説明

真空アーク蒸着装置

【課題】 真空チャンバ内のメンテナンスが容易で、電磁コイル等の磁気コイルの劣化が小さく、ランニングコストが安い装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 プラズマ輸送室2を広くすることを可能にするため、誘導磁場発生部8の少なくとも一部を真空チャンバ1内に取り込むとともに、該誘導磁場発生部8を構成する磁気コイル7をプラズマ輸送室2内に設けた大気空間部6a内に配置するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、機械部品、工具、金型等の基材の摩擦係数低減や耐摩耗性を向上するために、基材表面に薄膜を蒸着して形成する真空アーク蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空アーク蒸着法は、陽極と陰極の間にアーク放電を生じさせ、陰極材料を蒸発させて基材に蒸着するという薄膜形成方法であり、生産性に優れているという特徴をもつ。
【0003】
しかし、陰極材料から、直径が数μm〜数百μmにもなる大きな塊りの粗大粒子(これはドロップレットとも呼ばれる。)が飛散し、この粗大粒子が基材に付着して被膜特性が劣化することが知られている。
【0004】
この粗大粒子による被膜特性の劣化を防止するため、磁気コイル等の磁石により、陰極と基体との間で偏向磁場を発生させ、粗大粒子を除いたプラズマ流だけを偏向磁場に沿って基体方向に輸送して、基体への粗大粒子の付着を防止する蒸着装置が磁気フィルター法として、例えば、特開2001−3160号公報などで提案されている。
【0005】
しかし、上記の装置では完全に粗大粒子が基体に混入することを防ぐことは難しく、そこで粗大粒子は陰極から直進する性質をもつことから、陰極の対面に粗大粒子補集部を設けて、基体を収納するプロセス室(成膜室)への侵入を抑え、基材への粗大粒子混入をさらに抑えた装置が特開2002−8893号公報で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−3160号公報
【特許文献2】特開2002−8893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の従来の装置では、磁場を発生させる電磁コイル等はプラズマ輸送室の真空容器外部に設置されており、このため電磁コイル等の作用を有効に働かすためにはプラズマ輸送室を狭くする必要があり、そのためメンテナンス性が悪く、逆にメンテナンス性を考慮してプラズマ輸送部を広くすると大きな電磁コイル等が必要になりコスト高になる。
【0008】
また電磁コイル等を真空室内に設置すると、プラズマなどが電磁コイル等に直接照射されて、電磁コイル等の劣化や破損が頻繁に生ずる、などの問題がある。
【0009】
そこで、本発明は上記問題に鑑み、真空チャンバ内のメンテナンスが容易で、電磁コイル等の磁気コイルの劣化が小さく、ランニングコストが安い装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
プラズマ輸送室を広くすることを可能にするため、誘導磁場発生部の少なくとも一部を真空チャンバ内に取り込むとともに、該誘導磁場発生部を構成する磁気コイルをプラズマ輸送室内に設けた大気空間部内に配設するようにした。
【0011】
すなわち、本発明は、真空チャンバ内に、アーク放電による蒸発源部と、該蒸発源部から発生したプラズマを輸送するプラズマ輸送室と、該プラズマによって薄膜を被覆する基体を収納する成膜室と、該蒸発源部から発生したプラズマを成膜室へ屈曲輸送するように前記プラズマ輸送室に設けられた磁気コイルからなる誘導磁場発生部と、を備えた真空アーク蒸着装置であって、前記誘導磁場発生部を構成する磁気コイルの少なくとも一部が真空チャンバ内のプラズマ輸送室に設けられた大気空間部内に配設されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
誘導磁場発生部を構成する磁気コイルのすべて、あるいは少なくとも一部を真空チャンバのプラズマ輸送室内に設けるので、プラズマ輸送室を広くすることができ、従ってメンテナンスが容易にできる。また前記磁気コイルはプラズマの当たらない大気空間部内に配置するので、プラズマの影響を受けることがなく、従って劣化しないという効果を奏する。
【0013】
さらに、誘導磁場発生部の磁気コイルを収める大気空間部内を二重配管として冷却水を通すと、磁気コイルの熱による劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】は本発明の一実施形態を示す平面概略図である。
【図2】は図1のX―X’方向の断面概略図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る真空アーク蒸着装置の一実施形態を示す平面概略図である。この真空アーク蒸着装置は、図示しない真空排気装置によって真空排気される真空チャンバ1が隔壁4によってプラズマ輸送室2と成膜室3に分けられており、成膜室3の中には成膜しようとする基体9が図示しないホルダに保持されている。
【0016】
そして、この真空チャンバ1は電気的に接地されている。基体9にはホルダを介して、例えば直流の負のバイアス電圧が印加される。
また、成膜室3には必要に応じてアルゴン等の不活性ガス、窒素等の反応性ガスが導入される。
【0017】
プラズマ輸送室2の一端には真空アーク放電による蒸発源部5を設けており、この蒸発源部5は陰極(カソード)を有し、陰極とこの例では陽極を兼ねるプラズマ輸送室2との間の真空アーク放電によって、陰極を局部的に溶解させて陰極物質を蒸発させ、陰極物質のプラズマ10と粗大粒子11が生成される。なお、蒸発源部5前方に陽極となる電極を配置してもよい。その場合は陰極とこの陽極との間で真空アーク放電が生ずる。
【0018】
蒸発源部5の陰極は成膜しようとする所望の材料(例えば純金属、合金、カーボン等)からなる。より具体的には、例えばTi、Cr、Mo、W、Al等の純金属、TiAl等の合金、グラファイト(カーボン)からなる。
【0019】
プラズマ輸送室2内には前記プラズマ10を誘導磁場によって、図で示すように成膜室3の基体8近傍に屈曲輸送するように、磁気コイル7が複数個配設された誘導磁場発生部8を有している。この実施形態では磁気コイルは3個であり、すべて真空チャンバ1内のプラズマ輸送室2に配置している。この磁気コイル7は図示しない直流の電源によって励磁される電磁コイルである。この磁気コイル7が励磁されることによって磁場が形成され、プラズマが屈曲輸送されるのである。
【0020】
磁気コイル7は図1のX−X’方向断面概略図である図2に示すように、プラズマ輸送室2内に縦断して設けられ、上下の真空チャンバ上壁21及び下壁22に取り付けられた大気空間部6aを形成するパイプ6b内および真空チャンバ1の外側を通し巻回して配設される。これにより、磁気コイル7はプラズマに曝されることがなく、したがって、磁気コイル7の劣化を防ぐことができるのである。
【0021】
また、プラズマ輸送室2の蒸発源部5に対向する壁面及び側壁面には羽根状の部材で構成されたバッフル12が設けられており、陰極から発生し直進する性質をもつ粗大粒子11を捕獲し、成膜室3に飛散しないようにしている。
【0022】
図3は本発明に係る真空アーク蒸着装置の他の実施形態を示す平面概略図である。この実施形態では複数の磁気コイル7の一部で、しかも磁気コイル7の一部を前記説明したように、プラズマ輸送室2内に縦断して設けた大気空間部6aを形成するパイプ6b内を通し、さらに真空チャンバ1外を通して巻回して配設する例である。
【0023】
本実施形態では3個の磁気コイル7のから構成される磁気コイル7のうち、1個の磁気コイルの一部分はプラズマ輸送室2内を通る前記パイプ6bの大気空間部6aを通して設け、その他の部分は真空チャンバ外に設けている。残りの磁気コイル7はすべて真空チャンバ外に配設している。
【0024】
なお、この実施形態ではプラズマ輸送室2と成膜室3とはプラズマガイド部13によって連接している。
【0025】
なお、以上の実施形態では、磁気コイル7は磁気コイルを直流電流で励磁する電磁コイルとしたが、これに限らず、永久磁石等で構成してもよい。また、磁気コイル7を3個としたがこれに限らず、それ以下又はそれ以上の数の磁気コイルを設けても良いことは勿論のことである。
【0026】
また、実施形態では真空チャンバ1を縦断するパイプ6bを一つの配管としたが、直径の異なるパイプで二重配管としてその隙間部に冷却水を流して大気空間部6aを冷却するようにした方が磁気コイルの熱による損傷を防ぐことが出来るので望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
自動車部品、機械部品、工具、金型等の基体の摩擦係数低減や耐摩耗性を向上するために、基体表面に薄膜を蒸着して形成する蒸着装置として利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 真空チャンバ
2 プラズマ輸送室
3 成膜室
4 隔壁
5 蒸発源部
6a 大気空間部
6b パイプ
7 磁気コイル
8 誘導磁場発生部
9 基体
10 プラズマ
11 粗大粒子
12 バッフル
13 プラズマガイド
21 真空チャンバ上壁
22 真空チャンバ下壁























【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に、アーク放電による蒸発源部と、該蒸発源部から発生したプラズマを輸送するプラズマ輸送室と、該プラズマによって薄膜を被覆する基体を収納する成膜室と、該蒸発源部から発生したプラズマを成膜室へ屈曲輸送するように前記プラズマ輸送室に設けられた磁気コイルからなる誘導磁場発生部と、を備えた真空アーク蒸着装置であって、前記誘導磁場発生部を構成する少なくとも一部の前記磁気コイルが前記プラズマ輸送室に設けられた大気空間部に配設されていることを特徴とする真空アーク蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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