサイトカイン発現癌免疫療法組成物によって発現される抗CTLA4抗体が機能的であり、かつ精製オボアルブミンを用いる免疫化の際に、養子免疫伝達トランスジェニックT細胞の拡大を増強することを実証する。−2日目に、OVA323−339ペプチドに特異的なT細胞を産生する、DO11.01トランスジェニックマウス由来の1〜3×10個の脾細胞を、静脈内投与によってレシピエントBalb/cマウスに養子免疫伝達した。0日目に、代理抗原であるオボアルブミン500μgをマウスに注射し、次に、0日目および1日目に、対照IgG2b対照抗体(アイソタイプ);9D9発現ハイブリドーマから精製した抗CTLA−4抗体(ハイブリドーマ);レトロウイルスで形質導入したB16F10を発現した抗CTLA−4抗体から精製した抗CTLA−4抗体(2A−抗CTLA−4);またはビヒクル(NAIVE)の100μgを、背部に皮下(SC)投与した。4日目に、マウスを安楽死させ、脾臓およびリンパ節を収集し、トランスジェニックDO11.01の数を、DO11.01特異的モノクローナル抗体KJ126を使用して決定した。脾臓におけるオボアルブミン特異的CD8 T細胞の絶対数を示す(図2B)。
【図3】図3Aおよび3Bは、抗CTLA抗体もまた局所的に発現するサイトカイン発現癌免疫療法の投与が、長期的で持続性である抗CTLA−4抗体のインビボ発現をもたらすことを実証する、C57Bl/6マウスにおける研究の結果を示す。0日目に、マウスに、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞を皮下(SC)接種した。1日目に、マウスを、5つの別々の群に分けた:1つのセットは、各々が、それぞれ15μg、50μgまたは150μgの精製抗CTLA4抗体の単回腹腔内(ip)投与を受け;1つのセットは、GM−CSFを発現するように操作された1×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞を用いて免疫化し(SC);最後のセットは、GM−CSFおよび抗CTLA−4抗体を発現するように操作された1×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞を用いて免疫化し(SC)(図3B)、抗CTLA−4抗体の血中濃度を18日間の期間、追跡した。
【図4】図4Aは、BALB/cマウスCT26腫瘍モデルにおける研究の結果のKaplan−Meierグラフを示し、これは、抗CTLA−4抗体を発現する、レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現癌免疫療法が、低い全身抗体濃度で、腫瘍を有する動物の生存を改善することを実証する。0日目に、BALB/cマウスに、5×10個の生きているCT26腫瘍細胞を皮下接種した。3日後、マウスを、1×10個の照射されたGM−CSF分泌CT−26を用いて、またはGM−CSFと抗CTLA−4抗体の両方を分泌する同じ数の照射されたCT−26細胞を用いて免疫化した。対照群は、3日目に、1×10個の照射されたGM−CSF分泌CT−26腫瘍細胞、および組換え抗CTLA−4抗体の全身投与(腹腔内−150μg、10μg)または局所的投与(サイトカイン発現癌免疫療法と混合−10μg SC)を用いて免疫化した。マウスを、13日目および27日目に、免疫化および抗体注射の反復に供した。マウスを、明白な腫瘍の形成について週2回モニターし、腫瘍が壊死性になるか、サイズが1500mmを超えると屠殺した。図4Bおよび4Cは、図4Aにおける抗体投与の3日後に収集した動物からの血清中に存在する抗CTLA−4抗体の濃度を示す。
【図5】図5Aは、レトロウイルスによって形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からの抗CTLA−4抗体の局所的発現が、B16F10黒色腫モデルにおける腫瘍保有動物の生存を改善したことを図示するKaplan−Meierグラフを示す。0日目に、C57BL/6マウスを、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞でチャレンジした。マウスを、1日目に、3×10個の照射されたGM−CSF分泌B16F10腫瘍細胞を用いるか、またはGM−CSFおよび抗CTLA4抗体の両方を分泌する、同じ数の照射されたB16F10細胞を用いて免疫化した。別個の群を、照射されたGM−CSF分泌腫瘍細胞、および組換え抗体の全身(腹腔内)の投与で、2日目(150μg)および5日目(100μg)に免疫化した。免疫化および抗体注射の第2のラウンドを14日目に開始して投与した。腫瘍量をモニターし、マウスを、チャレンジ腫瘍が1500mmに達し、または重篤な潰瘍が発生したときに屠殺した。図5Bおよび5Cは、図5Aにおける全身的または局所的に発現された抗体投与後の特定の日において収集した動物からの血清中に存在している抗CTLA−4抗体の濃度を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは、レトロウイルスによって形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からの抗CTLA−4抗体の局所的発現が、T細胞応答の増強をもたらすことを実証する研究の結果を示す。図5に記載されたように治療した群からのサテライトマウスを21日目に収集した。抗原特異的応答は、製造業者の指示書に従って、IFN−γELISPOTアッセイ(R&D Biosystems)によって列挙された。赤血球欠損脾細胞(5×10)をプレートし、TRP2(SVYDFFVWL)(配列番号11;図6A)に由来する1μMのKb結合ペプチド、または5×10個の照射されたB16F10細胞(図6b)とともに、37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。ポジティブスポットを、自動プレート走査サービスを使用して列挙した。
【図7】図7Aおよび7Bは、F2A抗CTLA抗体もまた局所的に発現するサイトカイン発現癌免疫療法の適用が、長期的で持続性である抗CTLA−4抗体のインビボ発現をもたらすことを実証する、C57Bl/6マウスにおける研究の結果を示す。0日目に、マウスに、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞を皮下(SC)接種した。1日目に、マウスを4つの別々の群に分けた:1つのセットは、各々が、HBSSの単回腹腔内(ip)投与(白丸);GMを発現するように操作された3×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞(B16GM;黒丸);3×10個の照射されたB16GMプラスCTLA−4の全身注射(B16GM全身α−CTLA−4;白三角);またはF2Aカセットを使用する、抗CTLA−4を分泌するように操作された3×10個の照射されたB16GM(白ひし形)の投与を受けた。示された時点で血清を収集し、ELISAによって、抗核抗体(図7A)、ssDNA抗体(図7B)、およびdsDNA抗体(図7C)のレベルについて評価した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本発明の実施は、他に示されない限り、当業者の技術の範囲内にある化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA、遺伝学、免疫学、細胞生物学、細胞培養、およびトランスジェニック生物学の従来の技術を採用する。例えば、以下を参照のこと:Maniatisら、1982年、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York);Sambrookら、1989年、Molecular Cloning、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York);SambrookおよびRussell、2001年 Molecular Cloning、第3版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York);Ausubelら、1992年、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons、定期的な更新を含む);Glover、1985年、DNA Cloning(IRL Press、Oxford);Anand、1992年、Techniques for the Analysis of Complex Genomes、Academic Press、New York;GuthrieおよびFink、1991年、Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology、Academic Press、New
York;HarlowおよびLane、1988年、Antibodies、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、 Cold Spring Harbor、New.York);JakobyおよびPastan、1979年;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編、1984年);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins編、1984年);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney、Alan R.Liss,Inc.、1987年);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press、1986年);B.Perbal、A Practical Guide To Molecular Cloning(1984年);専門書、Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.、N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.MillerおよびM.P.Calos編、1987年、Cold Spring Harbor Laboratory);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(MayerおよびWalker編、Academic Press、London、1987年);Handbook Of Experimental Immunology、Volumes I−IV(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986年);Riott、Essential
Immunology、第6版、Blackwell Scientific Publications、Oxford、1988年;Hoganら、Manipulating the Mouse Embryo、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1986年)。
【0022】
他に示されない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、当業者が有するものと同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者の知識の範囲内にある微生物学および組換えDNA技術の従来の技術を使用する。
【0023】
本発明の説明において、以下の用語が使用され、以下に示すように定義されることが意図される。
【0024】
「核酸」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかである、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドならびにそのポリマー(ポリヌクレオチド)をいう。具体的に限定されない限り、この用語は、参照核酸と同じ結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと類似の様式で代謝される天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。他に示されない限り、特定のアミノ酸分子/ポリヌクレオチドはまた、黙示的にその保存的に修飾された改変体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列ならびに明示的に示される配列を包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択した(またはすべての)コドンの3番目の位置が、混合した塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成されてもよい(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991年);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985年);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994年))。ヌクレオチドは、それらの塩基によって、以下の標準的な略号:アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、およびグアニン(G)によって示される。
【0025】
「ベクター」、「ポリヌクレオチドベクター」、「ポリヌクレオチドベクター構築物」、「核酸ベクター構築物」、および「ベクター構築物」という用語は、当業者によって理解されるように、遺伝子導入のための任意の核酸構築物を意味するために、本明細書で交換可能に使用される。
【0026】
1つのアプローチにおいて、ベクターはウイルスベクターである。本明細書で使用される場合、「ウイルスベクター」という用語は、その分野で認識されている意味に従って使用される。これは、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子にパッケージングされてもよい核酸ベクター構築物をいう。ウイルスベクター粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで、DNA、RNA、または他の核酸を細胞に導入する目的のために利用されてもよい。
【0027】
「ウイルス」、「ウイルス粒子」、「ベクター粒子」、「ウイルスベクター粒子」、および「ビリオン」という用語は交換可能に使用され、例えば、本発明のウイルスベクターが、感染性粒子の生成のために適切な細胞または細胞株に形質導入される場合に形成される感染性ウイルス粒子を意味するものとして広く理解されるべきである。本発明によるウイルス粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで、DNAを導入する目的のために使用されてもよい。本発明において使用されるベクターは、任意に選択可能なマーカーをコードしてもよい。
【0028】
「アデノウイルスベクター」または「アデノウイルス性ベクター」(交換可能に使用される)は、本明細書で使用される場合、アデノウイルスビリオンにパッケージング可能であるポリヌクレオチド構築物である。本発明の例示的なアデノウイルスベクターには以下が含まれるが、これらに限定されない:DNA、アデノウイルス被膜に封入されたDNA、別のウイルスまたはウイルス様形態(例えば、単純ヘルペスおよびAAV)にパッケージングされたアデノウイルスDNA、リポソームに封入されたアデノウイルスDNA、ポリリジンと複合体化されたアデノウイルスDNA、合成ポリカチオン性分子と複合体化されるか、トランスフェリンと結合体化されるか、もしくはPEGなどの化合物と複合体化されて、抗原性を免疫学的に「マスク」し、そして/もしくは半減期を増大させたアデノウイルスDNA、または非ウイルスタンパク質に結合体化されたアデノウイルスDNA。
【0029】
「選択可能なマーカー」は、細胞内でのその発現が細胞に選択的な利点を与えるタンパク質である。形質転換していない細胞の成長と比較した、選択可能なマーカーを用いて形質転換された細胞によって保有される選択的な利点は、抗生物質などのネガティブ選択剤の存在下で増殖するそれらの能力に起因し得る。形質転換していない細胞と比較した、形質転換細胞によって保有される選択的な利点は、栄養、成長因子またはエネルギー源として加えられた化合物を利用するための、それらの増強されたかまたは新規な能力にも起因し得る。選択マーカータンパク質には、形質導入した細胞の検出、およびおそらく、形質導入していない細胞からのそれらの分離を可能にするものが含まれる。任意の選択可能なマーカーが使用可能であるが、このような発現ベクターにおける使用のための選択可能なマーカーは、一般に当該分野において公知であり、適切な選択可能なマーカーの選択は、宿主細胞および用途に依存する。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)は選択可能なマーカーとして使用することができる。抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする選択可能なマーカー遺伝子の例には、アンピシリン、メトトレキサート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southernら、J.、J Mol Appl Genet.1982;1(4):327 41(1982年))、ミコフェノール酸(Mulliganら、Science 209:1422 7(1980年))、ピューロマイシン、ゼオマイシン、ハイグロマイシン(Sugdenら、Mol Cell Biol.5(2):410 3(1985年))、またはG418が含まれる。
【0030】
「形質導入」という用語は、感染、内在化、トランスフェクション、または任意の他の手段を経由する、インビボまたはインビトロのいずれかでの、レシピエント細胞への核酸分子の送達をいう。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈殿、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、および遺伝子銃を含む、当該分野において公知である種々の手段によって達成されてもよい。Grahamら(1973年)Virology、52:456、Sambrookら(1989年)Molecular Cloning,a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、Davisら、(1986年)Basic Methods in Molecular Biology、Elsevier、およびChuら、Gene 13:197、1981年を参照のこと。このような技術は、1種以上の外因性DNA部分、例えばプラスミドベクターおよび他の核酸分子を適切な宿主細胞に導入するために使用することができる。この用語は、遺伝物質の安定的かつ一過性である取り込みをいう。
【0031】
「組換え」という用語は、核酸分子に関連して本明細書において使用される場合、組換えDNA技術を使用して子孫の核酸分子に一緒に結合されている核酸分子の組み合わせをいう。ウイルス、細胞および生物に関して本明細書で使用される場合、「組換え」、「形質転換」、および「トランスジェニック」という用語は、異種核酸分子が導入されるか、またはネイティブ核酸配列が欠失もしくは改変されている宿主ウイルス、細胞もしくは生物をいう。異種核酸分子を導入する場合において、核酸分子は、宿主のゲノムに安定的に組み込むことができ、または核酸分子は、染色体外分子としてもまた存在し得る。このような染色体外分子は自己複製性であり得る。組換えウイルス、細胞および生物は、形質転換プロセスの最終生成物のみならず、その組換え子孫もまた含むと理解される。「非形質転換」、「非トランスジェニック」または「非組換え」宿主とは、異種核酸分子を含まない野生型のウイルス、細胞、または生物をいう。
【0032】
「調節エレメント」は、ヌクレオチド配列の発現の制御に関与する配列である。調節エレメントには、プロモーター、エンハンサーおよび終結シグナルが含まれる。これらはまた、典型的には、ヌクレオチド配列の適切な翻訳のために必要とされる配列を含む。
【0033】
「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼIIのために結合部位を含み、DNAの転写を開始する、通常はコード領域の上流に位置する非翻訳DNA配列をいう。プロモーター領域はまた、遺伝子発現の制御因子として機能する他のエレメントを含んでもよい。「最小プロモーター」という用語は、上流の活性化エレメントの非存在下で不活性であるか、またはプロモーター活性が大きく減少しているプロモーターエレメント、特にTATAエレメントをいう。
【0034】
本発明の意味の範囲内における「エンハンサー」という用語は、コード配列に作動可能に連結されたときに、プロモーターそれ自体によってもたらされる転写活性化よりも高い程度まで、プロモーターに作動可能に連結されたコード配列の転写を増加させる任意の遺伝子エレメント、例えばヌクレオチド配列であり得、すなわち、エンハンサーは、プロモーターからの転写を増大する。
【0035】
ヌクレオチド配列は、別のヌクレオチド配列との機能的な関連性に置かれるときに、「作動可能に連結」または「機能的に連結」(交換可能に使用)される。例えば、プロモーターまたは制御DNA配列は、プロモーターまたは制御DNA配列がコードDNA配列または構造的DNA配列の発現レベルに影響を与えるように2つの配列が配置される場合、RNAまたはタンパク質をコードするDNA配列に「作動可能に連結される」といわれる。作動可能に連結されたDNA配列は、典型的には連続しているが、必ずしもその必要はない。
【0036】
「発現」という用語は、細胞内での内因性遺伝子、導入遺伝子またはコード領域の転写および/または翻訳をいう。アンチセンス構築物の場合、発現は、アンチセンスDNAのみの転写をいうことがある。本発明のベクターは、タンパク質またはその断片のコード配列(例えば、抗CTLA−4抗体、腫瘍抗原、GM−CSF)を含む。コード配列は、タンパク質の転写および翻訳のために必要である他の制御エレメントおよびポリA配列とともに、標的細胞内で構成的または誘導的に活性である異種プロモーターに作動可能に連結される。抗原の発現のためにベクターを操作する場合、発現ベクターは、抗原の細胞内局在化を指示する配列を含み得る。例えば、抗原発現は細胞質性であり得;分泌のためのシグナル配列、または細胞外膜との安定的な結合のための配列が使用されてもよい。後者の実施形態について、ベクターは、同じオープンリーディングフレーム中に抗原および膜貫通領域をコードし、この膜貫通領域は、抗原コード領域から上流または下流のいずれかであり得、インフレームのスペーサー領域によって必要に応じて離されていてもよい。膜貫通領域は、他の公知の膜貫通領域上でモデル化されてもよく、高度な親油性を有する人工的に設計したポリペプチドセグメントであってもよい。いくつかの実施形態において、発現パターンの組み合わせが、同じ細胞または別個の細胞集団のいずれかによって使用されてもよい。このように構成された発現カセットは、リン酸カルシウム沈殿、カチオン性リポソームを使用する挿入などの当該分野において公知である任意の方法によってか、または細胞にとって向性であるウイルスベクターを使用することによって細胞に導入される。
【0037】
「腫瘍選択性プロモーター活性」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーター断片のプロモーター活性が、非腫瘍細胞型におけるよりも腫瘍細胞において活性が高いことを意味する。
【0038】
「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」とは、本明細書で言及される場合、翻訳に際して、自己プロセシング切断部位を含むポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断が起こり、別個の成熟タンパク質またはポリペプチド産物の発現をもたらす、DNAまたはアミノ酸配列である。自己プロセシング切断部位は、リボソームの活性を修飾してエステル結合の加水分解を促進し、それによって、別個の下流の翻訳産物の合成が進行することを可能にするように、翻訳複合体からポリペプチドを遊離させることによって翻訳の効果を実証する(Donnellyら、J Gen Virol.2001年5月;82(Pt 5):1013−25)。あるいは、2A部位、配列またはドメインは、一次切断産物を産生するために、シスでそれ自体のC末端を切断することによって「自己タンパク質分解」または「切断」を実証する(Furler;Palmenberg、Ann.Rev.Microbiol.44:603−623(1990年))。
【0039】
本明細書で使用される場合、「付加的なタンパク質分解的切断部位」という用語は、2Aまたは2A様配列などの自己プロセシング切断部位に隣接し、自己プロセシング切断配列による切断後に残っている付加的なアミノ酸配列を除去するための手段を提供する、本発明の発現構築物に組み込まれた配列をいう。例示的な「付加的なタンパク質分解的切断部位」は本明細書に記載され、これにはコンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有するフリン切断部位が含まれるが、これに限定されない。このようなフリン切断部位は、タンパク質分泌経路内のフリンおよび他のセリンプロテアーゼなどの内因性サブチリシン様プロテアーゼによって切断され得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリン」および「抗体」という用語は交換可能に使用されてもよく、完全な免疫グロブリンまたは抗体分子、ならびに、抗原決定基に結合可能であるその断片、例えば、Fa、F(ab’)2およびFvをいう。このような「免疫グロブリン」および「抗体」は、分子量約23,000ダルトンである2つの同一の軽鎖ポリペプチド、および分子量53,000〜70,000である2つの同一の重鎖ポリペプチドから構成される。これらの4つの鎖はジスルフィド結合によって結合されて「Y」配置になっている。重鎖は、γ(IgG)、μ(IgM)、α(IgA)、δ(IgD)、またはε(IgE)に分類され、免疫グロブリンの種類指定の基礎であり、これが所定の抗体のエフェクター機能を決定する。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。本明細書において「免疫グロブリンまたはその断片」をいう場合、このような「その断片」は、免疫学的に機能的な免疫グロブリン断片であることが理解される。
【0041】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト抗体の抗原結合領域の1つ以上のアミノ酸が、ヒト抗体に一層近似するように置換されているが、元の非ヒト抗体の結合活性を保持している抗体分子をいう。例えば、米国特許第6,602,503号を参照のこと。
【0042】
「抗原決定基」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体と接触する分子の断片(すなわち、エピトープ)をいう。タンパク質またはタンパク質の断片の多数の領域が、タンパク質の三次元構造の所与の領域に特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る。これらの領域または構造は、抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、抗体の結合のための完全な抗原(すなわち、免疫応答を誘発するために使用される免疫原)と競合し得る。
【0043】
「断片」という用語は、本発明の組換えタンパク質またはポリペプチドに言及する場合、対応する全長タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の全部ではないが一部と同じアミノ酸配列を有し、かつ対応する全長タンパク質またはポリペプチドの機能または活性の少なくとも1つを保持しているポリペプチドを意味する。断片は、好ましくは、全長タンパク質またはポリペプチドの連続するアミノ酸残基を少なくとも20〜100個含む。
【0044】
「マルチシストロン性転写物」とは、2つ以上のタンパク質コード領域すなわちシストロンを含むmRNA分子をいう。2つのコード領域を含むmRNAを、「バイシストロン性転写物」と呼ぶ。「5’−近位」のコード領域すなわちシストロンは、その翻訳開始コドン(通常はAUG)がマルチシストロン性mRNA分子の5’末端に最も近いコード領域である。「5’−遠位」のコード領域すなわちシストロンは、その翻訳開始コドン(通常はAUG)がmRNA分子の5’末端に最も近い開始コドンではないものである。「5’−遠位」および「下流」という用語は、mRNA分子の5’末端に隣接していないコード領域をいうために同義語的に使用される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「同時転写された」とは、2つ(以上)のコード領域またはポリヌクレオチドが、単一の転写制御エレメントまたは調節エレメントの転写制御下にあることを意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「内部リボソーム進入部位」または「IRES」とは、シストロン(タンパク質コード領域)の開始コドン、例えばATGへの直接的な内部リボソームの進入を促進し、それによって、遺伝子のキャップ非依存的翻訳に導くエレメントをいう。Jackson R J、Howell M T、Kaminski A(1990年)Trends Biochem Sci 15(12):477−83)ならびにJackson R JおよびKaminski,A.(1995年)RNA 1(10):985−1000)。本発明は、シストロンの開始コドンへの直接的な内部リボソームの進入を促進することが可能である、任意のIRESエレメントの使用を含む。「IRESの翻訳制御下」とは、本明細書で使用される場合、翻訳がIRESに付随し、キャップ非依存的な様式で進行することを意味する。当該分野において公知である「IRES」の例には、ピコルナウイルスから入手可能であるIRES(Jacksonら、1990年、Trends Biochem Sci 15(12):477−483);ならびに、例えば、免疫グロブリン重鎖結合タンパク質(BiP)、血管内皮成長因子(VEGF)(Huezら(1998年)Mol.Cell.Biol.18(11):6178−6190)、線維芽細胞成長因子2、およびインスリン様成長因子、翻訳開始因子eIF4G、酵母転写因子TFIIDおよびHAP4などのウイルスまたは細胞のmRNA供給源から入手可能であるIRESが含まれるが、これに限定されない。本明細書で使用される場合、「IRES」は、IRES配列の機能的バリエーションがシストロンの開始コドンの直接的な内部リボソーム進入を促進可能である限り、IRES配列の機能的バリエーションを含む。好ましい実施形態において、IRESは哺乳動物性である。他の実施形態において、IRESはウイルス性または原生動物性である。IRES配列の例は、米国特許第6,692,736号に記載されている。
【0047】
「コード配列」および「コード領域」という用語は、mRNA、rRNA、tRNA、snRNA、センスRNA、またはアンチセンスRNAなどのRNAに転写される核酸配列をいう。1つの実施形態において、RNAは、次いで、細胞内で翻訳されてタンパク質を産生する。
【0048】
「腫瘍成長を阻害する」または「腫瘍成長の阻害」という用語は、腫瘍の質量、腫瘍の体積、腫瘍細胞の量、または腫瘍の成長速度の任意の測定可能な減少をいう。この定義は、既存の腫瘍のサイズ、能力または成長速度の任意の減少を含むことを意図する。これは、既存の腫瘍の抑制、退行、または部分的もしくは完全な消失を含む。また、この定義の中には、腫瘍サイズもしくは腫瘍細胞数の増加の阻害もしくは遅延、または腫瘍細胞数、腫瘍サイズ、もしくは腫瘍の数の減少が含まれる。
【0049】
「腫瘍細胞からの抗原」という用語またはその文法的な等価物は、本明細書では、免疫応答を誘発可能である腫瘍細胞からの任意のタンパク質、炭水化物、または他の成分を意味する。この定義は、抗原としてのその関連抗原のすべてを有する腫瘍細胞の全体、ならびに細胞本体から分離された細胞の任意の成分、例えば、原形質膜、細胞質タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞表面もしくは膜から精製されたタンパク質、または細胞表面に付随する独特な炭水化物部分を使用することを含むが、これに限定されないことを意図する。この定義はまた、入手するために細胞の特別な処理を必要とする細胞の表面からの抗原を含む。免疫学的エピトープを依然として含むタンパク質の断片が含まれる。当業者は、本明細書に記載されるようなタンパク質の免疫原性断片を決定することができる。
【0050】
「遺伝的に改変された腫瘍細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、導入遺伝子を発現するように遺伝的に改変されており、癌処置レジメンの一部として患者に投与される細胞の集団を含む組成物をいう。遺伝的に改変された腫瘍細胞癌免疫療法は、処置を受けている患者に対して「自己由来」または「同種異系」である腫瘍細胞、あるいは患者から採取された腫瘍細胞と混合された「バイスタンダー細胞」を含む。GM−CSFを発現する遺伝的に改変された腫瘍細胞癌免疫療法はまた、「GVAX(登録商標)」と呼ばれている。
【0051】
「全身性免疫応答」という用語またはその文法的な等価物は、本明細書では、局在化せずに全体として個体に影響を与え、従って、同じ刺激に対する特定の次なる応答を可能にする免疫応答を意味する。
【0052】
「原発性腫瘍細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物における腫瘍から単離され、インビトロで広範に培養されてはいない癌細胞である。
【0053】
「発現の増強」または発現するように「改変された」という用語は、本明細書で使用される場合、天然に存在する細胞またはそれが由来する親の細胞において産生されるよりも高いレベルの特定のタンパク質、ペプチド、mRNAまたは抗原(例えば、抗原性タンパク質、腫瘍抗原またはサイトカイン)を産生する細胞をいう。細胞は、当該分野において公知である任意の方法、例えば、ゲノム配列のプロモーター領域を遺伝的に改変すること、タンパク質もしくはmRNAの産生を増大するように細胞シグナル伝達経路を遺伝的に改変すること、または目的のタンパク質、ポリペプチド、もしくはペプチド(例えば、腫瘍抗原、抗原性タンパク質またはサイトカイン)をコードするベクターを用いる形質導入を使用して、内因性タンパク質またはmRNAの発現を増大するように遺伝的に改変されてもよい。「サイトカイン」または「サイトカイン群」という用語は、本明細書で使用される場合、免疫系の細胞に影響を与える生物学的分子の一般的な種類をいう。この定義は、局所的に作用し、または血液中を循環してもよく、本発明の組成物または方法において使用されるとき、癌に対する個体の免疫応答を制御または調節するように機能する生物学的分子を含むことを意図するが、これに限定されない。本発明を実施する際に使用される例示的なサイトカインには、IFN−α、IFN−βおよびIFN−γ、インターロイキン(例えば、IL−1〜IL−29、特にIL−2、IL−7、IL−12、IL−15およびIL−18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−αおよびTNF−β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、ICAM、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
「免疫応答の増加」は、本明細書で使用される場合、特定の免疫活性化の検出可能な増加が検出可能であることを意味する(例えば、B細胞および/またはT細胞応答の増加)。免疫応答の増加の例は、腫瘍細胞の抗原に結合する抗体の量の増加である。別の例は、細胞免疫応答の増加である。細胞の免疫応答はT細胞を含み、インビトロ(例えば、クロム遊離アッセイによって測定される)またはインビボで観察することができる。免疫応答の増加には、典型的には、免疫細胞の特定の集団の増加が付随する。
【0055】
「投与された」という用語は、本発明の細胞(例えば、癌ワクチン)を哺乳動物に導入する任意の方法をいう。これには、経口、非経口、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、静脈内(留置カテーテルを介することを含む)、腫瘍内、輸入リンパ管を介すること、または処置される腫瘍および哺乳動物の状態を考慮して適切である別の経路が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、任意の部位において被験体に投与されてよい。例えば、これらは、原発性腫瘍から「遠位」であるかまたはそこから「遠い」部位に送達することができる。
【0056】
「処置」、「治療用途」、または「医療用途」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患状態もしくは症状を治療するか、または疾患もしくは他の望ましくない症状の進行を、多少なりとも予防、妨害、遅延もしくは逆転する、特許請求された組成物の任意のおよびすべての使用をいうものとする。
【0057】
「確立された腫瘍の逆転」という用語または文法的な等価物は、本明細書において、既存の腫瘍の抑制、退行、または部分的もしくは完全な消失を意味する。この定義は、既存腫瘍のサイズ、能力または成長速度の任意の減少を含むことを意図する。
【0058】
「治療有効量」という用語または文法的等価物は、個体の全身性免疫応答を調節するために十分であるか、または腫瘍成長を阻害するために十分な量である調製物の量をいう。この量は、異なる個体、異なる腫瘍型、および異なる調製物について異なってもよい。「治療有効量」は、「治療結果の改善」がもたらされるように、当業者によって慣用的に使用される手順を使用して決定される。
【0059】
本明細書で使用される場合、「治療結果の改善」および「治療効力の増強」という用語は、癌に関連して、癌細胞もしくは固形腫瘍の成長の遅延もしくは減少、または癌細胞の総数もしくは全腫瘍量の減少をいう。「治療結果の改善」または「治療効力の増強」は、それゆえに、任意の臨床的に許容される判断基準に従って、個体の状態の改善が存在することを意味し、これには、確立された腫瘍の逆転、平均余命の増加、または生活の質の改善が含まれる。
【0060】
「個体」、「被験体」、「哺乳動物被験体」という用語またはその文法的等価物は、任意の個々の哺乳動物を意味する。
【0061】
本発明の組成物および方法
本発明は、腫瘍抗原ならびに抗CTLA−4抗体およびサイトカインの一方または両方を含む、細胞ベースの癌免疫療法組成物を提供する。本発明の細胞ベースの癌免疫療法組成物は、インビボでの免疫療法の投与後に、腫瘍抗原(癌)に対する免疫応答を刺激するため、および/または癌患者のための治療的結果を改善するために、被験体に投与される。1つの実施形態において、細胞ベースの腫瘍免疫療法組成物は、腫瘍細胞、および単一の細胞からの抗CTLA−4抗体に対して、免疫応答を誘発するタンパク質を発現する。被験体は哺乳動物であり、典型的には、ヒト癌患者である。
【0062】
その機序は本発明の一部をなすものではないが、本発明の細胞ベースの癌免疫療法の効力は、癌免疫療法を受けている被験体における1つ以上の腫瘍抗原に対する免疫応答の増強、および/またはT細胞増殖のCTLA−4依存性阻害の遮断に起因する可能性がある。
【0063】
望ましくは、本発明の細胞ベースの癌免疫療法の投与は、癌に対する全身性免疫応答、すなわちT細胞応答および/またはB細胞応答をもたらす。1つの実施形態において、この方法は、腫瘍抗原、抗CTLA−4抗体およびサイトカインの少なくとも1つを発現するように細胞を遺伝的に改変すること;ならびに被験体にこの遺伝的に改変された細胞を投与することを包含し、ここで、この細胞は、細胞が投与された被験体に存在する癌細胞によって保有される腫瘍細胞によって発現される少なくとも1種の抗原を発現する。遺伝的に改変された細胞は、腫瘍細胞または癌細胞であり得る。遺伝的に改変された細胞は、投与の前に、典型的には照射によって増殖不能にされるが、細胞を増殖不能にする任意の公知のまたは後に発見される方法が採用されてもよい。被験体への遺伝的に改変された細胞の投与の際に、癌細胞または腫瘍細胞に対する免疫応答および/またはT細胞応答の増強がもたらされる。
【0064】
本発明は、さらに抗CTLA−4抗体を局所的に発現する、GM−CSFを発現する腫瘍細胞から構成されるサイトカイン発現癌免疫療法の適用が、単独療法としてのいずれかと比較した場合に、腫瘍を有する動物の生存の延長を示し、有意に低い全身レベルの抗CTLA−4抗体で生存の延長を示すという観察に基づいている(例えば、実施例5および6を参照のこと)。
【0065】
遺伝的に改変されたサイトカイン発現細胞
1つの局面において、本発明は、腫瘍抗原、抗CTLA−4抗体およびサイトカインを含む細胞ベースの癌免疫療法組成物を提供する。腫瘍抗原およびサイトカインは、典型的には、細胞によってか、または細胞から発現される。これらは、同じ細胞または異なる細胞によって発現され得、一方は細胞によって発現され得るが、他方はネイティブなタンパク質またはその生物学的に活性な断片もしくは改変体の形態で提供される。
【0066】
1つの実施形態において、腫瘍細胞は、サイトカイン(例えば、GM−CSF)および抗CTLA−4抗体を発現するように遺伝的に改変されている。腫瘍細胞は、自己由来腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞および腫瘍細胞株からなる群より選択される。腫瘍細胞は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで形質導入されてもよい。本発明を実施する際に、腫瘍細胞は、典型的には処置される腫瘍または癌と同じ型の原発性腫瘍細胞または腫瘍細胞株であり得る。一般には、ヒト細胞およびヒト細胞株が、ヒト患者への投与のために使用される。
【0067】
サイトカイン、例えばGM−CSFを発現するように遺伝的に改変され、次いで癌の処置のために個体に投与される自己由来癌細胞および同種異系癌細胞は、米国特許第5,637,483号、同第5,904,920号および同第6,350,445号に記載されている。GM−CSFを発現する癌免疫療法(GVAX)を使用する臨床試験が、前立腺癌、黒色腫、肺癌、膵臓癌、腎臓癌および多発性骨髄腫の処置のために着手されている。これらの免疫療法を使用する多数の臨床試験が記載されており、黒色腫、ならびに前立腺、腎臓、および膵臓の癌において最も顕著である(Simons JWら、Cancer
Res.1999年;59:5160−5168;Simons JWら、Cancer Res 1997年;57:1537−1546;Soiffer Rら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 1998年;95:13141−13146;Jaffeeら、J Clin Oncol 2001年;19:145−156;Salgiaら、J Clin Oncol 2003年 21:624B30;Soifferら、J Clin Oncol 2003年 21:3343B50;Nemunaitisら、J Natl Cancer Inst.2004年2月18日 96(4):326−31)。一般的な免疫調節性の遺伝的に改変されたバイスタンダー細胞株は、米国特許第6,464,973号に記載されている。
【0068】
形質導入後、細胞は、増殖不能にするために照射される。次いで、増殖不能サイトカイン発現細胞は患者に再投与され(例えば、皮内経路または皮下経路によって)、それによって、癌免疫療法として機能する。
【0069】
1つのアプローチにおいて、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、サイトカインおよび抗CTLA−4抗体を発現するように改変された細胞の単一集団を含み、処置レジメンの一部として被験体に投与される。別のアプローチにおいて、遺伝的に改変された腫瘍細胞の同じ集団または2つ以上の集団は、異なる導入遺伝子(例えば、異なるサイトカインまたは抗CTLA−4抗体)を発現するように改変され、被験体に投与される。処置レジメンは、1つ以上のさらなる癌治療剤または処置を含んでもよい。
【0070】
一般に、本発明を実施する際に使用される遺伝的に改変された腫瘍細胞には、自己由来腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞および腫瘍細胞株(すなわち、バイスタンダー細胞)の1つ以上が含まれる。本発明の細胞ベースの腫瘍免疫療法は、サイトカインを発現する自己由来腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞またはバイスタンダー細胞とともに、異なるサイトカインおよび抗CTLA−4抗体を発現する自己由来腫瘍細胞、同種異系腫瘍細胞またはバイスタンダー細胞を任意の組み合わせで含んでもよい。
【0071】
処置される腫瘍の型は以下からなる群より選択される:膀胱癌、乳癌、結腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、子宮頚癌、膵臓癌、直腸癌、前立腺癌、胃癌、表皮癌;リンパまたは骨髄細胞系列の造血器腫瘍;線維肉腫または横紋筋肉腫などの間葉起源の腫瘍;黒色腫、奇形癌、神経芽細胞腫、神経膠腫、腺癌、および非小細胞肺癌などの他の腫瘍型。処置される腫瘍細胞の型が前立腺癌である場合、前立腺腫瘍細胞株は、DU145、PC−3およびLnCaPからなる群より選択されてもよい。
【0072】
自己由来
自己由来サイトカイン発現腫瘍細胞の使用は、各々の患者の腫瘍が、別の患者からの組織学的に類似する、MHCが一致する腫瘍細胞上で見出されるものとは異なり得る腫瘍抗原の独特のセットを発現するので、利点を提供する。例えば、Kawakamiら、J.Immunol.、148、638−643(1992年);Darrowら、J.Immunol.、142、3329−3335(1989年);およびHomら、J.Immunother.、10、153−164(1991年)を参照のこと。対照的に、異なる供給源由来のMHCが一致する腫瘍細胞は、本発明の細胞ベースの癌免疫療法を調製するために、患者を外科手術に供してその腫瘍のサンプルを入手する必要がない、という利点を提供する。
【0073】
自己由来サイトカイン発現腫瘍細胞の使用は、各々の患者の腫瘍が、別の患者からの組織学的に類似する、MHCが適合する腫瘍細胞上で見出されるものとは異なり得る腫瘍抗原の独特のセットを発現するので、利点を提供する。例えば、Kawakamiら、J.Immunol.、148、638−643(1992年);Darrowら、J.Immunol.、142、3329−3335(1989年);およびHomら、J.Immunother.、10、153−164(1991年)を参照のこと。対照的に、異なる供給源由来のMHCが一致する腫瘍細胞は、本発明の細胞ベースの腫瘍ワクチンを調製するために、患者を外科手術に供してその腫瘍のサンプルを入手する必要がない、という利点を提供する。
【0074】
1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程:(a)腫瘍を有する哺乳動物被験体から腫瘍細胞を入手する工程;(b)腫瘍細胞を改変して該細胞を抗CTLA−4抗体およびサイトカインを発現可能にする工程;(c)改変した腫瘍細胞を増殖不能にする工程;および(d)腫瘍細胞の入手源である哺乳動物被験体、または腫瘍細胞の入手源である哺乳動物被験体と同じMHC型を有する哺乳動物に、改変した腫瘍細胞を再投与する工程を実施することによって癌を処置する方法を包含する。投与される腫瘍細胞は自己由来であり、宿主に対してMHCが一致する。好ましくは、本発明の組成物は、哺乳動物被験体に、皮下、皮内または腫瘍内に投与される。単一の自己由来腫瘍細胞は、抗CTLA−4抗体およびサイトカインのコード配列を発現してもよく、または抗CTLA−4抗体およびサイトカインは、異なる自己由来腫瘍細胞によって発現されてもよい。本発明の1つの局面において、自己由来腫瘍細胞は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、抗CTLA−4抗体またはサイトカイン、例えばGM−CSFをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの導入によって改変される。別の局面において、同じ自己由来腫瘍細胞または異なる自己由来腫瘍細胞は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、抗CTLA−4抗体またはサイトカインをコードする核酸を含むベクターの導入によって改変される。抗CTLA−4抗体またはサイトカインをコードする核酸は、同じかまたは異なるベクターを使用して、同じかまたは異なる自己由来腫瘍細胞に導入される。望ましくは、自己由来腫瘍細胞は、高レベルのサイトカイン、例えばGM−CSFを発現する。
【0075】
同種異系
研究者らは、Jaffeeら、Seminars in Oncology、22、81−91(1995年)によって概説されているように、腫瘍ワクチンとしての自己由来でかつMHCが一致している細胞に対する代替物を探索してきた。初期の腫瘍免疫療法のストラテジーは、腫瘍細胞をワクチン接種することが、それらのMHCクラスIおよびII分子上に腫瘍抗原を提示する抗原提示細胞(APC)として機能し、免疫系のT細胞アームを直接的に活性化するとの理解に基づいている。Huangら(Science、264、961−965、1994年)の結果は、腫瘍細胞をワクチン接種することではなく、宿主の専門的なAPCが、GM−CSFなどのサイトカインを分泌することによって免疫系のT細胞アームを初回刺激し、それによって、骨髄由来のAPCが腫瘍の領域に補充されることを示す。骨髄由来のAPCは、プロセシングのために腫瘍の全細胞タンパク質を取り込み、次いで、それらのMHCクラスI分子およびMHCクラスII分子上に抗原性ペプチドを提示し、それによって、免疫系のCD4+とCD8+の両方のT細胞アームを初回刺激して、全身性腫瘍特異的抗腫瘍免疫応答をもたらす。これらの結果は、抗癌免疫応答を誘発するために自己由来またはMHCが一致する腫瘍細胞を使用することが必要ではないか、または最適ではない可能性があること、および同種異系MHC遺伝子の(同じ種の遺伝的に異なる個体からの)導入が腫瘍の免疫原性を増強し得ることを示唆する。より具体的には、Jaffeeら、前出、およびHuangら、前出によって概説されているように、特定の場合において、同種異系MHCクラスI分子を発現する腫瘍の拒絶は、改変されていない親の腫瘍を用いたその後のチャレンジに対して、全身性免疫応答の増強をもたらした。
【0076】
本明細書に記載するように、「腫瘍細胞株」は、元々は腫瘍に由来する細胞を含む。このような細胞は、典型的には形質転換される(すなわち、培養中に無限の成長を示す)。1つの好ましい局面において、本発明は、以下の工程:(a)腫瘍細胞株を入手する工程;(b)腫瘍細胞株を改変して細胞が抗CTLA4抗体およびサイトカインを発現可能にする工程;(c)改変した腫瘍細胞株を増殖不能にする工程;および(d)腫瘍細胞株が入手源である腫瘍と同じ型である少なくとも1種の腫瘍を有する哺乳動物被験体(宿主)に腫瘍細胞株を投与する工程を実施することによって癌を処置する方法を提供する。投与される腫瘍細胞株は同種異系であり、宿主に対してMHCが一致しない。このような同種異系株は、これらが前もって調製され、特徴付けされ、公知の数の導入遺伝子発現細胞を含むバイアル中でアリコートとされ、保存され(すなわち、凍結され)、その結果、十分に特徴付けされた細胞が患者への投与のために利用可能であるという利点を提供する。遺伝的に改変された同種異系細胞の産生のための方法は、例えばWO00/72686A1に記載されている。
【0077】
遺伝的に改変された同種異系細胞を調製するための1つのアプローチにおいて、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカインの2つ以上のコード配列が、同種異系腫瘍細胞株である(すなわち、処置される個体以外の個体に由来する)細胞株に導入される。別のアプローチにおいて、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカインの2つ以上のコード配列は、別々の同種異系腫瘍細胞株に導入される。腫瘍抗原は、遺伝子改変の前に、同種異系細胞株によって発現されてもよく、そして/または腫瘍抗原をコードする核酸は、遺伝子改変によって同種異系細胞株に導入されてもよい。一般に、同種異系細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型の腫瘍細胞株由来であり、その例は上記に提供される。
【0078】
本発明の1つの局面において、同種異系腫瘍細胞集団は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカイン、例えばGM−CSFの2つ以上をコードするヌクレオチド配列を含む1つ以上のベクターの導入によって改変される。別の局面において、自己由来細胞、バイスタンダー細胞または異なる同種異系腫瘍細胞集団を含む第2の細胞集団は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカイン、例えばGM−CSFをコードする核酸配列を含むベクターの導入によって改変される。腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインをコードするヌクレオチド配列は、同じかまたは異なるベクターを使用して、同じかまたは異なる自己由来細胞、同種異系細胞またはバイスタンダー細胞の集団に導入されてもよい。望ましくは、集団中の細胞は、高レベルのサイトカイン、例えばGM−CSFを発現する。
【0079】
本発明を実施する際に、1種以上の遺伝的に改変された自己由来細胞株、同種異系細胞株またはバイスタンダー細胞株が、自己由来癌抗原、例えば自己由来腫瘍細胞の供給源(これは、同種異系細胞株組成物を一緒に含む)とともにインキュベートされ、その後患者に投与してもよい。典型的には、癌抗原は、処置下にある癌と同じ型の自己由来腫瘍細胞、すなわち同種異系癌細胞によって(同種異系癌細胞上に)提供される。このような場合において、本発明の組成物は、典型的には照射によって増殖不能にされ、ここで、遺伝的に改変された細胞および癌細胞は、組織培養プレートに配置され、以下に詳述されるように、Cs線源を使用して、室温で照射される。所定の投与における同種異系癌細胞に対する自己由来細胞の比率は、組み合わせに依存して変化する。
【0080】
同種異系細胞株組成物を患者に導入するために、任意の適切な投与経路を使用することができ、好ましくは、本発明の組成物は、皮下、皮内または腫瘍内に投与される。
【0081】
本発明を実施する際の同種異系細胞株の使用は、各患者のための自己由来腫瘍細胞を培養および形質導入する必要性をなくす。
【0082】
バイスタンダー細胞
1つのさらなる局面において、本発明は、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカインの2つ以上を発現する、一般的な免疫調節的に遺伝的に改変されたバイスタンダー細胞を提供する。同じ一般的なバイスタンダー細胞株が、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカインの2つ以上を発現してもよく、抗CTLA4抗体およびサイトカインは、異なる一般的なバイスタンダー細胞株によって発現されてもよい。腫瘍抗原は、遺伝子改変の前にバイスタンダー細胞によって発現されてもよく、そして/または腫瘍抗原をコードするヌクレオチド配列は、遺伝子改変によってバイスタンダー細胞に導入されてもよい。一般に、バイスタンダー細胞は、処置される腫瘍または癌と同じ型の腫瘍抗原を発現し、その例は上記に提供されている。
【0083】
一般的なバイスタンダー細胞株は、主要組織適合性クラスI(MHC−I)抗原および主要組織適合性クラスII(MHC−II)抗原を天然に欠いているか、またはこれらの細胞株がMHC−I抗原およびMHC−II抗原を欠くように改変されているかのいずれかである細胞を含む。本発明の1つの局面において、一般的なバイスタンダー細胞株は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカイン、例えばGM−CSFの2つ以上をコードする核酸配列を含むベクターの導入によって改変される。別の局面において、一般的なバイスタンダー細胞株は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカイン、例えばGM−CSFの少なくとも1つをコードする核酸配列を含むベクターの導入によって改変され、同種異系細胞株、自己由来細胞株または第2の一般的バイスタンダー細胞株は、その発現のために必要であるプロモーターおよび発現/制御配列に作動可能に連結された、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカイン、例えばGM−CSFの核酸配列を含むベクターの導入によって改変され、次いで、2つの細胞組成物が、細胞ワクチンとして一緒に使用される。腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインをコードする核酸配列は、同じかまたは異なるベクターを使用して、同じかまたは異なる自己由来細胞、同種異系細胞またはバイスタンダー細胞の集団に導入されてもよい。
【0084】
好ましい一般的バイスタンダー細胞株の例は、K562((ATCC CCL−243;Lozzioら、Blood 45(3):321−334(1975年);Kleinら、Int.J.Cancer 18:421−431(1976年))である。ヒトバイスタンダー細胞株の生成の詳細な説明は、例えば、米国特許第6,464,973号に記載されている。
【0085】
望ましくは、一般的バイスタンダー細胞株は、高レベルのサイトカイン、例えばGM−CSFを発現する。
【0086】
本発明を実施する際に、1種以上の一般的バイスタンダー細胞株は、自己由来癌抗原、例えば自己由来腫瘍細胞(これは、一般的バイスタンダー細胞株組成物を一緒に含む)とともにインキュベートされ、その後一般的バイスタンダー細胞株組成物を患者に投与してもよい。一般的バイスタンダー細胞株組成物を患者に導入するために、任意の適切な投与経路を使用することができる。好ましくは、本発明の組成物は、皮下、皮内または腫瘍内に投与される。
【0087】
典型的には、癌抗原は、処置される癌の細胞、すなわち自己由来癌細胞によって(自己由来癌細胞上に)提供される。このような場合において、本発明の組成物は、照射によって増殖不能にされ、ここで、バイスタンダー細胞および癌細胞は組織培養プレートに配置され、以下に詳述されるように、Cs線源を使用して、室温で照射される。
【0088】
所定の投与における同種異系癌細胞に対するバイスタンダー細胞の比率は、組み合わせに依存して変化する。GM−CSF産生バイスタンダー細胞に関しては、所定の投与における自己由来癌細胞に対するバイスタンダー細胞の比率は、治療有効レベルのGM−CSFが産生されるレベルであるべきである。GM−CSFの閾値に加えて、自己由来癌細胞に対するバイスタンダー細胞の比率は、1:1より大きくなるべきではない。腫瘍細胞または腫瘍抗原に対するバイスタンダー細胞の適切な比率は、当該分野において公知である慣用的な方法を使用して決定することができる。
【0089】
本発明を実施する際のバイスタンダー細胞株の使用は、各患者のための自己由来腫瘍細胞を培養および形質導入する必要性をなくす。
【0090】
本発明の癌免疫療法の一般的特徴
本発明の細胞ベースの癌免疫療法は、非修飾の腫瘍細胞、サイトカインおよび抗CTLA4抗体を発現するように修飾された腫瘍細胞または非腫瘍細胞、抗CTLA4抗体を発現するように修飾された腫瘍細胞または非腫瘍細胞、サイトカイン、例えばGM−CSFなどを発現するように修飾された腫瘍細胞または非腫瘍細胞から選択される1つ以上の異なる細胞集団を含み得る。本発明の細胞ベースの癌免疫療法は、被験体への投与の前に増殖不能にされる。本明細書で使用される場合、「増殖不能」または「不活性化された」という用語は、複数ラウンドの有糸分裂を受けることが不可能であるが、サイトカイン、腫瘍抗原または抗原性タンパク質などのタンパク質を発現する能力をなお保持している細胞をいう。このことは、当業者に公知である多数の方法を通して達成されてもよい。被験体への投与の前に、本発明の細胞ベースの癌免疫療法は、典型的には、約50〜約200ラド/分、または約120〜約140ラド/分の線量で、被験体への投与の前に照射される。典型的には、照射を使用する場合に、必要とされる合計レベルは、2,500ラド、5,000ラド、10,000ラド、15,000ラド、または20,000ラドである。好ましくは、細胞は、実質的に100%の細胞を、さらなる増殖から阻害するために十分な合計線量で照射される。
【0091】
腫瘍抗原発現細胞集団またはサイトカイン発現細胞集団の細胞の数に対する、抗CTLA4抗体を発現するように修飾された細胞の数の比率は、約1:100〜100:1、25:1〜1:25、1:10〜10:1、または3:1〜1:3の間である。異なる集団が、同じ投与の経路および/またはほぼ同じ部位において送達され、同じかまたは異なる時点で送達されてもよい。本発明の1つの実施形態において、免疫療法は、複数のドナー/個体からの同種異系細胞の混合物を含む。
【0092】
遺伝的に改変された細胞は、1回、2回、または複数回投与されてもよい。異なる細胞の集団を含む組成物について、典型的には、各集団の約1×10〜1×10細胞が使用される。1つの実施形態において、単位用量あたり1×10〜1×10の間のサイトカイン産生細胞が存在する。1つの実施形態において、1×10〜5×10の間で存在する。複数用量を用いると、第1の免疫化用量は、引き続く免疫化用量よりも高くてもよい。例えば、5×10初回刺激用量に続き、数回の1×10〜3×10ブースター用量のGM−CSF産生細胞であり得る。本発明の1つの局面において、免疫療法の遺伝的に改変された細胞が調製され、想定される処置の全過程のために十分な細胞を提供するように組み合わせて一括化される。この混合物を凍結して保存し、各投与のためにアリコートを順次解凍する。
【0093】
本発明の1つの実施形態において、癌免疫療法は、百万個の細胞につき24時間あたりに少なくとも500ngまたは少なくとも36ngのGM−CSFを発現する細胞を含む。1つの実施形態において、癌免疫療法は、百万個の細胞につき24時間あたりに少なくとも1000ngのGM−CSFを発現する細胞を含む。しばしば、使用されるサイトカイン産生細胞の実際の数よりも重要なことは、細胞の生物合成能力、例えば時間とともに産生されるサイトカイン、抗CTLA4抗体または腫瘍抗原の量である。従って、生合成能力が高い場合、必要とされる細胞は少ない。本発明の実施形態には、生理学的条件下で、1時間のインキュベーションの間に、少なくとも約0.1ng、約0.5ng、少なくとも約2ng、または少なくとも約10ngの目的のサイトカインを合成することが可能である免疫療法の用量が含まれるが、これに限定されない。最適な細胞投薬量および比率の決定は、以下の実施例の節において記載されるように、慣用的な決定の問題であり、本明細書に提供される指示に鑑みて、当業者の技術の範囲内である。
【0094】
典型的には、培養後、遺伝的に改変された本発明の細胞は、癌免疫療法としてのそれらの使用の前に、細胞を調製する際に使用される大部分の付加的な成分を除去するために処理される。特に、ウシ胎仔血清、ウシ血清成分、または培養培地中の他の生物学的補充物が除去される。1つの実施形態において、例えば、反復的な穏やかな遠心分離によって、細胞は、適切な薬理学的に適合可能な賦形剤へと洗浄される。適合可能な賦形剤には、リン酸またはHepesのような生理学的に適合性である緩衝液、およびデキストロースのような栄養素、生理学的に適合可能なイオン、またはアミノ酸、および種々の培養培地、特に、他の免疫原性成分を欠いている培地を含むかまたは含まない、等張性生理食塩水が含まれる。キャリア試薬、例えばアルブミンおよび血漿画分および非活性増粘剤もまた、使用されてもよい。1つの実施形態において、非活性生物学的成分は、薬理学的調製物中に存在する限り、ヒト由来であり、処置される被験体から事前に入手されていてもよい。
【0095】
本発明の遺伝的に改変された細胞組成物は、1つ以上の癌免疫療法として被験体に投与することによって、被験体における癌を処置するために使用することができる。本発明の薬学的組成物はまた、例えば、生理食塩水溶液、硫酸プロタミン(Elkins−Sinn,Inc.、Cherry Hill、N.J.)、水、リン酸緩衝液およびTris緩衝液などの水系緩衝液、またはポリブレン(Sigma Chemical、St.Louis、Mo.)、または局在化剤、例えばカルシトニンゲル、ヒアルロナン溶液、またはトロンビンによるフィブリノーゲンの活性化に由来するフィブリン栓(米国特許第6,117,425号)などの許容される薬学的キャリアとともに投与されてもよい。適切な薬学的キャリアの選択は、本明細書に含まれる教示から、当業者に明らかであるとみなされる。
【0096】
本発明の薬学的組成物は、被験体における免疫応答を生成することおよび癌を処置することに関連する他の治療の後、その前、その代わりに与えられても、またはこれらと組み合わせて与えられてもよい。例えば、被験体は、本発明の細胞組成物を使用して、処置下にある癌の型を処置するために一般的に使用される処置様式を使用して、先または同時に、化学療法、放射線療法および他の型の免疫療法によって処置されてもよい。例えば、本発明の組成物は、シスプラチンのような化学療法剤との組み合わせ、シスプラチン/シクロホスファミド、タキソールまたはシスプラチン/シクロホスファミド/ドキソルビシン、免疫調節剤、例えばIL−2、IL−4、IL−7、IL−12、IL−15、IL−18、IL−21、INF−α、CpG配列、イニキモッド(Iniquimod)または抗CTLA4抗体などと組み合わせて使用されてもよい。このような様式が使用される場合、これらは、本発明の組成物の効力と干渉しない方法または時点で使用される。
【0097】
サイトカイン
細胞ベースの癌免疫療法は、1つ以上のサイトカインのコード配列を含んでもよい。「サイトカイン」は、非限定的に、局所的に作用して血液中を循環せず、本発明に従って使用される場合、個体の免疫応答の変化をもたらすホルモンを含む。典型的には、サイトカインはヒトサイトカインである。
【0098】
本発明の細胞ベースの癌免疫療法によって発現され得るサイトカインには以下が含まれるが、これらに限定されない:IFN−α、IFN−β、およびIFN−γ、インターロイキン(例えば、IL−1〜IL−29、特に、IL−2、IL−7、IL−12、IL−15、およびIL−18)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF−αおよびTNF−β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、ICAM、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)。1つの好ましい実施形態において、サイトカインはGM−CSFであり、細胞ベースの免疫療法はGVAX(登録商標)の形態である。
【0099】
腫瘍抗原
本発明の細胞ベースの癌免疫療法において、少なくとも1つの腫瘍抗原が発現される。この腫瘍抗原は、遺伝子改変の前に、自己由来細胞、同種異系細胞またはバイスタンダー細胞集団によってか、または腫瘍抗原をコードするベクターからのネイティブなコード配列の発現によって発現させることができる。本発明を実施する際の目的の腫瘍抗原は、処置下にある癌と関連し、免疫応答の増強が所望される腫瘍抗原である。本発明の組成物および方法を使用する処置のための例示的な癌標的には以下が含まれるが、これらに限定されない:膀胱癌、乳癌、結腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、子宮頚癌、膵臓癌、直腸癌、前立腺癌、胃癌、表皮癌;リンパまたは骨髄細胞系列の造血器腫瘍;線維肉腫または横紋筋肉腫などの間葉起源の腫瘍;黒色腫、奇形癌、神経芽細胞腫、神経膠腫、腺癌、および非小細胞肺癌などの他の腫瘍型。処置される腫瘍細胞の型が前立腺癌である場合、前立腺腫瘍細胞株は、DU145、PC−3およびLnCaPからなる群より選択されてもよい。
【0100】
例示的な腫瘍抗原コード配列には、以下からの免疫原性配列が含まれるが、これらに限定されない:MART−1、gp100(pmel−17)、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、チロシナーゼ関連タンパク質2、メラニン形成細胞刺激ホルモンレセプター、MAGE1、MAGE2、MAGE3、MAGE12、BAGE、GAGE、NY−ESO−1、βカテニン、MUM−1、CDK−4、カスパーゼ8、KIA 0205、HLA−A2R1701、a−フェトタンパク質、テロメラーゼ触媒タンパク質、G−250、MUC−1、癌胎児タンパク質(CEA)、p53、Her2/neu、トリオースリン酸イソメラーゼ、CDC−27、LDLR−FUT、テロメラーゼ逆転写酵素、サバイビン(surviving)、メソセリン(mesothelin)、B細胞リンパ腫のIgイディオタイプ、黒色腫の変異型サイクリン依存性キナーゼ4、Pmel−17(gp 100)、PSMA、黒色腫のp15タンパク質、黒色腫のgp75、黒色腫の腫瘍胎児抗原;黒色腫のGM2およびGD2ガングリオシド;癌腫の変異型p53などの腫瘍遺伝子、結腸癌の変異型ras、ならびに頚部および食道の扁平上皮癌のヒトパピローマウイルスタンパク質などのウイルス産物。
【0101】
1つの実施形態において、腫瘍細胞は、腫瘍を有する哺乳動物、例えばヒト由来である。
【0102】
抗CTLA4抗体
CTLA4(CD152)は、種々のモデル系において、抗原提示細胞上のB7分子(APC:B7−1(CD80)およびB7−2(CD86))との相互作用によって、T細胞活性化をネガティブに調節する、T細胞によって発現される免疫調節分子である(例えば、Kormanら、Curr.Opin.Invest.Drugs 6:582−591(2005年)を参照のこと)。CTLA4ノックアウトマウスは、4週間未満で死亡をもたらす大量のリンパ球増殖を示す。CTLA4は広範に研究されてきたが、T細胞増殖を減少させる際のその作用の機序は完全に理解されてはいない。この機序には、APCおよびT細胞界面におけるB7リガンドの競合;IL−2をダウンレギュレートするシグナル伝達事象;APCによるインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼの誘導;およびネガティブ調節サイトカインの誘導が含まれると考えられている。
【0103】
従って、抗CTLA4抗体は、単独療法としての治療的利点を有し得るが、臨床的状況において効力を観察するために必要である抗CTLA4抗体の全身レベルは、最大耐量の近傍であり、関連する毒性を有することが報告されてきた(例えば、Kormanら、Curr.Opin.Invest.Drugs 6:582−591(2005年)を参照のこと)。それゆえに、等価な効力を有する抗CTLA4抗体のより低い全身レベルを可能にすることによって、潜在的な関連毒性の克服を可能にする組成物を開発する必要性が存在する。
【0104】
免疫グロブリンおよびその断片
抗体は、重鎖および軽鎖のヘテロ二量体である免疫グロブリンタンパク質であり、哺乳動物培養発現系において単一のベクターから全長で発現させることは困難であることが判明している。3つの方法が、脊椎動物抗体の産生のために現在使用されている。「ポリクローナル」抗体を産生するための動物のインビボ免疫化、モノクローナル抗体を産生するためのB細胞ハイブリドーマのインビトロ細胞培養(Kohlerら、Eur.J.Immunol.、6:511、1976;Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1988年)、および組換えDNA技術(例えば、Cabillyら、米国特許第6,331,415号に記載されている)である。
【0105】
免疫グロブリンポリペプチドの基本分子構造は、約23,000ダルトンの分子量を有する2つの同一の軽鎖、および53,000〜70,000の分子量を有する2つの同一の重鎖を含み、ここで、4つの鎖がジスルフィド結合によって結合され、「Y」配置をとることが周知である。アミノ酸配列は、Yの上端のN末端から、各鎖の底部のC末端まで連続している。N末端には、抗原結合の特異性を提供する可変領域(約100アミノ酸長)がある。
【0106】
ベクターは、すべての型の抗CTLA4免疫グロブリンの産生を可能にし、これには以下が含まれるが、これらに限定されない:ネイティブ配列(すなわち、抗原による刺激に応答して産生される配列)を有する全長抗体および抗体断片、単一の安定的に折りたたまれたポリペプチド鎖の中の重鎖と軽鎖の両方の抗原結合可変領域を合わせた一本鎖抗体;一価抗体(これは、第2の重鎖のFc領域に結合した重鎖/軽鎖二量体を含む);免疫グロブリン分子の全「Y」領域、すなわち「Y」の分枝、軽鎖もしくは重鎖いずれか単独またはその一部を含む「Fab断片」(すなわち、1つの重鎖および1つの軽鎖の集合体、一般には、Fab’として知られる);2つ以上の異なる抗原についての特異性を有する「ハイブリッド免疫グロブリン」(例えば、米国特許第6,623,940号において記載されているような、クアドローマまたは二重特異性抗体);重鎖および軽鎖が異なる種または特異性の鎖を模倣する「複合免疫グロブリン」;ならびに重鎖および軽鎖のアミノ酸配列の各々の部分が2つ以上の種から誘導される(すなわち、可変領域がマウス抗体などの1つの供給源に由来するが、定常領域がヒト抗体などの別の供給源に由来する)「キメラ抗体」。
【0107】
ベクターは、抗CTLA4免疫グロブリンまたはその断片の産生において有用であり、ここで、重鎖または軽鎖は「哺乳動物性」であるか、「キメラ」であるか、またはその効力を増強するように改変されている。改変された抗体は、非改変型と同じ生物活性を保持しているアミノ酸とヌクレオチドの両方の配列改変体、および活性が変化するように改変されているもの(すなわち、補体結合、膜との相互作用、および他のエフェクター機能を改善する定常領域の変化、ならびに抗原結合特性を改善する可変領域の変化)を含む。本発明の組成物および方法は、触媒性免疫グロブリンまたはその断片をさらに含む。
【0108】
「改変体」免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド配列は、参照ポリペプチド配列から1つ以上のアミノ酸が変化している「改変体」抗CTLA4免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし得る。改変体ポリヌクレオチド配列は、「保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードしてもよく、ここで、置換アミノ酸は、これが置き換えるアミノ酸と類似した構造特性または化学特性を有する。さらに、または代替的に、改変体ポリヌクレオチド配列は、「非保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードしてもよく、ここで、置換アミノ酸は、これが置き換えるアミノ酸とは異なる構造特性または化学特性を有する。改変体抗CTLA4免疫グロブリンコードポリヌクレオチドはまた、アミノ酸の挿入、または欠失、またはその両方を含む改変体アミノ酸配列をコードしてもよい。さらに、改変体抗CTLA−4免疫グロブリンコードポリヌクレオチドは、参照ポリヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードしてもよいが、遺伝暗号の縮重に起因して、参照ポリヌクレオチド配列から1つ以上の塩基が変化しているポリヌクレオチド配列を有する。
【0109】
「断片」という用語は、本発明の組換え抗CTLA4免疫グロブリンに言及する場合、対応する全長タンパク質と本質的に同じ生物学的機能または活性を保持しているか、対応する全長タンパク質の機能または活性の少なくとも1つを保持しているかのいずれかである、対応する全長免疫グロブリンタンパク質のアミノ酸配列の全部ではないが一部と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。断片は、好ましくは、全長免疫グロブリンの連続するアミノ酸残基を少なくとも20〜100個含む。
【0110】
好ましい実施形態において、2つ以上のコード配列の発現および送達を可能にする免疫グロブリン発現系、すなわち、単一のベクター由来の二重特異性または多重特異性を有する免疫グロブリンが使用される。この免疫グロブリン発現系は、任意の抗CTLA4免疫グロブリン(すなわち、抗体)またはその断片に適用可能であり、これには、本明細書中でさらに詳述するように、操作された抗体、例えば一本鎖抗体、全長抗体または抗体断片が含まれる。
【0111】
免疫グロブリン発現系は、単一の制御プロモーターを使用する抗CTLA4免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の発現に依存し、ここで、重鎖および軽鎖は、実質的に等しい比率で発現される。ポリタンパク質の型でのタンパク質の結合は、ピコルナウイルスを含む多くのウイルスの複製において採用されているストラテジーである。翻訳に際して、ウイルスがコードする自己プロセシングペプチドが、ポリタンパク質の迅速な分子内(シス)切断を媒介して別個の成熟タンパク質産物を生じ、タンパク質分解的切断部位におけるその後の切断が、残っている自己プロセシング配列の大部分を除去する。免疫グロブリン発現系は、単一の制御プロモーターを使用する免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のコード配列の発現を容易にし、ここで、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のコード配列が実質的に等モル比で発現される自己プロセシングペプチド(本明細書では2Aペプチドによって例示される)を含む組換え免疫グロブリンの発現のためのベクターが提供されるという点で、IRESの使用を超えた利点を提供する。実質的に等モル比での抗CTLA4重鎖および抗CTLA4軽鎖の発現は、例えば、ウェスタンブロット分析によって示されてもよく、ここで、重鎖タンパク質および軽鎖タンパク質は、還元条件下でSDS−PAGEによって分離され、抗ラットIgGポリクローナル抗体または抗ヒトIgGポリクローナル抗体を使用してプローブされ、製造業者の指示書に従って市販のキットを使用して可視化される。
【0112】
自己プロセシング切断部位または配列
先に定義した「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」は、DNAまたはアミノ酸配列をいい、ここで、翻訳の際に、自己プロセシング切断部位を含むポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断が起こり、別個の成熟タンパク質産物を生じる。このような「自己プロセシング切断部位」はまた、2A部位、2A配列または2Aドメインによって本明細書に例示される、翻訳後または翻訳と同時にプロセシングを行う切断部位とも呼ばれる。2A部位、配列またはドメインは、リボソームの活性を修飾してエステル結合の加水分解を促進することによって翻訳効果を示し、それによって、別個の下流の翻訳産物の合成が進行することを可能にする様式で、翻訳複合体からポリペプチドを遊離する(Donnelly、2001年)。あるいは、2A部位または2Aドメインは、それ自体のC末端をシスで切断することによって「自己タンパク質分解」または「切断」を示し、一次切断産物を産生する(Furler;Palmenberg、Ann.Rev.Microbiol.44:603−623(1990年))。
【0113】
2Aの活性は、ペプチド結合の形成を妨害するコドン間のリボソームのスキッピングを伴い得るが(de Felipeら、Human Gene Therapy 11:1921−1931(2000年);Donnellyら、J.Gen.Virol.82:1013−1025(2001年))、このドメインはむしろ自己分解酵素のように作用すると考えられてきた(Ryanら、Virol.173:35−45(1989年))。口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aコード領域を発現ベクターにクローニングし、標的細胞にトランスフェクトする研究によって、人工レポーターポリタンパク質のFMDV 2A切断が、広範な異種発現系において効率的であることが確立された(コムギ胚芽ライセートおよびトランスジェニックタバコ(Halpinら、米国特許第5,846,767号(1998年)およびHalpinら、The Plant Journal 17:453−459(1999年));Hs 683ヒトグリオーマ細胞株(de Felipeら、Gene Therapy 6:198−208(1999年);本明細書以後では「de Felipe II」と称する);ウサギ網状赤血球ライセートおよびヒトHTK−143細胞(Ryanら、EMBO J.13:928−933(1994年));および昆虫細胞(Roosienら、J.Gen.Virol.71:1703−1711(1990年)))。異種ポリタンパク質のFMDV 2A媒介切断は、IL−12について示されてきた(p40/p35ヘテロ二量体;Chaplinら、J.Interferon Cytokine Res.19:235−241(1999年))。トランスフェクトされたCOS−7細胞において、FMDV 2Aは、p40−2A−p35ポリタンパク質の、IL−12と関連する活性を有する生物学的に機能的なサブユニットp40およびp35への切断を媒介した。
【0114】
FMDV 2A配列は、レトロウイルスベクターに、単独か、または様々なIRES配列と組み合わせて組み込まれ、バイシストロン性、トリシストロン性およびテトラシストロン性のベクターを構築した。動物における2A媒介遺伝子発現の効率は、a−シヌクレインおよびEGFP、またはCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD−1)およびFMDV 2A配列によって連結しているEGFPをコードする組換えアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターを使用して、Furler(2001年)によって実証された。EGFPおよびa−シヌクレインは、対応するIRESベースのベクターと比較して、2A配列を含んだベクターから実質的に高いレベルで発現されたのに対して、SOD−1は、匹敵するかわずかに高いレベルで発現された。Furlerはまた、ラット黒質への2A含有AAVベクターの注射後、2A配列が、インビボでのバイシストロン性遺伝子発現をもたらすことを示した。近年、2Aペプチドおよび2A様配列は、レトロウイルスベクターを使用する4つのシストロンの効率的な翻訳において有効であることが実証された(Szymczak ALら、Nat Biotechnol.2004年5月22日(5):589−94)。
【0115】
自己プロセシング切断部位をコードするDNA配列は、エンテロウイルス、ライノウイルス、カーディオウイルス、アフトウイルスまたは口蹄疫ウイルス(FMDV)を含むが、これらに限定されない、ピコルナウイルスに由来するウイルス配列によって例示される。好ましい実施形態において、自己プロセシング切断部位コード配列は、FMDVに由来する。自己プロセシング切断部位には、2Aドメインおよび2A様ドメインが含まれるが、これらに限定されない(Donnellyら、J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001年)。
【0116】
FMDV 2Aは、FMDVゲノム中で、それ自体のC末端において単一の切断を指示するように機能し、従って、シスで機能するポリタンパク質領域である。FMDV 2Aドメインは、典型的には、約19アミノ酸長であるように報告されているが(LLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号1);(TLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号2;Ryanら、J.Gen.Virol.72:2727−2732(1991年))、14個の短いアミノ酸残基のオリゴペプチド(LLKLAGDVESNPGP;配列番号3)は、ネイティブなFMDVポリタンパク質プロセシングにおけるその役割と類似の様式で、2AのC末端において切断を媒介することが示されてきた。
【0117】
2A配列のバリエーションは、ポリタンパク質の効率的なプロセシングを媒介するそれらの能力について研究されてきた(Donnelly MLら、2001年)。2A配列のホモログおよび改変体が、本発明の範囲内に含まれ、限定されないが、以下の表1に提示する配列が挙げられる。
【0118】
表1.例示的な2A配列の表
【0119】
【表1】

2Aコード配列の小さなサイズは、AAVなどのコード配列について、限定されたパッケージング能を有するベクターにおけるその使用をさらに可能にする。2A配列は2つのプロモーターの必要性を排除するので、AAVベクターの有用性はさらに拡大され得る。2Aとともに3つ以上のコード配列を含む単一のオープンリーディングフレームを駆動するプロモーターからの個々のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現レベルは、IRES配列または2つのプロモーターを使用して達成可能である発現レベルと比較した場合に、等モルに近づいている。2つのプロモーターの排除はまた、各コード配列についての発現のレベルの減少および/または低下をもたらし得るプロモーター干渉を減少させる。
【0120】
1つの好ましい実施形態において、本発明によるベクターに含まれるFMDV 2A配列は、LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)を含むアミノ酸残基をコードする。あるいは、本発明によるベクターは、Donnellyら、J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001年)において説明されているような他の2A様領域のアミノ酸残基をコードし得、これには、ピコルナウイルス、昆虫ウイルス、C型ロタウイルス、トリパノソーマ反復配列または細菌のThermatoga maritimaからの2A様ドメインが含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
自己プロセシングペプチド配列の除去
2A配列または2A様配列などの自己プロセシングペプチドの使用に関連する1つの懸念は、第1の抗CTLA4抗体鎖のN末端が、自己プロセシングペプチドに由来するアミノ酸、すなわち2A由来のアミノ酸残基を含むことである。これらのアミノ酸残基は、宿主に対して「異種」であり、組換えタンパク質が発現され、またはインビボで送達されるときに(すなわち、遺伝子治療の状況においてウイルスベクターもしくは非ウイルスベクターから発現されるか、またはインビトロ産生された組換えタンパク質として投与されるときに)、免疫応答を誘発し得る。さらに、除去されない場合、2A由来のアミノ酸残基は、サイトカイン発現腫瘍細胞におけるタンパク質分泌に干渉し、そして/またはタンパク質構造を変化させ、抗CTLA4抗体の最適よりも少ない発現レベルおよび/もしくは生物活性の減少をもたらす可能性がある。免疫グロブリン発現系は、切断後に残っている自己プロセシング切断部位由来のアミノ酸残基を除去するための手段として、タンパク質分解的切断部位がポリペプチドコード配列と自己プロセシング切断部位(例えば、2A配列)との間に提供されるように操作された遺伝子発現構築物を含む。
【0122】
タンパク質分解的切断部位の例は、タンパク質分泌経路の中のフリンおよび他のセリンプロテアーゼなどの内因性サブチリシン様プロテアーゼによって切断可能である、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有するフリン切断部位である。USSN 10/831302に示されるように、第1のタンパク質のN末端における2A残基は、第1のタンパク質と2A配列との間にフリン切断部位RAKR(配列番号15)を導入することによって効率的に除去することができる。さらに、2A配列および2A部位に隣接したフリン切断部位をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドの使用は、2A配列を単独で含むプラスミドよりも高いレベルのタンパク質発現をもたらすことが示された。この改善は、2A残基がタンパク質のN末端から除去され、より長い2A配列または2A様配列または他の自己プロセシング配列が使用可能であるという点で、さらなる利点を提供する。2A配列または2A様配列などの、このようなより長い自己プロセシング配列は、単一のプロモーターによって2つ以上のポリペプチドのより良好な等モル発現を容易にする可能性がある。
【0123】
完全なヒトの特徴を有する抗CTLA4抗体またはそのアナログを使用することが有利である。これらの試薬は、非ヒト種由来の抗体またはアナログによって誘導される望ましくない免疫応答を回避する。自己プロセシングペプチドに由来するアミノ酸残基に対して起こり得る宿主免疫応答に対処するために、タンパク質分解的切断部位のコード配列を、発現したポリペプチド、すなわち抗体から自己プロセシングペプチド配列を除去するために第1のタンパク質のコード配列と自己プロセシングペプチドのコード配列との間に挿入してもよい(当該分野において公知である標準的な方法論を使用する)。このことは、インビボで使用するための治療用または診断用の抗体において特に有用である。
【0124】
組換えDNA技術のベクターを使用して発現可能である当該分野において公知である任意の付加的なタンパク質分解的切断部位が、本発明の実施の際に使用されてもよい。抗CTLA4抗体の重鎖または軽鎖と、自己プロセシング切断配列(例えば、2A配列など)との間に挿入可能である、例示的な付加的なタンパク質分解的切断部位には以下が含まれるが、これらに限定されない:
a)フリン切断部位:RXK(R)R(配列番号10);
b)ファクターXa切断部位:IE(D)GR(配列番号12);
c)シグナルペプチダーゼI切断部位:例えば、LAGFATVAQA(配列番号13);および
d)トロンビン切断部位:LVPRGS(配列番号14)。
【0125】
2Aペプチド配列は、翻訳プロセスの間に抗CTLA4免疫グロブリンの両方の鎖の生成を容易にする「切断」部位を提供する。1つの局面において、抗CTLA4免疫グロブリン重鎖のC末端は、2A配列それ自体に由来する約13アミノ酸残基を含む。残存するアミノ酸の数は、使用する2A配列に依存する。フリン切断部位配列、例えばRAKRが第1のタンパク質と2A配列との間に挿入される場合、2A残基は第1のタンパク質のC末端から除去される。しかし、質量スペクトルデータは、RAKR−2A構築物から発現される抗体重鎖のC末端がフリン切断部位RAKRに由来する2個の付加的なアミノ酸残基RAを含むことを示している。
【0126】
これらの残存するアミノ酸は、例えばカルボキシペプチダーゼを使用して除去される可能性がある。フリンの切断は、コンセンサス配列RXR(K)R(配列番号16)を有する切断部位のC末端で起こり、ここで、Xは任意のアミノ酸である。1つの局面において、本発明は、カルボキシペプチダーゼD、EおよびH(CPD、CPE、CPH)を含むカルボキシペプチダーゼ(CP)と呼ばれる酵素の群から選択される酵素の使用によって、タンパク質のC末端からの新たに露出した塩基性アミノ酸残基RまたはKの除去のための手段を提供する。CPはタンパク質のC末端の塩基性アミノ酸残基を除去可能であるので、RKKR(配列番号17)、RKRR(配列番号18)、RRKR(配列番号19)、RRRR(配列番号20)などのような塩基性アミノ酸のみを含むフリン切断部位に由来するすべてのアミノ酸残基が、CPによって除去可能である。2A配列およびフリン切断部位を含み、C末端に塩基性アミノ酸残基を有する抗CTLA4免疫グロブリン発現構築物が、切断および残基の除去の効率を評価するために構築されてもよい。例示的な構築物の設計は以下の通りである:H鎖−フリン(例えば、RKKR、RKRR、RRKRまたはRRRR)−2A−L鎖またはL鎖−フリン(例えば、RKKR、RKRR、RRKRまたはRRRR)−2A−H鎖。
【0127】
当業者には明らかであるように、免疫グロブリン重(H)鎖のC末端には塩基性アミノ酸残基(K)が存在する(カルボキシペプチダーゼを用いる切断を受けるようにする)のに対して、免疫グロブリン軽(L)鎖は、非塩基性アミノ酸Cが末端である。
【0128】
配列改変体
本発明の1つの実施形態において、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインをコードするヌクレオチド配列は、ネイティブタンパク質のネイティブ配列、その生物学的に活性な断片または免疫原性の断片である。さらに、コード配列は、「再コード化」されてもよい。「再コード化」される遺伝子は、核酸によってコードされたポリペプチドは変更されていない配列と同じままであるが、ポリペプチドをコードする核酸配列は変化しているように、変更されたコード配列をいう。遺伝暗号の縮重に起因して、同じアミノ酸翻訳産物をコードし得る複数のDNAコドンおよびRNAコドンが存在することが、当該分野において公知である。さらに、アミノ酸を合成するために、異なる生物が、特定のコドンの利用について異なる優先度を有することもまた公知である。
【0129】
腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインの生物学的に活性な型または免疫原性型をコードする配列改変体を含む、遺伝的に改変された細胞もまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0130】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」という用語は、配列アラインメントプログラムを使用して整列したときに、2つ以上の整列した配列中での核酸またはアミノ酸配列の同一性を意味する。「相同性%」という用語は、本明細書中の「同一性%」という用語と本明細書中で交換可能に使用され、配列アラインメントプログラムを使用して整列したときに、2つ以上の整列した配列間の核酸またはアミノ酸の配列の同一性のレベルをいう。例えば、本明細書で使用される場合、80%相同性は、規定されたアルゴリズムによって決定される80%の配列同一性と同じことを意味し、従って、所定の配列のホモログは、所定の配列の長さにわたって、80%よりも高い配列同一性を有する。
【0131】
比較のための最適な配列のアラインメントは、例えば、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981年)のローカルホモロジーアルゴリズムによって、NeedlemanおよびWunsch、J Mol.Biol.48:443(1970年)のホモロジーアラインメントアルゴリズムによってか、PearsonおよびLipman、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988年)の同一性法によってか、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施によってか(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison、Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、BLASTアルゴリズム、Altschulら、J Mol.Biol.215:403−410(1990年)によってか、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手可能であるソフトウェアを用いてか、または目視検査によって(一般には、Ausubelら、下記を参照のこと)、行うことができる。本発明の目的のために、比較のための最適な配列のアラインメントは、最も好ましくは、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981年)のローカルホモロジーアルゴリズムによって行われる。Altschul,S.F.ら、1990年およびAltschul,S.F.ら、1997年もまた参照のこと。
【0132】
「同一」または「同一性」パーセントという用語は、2つ以上の核酸配列またはタンパク質配列について、本明細書に記載される配列比較アルゴリズムの1つ、例えば、Smith−Watermanアルゴリズムまたは目視検査を使用して測定される場合、最大限の一致のために比較および整列されるとき、同一であるか、または同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定の割合で有する2つ以上の配列または部分配列をいう。
【0133】
本発明に従って、ネイティブ配列に対して、80%、85%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有する腫瘍抗原、抗CTLA4抗体、またはサイトカインをコードする配列改変体もまた、含まれる。
【0134】
核酸配列は、2つの配列が中程度から高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件および洗浄条件で互いに特異的にハイブリダイズする場合、参照核酸配列に対して「選択的にハイブリダイズ可能」であると見なされる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体またはプローブの溶融温度(Tm)に基づく。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、典型的には、約Tm−5℃(プローブのTmよりも5℃下)で起こり;「高ストリンジェンシー」はTmよりも約5〜10℃下で起こり;「中程度のストリンジェンシー」はプローブのTmの約10〜20℃下で起こり;「低ストリンジェンシー」はTmよりも約20〜25℃下で起こる。機能的には、最大ストリンジェンシー条件が、ハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性またはほぼ厳密な同一性を有する配列を同定するために使用されてもよいのに対して;高ストリンジェンシー条件は、プローブとの約80%以上の配列同一性を有する配列を同定するために使用される。
【0135】
中程度のストリンジェンシーおよび高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、当該分野において公知である(例えば、Sambrookら、1989年、第9章および第11章、ならびにAusubel,F.M.ら、1993年を参照のこと)。高ストリンジェンシー条件の例には、50%ホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5% SDS、および100μg/ml変性キャリアDNA中の約42℃でのハイブリダイゼーション、続いて、2×SSCおよび0.5% SDS中の室温での2回の洗浄、ならびに0.1×SSCおよび0.5% SDS中の42℃でのさらなる2回の洗浄が含まれる。本明細書で使用される場合、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインのヌクレオチドコード配列には、本明細書に記載される腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインのポリペプチドと同じ生物活性を有し、中程度のストリンジェンシーから高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズするポリペプチドをコードする配列改変体が含まれ、これは本発明の範囲内にあると見なされる。
【0136】
遺伝暗号の縮重の結果として、同じ腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインのポリペプチドをコードする多数のコード配列が、産生され得る。例えば、トリプレットCGTはアミノ酸アルギニンをコードする。アルギニンは、あるいは、CGA、CGC、CGG、AGA、およびAGGによってコードされる。それゆえに、コード領域におけるこのような置換は、本発明によって網羅される配列改変体の中に含まれることが認識される。
【0137】
このような配列改変体は、高ストリンジェンシーの条件下で親の配列にハイブリダイズしてもよいし、ハイブリダイズしなくてもよいことがさらに理解される。このことは、例えば、配列改変体が、親のヌクレオチドによってコードされるアミノ酸の各々について、異なるコドンを含む場合に起こり得る。このような改変体は、それにも関わらず、本発明によって明確に意図され、本発明によって包含される。
【0138】
細胞への導入遺伝子の導入
腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインのコード配列は、細胞による発現をもたらすために有効である任意の方法を使用して、細胞に導入されてもよい。典型的には、目的のコード配列を含むベクターは、当業者によって慣用的に使用される慣用的な分子生物学的技術を使用して調製される。
【0139】
本発明は、腫瘍抗原、抗CTLA−4抗体またはサイトカインのコード配列の細胞への導入のための任意の利用可能なベクターの使用を意図する。例示的なベクターには、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。
【0140】
ウイルスベクター粒子は、DNA、RNAまたは他の核酸を、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞に導入する目的のために利用されてもよい。ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターの多数の型が、当該分野で公知である。本発明を実施するために使用され得る例示的なベクターには以下が含まれるが、これらに限定されない:例えば、MoMLV、MSCV、SFFV、MPSV、SNVなどに由来);レンチウイルス(例えば、HIV−1、HIV−2、SIV、BIV、FIVなどに由来));ワクシニアウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター(例えば、HSV)、バキュロウイルスベクター、サイトメガロウイルス(CMV)ベクター、パピローマウイルスベクター、シミアンウイルス(SV40)ベクター、シンドビスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター、セムリキ森林ウイルスベクター、ファージベクター、エプスタイン−バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、複製成分を含むアデノウイルス(Ad)ベクター、その複製欠損型および脆弱型、バキュロウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ならびに非ウイルスプラスミドベクター。
【0141】
腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインの発現のためのベクターおよび構築物は、標準的な方法論を使用して細胞に導入されてもよい。トランスフェクション、形質導入または感染のための方法は、当業者に周知である。「形質導入」という用語は、感染、内在化、トランスフェクション、または任意の他の手段によって、インビボまたはインビトロのいずれかで、レシピエント細胞へ核酸分子を送達することをいう。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈殿、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、および微粒子銃を含む、当該分野において公知である種々の手段によって達成されてもよい。Grahamら、(1973年)Virology、52:456、Sambrookら、(1989年)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories、New York、Davisら、(1986年)Basic Methods
in Molecular Biology、Elsevier、およびChuら、Gene 13:197、1981年を参照のこと。このような技術は、プラスミドベクターおよび他の核酸分子などの1つ以上の外因性DNA部分を、適切な宿主細胞に導入するために使用できる。この用語は、遺伝物質の安定的な取り込みと一過性の取り込みの両方をいう。
【0142】
本発明を実施する際に利用されるベクターは、neo、DHFR、Glnシンテターゼ、またはADAなどの選択可能なマーカーを必要に応じてコードしてもよく、続いて、適切な薬物の存在下での選択およびクローンの単離を行う。2つ以上のベクターを使用して、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体のコード配列を細胞に導入し得る。本発明は、形質導入のための任意の連続的な順序に限定されない。換言すれば、2つ以上のベクターは、細胞に形質導入するために、本質的に同時かまたは任意の順序で連続して使用されてもよい。
【0143】
腫瘍抗原、抗CTLA4抗体またはサイトカインの2つ以上のコード配列が単一のベクターを使用して細胞に導入される場合、コード配列は、例えば、US04/12793およびUS04/12807に記載されるように、別個のプロモーターの制御下におかれるか、同じプロモーターに作動可能に連結されて、IRES、2A、または2A様配列の翻訳制御下におかれてもよい。
【0144】
AAVベクター
アデノ関連ウイルス(AAV)は、ヘルパー依存性ヒトパルボウイルスである。AAVベクターは、非病原性性質、優れた臨床的安全性プロフィール、および有意な量の導入遺伝子発現をインビボで指示する能力に起因して、遺伝子導入ベクターとしての顕著な潜在能力を有する。組換えAAVベクターは、これらが、標的化された細胞における選択された導入遺伝子産物の発現および産生を指示することが可能であるという点に特徴を有する。従って、組換えベクターは、キャプシド形成のために必須であるAAVの配列のすべておよび標的細胞の感染のための物理的構造を、少なくとも含む。ウイルス粒子に組み込まれたAAVウイルスベクターを用いる細胞の感染は、典型的には、宿主細胞ゲノムへのウイルスベクターの組み込みをもたらす。それゆえに、AAVベクターは、細胞からの長期的な発現のための潜在能力、および細胞分裂の結果である「娘細胞」を提供する。
【0145】
本発明を実施する際に使用される組換えAAV(rAAV)ビリオンは、当業者に公知である標準的な方法論を使用して産生されてもよく、これらは、転写の方向において作動可能に連結される成分として、転写開始配列および終結配列を含む制御配列、ならびに導入遺伝子のコード配列を含むように構築される。これらの成分は、機能的AAV ITR配列によって、5’および3’末端上で結合される。「機能的AAV ITR配列」は、AAVビリオンの放出、複製およびパッケージングのために、意図されるようにITR配列が機能することを意味する。それゆえに、本発明のベクターにおける使用のためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、ヌクレオチドの挿入、欠失もしくは置換によって変更されてもよく、またはAAV ITRは、いくつかのAAV血清型のいずれかから誘導されてもよい。AAVベクターは、アデノ関連ウイルス血清型から誘導されたベクターであり、そのアデノ関連ウイルス血清型としては、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、AAVベクターは、全体としてかまたは部分的に欠失した野生型REPおよびCAP遺伝子を有するが、機能的な隣接するITR配列を保持している。
【0146】
典型的には、AAV発現ベクターは、産生細胞に導入され、続いてAAVヘルパー構築物の導入が行われ、ここで、このヘルパー構築物は、産生細胞で発現可能であるAAVコード領域を含み、これがAAVベクター中に存在しないAAVヘルパー機能を補う。このヘルパー構築物は、米国特許第6,548,286号に記載されるように、典型的には、p5の後の開始コドンをATGからACGに変異させることによって、巨大REPタンパク質(Rep78およびRep68)の発現をダウンレギュレートするように設計されてもよい。これに続いて、産生細胞へのヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターの導入を行い、ここで、ヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターは、効率的なrAAVウイルス産生を支援することができる補助的機能を提供する。次いで、産生細胞は、rAAVを産生するために培養される。これらの工程は、標準的な方法論を使用して実施される。本発明の組換えAAVベクターを封入している複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を使用する、当該分野において公知である標準的な技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号;同第6,040,183号;同第6,093,570号;および同第6,548,286号において見出され得る。パッケージングのためのさらなる組成物および方法は、Wangら(US2002/0168342)において記載され、当業者の知識の範囲内にあるものが含まれる。
【0147】
約40種のAAVの血清型が現在公知であるが、新規な血清型および既存の血清型の改変体が、今日でも同定されており、本発明の範囲内にあると見なされている。Gaoら(2002年)、PNAS 99(18):11854 6;Gaoら(2003年)、PNAS 100(10):6081 6;BossisおよびChiorini(2003年)、J.Virol.77(12):6799 810を参照のこと。異なるAAV血清型が、特定の標的細胞の形質導入を最適化するため、および特定の標的組織の中での特定の細胞型を標的化するために使用される。特定のAAV血清型は、標的組織または細胞内でより効率的に標的化および/または複製し得る。単一の自己相補的AAVベクターは、形質導入効率を増大させ、結果として導入遺伝子発現の開始を早めるために、本発明を実施する際に使用することができる(McCartyら、Gene Ther.2001年8月;8(16):1248 54)。
【0148】
rAAVビリオンを産生するための適切な宿主細胞には、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物細胞、および酵母が含まれる。宿主細胞はまた、AAVのREP遺伝子およびCAP遺伝子が宿主細胞内に安定的に維持されたパッケージング細胞でもあり得るか、または代替的に、宿主細胞は、AAVベクターゲノムが安定的に維持されている産生細胞であり得る。例示的なパッケージング細胞および産生細胞は、293細胞、A549細胞またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当該分野において公知である標準的な技術を使用して、精製および処方される。
【0149】
レトロウイルスベクター
レトロウイルスベクターは遺伝子送達のための一般的なツールである(Miller、1992年、Nature 357:455 460)。レンチウイルスベクターを含むレトロウイルスベクターは、本発明を実施する際に使用されてもよい。レトロウイルスベクターは、試験され、広範な標的細胞のゲノムDNAに、種々の目的の遺伝子を安定的に導入するための適切な送達ビヒクルであることが見出された。レトロウイルスベクターが導入遺伝子を細胞に送達する能力により、レトロウイルスベクターは細胞に遺伝子を導入するのに十分に適するようになる。さらに、レトロウイルスは、宿主細胞上の特定の細胞表面レセプターへのレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質の結合によって、宿主細胞に進入する。結果的に、コードされたネイティブなエンベロープタンパク質が、ネイティブなエンベロープタンパク質とは異なる細胞特異性を有する異種エンベロープタンパク質(例えば、ネイティブなエンベロープタンパク質と比較して、異なる細胞表面レセプターに結合する)によって置き換えられている偽型レトロウイルスベクターもまた、本発明を実施する際に有用であり得る。
【0150】
本発明は、例えば、1つ以上の導入遺伝子配列を含むレトロウイルス導入ベクター、および1つ以上のパッケージングエレメントを含むレトロウイルスパッケージングベクターを含むレトロウイルスベクターを提供する。特に、本発明は、偽型レトロウイルスを産生するための、異種エンベロープタンパク質または機能的に改変されたエンベロープタンパク質をコードする偽型レトロウイルスベクターを提供する。
【0151】
本発明のレトロウイルスベクターのコア配列は、例えば、B型、C型およびD型のレトロウイルスならびにスプマウイルスおよびレンチウイルスを含む広範な種々のレトロウイルスから容易に誘導され得る(RNA Tumor Viruses、第2版、Cold
Spring Harbor Laboratory、1985年を参照のこと)。本発明の組成物および方法における使用のために適切なレトロウイルスの例には、レンチウイルスが含まれるが、これに限定されない。本発明の組成物および方法における使用のために適切な他のレトロウイルスの例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:トリ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、マウス白血病ウイルス、ミンク細胞フォーカス誘導ウイルス、マウス肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス、およびラウス肉腫ウイルス。特に好ましいものは、4070Aおよび1504Aを含むマウス白血病ウイルス(HartleyおよびRowe、J.Virol.19:19 25、1976年)、Abelson(ATCC番号VR 999)、Friend(ATCC番号VR 245)、Graffi、Gross(ATCC番号VR 590)、Kirsten、ハーベイ肉腫ウイルスおよびRauscher(ATCC番号VR 998)、およびモロニーマウス白血病ウイルス(ATCC番号VR 190)である。このようなレトロウイルスは、American Type Culture Collection(「ATCC」;Rockville、Md.)のような寄託機関または集積機関から容易に入手され得るか、または一般に利用可能な技術を使用して公知の供給源から単離され得る。
【0152】
好ましくは、本発明のレトロウイルスベクター配列は、レンチウイルス由来である。好ましいレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス、例えば1型または2型(すなわち、HIV1またはHIV2、ここで、HIV1は、以前にはリンパ節症関連ウイルス3(HTLVIII)および後天性免疫不全症候群(AIDS)関連ウイルス(ARV)と呼ばれていた)、または同定され、AIDSもしくはAIDS様疾患と関連付けられた、HIV1もしくはHIV2と関連する別のウイルスである。本発明の実施する際に使用され得る他のレンチウイルスベクターには、ヒツジビスナ/マエディウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシレンチウイルス(例えば、BIV;WO200366810)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、およびヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)が含まれる。
【0153】
本発明の組成物および方法における使用のために適切である種々の属および系統のレトロウイルスが、当該分野において周知である(例えば、Fields Virology、第3版、B.N.Fieldsら編、Lippincott Raven Publishers(1996年)を参照のこと、例えば、第58章、Retroviridae:The Viruses and Their Replication,Classification、1768 1771頁、表1を含む、を参照のこと)。
【0154】
レトロウイルスを産生する産生細胞および産生細胞株を生成するためのレトロウイルスパッケージング系、ならびにこのようなパッケージング系を作製するための方法は公知である。細胞株を生成する際に使用されるレトロウイルスパッケージング系は、少なくとも2つのパッケージングベクター:gag遺伝子、pol遺伝子、またはgag遺伝子およびpol遺伝子を含む第1のヌクレオチド配列を含む第1のパッケージングベクター;ならびに異種エンベロープ遺伝子または機能的に改変されたエンベロープ遺伝子を含む第2のヌクレオチド配列を含む第2のパッケージングベクターを含む。1つの実施形態において、レトロウイルスエレメントは、HIVなどのレンチウイルス由来である。好ましくは、これらのベクターは、機能的なtat遺伝子および/または機能的なアクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpu、vpx、nef)を欠いている。別の実施形態において、この系は、rev遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む第3のパッケージングベクターをさらに含む。このパッケージング系は、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、および必要に応じて第3のヌクレオチド配列を含むパッケージング細胞の形態で提供され得る。
【0155】
当業者は、種々のレトロウイルス系、およびレトロウイルスの異なるグループにわたって共有されている共通エレメントが適用可能であることを認識する。本明細書の記載は、代表的な例としてレンチウイルス系を使用する。しかし、すべてのレトロウイルスが、表面突出を伴う封入されたビリオンの特徴を共有し、1つの分子の直鎖状、ポジティブセンス一本鎖RNA、二量体からなるゲノム、ならびに共通タンパク質gag、pol、およびenvを含む。
【0156】
1つの実施形態において、レンチウイルスベクターパッケージング系は、gag/polおよびenvについての別々のパッケージング構築物を提供し、典型的には、異種エンベロープタンパク質または機能的に改変されたエンベロープタンパク質(例えば、VSVGエンベロープ)を使用する。さらなる実施形態において、レンチウイルスベクター系は、欠失したかまたは不活性化されたアクセサリー遺伝子、vif、vpr、vpuおよびnefを有する。さらなる実施形態において、レンチウイルスベクター系は、欠失したか、もしくは不活性化された(例えば、変異によって)tat遺伝子を有する。別の実施形態において、gagコード配列およびpolコード配列は、当該分野において公知であるように、2つの別々のコード配列またはオープンリーディングフレームに「分裂(split)」される。典型的には、分裂したgagコード配列およびpolコード配列は作動可能に連結されて、異種プロモーターを分離し、異なる核酸分子上に配置され得る。
【0157】
通常はtatによって提供される転写の制御のための補償は、ヒトサイトメガロウイルス最初期(HCMV IE)エンハンサー/プロモーターなどの強力な構成的プロモーターの使用によって提供することができる。他のプロモーター/エンハンサーは、当該分野において理解されているように、構成的プロモーター活性の強さ、標的組織の特異性(例えば、肝臓特異的プロモーター)、または発現に対する所望の制御に関連する他の因子に基づいて選択することができる。例えば、いくつかの実施形態において、制御発現を達成するために、tetなどの誘導プロモーターを使用することが望ましい。revをコードする遺伝子は、好ましくは、レンチウイルスベクター系が4つの構築物:gag/pol、rev、エンベロープおよび導入ベクターについて各1つ(例えば、プラスミド)を含むように、別々の発現構築物上に提供される。利用されるパッケージング系の生成にかかわらず、gagおよびpolは、単一の構築物上か、または別々の構築物上に提供することができる。
【0158】
典型的には、パッケージングベクターは、パッケージング細胞内に含まれ、トランスフェクション、形質導入または感染によって細胞に導入される。トランスフェクション、形質導入または感染のための方法は、当業者に周知である。本発明のレトロウイルス導入ベクターは、トランスフェクション、形質導入または感染によってパッケージング細胞株に導入し、産生細胞または細胞株を生成することができる。本発明のパッケージングベクターは、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを含む標準的な方法によって、ヒト細胞またはヒト細胞株に導入することができる。いくつかの実施形態において、パッケージングベクターは、優性の選択可能なマーカー、例えば、neo、DHFR、GlnシンテターゼまたはADAと一緒に細胞に導入され、続いて、適切な薬物の存在下での選択およびクローンの単離が行われる。選択可能なマーカーの遺伝子は、パッケージングベクターによってコードされる遺伝子に物理的に連結することができるか、またはパッケージングベクターとともに同時導入(同時トランスフェクト)されてもよい。
【0159】
パッケージング機能が、適切なパッケージング細胞によって発現されるように構成されている安定的な細胞株が公知である。例えば、パッケージング細胞を記載している、米国特許第5,686,279号;およびOryら、Proc.Natl.Acad.Sci.(1996年)93:11400 11406を参照のこと。安定的な細胞株産生のさらなる記載は、Dullら、1998年、J.Virology 72(11):8463 8471;およびZuffereyら、1998年、J.Virology 72(12):9873 9880において見出され得る。
【0160】
目的のパッケージングベクターは、レンチウイルスタンパク質発現を増強するため、および安全性を増強するための、パッケージング機能に対するさらなる変化を含み得る。例えば、gagの上流のすべてのHIV配列を除去することができる。また、エンベロープの下流の配列を除去することができる。さらに、RNAのスプライシングおよび翻訳を増強するために、ベクターを改変するための工程を採用することができる。
【0161】
必要に応じて、Dullら、1998年、J.Virology 72(11):8463 8471によって記載されているような条件付きパッケージング系が使用される。例えば、Zuffereyら、1998年、J.Virology 72(12):9873 9880によって記載されているような、HIV1長末端反復(LTR)の欠失によってベクターの生物学的安全性を改善する、自己不活性化ベクター(SIN)の使用もまた好ましい。誘導性ベクターもまた、例えば、tet誘導性LTRを通して、使用することができる。
【0162】
アデノウイルスベクター
本明細書に開示するアデノウイルスベクターが、腫瘍抗原、GM−CSF、抗CTLA4抗体またはその任意の組み合わせを発現するために使用されてもよい。
【0163】
本明細書で使用される場合、「アデノウイルス」および「アデノウイルス粒子」という用語は、すべての群、亜群、および血清型を含む、ヒトまたは動物に感染するあらゆるアデノウイルスを含む、アデノウイルスとして分類され得るあらゆるウイルスをいう。従って、本明細書で使用される場合、「アデノウイルス」および「アデノウイルス粒子」とは、ウイルスそれ自体またはその派生物をいい、他に示される場合を除外して、すべての血清型およびサブタイプ、ならびに天然に存在する型と組換え型の両方を網羅する。このようなアデノウイルスは野生型であっても、当該分野において公知であるかもしくは本明細書に記載されるような種々の方法で改変されてもよい。このような改変は、感染性ウイルスを作製するために粒子中にパッケージングされるアデノウイルスゲノムに対する改変を含む。このような改変には、当該分野において公知である欠失、例えばE1aコード領域、E1bコード領域、E2aコード領域、E2bコード領域、E3コード領域またはE4コード領域の1つ以上における欠失が含まれる。この用語はまた、複製特異的なアデノウイルス;すなわち、特定の型の細胞または組織中で優先的に複製するが、他の型では複製の程度が低いかまたは全く複製しないウイルスを含む。このようなウイルスは、「細胞溶解性」ウイルス(またはベクター)または「細胞変性」ウイルス(またはベクター)と呼ばれることがあり、新生物細胞に対してこのような効果を有する場合には、「腫瘍溶解性」ウイルス(またはベクター)と呼ばれる。
【0164】
本発明は、本発明によるアデノウイルスベクターおよびウイルス粒子を構築するための、あらゆるアデノウイルス血清型の使用を意図する。本発明に従って使用され得るアデノウイルスストックは、任意のアデノウイルス血清型を含む。アデノウイルス血清型1〜51は、現在、American Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)から入手可能であり、本発明は、任意の供給源から入手可能であるアデノウイルスの任意の他の血清型を含む。本発明に従って使用可能であるアデノウイルスは、ヒト、またはウシ、ブタ、イヌ、サル、トリなどの非ヒト起源のものであり得る。例えば、アデノウイルスは、亜群A(例えば、血清型12、18、31)、亜群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、50)、亜群C(例えば、血清型1、2、5、6)、亜群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39、42〜47、49、51)、亜群E(血清型4)、亜群F(血清型40、41)、または任意の他のアデノウイルス血清型であり得る。ヒトおよび動物のアデノウイルスの多数の例が、American Type Culture Collectionにおいて入手可能であり、例えば、http://www.atcc.org/SearchCatalogs/CellBiology.cfm.において見出される。
【0165】
アデノウイルスベクターは、それらのゲノムのサイズによって限定される(Bettら、J Virol 67:5911−5921、1993年)。
【0166】
本発明のアデノウイルスベクターは、複製不能ベクターおよび複製可能ベクターを含む。複製不能ベクターは、標的細胞内で複製しないか、または非常に低レベルで複製する。1つの局面において、複製不能ベクターは、通常、コード領域の一部またはすべてを欠失させるかまたは変異させることによって不活性化されたE1a、E1b、E2a、E2bまたはE4の中に少なくとも1つのコード領域を有する。これらのベクターを増殖させるための方法は、当該分野において周知である。
【0167】
例示的なアデノウイルスベクターは以下を含むが、これらに限定されない:DNA、アデノウイルス外被に封入されたDNA、別のウイルス型もしくはウイルス様型(例えば、単純ヘルペスおよびAAV)にパッケージされたアデノウイルスDNA、リポソームに封入されたアデノウイルスDNA、ポリリジンと複合体化されたアデノウイルスDNA、合成ポリカチオン性分子と複合体化されるか、トランスフェリンと結合体化されるか、もしくはPEGなどの化合物と複合体化されて、抗原性を免疫学的に「マスク」し、そして/もしくは半減期を増加させたアデノウイルスDNA、または非ウイルスタンパク質に結合体化されたアデノウイルスDNA。
【0168】
アデノウイルスベクター粒子はまた、以下に記載されるような線維タンパク質へのさらなる改変を含んでもよい。1つの実施形態において、本発明のアデノウイルスベクターは、粒子のキャプシドタンパク質中に含まれる標的化リガンドをさらに含む。標的化アデノウイルスの例については、例えば、WO00/67576、WO99/39734、米国特許第6,683,170号、同第6,555,368号、同第5,922,315号、同第5,543,328号、同第5,770,442号、および同第5,846,782号を参照のこと。
【0169】
さらに、本発明のアデノウイルスベクターはまた、他のウイルスキャプシドタンパク質に対する改変も含んでもよい。これらの変異の例には、米国特許第5,731,190号、同第6,127,525号、および同第5,922,315号に記載されるものが含まれるが、これらに限定されない。他の改変されたアデノウイルスは、米国特許第6,057,155号、同第5,543,328号、および同第5,756,086号に記載されている。
【0170】
挿入された配列の発現のためのアデノウイルスベクターを生成するための標準的な系は当該分野において公知であり、商業的な供給源から入手可能であり、例えば、Clontech(Palo Alto、Ca)からのAdeno−X?発現系(Clontechniques(2000年1月)10−12頁)、両方ともQbiogene(Carlsbad、Ca)からであるAdenovator Adenoviral Vector SystemおよびAdEasyがある。
【0171】
細胞株
腫瘍細胞は、インビトロで増殖および維持される確立された腫瘍細胞株であり得る。確立された腫瘍細胞株には以下が含まれるが、これらに限定されない:PC−3細胞(ATCC#CRL−1435)、Hela細胞(ATCC#CCL−2)、A549細胞(ATCC#CCL−185)、LNCaP細胞(ATCC#CRL−1740)、H157細胞(ATCC#CRL−5802)、K562細胞(ATCC#CCL−243)、Panc 10.05細胞(ATCC#CRL−2547;(Jaffeら、Human Gene Therapy 1998年;9:1951−1971;Jaffeeら、Cancer J Sci Am 1998年;4(3):194−203)、Panc 6.03細胞、CG 8020細胞、CG 2505細胞、SK−BR−3細胞(ATCC#HTB−30;Foghら、1977年)、T47D細胞(ATCC#HTB−133;Keydarら、1979年)、3SKBR3−7細胞(Emensら、Hum Gene Ther.20043月;15(3):313−37)、2T47DV細胞(Emensら、2004年)、MCF−7細胞、BT−474細胞、HCC−1937細胞、またはH1359細胞。別の実施形態において、抗CTLA4抗体の発現を増強するように操作された細胞株は、哺乳動物から単離され、抗CTLA−4抗体の発現の増強を引き起こすベクターで形質導入した腫瘍細胞である。次いで、操作された腫瘍細胞は、癌免疫療法の一部として、同じかまたは異なる哺乳動物に投与によって戻され得る。細胞の子孫が親の細胞に対して(形態学的に、遺伝子型的にまたは表現型的に)完全に同一でなくてもよいことが理解される。さらに、細胞は、選択していない細胞の集団または特定の細胞のクローンのいずれかであり得る。例えば、細胞は、遺伝的に改変されるか、高発現レベルの抗CTLA4抗体、サイトカイン、腫瘍抗原、またはその任意の組み合わせについてスクリーニングすることができる。本発明の1つの実施形態において、細胞はヒト細胞である。1つの実施形態において、細胞は前立腺細胞である。1つの実施形態において、細胞は、被験体への投与の前に冷凍保存される。1つの実施形態において、細胞は増殖不能である。
【0172】
1つの実施形態において、細胞は多数の複製にわたって培養中で維持され、必要な場合に遺伝的に変化させることができる。1つの実施形態において、細胞は、新生物細胞、悪性形質転換細胞、またはこのような細胞の子孫である。細胞は、任意の方法によって長寿命細胞株に意図的に形質転換され得、その方法には、他の細胞株との融合、化学発癌性物質での処理、エプスタイン−バーウイルスもしくは発癌ウイルスなどの適切なウイルスを用いる感染、または連続的な増殖を可能にするタンパク質(例えば、SV40からの巨大T抗原)をコードするコード領域を用いた形質導入が含まれるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、細胞は、エクスビボ培養において確立された原発性前立腺腫瘍の子孫である。
【0173】
本発明を実施する際に使用される細胞は、本明細書に詳述されるように遺伝的に改変されている腫瘍細胞であり得る。例示的な腫瘍細胞型は、頭頸部癌細胞、前新生物病巣由来の細胞、癌性ポリープ細胞、白血病細胞、膀胱細胞、乳房細胞、結腸細胞、腎臓細胞(腎細胞)、肝臓細胞、肺細胞、卵巣細胞、子宮細胞、膵臓細胞、直腸細胞、前立腺細胞、胃細胞、表皮細胞、リンパまたは骨髄性系統の造血細胞;間葉起源の細胞、黒色腫細胞、奇形癌細胞、神経芽細胞腫細胞、神経膠腫細胞、腺癌細胞、および非小細胞肺癌細胞からなる群より選択される。
【0174】
本発明の有用性
本発明は、このようなワクチンの使用に基づいて腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導するための細胞免疫療法組成物および方法を提供する。これらの細胞組成物は、腫瘍抗原、抗CTLA4抗体およびサイトカインの1つ以上を発現するように改変された細胞を含む。
【0175】
本発明の1つの実施形態は、2A免疫グロブリン発現系を使用して抗CTLA4抗体を発現するように改変される細胞ベースの癌免疫療法である。典型的には、細胞は、被験体における腫瘍細胞と同じ型である。例えば、被験体が前立腺癌を有する場合、本明細書中先に詳述されるように、前立腺細胞に由来する細胞が操作されて1種以上の導入遺伝子を発現する。別の例において、被験体が肺癌を有する場合、本明細書中先に詳述されるように、肺に由来する細胞が操作されて1種以上の導入遺伝子を発現する。
【0176】
本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞、腫瘍抗原、血管形成に関与する細胞、または任意の組み合わせに対する免疫応答を増加させる方法である。免疫応答の増加は、体液性、細胞性(T細胞)または体液性と細胞性の両方であり得、好ましくは全身的である。好ましくは、腫瘍に対する全身性免疫応答は、腫瘍の退行または腫瘍の成長の阻害をもたらし、それによって、被験体に対する治療結果の改善をもたらす。
【0177】
治療効力を評価する方法
本発明の組成物はまた、検出可能な腫瘍を有する可能性があるか、またはその可能性がない被験体を処置するために使用することができる。被験体は、以前に診断および処置されていても、癌を発症する実質的なリスクを有しても、別の様式の療法で以前に処置されていてもよい。以前の療法は、外科的切除、放射線療法、従来の化学療法、および他の様式の免疫療法を含んでいてもよい(しかしこれらに限定されない)。
【0178】
腫瘍または疾患状態をモニターするために適切な手段は、腫瘍の特性に依存して変化する。腫瘍質量の測定可能な減少は、当業者に公知である多数の方法によって検出することができる。これらには、接近可能な腫瘍の直接測定、腫瘍細胞(例えば、血液中に存在する)の計数、腫瘍抗原(例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、αフェトタンパク質(AFP))の測定および種々の可視化技術(例えば、MRI、CATスキャン、およびX線)が含まれる。以下は腫瘍の成長速度の減少の例である:血清中のAFPレベルの減少、腫瘍サイズの減少および/または腫瘍のサイズもしくは細胞数が増加している速度の減少。腫瘍成長速度の減少は、癌を有する哺乳動物についての長い生存期間と相関し得る。
【0179】
一般的な細胞免疫応答は、免疫療法の投与後に被験体からサンプリングされる細胞、特にPBL中のT細胞増殖活性として測定されてもよい。処置された哺乳動物もしくは免疫療法が基礎にある哺乳動物のいずれか由来の不活性化された腫瘍細胞、または同じ腫瘍型の腫瘍細胞が、刺激因子として使用される。PHAなどの非特異的マイトジェンはポジティブ対照として機能する;関連性のない刺激因子細胞とのインキュベーションはネガティブ対照として機能する。適切な期間(例えば、5日間)にわたる刺激因子とのPBMCのインキュベーション後、[3H]−チミジンの取り込みを測定する。所望される場合、増殖しているT細胞のサブセットの決定は、フローサイトメトリーを使用して実施することができる。T細胞の細胞毒性(CTL)もまた測定できる。この試験において、被験体からのT細胞集団は、標準51Cr遊離アッセイにおいてエフェクターとして使用される。腫瘍細胞は、標的として、約200μCiのNa251CrO4とともに、60分間、371℃で放射性標識され、続いて洗浄される。次いで、T細胞および標的細胞(約1×104個/ウェル)を、96ウェルのU底プレート中で、種々のエフェクター対標的比率で合わせる。このプレートを100×gで5分間遠心分離して細胞接触を開始し、5%CO2とともに371℃で4〜16時間インキュベートする。51Crの遊離は上清中で決定され、T細胞の非存在下でインキュベートした標的(ネガティブ対照)または0.1%TRITON(商標)X−100(ポジティブ対照)と比較される。免疫応答の増加を測定するための他の方法には、抗体ベースのアッセイ(ELISA、RIA、ウェスタンブロット)、抗原特異的細胞アッセイ、増殖アッセイ、細胞溶解細胞アッセイ、および組換え腫瘍関連抗原または免疫原性断片または抗原由来のペプチドを用いて試験するインビボ遅延型過感受性試験が含まれるが、これらに限定されない。免疫応答の増加を測定するためのさらなる方法には、T細胞応答を測定するために現在使用されているアッセイが含まれ、これには以下が含まれるが、これらに限定されない:遅延型過感受性試験、ペプチド主要組織適合性複合体テトラマーを使用するフローサイトメトリー、リンパ球増殖アッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ、酵素結合免疫スポットアッセイ、サイトカインフローサイトメトリー、直接細胞傷害性アッセイ、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応によるサイトカインmRNAの測定、および限界希釈分析。例えば、Lyerly HK、Semin Oncol.2003年6月;30(3 補遺8):9−16を参照のこと。
【0180】
これらの試験から得られた情報は、患者が本発明の遺伝的に改変された細胞ワクチンの投与後にどのようにして応答しているかを決定する際に有用である。この試験結果は、個々の被験体に対して処置を最適化する際に補助になり得る。遺伝的に改変された細胞の免疫療法のさらなる用量は、適切な場合、治療結果の改善が検出されるまで、典型的には、1ヶ月1回、1ヶ月に2回、または1週間に1回を基本として、与えられてもよい。その後、そして特に、免疫学的または臨床的な利益が鎮静化したように思われた場合に、さらなるブースター用量または維持用量が、必要に応じて与えられてもよい。
【実施例】
【0181】
本発明を以下の実施例を参照して説明するが、この実施例は、例示の目的で提供され、本発明を限定することを何ら意図しない。当該分野において周知の標準的な技術または以下に詳細に記載される技術が使用される。当業者は、単に慣用的な実験を使用して、本明細書に具体的に記載された本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認することが可能である。このような等価物は、添付の特許請求の範囲の中に含まれることが意図される。
【0182】
(実施例1:ベクターのクローニングおよび産生)
マウス抗CTLA−4モノクローナル抗体の全長の重鎖および軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含むレトロウイルスベクターを、標準的な分子生物学技術を使用して生成した。フリン切断部位および自己プロセシング2A配列によって連結されたマウス抗CTLA−4モノクローナル抗体の全長の重鎖および軽鎖をコードしたレトロウイルスベクター導入ベクターおよびレンチウイルスベクター導入ベクターを構築した。マウス抗CTLA−4 DNA配列をクローニングするために、マウス抗マウスIgG2b抗CTLA−4抗体をコードするハイブリドーマ細胞株(9D9と名付けた)から全RNAを単離した。全RNAを、従来のRNA精製キット(Qiagen)を使用して細胞株から精製し、cDNAを9D9細胞全RNAから逆転写酵素を用いて合成した。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域および定常領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、cDNAからクローニングした。全長モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖のヌクレオチド配列を、自動配列決定システム(Applied Biosystems)を使用して分析し、コンセンサス可変領域配列を、複数の独立したPCR反応に由来する配列決定データから得た。
【0183】
全長抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列および全長抗体軽鎖をコードするDNA断片を、PCR伸長によって一緒に連結した。FMDV 2A配列の人工オリゴヌクレオチドを、2Aペプチド配列APVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号6)に基づいて合成した。PCRの間に、EcoRI部位を重鎖の5’末端に付加し、軽鎖の3’末端にNotI部位を付加した。これらの制限酵素部位を使用して、融合した重鎖−フリン2A−軽鎖DNA断片を、レトロウイルス導入ベクタープラスミドおよびレンチウイルス導入ベクタープラスミドにクローニングした。
【0184】
これらの研究のために使用されるレトロウイルス導入ベクタープラスミド(rkat3F3)は以前に記載されており(Finerら、Blood 83:43−50(1994年))、続いて、ヒトCD4(F3)の細胞外ドメインに隣接するさらなる制限酵素部位を含むように改変された。レトロウイルスベクターを、以前に記載されたように一過性トランスフェクションによって生成した(Finerら、Blood 83:43−50(1994年);Dullら、J Virol 72:8463−8471(1998年))。
【0185】
第3世代のレンチウイルスベクター系は、以前に記載されている(Dullら、J.Virol.72:8463−8471、1998年)。簡潔に述べると、導入ベクターは5’キメラRSV/LTRプロモーター、cPPT(Zennouら、Cell 101:173−185、2000年)、CAGプロモーター(Miyazakiら、Gene
79:269−277、1989年)、およびSIN LTR(Zuffereyら、J.Virol.72:9873−9880、1998年)を含む。これらの研究のために、抗体の発現を駆動するプロモーターは、CMVエンハンサー、ニワトリβアクチンプロモーターおよびスプライシングドナー、ならびにウサギβグロビンスプライシングアクセプター(CAG)から構成される。ベクター産生、濃度、p24分析、および力価分析を、以前に記載されたように実施した(Dullら、J.Virol.72:8463−8471、1998年)。簡潔に述べると、ベクターを、6.5μgのpMDLg/pRRE、2.5μgのpRSV−Rev、3.5μgのpMD2.VSVG−Env、および10μgの導入ベクターを有する10cmのディッシュ中での一過性トランスフェクションによって調製した。
【0186】
レトロウイルスベクター粒子およびレンチウイルスベクター粒子を、24時間後に収集し、プールし、0.2μm酢酸セルロースフィルターを通し、SW28スイングバケットローター中で、2時間20分にわたって19,500rpm(50,000g)の超遠心分離によって濃縮した。ペレットを、40mg/mlラクトースを含むPBS中に再懸濁し、アリコートで−80℃で保存した。gag p24タンパク質の検出を、Alliance HIV−1 p24 ELISAキット(Perkin Elmer)を使用して評価した。
【0187】
(実施例2:種々のB16F10免疫療法細胞株およびCT26免疫療法細胞株の構築)
マウス黒色腫B16F10細胞株は、American Type Culture Collectionから市販されている(例えば、ATCCアクセッション番号CRL−6475)。レトロウイルスによって形質導入されたGM−CSF分泌B16.GM細胞株は、以前に記載されている(Dranoffら、Proc Natl Acad Sci USA 90:3539−43(1993年))。この細胞株は、150ng/10細胞/24時間のマウスGM−CSFを生成する。細胞を、加湿インキュベーター中、5%CO2、37℃で、10%熱不活化FBS(Hyclone)、2mM Lグルタミン、および1×ペニシリン/ストレプトマイシン(JRH)を補充したDulbecco’s Minimum Essential Medium(DMEM;Hyclone)中で維持する。
【0188】
マウス結腸癌腫CT26細胞株もまた、American Type Culture
Collectionから市販されている(例えば、ATCCアクセッション番号CRL−2638)。CT26.GM細胞株を、B16.GMの構築において使用したGM−CSFをコードするレトロウイルス構築物を使用して生成した(Dranoffら、Proc Natl Acad Sci USA 90:3539−43(1993年))。この細胞株は、80ng/10細胞/24時間のマウスGM−CSFを生成する。細胞を、加湿インキュベーター中、5%CO2、37℃で、10%熱不活化FBS(Hyclone)、2mM Lグルタミン、および1×ペニシリン/ストレプトマイシン(JRH)を補充したDulbecco’s Minimum Essential Medium(DMEM;Hyclone)中で維持する。
【0189】
親のB16.GM細胞株およびCT26.GM細胞株を、100:1の濃縮ウイルス上清を使用して、以前に記載されたように(Dullら、J Virol 72:8463−8471(1998年))、抗CTLA4抗体をコードするレトロウイルスベクターで形質導入する。抗CTLA4抗体を発現する細胞を、単回のラウンドの形質導入によって生成し、抗CTLA4タンパク質の発現を、製造業者の指示書に従って、市販の抗IgGキットを使用して、ELISAによって確認する。
【0190】
(実施例3:レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞から産生された組換え抗CTLA4抗体は、機能的でありかつT細胞増殖を増強する)
C57Bl/6マウスにおける以下の研究は、レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞から産生された組換え抗CTLA4抗体が機能的でありかつT細胞増殖を増強することを実証する。−2日目に、I−AクラスII MHCの状況においてOVA323−339ペプチドに特異的なT細胞を産生するDO11.01トランスジェニックマウス由来の1〜3×10個の脾細胞を、レシピエントBALB/Cマウスに対して静脈内に養子免疫伝達した。0日目に、マウスに代理抗原である500μgのオボアルブミンを注射し、0日目および1日目に、以下の精製抗体100μgを背部に皮下投与した:IgG2b対照(アイソタイプ);マウス9D9ハイブリドーマから発現された抗CTLA4抗体(ハイブリドーマ);GM−CSFおよび9D9ハイブリドーマによって産生される抗CTLA4抗体を発現するように操作されたB16F10細胞から発現される抗CTLA4抗体(2A−抗CTLA−4);または対照ビヒクル(未処理)。4日目に、マウスを安楽死させ、脾臓およびリンパ節を収集し、OVA発現T細胞を、DO11.01トランスジェニックT細胞を検出可能であるKJ126モノクローナル特異的抗体を使用して同定し、FACs分析によって評価した。脾臓におけるオボアルブミン特異的CD4 T細胞の絶対数を示す。
【0191】
図3に示すように、GM−CSFおよび抗CTLA4抗体を発現するように操作されたB16F10腫瘍細胞から発現された抗CTLA4抗体、ならびに親のハイブリドーマ細胞株によって発現される抗CTLA4抗体は、本質的に同一の濃度において本質的に同じレベルまでT細胞増殖を増強する。
【0192】
(実施例4:レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からインビボで産生された組換え抗CTLA4抗体は、機能的でありかつT細胞増殖を増強する)
C57Bl/6マウスにおける以下の研究は、抗CTLA抗体を局所的にもまた発現するサイトカイン発現癌免疫療法の投与が、抗CTLA−4抗体の持続可能な全身的なインビボ発現をもたらすことを実証する。0日目に、マウスに、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞を皮下(SC)接種した。1日目に、マウスを5つの別々の群に分けた:1つのセットは、それぞれ15μg、50μgまたは150μgの精製抗CTLA4抗体の単回腹腔内(ip)投与を各々受け;1つのセットは、GM−CSFを発現するように操作された1×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞を用いて免疫化し(SC);最後のセットは、GM−CSFおよび抗CTLA4抗体を発現するように操作された1×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞を用いて免疫化し(SC)、抗CTLA4抗体の血中濃度を18日間の期間、追跡した。
【0193】
図3に示すように、GM−CSFおよび抗CTLA4抗体を発現するように操作されたB16F10腫瘍細胞からの免疫化部位において発現される抗CTLA4抗体は、癌免疫療法の単回投与の後、少なくとも18日間の間、血清中で、低いが持続可能なレベルで検出され得る。
【0194】
(実施例5:レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からの抗CTLA4抗体の局所的発現は、より低い全身抗体濃度で、腫瘍保有動物の生存を改善する)
BALB/cマウスCT26腫瘍モデルにおける以下の研究は、抗CTLA4抗体を発現する、レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現癌免疫療法が、より低い全身抗体濃度で、腫瘍保有動物の生存を改善することを実証する。0日目に、BALB/cマウスに、5×10個の生きているCT26腫瘍細胞を皮下接種した。3日後、マウスを、1×10個の照射されたGM−CSF分泌CT−26を用いてか、またはGM−CSFおよび抗CTLA4抗体の両方を分泌する同じ数の照射されたCT−26細胞を用いて免疫化した。対照群は、3日目に、1×10個の照射されたGM−CSF分泌CT−26腫瘍細胞、および組換え抗CTLA4抗体の全身投与(腹腔内−150μg、10μg)または局所的皮下投与(サイトカイン発現癌免疫療法と混合−10μg)を用いて免疫化した。マウスを、明白な腫瘍の形成について週に2回モニターし、腫瘍が壊死性になるか、サイズが1500mmを超える場合、屠殺した。
【0195】
生存しているマウスのKaplan Meier生存曲線(n=10/群)を図4Aに示す。CT26腫瘍保有マウスにおいて、GM−CSFのみを分泌するCT26ワクチン細胞での処置は、42日目に20%生存をもたらしたのに対して、免疫化部位で局所的にGM−CSFおよび抗CTLA4抗体を分泌したCT26腫瘍細胞で免疫化したマウスの100%が生存した。抗体投与後3日目に、動物からの血清を、収集し、ELISAアッセイを使用して、抗CTLA4抗体レベルについて評価した(図4Bおよび4C)。GM−CSF分泌CT−26腫瘍細胞癌免疫療法+抗CTLA4抗体の全身投与を用いて処置された動物の100%が生存したが、この群における抗CTLA4血中濃度は、局所的に抗体を分泌するワクチンの投与を受けた群におけるものよりも7倍高かった。さらに、分泌細胞からの抗体の局所的送達は、50%の生存しかもたらさなかった組換え抗体の局所的送達よりも強力である。これらのデータは、抗体分泌細胞からの抗CTLA4の局所的送達が、低い全身性抗体曝露において癌免疫療法の効力を改善することを示す。
【0196】
(実施例6:レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からの抗CTLA4抗体の局所的発現は、B16F10黒色腫モデルにおいて腫瘍保有動物の生存を改善する)
異なる腫瘍モデルにおける抗CTLA4抗体の局所的送達を評価するために、上記のGM−CSFに加えて抗CTLA4抗体を分泌するB16F10細胞を試験した。0日目に、C57BL/6マウスを、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞でチャレンジした。マウスを、1日目に、3×10個の照射されたGM−CSF分泌B16F10腫瘍細胞を用いてか、またはGM−CSFおよび抗CTLA4抗体の両方を分泌する同じ数の照射されたB16F10細胞を用いて免疫化した。別個の群を、照射されたGM−CSF分泌腫瘍細胞、および組換え抗体の全身(腹腔内)の投与で、2日目(150μg)および5日目(100μg)に免疫化した。免疫化および抗体注射の第2のラウンドを、14日目に開始して投与した。腫瘍量をモニターし、マウスを、チャレンジ腫瘍が1500mmに達するか、または重篤な潰瘍が発生した場合に、屠殺した。
【0197】
生存しているマウスのKaplan Meier生存曲線(n=10/群)を図5Aに示す。照射されたGM−CSF発現細胞のみを用いて処置したマウスはいずれも生存しなかったが、癌免疫療法細胞から局所的に発現された抗CTLA4で処置した群においては40%のマウスが生存した。GM−CSF分泌腫瘍細胞および全身性抗CTLA4抗体を用いて免疫化した群において、60%のマウスが生存した。血清を、2日目、3日目、4日目、7日目、9日目、11日目、15日目、16日目、17日目、23日目および25日目に収集し、ELISAアッセイを使用して、抗CTLA4抗体レベルについて評価した(図5Bおよび5C)。これらのデータは、癌免疫療法細胞からの抗CTLA4の局所的送達が高い全身の抗体レベルに宿主を曝露することなく抗腫瘍効力を生じ、それによって、高い全身濃度において報告されている付随する抗CTLA4抗体の毒性を回避することを示す。
【0198】
(実施例7:レトロウイルスで形質導入されたサイトカイン発現腫瘍細胞からの抗CTLA4抗体の局所的発現は、T細胞応答の増強をもたらす)
実施例5において処置した群からのサテライトマウスを、21日目に収集した。抗原特異的応答を、製造業者の指示書に従って、IFN−γ ELISPOTアッセイ(R&D
Biosystems)によって列挙した。赤血球欠損脾細胞(5×10個)をプレートし、TRP2(SVYDFFVWL;配列番号11)に由来する1μMのKb結合ペプチド、または5×10個の照射されたB16F10細胞とともに、37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。ポジティブスポットを、Cellular Technology Ltd.から得られる自動プレート走査サービス(automated plate scanning service)を使用して列挙した。TRP2および照射されたB16F10刺激因子を使用するIFN−γ ELISPOTアッセイは、抗体分泌細胞の投与を受けた動物で、全身性抗CTLA4投与を伴うか伴わずに、照射されたGM−CSFで処置された動物と比較して、活性化T細胞の数が増加したことを明らかにした(例えば、図6Aおよび6Bを参照のこと)。
【0199】
(実施例8:F2Aカセットを使用する抗CTLA4抗体の局所的発現は、自己免疫抗体応答の減少をもたらす)
2A構築物を使用して発現した抗CTLA−4の局所的送達を、C57Bl/6マウスにおけるB16F10腫瘍モデルにおいて評価した。0日目に、マウスに、2×10個の生きているB16F10腫瘍細胞を皮下(SC)接種した。1日目に、マウスを4つの別々の群に分けた:1つのセットは、各々が、HBSSの単回腹腔内(ip)投与;GMを発現するように操作された3×10個の照射されたB16F10腫瘍細胞(B16GM);3×10個の照射されたB16GM+CTLA4の全身注射(B16GM全身抗−CTLA−4);またはF2Aカセットを使用する、抗CTLA4を分泌するように操作された3×10個の照射されたB16GM(B16GM F2A抗CTLA4)の投与を受けた。この処置レジメンを2週間に一度反復した。種々の時点で血清を収集し、ELISAによって、抗核抗体(図7A)、ss−DNA抗体(図7B)、およびds−DNA抗体(図7C)のレベルについて評価した。自己免疫抗体のレベルの減少は、全身的(注射)抗CTLA4で処置したマウスと比較して、F2A抗CTLA4で処置したマウスにおいて観察された。
【0200】
本明細書に記載する実施例および実施形態は例示目的のみのためであること、およびそれらに鑑みた種々の改変または変更が当業者に示唆され、本願の技術思想および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解される。本明細書に引用されるすべての刊行物、特許および特許出願は、すべての目的のために、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−193196(P2012−193196A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−153884(P2012−153884)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2009−502942(P2009−502942)の分割
【原出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】