説明

真珠光沢顔料、その製造方法、塗料組成物および塗膜組成物

【課題】全体的に均一な光輝性と、上品なシルキー感を併せ持ち、求められる意匠性を十分に満たす真珠光沢顔料を提供すること。
【解決手段】水熱法で生成した薄片状基質と、その表面に形成された少なくとも1種の金属酸化物からなる被覆層とからなり、上記金属酸化物の粒子径が1〜500nmの範囲にあることを特徴とする真珠光沢顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の薄片状基質(以下単に「基質」と云う場合がある)表面を金属酸化物により被覆してなる真珠光沢顔料、製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠光沢顔料としては、雲母フレークなどの基質表面を、二酸化チタンなどの屈折率の大きな金属酸化物により被覆してなるものが知られている。近年では基質として雲母フレークの欠点である平滑性、耐熱性、透明性を改良した薄片状アルミナフレークを基質として用いた真珠光沢顔料(特許文献1)が提案されている。しかしながら、上記特許文献に記載の方法において、基質として水熱法で生成した板状アルミナを使用すると、該アルミナに対する金属酸化物粒子の付着性が著しく劣り、金属酸化物が凝集して大きな凝集粒子となり、満足する光輝性を有する顔料が得られない。また、板状アルミナに金属酸化物粒子が付着したとしても、基質を被覆している金属酸化物の粒子が大きく、全体的に粒子感のない均一な光輝性や、滑らかで上品な光輝性であるシルキーな真珠光沢が得られ難く、各種用途で求められる意匠性を十分に満たすことができなかった。
【特許文献1】特開平9−255891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように従来の真珠光沢顔料は、通常の基質を用いて金属酸化物による被覆を行うと、平均粒子径が大きく反射面積が広い大きな基質粒子によって、不連続な強い光輝性はあるものの、全体として真珠光沢が不均一で滑らかさに欠けている。これに対し、平均粒子径の小さな基質を用いると上記の粒子感は減少するが、滑らかで上品な光輝性シルキー感を有する真珠光沢は引き出せなかった。
従って本発明の目的は、上記従来技術の状況に鑑み、全体的に均一な光輝性で上品なシルキー感を併せ持ち、求められる意匠性を十分に満たす真珠光沢を有する真珠光沢顔料を提供することである。
【0004】
また、本発明の別の目的は、単独塗装方法、2コート1ベーク塗装方法、3コート2ベーク塗装方法、さらには積層した少なくとも1種の任意のコート層間またはコート層上に、少なくとも1層の真珠光沢コート層を形成する塗装方法において、特徴のある光輝性を有する塗膜を形成することができる塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
すなわち、本発明は、水熱法で生成した基質と、その表面に形成された少なくとも1種の金属酸化物からなる被覆層とからなり、上記金属酸化物の粒子径が1〜500nmの範囲にあることを特徴とする真珠光沢顔料を提供する。
【0006】
上記本発明の真珠光沢顔料においては、金属酸化物被覆層が2種類以上の金属酸化物の混合層および/または積層であること;基質の平均粒子径が0.1〜50μmであること;基質のアスペクト比(粒子径/厚み)が5〜500であること;基質が平均粒子径の統計的変異係数が20〜90であること;および真珠光沢顔料の平均粒子径の統計的変異係数が20〜90であることが好ましい。
【0007】
また、本発明は、水熱法で生成しかつ表面が活性化された基質を水中に分散させ、該分散液中で金属塩を加水分解し、生成した金属水酸化物または金属酸化物を上記基質表面に沈着させた後、該沈着物を熱処理して基質表面に粒子径が1〜500nmの範囲の金属酸化物被覆層を形成することを特徴とする真珠光沢顔料の製造方法を提供する。上記表面活性化はプラズマ処理、超音波処理、酸処理、アルカリ処理、衝撃処理および化学エッチング処理から選ばれる少なくとも1種の方法で行うことが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを含有することを特徴とする塗料組成物を提供する。該塗料組成物は、真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを液媒体中に含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の塗料組成物からなるベースコート層と、該ベースコート層上に形成されたクリヤコート層とからなる塗膜組成物を提供する。
上記塗膜組成物においては、光度計における反射光強度の統計的分散値が5以下であること;および変角光度計において、仰角0°以上での45°受光強度と0°受光強度の比(45°/0°)が100以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、基体表面上に形成された任意の着色ベースコート層と、該ベースコート層上に形成された前記本発明の塗料組成物からなる第二ベースコート層と、該第二ベースコート層上に形成されたクリヤコート層とからなる塗膜組成物;および基体表面上に形成された少なくとも1種の任意のコート層と、該コート層間または該コート層上に形成された前記本発明の塗料組成物からなる少なくとも1層からなる塗膜組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、前記本発明の目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、水熱法で得られた基質の表面を表面活性化した後、粒子径が1〜500nmの範囲の少なくとも1種の金属酸化物により被覆した真珠光沢顔料および該顔料を用いた着色物の色観は、粒子感がなく、滑らかで上品な光輝性のシルキーな色調となる意匠性を持つことを見出した。また、上記真珠光沢顔料を含有する塗料組成物を用いて基体上に前記各種の塗膜を形成すると、該塗膜は良好な意匠性が充分に発揮されることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明における水熱法とは、高温高圧の溶媒中でアルミナなどの基質の結晶を成長させる方法である。その結晶成長条件は基質を構成している物質の化学構造、使用溶媒、温度、圧力などにより固有であり、基質に要求される平均粒子径やアスペクト比などに応じて任意の基質を合成できる。水熱法により生成した基質の化学的および物理的な性質は、水熱法以外では得ることができない特異的なものである。
【0013】
水熱法で得られる基質としては、アルミナ、ベーマイト、酸化鉄、水酸アパタイト、ジルコニア、チタン酸塩、酸化チタン、酸化水酸化コバルト、ケイ酸カルシウムなどがあるが、粒子の均一性、平滑性、耐熱性、透明性などを持ち、求められる意匠性を得られるものなら、どの基質を使用してもよいが、上記条件をバランス良く満たすアルミナが好ましい。このような好ましい薄片状アルミナ基質それ自体は公知であり、例えば、商品名:YFA−02050(平均粒子径2.0μm、アスペクト比50)、YFA−07070(平均粒子径7.0μm、アスペクト比70)、YFA−05070(平均粒子径5.0μm、アスペクト比70)、YFA−10030(平均粒子径10.0μm、アスペクト比27)などとして、例えば、キンセイマテック社から入手して本発明で使用することができる。
【0014】
上記基質の平均粒子径は0.1〜50μm、好ましくは0.3〜30μm、さらには0.5〜20μmであることがより好ましい。平均粒子径が50μmを超えると得られる真珠光沢顔料の反射光が強く、シルキーな色調を損なうなどの点で好ましくない。一方、平均粒子径が0.1μm未満であると散乱光が強く、得られる真珠光沢顔料がシルキーな色調を損なうなどの点で好ましくない。また、基質のアスペクト比は5〜500、好ましくは7〜300、さらには10〜200がより好ましい。基質のアスペクト比が5未満では、配向性に乏しく、得られる真珠光沢顔料において干渉光(真珠光沢)が得にくいなどの点で好ましくなく、一方、基質のアスペクト比が500を超えると、サーキュレーション、攪拌、分散時など、取り扱い中に基質が割れやすいなどの点で好ましくない。
【0015】
また、上記基質の粒子径分布は、統計的変異係数(CV値)が20〜90であり、好ましくは25〜80、さらに好ましくは30〜70である。上記CV値は粒度分布において標準偏差と平均粒子径との百分率を示し、粒度分布の散らばり度合いを示している。なお、粒子径分布はBEKMAN COULTER社製 Multisizer3 COULTER COUNTERを使用して測定し、併せて統計的変異係数を算出した。
【0016】
上記基質のCV値が20以上であると、散乱光を生ずる小粒子径粒子とやや強めの反射光を生ずる粒子のバランスが良好で、得られる真珠光沢顔料においてシルキーな色調を得ることができる。これに対し基質のCV値が20未満となると、基質の粒度分布は極めてシャープであるが、散乱光を生ずる小粒子径の基質粒子とやや強めの反射光を生ずる大粒子径の基質粒子がともに減少し、散乱光と反射光のバランスを欠き、得られる真珠光沢顔料においてシルキーな色調を失ってしまう。また、基質のCV値が90を超えると、散乱光と反射光のバランスを欠き、得られる真珠光沢顔料において同様にシルキーな色調を損なうなどの点で好ましくない。
【0017】
本発明の真珠光沢顔料は、上記基質の表面を活性化した後、該表面を少なくとも1種の金属酸化物によって被膜することで得られる。本発明の真珠光沢顔料においては、上記の金属酸化物の粒子径は1〜500nmであることが必要であり、好ましくは3〜300nmであり、より好ましくは5〜200nmである。基質を被覆している金属酸化物の粒子径が1〜500nmでは金属酸化物の結晶性が高く、本来金属酸化物が持つ屈折率が十分に発現する。また、真珠光沢顔料の被覆最上面は滑らかで十分な反射光が得られ、結果として満足できる干渉色が生じ、粒子感がなく、かつ滑らかで上品な光輝性であるシルキー感がより高く、求められる意匠性を十分に満たすことができる。
【0018】
なお、上記の粒子径は、加水分解後または焼結後の金属酸化物粒子または金属酸化物粒子の凝集体の粒子径を指す。金属酸化物の粒子径は、FE-SEM S-4800(日立製)の画像写真より任意の粒子50個を選択し、その平均値から算出した。
【0019】
上記金属酸化物の粒子径が500nmを超えると、金属酸化物層の表面の凸凹が著しく大きくなり、真珠光沢顔料において、反射光が大幅に減少するため十分な干渉色が生じない。また、金属酸化物の粒子径が1nm未満では、金属酸化物の結晶性が著しく低下し、本来金属酸化物が持つ屈折率を得ず、結果として真珠光沢顔料において十分な干渉色が生じない。故に金属酸化物による被覆厚を限定しても、被覆層を形成している金属酸化物の粒子径を制御しなければ、十分な干渉色を得ることができない。
【0020】
上記金属酸化物の被覆によってシルバー調の色彩、さらには被覆量を増すことによって干渉色の色彩を帯びる真珠光沢顔料が得られる。また、この基質表面を有色系の金属酸化物、例えば、酸化鉄を被覆することによって赤味または黒色系の真珠光沢顔料を得ることもできる。また、上記真珠光沢顔料表面に、後述の着色顔料の微粒子を吸着させることにより、さらに彩度の高い真珠光沢顔料とすることができる。
【0021】
さらに本発明の真珠光沢顔料は、上述の基質表面を2種類以上の金属酸化物の混合物で被覆するか、または2種類以上の金属酸化物層により段階的に積層して被覆することにより得ることができる。これらの混合物被覆または積層被覆により、1種類だけの金属酸化物では得ることができない物性、例えば、耐光性、耐水性などの向上を図ることができる。特に2種類以上の金属酸化物を順次積層し、その階層を増すことによって、より光輝性の高い真珠光沢顔料が得ることができる。
さらに本発明の真珠光沢顔料は、その粒子径分布の統計的変異係数(CV値)が20〜90であることが好ましい。その理由は前記基質の場合と同じである。
【0022】
次に本発明の真珠光沢顔料の製造方法を説明する。本発明の真珠光沢顔料は、前記基質表面に1〜500nmの粒子径を持つ金属酸化物により被覆することで得られる。
【0023】
一般的な真珠光沢顔料は、基質に付着した加水分解後または焼結後の金属酸化物の粒子径と、該粒子の凝集性を制御し、基質表面上に金属酸化物粒子を配列させることが必要である。ところが前記特許文献1に記載の方法では、金属酸化物の粒子径、凝集制御、配列制御が事実上不可能であり、十分な干渉光を有する真珠光沢顔料が得られない。その理由は、水熱法により生成した基質は、表面の平滑性に極めて優れるため、その表面に対する金属酸化物の吸着能が低く、金属酸化物同士の凝集が進行し易いということである。その結果、金属酸化物は巨大な凝集物として存在し、基質表面への吸着性が低い。吸着された場合でも、金属酸化物からなる被覆厚が不均一でかつ被覆最上面が凸凹となるため、反射光が大幅に減少し、十分な干渉色が生じない。
【0024】
よって水熱法により生成した基質を公知の技術により金属酸化物で被覆し、その被覆厚を限定しても基質表面の吸着能を向上させなければ、被覆層を形成している金属酸化物の粒子径とその凝集性を制御できず、十分な干渉色を有する真珠光沢顔料は得られない。
【0025】
本発明では、水熱法により生成した基質の表面を予め活性化させることで、金属酸化物粒子を基質表面に微細粒子でかつ均一に吸着させることができることを見いだした。上記表面活性化は、例えば、熱プラズマ処理、低温プラズマ処理、などのプラズマ処理、超音波処理、酸処理、アルカリ処理、メディア分散処理、高圧衝撃処理、サンドブラスト処理などの衝撃処理、オゾン処理、電気化学処理などの化学エッチング処理などがあり、これらを単独または2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0026】
プラズマ処理に用いられる処理ガスとしては、窒素、アンモニア、窒素・水素混合ガス、酸素、オゾン、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素などの酸素含有ガス、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノンなどの稀ガス、フッ素、塩素、ヨウ素などのハロゲンガス、酸素含有ガスに対して1/2以下の体積比で、四弗化炭素、六弗化炭素、六弗化プロピレンなどの弗化炭素ガスが混合された混合ガスなどの単独または2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0027】
上記プラズマの発生手段としては、例えば、直流電流をガスに印加してプラズマ分解する方法、高周波電圧をガスに印加してプラズマ分解する方法、電子サイクロトロン共鳴によってガスをプラズマ分解する方法および熱フィラメントによってガスを熱分解する方法などが挙げられる。
【0028】
上記プラズマ処理時の処理ガス圧は、低くなると高価な真空チャンバーや真空排気装置が必要となるので1×10-4〜100Torrが好ましい。実際の処理ガス圧は、上記圧力範囲内で励起手段によって適宜決定されるが、装置が簡便で比較的処理ガス圧の高い状態でもプラズマ発生可能な直流電流又は高周波電流の印加できる1×10-2〜100Torrがより好ましい。
【0029】
上記プラズマ処理に要する投入電力は、電極面積や形状によって異なるが、低くなるとプラズマ密度が小さくなるために処理に時間がかかり、高くなると処理の不均一を招くので、20〜200Wが好ましい。
【0030】
上記プラズマ処理に使用される電極構造が、平行平板型、同軸円筒型、曲面対向平板型又は双曲面対向平行型の場合、容量結合方式で電圧は印加される。また、高周波電圧印加の場合は外部電極を用いて誘導形式で印加可能である。上記電極の距離は、処理圧力、基質によって適宜決定されるが、長くなるとプラズマ密度が低下して高電力が必要となるため、プラズマ処理が可能でできるだけ短くする方がよい。
【0031】
上記プラズマ処理の時間は投入電力によって決定されるが、短くなると基質の活性化度が十分ではなく、余り長くしても基質の活性化度の著しい向上は期待できないので、一般的には1〜60分間が好ましい。また、プラズマ処理時の温度は必ずしも加熱したり冷却する必要はない。
【0032】
上記プラズマ処理は、薄片状基質全面にわたって均一に行われる必要があり、そのため薄片状基質を回転させながらプラズマ処理を行うことが好ましい。このような攪拌方法としては、薄片状基質を容器に封印して容器ごと回転させる方法、振動により混合する方法などが挙げられ、薄片状基質の粒子径や処理量などによって適宜決定される。
【0033】
超音波処理に用いる超音波発振器は、発振周波数が50Hz〜100KHzの範囲で、かつ出力が20〜1000Wの範囲のものであればよい。発振周波数が50Hzより小さくなると、薄片状基質へ当たる超音波のエネルギー分布の表面均一性が著しく低下するので活性化不良となる。一方、発振周波数が100KHzよりも大きくなると、全体のエネルギー密度が著しく低下するので、同様に基質の活性化不良となる。また、上記範囲内であっても、使用する槽構造や槽材質または分散媒の種類によっては、キャビテーションを発生することがある。この場合は、発振周波数を高くするか出力を低くするかして、キャビテーションが発生しない状態にするのが望ましい。
【0034】
本発明において、超音波振動は連続で与えても間欠で与えてもよいが、前述の周波数50Hz〜100KHzの範囲で、かつ出力20〜1000Wの範囲で適切な条件に調整して与えられることが好ましい。
【0035】
酸処理に用いられる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、りん酸、炭酸などの無機酸;酢酸、クエン酸、安息香酸などの有機酸、アクリル酸、ロジンなどの樹脂酸の単独または2種類以上の組み合わせが挙げられ、アルカリ処理で用いられるアルカリとしては、苛性ソーダ、苛性カリなどのアルカリ塩、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類塩、アンモニア、炭酸ソーダ、アニリン、フェノールなどの弱塩基などの単独または2種類以上の組み合わせが挙げられる。
【0036】
酸処理またはアルカリ処理における、酸またはアルカリの溶液濃度は0.1〜99質量%、温度は5〜95℃の範囲ならばよいが、効率的な処理温度としては15〜70℃がより好ましい。処理時間は濃度や温度によって適宜決定されるが、5分間〜6時間の範囲が好ましい。酸またはアルカリ処理は同処理を2回以上繰り返しても、交互に1回以上の処理を繰り返してもよい。また、酸処理またはアルカリ処理はpH調整を行うため、pH緩衝材を使用してもよく、さらには助剤として界面活性剤や有機溶剤などを併用してもよい。
【0037】
衝撃処理は、基質を物理的に活性化する手法であり、具体的な方法としては、振とう・衝突により、基質表面を部分的に削るもの、回転により研磨するものなどがある。これらを満たす処理法として、ホモジナイザー、ディゾルバー、サンドミル、高速攪拌機、ペイントコンディショナーなどの分散衝撃処理、高圧ホモジナイザーなどの高圧衝撃処理、サンドブラスト処理、ジェットミル処理などが挙げられる。
【0038】
衝撃処理における液媒体中に対する基質濃度は1〜200質量%、好ましくは5〜150質量%である。1質量%未満であると衝撃効率が悪く、一方、200質量%を超えると増粘し、衝撃処理が困難となる。衝撃処理時にメディアを必要とする衝撃処理にはガラスビーズ、スチールボール、ジルコニアビーズなどが使用でき、メディアの基質に対する質量割合は0〜1,000質量%、好ましくは0〜500質量%である。なお、基質同士の衝突で十分に基質表面の活性化がなされる場合には、特にメディアは使用しなくてもよい。
【0039】
また、衝撃処理は、pH緩衝材を使用してもよく、さらには助剤として界面活性剤や有機溶剤などを併用してもよい。衝撃処理の時間は基質濃度やメディアの種類・量によって決定されるが、短くなると基質の活性化度が十分ではなく、余り長くしても基質の活性化度の著しい向上は期待できないので、一般的には1〜60分間が好ましい。なお、上記物理的活性化処理において、基質の衝撃強度を強めると、基質の表面活性化をするに留まらず、基質が破壊される場合があるので、この場合は粒度分布およびCV値の大幅な変化に注意が必要である。
【0040】
その他、オゾン処理、UV処理、電気化学処理などの化学エッチング処理も従来公知の方法を広く使用することができる。
【0041】
本発明の真珠光沢顔料は、上記表面処理された基質を公知の方法、例えば、上記基質を分散させた水中において、チタン、ジルコニウム、錫、鉄などの金属塩を熱加水分解する方法、あるいはアルカリを用いて中和加水分解による方法などにより、上記金属の水和酸化物を1〜500nmの粒子径で基質に吸着させ、その後焼成する方法によって得られる。また、この焼成工程を還元雰囲気で行うことにより、金属酸化物は低次酸化チタンや低次酸化鉄となり、黒色を帯びた真珠光沢顔料を得ることができる。さらに、金属酸化物を使用する以外に、公知の方法にて他の意匠性も併せて付与することもできる。
【0042】
真珠光沢(干渉色)を得るために必要な水溶性金属塩の金属原子量は、薄片状基質1m2当たり2.0×10-5molから2.0×10-1mol、より好ましくは4.0×10-5molから1.0×10-1molである。金属原子量が2.0×10-5mol未満では薄片状基質を被覆することができず、干渉光が生じない。一方、金属原子量が1.0×10-1molを超えると薄片状基質を被覆することはできても、焼成後の被覆層にクラックが生じやすく、結果として干渉光強度が低下する点で不都合である。
【0043】
次に本発明の塗料組成物について説明する。本発明の塗料組成物は前記本発明の真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを含有し、真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを液媒体中に含有することが好ましい。ここで使用される被膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルメラミン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびアミノ樹脂など、従来公知の塗料の分野で使用されている被膜形成性樹脂が挙げられるが、本発明で用いられる被膜形成性樹脂は前記した樹脂に限定されるものではない。
【0044】
また、上記の真珠光沢顔料および被膜形成性樹脂を溶解または分散させる溶剤としては、従来塗料用として広く知られているものが使用される。具体的には、例えば、水、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、メチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、ブタノール、シクロヘキサンなどが挙げられ、これらの溶剤は混合溶剤として使用してもよい。
【0045】
本発明の塗料組成物において本発明の真珠光沢顔料は、前記被膜形成性樹脂100質量部に対して0.005〜50質量部の割合で使用され、好ましくは0.1〜30質量部である。真珠光沢顔料の使用量が0.005質量部未満では本発明の目的とする塗料組成物を得ることができない。また、真珠光沢顔料の使用量が50質量部を超える場合には、本発明の目的とする塗料組成物は得られるが、塗膜の物性が低下するので好ましくない。
【0046】
なお、本発明において上記真珠光沢顔料は単独で使用してもよいし、他の顔料と併用してもよい。併用してもよい着色顔料としては、通常の塗料などに使用されている顔料を使用することができ、具体的には、例えば、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アンスラキノン顔料、DPP顔料、金属錯体顔料、透明酸化鉄顔料、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。また、金属粉末顔料としては、アルミニウム粉末、銅粉末、ステンレス粉末などが挙げられるが、これらの中でもアルミニウム粉末が最も一般的に使用される。また、特殊な金属顔料として金属コロイドなども使用することができる。本発明で併用されるマイカ顔料としては、従来公知のものを広く併用することができ、例えば、透明パールマイカ、着色マイカなどを挙げることができる。さらに、光干渉系顔料としては、干渉マイカ、干渉アルミナ、干渉シリカ(干渉ガラス)などが挙げられる。本発明の塗料組成物には、その他、充填剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを必要に応じて配合することができる。
【0047】
本発明の塗料組成物が、本発明の真珠光沢顔料と他の顔料とを含む場合には、上記本発明の真珠光沢顔料を含むベース塗料と上記他の顔料を含むベース塗料とを作製しておき、これらの2種のベース塗料を任意に混合して塗料とすることができ、また、最初から真珠光沢顔料と他の顔料とを混合して塗料化してもよい。
【0048】
かくして得られた塗料組成物を、必要に応じて下地処理が施された金属板、ガラス、セラミック、プラスチック板などの基体上にスプレー塗装、静電塗装、フローコーティング、ロールコーティングなどにより塗装し、乾燥および架橋硬化して着色コート層を形成する。
【0049】
上記本発明の塗料組成物を基体に塗布して形成された塗膜は、従来の酸化チタンコーティング真珠光沢顔料に比べ、粒子感のない滑らかで上品なシルキー感の色調を有する。上記性質を有するため、単独塗装方法、2コート1ベーク塗装方法、3コート2ベーク塗装方法、さらには積層した少なくとも1種の任意のコート層間またはコート層上に、少なくとも1層の本発明の真珠光沢顔料を含む塗料組成物によりコート層を形成する塗装方法において、従来の塗料組成物から得られる塗膜にはない、優れた特徴のある光輝性を有する塗膜を形成することができる。
【0050】
また、前記の着色コート層をベースコート層とし、その上に前記した被膜形成性樹脂と相溶性が低い樹脂を有機溶剤に溶解または分散せしめて調製したクリヤコート剤を塗装し、乾燥後に加熱処理して塗膜を形成することもできる。本発明の塗料組成物を基体に塗布して形成される塗膜は、粒子感が無く、滑らかで上品であるシルキーな光輝性を有する。すなわち、本発明の真珠光沢顔料は粒子が均一なため、大きな粒子による部分的な強い光輝感が無く、連続的で均一な光輝性を持つ。さらに反射光と散乱光のバランスが良く、滑らかで上品なシルキー感を発揮している。
【0051】
部分的な強い光輝感は、塗膜中に入射した光が真珠光沢顔料によって不連続に鏡面反射するために生ずる。連続する塗膜面の正反射光強度を測定し、反射強度の散らばりの度合い、つまり散布度を統計的に計算して、その分散値を比較することにより、部分的な強い光輝感と均一な光輝感との差を定量化することができる。光度計は連続した塗膜面の正反射光強度を測定できるものなら特に限定はしないが、装置におけるX軸方向に試料面が移動しながら反射強度を測定できる光度計が好ましい。具体的な1例を挙げると、村上色彩研究所製の三次元変角光度計GP−200などが上述の測定条件を満たす。
【0052】
本発明の塗料組成物からなる塗膜は、定量化した分散値が5以下の場合、視感において、均一で粒子感のない滑らかな光輝性を得るが、5より大きい場合、視感においてギラギラとした粒子感のある光輝性となり、均一で粒子感のない滑らかな光輝性を得ることができない。
【0053】
塗膜中に入射した光は、正反射光と散乱光に分かれ塗膜の外に反射する。この正反射光と散乱光のバランスによって、視感として滑らかで上品であるシルキーな色調が得られる。正反射以外の光は、あらゆる方向に散乱し、立体的な散乱光として存在している。正反射光と、これら立体的な散乱光を三次元的に捕らえることにより、人間が見ている状態に近い感覚を再現することができる。これら上述の反射光は装置に示す光度計で測定できる。光度計は任意の仰角で、受光角を変えながら反射強度を測定できるものなら特に限定はしないが、連続的に反射光を測定できる、三次元変角光度計が好ましい。具体的な1例を挙げると、村上色彩研究所製の三次元変角光度計GP−200などが上述の測定条件を満たす。
【0054】
塗膜のシルキー感は、任意の仰角における反射光と散乱光の強度を、三次元変角光度計を用いて測定し、正反射光の近傍である45°受光角の反射強度と代表的な散乱光である0°受光角での反射強度を測定し、45°と0°の強度比(45°/0°)により定量化できる。本発明の塗料組成物からなる塗膜は、受光角45°と受光角0°の反射強度比(45°/0°)が100以下の場合、視感において、滑らかで上品であるシルキーな光輝感を得るが、受光角45°と受光角0°の反射強度比(45°/0°)が100より大きい場合、視感においてシルキーな光輝感は得ることができない。
【0055】
本発明の真珠光沢顔料は、粒子が小さく、アスペクト比が大きく、塗膜中の含有量が多い場合でも配向して表面の平滑性を失わない。また、水熱法により生成した化学的に均一な板状粒子を用いた真珠光沢顔料であるため、光学特性も特異的であり、反射光と拡散光のバランスに優れ、粒子感のない滑らかで上品なシルキー感の光輝性を発現し、仕上りの優れた塗膜が得られる。これに対し、一般の真珠光沢顔料を使用した塗色においては、平均粒子径を小さくした場合、板状粒子が不均一でアスペクト比が小さいため、微細な顔料が塗膜中で配向せず、光輝性が著しく低下したり、クリヤ仕上げの平滑性を損なう欠点がある。また、光学特性では反射光と散乱光のバランスが悪く、上品なシルキー感は得られない。
【0056】
本発明の真珠光沢顔料は、そのままセラミック用、プラスチック用、インク用、トナー用、インクジェットインク用、化粧料用の顔料として極めて優れているものである。また、それらの用途により、耐水性、耐候性、耐薬品性、耐変色性、高分散性などの処理が適宜施され、それぞれの用途に使用される。
【実施例】
【0057】
次に実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
〔真珠光沢顔料の製造例〕
(実施例1)
水熱法により生成された板状アルミナ(水熱生成アルミナ)であるYFA−02050(商品名)(キンセイマテック社製、平均粒子径2.0μm、アスペクト比50、CV値45)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、フラスコ内を0.05Torrまで減圧した後、酸素雰囲気下、0.11Torrで投入電力40Wとして粉体プラズマ処理装置(サムコインターナショナル社製「PT−500」)により13.56MHzの高周波電圧を印加して、室温で5分間プラズマ処理を行った。
【0058】
別の内容量1リットルのフラスコに硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に加え攪拌溶解させる。この溶液に、上記プラズマ処理を行った板状アルミナを20g加え攪拌分散する。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液28gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。その後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに700℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン被覆板状アルミナ(実施例1)を得た。
【0059】
(実施例2)
水熱生成アルミナであるYFA−07070(商品名)(キンセイマテック社製、平均粒子径7.0μm、アスペクト比70、CV値44)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、300mlの脱塩水を加え攪拌分散させる。投入電力180W、周波数20KHzとして超音波処理装置(トミー工業社製「UD−200」)により室温で15分間超音波処理を行った。その後硫酸ナトリウム(無水)20gを加え攪拌溶解させる。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液20gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。次いで不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに700℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン被覆板状アルミナ(実施例2)を得た。
【0060】
(実施例3)
水熱生成アルミナであるYFA−05070(商品名)(キンセイマテック社製、平均粒子径5.0μm、アスペクト比70、CV値37)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、300mlの脱塩水を加え攪拌分散させる。これに35%塩酸20gを注入し、室温で15分間酸処理を行った。
【0061】
次に硫酸ナトリウム(無水)40gを投入し攪拌溶解させる。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液30g、50%の塩化第二スズ溶液1.9gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。さらに不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに800℃にて30分間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン酸化スズ混合被覆板状アルミナ(実施例3)を得た。
【0062】
(実施例4)
水熱生成アルミナであるYFA−02050(商品名)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、300mlの脱塩水を加え攪拌分散させる。これに苛性ソーダ10gを注入し、室温で15分間アルカリ処理を行った。次に35%塩酸を用いてpH2に調整し、硫酸ナトリウム(無水)40gを加え攪拌溶解させる。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液28g、50%の塩化第二スズ溶液1.0gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。
【0063】
次に不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに800℃にて30分間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン酸化スズ混合被覆板状アルミナ(実施例4)を得た。
【0064】
(実施例5)
水熱生成アルミナであるYFA−07070(商品名)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、300mlの脱塩水を加え攪拌分散させる。投入電力180W、周波数20KHzとして超音波処理装置(トミー工業社製「UD−200」)により室温で15分間超音波処理を行った。この後硝酸20gを注入し、室温で15分間酸処理を行った。
【0065】
この分散液に50%の塩化第二スズ溶液1.0gを注入攪拌し、水酸化ナトリウム溶液にてpH6.0に調整する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化スズ被覆板状アルミナを得た。硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に溶解し、これに解砕した上記酸化スズ被覆板状アルミナを投入し分散する。チタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液20gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに800℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化スズ酸化チタン積層被覆板状アルミナ(実施例5)を得た。
【0066】
(実施例6)
水熱生成アルミナであるYFA−07070(商品名)20gを内容量250mlのポリビンに入れ、100mlの脱塩水と2mmのガラスビーズ100gを加えペイントコンディショナーで30分間衝撃処理を行った。その後分散液を200mlの脱塩水に加え攪拌する。上記分散液に50%の塩化第二スズ溶液1.0gを注入攪拌し、水酸化ナトリウム溶液にてpH6.0に調整する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化スズ被覆板状アルミナを得た。
【0067】
硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に溶解し、これに解砕した上記酸化スズ被覆板状アルミナを投入し分散する。チタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液20gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに800℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化スズ酸化チタン積層被覆板状アルミナ(実施例6)を得た。
【0068】
(実施例7、実施例8)
水熱生成アルミナであるYFA−10030(商品名)(キンセイマテック社製、平均粒子径10.0μm、アスペクト比27、CV値50)20gを内容量1リットルのフラスコに入れ、フラスコ内を0.05Torrまで減圧した後、水蒸気雰囲気下、0.11Torrで投入電力40Wとして粉体プラズマ処理装置(サムコインターナショナル社製「PT−500」)により13.56MHzの高周波電圧を印加して、室温で5分間プラズマ処理を行った。別の内容量1リットルのフラスコに硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に加え攪拌溶解させる。この溶液に、プラズマ処理を行った板状アルミナを20g加え攪拌分散する。
【0069】
これとは別に300mlの脱塩水にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液50gを溶解した溶液Aを用意した。板状アルミナ分散液を塩酸でpHを2.0に調整し、加温して80℃にした後、溶液Aを定量ポンプにて一定の速度で基質がシルバー干渉色を得るまで4時間かけて注入する。この間、10%水酸化ナトリウム溶液を添加して、分散液中のpHを2.0に維持し、分散液中の温度も80℃に維持した。
【0070】
溶液Aを基質がシルバー干渉色を得るまで注入した後、加温して1時間還流した。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに700℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン被覆板状アルミナ(実施例7)を得た。水熱生成アルミナをYFA−07070(商品名)に変更した以外は、実施例7と同様に処理をして、酸化チタン被覆板状アルミナ(実施例8)を得た。
【0071】
(比較例1)
硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に加え攪拌溶解させる。この溶液に、水熱生成品ではない板状アルミナA(平均粒子径55μm、アスペクト比30、CV値95)を20g加え攪拌分散する。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液30gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに700℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン被覆板状アルミナ(比較例1)を得た。
【0072】
(比較例2)
硫酸ナトリウム(無水)20gを300mlの脱塩水に加え攪拌溶解させる。この溶液に、水熱生成品ではない板状アルミナB(平均粒子径10μm、アスペクト比4.0、CV値60)を20g加え攪拌分散する。この分散液にチタン濃度が16.5%の塩化チタン溶液30gを注入攪拌し、加温して4時間還流する。この後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥し、さらに700℃にて1時間熱処理した。得られた処理物に水を加えて攪拌しながら遊離の塩を溶解させた後、不溶性の固体を濾過分離し、水洗し、乾燥させて酸化チタン被覆板状アルミナ(比較例2)を得た。
【0073】
(比較例3)
プラズマ処理をしない板状アルミナ(YFA−02050)を使用した以外は実施例1と同様にして酸化チタン被覆板状アルミナ(比較例3)を得た。
(比較例4)
超音波処理をしない板状アルミナ(YFA−07070)を使用した以外は実施例2と同様にして酸化チタン被覆板状アルミナ(比較例4)を得た。
【0074】
(比較例5)
酸処理をしない板状アルミナ(YFA−05070)を使用した以外は実施例3と同様にして酸化チタン酸化スズ混合被覆板状アルミナ(比較例5)を得た。
【0075】
(比較例6)
アルカリ処理をしない板状アルミナ(YFA−02050)を使用した以外は実施例4と同様にして酸化チタン酸化スズ混合被覆板状アルミナ(比較例6)を得た。
(比較例7)
雲母に酸化チタンを被覆した市場品イリオジン225WII(商品名)(メルク・ジャパン社製)を比較例7とする。
【0076】
実施例1〜8および比較例1〜6で使用した基質の平均粒子径(μm)、アスペクト比およびCV値、および実施例1〜8および比較例1〜7で得られた真珠光沢顔料の金属酸化物の粒子径(nm)およびCV値を求め、表1に纏めた。平均粒子径およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡ERA-8000(ELIONIX社製)での画像写真から任意の粒子50個を選択し、その平均値から算出した。また、CV値はBEKMAN COULTER社製 Multisizer3 COULTER COUNTERを使用して測定し、統計的変異係数を算出した値である。金属酸化物の粒子径はFE-SEM S-4800(日立製)の画像写真より任意の粒子50個を選択し、その平均値から算出した。
【0077】

【0078】
〔自動車用塗料の製造例〕
この例は本発明の真珠光沢顔料を塗料組成物として使用する場合の、製造および評価の一例を示すものである。評価での配合例を表2に纏めた。
【0079】

【0080】
上記配合A〜Hの各々をサンドミルで簡易分散処理を行い、さらに配合A〜Hのそれぞれを各50部と配合Pの50部とを均一に混合し、塗料組成物A〜H(表3)(塗料組成物100部当たり真珠光沢顔料8.55部を含む)を得た。(これらを実施例塗料A〜Hとする。)
【0081】
上記配合I〜Oの各々をサンドミルで簡易分散処理を行い、さらに配合I〜Oのそれぞれを各50部と配合Pの50部とを均一に混合し、塗料組成物I〜O(表3)(塗料組成物100部当たり真珠光沢顔料8.55部を含む)を得た。(これらを比較例塗料I〜Oとする。)
【0082】
上記実施例1〜8で得られた実施例塗料A〜Hおよび比較例1〜7で得られた比較例塗料I〜Oの各々を黒色展色紙にNo.6のバーコーターにて塗装を行った。30分間室温にて乾燥後、120℃、30分間焼き付け硬化させて塗装サンプルを作成した。
【0083】
これらの塗装サンプルについて、光輝性の均一性を目視および三次元変角光度計(村上色彩研究所製、GP−200)を用い、反射光測定、A光源、入射角45°、受光角45°、受光スリット0.4mm平方、試料面X軸40mm移動測定、データサンプリング0.1mm間隔の条件にて測定し、受光強度の統計的な分散値を計算した。測定装置を図1に、測定により得られたグラフの1例を図2に、測定結果を表3に示す。
【0084】
さらに粒子感のない滑らかな状態を目視および三次元変角光度計(村上色彩研究所製、GP−200)を用い、反射光測定、A光源、入射角45°、受光角45°と0°、仰角2.5°の条件にて測定し、反射強度比(45°/0°)を計算した。測定装置を図1に、測定により得られたグラフの1例を図3に、測定結果を表3に示す。
【0085】

【0086】
実施例塗料は比較例塗料より、光輝性のバラツキを示す分散値が低く全体的に均一な光輝性がある。かつ実施例塗料は比較例塗料より、受光角45°と0°での反射強度比が低く正反射光と散乱光のバランスがとれた滑らかなシルキー感を併せ持つ。
【0087】
さらに本発明の真珠光沢顔料を含有する化粧料、プラスチック、セラミック、インク、トナー、インクジェットインク組成物においても、全体的に均一な光輝性と粒子感のない滑らかで上品な光輝性であるシルキー感を併せ持ち、求められる意匠性を十分に満たすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の真珠光沢顔料は、全体的に均一な光輝性と、粒子感のない滑らかで上品な光輝性であるシルキー感の色調を有することによって、これらの色調を求める分野、例えば、セラミック、樹脂、塗料、建材、インク、トナー、インクジェットインク、化粧料などの分野の他、意匠性を求める分野に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】測定装置を示す図である。
【図2】X軸移動距離に対する反射強度変化の測定グラフである。
【図3】三次元変角光度変化(仰角2.5°)の測定グラフである。
【符号の説明】
【0090】
1:光源
2:サンプル
3:受光器
4:X軸
5:Y軸
6:Z軸
7:入射角
8:受光角
9:仰角
10:比較例塗料O
11:実施例塗料C
12:実施例塗料A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱法で生成した薄片状基質と、その表面に形成された少なくとも1種の金属酸化物からなる被覆層とからなり、上記金属酸化物の粒子径が1〜500nmの範囲にあることを特徴とする真珠光沢顔料。
【請求項2】
金属酸化物被覆層が、2種類以上の金属酸化物の混合層および/または積層である請求項1に記載の真珠光沢顔料。
【請求項3】
薄片状基質の平均粒子径が、0.1〜50μmである請求項1に記載の真珠光沢顔料。
【請求項4】
薄片状基質のアスペクト比(粒子径/厚み)が、5〜500である請求項1に記載の真珠光沢顔料。
【請求項5】
薄片状基質が、平均粒子径の統計的変異係数が20〜90である請求項1に記載の真珠光沢顔料。
【請求項6】
平均粒子径の統計的変異係数が、20〜90である請求項1に記載の真珠光沢顔料。
【請求項7】
水熱法で生成しかつ表面が活性化された薄片状基質を水中に分散させ、該分散液中で金属塩を加水分解し、生成した金属水酸化物または金属酸化物を上記基質表面に沈着させた後、該沈着物を熱処理して基質表面に粒子径が1〜500nmの範囲の金属酸化物被覆層を形成することを特徴とする真珠光沢顔料の製造方法。
【請求項8】
表面活性化を、プラズマ処理、超音波処理、酸処理、アルカリ処理、衝撃処理および化学エッチング処理から選ばれる少なくとも1種の方法で行う請求項7に記載の真珠光沢顔料の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを含有することを特徴とする塗料組成物。
【請求項10】
真珠光沢顔料と被膜形成性樹脂とを液媒体中に含有する請求項9に記載の塗料組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の塗料組成物からなるベースコート層と、該ベースコート層上に形成されたクリヤコート層とからなることを特徴とする塗膜組成物。
【請求項12】
光度計における反射光強度の統計的分散値が、5以下である請求項11に記載の塗膜組成物。
【請求項13】
変角光度計において、仰角0°以上での45°受光強度と0°受光強度の比(45°/0°)が、100以下である請求項11に記載の塗膜組成物。
【請求項14】
基体表面上に形成された任意の着色ベースコート層と、該ベースコート層上に形成された請求項9に記載の塗料組成物からなる第二ベースコート層と、該第二ベースコート層上に形成されたクリヤコート層とからなることを特徴とする塗膜組成物。
【請求項15】
基体表面上に形成された少なくとも1種の任意のコート層と、該コート層間または該コート層上に形成された請求項9に記載の塗料組成物からなる少なくとも1層からなることを特徴とする塗膜組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−126643(P2007−126643A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269169(P2006−269169)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】