説明

皮膚外用剤

【課題】アスコルビン酸を安定に配合した、保存安定性に優れ、かつ安全性の高い皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物20重量%以下と、少なくとも1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類とを含有する。好ましくは、1,3−プロパンジオールを20重量%以上含有し、1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類を80重量%以上含有し、アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を5〜15重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アスコルビン酸は水溶性ビタミンであるビタミンCのことである。通常、単にアスコルビン酸と言う場合はL体を指す。アスコルビン酸はメラニン色素の合成を抑制するため、シミ、ソバカスを防ぐ等の美白成分として、有効な化合物である。また、抗酸化作用、メラニン生成抑制作用、コラーゲン産生促進作用等の機能を持つことが知られている。アスコルビン酸の常態は、白色の結晶又は粉末であり、この状態では比較的安定である。しかし、アスコルビン酸は、水に溶解すると非常に不安定となり、光、熱、pHの変動、金属イオンの存在などによって容易に酸化される。
【0003】
上記のように、水に溶解したアスコルビン酸は構造が不安定となり、酸化されやすい性質がある。そのため、外用での効果は薄く、アスコルビン酸をいかにして安定的な物質のまま肌に供給するかが、アスコルビン酸含有皮膚外用剤の課題となっている。また、アスコルビン酸の有機溶媒への溶解性は小さいことが知られており、例えば、アスコルビン酸は室温で約50mlの無水エチルアルコールに1gしか溶解しない。さらに、アスコルビン酸及びその塩は、経時で着色し臭いが発生するなど、経時で変質等を起こし易い性質がある。そのため、美白作用、コラーゲン産生促進作用、或いは抗酸化作用等を高めるために十分な濃度を添加できない、といった問題点があり、優れた薬効の割には汎用性のない薬剤の一つである。ましてや、薬効を期待して多量配合することなど考えられないことであるため、その改善が要望されている。
【0004】
このため、アスコルビン酸を皮膚外用剤に安定に配合するためのいくつかの方法が検討されており、例えば、特許文献1には、15%以下のアスコルビン酸、10〜15%の水、47〜55%のエトキシジグリコール、22〜29%のプロピレングリコール及び香料からなる溶液中にアスコルビン酸が安定に可溶化されることが記載されている(特許文献1)。また、特許文献2には、アスコルビン酸をプロピレングリコールとブチレングリコールからなるグリコールキャリアーとエトキシジグリコール等の安定化剤を含む非水性媒体中にアスコルビン酸が安定に可溶化されることが記載されている。
一方、1,3−プロパンジオールは、保湿剤として皮膚外用剤に広く用いられており、例えば、特許文献3には、1,3−プロパンジオールを配合した皮膚化粧料が記載されている。しかし、アスコルビン酸の可溶化については何ら知見がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−507561号公報
【特許文献2】国際公開00/76547号パンフレット
【特許文献3】特開平5−221821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決するためになされたもので、アスコルビン酸を安定に配合した、保存安定性に優れ、かつ安全性の高い皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アスコルビン酸(その誘導体及びそれらの塩を含む。)を皮膚製剤中に用いる場合に、1,3−プロパンジオールを含有することによって、高濃度のアスコルビン酸を含む溶液が、刺激性が少なく安定な皮膚外用剤となることを見出した。さらに本発明者らは、本発明により使用感に優れた皮膚外用剤が調製できることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて開発されたものである。
すなわち本発明は、
(1)アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物20重量%以下と、少なくとも1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類とを含有する皮膚外用剤である。
(2)1,3−プロパンジオールを20重量%以上含有するものである。
(3)1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類を80重量%以上含有するものである。
(4)アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を5〜15重量%含有するものである。
(5)さらに水を含有するものである。
(6)水の含有量が0.001〜1.0重量%であるものである。
(7)さらに、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ターンオーバー促進成分、老化防止成分及び保湿成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アスコルビン酸(その誘導体及びそれらの塩を含む。)を含有する皮膚外用剤において、安定性が優れ、刺激性の少ない皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、比較的高濃度のアスコルビン酸(その誘導体及びそれらの塩を含む。)と、1,3−プロパンジオールとを含有する、皮膚外用剤である。
【0010】
本発明で用いられるアスコルビン酸は、医薬品、医薬部外品、食品添加物または化粧品分野において皮膚外用剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。これらは通常L体のものを指す。
アスコルビン酸誘導体としては、アスコルビン酸と同様に、医薬品、医薬部外品、食品添加物または化粧品分野において皮膚外用剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。例えば、アスコルビン酸のマンノシル化体、フルクトシル化体、ガラクトシル化体、アスコルビン酸−2−グルコシド、アスコルビン酸−6−グルコシド等のアスコルビン酸の配糖体、3−O−グリセリルアスコルビン酸等のアスコルビン酸のグリセリル化体、DL−α−トコフェロール2−L−アスコルビン酸リン酸ジエステル、3−O−エチルアスコルビン酸等のL−アスコルビン酸の3−O−アルキルエーテル、2−O−エチルアスコルビン酸等のL−アスコルビン酸の2−O−アルキルエーテル、L−アスコルビン酸−2−パルミチン酸等のL−アスコルビン酸脂肪酸エステル、テトラ2−ヘキシルデカン酸L−アスコルビル等のL−アスコルビン酸テトラ分枝脂肪酸エステル等が挙げられる。またこれらアスコルビン酸及びその誘導体の塩類を用いることもできる。塩としては特に限定されるものでないが、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩のほか、アンモニウム塩、アミノ酸塩等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。特に、アルコルビン酸または3−O−グリセリルアスコルビン酸が好ましい。
【0011】
本発明においては、アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩の中から、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明の皮膚外用剤に配合する上記のアスコルビン酸(その誘導体及びそれらの塩を含む。)の割合は皮膚外用剤全体に対して、通常0.001〜20重量%である。かかる範囲において、用いるアスコルビン酸(その誘導体及びそれらの塩を含む。)の各種作用(例えば、美白作用、老化防止作用、抗炎症作用、ニキビ改善作用、コラーゲン等の生体成分合成促進作用、紫外線による細胞障害やDNA損傷抑制作用など)や皮膚への使用感や効果を考慮して適宜選択して用いることができるが、より好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは5〜15重量%の範囲である。
【0012】
本発明の外用剤を構成する1,3−プロパンジオールは、化学式C3H8O2で表される分子量76.09の無色透明で粘ちょう性の液体である。本発明で用いられる1,3−プロパンジオールは、医薬品、医薬部外品または化粧品分野において皮膚外用剤の成分として用いられるものを用いることができる。
本発明における1,3−プロパンジオールの配合量は特に限定的ではないが、保存安定性の効果発現という点から好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらには80重量%以上がより好ましい。配合量の上限は特に限定されない。
【0013】
本発明における1,3−プロパンジオール以外の多価アルコール類としては、分子内に2個以上の水酸基を持つ化合物を指し、医薬品、医薬部外品、食品添加物または化粧品分野において皮膚外用剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンチレングリコール、1,2−ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトールなどを挙げることができ、これらは単独あるいは混合して使用できる。
1,3−プロパンジオールに加えて、上記1,3−プロパンジオール以外の多価アルコール類を含む場合は、これら全体の多価アルコール類の配合量は、保存安定性の効果発現という点から好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらには80重量%以上がより好ましい。配合量の上限は特に限定されない。
【0014】
また、本発明の皮膚外用剤は、水を配合していても着色を抑制することができる。本発明の皮膚外用剤中に配合される水の配合量は、皮膚外用剤全体に対して1重量%以下の範囲であればよいが、本発明の効果を奏すれば特に制限されない。
本発明の皮膚外用剤は、種々の剤形、例えば以下に限定されないが、クリーム、乳液、化粧水等の基礎化粧料、ファンデーション等のメークアップ化粧料、日焼け止め化粧料、洗顔料などの清浄用化粧料などとして調製することができる。本願の皮膚外用剤は美白を目的とした薬用化粧料としても好適に用いられる。本願の皮膚外用剤はまた、しみ、そばかす、黒皮症、肝班等の治療、改善のための、クリーム、ローション、乳液、軟膏等の剤形の外用医薬品としても処方することができる。
かかる化粧料または医薬品は本発明に規定する上記必須成分を配合する以外は常法に従って調製すればよく、必要に応じて通常化粧料や外用医薬品に添加される他の成分、例えば油分、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、増粘剤、無機顔料、有機顔料、無機粉体、有機粉体、香料等を適宜配合することができる。
また、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ターンオーバー促進成分、老化防止成分及び保湿成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものとすることができる。
【実施例1】
【0015】
本発明を実施例及び比較例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に記載する配合量は特に断りの無い限りすべて重量%である。
表に示す実施例及び比較例の組成に従って、常法により美容液を調製し、保存安定性及び安全性、皮膚への塗布容易性、ベタつきの無さの各評価項を評価した。保存安定性及び安全性・皮膚への塗布容易性・ベタつきの無さの各評価方法は次の通りである。
【0016】
(保存安定性試験)
各試料に対して室温、40℃、50℃恒温槽内での保存安定性試験を30日間行い、室温条件での沈殿と、それぞれの温度条件での保存品に対する色、匂いの変化を以下のように評価した。
・(沈殿・分離)
○:沈殿・分離無し。
×:沈殿・分離有り。
・(色)
◎:変化なし。
○:ごくわずかに変色。
△:やや変色。
×:強く変色。
・(匂い)
◎:変化なし。
○:ごくわずかに変臭。
△:やや変臭。
×:強い変臭。
【0017】
(安全性試験)
専門パネラー(3名)が各試料を顔面に塗布したときの刺激感を以下のように評価した。2人以上が評価した刺激感を各試料の刺激感とした。なお、それぞれのパネラーが全て異なった評価の場合は、「△」の刺激感とした。
・(刺激感)
○:なし
△:僅かに感じる
×:強く感じる
【0018】
塗布時の使用性(a):(皮膚への塗布容易性)
実施例及び比較例記載の各試料について、使用時の「皮膚への塗布の容易さ」についてパネラー20人で評価を行った。各パネラーが使用する各試料の量は0.2〜1.0 g とした。
◎ : 20人中16人以上が「皮膚への塗布が容易」と回答した。
○ : 20人中10〜15人が「皮膚への塗布が容易」と回答した。
△ : 20人中6〜9人が「皮膚への塗布が容易」と回答した。
× : 20人中5人以下が「皮膚への塗布が容易」と回答した。
【0019】
塗布時の使用性評価(b):(ベタつきの無さ)
実施例及び比較例記載の各試料について、使用時の「ベタつきの無さ」についてパネラー20人で評価を行った。各パネラーが使用する各試料の量は0.2〜1 .0g とした。
◎ : 20人中16人以上が「ベタつきを感じない」と回答した。
○ : 20人中10〜15 人が「ベタつきを感じない」と回答した。
△ : 20人中6〜9人が「ベタつきを感じない」と回答した。
× : 20人中5人以下が「ベタつきを感じない」と回答した。
【0020】
・(総合評価)
各評価をもとに、総合評価を次のように4段階で評価した。
◎:全評価項目で○以上
○:上記以外で沈殿・分離と刺激感が○以上で、色と匂いが○以上
△:刺激感が△以上で、塗布のしやすさとベタつきのなさ以外に×の無いもの
×:上記以外
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
・実施例について(表1の説明)
表1に示すように、実施例1と比較例1〜10では、L-アスコルビン酸の量を固定して多価アルコール類および水の配合を変化させた。実施例1の美容液のみが良好な結果が得られた。このことから、1,3−プロパンジオールは、他の多価アルコール類よりも、安定性や使用性に優れていることが確認できた。
・実施例について(表2の説明)
表2に示すように、実施例1〜9では、いずれも保存安定性に優れており、なおかつ刺激性の少ないものであった。また皮膚に塗布したときの官能特性にも優れていた。
・実施例について(表3の説明)
表3ではL-アスコルビン酸と1,3−プロパンジオール以外の成分を含んだ場合の実施例10〜11と[特許文献1]と対応した比較例11〜12、[特許文献2]と対応した比較例13〜14である。いずれもアスコルビン酸の溶解性には特に問題は見られなかったが、比較例11〜12では含まれる水に起因すると考えられる顕著な着色が、比較例13〜14ではプロピレングリコールに起因すると考えられる刺激感が確認できた。一方、実施例10〜11は比較例12〜14と比較して良好な保存安定性と刺激性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物20重量%以下と、少なくとも1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類とを含有する皮膚外用剤。
【請求項2】
1,3−プロパンジオールを20重量%以上含有する、請求項1に記載皮膚外用剤。
【請求項3】
1,3−プロパンジオールを含む多価アルコール類を80重量%以上含有する、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
アスコルビン酸、その誘導体及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を5〜15重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
さらに水を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
水の含有量が0.001〜1.0重量%である請求項5に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
さらに、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ターンオーバー促進成分、老化防止成分及び保湿成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2013−95691(P2013−95691A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239143(P2011−239143)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(300018150)株式会社ミリオナ化粧品 (4)
【Fターム(参考)】