説明

眼科用レーザ治療装置

【課題】 スポットサイズの自由度を確保しつつ、スポットの走査範囲を広く確保できる装置を提供する。
【解決手段】 観察光学系を備える双眼顕微鏡と、治療レーザ光の光源と、レーザ光を導光するファイバと、レーザ光を患者眼に照射する照射光学系であって,ファイバの出射端面を所定の径のスポットとするズーム光学系と,スポットを患者眼の組織上で2次元的に走査する走査部を含む照射光学系と、レーザ光を偏向する反射ミラーと、走査部を制御し,複数のスポットが所定のパターンで配列された走査パターンに基づいて治療レーザ光のスポットを走査して照射する制御手段と、を備える眼科用レーザ治療装置において、
反射ミラーに反射されない治療レーザ光の光束を遮るための開口板を、操作部より上流でズーム光学系のズームレンズ群より下流に配置し、開口板の開口形状を反射ミラーの形状と対応させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者眼にレーザ光を照射し、治療を行う眼科用レーザ治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用レーザ治療装置の1つとして、光凝固装置が知られている。光凝固治療(例えば、汎網膜光凝固治療)では、治療レーザ光を患者眼の眼底組織に1スポットずつ照射し、組織を熱凝固させる(例えば、特許文献1参照)。近年では、ガルバノミラー等を備えた走査ユニットをレーザ光のデリバリユニットに組み込み、予め設定された複数のスポット位置の走査パターンに基づいて治療レーザ光のスポットを眼底組織上で走査する装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような装置では、治療に応じてレーザ光のスポットサイズ(スポット径)を変更する。例えば、特許文献1の装置では、レーザ光の光軸方向に沿ってレンズを移動させ、スポットサイズを変更するるズーム光学系を用いる。一方、特許文献2の装置では、コア径の異なる複数の光ファイバを用意し、各光ファイバの出射端面を組織上に導光する。このとき、コア径の異なる光ファイバを選択することで、スポットサイズを変更する。また、このような装置では、患者眼の眼底組織の観察及びスポットの照射位置の確認のため観察光学系を備えるユニット、例えば、双眼顕微鏡等を備えるスリットランプ、を合わせて用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−224154号公報
【特許文献2】国際公開第07/082102号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の装置では、スポットサイズの種類に限りがある。このため、特許文献1の装置のようなズーム光学系を用いてスポットを形成し、走査する装置が望まれる。しかしながら、ズーム光学系に走査部を組み込む構成とすると、スポットの走査範囲が制限される問題が生じる。
【0005】
具体的に説明すると、従来装置(特許文献1のような装置)を図7に示す。図7(a)は側面図、図7(b)は俯瞰図を模式的に示した図である。ズーム光学系(照射光学系)Z1の対物レンズ101を出射するレーザ光の光軸Laと、双眼顕微鏡M1の対物レンズ102の観察光路(光軸)Lbを略同軸とするために、可視光を反射する反射ミラー103が配置される。反射ミラー103は双眼顕微鏡M1の右眼の観察光路Lbr、左眼の観察光路Lblの観察光路を遮らない程度の大きさとされ、左右眼の観察光路の中央に配置される。このような条件から反射ミラー103の大きさは制限を受ける。また、対物レンズ101と反射ミラー103との間には、反射ミラー103を外れたレーザ光が患者眼等の眼前で散乱してしまうことを抑制する開口板104が配置される。開口板104は、ズーム光学系Z1にて変倍されるスポットが低倍、例えば、ファイバ端面の等倍である50μmの場合、その光束Baを遮る。
【0006】
このような条件において、ズーム光学系Z2にガルバノミラー等の走査部115を配置し、対物レンズ111、反射ミラー113、開口板114を配置すると、図8に示すように、走査部115にて偏向されたレーザ光の光軸La1が、開口板114で遮られてしまい、スポットの走査範囲が制限されてしまう。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、スポットサイズの選択の自由度を確保しつつ、スポットの走査範囲を広く確保できる眼科用レーザ治療装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 患者眼を観察するための観察光学系を備える双眼顕微鏡と、治療レーザ光を出射する治療レーザ光源と、治療レーザ光を導光する光ファイバと、治療レーザ光を患者眼に照射する照射光学系であって,前記光ファイバの出射端面を所定の径のスポットとするズーム光学系と,治療レーザ光のスポットを患者眼の組織上で2次元的に走査する走査部を含む照射光学系と、該照射光学系から出射される治療レーザ光を偏向する反射ミラーであって,前記双眼顕微鏡の左右眼の観察光路の中央に配置される反射ミラーと、前記走査部を制御し,複数のスポットが所定のパターンで配列された走査パターンに基づいて治療レーザ光のスポットを走査して照射する制御手段と、を備える眼科用レーザ治療装置において、前記照射光学系は、前記光ファイバから出射される治療レーザ光の光束径を変更するために光軸方向に移動するズームレンズ群と、前記ズームレンズ群を通過した治療レーザ光の光束径を制限する開口板であって,前記反射ミラーの反射面の大きさに対応し患者眼の組織上に照射される治療レーザ光のスポットサイズが所定値以下の際に治療レーザ光の光束径を制限する開口有する開口板と、前記開口板を通過した治療レーザ光を患者眼の組織上に結像させる結像レンズ群と、を備え、前記走査部は前記開口板の下流かつ前記結像レンズ群の上流に配置され、前記開口板を通過した治療レーザ光を偏向し治療レーザ光のスポットを患者眼の組織上で走査することを特徴とする。
(2) (1)の眼科用レーザ治療装置は、前記ズーム光学系にて設定したスポットのサイズを入力するスポットサイズ入力手段を備え、前記制御手段は,前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズが前記所定値である場合は、前記走査部による治療レーザ光のスポットの走査を禁止し、前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズが前記所定値を越える場合は、前記走査部を制御し治療レーザ光のスポットを走査することを特徴とする。
(3) (2)の眼科用レーザ治療装置は、走査パターンのスポット間隔を設定する間隔設定手段と、スポットの走査範囲を設定する走査範囲設定手段であって,前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズと,前記間隔設定手段で設定されたスポット間隔と,に基づいて前記走査部によるスポットの走査可能な範囲を設定する走査範囲設定手段と、を備える、ことを特徴とする。
(4 )(1)〜(3)の何れかの眼科用レーザ治療装置において、前記開口板は、前記ズームレンズ群の最下流の光学素子の後面側に固定されることを特徴とする。
(5) (1)〜(3)の何れかの眼科用レーザ治療装置において、
前記照射光学系は、前記光ファイバから出射される治療レーザ光を略平行光とするコリメータレンズ群を有し、前記結像レンズ群は、前記走査部を通過した治療レーザ光を前記反射ミラーより上流で結像させる中間結像レンズ群を有し、前記ズームレンズ群は、該コリメータレンズ群を通過した治療レーザ光を略平行光とするために、バリエータレンズとコンペンセータレンズを有する、ことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は眼底の光凝固治療等を行う眼科用レーザ治療装置の光学系及び制御系を示す概略構成図である。図2は、走査部の斜視図である。図3は、走査パターンの一例を示す図である。図4は、レーザ照射光学系を示す模式的光学図である。図5は、スポットサイズと反射ミラー上での光束径を示す図である。
【0010】
眼科用レーザ治療装置100は、大別して、レーザ光源ユニット10、レーザ照射光学系40、観察光学系30、照明光学系60、制御部70、操作ユニット80、を備える。レーザ光源ユニット10には、治療レーザ光を出射する治療レーザ光源11、可視の照準レーザ光(エイミング光)を出射するエイミング光源12、治療レーザ光とエイミング光とを合波するビームスプリッタ(コンバイナ)13、集光レンズ14を備える。ビームスプリッタ13は、治療レーザ光の大部分を反射しエイミング光の一部を透過する。合波されたレーザ光は、集光レンズ14により集光され、レーザ照射光学系40へと導光する光ファイバ20の入射端面に入射される。また、治療レーザ光源11とビームスプリッタ13との間には、治療レーザ光を遮断するシャッタ15が設けられている。また、エイミング光源12からエイミング光及び治療レーザ光が導光される光路には第2のシャッタ16が設けられている。シャッタ16は、異常時に閉じられる安全シャッタであるが、エイミング光が走査されるときに、エイミング光の照射と遮断を行うために使用しても良い。シャッタ15も、治療レーザ光の照射と遮断を行うために使用しても良い。なお、各シャッタは、光路を切換える機能を有するガルバノミラーに置き換えてもよい。光ファイバ20には、コア径50μm、NA(開口数)0.1のマルチモードファイバが用いられる。
【0011】
レーザ照射光学系40は、本実施形態では、スリットランプ(図示を略す)に装着されるデリバリとされる。光ファイバ20の出射端21から出射したレーザ光(治療レーザ光及びエイミング光)は、以下の光学素子によって導光される。レーザ光(光束)は、順に、コリメータレンズ41、レーザ光のスポットサイズを変更するために光軸方向に移動可能なズームレンズ42、43、光束径を制限する開口形状を持つ開口板44、光路を折り曲げるミラー45を通過する。ミラー45で折り曲げられた光束は、走査部50、結像レンズ46、リレーレンズ47、対物レンズ48、反射ミラー49を経て患者眼Eの眼底に照射される。
【0012】
走査部50は、レーザ光の照射方向(照射位置)を2次元的に移動させるスキャナミラーを持ち走査光学系を構成するユニットである。走査部50は、第1のガルバノミラー(ガルバノスキャナ)51及び第2のガルバノミラー55を備える。ガルバノミラー51は、レーザ光を反射する第1のミラー52と、ミラー52を駆動(回転)する駆動部であるアクチュエータ52を備える。同様に、ガルバノミラー55は、第2ミラー56及びアクチュエータ57を備える。レーザ照射光学系40の各光学素子を通ったレーザ光は、反射ミラー49にて反射され、コンタクトレンズCLを介して患者眼Eのターゲット面(患者眼の組織上)である眼底に照射される。
【0013】
ズームレンズ群を構成するズームレンズ42、43は図示を略すレンズカムに保持されており、術者の操作によりレンズカムが回転されることで、ズームレンズ42、43が光軸方向に移動される。ズームレンズ42、43の位置は、レンズカムに取り付けられたエンコーダ42aにより検出される。装置100を統括・制御する制御部70は、各レンズの位置情報(検出信号)をエンコーダ42aより受け取り、レーザ光のスポットサイズを得る。これにより、スポットサイズ入力手段が構成される。なお、スポットサイズは、ディスプレイ82上で術者が入力してもよい。
【0014】
走査部50は、制御部70からの指令信号に基づいて制御され、設定されたレーザ光のスポットがターゲット面で2次元のパターンとして形成されるようにスポット位置を走査する。また、図示は略すが、反射ミラー49は、術者の操作により、レーザ光の光軸を2次元的に傾斜させる機構(手動マニュピュレータ)が接続されている。
【0015】
走査部50の構成を説明する。図2に示すように、ミラー52は、反射面をx方向に揺動可能となるようにアクチュエータ53に取り付けられる。一方、ミラー56は、反射面をy方向に揺動可能となるようにアクチュエータ57に取り付けられる。本実施形態では、ミラー52の回転軸はy軸と一致し、ミラー56の回転軸はz軸と一致する。また、アクチュエータ53、57は制御部70に接続され、個別に駆動される。アクチュエータ53、57には、モータ及びポテンショメータが内蔵されており(共に図示せず)、ミラー52、56は、制御部70の指令信号に基づき独立に回転(揺動)される。このとき、アクチュエータ53、57のポテンショメータにより、ミラー52、56がどれだけ回転したかの位置情報が制御部70に送られ、制御部70は、指令信号に対するミラー52,56の回転位置を把握できる。
【0016】
観察光学系30、照明光学系60はスリットランプに搭載されている。観察光学系30は、対物レンズを初め、変倍光学系、保護フィルタ、正立プリズム群、視野絞り、接眼レンズ等を備える。患者眼をスリット光により照明可能な照明光学系60は、照明光源、コンデンサーレンズ、スリット、投影レンズ等を有する。
【0017】
制御部70には、メモリ71、光源11、12、エンコーダ42a、アクチュエータ53、57、操作ユニット80、レーザ光を照射するトリガ入力手段であるフットスイッチ81が接続されている。操作ユニット80は、レーザ照射条件の設定、走査パターンの変更及び入力を兼ねるタッチパネル式のディスプレイ82を備える。ディスプレイ82には、各種のパネルスイッチが設けられており、レーザ光照射の照射条件のパラメータが設定可能とされる。ディスプレイ82は、グラフィカル・ユーザ・インターフェースの機能を有し、ユーザが視覚的に数値等の確認、設定を行うことができる構成とされる。照射条件の項目としては、治療レーザ光の出力設定部83、照射時間(パルス幅)設定部84、休止時間(治療レーザ光の照射時間間隔)設定部85、治療レーザ光の走査パターン(ターゲット面に形成する治療レーザ光のスポット位置の配列パターン)の設定部86、エイミングのモードを設定するモード設定部87、詳細設定スイッチ88、スポット間隔設定手段89、その他の設定部等を呼び出すためのメニュースイッチ82a等が用意されている。モード設定部87では、複数のエイミングモードを切換えて設定できる。
【0018】
ディスプレイ82上の各項目をタッチすることにより数値を設定できる。例えば、術者が、スイッチ86aをタッチすることによりプルダウンメニューで設定可能な候補が表示され、術者が候補から数値を選択することにより項目における設定値が決定される。
【0019】
走査パターンは、予め複数用意され、術者がディスプレイ82上で選択可能に構成されている。走査パターンは、例えば、スポット位置を2×2、3×3、4×4、等の正方行列状に並べるパターン(正方パターン)、スポット位置を円弧状に並べるパターン(円弧パターン)、円弧を外径方向や内径方向に並べ扇形を形成するパターン(扇形パターン)、スポット位置を円状に並べるパターン(円パターン)、この円パターンを分割するパターン(円分割パターン)、スポットを直線状に並べた直線パターン等が装置メーカによって用意され、メモリ71に記憶されている。走査パターンは、スイッチ86aにより、メモリ71に記憶されている複数の走査パターンの中から選択でき、設定部86の画面に表示される。また、ズームレンズ42、43の移動によって変えられるレーザ光のスポットサイズの情報は、ディスプレイ82に表示される。
【0020】
また、メモリ71には、設定されたスポットサイズと、選択された走査パターンと、設定されたスポット間隔と、に基づいてスポットの走査範囲を設定する走査範囲情報が記憶される。走査範囲情報については、後述する。
【0021】
フットスイッチ81が術者により踏まれると、制御部70は各種パラメータの設定に基づき、治療レーザ光のパターンをターゲット面に形成するようにレーザ光を照射させる。制御部70は、光源11を制御すると共に設定されたパターンに基づいて走査部50を制御し、ターゲット面(眼底)に治療レーザ光のパターンを形成する。
【0022】
また、制御部70は、設定されたスポットサイズが低倍の範囲内にあるときは、走査部50による走査を禁止する。具体的には、ディスプレイ82(スイッチ86a)での走査パターンの選択を不可脳とする。また、制御部70は、走査部50の光軸を原点位置とする。
【0023】
図3は、スポット位置のパターンの一例を示す図である。図示するようにスポットSが、3×3の正方行列状に並べられてパターンが形成される。ここで、スポットSは、エイミング光、治療レーザ光のいずれも指す。このようなパターンに基づいて、治療レーザ光及びエイミング光が走査部50により走査され、ターゲット面にパターンが形成されることとなる。スタート位置SPからスポットSの照射が開始され、終了位置GPへ向かってスポットSが2次元的に走査される。本実施形態では、図中の矢印が示すように、スポットSはできるだけスポットS間の移動を効率的に行うように、隣接するスポットSへと順番に走査される構成とする。
【0024】
スポットSの間隔Dは、スポット間隔設定部89により、スポット径の0.5倍〜2倍の範囲で任意に設定可能とされる。スポット間隔Dの設定情報は制御部70に入力される。図3のように、スポットの配列が方形パターンの場合、スポットSの間隔は上下左右方向で等間隔になるように形成される。
【0025】
次に、レーザ照射光学系におけるズーム光学系の構成を説明する。図4では、模式的に、ファイバ出射端21とターゲット面Tとの間に直線状に各光学素子を配置した。図5では、説明の簡便のため、反射ミラー49の位置での光束を円として示した。
【0026】
本実施形態のズーム光学系は、ファイバ出射端21の端面を所定のスポットサイズとして拡大し、ターゲット面T上に結像させるパーフォーカル光学系とする。ファイバ出射端21を出射した光束は、凸レンズであるコリメータレンズ41で略平行光(ここでは、若干の拡散光)とされる。ズームレンズ42及び43は、光束径を変更する役割を持ち、ズームレンズ43を通過した光束を平行光として走査部50に導光する。ズームレンズ42は凸レンズ、ズームレンズ43は、凹レンズであり、連携して光軸L上を移動する。ここでは、ズームレンズ42はバリエータ、ズームレンズ43はコンペンセータの役割を持つ。また、ズームレンズ42、43が連続的に移動させることにより、スポットサイズが連続的に変更される。本実施形態では、スポットサイズは、50〜500μm(倍率では、1〜10倍)とする。また、ズームレンズ43の下流側には、スポットサイズが、ある値以下(低倍の範囲内)であるときに、走査部50へと導光される光束の光束径を制限する開口形状を持つ開口板44が固定される。
【0027】
低倍の範囲内のスポットサイズとは、ある値でスポットサイズが設定されたレーザ光をターゲット面Tに導光する際、反射ミラー49の位置での光束径が反射ミラー49の反射面より大きくなる範囲を言う、言い換えると、光束が反射ミラー49で反射されず外れてしまう倍率の範囲を指す。ここでは、低倍の範囲内のスポットを小さいスポットサイズとし、このスポットサイズより大きいものを大きいスポットサイズと呼ぶ。
【0028】
具体的に、本実施形態では、低倍の範囲とは、50μm以上100μm未満のスポットサイズを指す。本実施形態では、50μm〜99μmのスポットサイズ(ファイバ出射端21の等倍〜約2倍)の反射ミラー49の位置での光束の径を制限するように、反射ミラー49の形状と相似形である四角形の開口を持つ開口板44が用いられる。このような小さいスポットサイズでは、走査部50によるスポットの走査を禁止する。
【0029】
開口板44の下流には、走査部50が配置される。説明の簡便のため、走査部50はX方向にだけレーザ光を偏向するものとした。走査部50の下流には、結像レンズ群(結像レンズ46〜対物レンズ49)が配置される。結像レンズ46を通過した光束は、リレーレンズ47の手前(結像位置F)で中間結像を形成する。リレーレンズ47及び対物レンズ48は、結像位置Fのスポットを反射ミラー49を介してターゲット面Tに結像させる。走査部50の下流の近い位置に中間結像を形成することにより、結像位置F以降の光学素子を小さい径とできる。
【0030】
次に、スポットサイズと開口板44の関係を説明する。図4(a)は、大きいスポットサイズ(例えば、500μm)を設定した場合を示し、図4(b)は、小さいスポットサイズ(例えば、50μm)を設定した場合を示している。図4(a)では、走査部50が駆動されない場合(走査部50の光軸が原点位置)、光軸Lに対応する軸上光束B1と、走査部50が駆動され光軸Lが偏向されて光軸L2となったときの光束B2を示す。光束B1は、ズームレンズ42、43で光束径を変更されると共に平行光とされ、走査部50を通過しレンズ46〜48を経てターゲット面Tに結像されスポットS1を形成する。また、光束B2は、光束B1の場合と同様に導光され、走査部50で光軸L2に偏向されて、ターゲット面Tの周辺にスポットS2を形成する。このとき、反射ミラー49の位置(反射面上)での光束B1,B2を、図5において、断面C1,断面C2として模式的に示した。
【0031】
一方、図4(b)では、光軸Lに対応した軸上光束B3が、走査部50での偏向を受けずターゲット面Tに導光されスポットS3を形成する。このとき、反射ミラー49の位置での光束B3を断面C3として示した。また、光束B3が開口板44により遮られなかった場合の光束を断面C3aとして示した。
【0032】
小さいスポットサイズが設定された場合、ズームレンズ42、43の移動によって、開口板44の位置での光束径が最大となる。これは、パーフォ−カル光学系におけるズーム光学系の特性に依存するものであり、ファイバ20のNAと、スポットサイズの倍率(等倍)、及び、ズーム光学系の光学素子の関係によって定められる。開口板44は、光束B3の光束径を制限し、走査部50へと導光する。このとき、反射ミラー49では、光束B3が断面C3のように反射される。開口板44がない場合、反射ミラー49の位置では光束B3は、断面C3aとなる。この場合、反射ミラー49より外側の光は反射されず、外れてしまう。このため、開口板44の開口は、小さいスポットサイズに対応した光束の径を制限する開口を持ちつつ、断面C3が反射ミラー49の反射面内でできるだけ大きい面積を持つように定められる。
【0033】
なお、光束B3は、反射ミラー49上でできるだけ広い径を確保する径(大きさ)となるため、走査部50による走査を行うことができない。また、小さいスポットサイズに対応する光束も同様に走査部50による走査に適さない。このため、制御部70は、エンコーダ42aの入力に基づいて設定されたスポットサイズが小さいスポットサイズ(となる値)である場合に、走査部50による走査を禁止する。
【0034】
一方、大きいスポットサイズが設定された場合、図4(a)に示すように、光束B1、B2とも、開口板44で光束径を制限されることがない。また、光束B1,B2は、反射ミラー49上で、断面C1,C2で示されるように、反射ミラー49の面積に対して小さい。このため、大きいスポットサイズに対応する光束は、走査部50で光軸を偏向されても反射ミラー49上から外れることがない。例えば、光束B2は、光軸L上の光束B1に対して、光軸L2として偏向されても、反射ミラー49上ですべての光束が断面C2として収まっている。
【0035】
しかしながら、反射ミラー49は、前述のようにサイズに制限を受けるため、大きいスポットサイズが設定された場合であっても、スポットを走査する範囲には制限がある。制御部70は、設定されたスポットサイズと、走査パターンと、スポット間隔と、をメモリ71に予め記憶されている走査範囲情報と比較演算し、走査部50にて走査する範囲を設定するとともに、現在の設定における走査範囲の制限を行う。
【0036】
図6は、スポットサイズと走査範囲の関係を表すグラフである。横軸がスポットサイズ、縦軸がターゲット面上での片側方向の走査範囲を表す。図示されるように、スポットサイズが100μmまでは、走査を禁止されるため、走査範囲は0とされる。また、100μm以上では、スポットサイズが増大するにつれ、走査範囲が広がる。これは、スポットサイズの増大と共に反射ミラー49の位置での光束が狭まることにより、反射ミラー49上で光束を走査、言い換えると、XY方向に振ることができることに依る。
【0037】
このようなグラフで示されるデータが、走査範囲情報としてメモリ71に記憶され、制御部70の走査範囲の設定に用いられる。例えば、スポットサイズを500μmとすると、XY方向では、V2(例えば、2.0mm)の2倍の範囲でスポットを走査できることとなる。この走査範囲に収まるように、走査パターン、スポット間隔が定められる。制御部70は、この制限に基づいて、ディスプレイ82でのパラメータの選択、表示を制限する。これにより、反射ミラー49等の光学素子において口径食を受ける(けられる)ことがない走査を行うことができる。
【0038】
以上のようにして、制御部70は、照射光学系40で形成するスポットの走査範囲をできるだけ広く設定する。また、照射光学系40で、走査部50から反射ミラー49に到る光路に開口板を配置することなく、ズームレンズ群の下流に開口板を配置し走査部50に入射する光束の径を制限することにより、以下のような利点がある。1つめは、小さいスポットサイズの設定において、光束の径を制限でき、治療レーザ光等が、反射ミラー49から外れることを抑制できる。2つめは、治療レーザ光を結像レンズ群の周辺の光路を利用して反射ミラー49へと導光できる。このため、図8のように光束が遮られることなく、ターゲット面へと導光される。これにより、ターゲット面でのスポットの走査範囲ができるだけ広く確保できる。3つめは、ズーム光学系によって、設定できるスポットサイズが増し、スポットサイズ、言い換えると、治療の自由度が確保できる。
【0039】
なお、ズームレンズ43を通過した光束が平行光となるとは、ファイバ出射端21を出射した光束の軸上光束の場合を指す。従って、ファイバ出射端21を出射した軸外光束は平行光ではなく、若干の拡散光となる。このため、ズームレンズ43と走査部50との間に配置される開口板は、大きいスポットサイズの場合にズームレンズ43を通過した光束のうち拡散光を遮らないように、できるだけズームレンズ43に近い位置に配置されることが好ましい。本実施形態では、ズームレンズ43の下流側に開口板44を固定する。図示は略すが、ズームレンズ43のレンズホルダに開口板44を位置合せしてネジ等の固定部材にて固定する。これにより、開口板44の位置は、ズームレンズ43に対して常に一定位置に置かれる。このため、開口板44を設計し易く、ズームレンズ43と走査部50の間の空間を小さくでき、照射光学系40を小さくできる。
【0040】
以上のような構成を備える装置の動作を説明する。手術に先立ち、走査パターン、治療レーザ光のスポットサイズ、治療レーザ光の出力、1スポットでのレーザ光の照射時間、等の手術条件が設定される。例えば、汎網膜光凝固治療のために、治療レーザ光のスポットサイズが200μmに設定され、走査パターンは5×5の正方パターンが選択されているものとする。このとき、制御部70は、設定されたスポットサイズ、走査パターン、スポット間隔、と走査範囲情報とを比較演算し、今回の手術のパラメータ等に対する走査範囲を設定する。例えば、術者が、スポットサイズと走査パターンを設定した
術者は、照明光学系60からの照明光によって照らされた眼底を観察光学系30により観察すると共に、エイミング光が照射されるスポット位置を観察し、レーザ照射光学系40が搭載されたスリットランプ(観察光学系30、照明光学系60にて構成される)を患者眼に対して移動し、治療部位への照準合わせを行う。照準時に、走査パターンに基づいてエイミング光源12及び走査部50の駆動が制御される。
【0041】
照準合わせの完了後、術者がフットスイッチ81を踏むと、治療レーザ光の照射が開始される。制御部70は、フットスイッチ81からのトリガ信号に基づき、光源12からのエイミング光の出射を停止し、治療レーザ光源11から治療レーザ光を出射すると共に、走査部50を制御し、各スポット位置に治療レーザ光を順次照射する。各スポット位置には治療レーザ光のパルス幅の設定時間に基づいて治療レーザ光が照射され、治療レーザ光の休止時間の間にスポットが移動される。
【0042】
なお、スポットサイズを100μm未満とした場合、制御部70は走査部50によるスポットの走査を禁止する。スポットを走査しないモードをシングルモード、走査するモードをスキャンモードとし、スポットサイズの設定、走査パターンの設定に基づいて制御部70がモードを選択する構成としてもよい。また、手術条件の設定において、モードを選択することで、選択できる走査パターンや手術条件を術者に報知する構成を加えてもよい。
【0043】
なお、走査部50の構成においては、1つのミラーをxy方向に傾斜等させる構成の部材を用いてもよい。あるいは、レーザ光等の走査をレンズの傾斜により実現する構成としてもよい。
【0044】
なお、以上の説明では、開口板をズームレンズ群において最下流のズームレンズの下流側に固定する構成としたが、走査部より上流で、ズームレンズ群より下流に固定的に配置してもよい。
【0045】
なお、以上の説明では、小スポットより大きいスポットサイズに対応する光束において軸外光束(拡散光)を遮らないように開口板の形状、配置位置を定めたが、軸外光束を遮るようにしてもよい。この場合、ターゲット面に照射されるエネルギ量が低下するため、治療レーザ光の照射エネルギ量を上げればよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】眼科用レーザ治療装置の光学系及び制御系の概略構成図である。
【図2】走査部の斜視図である。
【図3】レーザ照射光学系を説明する模式的光学図である。
【図4】反射ミラーとスポットサイズの関係を説明する図である。
【図5】走査パターンの一例を示す図である。
【図6】スポットサイズと走査範囲の関係を表すグラフである。
【図7】従来の眼科用レーザ治療装置のレーザの導光を説明する図である。
【図8】走査部を備える眼科用レーザ治療装置のレーザの導光を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
10 レーザ光源ユニット
20 光ファイバ
21 ファイバ出射端
30 観察光学系
40 レーザ照射光学系
42、43 ズームレンズ
44 開口板
49 反射ミラー
50 走査部
60 照明光学系
70 制御部
80 操作ユニット
100 眼科用レーザ治療装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼を観察するための観察光学系を備える双眼顕微鏡と、
治療レーザ光を出射する治療レーザ光源と、
治療レーザ光を導光する光ファイバと、
治療レーザ光を患者眼に照射する照射光学系であって,前記光ファイバの出射端面を所定の径のスポットとするズーム光学系と,治療レーザ光のスポットを患者眼の組織上で2次元的に走査する走査部を含む照射光学系と、
該照射光学系から出射される治療レーザ光を偏向する反射ミラーであって,前記双眼顕微鏡の左右眼の観察光路の中央に配置される反射ミラーと、
前記走査部を制御し,複数のスポットが所定のパターンで配列された走査パターンに基づいて治療レーザ光のスポットを走査して照射する制御手段と、を備える眼科用レーザ治療装置において、
前記照射光学系は、
前記光ファイバから出射される治療レーザ光の光束径を変更するために光軸方向に移動するズームレンズ群と、
前記ズームレンズ群を通過した治療レーザ光の光束径を制限する開口板であって,前記反射ミラーの反射面の大きさに対応し患者眼の組織上に照射される治療レーザ光のスポットサイズが所定値以下の際に治療レーザ光の光束径を制限する開口有する開口板と、
前記開口板を通過した治療レーザ光を患者眼の組織上に結像させる結像レンズ群と、
を備え、
前記走査部は前記開口板の下流かつ前記結像レンズ群の上流に配置され、前記開口板を通過した治療レーザ光を偏向し治療レーザ光のスポットを患者眼の組織上で走査する
ことを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項2】
請求項1の眼科用レーザ治療装置は、
前記ズーム光学系にて設定したスポットのサイズを入力するスポットサイズ入力手段を備え、
前記制御手段は,
前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズが前記所定値である場合は、前記走査部による治療レーザ光のスポットの走査を禁止し、
前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズが前記所定値を越える場合は、前記走査部を制御し治療レーザ光のスポットを走査する
ことを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項3】
請求項2の眼科用レーザ治療装置は、
走査パターンのスポット間隔を設定する間隔設定手段と、
スポットの走査範囲を設定する走査範囲設定手段であって,前記スポットサイズ入力手段で入力されたスポットサイズと,前記間隔設定手段で設定されたスポット間隔と,に基づいて前記走査部によるスポットの走査可能な範囲を設定する走査範囲設定手段と、
を備える、ことを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかの眼科用レーザ治療装置において、
前記開口板は、前記ズームレンズ群の最下流の光学素子の後面側に固定されることを特徴とする眼科用レーザ治療装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの眼科用レーザ治療装置において、
前記照射光学系は、
前記光ファイバから出射される治療レーザ光を略平行光とするコリメータレンズ群を有し、
前記結像レンズ群は、
前記走査部を通過した治療レーザ光を前記反射ミラーより上流で結像させる中間結像レンズ群を有し、
前記ズームレンズ群は、該コリメータレンズ群を通過した治療レーザ光を略平行光とするために、バリエータレンズとコンペンセータレンズを有する、
ことを特徴とする眼科用レーザ治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−212352(P2011−212352A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84688(P2010−84688)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】