説明

皮膚コラーゲン産生促進剤

【課 題】
皮膚の乾燥感や肌荒れ、シワやタルミを防止でき、しかも安全性の点でも問題のない食品素材としても使用可能な皮膚コラーゲンの生合成を促進する新たな皮膚コラーゲン産生促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、皮膚コラーゲン産生促進剤を配合した飲食品又は化粧料を提供することを課題とする。
【解決手段】
次の(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
(a)乳由来であること。
(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること。
(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の荒れ、シワ、弾性低下等を防止するのに有用な皮膚コラーゲン産生促進剤、皮膚コラーゲン産生促進用飲食品及び皮膚コラーゲン産生促進用化粧料に関する。さらに詳しくは、本発明は、乳タンパク質画分及び/または、その乳タンパク質画分の分解物を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚のメカニズムに関する研究が進められ、皮膚の乾燥感や肌荒れの原因としてマクロ的には、加齢による新陳代謝の減衰によるもののほかに、太陽光(紫外線)、乾燥、酸化等の作用が複雑に関与していることが確認されてきた。これらの因子による作用によって、真皮の最も主要なマトリックス成分であるコラーゲン繊維が顕著に減少していることが明らかとなってきた。コラーゲン繊維によって保たれていた皮膚のハリや弾力性といった張力保持機構が紫外線等の作用によって破壊されると、皮膚はシワやたるみを増した状態になる。また、コラーゲンはその分子中に水分を保持することができ、それにより、皮膚をしっとりとした状態に保つことにも役立っているから、外的因子により、コラーゲンが破壊されると肌は、乾燥し、荒れた状態になる。以上のことから、真皮層の主要な成分の一つであるコラーゲンの生合成を促進させることにより、皮膚のシワやたるみを防止でき、しかも安全性の点でも問題のない皮膚コラーゲン産生促進剤が望まれていた。
【0003】
皮膚コラーゲン促進作用を有する物質としては、乳中に存在する塩基性タンパク質画分あるいはその塩基性タンパク質画分をタンパク質分解酵素で分解して得られる塩基性ペプチド画分(特許文献1)や、ラクトフェリンあるいはラクトフェリンをタンパク質分解酵素で分解して得られるラクトフェリン分解物(特許文献2)、ラクトパーオキシダーゼあるいはラクトパーオキシダーゼをタンパク質分解酵素で分解して得られるラクトパーオキシダーゼ分解物(特許文献3)、アンジオジェニンあるいはアンジオジェニンをタンパク質分解酵素で分解して得られるアンジオジェニン分解物(特許文献4)が既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−144095
【特許文献2】特開2004−331564
【特許文献3】特開2004−331565
【特許文献4】特開2004−331566
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、皮膚の乾燥感や肌荒れ、シワやタルミを防止でき、しかも安全性の点でも問題のない食品素材としても使用可能な皮膚コラーゲンの生合成を促進する新たな皮膚コラーゲン産生促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、皮膚コラーゲン産生促進剤を配合した飲食品又は化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの課題を解決するために、広く食品素材に含まれている皮膚コラーゲン産生促進作用を示す物質について鋭意、探索を進めていたところ、皮膚コラーゲン産生促進作用を示す乳タンパク質画分及び/または、その乳タンパク質画分の分解物を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の態様を含むものである。
(1)次の(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
(a)乳由来であること。
(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること。
(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること。
(2)前記(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分の分解物を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
(3)(1)又は(2)に記載の乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合した皮膚コラーゲン産生促進用飲食品。
(4)(1)又は(2)に記載の乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合した皮膚コラーゲン産生促進用化粧料。
(5)次の(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分を、一日当たり10μg以上経口摂取するか、又は0.001〜2重量%になるよう塗布することによる皮膚コラーゲンの産生促進方法。
(a)乳由来であること。
(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること。
(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること。
(6)前記(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分の分解物を、一日当たり10μg以上経口摂取するか、又は0.001〜2重量%になるよう塗布することによる皮膚コラーゲンの産生促進方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤は、経口投与あるいは塗布により皮膚におけるコラーゲンの生合成を促進することから、皮膚の乾燥感や肌荒れ、シワや弾性低下等の防止に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤は、(a)乳由来であること、(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること、(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること、の3つの条件を全て満たす乳タンパク質画分か、あるいは当該乳タンパク質画分の分解物を有効成分とする。このような乳タンパク質画分は、例えば、脱脂乳や乳清等の乳原料を陽イオン交換樹脂と接触させて、脱イオン水で洗浄後、この樹脂に吸着した乳タンパク質を0.2Mの食塩溶出液で溶出して得ることができる。なお、塩類としては、食塩の他カリウム塩、アンモニア塩、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩等を使用することができ、洗浄液のイオン強度を0.05以下、溶出溶液のイオン強度を0.15〜0.25に適宜調整して、本発明の乳タンパク質画分を得ることができる。また、この溶出画分を回収し、逆浸透(RO)膜や電気透析(ED)法等により脱塩及び濃縮し、必要に応じて乾燥することにより得ることができる。逆浸透(RO)膜としては、Desal-3(Desalination社製)、HR-95(Dow Danmark社製)、NTR-729HF(日東電工社製)等を例示することができる。また、電気透析(ED)装置は、ユアサアイオニクス社や日本錬水社製の電気透析装置を例示できる。
【0010】
また、乳由来のタンパク質画分を得る方法としては、乳又は乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を超え、イオン強度 0.5を超える溶出液で溶出して得る方法(特開平5-202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭 61-246198号公報)、無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平 1-86839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭63-255300号公報)等が知られており、本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤は、このような方法で得られる乳タンパク質画分を用いることができる。また、このようにして回収された乳タンパク質画分は、凍結乾燥等により粉末化して使用することも可能である。
【0011】
本発明で用いる皮膚コラーゲン産生促進作用を有する乳タンパク質画分は、その構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12〜14重量%含有し、かつ塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5〜0.7の範囲である。この範囲を外れると本願発明の効果を発揮することができない。また、本発明品は、分子量6,000〜150,000ダルトンを示す多種のタンパク質の混合物であり、等電点も6〜11の広範囲に分布を示す。
【0012】
乳タンパク質画分の分解物は、乳タンパク質画分と同様のアミノ酸組成を有しており、例えば、上記の方法で得られた乳タンパク質画分にペプシン、トリプシン、キモトリプシン等のタンパク質分解酵素を作用させ、さらに必要に応じ、パンクレアチン等のタンパク質分解酵素を作用させることにより、平均分子量4,000以下の分解物として得ることができる。なお、乳タンパク質画分の分解物は、凍結乾燥等により粉末化して使用することも可能である。
【0013】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤の有効成分である乳タンパク質画分の給原となる乳又は乳由来原料としては、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳等の乳を用いることができ、これらの乳をそのまま、あるいは、これらの乳の還元乳、脱脂乳、ホエー等を用いることができる。
【0014】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤は、経口投与あるいは塗布することにより、皮膚コラーゲン産生促進効果を発揮する。本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤を経口投与するに際しては、有効成分である乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物をそのままの状態で用いることもできるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることもできる。本発明において、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の経口剤は、例えば、澱粉、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法によって製剤化される。この種の製剤には、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料等を適宜使用することが出来る。より具体的には、結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。また、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース等が挙げられる。界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル等が、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油等が、流動性促進剤としては無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0015】
さらには、これらの乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物をそのままあるいは製剤化した後、これを栄養剤や飲食品等に配合することも可能である。また、ビタミンC等の従来からコラーゲン産生に有効な作用を持つと考えられている成分とともに乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合すれば、一層の皮膚コラーゲン産生促進作用が期待できる。なお、乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物は、比較的熱に対して安定であるので、通常行われるような条件で加熱殺菌することも可能である。
【0016】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤を塗布するに際しては、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分に配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能で、好ましい組成物として軟膏、ゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、粉末等が挙げられる。例えば、本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤をワセリン等の炭化水素、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン等の動物性油脂、グリセリン等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸、ポリエチレングリコール等の界面活性剤、無機塩、ロウ、樹脂、水及び、要すればパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の保存料に混合することによって、皮膚コラーゲン産生促進用化粧料や医薬品を製造することができる。
【0017】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤の経口投与による有効量は、その製剤形態、投与方法、使用目的、及びこれを適用される患者の年齢、体重、病状により適宜規定され一定でないが、ラットを用いた動物実験の結果によると、皮膚コラーゲン産生促進作用を示すためには、乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物をラット体重1kg当たり10μg以上摂取する必要があることが判った。したがって、外挿法によると、通常、成人一人当たり一日10μg以上の乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を摂取すれば効果が期待できるので、この必要量を確保できるよう飲食品に配合するか、あるいは、医薬として投与すれば良い。なお、投与は必要に応じて一日数回に分けて行うことも可能である。
【0018】
本発明の皮膚コラーゲン産生促進剤の塗布による有効量は、剤形により異なるが、適用する組成物全量を基準として、好ましくは、0.001〜2重量%となるように、乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合すれば良い。ただし、入浴剤のように使用時に希釈されるものは、さらに配合量を増やすことができる。
【0019】
以下に、参考例、実施例及び試験例を示して本発明を詳細に説明するが、これらは単に本発明の実施態様を例示するものであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0020】
[参考例1]
下記の方法(特開2003−144095参照)により、皮膚コラーゲン産生促進作用が認められるの乳タンパク質画分を調製した。陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績製) 0.5リットルを充填した直径10cmのカラムを脱イオン水で充分洗浄した。このカラムに未殺菌脱脂乳 50リットルを流速100ml/minで通液した後、このカラムを脱イオン水で充分洗浄し、0.95M塩化ナトリウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)2.5リットルを通液して樹脂に吸着したタンパク質を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜処理により、脱塩し、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳タンパク質画分を得た。この操作を2回繰り返して104gのタンパク質画分を得た。このタンパク質画分の等電点は7.0〜8.5であって、このタンパク質画分に含まれる塩基性アミノ酸は17.8%であった。
【実施例1】
【0021】
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績製) 0.5リットルを充填した直径10cmのカラムを脱イオン水で充分洗浄した。このカラムに未殺菌脱脂乳50リットルを流速100ml/minで通液した後、このカラムを脱イオン水で充分洗浄し、0.15M塩化ナトリウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0) 2.5リットルを通液して樹脂に吸着したタンパク質を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜処理により、脱塩し、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳タンパク質画分を得た。この操作を10回行い、乳タンパク質画分24.2gを得た。この画分は分子量が6,000〜150,000ダルトン、等電点が6.0〜11.0であって、この乳タンパク質画分に含まれる構成アミノ酸のうち、塩基性アミノ酸は12〜14%であった。また、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比は0.5〜0.7であった。得られた乳タンパク質画分はそのまま本願発明の皮膚コラーゲン産生促進剤として使用可能である。
【実施例2】
【0022】
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績製) 0.5リットルを充填した直径10cmのカラムを脱イオン水で充分洗浄した。このカラムに未殺菌脱脂乳50リットルを流速100ml/minで通液した後、このカラムを0.05M塩化ナトリウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)で充分洗浄し、0.25M塩化ナトリウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)2.5リットルを通液して樹脂に吸着したタンパク質を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜処理により、脱塩し、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳タンパク質画分を得た。この操作を5回行い、乳タンパク質画分12.8gを得た。この画分は分子量6,000〜150,000ダルトン、等電点は6.0〜11.0であって、この乳タンパク質画分に含まれる構成アミノ酸のうち,塩基性アミノ酸は12〜14%であった。また、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比は0.5〜0.7であった。得られた乳タンパク質画分はそのまま本願発明の皮膚コラーゲン産生促進剤として使用可能である。
【実施例3】
【0023】
実施例1で得られた乳タンパク質画分24.2gを蒸留水10リットルに溶解した後、ペプシン(関東化学製)を2%濃度となるよう添加し、37℃で1時間撹拌しながら加水分解した、次いで、水酸化ナトリウム溶液でpH6.8に中和後、1%パンクレアチン(シグマ社製)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させた後、乳タンパク質画分の分解物23.1gを得た。得られた乳タンパク質画分の分解物はそのまま本願発明の皮膚コラーゲン産生促進剤として使用可能である。
【実施例4】
【0024】
実施例2で得られた乳タンパク質画分12.8gを蒸留水8リットルに溶解した後、トリプシン(関東化学製)を2%濃度となるよう添加し、37℃で1時間撹拌しながら加水分解した。次いで、水酸化ナトリウム溶液でpH6.6に中和後、1%パンクレアチン(シグマ社製)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させた後、乳タンパク質画分の分解物11.7gを得た。得られた乳タンパク質画分の分解物はそのまま本願発明の皮膚コラーゲン産生促進剤として使用可能である。
【0025】
[試験例1]
参考例1で得られた乳タンパク質画分及び、実施例1で得られた乳タンパク質画分、実施例3で得られた乳タンパク質画分の分解物について、ラットを用いた動物実験によりコラーゲン産生促進作用を調べた。7週齢のWistar系雄ラットを、生理食塩水投与群(A群)、参考例1で得られた乳タンパク質画分をラット体重1kg当たり10μg投与する群(B群)、参考例1で得られた乳タンパク質画分をラット体重1kg当たり100μg投与する群(C群)、実施例1で得られた乳タンパク質画分をラット体重1kg当たり10μg投与する群(D群)、実施例1で得られた乳タンパク質画分をラット体重1kg当たり100μg投与する群(E群)、実施例3で得られた乳タンパク質画分の分解物をラット体重1kg当たり10μg投与する群(F群)、実施例3で得られた乳タンパク質画分の分解物をラット体重1kg当たり100μg投与する群(G群)の7試験群(n=6)に分け、それぞれを毎日1回ゾンデで投与して10週間飼育した。皮膚のコラーゲン量については、ラットの真皮をNimniらの方法(Arch. Biochem. Biophys., 292頁, 1967年 参照)に準じて処理した後、可溶性画分に含まれるヒドロキシプロリン量を測定した。ヒドロキシプロリンはコラーゲンのみに含まれる特殊なアミノ酸で、コラーゲンを構成する全アミノ酸の約10%を占めることからコラーゲン量の推定ができる(浅野隆司ら,Bio Industory,12頁, 2001年 参照)。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
これによると、10週間後の可溶性画分中ヒドロキシプロリン量は、A群に比べ、B群、C群、D群、E群、F群及びG群で有意に高い値を示した。また、実施例1で得られた乳タンパク質画分及び実施例3で得られた乳タンパク質画分の分解物は、参考例1で得られた乳タンパク質画分に比べ、約2倍の効果があることがわかった。このことから、本発明の乳タンパク質画分または乳タンパク質画分の分解物には皮膚コラーゲン産生促進作用があることが明らかとなり、皮膚コラーゲン産生促進剤として有用であることが示された。また、この皮膚コラーゲン産生促進作用は乳タンパク質画分または乳タンパク質画分の分解物をラット体重1kg当たり最低10μg投与した場合に認められることが明らかとなった。
【実施例5】
【0028】
表2に示す配合で、皮膚コラーゲン産生促進剤を配合した飲料を常法により製造した。製造した飲料の風味は良好で、常温1年間保存によっても風味が劣化することはなく、沈殿等の問題もなかった。
【0029】
【表2】

【実施例6】
【0030】
表3に示す配合のドウを常法により作製し、成形した後、焙焼して皮膚コラーゲン産生促進剤を配合したビスケットを製造した。
【0031】
【表3】

【実施例7】
【0032】
表4に示す配合で、皮膚コラーゲン産生促進剤を常法により製造した。
【0033】
【表4】

【0034】
表5に示した組成で各成分を混合し、乳化温度85℃で乳化して、皮膚コラーゲン産生促進剤を配合したプロセスチーズを調製した。
【0035】
【表5】

【0036】
[試験例2]
実施例2で得られた乳タンパク質画分(実施例品2)及び実施例4で得られた乳タンパク質画分の分解物(実施例品4)について、正常ヒト線維芽細胞株〔白人女性の皮膚より採取されたCCD45SK(ATCCRL 1506)〕を用いた実験により皮膚コラーゲン産生促進作用を調べた。10容量%ウシ胎児血清(以下FBSと略記)含有変法イーグル培地(MEM、10‐101、大日本製薬社製)を用いて、正常ヒト線維芽細胞株を4×10個/ウエル/0.4mlとなるように24ウエルプレートに播種して、5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で24時間培養した後、0.6容量%FBS含有MEM培地に置換した。そして、実施例2で得られた乳タンパク質画分(実施例品2)及び実施例4で得られた乳タンパク質画分の分解物(実施例品4)を、各ウエルに0.1容量%となるように添加(n=6)して、24時間培養した後、β−アミノプロピオニトリルを50μg/ml、トリチウム−L−プロリンを1μCi/mlとなるように添加して、さらに24時間培養して培養液を得た。このようにして得られた培養液より、Websterらの方法(Analytical Biochemistry,220頁,1979年 参照)に従いコラーゲン画分を分画し、コラーゲン画分に取り込まれた放射能を測定した。なお、対照として、乳タンパク質画分及び乳タンパク質画分の分解物を添加しないで同様の試験を行った。その結果を表6に示す。
【0037】
【表6】

【0038】
これによると、乳タンパク質画分及び乳タンパク質画分の分解物を添加した群は、乳タンパク質画分及び乳タンパク質画分の分解物を添加していない群(対照)に比べていずれも2倍以上のコラーゲン産生促進能を示した。このことから、本発明の乳タンパク質画分及び乳タンパク質画分の分解物には、皮膚線維芽細胞に働きかけ、コラーゲン産生を促進する作用があることが明らかとなり、皮膚コラーゲン産生促進剤として有用であることが示された。
【実施例8】
【0039】
表7に示す配合の化粧水を常法により製造した。
【0040】
【表7】

【実施例9】
【0041】
表8に示す配合のクリームを常法により製造した。
【0042】
【表8】

【0043】
[試験例3]
実施例8で得られた化粧水及び実施例9で得られたクリームを用いて、実使用テストを行った。比較品としては、乳タンパク質画分及び乳タンパク質画分の分解物を除いた以外は実施例8及び9と同じ配合のものを用いた。顔面のたるみや小ジワが認められる乾燥肌を有する成人女子20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(A、B群)に、また、手に肌荒れが認められる女子20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(C、D群)に分け、A群の顔面には本発明品の化粧水2gを、B群の顔面には比較品の化粧水2gを、C群の手指には本発明品のクリーム2gを、D群の手指には比較品のクリーム2gを、それぞれ1日2回通常の使用状態と同様に10日間塗布してもらった。結果を表9に示す。
【0044】
【表9】

【0045】
表9より、本発明品の化粧水は、比較品の化粧水に比べて、乾燥感の改善、肌荒れ等の改善が顕著であり、皮膚コラーゲン産生促進効果に優れていることが明らかとなった。また、本発明品のクリームについても、比較品のクリームに比べて、乾燥感の改善、肌荒れに顕著な改善がみられ、肌荒れ等の自然増悪抑制効果を有することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
(a)乳由来であること。
(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること。
(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること。
【請求項2】
前記(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分の分解物を有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合した皮膚コラーゲン産生促進用飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の乳タンパク質画分又は乳タンパク質画分の分解物を配合した皮膚コラーゲン産生促進用化粧料。
【請求項5】
次の(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分を、一日当たり10μg以上経口摂取するか、又は0.001〜2重量%になるよう塗布するによる皮膚コラーゲンの産生促進方法。
(a)乳由来であること。
(b)ソディウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)電気泳動で、分子量6,000から150,000ダルトンの範囲のタンパク質を含有する画分であること。
(c)構成アミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を12から14重量%含有し、かつ、塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が0.5から0.7の範囲であること。
【請求項6】
前記(a)から(c)の特性を有する乳タンパク質画分の分解物を、一日当たり10μg以上経口摂取するか、又は0.001〜2重量%になるよう塗布することによる皮膚コラーゲンの産生促進方法。

【公開番号】特開2012−77018(P2012−77018A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222099(P2010−222099)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】