説明

白癬治療用外用剤及びその適用方法

【課題】 爪白癬の治療に際して感染部位及びその近傍の白癬菌生息領域により長く薬剤を滞留させることが可能な外用剤を提供する。
【解決手段】
白癬菌に有効な成分を担持してなる小胞体を分散保持すると共に皮膚透過を促進する薬剤を配合した含水ゲル基剤からなる白癬治療用外用剤であって、小胞体を、爪もしくは皮膚の細孔及び角質層細孔を通過し得るが毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない粒径に調節すると共に、皮膚透過促進剤により小胞体群を爪床下領域及び/又は皮下領域に導入し易くすると共に、当該領域で有効成分が高濃度貯留し得るように構成した。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は白癬治療用外用剤及びその適用方法に関する。さらに詳しくは有効成分を目的の皮下領域に高濃度で貯留しうる白癬治療用外用剤及びその適用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の真菌感染症は主として白癬菌によって引き起こされるが、そのうち、特に爪真菌症(以下「爪白癬」という)は、爪甲内部や爪床(「爪ユニット」という)に存在している白癬菌によって引き起こされ、爪甲の白濁や爪先端部の肥厚化、変形等が生じるものである。
【0003】
一方、水虫治療外用剤は、医療用、一般用共に多いが、水虫には効くものの爪深部の白癬菌感染部位まで有効成分を送達できず爪白癬には効果が無い。爪白癬を治療するには、より深部の爪ユニットへの薬物送達が必要となる。また、爪白癬が存在している領野で白癬菌への最小発育阻止濃度以上の濃度を保つことができないと、爪白癬の治療薬としては使用できない(非特許文献1)。
【0004】
さらに、病院処方内服薬として爪白癬処方が承認されているが、肝機能及び血液検査が必須な副作用のため、服用は爪白癬患者の10%未満に留まる。
水虫罹患者は国民の15%を超え、その内爪白癬罹患者は1000万人前後である。
【0005】
以上の事から、白癬治療薬としては外用剤の形態が好ましく、さらには、皮膚を経由して薬剤を作用部位に送達可能な剤型であり、内服薬や静脈内投与液剤による消化器系副作用、肝臓/腎臓機能障害や血液障害などを回避することが出来る利点があるゲル剤や貼付剤の形態が好ましい。このような例として、たとえば爪用抗真菌外用剤としてその中に貼付剤の形態にも言及しているものもある(特許文献1)。
【0006】
ところで、爪白癬を治療するに際して、80%以上の治癒率を示した臨床試験での爪領域の薬物濃度は、0.78±0.30ng/mg(平均値+/−標準誤差、30症例数)と報告されている(非特許文献2)。この点から、白癬治療用貼付剤の爪ユニット領野への薬剤送達の能力は、組織濃度として約1ng/mgを達成することが最低条件となる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示されている貼付剤については、塩酸ネチコナゾールを有効成分とする単なるパップ剤の形態が開示されているだけで、感染部位である爪ユニット下に有効成分を高濃度で貯留させる技術に関しては何ら開示はおろか示唆すらないものである。
【0008】
一方、有効成分をリポソームで被包してヒドロゲルに取り込んだ構成の傷被覆用品が公知である(特許文献2)。
しかしながら、このものは創傷の感染を治療・防止をして、創傷の治癒を図るためのものであり、リポソームに被包された有効成分を皮膚表面の創傷領域で適用する構成のものであって、リポソームそのものを特定の皮下領域に侵入させる構成のものではない。
【0009】
さらに、白癬治療用薬剤として、活性成分である塩酸テルビナフィンの経皮的浸透を改善するためにN−メチルピロリドンを併用する爪糸状菌症処置のための皮フ病学的組成物が知られている(特許文献3)。
【0010】
しかしながら、上記特許文献3に開示されている組成物は液剤の形態であり、本発明の外用剤とは全く異なるものである。
【0011】
非特許文献1 渡辺晋一、爪真菌症−診療マニュアル、
非特許文献2 松本忠彦、他:西日本皮膚科、56、374−381、1994
特許文献1 特開2004−83439号公報明細書
特許文献2 特表2003−508127号公報明細書
特許文献3 特許第3559973号明細書
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題に鑑み、白癬治療に際して感染部位及びその近傍の白癬菌生息領域に、できるだけ長く薬剤を滞留させることが可能な外用剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明によれば、「白癬菌に有効な成分を担持してなる小胞体を分散保持した含水ゲル基剤からなる白癬治療用外用剤であって、小胞体が、爪もしくは皮膚の細孔及び/又は角質層細孔を通過し得るが毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない粒径に調節されていると共に、上記含水ゲル基剤に皮膚透過促進剤を含有したことを特徴とする白癬治療用外用剤」が提供される。
【0014】
またその好ましい外用剤の一形態として本願請求項2によれば、「白癬菌に有効な成分を担持してなる小胞体を分散保持した含水ゲル基剤を膏体とし、上記小胞体が、爪もしくは皮膚の細孔及び/又は角質層細孔を通過し得るが毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない粒径に調節されていると共に、上記膏体に皮膚透過促進剤を含有して支持体上に展延されて貼付剤の形態にされたことを特徴とする白癬治療用外用剤」が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の白癬治療用外用剤を、白癬菌に感染している皮膚領域及びその周辺部に適用すれば、含水ゲル基剤内に分散保持されている小胞体が適用界面に接触すると共に、含水ゲル基剤に含有されている皮膚透過促進剤も共に適用界面に接触してその粘度により接触が維持されることとなる。
【0016】
この状態で白癬菌に感染している皮膚領域及びその周辺部は水分や皮膚透過促進剤との長時間接触により軟化・膨潤され、そこに存在する細孔群も柔軟化されることとなる。
そしてこの状態で小胞体は有効成分を担持したまま上記細孔群を通過して皮下領域に送達されることとなる。
【0017】
その皮下領域においては、毛細血管が存在していて動脈系毛細血管及び静脈系毛細血管の吻合部では絶えず血液を含む組織液の流出入によって流動状態が維持されているが、進入してきた小胞体はその粒径が毛細血管の内皮細胞間隙よりも大きいため、静脈血によって運び去られることは無く、その領域で滞留することとなる。
【0018】
こうして滞留する小胞体は数が増えていくが、滞留している間に小胞体群はそれぞれ崩壊し、担持されていた有効成分がその領域に放出されることとなる。
【0019】
放出された有効成分は若干毛細血管に吸収されるものもあるが、この領域には有効成分を担持した小胞体が次々と送られてきて且つ放出されるので、比較的高濃度に有効成分が存在することになり、これによってこの領域に生息している白癬菌は失活・死滅することとなる。
【0020】
また、含水ゲル基剤が膏体として調製された貼付剤の形態をなしている場合、白癬菌に感染している皮膚領域及びその周辺部に適用すれば、含水ゲル膏体内に分散保持されている小胞体が含水ゲル内での水分移動と共に適用界面に移動すると共に、含水ゲル膏体に含有されている皮膚透過促進剤も水分移動と共に適用界面に移動しそこでの接触が強固に維持されることとなり、上記した小胞体の皮下浸透がさらに効率よく達成されることとなる。
【0021】
またさらに、本発明の外用剤が爪ユニット及びその周辺部に適用される場合、有効成分は小胞体に担持されているので、爪ユニット成分のケラチンとの相互作用が抑制され、爪ユニットでの取り込みは押さえられて皮下領域に効果的に導入されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、白癬菌に有効な成分としては、当該分野で通常用いられる外用薬を用いることができ、例えば、テルビナフィン及びその塩、ブテナフィン及びその塩、ネチコナゾール及びその塩、クロトリマゾール、ルリコナゾール、ケトコナゾール、ラノコナゾール、ビハナゾール等が挙げられ、特に爪白癬に有効なテルビナフィン及びその塩が好ましいが、別段これに限定されるものではない。
【0023】
本発明において、白癬菌に有効な成分は、後述する小胞体に担持されて膏体内に含有されるが、これに加えて担持せずにそのまま膏体内に含有されてもよい。
【0024】
上記小胞体としては、含水ゲル内で安定でかつこのゲル内を流動し易い点がら、脂質膜からなるリポソームが好ましい。ことに単層リポソームが後述する粒径のものを得る点から好ましいが別段これに限定されない。
【0025】
本発明において、小胞体は、爪ユニット又はその近傍の表皮にある親水性細孔を通過し得るが、毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない大きさが選択される。このような小胞体の大きさとしては、100nm以下が好ましく、さらには30〜50nmがより好ましい。
【0026】
上記小胞体の調合は種々の脂質混合物から構成することができるが、例えば典型的なものとして、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)/コレステロール(1:1)を挙げることができるが、利用される調合には別段制限がない。
【0027】
薬剤を担持させたリポソーム調製には種々の方法があり、例えば以下の様にして調製できる。脂質の凍結乾燥物及びコレステロールの凍結乾燥物の混合物を、蒸留水、生理食塩水及び/又は5%デキストロースのような水性媒体に予め溶解した薬剤水性溶液で水和した。その後、ボルテックスミキサー等で激しく攪拌することにより、薬剤担持リポソームを調製することができる。
【0028】
上記薬剤担持リポソームの粒径は、たとえば以下のようにして調整することができる。即ち、上記のように薬剤水性溶液で水和した脂質凍結乾燥混合物を温水〔例えば45℃程度〕浴で解凍し、これを所望の大きさ(例えば30〜50nm程度)の孔を有する薄膜から高圧で押し出すことにより、調整することができる。
【0029】
本発明において、含水ゲルからなる膏体には、上記小胞体は皮膚透過促進剤と共に用いられる。
上記皮膚透過促進剤としては、N−メチルピロリドン(以下、「NMP」と略す)、クロタミトン、サリチル酸が好ましいものとして挙げられるが、これらに限定されるものでもない。
これらは、1種で用いられても良くまた数種混合して用いられても良い。
【0030】
上記皮膚透過促進剤としてNMPを選択する場合は、含水ゲル基剤に対して8質量%を超えない範囲で含有されることが好ましい。8質量%を超える場合は皮膚への安全性の点、膏体の安定性の点及び添加量対促進効果の経済性の点から好ましくない。なお下限値は、所期の効果が得られる濃度で用いられ、例えば0.01質量%が挙げられるが、別段これに限定されるものではない。
【0031】
上記皮膚透過促進剤としてクロタミトンを選択する場合は、含水ゲル基剤に対して1質量%を超えない範囲で含有されることが好ましい。1質量%を超える場合は皮膚への安全性の点、膏体の安定性の点及び添加量対促進効果の経済性の点から好ましくない。なお下限値は、所期の効果が得られる濃度で用いられ、例えば0.01質量%が挙げられるが、別段これに限定されるものではない。
【0032】
上記皮膚透過促進剤としてサリチル酸を選択する場合は、含水ゲル基剤に対して0.8質量%を超えない範囲で含有されることが好ましい。0.8質量%を超える場合は皮膚への安全性の点、膏体の安定性の点及び添加量対促進効果の経済性の点から好ましくない。なお下限値は、所期の効果が得られる濃度で用いられ、例えば0.01
質量%が挙げられるが、別段これに限定されるものではない。
【0033】
本発明において、上記皮膚透過促進剤は、薬剤担持小胞体調製時に配合されるものであっても良く、また後述する含水ゲル膏体用組成物調製時に配合されるものであっても良く、さらに含水貼付剤調製時に配合されるものであっても良く、これらの各調製時にそれぞれ分けて配合されるものであっても良い。
【0034】
本発明において、基剤を構成する含水ゲルは主として水溶性高分子からなるが、これは、天然水溶性高分子であってもよく、合成水溶性高分子であってもよく、又これらの混合物であってもよい。
【0035】
上記天然水溶性高分子としては、水を含んでゲル化するものであればいずれのものであってもよく、例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、寒天、アガロース、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、ペクチン、ゼラチン等が挙げられる。この中で特に多糖類が好ましいが、別段これらに限定されるものではない。
【0036】
上記合成水溶性高分子としても、水を含んでゲル化するものであればいずれのものであってもよく、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、アルギン酸、グラフトデンプン、アガロース、ポリグルタミン酸、アーネストガム、シリコーン又はそれらの塩及び部分中和物等が挙げられるが、別段これらに限定されるものではない。
【0037】
また、上記天然及び合成の水溶性高分子には、必要に応じて、当該分野で公知の架橋剤を併用してゲル強度を高めることもできる。該架橋剤としては、例えば塩化カリウム、乳酸カルシウム、ミョウバン等が挙げられる。
【0038】
本発明において、水溶性高分子は、含水ゲル基剤に対して、0.1〜10質量%程度含有されていることが適当であり、好ましくは0.3〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%程度である。
【0039】
また、含水ゲル基剤における含水率(質量%)は、30〜95%程度、好ましくは40〜80%程度である。含水率が30%程度より小さい場合は、保水性が著しく低下して剛性が大きくなり、目的の貼付部位から剥がれやすくなって、薬剤担持小胞体の浸透効果が低くなる。また、含水率が95%を越えると、特に貼付剤の膏体の場合には、ゲル強度が著しく低下して、ゲル状組成物が柔らかくかつ脆くなり、使用に十分に耐え得なくなるとともに、使用時の離水が顕著になって取扱い性が悪くなり、皮膚からも剥がれやすくなる。
【0040】
本発明における含水ゲル基剤の1つの製造法は、上記水溶性高分子を必要に応じて湿潤剤にて湿潤させた後、適量の水に懸濁させ、さらに所定量まで水を添加し、これを(必要に応じて例えば70〜100℃程度の温度雰囲気下にて溶解させて)よく攪拌・混合した後、冷却することによりゲル化させることができる。上記湿潤、懸濁、攪拌混合の際や冷却の際に、前記した有効成分担持小胞体を添加し、混練・混合することにより、薬剤担持小胞体を分散保持した含水ゲル基剤が得られる。
【0041】
また本発明において、含水ゲル基剤には、少なくとも表面が親水性である繊維群が分散保持されていてもよい。上記少なくとも表面が親水性を有する繊維としては、例えば、パルプ、木綿糸、レーヨン、微結晶セルロース繊維その他の各種親水性樹脂繊維のほか、表面が親水性処理された各種の疎水性樹脂繊維やガラス繊維・セラミック繊維等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明において、含水ゲル基剤には、更に他の活性成分(例えば、消炎剤、鎮痛剤、鎮痒剤、ビタミン等)が添加されてもよいし、医薬、化粧品および食品の分野において使用される添加剤、例えば、防腐剤、殺菌剤、香料、着色剤、抗酸化剤、増粘剤等が添加されてもよい。
【0043】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。また、本実施例では含水ゲル基剤を膏体として用いる貼付剤の形態にて説明するが、これも限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
塩酸テルビナフィン担持リポソーム懸濁液の調製
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)或いは大豆レシチンを塩酸テルビナフィンと1〜2:1のモル比でクロロホルム溶液としBangham法(薄膜法)によりリポソーム懸濁液(MLVリポソーム液)を調整した。
次いで、30〜50℃の温浴で凍結融解した後、30〜50nm程度の孔を有する薄膜から高圧で押し出すことにより、平均粒径50nmの塩酸テルビナフィン担持リポソーム懸濁液を得た。
なお、この懸濁液において塩酸テルビナフィンはほぼ0.1〜2質量%、リポソームを構成する全脂質量はほぼ0.1〜7質量%の範囲にあるものである。
【0045】
薬剤担持リポソーム分散含水ゲル膏体の調製
すなわち含水ゲル膏体構成成分として、ポリアクリル酸部分中和物4〜6g、ポリビニルアルコール0〜4g、グリセリン5〜10g、酒石酸0〜0.5g、ミョウバン0〜0.02g、グリシナール0.05〜0.15g、水(全体が100gとなるように用いる)を用意し、一方、塩酸テルビナフィン担持リポソームは、上記含水ゲル膏体成分における塩酸テルビナフィンの最終濃度が1.0%となるよう調整した。
【0046】
上記含水ゲル膏体構成成分を、以下のようにして混合した。すなわち、
(1)ポリビニルアルコールを適量の水に加温溶解した。
(2)ポリアクリル酸部分中和物をグリセリンと混合した。
(3)(1)に(2)を加え、残りのものを加えて良く撹拌混合するとゲル組成物が得られた。
【0047】
上記ゲル組成物に上記塩酸テルビナフィン担持リポソーム懸濁液50gを徐々に添加しながら混合攪拌し、塩酸テルビナフィン担持リポソーム分散ゲル組成物を得た。
なお、上記リポソーム分散ゲル組成物調製時に、皮膚透過促進剤として、NMP8%(実施例1)、クロタミトン1%(実施例2)、サリチル酸0.5%(実施例3)をそれぞれ添加・配合した。
【0048】
実施例1〜3
薬剤担持リポソーム分散・皮膚透過促進剤配合含水貼付剤の調製
次いで、以上のようにしてそれぞれ調製された塩酸テルビナフィン担持リポソーム分散・皮膚透過促進剤配合ゲル組成物を、不織布からなる支持体上に例えば約800g/m程度に展延すると共にこの表面にもポリプロピレン製ライナを被覆した後養生して、塩酸テルビナフィン担持リポソームを分散・皮膚透過促進剤配合した含水ゲル膏体を有する貼付剤を得た。なお、塩酸テルビナフィンは、含水膏体全体に対して約1.0質量%の範囲で含有されているものである。
【0049】
上記で得られた実施例1〜3の各貼付剤:
▲1▼NMP8%配合/塩酸テルビナフィン担持リポソーム分散含水貼付剤(実施例1)、
▲2▼クロタミトン1%配合/塩酸テルビナフィン担持リポソーム分散含水貼付剤(実施例2)、
▲3▼サリチル酸0.5%配合/塩酸テルビナフィン担持リポソーム分散含水貼付剤(実施例3)
について、皮膚透過試験を下記条件で実施した。
試験条件
・拡散セル:フランツ型拡散セル
・試験時間:48hr
・拡散セル温度:32℃
・レセプター液:PEG−400 40%水溶液
・透過膜:ヘアレスマウス摘出皮膚(冷蔵品)(♂、7w)
【0050】
ヘアレスマウス摘出皮膚に試験検体を貼付したのち、経時的に拡散セルからシリンジを用いてレセプター液をサンプリングした。各試験検体にメタノール或いはアセトニトリルを同量添加し、HPLCで塩酸テルビナフィンを定量した。
【0051】
また、実施例1〜3の結果の各透過濃度(μg/10ml)は以下に示した〔レセプター液に透過したもののみであり、分母の10mlは拡散セルの用量を示す〕。
▲1▼実施例1の含水貼付剤
24時間後… 0.26
48時間後… 2.36
▲2▼実施例2の含水貼付剤
24時間後… 0.10
48時間後… 0.26
▲3▼実施例3の含水貼付剤
24時間後… 4.9
48時間後… 85
なお、比較例として市販のラミシールに関する同試験の結果を示す。
ラミシールの24時間後… 0.09μg/10ml
【0052】
以上の結果から、本発明の実施例1〜3で記載された各貼付剤はいずれも、市販のラミシールよりも皮膚透過性が優れていることが分かる。
特に、サリチル酸を透過促進剤として配合したものは皮膚透過性が極めて優れている。
また、これらの結果に基づけば、白癬菌に有効な成分を担持したリポソームの如き小胞体を皮膚透過促進剤と共に配合した含水ゲル基剤を膏体とする本発明の貼付剤は、患部への適用が非常に速やかに且つ簡便に行え、更に貼り替えて連投する場合にも煩雑さが省かれることとなる。その上、有効成分が高濃度で患部皮下に貯留できるので治療の効果が高いものである。
【0053】
実施例4
塩酸テルビナフィン担持リポソーム配合ゲル外用剤
前記と同様に調製した塩酸テルビナフィン担持リポソーム懸濁液を、下記ゲル基剤成分に配合した。すなわち、ゲル基剤成分として、ヒドロキシプロピルセルロース3.0g、プロピレングリコール40g、サリチル酸0.5g、水(全体が100gとなるように用いる)を用意し、一方、塩酸テルビナフィン担持リポソームは、調製後の塩酸テルビナフィン担持リポソーム配合ゲル外用剤における最終濃度が1.0%となるよう調整した。
【0054】
なお、ゲル基剤成分の混合、及び、塩酸テルビナフィン担持リポソーム懸濁液の添加配合に関しては前述と同様にした。
【0055】
以上のようにして調製された塩酸テルビナフィン担持リポソーム配合ゲル外用剤を、ヘアレスマウス摘出皮膚に塗布(塗布量80mg/cm)した後、経時的に拡散セルからシリンジを用いてレセプター液をサンプリングした。各試験検体にメタノール或いはアセトニトリルを同量添加し、HPLCで塩酸テルビナフィンを定量した。
皮膚透過試験は下記条件で実施した。
試験条件
・拡散セル:フランツ型拡散セル
・試験時間:24hr
・拡散セル温度:32℃
・レセプター液:PEG−400 40%水溶液
・透過膜:ヘアレスマウス摘出皮膚(冷蔵品)(♂、7w)
結果を下記〔表1〕に示す。
なお、表1に示される透過濃度とは、前記と同様、拡散セル容量(10ml)中のレセプター液に透過した重量(μg)である。
【0056】
【表1】

【0057】
以上の結果から、本実施例4で調製された塩酸テルビナフィン担持リポソーム配合ゲル外用剤も、市販のラミシールよりも皮膚透過性が優れていることが分かる。
【0058】
以上のことから、本発明の外用剤は、貼付剤であってもゲル製剤であっても、剤形によらず患部への適用が非常に速やかに且つ簡便に行え、有効成分が高濃度で患部皮下に貯留できるので治療の効果が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白癬菌に有効な成分を担持してなる小胞体を分散保持した含水ゲル基剤からなる白癬治療用外用剤であって、小胞体が、爪もしくは皮膚の細孔及び/又は角質層細孔を通過し得るが毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない粒径に調節されていると共に、上記膏体に皮膚透過促進剤を含有したことを特徴とする白癬治療用外用剤。
【請求項2】
白癬菌に有効な成分を担持してなる小胞体を分散保持した含水ゲル基剤を膏体とし、上記小胞体が、爪もしくは皮膚の細孔及び/又は角質層細孔を通過し得るが毛細血管内皮細胞間隙を通過し得ない粒径に調節されていると共に、上記膏体に皮膚透過促進剤を含有して支持体上に展延されて貼付剤の形態にされたことを特徴とする白癬治療用外用剤。
【請求項3】
皮膚透過促進剤が、N−メチルピロリドン、クロタミトン、サリチル酸から選択される少なくとも1つである請求項1又は2に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項4】
皮膚透過促進剤が、N−メチルピロリドンである請求項1又は2に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項5】
皮膚透過促進剤が、クロタミトンである請求項1又は2に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項6】
皮膚透過促進剤が、サリチル酸である請求項1又は2に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項7】
皮膚透過促進剤としてN−メチルピロリドンが含水ゲル基剤に対して8質量%を超えない量で用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項8】
皮膚透過促進剤としてクロタミトンが含水ゲル基剤に対して1質量%を超えない量で用いられる請求項1、2、3、5のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項9】
皮膚透過促進剤としてサリチル酸が含水ゲル基剤に対して0.8質量%を超えない量で用いられる請求項1、2、3,6のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項10】
白癬菌に有効な成分をさらに含水ゲル基剤内に含有してなる請求項1又は2に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項11】
有効成分がテルビナフィン及び/又はその塩である請求項1〜10のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項12】
小胞体の粒径が、100nm以下である請求項1〜11のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項13】
小胞体の粒径が、30〜50nmである請求項11に記載の白癬治療用外用剤。
【請求項14】
小胞体が、リポソームである請求項1〜13のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項15】
含水ゲル基剤が、合成水溶性高分子及び/又は天然水溶性高分子からなる請求項1〜14のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項16】
合成水溶性高分子が、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコールからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項15記載の白癬治療用外用剤。
【請求項17】
天然水溶性高分子が、カラギーナン、ローカストビーンガム、グルコマンナン、グアーガム、タマリンドシードガム、ジェランガムからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項15記載の白癬治療用外用剤。
【請求項18】
少なくとも表面が親水性である繊維群が含水ゲル内に分散保持されてなる請求項1〜17のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項19】
治療対象が爪白癬である請求項1〜18のいずれかに記載の白癬治療用外用剤。
【請求項20】
請求項1〜19項のいずれかに記載の白癬治療用外用剤を治療部位適用するにあたり、所定時間毎に連投することを特徴とする白癬治療用外用剤の適用方法。

【公開番号】特開2012−162511(P2012−162511A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40790(P2011−40790)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(390011017)ダイヤ製薬株式会社 (20)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】