説明

癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法

【課題】 磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくすることによって磁気ヒステリシス損失を大きくすることで優れた発熱効率を示す、癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法は、3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合する(但し分子内にアミノ基を有する化合物は混合しない)ことで得られる沈殿物を水熱反応に付することにより、長径が30〜300nm、短径に対する長径の比が1〜10である板状の形状を有するゲータイト粒子を得た後、ゲータイトを酸化鉄に変換することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法に関する。より詳細には、優れた発熱効率を示す癌焼灼治療に適した強磁性酸化鉄粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌焼灼治療は、癌細胞が正常細胞よりも熱による損傷を受けやすいことを利用し、癌を焼灼して治療する方法であるが、近年、強磁性酸化鉄粒子を体内に導入して癌腫瘍に集積させ、外部から交流磁界を印加して磁気ヒステリシス損失により発熱させることで癌を焼灼する方法の研究が進められている(例えば特許文献1)。磁性粒子を用いて癌を焼灼する方法については、超常磁性酸化鉄粒子に外部から交流磁界を印加して発熱させる方法が従来から研究されているが、この方法は、磁気モーメントの揺らぎを磁界に共鳴させることで磁界のエネルギーを吸収するために極めて高い周波数が必要な上、本質的に発熱効率が低いことから実用化に至っていないのが現状である。これに対し、強磁性酸化鉄粒子を用いる方法は、比較的低い周波数で高効率の発熱が可能である点において優れていることから実用化が期待されている。けれども、現時点において必ずしも満足できる発熱効率が達成できているわけではなく、従って、発熱効率の向上を図るための研究が精力的に行われている。強磁性酸化鉄粒子の発熱効率を向上させるための方法としては、例えば、磁気ヒステリシス損失を大きくするために磁気ヒステリシス曲線の保磁力や角型比(飽和磁化に対する残留磁化の比)を大きくする方法が考えられるが、保磁力を大きくする方法は、大きな保磁力に応じた高い印加磁界が必要になるため、装置が大掛かりで高価になるといったことから実用的でない。一方、角型比を大きくする方法は、大掛かりで高価な装置を必要としないため実用的な方法であると言える。しかしながら、これまでに提案されている強磁性酸化鉄粒子は球状や楕円状の形状を有するため、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくするためにはコバルトなどの異種元素を添加する必要があった。このため、角型比が大きくなると保磁力も大きくなることから、保磁力があまり大きくならないようにするためには、異種元素の添加量を制限しなければならず、そのため、角型比を大きくすることができてもせいぜい0.25程度までであり、それ故、発熱効率の向上にも限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−89991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくすることによって磁気ヒステリシス損失を大きくすることで優れた発熱効率を示す、癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくすることが可能な板状の形状を有する強磁性酸化鉄粒子を、3価の鉄化合物を出発物質としてゲータイト(α−FeOOH)を経由して製造する方法を見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法は、請求項1記載の通り、3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合する(但し分子内にアミノ基を有する化合物は混合しない)ことで得られる沈殿物を水熱反応に付することにより、長径が30〜300nm、短径に対する長径の比が1〜10である板状の形状を有するゲータイト粒子を得た後、ゲータイトを酸化鉄に変換することを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、酸化鉄がマグネタイト、ガンマ酸化鉄、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄のいずれかであることを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1または2記載の製造方法において、保磁力が50〜500Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有する酸化鉄であることを特徴とする。
また、本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、請求項4記載の通り、請求項1記載の製造方法によって製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくすることによって磁気ヒステリシス損失を大きくすることで優れた発熱効率を示す、癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得たゲータイト粒子のTEM写真である。
【図2】実施例1で得たガンマ酸化鉄粒子のTEM写真である。
【図3】実施例2で得たゲータイト粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法は、3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合する(但し分子内にアミノ基を有する化合物は混合しない)ことで得られる沈殿物を水熱反応に付することにより、長径が30〜300nm、短径に対する長径の比が1〜10である板状の形状を有するゲータイト粒子を得た後、ゲータイトを酸化鉄に変換することを特徴とするものである。
【0010】
酸化鉄の種類は、癌焼灼治療に用いることができる強磁性酸化鉄であれば特段限定されるものではなく、例えば、マグネタイト(Fe)、ガンマ酸化鉄(γ−Fe)、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄などが挙げられる。
【0011】
本発明の癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法においては、まず、塩化第二鉄や硫酸第二鉄や硝酸第二鉄などの3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合する(但しアルコールアミンなどの分子内にアミノ基を有する化合物は混合しない)ことで得られる沈殿物(鉄水酸化物を含む)を水熱反応に付することにより、長径が30〜300nm、短径に対する長径の比が1〜10である板状の形状を有するゲータイト粒子を得る(厚みに対する長径の比は例えば1.5〜30である)。この方法で板状の形状を有するゲータイト粒子が得られることは全く意外な知見である。鉄化合物を出発原料としてゲータイト粒子を得る方法としては、塩化第一鉄や硫酸第一鉄などの2価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合することで得られる沈殿物を酸化する方法が知られているが、この方法で得られるゲータイト粒子の形状は粒子の先端が尖った針状である。板状の形状を有するゲータイト粒子を得る方法はこれまでには知られていない。ここでアルカリとしては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムやアンモニアなどが挙げられるが、水酸化ナトリウムを好適に用いることができる。3価の鉄化合物を全て鉄水酸化物に変換するためにはアルカリは鉄の少なくとも3倍量必要である(モル比)。従って、3価の鉄化合物とアルカリの混合比は例えば1:3〜1:15が望ましい(モル比)。3価の鉄化合物の水溶液へのアルカリの混合は、例えば3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを溶解させた水溶液を撹拌しながら混合することで行えばよい。混合に際しての両水溶液の温度はゲータイト粒子の大きさ、ひいては強磁性酸化鉄粒子の大きさに影響を与える。両水溶液の温度は例えば−5〜30℃が望ましい。温度が低いほど長径が小さな粒子が得られる。3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合することで得られる沈殿物の水熱反応は、例えば沈殿物をオートクレーブなどの耐圧容器に仕込んで110〜220℃で1〜5時間行えばよい。水熱反応の温度が低すぎると粒子が板状の形状に成長しにくくなる一方、高すぎると成長しすぎて所定の大きさの粒子が得にくくなる。なお、3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合することで得られる沈殿物は、沈殿物を得た後、沈殿物を含む懸濁液を室温環境(例えば10〜30℃)で半日〜2日程度存置することにより熟成させてから水熱反応を行うことで、所定の大きさの板状の形状を有するゲータイト粒子が得やすくなる。
【0012】
ゲータイトの酸化鉄への変換は自体公知の方法に従って行うことができる。例えば、ゲータイトを空気中において400〜700℃で30分間〜5時間加熱酸化してから水素ガス中において300〜450℃で10分間〜3時間加熱還元することで、ヘマタイト(α−Fe)を経由してマグネタイトに変換することができる。また、マグネタイトを空気中において200〜300℃で1〜30分間加熱酸化することでガンマ酸化鉄に変換することができる。加熱酸化の温度条件を例えば200℃よりも低くすればマグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄を得ることができる。
【0013】
このようにして本発明の製造方法で製造される癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の磁気特性は、例えば、保磁力が50〜500Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である。この強磁性酸化鉄粒子は、ゲータイト粒子の形状を維持した板状の形状を有しており、その保磁力が形状磁気異方性に基づいている。従って、これまでに提案されている球状や楕円状の形状を有する強磁性酸化鉄粒子や、コバルトなどの異種元素を添加することで結晶磁気異方性に基づいて保磁力を増加させた強磁性酸化鉄粒子に比較して磁気ヒステリシス曲線の角型比が大きいことから、磁気ヒステリシス損失が大きいので、優れた発熱効率を示す。加えて、粒子の形状が板状であることは、体内に導入して癌腫瘍に集積させた時に、球状や楕円状の形状を有する粒子に比較して癌腫瘍との接触面積を大きくするので、焼灼効率が優れる。従って、その優れた発熱効率と相俟って、癌焼灼治療においてよりいっそうの治療効果が期待できる。本発明の製造方法で製造される癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子は、標的とする癌腫瘍に集積させるべく、例えば生理食塩水や純水などの注射用媒体に1〜10重量%の濃度で分散させた分散組成物として提供され、必要に応じてこれを注射用媒体でさらに希釈した上で静脈内投与される。癌腫瘍に集積させた強磁性酸化鉄粒子に対する外部からの交流磁界の印加は、例えば、周波数が10〜200kHz、最大印加磁界が100〜1000Oeの条件で1回あたり1〜60分間行えばよい。
【0014】
なお、本発明の製造方法で製造される癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子に対し、注射用媒体への分散性を高めるためや癌腫瘍への集積性を高めるための表面処理を行ってもよい。注射用媒体への分散性を高めるための表面処理としては、例えば粒子の表面にSiO被膜などの無機膜や有機膜を形成する方法が挙げられる。癌腫瘍への集積性を高めるための表面処理としては、例えば粒子の表面に癌細胞に親和性を有する糖鎖や抗体などを結合させる方法が挙げられる。粒子の表面への糖鎖や抗体などの結合は、予め粒子の表面に自体公知の方法によりカルボキシル基やアミノ基などの官能基を付与してから行うことが望ましい。また、粒子の表面を金で被覆しておけば、チオール結合を介して各種の高分子化合物を粒子の表面に強固に結合させることができる。また、強磁性酸化鉄粒子を注射用媒体に分散させる際、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールを例えば強磁性酸化鉄粒子に対して10〜1000重量%の割合で添加することで、強磁性酸化鉄粒子の注射用媒体への分散性をより高めることができる。
【0015】
また、本発明の製造方法で製造される癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の磁気特性を補完や増強させるために、異種元素(コバルト、白金、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、チタンなど)を強磁性酸化鉄粒子に添加してもよい。例えば鉄に対して0.5〜5原子%のマグネシウムを添加することで磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりをシャープにすることが可能であり、その結果、交流磁界に対して磁化しやすくなり、ヒステリシス曲線の面積が増加することで発熱効率をより高めることができる。なお、異種元素の添加量は鉄に対して0.1〜5.0原子%とすることが望ましい。添加量が少なすぎると目的とする効果が得られにくくなる一方、多すぎるとゲータイト粒子を得る際に粒子が板状の形状に成長しにくくなる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0017】
実施例1:
A:癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造
(工程1)
30gの塩化第二鉄を450gの水に溶解した。また、45gの水酸化ナトリウムを900gの水に溶解した。いずれの水溶液も温度を15℃に保持し、室温環境で後者の水溶液を撹拌しながらそこに前者の水溶液を滴下した後、30分間撹拌を続けることで、鉄水酸化物を含む沈殿物を得、室温環境で1日間放置して沈殿物を熟成させた。その後、沈殿物を分取し、オートクレーブに仕込んで180℃で2時間水熱反応に付すことでゲータイト粒子を得た(ゲータイトであることはX線回折での構造解析により確認)。得られたゲータイト粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1に示す(右下のスケールは1目盛が20nm。以下同じ)。図1から明らかなように、この方法によって得たゲータイト粒子のいくつかは長径が約180nmで短径が約30nmの板状の形状を有していた(短径に対する長径の比は約6。厚みは約10nmで厚みに対する長径の比は約18(厚みの測定は走査型電子顕微鏡観察による))。
(工程2)
工程1で得たゲータイト粒子を含む懸濁液に、pHを10程度に調整したケイ酸ナトリウムのアルカリ溶液を添加した後、撹拌しながら塩酸を添加してpHが7〜8の範囲になるように中和し、さらに3時間撹拌を続けることで、ゲータイト粒子をSiOで表面被覆した。
(工程3)
工程2でSiO被膜を表面に形成したゲータイト粒子を水洗してから乾燥させた後、空気中において500℃で1時間加熱酸化することでゲータイト粒子をヘマタイト粒子に変換し、さらに水素ガス中において370℃で1時間加熱還元することで、ヘマタイト粒子をマグネタイト粒子に変換した(マグネタイトであることはX線回折での構造解析により確認)。
(行程4)
工程3で得たマグネタイト粒子を空気中において250℃で10分間加熱酸化することでマグネタイト粒子をガンマ酸化鉄粒子に変換した(ガンマ酸化鉄であることはX線回折での構造解析により確認)。ガンマ酸化鉄粒子のTEM写真を図2に示す。図2から明らかなように、この方法によって得たガンマ酸化鉄粒子の形状は、工程1で得たゲータイト粒子の形状を維持した板状であるが、その表面にはゲータイト粒子の脱水反応によって形成された多数のポア(大きさは概ね10nm以下)と凹凸が観察された。
【0018】
B:癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の磁気特性
Aで製造したガンマ酸化鉄粒子の保磁力は240Oe、飽和磁化は75.1emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.42であった(DMS社製の試料振動型磁力計を用いて最大印加磁界13000Oeで測定)。E.Kitaらの方法(J.Phys.D.43(2010)474011)に従ってこのガンマ酸化鉄磁性粒子の発熱特性を調べた結果(純水への粒子分散濃度:3.6重量%、周波数:117kHz、最大印加磁界:640Oe)、このガンマ酸化鉄磁性粒子は優れた発熱特性を示し、最大損失電力(SLP:specific loss power、E.Kitaら、J.Appl.Phys.107,09B321(2010))は730W/gであった。なお、従来例としての、コバルトを2原子%程度添加した直径が約20nmの球状の形状を有するマグネタイト粒子(特許文献1に記載の方法に従って製造)の保磁力は約150Oe、飽和磁化は約78emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は約0.23であり、上記と同じ条件での最大損失電力は200〜300W/gであった。以上の結果から、Aで製造したガンマ酸化鉄粒子と従来例としてのコバルト添加マグネタイト粒子は、いずれもスピネル結晶構造を有する強磁性酸化鉄粒子でありながら、形状の相違による磁気特性の相違が認められ、この相違が発熱効率の相違として現れ、強磁性酸化鉄粒子が板状の形状を有することの利点が確認できた。また、Aで製造したガンマ酸化鉄粒子の表面に存在する多数のポアと凹凸は、粒子に対する表面処理を行う際に表面修飾成分との結合ポイントを増加させて反応性を高めるといった効果が期待できた。
【0019】
実施例2:
実施例1のAの工程1における2種類の水溶液の温度を8℃にすること以外は実施例1のAと同様にしてゲータイト粒子を得た後、ガンマ酸化鉄粒子を得た。得られたゲータイト粒子のTEM写真を図3に示す。図3から明らかなように、この方法によって得たゲータイト粒子は、実施例1で得たゲータイト粒子と同様に板状の形状を有しているが、実施例1で得たゲータイト粒子よりも総じて小さかった(例えば長径が約120nm)。この相違は、2種類の水溶液の温度の相違によることがわかった。なお、この方法によって得たガンマ酸化鉄粒子の保磁力は210Oe、飽和磁化は74.4emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.40であり、実施例1によって得たガンマ酸化鉄粒子と同様の優れた発熱効率を示した。
【0020】
実施例3:
実施例1のAの工程1における2種類の水溶液の温度を0℃にすること以外は実施例1のAと同様にしてゲータイト粒子を得た後、ガンマ酸化鉄粒子を得た。この方法によって得たゲータイト粒子とガンマ酸化鉄粒子は、実施例1と実施例2で得たゲータイト粒子とガンマ酸化鉄粒子と同様に板状の形状を有しているが、実施例2で得たゲータイト粒子とガンマ酸化鉄粒子よりも総じてさらに小さかった(例えば長径が約80nm)。なお、この方法によって得たガンマ酸化鉄粒子の保磁力は190Oe、飽和磁化は73.8emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.38であり、実施例1と実施例2によって得たガンマ酸化鉄粒子と同様の優れた発熱効率を示した。
【0021】
比較例1:
実施例1のAの工程1と同様にして鉄水酸化物を含む沈殿物を得、室温環境で1日間放置して沈殿物を熟成させた後、水熱反応を行うことなく、実施例1のAの工程2〜4を行ってガンマ酸化鉄粒子を得た。この方法によって得たガンマ酸化鉄粒子の形状は不定形であり、その保磁力は35Oe、飽和磁化は63.9emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比は0.12であり、実施例1〜3によって得たガンマ酸化鉄粒子に比較して発熱効率に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、磁気ヒステリシス曲線の角型比を大きくすることによって磁気ヒステリシス損失を大きくすることで優れた発熱効率を示す、癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価の鉄化合物の水溶液にアルカリを混合する(但し分子内にアミノ基を有する化合物は混合しない)ことで得られる沈殿物を水熱反応に付することにより、長径が30〜300nm、短径に対する長径の比が1〜10である板状の形状を有するゲータイト粒子を得た後、ゲータイトを酸化鉄に変換することを特徴とする癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子の製造方法。
【請求項2】
酸化鉄がマグネタイト、ガンマ酸化鉄、マグネタイトとガンマ酸化鉄の中間状態の酸化鉄のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
保磁力が50〜500Oe、飽和磁化が30〜80emu/g、磁気ヒステリシス曲線の角型比が0.20〜0.50である磁気特性を有する酸化鉄であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の製造方法によって製造されてなることを特徴とする癌焼灼治療用強磁性酸化鉄粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236778(P2012−236778A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104815(P2011−104815)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】