説明

真空成形用加飾フィルム、加飾成形品、およびその製造方法

【課題】加飾成形品を真空成形法により製造する際に、真空成形加工性に優れ、また加飾成形品としての耐候性に優れる真空成形用加飾フィルムの提供。
【解決手段】本発明の真空成形用加飾フィルムは、 基材層と、装飾層と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を含んでなる樹脂層と、粘着性樹脂層とをこの順に有してなる。このような真空成形用加飾フィルムは、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、展延性、折曲性、および形状追従性等の真空成形加工性に優れ、また加飾成形品としての耐久性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成形用加飾フィルム、加飾成形品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用電化製品、自動車内装品、および雑貨品等の様々な分野において、被着体である成形体の表面に、白、黒、およびカラーインキにより文字や絵柄を加飾することにより、高い機能性や意匠性を発現させてきた。特に、三次元曲面などの複雑な表面形状を有する成形体の加飾には、真空成形法や射出成形法が用いられてきた。
【0003】
上記の真空成形法とは、加飾フィルムを加熱軟化しつつ展張し、加飾フィルムの被着体側の空間を減圧し、必要に応じ反対側の空間を加圧することにより、加飾フィルムを被着体の表面の三次元立体形状に沿って成形しつつ貼着積層する方法である。
【0004】
真空成形に用いられる加飾フィルムの基材層として、従来は、塩化ビニル樹脂シートが多用されてきたが、最近では、それに替わってポリオレフィン系樹脂シート等の非塩ビ系の樹脂シートが使用されるようになってきた。しかし、基材層としてポリオレフィン系樹脂を用いると、真空成形法で加飾フィルムをラミネートする場合に、加飾フィルムの立体形状追従性が不十分となったり、熱成形加工の適正条件幅に制限を受けたり、あるいは、加飾フィルムが延ばされる部分でネッキングが発生して局所的に不均一な伸びが発生したりする等の真空成形加工性が十分でないという問題を生じていた。このような問題を解決するために、加飾フィルムの基材層として非晶質ポリエステル樹脂を用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、三次元立体形状を有する成形体の加飾フィルムは、家電筐体やノートPC等の用途に使用されるため、接着強度以外に、耐候性や耐久性が要求される。加飾フィルムは成形物へのラミネート後、表面から基材層/装飾層/粘着性樹脂層/被粘接着体(成形体)という構造になる。そのため、最表面層の基材層には透明性の高い樹脂層を設ける必要があった。
【0006】
したがって、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、真空成形加工性に優れ、また加飾成形品としての耐候性に優れる真空成形用加飾フィルムの開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−67242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記の背景技術を検討した結果、基材層として、透明度と成形性に優れたアクリル系樹脂フィルムを用いた場合、アクリル系樹脂は延伸に対する応力が大きいため、耐候試験により基材層が収縮する傾向があることを知見した。そこで、基材層として、収縮傾向の少ない樹脂フィルムを用いると、トリミング性が悪く、延伸時に樹脂フィルムの切断が生じることがあった。また、粘着性樹脂層の厚みを薄化させると、接着力が低下し、充分な接着力を得ることが難しくなる。
【0009】
本発明は、上記の背景技術および新たに知見したこれらの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、真空成形加工性および被着体への接着性に優れた加飾フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、真空成形用加飾フィルムの装飾層と粘着性樹脂層との間に、基材層よりも延伸に対する応力が低く、残留応力も小さい特定の樹脂層を設けることにより、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一態様によれば、
基材層と、
装飾層と、
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を含んでなる樹脂層と、
粘着性樹脂層と
をこの順に有してなる、真空成形用加飾フィルムが提供される。
【0012】
本発明の態様においては、上記の基材層が、アクリル系樹脂を含んでなることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、上記の粘着性樹脂層が、粘接着剤を含んでなる粘接着層であるか、あるいは粘着剤を含んでなる粘着層であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、上記の粘接着層が、脂肪族ポリアミドと、ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはアクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂と、異なる2種以上の硬化剤とを含有し、該異なる2種以上の硬化剤のうち少なくとも2種が、エポキシ樹脂を硬化させる化合物および活性水素と反応しうる官能基を有する化合物からなる粘接着剤を含んでなることが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、上記のエポキシ樹脂を硬化させる化合物が、カチオン重合開始剤であることが好ましい。
【0016】
本発明の態様においては、上記の粘着層が、アクリル系粘着剤を含んでなることが好ましい。
【0017】
本発明の態様においては、上記の粘着性樹脂層上に、剥離層をさらに有してなることが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様によれば、
成形体と、該成形体上に、上記の真空成形用加飾フィルムによって加飾された装飾層とを有してなる、加飾成形品が提供される。
【0019】
また、本発明の別の態様によれば、
上記の真空成形用加飾フィルムを用いて、成形体に装飾層を加飾する工程を含んでなる、加飾成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の真空成形用加飾フィルムは、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、展延性、折曲性、および形状追従性等の真空成形加工性に優れ、また加飾成形品としての耐候性に優れる。また、本発明の加飾成形体は、このような真空成形用加飾フィルムを用いることで、高い機能性や意匠性を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による真空成形用加飾フィルムの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明による真空成形用加飾フィルムの他の例を示す模式断面図である。
【図3】本発明による加飾成形品の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
真空成形用加飾フィルム
本発明の真空成形用加飾フィルムは、基材層と、装飾層と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を含んでなる樹脂層(以下、「ABS樹脂層」という)と、粘着性樹脂層とをこの順に有してなるものであり、さらに粘着性樹脂層上に剥離層を有してもよい。以下、本発明の真空成形用加飾フィルムの構成を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の一態様によれば、基材層と、装飾層と、ABS樹脂層と、粘着性樹脂層とをこの順に有してなる加飾フィルムが提供される。具体的に、図1に、本発明による真空成形用加飾フィルムの一例の模式断面図を示す。図1に示される加飾フィルム10は、基材層11上に装飾層12が形成されてなり、装飾層12上にABS樹脂層13が形成されてなり、ABS樹脂層13上に粘着性樹脂層14が形成されてなるものである。
【0024】
本発明の他の態様によれば、基材層と、装飾層と、ABS樹脂層13と、粘着性樹脂層と、剥離層とをこの順に有してなる加飾フィルムが提供される。具体的に、図2に、本発明による真空成形用加飾フィルムの他の例の模式断面図を示す。図2に示される加飾フィルム20は、基材層21上に装飾層22が形成されてなり、装飾層22上にABS樹脂層23が形成されてなり、ABS樹脂層23上に粘着性樹脂層24が形成されてなり、粘着性樹脂層24上に剥離層25が形成されてなるものである。以下、真空成形用加飾フィルムを構成する各層について説明する。
【0025】
基材層
本発明における基材層は、通常、熱可塑性樹脂からなる樹脂層であり、アクリル系樹脂からなることが好ましい。アクリル系樹脂を用いて基材層を形成することで、加飾成形品を真空成形法により製造する際に要求される、展延性、折曲性、および形状追従性等の真空成形加工性に優れたものにできる。
【0026】
アクリル系樹脂からなる基材層は、電離放射線硬化性官能基を有するポリマーを用いて形成することができる。電離放射線硬化性とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋・重合させうるエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線等の照射により励起して、重合反応を生じることにより架橋・硬化する性能のことである。また、電離放射線硬化性官能基とは、上記電離放射線硬化性を発現しうる官能基のことであり、本発明においては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、およびアリル基等のエチレン性不飽和結合を有する官能基およびエポキシ基である。
【0027】
電離放射線硬化性官能基を有するポリマーとしては、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、およびエポキシ(メタ)アクリレート等のモノマーが重合したものおよびこれらのモノマーが共重合したもの、ポリエステル(メタ)アクリレート、ならびにポリエーテル(メタ)アクリレート等のポリマーを挙げることができる。本発明においては、これらのポリマーを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明における基材層は、加飾フィルムが成形体へと加飾された後は加飾成形品の最外層に位置し、加飾成形品の保護層としての機能を果たすものである。アクリル系樹脂により基材層を形成することで、耐摩耗性、耐薬品性、および耐候性等の耐久性に優れたものにできる。
【0029】
本発明における基材層は、無色透明であってもよいし、着色透明であってもよい。基材層を着色するには、下記の装飾層で述べる様な公知の着色剤を樹脂中に添加すればよい。
【0030】
通常、基材層の厚さは、好ましくは25μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。基材層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、加工成形性、形状追従性、および取扱い性が良好となる。
【0031】
装飾層
本発明における装飾層は、加飾フィルムの意匠性を付与するために設けられる層であり、模様、文字、およびパターン状の絵柄等を表現する柄層である。柄としては、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、ストライプ状やグラデーションの絵柄等が挙げられる。
【0032】
柄層は、通常は、印刷インキでグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、およびインキジェット印刷等公知の印刷法により形成することができる。柄層の厚さは、柄の形態に応じて適宜調節することができる。
【0033】
柄層の形成に用いられるインキのバインダーとしては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン樹脂等を、1種または2種以上を混合して用いることができる。上記インキは、上記の各種樹脂よりなるバインダーに加えて、顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。
【0034】
上記インキに用いる着色剤としては、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルーチタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(あるいは染料も含む)、アルミニウム、真鍮、等の金属粉末からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、蛍光顔料等を、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
なお、柄層は、金属薄膜層等でもよい。金属薄膜層の形成は、アルミニウム、クロム、金、銀、銅等の金属を用い、真空蒸着、スパッタリング等の方法で製膜する。あるいはこれらの組み合わせでもよい。該金属薄膜層は、全面に設けても、あるいは、部分的にパターン状に設けてもよい。
【0036】
装飾層は、柄層上に、隠蔽層をさらに設けたものでもよい。隠蔽層は、加飾フィルムを加飾成形品にラミネートした後の地肌(成形体やABS樹脂層)の模様や着色を隠蔽等の目的で設けられるものである。このため、成形体にラミネート後の層構成は、(表面側)基材層/装飾層(柄層/遮蔽層)/ABS樹脂層/粘着性樹脂層(成形体側)となるのがよい。遮蔽層は、通常、模様のない全面ベタ状または一部ベタ状の着色層として形成される。なお、柄層やABS樹脂層がベタ層の作用(遮蔽効果)を兼ねる場合もあり、この場合には、遮蔽層を形成しなくてもよい。遮蔽層は、上記の柄層と同様の着色顔料を含有するインキを用いて形成することができる。
【0037】
また、本発明においては、加飾フィルムにエンボス加工を施してもよい。真空成形時の温度を低く抑えることができるため、品質の安定したエンボス加工を保持することができる。
【0038】
通常、装飾層の厚さは、好ましくは5〜40μm、より好ましくは5〜30μmである。装飾層の厚さが、上記範囲内であると、グラデーション等の複雑な意匠を表現するために十分な厚さを確保できる。
【0039】
ABS樹脂層
本発明におけるABS樹脂層は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を含んでなる樹脂層である。本発明においては、成形性に優れ、基材層よりも延伸に対する応力が低く、残留応力も小さいABS樹脂を用いることで、加飾フィルムを成形体にラミネートした後の加飾フィルムの収縮を抑えることができる。そのため、加飾成形品としての耐候性を向上できる。
【0040】
ABS樹脂にはスチレン−アクリロニトリル共重合体と、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とのポリマーブレンド型と、ポリブタジエンゴム(BR)あるいはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)の共存下にスチレンとアクリルニトリルをグラフト共重合させて得られるグラフト型との2種類があるが、本発明においてはいずれも用いることができる。なお、本発明では、ABS樹脂と言った場合にはいずれも含むものである。
【0041】
ABS樹脂において、ブタジエンは、ゴムの性質をもっていて伸びやすいため、ブタジエンの含有比率は、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜45重量%である。
【0042】
通常、ABS樹脂層の厚さは、好ましくは25μm〜500μm、より好ましくは50μm〜400μmである。ABS樹脂層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、加工成形性、形状追従性、および取扱い性が良好となる。
【0043】
粘着性樹脂層
本発明における粘着性樹脂層は、装飾層を成形体に接着させるための層である。本発明においては、粘着性樹脂層は、粘接着剤を含んでなる粘接着層であるか、あるいは粘着剤を含んでなる粘着層であることが好ましい。
【0044】
粘接着層
本発明において、粘接着層は粘接着剤を含んでなるものである。粘接着剤については、下記で詳述する。粘接着剤は硬化前には適度な粘弾性を有するので、弱い圧力で被着体に圧着させることができ、かつ、高温下で長時間反応させることなく高い凝集力を示すことができる。そのため、粘接着剤を用いて粘接着層を形成することで、加飾成形品を真空成形法により製造する際に高い接着力を発揮でき、接着強度に優れる加飾フィルムを得ることができる。
【0045】
粘接着剤
本発明において、粘接着剤は、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪族ポリアミドと、ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/ またはNBR変性エポキシ樹脂と、異なる2種以上の硬化剤とを含有し、該異なる2種以上の硬化剤のうち少なくとも2種が、エポキシ樹脂を硬化させる化合物および活性水素と反応しうる官能基を有する化合物からなるものを用いることが好ましい。このような粘接着剤によれば、硬化前には適度な粘弾性を有するので、弱い圧力で被着体に圧着させることができ、かつ、硬化の際には高温下で長時間反応させることなく高い凝集力を示すので、特に、真空形成法における真空加工適性を向上させることができる。以下、粘接着剤に含まれる各成分について、具体的に説明する。
【0046】
脂肪族ポリアミド
本発明における粘接着剤は、熱可塑性樹脂である脂肪族ポリアミドを含有する。本発明における粘接着層は脂肪族ポリアミドを含有するので、被着体に弱い圧力で圧着させることができる。脂肪族ポリアミドとしては、例えば、脂肪族ナイロンおよびその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプロアミド(ナイロン−6)、ポリアミノウンデカン酸(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンジアミノアジピン酸(ナイロン−66)、ポリヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−610)、ポリヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−612)、カプロラクタムノラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタムノアミノウンデカン酸共重合体、(ナイロン−6/11)、カプロラクタムノヘキサメチレンジアミノアジピン醸共重合体(ナイロン−6/66)、カプロラクタムノヘキサメチレンジアミノアジピン酸ノアミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタムノヘキサメチレンジアミノアジピン酸ノラウリルラクタム(ナイロン−6/66/12)、カプロラクタムノヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ヘキサメチレンジアミノセバシン酸(ナイロン−6/66/610)、カプロラクタムノヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ ヘキサメチレンジアミノドデカン二酸(ナイロン−6/66/612)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
上記の脂肪族ポリアミドとしては、例えば、質量平均分子量が1000〜200,000の範囲内のものが好適であり、形成される粘接着層の接着力および耐久性等を向上させるためには、上記の範囲内において高分子量のものを用いることが好ましい。脂肪族ポリアミドの質量平均分子量が1000以上であれば、硬化後の粘接着剤の凝集力が十分であり、耐久性を保つことができる。また、200,000以下であれば、十分な初期粘着力を保持することができる。なお、上記質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際のポリスチレン換算の値である。
【0048】
上記の脂肪族ポリアミドの市販品としては、例えば、TPAE−826−4S、TAPE−826−5A(以上、富士化成工業(株)製)、ニューマイド515−ME、ニューマイド945、ニューマイド947(以上、ハリマ化成(株)製)等が好ましく用いられる。
【0049】
本発明において、粘接着剤中の脂肪族ポリアミドの含有量(固形分換算)は、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは20〜25質量%である。粘接着剤中の脂肪族ポリアミドの含有量が20質量%以上であれば、硬化前の粘接着剤が十分な凝集力を有することができる。脂肪族ポリアミドの含有量が80質量%以下であれば、粘接着剤が十分な初期粘着力を有することができる。
【0050】
上記の粘接着剤は、ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはNBR変性エポキシ樹脂を含有する。
【0051】
ダイマー酸変性エポキシ樹脂
本発明においてダイマー酸変性エポキシ樹脂とは、ダイマー酸で変性したエポキシ樹脂をいう。ダイマー酸変性エポキシ樹脂によれば、粘接着剤の硬化物の可撓性および被着体との密着性を向上させることができる。本発明における粘接着剤では、ダイマー酸変性エポキシ樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノール型、エーテルエステル型、ノボラックエポキシ型、エステル型、脂肪族型、芳香族型等のエポキシ樹脂をダイマー酸で変性した公知のダイマー酸変性エポキシ樹脂を用いることができる。本発明における粘接着剤では、短時間での硬化を実現するために、反応性が高く、かつ、エポキシ当量が低いダイマー酸変性エポキシ樹脂を用いることが好ましい。例えば、エポキシ当量は、100〜800g/eq.の範囲内であることが好ましい。上記のエポキシ当量は、JIS K 7236に準拠した方法により測定した1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。また、ダイマー酸変性エポキシ樹脂の質量平均分子量は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは300〜2000の範囲内である。そして、形成される粘接着層の接着力、耐久性等を向上させるためには、上記の範囲内において高分子量のものを用いることがより好ましい。
【0052】
上記のダイマー酸変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、jER871、jER872(以上、三菱化学(株))、YD−172(新日鐵化学(株)製)等が好ましく用いられる。
【0053】
上記の粘接着剤がダイマー酸変性エポキシ樹脂を含有する場合には、粘接着剤中のダイマー酸変性エポキシ樹脂の含有量(固形分換算)は、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。ダイマー酸変性エポキシ樹脂の含有量が5質量%以上であれば、十分な密着性を有する粘接着層を得ることができる。また、ダイマー酸変性エポキシ樹脂の含有量が60質量%以下であれば、粘接着剤が十分な凝集力を有し、硬化後の粘接着層と被着体(成形体)との間の接着性を向上することができる。
【0054】
NBR変性エポキシ樹脂
本発明においてNBR変性エポキシ樹脂とは、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴム(「NBR」という)で変性したエポキシ樹脂またはNBRをエポキシ樹脂由来のグリシジル基(エポキシ基)で変性したものをいう。NBR変性エポキシ樹脂によれば、粘接着剤の硬化物の可撓性、耐熱性、および被着体との密着性を向上させることができる。また、ゴム相が硬化したエポキシ樹脂中では相溶性を示さないので、耐熱性を維持した状態で、可撓性および被着体に対する接着性の付与が可能となる。上記の粘接着剤では、NBR変性エポキシ樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノール型、ノボラックエポキシ型、エーテルエステル型、エステル型、脂肪族型、および芳香族型等のエポキシ樹脂をNBRで変性した公知のNBR変性エポキシ樹脂を用いることができる。本発明においては、コスト、粘着物性、および反応性のバランスの観点からビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。なお、耐熱性の観点では、ノボラックエポキシ型および芳香族型のエポキシ樹脂を用いることが好ましく、可撓性の観点では、エーテルエステル型、エステル型、および脂肪族型のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
上記の粘接着剤では、短時間での硬化を実現するために、反応性が高く、かつ、エポキシ当量が低いNBR変性エポキシ樹脂を用いることが好ましい。例えば、エポキシ当量は、100〜800g/eq.の範囲内であることが好ましい。上記のエポキシ当量は、JIS K 7236に準拠した方法により測定した1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。また、NBR変性エポキシ樹脂の質量平均分子量は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは300〜2000の範囲内である。そして、形成される粘接着層の接着性および耐久性等を向上させるためには、上記の範囲内において高分子量のものを用いることがより好ましい。
【0056】
上記のNBR変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、EPR−4030、EPR−4033(以上、ADEKA(株)製)、およびEPB−13(日本曹達(株)製)等が好ましく用いられる。
【0057】
上記の粘接着剤がNBR変性エポキシ樹脂を含有する場合には、粘接着剤中のNBR変性エポキシ樹脂の含有量(固形分換算)は、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。NBR変性エポキシ樹脂の含有量が2質量%以上であれば、被着体に対する十分な密着力を得ることができる。また、NBR変性エポキシ樹脂の含有量が30質量%以下であれば、粘接着剤が十分な凝集力を有し、硬化後の粘接着層と被着体(成形体)との間の接着性を向上することができる。
【0058】
硬化剤
上記の粘接着剤は、異なる2種以上の硬化剤を含有し、該異なる2種以上の硬化剤のうち少なくとも2種が、エポキシ樹脂を硬化させる化合物および活性水素と反応しうる官能基を有する化合物である。上記の粘接着剤では、上記のダイマー酸変性エポキシ樹脂および上記のNBR変性エポキシ樹脂を硬化させるために、少なくともエポキシ樹脂を硬化させる化合物および活性水素と反応しうる官能基を有する化合物を含有する。
【0059】
エポキシ樹脂を硬化させる化合物としては、特に限定されるものでなく、例えば、イミダゾール、ポリアミン(脂肪族、芳香族等)、アミドイミド、およびジシアンジアミド等の熱硬化剤やカチオン重合開始剤等が好ましく用いられ、その中でも、反応温度の制御が容易である点において、カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。また、配合時に活性水素と反応しうる官能基を有する硬化剤と反応する可能性が低い点においても、カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。
【0060】
本発明においてカチオン重合開始剤とは、光照射および/または加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出するものをいう。カチオン重合開始剤としては、例えば、スルホン酸エステル、イミドスルホネート、ジアルキル−4−ヒドロキシスルホニウム塩、アリールスルホン酸−p−ニトロベンジルエステル、シラノール−アルミニウム錯体、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、トリアジン化合物、および鉄アレーン錯体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
上記のエポキシ樹脂を硬化させる化合物としては、従来公知のものを使用することができる。上記のカチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L(以上、三新化学(株)製)、CI−2064(日本曹達(株)製)、イルガキュア261(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)、アデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−170(以上、ADEKA(株)製)等が好ましく用いられる。上記の熱硬化剤の市販品としては、例えば、アミキュアMY−24、アミキュアPN−23(以上、味の素ファインテクノ(株)製)、アデカハードナーEH−4338S、アデカハードナーEH−4070S(以上、ADEKA(株)製)、ノバキュアHX−3722、ノバキュアHX−3748(以上、旭化成エポキシ(株)製)、フジキュアFXE−1000、フジキュアFXR−1080(以上、富士化成工業(株)製)、2M4MZ、2PZ(以上、四国化成工業(株)製)等が好ましく用いられる。
【0062】
本発明において、粘接着剤中のエポキシ樹脂を硬化させる化合物の含有量(固形分換算)は、好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは1.0〜50質量%である。上記のエポキシ樹脂を硬化させる化合物の含有量を調整することで、粘接着剤を含む粘接着層の硬化反応速度や、該粘接着層の硬化物の弾性率等の物性を好ましい範囲とすることができる。粘接着剤中のエポキシ樹脂を硬化させる化合物の含有量が0.5質量%以上であれば、硬化反応が十分に進行し、所望の接着性を得ることができる。また、エポキシ樹脂を硬化させる化合物の含有量が80質量%以下であれば、コストを抑えることができる。
【0063】
上記の活性水素と反応しうる官能基を有する化合物としては、特に限定されるものでなく、上記の粘接着剤に含まれるダイマー酸変性エポキシ樹脂およびNBR変性エポキシ樹脂やその他の含まれうる各種樹脂に由来する水酸基およびアミノ基等の活性水素と反応しうる官能基を有する公知の硬化剤を用いることができる。
【0064】
活性水素と反応しうる官能基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基、カルボジイミド基、アルデヒド基、カルボキシル基、およびケトン基等が挙げられる。これらの官能基を有する硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、および金属キレート系硬化剤等が挙げられる。これらの中でも、反応性および接着性の観点から、イソシアネート系硬化剤およびカルボジイミド系硬化剤が好ましい。
【0065】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、およびナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。カルボジイミド系硬化剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルポジイミド、ジイソプロピルカルポジイミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。上記の粘接着剤は、活性水素と反応しうる官能基を有する化合物を含有することで、短時間の加熱により接着力が発現する凝集力が得られる。
【0066】
上記の活性水素と反応しうる官能基を有する化合物の市販品としては、例えば、TD−75(線研化学(株)製)、タケネート500(三井化学(株)製)等のイソシアネート系硬化剤、カルボジライトV−05(日清紡ケミカル(株)製)等のカルボジイミド系硬化剤、アルミキレートA(川研ファインケミカル(株)製)等の金属キレート硬化剤等が好ましく用いられる。
【0067】
本発明において、粘接着剤中の活性水素と反応しうる官能基を有する化合物の含有量(固形分換算)は、好ましくは0.05〜50質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。活性水素と反応しうる官能基を有する化合物の含有量を調整することで、粘接着剤の初期粘着性(タック)や粘接着剤の硬化物の弾性率等の物性を好ましいものとすることができる。粘接着剤中の活性水素と反応しうる官能基を有する化合物の含有量が0.05質量%以上であれば、硬化反応が十分に進行し、所望の接着性を得ることができる。また、活性水素と反応しうる官能基を有する化合物の含有量が50質量%以下であれば、コストを抑えることができる。
【0068】
他の成分
上記の粘接着剤には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種樹脂および各種添加剤等の他の成分を配合してもよい。例えば、ビスフェノールA 型エポキシ樹脂、ビスフェノールF 型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等のダイマー酸変性またはNBR 変性していない芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等の各種樹脂を被着体に対する接着性や耐久性の向上、粘接着層に対する可撓性の付与、硬化条件の調整等のために配合してもよい。また、粘接着剤の硬化速度を調整するために硬化促進剤を配合してもよいし、被着体に対する接着性や密着性を向上させるためにカップリング剤を配合してもよい。更に、酸化防止剤、顔料、染料、帯電防止剤、界面活性剤等の各種添加剤も配合することができる。
【0069】
通常、粘接着層の厚さは、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。粘接着層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、十分な接着強度を保持することができる。
【0070】
粘着層
本発明において、粘着層は、粘着剤を含んでなるものである。粘着剤については、下記で詳述する。
【0071】
粘着剤
本発明において、粘着剤としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。アクリル系粘着剤としては、アクリル系粘着剤は、アクリル系粘着性樹脂を主剤としており、さらに、必要に応じて架橋剤を添加してもよい。本発明においては、アクリル系粘着剤を用いることで、粘着層の接着強度が増すため好ましい。
【0072】
上記のアクリル系粘着性樹脂は、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルと他の単量体と官能性単量体とを共重合して得られるアクリル系共重合樹脂を主成分とする。
【0073】
上記のアクリル酸アルキルエステルは、炭素数が4〜15のアルキル基を有するものが好ましい。そのようなアクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、およびアクリル酸イソノニル等が挙げられる。これらのアクリル酸アルキルエステルは、単独で用いられてもよいし、複数が混合されて用いられてもよい。
【0074】
上記のメタクリル酸アルキルエステルは、炭素数が4〜15、より好ましくは10〜12のアルキル基を有するものが好ましい。そのようなメタクリル酸アクリルエステルとしては、例えばメタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらのメタクリル酸アルキルエステルは、単独で用いてもよいし、複数が混合されて用いられてもよい。
【0075】
上記の他の単量体としては、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリル、および酢酸ビニル等が挙げられる。これらの他の単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
上記の官能性単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、およびメタクリル酸−tert−ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらの官能性単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
アクリル系共重合樹脂におけるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステル、他の単量体、および官能性単量体の構成比(質量%)は、60〜99:0〜30:0〜20、好ましくは70〜95:0〜25:0〜15である。
【0078】
例えば、アクリル系共重合樹脂の重量平均分子量は、5万以上250万以下の範囲内にあることが好ましく、10万以上150万以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0079】
本発明においては、市販のアクリル系粘着剤を用いることもできる。例えば、SKダイン2950、SKダイン2953、およびSKダイン2943H(以上、綜研化学(株)製)、コーポニール8711およびコーポニールN−2411TF(以上、日本合成化学(株)製)を用いることができる。
【0080】
架橋剤
上記の架橋剤は、粘着剤の凝集力を向上させるものであり、このような架橋剤としては、室温架橋型架橋剤または加熱架橋型架橋剤がある。
【0081】
室温架橋型架橋剤は、室温条件下でのエイジング処理により粘着剤を架橋させる架橋剤である。このような室温架橋型架橋剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、多官能エポキシ系化合物やアルミニウムやチタン等の金属キレート系化合物等を用いた架橋剤を挙げることができ、そのなかでもイソシアネート系化合物または多官能エポキシ系化合物を用いることが好ましい。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
上記のイソシアネート系化合物としては、ポリイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物の3量体、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られるイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー、または、このようなウレタンプレポリマーの3量体等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されず、2,4−トリレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4′−ジイソシアネート、およびリジンイソシアネート等を挙げることができる。
【0083】
上記の多官能エポキシ系化合物としては、特に限定されず、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、およびポリブタジエンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0084】
加熱架橋型架橋剤は、加熱下でのエイジング処理により粘着剤を架橋させる架橋剤である。このような加熱架橋型架橋剤としては、ホルムアルデヒドと、メラミン、ベンゾグアミン若しくは尿素等とを反応させて得られるメチロール基含有化合物、または、そのメチロール基含有化合物のメチロール基の一部若しくは全部が脂肪族アルコールでエーテル化された化合物等が挙げられる。
【0085】
架橋剤の添加量は、使用されるアクリル系粘着剤や架橋剤の種類に応じて、適宜設定することができる。例えば、架橋剤の添加量は、アクリル系粘着剤に対して、好ましくは0.005〜3.5質量%であり、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0086】
本発明における粘着層は、上記の粘着剤に、架橋剤等の添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散させて調製したインキを、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびグラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により塗布・乾燥させて形成することができる。
【0087】
通常、粘着層の厚さは、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜50μmである。粘着層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形品を真空成形法により製造する際に、十分な接着強度を保持することができる。
【0088】
剥離層
本発明における剥離層は、加飾フィルムの粘着性樹脂層を保護するための層である。剥離層は、加飾成形品を真空成形法により製造する際には、粘着性樹脂層から容易に剥離可能なものである。剥離層には、剥離性を向上させるために、離型剤が用いられる。離型剤としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース樹脂系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、アクリル樹脂系離型剤、およびこれらの複合型離型剤等の離型剤が好ましい。これらのなかで、シリコーン系離型剤が特に好ましい。
【0089】
本発明における剥離層は、上記の離型剤と、バインダー樹脂とを用いて形成することができる。バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いるのがよく、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、および塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。剥離層は、上記の離型剤およびバインダー樹脂に必要な添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散させて調製したインキを、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびグラビアリバースロールコーティング法等の公知の手段により塗布・乾燥させて形成することができる。
【0090】
本発明においては、剥離層として、ポリエステルフィルム等の公知の樹脂フィルムの片面に、上記の離型剤を含む離型層を設けた剥離フィルムを用いてもよい。
【0091】
真空成形用加飾フィルムの製造方法
本発明の真空成形用加飾フィルムの製造方法は、加飾フィルムが上記の各層構成を有するものであれば、特に限定されず、従来公知の方法により製造することができる。例えば、基材層上に、着色剤を含む装飾層用塗工液を塗工し、装飾層を形成する。次に、装飾層上に、ABS樹脂層を形成する。続いて、該ABS樹脂層上に、粘着性樹脂層用塗工液を塗工して、粘着性樹脂層を形成することで、加飾フィルムを製造することができる。なお、剥離層を設ける場合には、剥離層となる剥離シート上に粘着性樹脂層用塗工液を塗工して粘着性樹脂層を形成した後、基材のABS樹脂層と、剥離シートの粘着性樹脂層とをラミネートして、加飾フィルムを製造してもよい。
【0092】
また、本発明の真空成形用加飾フィルムの各層を積層する際に、従来公知の接着剤からなる接着層を各層間に設けて、ラミネートしてもよい。ラミネート用接着剤としては、例えば、1液あるいは2液型の硬化ないし非硬化タイプのビニル系、(メタ)アクリル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリウレタン系、エポキシ系、ゴム系、その他等の溶剤型、水性型、あるいは、エマルジョン型等のラミネート用接着剤を使用することができる。
【0093】
上記の接着剤のコーティング方法としては、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法、トランスファーロールコート法、その他の方法で塗布することができる。その塗布量としては、0.1g/m〜10g/m(乾燥状態)位が好ましく、1g/m〜5g/m(乾燥状態)位がより好ましい。
【0094】
加飾成形品
本発明の加飾成形品は、成形体と、該成形体上に、本発明の真空成形用加飾フィルムによって加飾された装飾層とを有してなるものである。本発明の加飾成形品は本発明の真空成形用加飾フィルムを用いることで、高い機能性や意匠性を発現することができる。以下、本発明の加飾成形品の構成を、図面を参照しながら説明する。
【0095】
本発明の態様によれば、成形体上に、粘着性樹脂層と、装飾層と、保護層とこの順に有してなる、加飾成形品が提供される。具体的に、図3に、本発明による加飾成形品の一例の模式断面図を示す。図3に示される加飾成形品30は、成形体36と、ABS樹脂層33とが、粘着性樹脂層34を介して貼合されてなり、さらにABS樹脂層33上に装飾層32が形成されてなり、装飾層32上に保護層31が形成されてなるものである。以下、加飾成形品を構成する各層について説明する。
【0096】
成形体
本発明における成形体は、本発明の真空成形用加飾フィルムの被着体であり、真空成形法により積層可能なものであればよい。例えば、成形体は、各種素材の平板や曲面板等の板材、立体形状物品、およびシート(あるいはフィルム)等である。より詳細には、各種素材としては、木材単板、木材合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)等の木質繊維板、鉄やアルミニウム等の金属素材、ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏等の非セメント窯業系材料、ALC(軽量気泡コンクリート)板等の非陶磁器窯業系材料、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂およびゴム等の樹脂素材が挙げられる。
【0097】
保護層
本発明における保護層は、本発明の真空成形用加飾フィルムがラミネートされた後は、加飾フィルムの基材層が加飾成形品の最外層となる。すなわち、保護層は、加飾フィルムの基材層に該当する。保護層の詳細については、上記で説明した真空成形用加飾フィルムの基材層と同様である。上記のような樹脂で保護層を形成することで、耐摩耗性、耐薬品性、および耐候性等の耐久性に優れたものにできる。
【0098】
加飾成形品の粘着性樹脂層および装飾層は、上記で説明した真空成形用加飾フィルムの粘着性樹脂層および装飾層と同様である。
【0099】
加飾成形品の製造方法
本発明の加飾成形品の製造方法は、本発明の真空成形用加飾フィルムを用いて、成形体に装飾層を加飾する工程を含んでなるものである。被着体である成形体に加飾フィルムを積層する真空成形法としては、TOM(Three dimension Overlay Method)工法が好ましく用いられる。TOM工法とは、例えば、固定枠に固定した加飾フィルムが分断する装置内を両空間とも真空ポンプ等で空気を吸引し、装置内を真空引きする。同時に、加飾フィルムが軟化する所定の温度になるまで赤外線ヒーターで加熱し、加飾フィルムが加熱され軟化したタイミングで、装置内空間の片側のみに大気を送り込むことにより、真空雰囲気下の、被着体である成形体の立体形状に、加飾フィルムをしっかりと密着させる。必要に応じ、さらに適宜シリコーンゴムシート側からの圧空押付けを併用してもよい。加飾フィルムが成形体に密着した後、シリコーンゴムシートを加飾フィルムより放した後、固定枠から成形された加飾フィルムをはずして加飾成形品を得る。真空成形は、通常80〜150℃、好ましくは110〜140℃程度で行われる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0101】
実施例1
脂肪族ポリアミド(重合脂肪酸系ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体、アミノ基含有、質量平均分子量:1万、富士化成工業(株)製、商品名:TAPE−826−5A)20質量部と、ダイマー酸変性エポキシ樹脂(エポキシ当量:650g/eq.、三菱化学(株)製、商品名:jER872)15質量部と、NBR変性エポキシ樹脂(エポキシ当量:380g/eq.、ADEKA(株)製、商品名:EPR−4030)10質量部と、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:480g/eq.、三菱化学(株)製、商品名:jER1001)50質量部と、ポリイミド樹脂(三菱ガス化学(株)製、商品名:ネオプリム)5質量部と、希釈溶剤(MEK:トルエン=1:1、DICグラフィックス(株)製、商品名:KT−11)400質量部とを80℃に加熱しながら100分間攪拌し、溶解させた後、室温にて放冷した。その後、硬化剤(キシリレンジイソシアネート、綜研化学(株)製、商品名:TD−75)5質量部と、硬化剤(芳香族スルホニウム塩、三新化学(株)製、商品名:サンエイド SI−80L)2.25質量部とを添加し、さらに20分間攪拌し、粘接着層用塗工液を調製した。
【0102】
次に、剥離可能な保護フィルム層である剥離シート(片面にシリコーン系剥離剤による剥離処理が施されてなるポリエステルフィルム、膜厚:38μm、東セロ(株)製、商品名:SP−PET)の剥離処理面上に、乾燥後の膜厚が20〜30μmとなるように上記粘接着層用塗工液をコンマコーターにより全面塗工した後、乾燥フードにより40℃〜100℃で6〜10分乾燥させた。
【0103】
一方、基材層としてアクリル樹脂系フィルム(高成形性PMMAフィルム、膜厚:125μm、三菱レーヨン(株)製、商品名:アクリプレンHBA002P)の一方の面に、印刷インキ(昭和インキ(株)製、商品名:EX5000(NT))を塗工して装飾層(絵柄、厚さ:5μm)を形成した。続いて、該装飾層上に、ウレタン系接着剤(ロックペイント(株)製、商品名:RU004)を3g/m塗布し、ABS樹脂フィルム(高成形性ABSフィルム、膜厚:280μm、テクノポリマー(株)製、商品名:SVG9003)とラミネーターによりラミネートした。その後、PMMAフィルムのABS樹脂層と、上記剥離シートの粘接着層とを貼合した後、40℃のオーブン中にて72時間エージングを行い、実施例1の加飾フィルムを得た。この加飾フィルムは、図2に示されるような層構成を有していた。
【0104】
実施例2
アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製、商品名:SKダイン2953:下記組成)100質量部と、架橋剤(エポキシ系、綜研化学(株)製、商品名:E−5XM)0.46質量部と、希釈溶剤(酢酸エチル)10質量部とを攪拌して、粘着層用塗工液を調製した。
SKダイン2953の組成(配合割合)
・アクリル酸エステル共重合体: 30〜40質量部
・メタクリル酸エステル共重合体: 30〜40質量部
・メチルエチルケトン: 30〜40質量部
・酢酸エチル: 20〜30質量部
・トルエン: 1〜10質量部
・アクリル酸ブチル: 1〜10質量部
【0105】
次に、実施例1と同様に剥離シートの剥離処理面上に、上記粘着層用塗工液を塗工した後、乾燥オーブンにより80℃〜100℃で3〜5分乾燥させた。以上により得た粘着層を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾フィルムを得た。
【0106】
実施例3
アクリル系樹脂(クラレ(株)製、商品名:LAポリマー LA410Lトリブロックエラストマー)97.5質量部と、アクリル系樹脂(クラレ(株)製、商品名:LAポリマー LA4285トリブロックエラストマー)2.5質量部と、熱安定化剤(BASF(株)製、商品名:IRGANOX1726)0.5質量部と、希釈溶剤(MEK:トルエン=1:1、DICグラフィックス(株)製、商品名:KT−11)150質量部とを混合して得たアクリル系粘着剤を乾燥後の膜厚が35〜45μmとなるように塗工した以外は、実施例2と同様にして、加飾フィルムを得た。
【0107】
比較例1
ABS樹脂層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、加飾フィルムを得た。
【0108】
比較例2
ABS樹脂層を設けなかった以外は、実施例2と同様にして、加飾フィルムを得た。
【0109】
比較例3
ABS樹脂層を設けなかった以外は、実施例3と同様にして、加飾フィルムを得た。
【0110】
真空成形用加飾フィルムの性能評価
上記の実施例および比較例で作製した真空成形用加飾フィルムについて、(1)耐熱性試験の評価を行った。
【0111】
(1)耐熱性試験
上記で得られた加飾フィルムを130℃に加温したテンシロンで200%に延伸し、ABS樹脂成形体にローラーにて密着させた。その後、10mm角のクロスカットを入れ、(−20×2時間→1時間→70℃×2時間)×7サイクルの条件のサイクル試験機に入れ、保管した。その後、クロスカット部の収縮率を測定した。
【0112】
上記の各評価結果を表1に示す。本発明のABS樹脂層を有する加飾フィルムは、ABS樹脂層を有さない加飾フィルムに比べて、耐熱性が優れていることが分かった。
【表1】

【符号の説明】
【0113】
10 加飾フィルム
11 基材層
12 装飾層
13 ABS樹脂層
14 粘着性樹脂層
20 加飾フィルム
21 基材層
22 装飾層
23 ABS樹脂層
24 粘着性樹脂層
25 剥離層
30 加飾成形品
31 保護層
32 装飾層
33 ABS樹脂層
34 粘着性樹脂層
36 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
装飾層と、
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を含んでなる樹脂層と、
粘着性樹脂層と
をこの順に有してなる、真空成形用加飾フィルム。
【請求項2】
前記基材層が、アクリル系樹脂を含んでなる、請求項1に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項3】
前記粘着性樹脂層が、粘接着剤を含んでなる粘接着層であるか、あるいは粘着剤を含んでなる粘着層である、請求項1または2に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項4】
前記粘接着層が、脂肪族ポリアミドと、ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはアクリロニトリルブタジエンゴム変性エポキシ樹脂と、異なる2種以上の硬化剤とを含有し、該異なる2種以上の硬化剤のうち少なくとも2種が、エポキシ樹脂を硬化させる化合物および活性水素と反応しうる官能基を有する化合物からなる粘接着剤を含んでなる、請求項3に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂を硬化させる化合物が、カチオン重合開始剤である、請求項4に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項6】
前記粘着層が、アクリル系粘着剤を含んでなる、請求項3に記載の真空成形用加飾フィルム。
【請求項7】
前記粘着性樹脂層上に、剥離層をさらに有してなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の真空形成用加飾フィルム。
【請求項8】
成形体と、前記成形体上に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の真空成形用加飾フィルムによって加飾された装飾層とを有してなる、加飾成形品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の真空成形用加飾フィルムを用いて、成形体に装飾層を加飾する工程を含んでなる、加飾成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213891(P2012−213891A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79825(P2011−79825)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】