説明

発光装置及びその製造方法

【課題】 発光色の調整、設定が容易であり、なお且つその製造工程も簡略化でき、光散乱の影響を緩和し、明るく、色再現性のよい発光装置を提供する。
【解決手段】 一次光を発光する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して二次光を発光する波長変換部を備えた発光装置であって、前記波長変換部は、異なる二次光を発光する複数種の蛍光体よりなり、前記蛍光体の少なくとも一つは、他の蛍光体から発せられる二次光を反射する表面被膜で被覆されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次光を発する半導体発光素子と、その一次光を吸収して二次光を発する蛍光体を含む波長変換部とを備えた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード素子を用いた照明装置が注目を集めている。発光ダイオード素子は、省電力であり、製品寿命が長いこと、また、環境に及ぼす影響が小さいといった優れた特徴を有する。特に、青色光、あるいは紫外光を放射する発光ダイオード素子と、この発光ダイオード素子から放射された光により励起され、所望の波長を持つ光を発光する種々の蛍光体とを組み合わせることにより、白色を含めた各種発光装置が開発されている。このような発光装置は、これまでの白熱電球や蛍光灯に代わる照明装置として大いに期待され、種々の開発がなされている。
【0003】
図8は、特許文献1に示された発光装置の概略図である。該特許文献に示された発光装置80は、一次光を発する発光素子81と、一次光の一部を吸収してその一次光の波長以上の波長を有する二次光を発する波長変換部82とを含み、その波長変換部82は互いに異なる光吸収帯域を有する複数種の蛍光体83、84、85を含み、これら複数種の蛍光体の少なくとも1種は他の少なくとも1種で発せられた二次光を吸収しうる吸収帯域を有している。このような構造により、発光色の設定が容易となり、輝度の高い発光装置を実現することができる。
【0004】
これまで、発光ダイオード素子を用いた発光装置では、主に希土類賦活蛍光体が蛍光体として使用されてきたが、演色性が高く、効率のよい発光装置の作製を可能にする蛍光体材料として、近年、半導体ナノ結晶である蛍光体(以下、ナノ結晶蛍光体と記す。)が注目を集めている。直接遷移型のエネルギーギャップを持つ半導体は、元来、その物質に固有の波長を蛍光として発するが、粒子サイズをボーア半径と同程度に制限することで、価電子帯、伝導電子帯の双方ともに、取りうる運動エネルギーが不連続となり、発光波長は寸法に応じて短くなる。そのため、従来の蛍光体と異なり、半導体ナノ結晶を用いた蛍光体では、その粒子サイズを変えることにより、発光波長を任意に制御することが可能となる。さらに幾種類かのナノ結晶蛍光体を組み合わせることで、様々なスペクトルの発光を起こすように制御することが可能となる。ナノ結晶蛍光体の材料となる半導体としては、II−VI族化合物の半導体では、CdSe(例えば、非特許文献1参照)、III−V族化合物の半導体ではInPが主に研究・報告されている。
【0005】
図9は、特許文献2に示された照明装置の概略図である。該特許文献に示された照明装置90は、波長変換部92を構成する蛍光体として、粒径の異なるナノ結晶を用いて、光路順に、粒径の大きい蛍光体順に積層している。具体的には、最も大きい粒径を有し、赤色発光するInN系ナノ結晶である赤色蛍光体93と、赤色蛍光体93よりも小さく、緑色発光するInN系ナノ結晶である緑色蛍光体94と、緑色蛍光体94よりも更に小さく、青色発光するInN系ナノ結晶である青色蛍光体95とを積層し、波長変換部92を構成している。これら蛍光体は、光源91に近い順に、赤色蛍光体93、緑色蛍光体94、青色蛍光体95が積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−49114(平成19年2月22日公開)
【特許文献2】特開2004−71357(平成16年3月4日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.B.Murray,D.J.Norris,and M.G.Bawendi,Synthesis and Characterization of Nearly Monodisperse CdE(E=S,Se,Te) Semiconductor Nanocrystallites,「Journal of the American Chemical Society」,115,1993,p.8706−8715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1における発光装置80を実際に発光させた場合、発光素子81からの光が複数層からなる蛍光体の各層を通過する際に、上部の層で光が一部吸収されることで、特に最下層83からの赤色光の取り出し効率が低くなってしまう。さらに、蛍光体の発光効率は必ずしも100%でないため、発光素子81からの光を蛍光体83が吸収し発生した蛍光を、蛍光体84が吸収し蛍光として二次光を発生するなどの二段階の光変換を行う場合にはエネルギー変換時のロスが必ず生じるため、特に最下層83からの光が弱くなってしまう。このため、各色の発光強度のバランスが崩れ、理想的な色再現性及び明るさを得ることは困難である。なお、ここで述べる発光効率とは、吸収された光子数に対するフォトルミネッセンスとして発光される光子数の割合として定義される値である。
【0009】
また、ナノ結晶蛍光体は、その発光波長より短波長側の光を全て吸収することを特徴としている。このため、特許文献2における照明装置90において、異なる粒径のナノ結晶蛍光体を積層して使用する場合には、より長波長の二次光を発生するナノ結晶蛍光体を光路中の発光素子91に近い側に配置し、光路中での短波長側の二次光を長波長側の蛍光体で吸収することを防ぐ必要がある。
【0010】
また、上記いずれの場合においても、製造工程において、蛍光体を含んだ樹脂を順序良くチップ内に封止する工程が増え、生産効率の低下を招き、好ましくない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発光色の調整、設定が容易であり、なお且つその製造工程も簡略化でき、光散乱の影響を緩和し、明るく、色再現性のよい発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る発光装置は、一次光を発光する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して二次光を発光する波長変換部を備えた発光装置であって、前記波長変換部は、異なる二次光を発光する複数種の蛍光体よりなり、前記蛍光体の少なくとも一つは、他の蛍光体から発せられる二次光を反射する表面被膜で被覆されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記表面皮膜は、誘電率の異なる2種類の化合物の交互積層から形成されることを特徴としてもよい。また、前記化合物の少なくとも一方は、酸化アルミニウムまたは酸化珪素からなることを特徴としてもよい。
【0014】
また、前記表面皮膜は、交互積層が5回以上25回以下繰り返され積層された皮膜であることを特徴としてもよい。また、前記表面皮膜は、交互積層が10回以上20回以下繰り返され積層された皮膜であることを特徴としてもよい。
【0015】
また、前記表面皮膜で被覆された蛍光体は、他の蛍光体より相対的に長い波長の二次光を発することを特徴としてもよい。また、前記複数種の蛍光体のうち、少なくとも一つは、ナノ結晶蛍光体であってもよい。
【0016】
また、前記ナノ結晶蛍光体は、III―V族化合物半導体、または、II―VI化合物半導体よりなることを特徴としてもよい。また、前記ナノ結晶蛍光体は、InPまたはCdSeのうち、少なくとも一つを含むことを特徴としてもよい。また、前記複数の蛍光体のうち、少なくとも一つは希土類付活蛍光体であることを特徴としてもよい。
【0017】
また、前記希土類付活蛍光体は、付活剤としてCeもしくはEuを含むことを特徴としてもよい。また、前記希土類付活蛍光体は、窒化物系蛍光体であることを特徴としてもよい。また、前記希土類付活蛍光体は、サイアロン蛍光体であることを特徴としてもよい。
【0018】
本発明に係る発光装置の製造方法は、一次光を発光する発光素子と、前記一次光の一部を吸収して二次光を発光する波長変換部を備えた発光装置の製造方法であって、互いに異なる二次光を発光する複数種の蛍光体により、前記波長変換部を形成する工程を含み、前記蛍光体の少なくとも一つは、他の蛍光体から発せられる二次光を反射する表面被膜で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発光色の調整、設定が容易であり、なお且つその製造工程も簡略化でき、光散乱の影響を緩和し、明るく、色再現性のよい発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る発光装置の模式的断面図である。
【図2】本発明に係る発光装置の発光スペクトル測定結果である。
【図3】比較例に係る発光装置の断面図である。
【図4】本発明に係る発光装置の発光スペクトル測定結果である。
【図5】本発明及び比較例に係る発光装置の色度点測定結果である。
【図6】比較例に係る発光装置の断面図である。
【図7】比較例に係る発光装置の発光スペクトル測定結果である。
【図8】従来の発光装置の概略図である。
【図9】従来の発光装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面にもとづいて説明する。本明細書において、「ナノ結晶」とは結晶サイズを励起子ボーア半径程度まで小さくし、量子サイズ効果による励起子の閉じ込めやバンドギャップの増大が観測されるサイズを指すものとする。
【0022】
図1は、実施形態に係る発光装置10の断面図である。発光装置10は、電極1が形成された基板2と、電極1上に設けられたパッケージ3及び発光素子4と、発光素子4と電極1を接続するワイヤ5、ナノ結晶蛍光体を含有する波長変換部6で構成される。
【0023】
電極1を形成する導体は、発光素子4を電気的に接続するための電導路としての機能を有し、ワイヤ5にて発光素子4と電気的に接続されている。導体としては、たとえばW、Mo、Cu、またはAg等の金属粉末を含むメタライズ層を用いることができる。基板2は、熱伝導性が高く、かつ全反射率の大きいことが求められるため、たとえばアルミナ、窒化アルミニウム等のセラミック材料のほかに、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂が好適に用いられる。
【0024】
パッケージ3は、高い反射率を持ちつつ、封止樹脂との密着性が良いポリフタルアミドなどにより構成される。発光素子4は、光源として用いられ、たとえば450nmにピーク波長を有するGaN系発光ダイオード、ZnO系発光ダイオード、ダイヤモンド系発光ダイオード等を用いることができる。
【0025】
波長変換部6は、例えば、第一の蛍光体61、第二の蛍光体62、及びこれらを混練する樹脂63より構成される。
【0026】
第一の蛍光体61は、第二の蛍光体62よりも短波長の光を二次光として発する蛍光体である。第一の蛍光体61には、例えば、希土類付活蛍光体もしくは遷移金属元素付活蛍光体を用いることが出来る。これらの蛍光体は、酸素や水分の影響で蛍光体の発光効率が低下しにくい蛍光体であり、たとえば、蛍光体母体がイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)に付活剤としてセリウム(Ce)を導入したYAG:Ceなどが挙げられる。
【0027】
また、これらの蛍光体は希土類や遷移金属元素を付活された窒化物系蛍光体であることが望ましい。窒化物系蛍光体は、高温下でも発光効率の低下が起きにくい特徴を持つ。窒化物系蛍光体としては、たとえば、サイアロン蛍光体が考えられ、β型サイアロン(SiAlON)に希土類元素や遷移金属元素を付活した蛍光体が知られている。Tb、Yb、Agを付活したβ型サイアロンは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となる。
【0028】
さらに、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体が知られている。Eu付活β型サイアロン蛍光体は、従来の公知の方法にて製造することが出来る。具体的には、たとえばEu、EuN等の光学活性元素Euを含有する金属化合物と窒化アルミニウム(AlN)粉末と窒化珪素粉末(Si)とを均一に混合し、1800〜2000℃程度の温度で焼成することで得られる。これら原料粉末の混合比は、焼成後の蛍光体の組成比を考慮して適宜選択される。
【0029】
また、第一の蛍光体61としてInP系の半導体ナノ結晶蛍光体を用いてもよい。InPは粒径を小さく(ナノ結晶化)していくと量子効果によってバンドギャップを青色から赤色の範囲で制御することができる。例えば、緑色発光する粒径を有する、InP系半導体ナノ結晶をシリコーン樹脂中に混合し硬化させた樹脂片を用いることができる。
【0030】
このほか、第一の蛍光体61として、InP以外のIII―V族化合物半導体やII―VI化合物半導体よりなるナノ結晶である緑色蛍光体を用いてもよい。たとえば、II―VI族化合物半導体やIII―V族化合物半導体よりなるナノ結晶の化合物半導体としては、二元系では、II−VI族化合物半導体として、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe、PbSe、PbS等が挙げられる。III−V族化合物半導体としては、GaN、GaP、GaAs、AlN、AlP、AlAs、InN、InP、InAs等が挙げられる。
【0031】
また、三元系や四元系では、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe、GaNP、GaNAs、GaPAs、AlNP、AlNAs、AlPAs、InNP、InNAs、InPAs、InGaN、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlPAs、GaInNP、GaInNAs、GaInPAs、InAlNP、InAlNAs、InAlPAs等が挙げられる。
【0032】
そして、上述の材料の中でも、第一の蛍光体61として半導体ナノ結晶蛍光体として用いる場合には、InおよびPを含むナノ結晶、または、CdおよびSeを含むナノ結晶を用いることが好ましい。その理由は、InおよびPを含むナノ結晶、または、CdおよびSeを含むナノ結晶は、後述する第二の蛍光体62よりも短波長側で発光する粒径のナノ結晶を作製し易いためである。
【0033】
その中でも特に、InP、またはCdSeを用いることが好ましい。理由としては、InPとCdSeは、構成する材料が少ないため作製がし易い上、高い量子収率を示す材料であり、LEDの光を照射した際、高い発光効率を示すからである。
【0034】
第二の蛍光体62は、ナノ結晶蛍光体621及びナノ結晶蛍光体621を被覆する表面皮膜622より構成される。一般に、ナノ結晶蛍光体はサイズが小さいため、粒子に占める表面の割合が高くなり、表面における欠陥が非発光遷移を引き起こし、発光効率を下げる可能性がある。この欠陥を保護するため、硫化亜鉛など、より大きいバンドギャップを持つ物質を用いた数nmの厚みを持った膜でナノ結晶の表面をくるんだコア・シェル構造を採用することで、発光効率は大幅に向上する。さらに外側に有機界面活性剤を用いて保護の効果を増強することで十分な発光効率を得ることができる。
【0035】
本実施形態では、例えば、InP系の半導体ナノ結晶を他の蛍光体より長波長の二次光を発するナノ結晶蛍光体621として用いている。InPは粒径を小さく(ナノ結晶化)していくと量子効果によってバンドギャップを青色から赤色の範囲で制御することができる。そして、コア・シェル構造などで保護された赤色発光する粒径を有するInP系ナノ結晶をいくつか含んだ状態で、シリコーン樹脂中やガラスに混合し、硬化させた樹脂片またはガラス片をナノ結晶蛍光体621として用いることが出来る。
【0036】
このほか、ナノ結晶蛍光体621として、InP以外のIII―V族化合物半導体やII―VI化合物半導体よりなるナノ結晶である赤色蛍光体を用いてもよい。たとえば、II―VI族化合物半導体やIII―V族化合物半導体よりなるナノ結晶の化合物半導体としては、二元系では、II−VI族化合物半導体として、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe、PbSe、PbS等が挙げられる。III−V族化合物半導体としては、GaN、GaP、GaAs、AlN、AlP、AlAs、InN、InP、InAs等が挙げられる。
【0037】
また、三元系や四元系では、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe、GaNP、GaNAs、GaPAs、AlNP、AlNAs、AlPAs、InNP、InNAs、InPAs、InGaN、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlPAs、GaInNP、GaInNAs、GaInPAs、InAlNP、InAlNAs、InAlPAs等が挙げられる。
【0038】
そして、上述の材料の中でも、ナノ結晶蛍光体621としては、InおよびPを含むナノ結晶、または、CdおよびSeを含むナノ結晶を用いることが好ましい。その理由は、InおよびPを含むナノ結晶、または、CdおよびSeを含むナノ結晶は、可視光域(380nm〜780nm)で発光する粒径のナノ結晶を作製し易いためである。
【0039】
その中でも特に、InP、またはCdSeを用いることが好ましい。理由としては、InPとCdSeは、構成する材料が少ないため作製がし易い上、高い量子収率を示す材料であり、LEDの光を照射した際、高い発光効率を示すからである。
【0040】
なお、第二の蛍光体62として、上記で挙げたナノ結晶蛍光体以外に、第一の蛍光体61よりも長波長の光を二次光として発する蛍光体であれば、用いることができるが、ナノ結晶蛍光体は、その発光波長より短波長側の光を全て吸収することを特徴としているため、特に有用である。
【0041】
表面皮膜622は、発光素子4からの一次光を透過し、第一の蛍光体61からの二次光を反射し、且つ、ナノ結晶蛍光体621から発せられる二次光を透過させることが出来るように、適宜設計された誘電体多層膜である。表面皮膜622を構成する材料としては可視光を反射するものが適しており、例えば、Al、CaF、MgF、SiO、ZnS、ZrO、TiO、ZnOなどが用いられる。この中でも、AlとSiOは、取り扱いが容易で特に好ましい。
【0042】
表面皮膜622の成膜方法は、一次光および第二の蛍光体62からの二次光を透過でき、第一の蛍光体61からの二次光が反射できる物質を適切に形成できる方法であればどのような方法でも構わないが、例えば、液体反応法、ゾル・ゲル法、スパッタリング法、スプレードライ法、メカノヒュージョン法、アトミックレイヤーデポジション(ALD法)などの方法により、誘電率が異なる物質を交互に積層させ作製することができる。中でも、ALD法は球体に均一に成膜するという点で最も好ましい。
【0043】
ALD法において表面皮膜を形成する場合、皮膜の材料として、例えば、AlとSiOを用い、これを交互に積層して製膜することができる。積層回数は、各々の材料による層の各1層積層したものを1セットとして、5セット〜25セット、すなわち5回〜25回の交互積層を行うことが好ましく、10回〜20回がさらに好ましい。交互積層を5回行うと他の蛍光体からの光を約80%反射でき、10回行うと約95%反射することができる。交互積層回数が5回より少ないと反射が十分に得られず、25回より多いと、さまざまな方向からのさまざまな波長の光を余分に吸収する虞がある。積層の厚みについては、求められる誘電率に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0044】
次に、実施例として上記発光装置10を作製し、その発光スペクトルを測定した。本実施例では、発光素子4として450nmを中心に発光する青色発光素子を用い、20mAの電流を流した。また、第一の蛍光体61として538nmを中心に発光するEuを賦活したβ型サイアロン(SiAlON)を用いた。第二の蛍光体62としては、630nmを中心に発光するInP半導体ナノ結晶に、ALD法を用いて、誘電率9.0のAlを200nm、誘電率3.8のSiOを50nmとして1セットとし、これを10セット分積層し、表面皮膜622を形成した。
【0045】
InP半導体ナノ結晶を真空反応炉内に置き、まずトリメチルアルミニウムおよび水蒸気を炉内に導入することで、Al膜が形成された。このときの1回のガス導入で0.11nmの皮膜が形成された。次に、テトラエトキシシランと水蒸気を炉内に導入することでSiO膜が形成された。このときの1回のガス導入で0.10nmの皮膜が形成された。製膜中は、200度で試料を加熱し、良好な皮膜を得ることが出来た。また、所望の積層回数を行った製膜後には、酸素雰囲気中で200度で15分間アニールを行い、余分な原料の除去を行った。この組成の表面皮膜622は、520nm近傍の波長のみを反射することができるため、第一の蛍光体から発光された光を反射することができる。
【0046】
樹脂63、第一の蛍光体61と第二の蛍光体62の混合比率は、重量比で1000:83.5:3.37として、第一の蛍光体61と第二の蛍光体62を樹脂63中に封止し、発光装置10を作製した。InP半導体ナノ結晶は、通常の太陽光線の色温度である5500Kにおける黒体輻射の色度点と同じく、X=0.33、Y=0.34となるように量を調整した。樹脂63は、信越化学工業株式会社製SCR1011(硬化前粘度350mPa・s)を使用した。
【0047】
図2は、発光素子4に20mAの電流を流し、発光スペクトルを測定した結果である。図において、縦軸は発光強度、横軸は発光波長を示している。第二の蛍光体62は表面皮膜622が500nmから580nmの範囲の光を反射するため、第一の蛍光体61からの二次光は吸収されない。測定により得られた全光束は1.63lmとなった。第一の蛍光体61からの二次光だけを反射する表面皮膜622で、ナノ結晶蛍光体621を皮膜することで、発光素子4からの励起光のみを第二の蛍光体62中のナノ結晶蛍光体621に透過させ、励起することが出来る。この際に、発生したナノ結晶蛍光体621からの二次光は表面皮膜622を透過できるように調整しているので、より長波長の蛍光体からの発光が他からの影響を受けることなく取り出すことが出来る。
【0048】
<比較例1>
図3に比較例1として、発光装置30を作成し、その発光スペクトルを測定した。発光装置30において、第二の蛍光体を構成するナノ結晶蛍光体621として630nmを発光中心とするInP半導体ナノ結晶を表面皮膜622なしで用いた以外は、発光素子4の条件、第一の蛍光体61、ナノ結晶蛍光体621の混合率、用いた樹脂63の条件等は全て同じである。
【0049】
図4に、発光素子に20mAの電流を流し発光スペクトルを測定した結果を示す。実施例1と比較して、第一の蛍光体61の発光波長538nmの帯域での発光強度は弱く、ナノ結晶蛍光体621の発光波長630nmの帯域での発光強度は強くなった。更に、色度点について測定したところ、図5の点Bに示すように、X=0.34、Y=0.28となり、実施例で設定した理想的な色度点Aより大幅にずれ、色バランスの崩れが生じたことがわかった。これらの現象は、これは、ナノ結晶蛍光体621が第一の蛍光体61の二次光を吸収したためと考えられる。
【0050】
<比較例2>
次に、図6に比較例2として、発光装置60を作製し、その発光スペクトルを測定した。発光装置60において、ナノ結晶蛍光体621として630nmを発光中心とするInP半導体ナノ結晶を表面皮膜なしで用い、通常の太陽光線の色温度である5500Kにおける黒体輻射の色度点と同じく、X=0.33、Y=0.34となるように量を調整した。これ以外の発光素子4の条件、用いた樹脂63の条件などは全て同じである。樹脂63、第一の蛍光体61とナノ結晶蛍光体621の混合比率は、重量比で1000:100:2.31として、第一の蛍光体61とナノ結晶蛍光体621を樹脂63中に封止し、発光装置60を作製した。InP半導体ナノ結晶蛍光体は、第一の蛍光体からの二次光のうち40%の光子を吸収し、そのうち20%の光子数に対応する蛍光を二次光として発する。
【0051】
図7は、発光素子に20mAの電流を流し、発光スペクトルを測定した結果である。図において、縦軸は発光強度、横軸は発光波長を示している。測定により得られた全光束は1.45lmとなり、実施例と比べて波長波形、波長の相対強度は変わらず、全光束が小さくなった。
【0052】
さらに、発光効率を比較すると、実施例においては、発光効率27.2lm/W、比較例2では、24.2lm/Wとなり、実施例においては、比較例2に対し、12.4%の発光効率の増大が見られる。また、図2における発光波長の3つのいずれのピークにおいても、図7における発光波長のピークを上回っている、これは表面皮膜622を用いてナノ結晶蛍光体621を皮膜したことにより、第一の蛍光体61からの二次光を第二の蛍光体62が吸収するのを防いだ効果によるものであり、効率よく光を取り出すことができることが分かった。なお、第一の蛍光体61と第二の蛍光体62の含有量は、求められる発光装置の発光の色合いなどの仕様にしたがって、それぞれの量を設定すればよい。
【0053】
以上の結果より、本発明によれば、第二の蛍光体62を、ナノ結晶蛍光体621を表面皮膜622で覆われた構成にすることにより、第一の蛍光体61からの二次光を吸収することなく反射し、波長変換部6からの光を効率よく取り出すことができる。また、第一の蛍光体、第二の蛍光体をそれぞれ別々に樹脂などを用いて積層する必要が無く、混合して樹脂に混練するという単純な工程で発光装置を作成することができる。
【0054】
このように、波長変換部に、第一の蛍光体と、表面を誘電体多層膜で覆われた第二の蛍光体用いることで、単純な工程で、発光色の調整、設定が可能で、蛍光体同士の光の吸収を抑制し、明るく、色再現性のよい発光装置を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る発光装置は、一次光を発する半導体発光素子と、その一次光を吸収して二次光を発する蛍光体を含む波長変換部を備えた発光装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 電極
2 基板
3 パッケージ
4 発光素子
5 ワイヤ
6 波長変換部
10、30、60 発光装置
61 第一の蛍光体
62 第二の蛍光体
621 ナノ結晶蛍光体
622 表面皮膜
63 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次光を発光する発光素子と、
前記一次光の一部を吸収して二次光を発光する波長変換部を備えた発光装置であって、
前記波長変換部は、異なる二次光を発光する複数種の蛍光体よりなり、
前記蛍光体の少なくとも一つは、他の蛍光体から発せられる二次光を反射する表面被膜で被覆されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記表面皮膜は、誘電率の異なる2種類の化合物の交互積層から形成されることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記化合物の少なくとも一方は、酸化アルミニウムまたは酸化珪素からなることを特徴とする請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
前記表面皮膜は、交互積層が5回以上25回以下繰り返され積層された皮膜であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の発光装置。
【請求項5】
前記表面皮膜は、交互積層が10回以上20回以下繰り返され積層された皮膜であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の発光装置。
【請求項6】
前記表面皮膜で被覆された蛍光体は、他の蛍光体より相対的に長い波長の二次光を発することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の発光装置。
【請求項7】
前記複数種の蛍光体のうち、少なくとも一つは、ナノ結晶蛍光体であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の発光装置。
【請求項8】
前記ナノ結晶蛍光体は、III―V族化合物半導体、または、II―VI化合物半導体よりなることを特徴とする請求項7記載の発光装置。
【請求項9】
前記ナノ結晶蛍光体は、InPまたはCdSeのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記複数の蛍光体のうち、少なくとも一つは希土類付活蛍光体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7に記載の発光装置。
【請求項11】
前記希土類付活蛍光体は、付活剤としてCeもしくはEuを含むことを特徴とする請求項10に記載の発光装置。
【請求項12】
前記希土類付活蛍光体は、窒化物系蛍光体であることを特徴とする請求項10に記載の発光装置。
【請求項13】
前記窒化物活蛍光体は、サイアロン蛍光体であることを特徴とする請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
一次光を発光する発光素子と、
前記一次光の一部を吸収して二次光を発光する波長変換部を備えた発光装置の製造方法であって、
互いに異なる二次光を発光する複数種の蛍光体により、前記波長変換部を形成する工程を含み、
前記蛍光体の少なくとも一つは、他の蛍光体から発せられる二次光を反射する表面被膜で被覆されていることを特徴とする発光装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−33916(P2013−33916A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85086(P2012−85086)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】