説明

白色セラミックカラー組成物

【課題】光反射材料、特に、白色LED用リフレクターとして有用な、可視光全域で高反射率を有し、且つ耐熱性、耐湿性に優れた光反射層を形成できる新規な材料を提供する。
【解決手段】アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに低融点ガラス粉末を含有することを特徴とする、白色セラミックカラー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射材料、特に白色LED(発光ダイオード)用リフレクター材料として有用な、高反射率を有し、且つ耐熱性、耐湿性に優れた反射層を形成可能な白色セラミックカラー組成物、白色セラミックカラー層の形成方法、及び該白色セラミック組成物から形成された反射層を有する白色LED用リフレクターに関する。
【背景技術】
【0002】
LED等の光半導体素子は、高エネルギー効率、長寿命などの利点を有するものであり、携帯端末、パソコン、テレビなどの液晶ディスプレイのバックライト、照明などの光源として幅広く利用されている。特に、白色LEDは、表示装置のバックライトやカメラのフラッシュとして広く応用されており、次世代の照明装置としても期待されている。
【0003】
この様なLEDを用いた発光装置では、光の取り出し効率を高めるため、発せられた光を反射するためのリフレクターが搭載されている。
【0004】
白色LED用のリフレクターとしては、可視光全域に対して高い反射率を有すると共に、優れた耐熱性、耐湿性などを有する材料が求められている。
【0005】
従来、白色LED用のリフレクター材料としては、白色顔料として二酸化チタンを含む各種の材料が用いられている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、二酸化チタンを白色顔料として含む光反射材料は、450nm程度以下の低波長域における反射率が低く、白色LED用のリフレクターとして要求される可視光全域において高い光反射率を有するという性能を満足することができない。
【0006】
その他の白色LED用のリフレクター材料として、二酸化チタン以外の各種の白色顔料を含む組成物も知られているが(特許文献4及び5参照)、これらの材料は、バインダーとして硬化性樹脂を用いるものであり、耐熱性、耐湿性などについて満足のいく性能を有するものではない。
【0007】
更に、白色無機材料を焼結させて得られるセラミック層をリフレクターとすることも報告されている(特許文献6〜8等参照)。しかしながら、焼結体からなるリフレクターを形成するためには、高い耐熱性を有する基材を用いることが必要であり、使用できる基材の種類が限定される上に、セラミック層を形成するための操作が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−332166公報
【特許文献2】特開2009−149878公報
【特許文献3】特開2009−149879公報
【特許文献4】特開2008−106226公報
【特許文献5】特開2010−202831公報
【特許文献6】再表WO2007/058361
【特許文献7】特開2008−117932公報
【特許文献8】特開2010−212717公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、光反射材料、特に、白色LED用リフレクターとして有用な、可視光全域で高反射率を有し、且つ耐熱性、耐湿性に優れた光反射層を形成できる新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、白色顔料として、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を用い、これを低融点ガラス粉末と混合して得られる組成物は、有機ビヒクルを配合してペースト状とした後、塗布し、加熱焼き付けを行うことによって、各種の基材に対して簡単な方法で焼き付け皮膜を形成できることを見出した。そして、この方法によって形成される皮膜は、可視光全域の光に対して高い反射率を有すると共に、優れた耐熱性、耐湿性を有するものとなり、特に、白色LED用のリフレクターの反射層として優れた性能を有するものとなることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の白色セラミックカラー組成物、白色セラミックカラー層の形成方法、及び白色LED用リフレクターを提供するものである。
項1. アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに低融点ガラス粉末を含有することを特徴とする、白色セラミックカラー組成物。
項2. アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と低融点ガラス粉末の合計量を基準として、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を30〜70重量%と、低融点ガラス粉末を70〜30重量%含有する、上記項1に記載の白色セラミックカラー組成物。
項3. 更に、有機ビヒクルを添加してペースト状とされた上記項1又は2に記載の白色セラミックカラー組成物。
項4. 上記項1〜3のいずれかに記載の白色セラミックカラー組成物からなる白色LED用リフレクター形成材料。
項5. 上記項1〜4のいずれか一項に記載の白色セラミックカラー組成物を基材に塗布し、加熱することを特徴とする白色セラミックカラー層の形成方法。
項6. 上記項5に記載の方法で形成された白色セラミックカラー層を有する白色LED用リフレクター。
【0012】
以下、本発明の白色セラミックカラー組成物について、具体的に説明する。
【0013】
本発明の白色セラミックカラー組成物は、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、低融点ガラスを有効成分として含有するものである。
【0014】
白色顔料
本発明のセラミックカラー組成物では、白色顔料として、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を用いることが必要である。これらの白色顔料は、後述する低融点ガラスと組み合わせて、これに有機ビヒクルを加えてペースト状とした後、基材に塗布し、焼き付けることによって、可視光域全域において高い反射率を有する皮膜を形成できる。具体的には、波長400〜700nmの範囲内における全ての波長の光について、80%以上の反射率を有する皮膜を形成できる。
【0015】
白色顔料の形状については特に限定はなく、例えば、球状、不定形のいずれでもよいが、特に、平均粒径0.2〜2μm程度の粉末状であることが好ましく、平均粒径が0.2〜1μm程度であることがより好ましい。この場合、平均粒径は、レーザー散乱検出型粒度分布測定装置によって測定した値である。
【0016】
低融点ガラス
本発明のセラミックカラー組成物では、低融点ガラスとして、鉛を含まない無鉛ガラスを用いることが必要であり、該低融点ガラスの軟化温度は、500〜800℃程度であることが好ましい。尚、軟化温度は、示差熱分析装置によって測定した値である。
【0017】
更に、該低融点ガラスは、着色成分を含有しない無色透明ガラスであって、カドミウムなどの有害成分を含有しないことが好ましい。この場合の着色成分としては、金、銀、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、ウラニウム、セレン、ネオジム、バナジウム等の金属元素、これらの金属元素を含む化合物等を例示できる。これらの成分は、可視光域の光に対して吸収を有する成分であり、本発明では、低融点ガラスとしては、これらの着色成分を含有しないものを用いる。
【0018】
本発明で使用できる低融点ガラスの種類については特に限定はないが、例えば、下記の組成を有するホウケイ酸ガラスを用いることができる。
SiO 30〜60 重量%
5〜25 重量%
Bi 0〜50 重量%
ZnO 0〜40 重量%
Al 0〜15 重量%
TiO 0〜10 重量%
ZrO 0〜10 重量%
O 0〜20 重量% (R=Li,Na,K)
RO 0〜40 重量% (R=Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)
F 0〜10 重量%。
【0019】
特に、下記組成を有するBiを含有しないホウケイ酸ガラスが好ましい。
【0020】
SiO 40〜55 重量%
10〜20 重量%
ZnO 0〜20 重量%
Al 0〜10 重量%
TiO 0〜5 重量%
ZrO 0〜10 重量%
O 0〜15 重量% (R=Li,Na,K)
RO 0〜35 重量% (R=Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)。
【0021】
ガラスの粉末の作製方法としては、例えば溶融時に目的の組成となる量の原料を混合して原料組成物を得、これを約1000℃以上、通常1100〜1500℃で溶融し、溶融物を水中にて急冷してポップコーン状ガラスとするか或いは水冷ロールに挟んでフレーク状ガラスとする。次いで、例えばボールミル中でアルミナボール等を用いて、乾式或いは水系溶媒又は有機溶剤系溶媒にてガラスを湿式粉砕する。湿式粉砕にて得られたスラリーは乾燥機で乾燥してケーキ状とし、その後、篩又は粉砕機等を用いて解砕して粉末状とする。また上記スラリーをスプレードライヤー等を用いて直接粉末化してもよい。
【0022】
かくして得られるガラス粉末の粒径は、通常0.1〜30μm程度、好ましくは0.5〜20μm程度の範囲にあるのが最適である。従って、粒径が30μmを超える粗大粒子が生成している場合は、例えば気流分級装置や篩等を用いて除いておくのが好ましく、更に10μm以下に制御することがより好ましい。この場合、粒径は、レーザー散乱検出型粒度分布測定装置によって測定した値である。
【0023】
セラミックカラー組成物
本発明のセラミックカラー組成物は、上記したアルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分からなる白色顔料と低融点ガラスを固形分として含有するものであり、これを、各種の基材上への塗布や印刷等に適した形態、例えば、樹脂の溶剤溶液(有機ビヒクル)中に分散させたペースト状形態や塗料形態に調製される。
【0024】
白色顔料と低融点ガラスの使用割合は、両者の合計量を基準として、白色顔料を30〜70重量%程度と低融点ガラスを70〜30重量%程度とする。特に、高反射率を得るためには、白色顔料を40〜70重量%程度と低融点ガラスを60〜30重量%程度とすることが好ましい。
【0025】
有機ビヒクルとしては、通常のこの種セラミックカラー組成物で使用されるものを用いることができ、具体的には、易燃焼性の樹脂を溶剤に溶解したものを使用できる。ここで、易燃焼性樹脂としては、例えばセルロース樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニールピロリドン樹脂等の熱分解性のよい樹脂が好ましい。また、溶剤としては、例えばパインオイル、α−ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングライコール等の比較的高沸点の溶剤が使用できる。
【0026】
本発明の白色セラミックカラー組成物において、固形分に対する有機ビヒクルの配合割合、及びビヒクル中の樹脂と溶剤との使用比率は、様々な施工方法、例えば、ドクターブレード法、ロールコート法、スクリーン印刷法、テーブルコーター、リバースコーター、スプレー法等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常、易燃焼性樹脂と溶剤の混合比率は、両者の合計量を基準として樹脂1〜50重量%程度と溶剤50〜99重量%程度とすればよい。有機ビヒクルの使用量については、例えばスクリーン印刷等に適したペースト状形態に調製する場合、一般には、固形分100重量部に対して有機ビヒクル10〜40重量部程度の範囲が適当である。その他の塗料形態に調整される場合は、固形分100重量部に対して有機ビヒクル30〜100重量部程度の範囲の使用が好ましい。これら各種形態への調整は、常法に従って、例えば固形分をロールミル、サンドミル、ボールミル等を用いて有機ビヒクル中に分散させることにより実施できる。
【0027】
かくして得られるペースト状、塗料状等の各種形態の本発明セラミックカラー組成物は、各種の基材上に、常法に従って施工することができる。塗布方法については、通常慣用される方法と異なるものではなく、例えばスクリーン印刷法、スプレー塗装法、ロールコーター法等に従うことができる。上記スクリーン印刷法は最も簡便であり、部分塗布に適している。
【0028】
基材の種類については特に限定はないが、例えば、白色LED用のリフレクター材料として用いる場合には、基材としては、例えば、アルミナ、窒化アルミ、炭化珪素等が用いられる。
【0029】
塗布量については、特に限定的ではなく、目的に応じて適宜決めればよく、通常使用されているセラミックカラー組成物の塗布量と同様とすればよい。例えば、白色LED用リフレクターの反射層として用いる場合には、焼き付け後に形成される皮膜の厚さとして、25〜35μm程度となるように塗布すればよい。
【0030】
塗布後の加熱温度については、使用するガラス粉末の種類に応じて、ガラス粉末が溶融して、基材に対して緻密なセラミックカラー層を形成できる条件とすればよい。
【0031】
具体的な加熱温度は、使用する基板の耐熱温度より低い温度範囲において、使用するガラス粉末の種類に応じて決めればよいが、通常、500〜900℃程度の範囲とすることができる。
【0032】
本発明の白色セラミックカラー組成物は、焼き付け後の皮膜が、可視光全域の光に対して高い反射率を有するものであり、光反射材料として優れた性能を有し、特に、白色LED用のリフレクター材料として有用である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の白色セラミックカラー組成物は、有機ビヒクルを加えてペースト状とすることによって各種の基材に対して簡単に塗工でき、塗工後の組成物を加熱して焼き付けることによって、高い反射率を有するセラミックカラー層を形成することができる。
【0034】
このようにして形成されるセラミックカラー層は、波長400〜700nmの範囲内における全波長域において80%以上の高い反射率を有するものであり、可視光域の光に対する反射性能に優れたものである。更に、形成されるセラミックカラー層は、耐熱性及び耐湿性が良好である。
【0035】
このため、本発明の白色セラミックカラー組成物によれば、可視光全域で高反射率を有し、耐熱性、耐湿性にも優れ、特に、白色LED用反射材料として優れた性能を有する光反射層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0037】
実施例1〜6及び比較例1〜5
SiO50重量%、B 15重量%、ZnO10重量%、Al5重量%、TiO5重量%、ZrO5重量%、並びにLiO、NaO及びKOを合計量として10重量%からなり、平均粒径3.0μm、軟化点780℃の低融点ガラス粉末と、下記表1及び表2に示す白色顔料を、表1および表2に示す比率で混合した混合物100重量部に対して、易燃焼性のエチルセルロース樹脂(ダウケミカル社製、商標名:STD-20)7重量%とα−ターピネオール93重量%からなる有機ビヒクル30重量部を加えて、三本ロールにて分散して白色セラミックカラー組成物をペースト状形態に調製した。その際の粘度は10〜25Pa・sであった。
【0038】
得られたペースト状の白色セラミックカラー組成物を、アルミナ基板((株)北陸セラミック製、大きさ6.5cm×6.5cm×厚み0.65mm)上に、焼成後のセラミックカラー層が25〜35μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥後、850℃で10分間保持して、アルミナ基板上にセラミックカラー組成物を焼き付けた。形成されたセラミックカラー層について、下記の方法で反射率、耐熱性及び耐湿性の試験を行った。結果を下記表1及び表2に示す。
【0039】
(焼き付き性)
上記した方法で白色セラミックカラー組成物を塗布し、850℃で焼き付けた後、形成されたセラミックカラー層について、JIS K5600−5−4に準じた方法で鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度が9H以上の場合に焼き付き状態が良好と判断して○印で示し、8H以下の場合には、焼き付き状態が不良と判断して×印で示す。
【0040】
(反射率)
各白色セラミックカラー組成物を用いて形成された焼成後のセラミックカラー層について、分光測色計(CM-3500d)(コニカミノルタセンシング(株)製)を用いて波長毎の反射率を測定した。
【0041】
(耐熱性)
各白色セラミックカラー組成物を用いて形成された、焼成後のセラミックカラー層について、温度150℃で1000時間保管し、保管前後のセラミックカラー層について反射率を測定し、反射率の差が5%未満であれば耐熱性が良好であると判断して○印で示し、反射率の差が5%以上であれば耐熱性が劣ると判断して×印で示す。
【0042】
(耐湿性)
各白色セラミックカラー組成物を用いて形成された、焼成後のセラミックカラー層について、温度85℃、相対湿度85%で1000時間保管し、保管前後のセラミックカラー層について反射率を測定し、反射率の差が5%未満であれば耐熱性が良好であると判断して○印で示し、反射率の差が、5%以上であれば耐熱性が劣ると判断して×印で示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分、並びに低融点ガラス粉末を含有することを特徴とする、白色セラミックカラー組成物。
【請求項2】
アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、低融点ガラス粉末の合計量を基準として、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を30〜70重量%と、低融点ガラス粉末を70〜30重量%含有する、請求項1に記載の白色セラミックカラー組成物。
【請求項3】
更に、有機ビヒクルを添加してペースト状とされた請求項1又は2に記載の白色セラミックカラー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の白色セラミックカラー組成物からなる白色LED用リフレクター形成材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の白色セラミックカラー組成物を基材に塗布し、加熱することを特徴とする白色セラミックカラー層の形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法で形成された白色セラミックカラー層を有する白色LED用リフレクター。

【公開番号】特開2012−101955(P2012−101955A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249708(P2010−249708)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】