説明

着色導電塗料と着色導電膜付き基材及びその製造方法

【課題】 導電性を有し、かつ黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を示す着色導電膜の形成が可能な着色導電塗料、およびその着色導電膜を有する着色導電膜付き基材を提供する。
【解決手段】 溶媒中に、導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有すると同時に鮮やかな着色を示す着色導電膜を形成するための着色導電塗料とその着色導電膜を有する着色導電膜付き基材及びその製造方法とに係り、特に金属からなる基材に対し、黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を示す導電膜を形成できる着色導電塗料と着色導電膜付き基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基材に耐腐食性、耐薬品性、耐汚染性、装飾性などの機能を付与するために、静電粉体塗装法や流動浸漬法等の粉体塗装法により基材表面に樹脂を塗装する方法が広く採用されてきた。粉体塗装法は、塗装膜厚が厚く塗膜が頑丈なため、傷付きにくく、耐食性や耐候性に優れる特徴を有していることに加え、溶媒を使用せずに空気等を媒体として塗装を行うため、その環境性と経済性の面から近年多量に使用されつつある。
【0003】
ここで、上記静電粉体塗装法とは、スプレーガンで樹脂粉末に帯電させ、アースの取れた金属等の基材に静電気により塗布した後、加熱して、塗膜を形成させる塗装方法である。
上記樹脂粉末には、主として熱硬化性樹脂粉末が用いられ、加熱で得られる塗膜は、半溶融状態での架橋反応により各種の性能を付加させる事が可能なため、種々の用途に適応できる。例えば、上記樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0004】
また、上記流動浸漬塗装法は、容器底部に多孔板を配置し、多孔板から圧縮空気を送ることで樹脂粉末の流動層を形成させ、その流動層中に予熱した基材を浸漬し、基材の熱で流動層中の樹脂粉末を溶融して基材上に厚い塗膜を形成する塗装方法である。この方法に使用される樹脂は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、変性エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA:Ethylene−Vinyl Acetate)樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0005】
ところで、金属基材に上記粉体塗装を施すと、鮮やかな着色塗膜を形成できるため優れた意匠性を付与することが可能となるが、用いる樹脂が絶縁性で絶縁性の塗膜が形成されるため、金属基材本来の導電性が損なわれるという問題があった。
そこで、絶縁性の樹脂に導電フィラーとしてのカーボンブラックや導電性ポリマーを加え、粉体塗装で得られる塗膜に導電性を付与する試みが行われている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、カーボンブラックや導電性ポリマーを樹脂に配合して得られる導電性の塗膜は黒色となるため、白、赤、青、黄色、緑等の色鮮やかな着色導電膜を得ることは困難であった。例えば、特許文献1において、黒色以外にも青色や赤色の着色導電膜の形成を試みているが、いずれも、黒点が散在する青色、黒点が散在する赤色であって、鮮やかな青色や赤色は得られていない。
【0007】
ここで、上記粉体塗装法に用いられる粉体塗料とは異なる、溶媒を用いる一般の塗料(溶媒、及び溶媒に溶解したバインダー樹脂で構成される)において、塗膜を着色し、かつ塗膜に導電性を付与する方法としては、有色微粒子とアスペクト比の大きな針状またはりん片状の導電フィラーを上記塗料(バインダー樹脂が溶解した溶媒)に配合する方法が行われている。上記針状またはりん片状の導電フィラーを用いる理由は、球状、粒状の導電フィラーに比べて少量の添加で低抵抗値の膜が得られことが知られているからである。
ところで、上記導電フィラーの含有量は少ないほど好ましい。その理由は、塗料成分の一つである透明バインダー樹脂に比べ、一般の導電フィラーの光吸収が遥かに大きいからである。従って、樹脂に対して出来るだけ少量の導電フィラーを用いることで低抵抗値の膜が得られれば、優れた着色導電膜を得ることができる。
【0008】
そこで、上記着色導電膜として、例えば、アスペクト比の大きな中空炭素マイクロファイバーを微量用い、これに導電性白色粉末を配合したポリマー組成物で、導電性と着色性を両立させる試みがなされている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法でも、微量とはいえ黒色の中空炭素マイクロファイバーを用いているため、膜の導電性を低下させないように、その配合量を多くすると、鮮やかな着色は得られないという欠点があり、例えば10kΩ/□(オーム・パー・スクエアと読む)程度の表面抵抗値の着色導電膜しか得ることができなかった。
【0009】
したがって、中空炭素マイクロファイバーの代わりに、より可視光線の吸収が少ないインジウム−錫酸化物(以下、ITOと呼ぶことがある)、錫−アンチモン酸化物(以下、ATOと呼ぶことがある)等の導電性酸化物からなる導電フィラーを用いることが好ましいものと考えられる。中でもITOはATOに比べて抵抗値が低いためより好ましいと考えられる。
これまで、りん片状や針状の導電性酸化物微粒子に関しては、まず、りん片状の酸化物粉末を得る方法として、無機酸化物、含水無機酸化物等のコロイド溶液を凍結し、コロイド溶液の溶媒の結晶面と結晶面の間隙に無機酸化物粒子や含水酸化物粒子を析出させた後、乾燥して脱溶媒し、含水酸化物の場合は更に焙焼して製造する方法(特許文献3参照)が知られている。
【0010】
また、針状の酸化物粉末を得る方法としては、針状の蓚酸錫を加熱分解して針状錫酸化物を得る方法(特許文献4参照)、硝酸インジウムの高温加熱濃縮スラリーから回収される白色針状インジウム化合物粉末から針状のインジウム−錫酸化物(ITO)粉末を得る方法(特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)等が提案されている。更に、特許文献5記載の方法で得られたインジウム−錫酸化物(ITO)針状粉末を導電フィラーとして適用し、透明樹脂バインダーが溶解した溶媒を含有する透光性導電塗料(導電ペースト)及び透光性導電膜が提案されている(特許文献8参照)。
【0011】
しかしながら、上述のITO針状粉末を導電フィラーに用い、透明樹脂バインダーが溶解した溶媒を含有する透光性導電塗料で形成される導電膜において、着色成分を配合する試みは行われておらず、着色成分による導電性への影響や着色性に関しては、これまで全く知見が得られていない。
更には、導電フィラーとしてのITO針状粉末を前述の粉体塗装用の溶融性又は半溶融性の有色樹脂微粒子と組み合わせた着色導電塗料に関しても、これまで全く知られていない。
【0012】
【特許文献1】特表2003−515652号公報
【特許文献2】特開平9−111135号公報
【特許文献3】特開昭62−3003号公報
【特許文献4】特開昭56−120519号公報
【特許文献5】特開平6−293515号公報
【特許文献6】特開平6−293516号公報
【特許文献7】特開平6−293517号公報
【特許文献8】特開平6−309922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、特に金属からなる基材に塗布した場合に、導電性を有すると同時に黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を示す着色導電膜を形成できる着色導電塗料を提供し、併せてこのような特性を具備する着色導電膜付き基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは、かかる従来の問題を解決すべく、鋭意検討した結果、加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子を加熱して溶融又は半溶融させて得られる着色膜に対し、導電性酸化物針状粉末を配合することで、上記導電性酸化物針状粉末が有色樹脂からなるバインダーマトリックス中に三次元導電ネットワーク構造を形成させ、着色膜本来の鮮やかな膜色を損なうことなく、膜に導電性を付与することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の請求項1に係る発明は、着色導電塗料であって、溶媒中に、導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が分散していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項2に係る発明は、本発明の請求項1記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記導電性酸化物針状粉末のアスペクト比(短径に対する長径の比)が5以上であることを特徴とし、
本発明の請求項3に係る発明は、本発明の請求項1または2記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記導電性酸化物針状粉末が、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された針状粉末であることを特徴とし、
本発明の請求項4に係る発明は、本発明の請求項3記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記金属酸化物が、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウムから選択された少なくとも一種であることを特徴とし、
本発明の請求項5に係る発明は、本発明の請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子の重量比が、10:90から50:50であることを特徴とし、
本発明の請求項6に係る発明は、本発明の請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記有色樹脂微粒子が、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル−ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン11、ナイロン12)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、塩化ビニル樹脂から選択された少なくとも一種の有色樹脂微粒子であることを特徴とし、
本発明の請求項7に係る発明は、本発明の請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明に係る着色導電塗料を前提とし、上記溶媒が、上記加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度よりも高い沸点の溶媒を少なくとも1種類以上含有することを特徴とする。
【0017】
次に、本発明の請求項8に係る発明は、着色導電膜付き基材の製造方法であって、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶媒中に分散している着色導電塗料を基材上に塗布した後、該基材を加熱することにより溶媒の除去および上記有色樹脂微粒子の溶融又は半溶融を行い、上記導電性酸化物針状粉末とバインダーマトリックスとしての有色樹脂からなる着色導電膜を得ることを特徴とする。
本発明の請求項9に係る発明は、本発明の請求項8に記載の着色導電膜付き基材の製造方法を前提とし、
上記溶媒の除去および上記有色樹脂微粒子の溶融又は半溶融を行うにあたり、上記基材上に塗布された塗布膜中の溶媒を少なくとも一部残留させた状態で、有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度に加熱して、有色樹脂微粒子を溶融又は半溶融させながら溶媒を完全に除去することを特徴とし、
本発明の請求項10に係る発明は、本発明の請求項8または9に記載の発明に係る着色導電膜付き基材の製造方法を前提とし、上記基材が金属を主成分とする基材であることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明の請求項11に係る発明は、本発明の請求項8〜10に記載のいずれか1項の方法で得られた着色導電膜付き基材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る着色導電塗料によれば、導電性酸化物針状粉末とバインダーとしての有色樹脂微粒子を溶媒中に分散させているため、この着色導電塗料を用いて得られる着色導電膜は、導電性酸化物針状粉末が有色樹脂からなるバインダーマトリックス中に三次元導電ネットワーク構造を形成することができ、導電性を有し、かつ黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を有することが可能となる。
【0020】
また、この着色導電塗料を用いて形成された本発明に係る着色導電膜付き基材は、例えば、金属からなる基材を用いた場合に、金属基材の導電性を大きく損なうことがないため、優れた意匠性を有する帯電防止材、センサ読み取り用印刷膜付き材料等に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0022】
本発明者は、着色導電塗料において、従来の溶媒に溶解した樹脂バインダーに代えて、粉体塗装用の有色樹脂微粒子を微粒子のままバインダーとして用いる(最終的には有色樹脂微粒子は溶融又は半溶融して着色導電膜のバインダーマトリックスとなる)と同時に、この有色樹脂微粒子と導電性酸化物針状粉末を併用することで、膜厚が厚く膜強度、耐食性、耐候性に優れ、かつ導電性と鮮やかな着色を有する着色導電膜を形成することが可能であることを見出した。
即ち、導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶融してなるバインダーマトリックスからなる着色膜において、上記導電性酸化物針状粉末は少量の配合割合でも有色樹脂からなるバインダーマトリックス中に三次元導電ネットワーク構造を形成するため、膜の導電性を大幅に損なうことなく、鮮やかな膜色を示すことが可能であることを見出した。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
【0023】
本発明に用いる導電性酸化物針状粉末としては、例えば、酸化錫または酸化亜鉛を主成分とする針状粉末(例えば、錫アンチモン酸化物(ATO)針状粉末、フッ素錫酸化物(FTO)針状粉末、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)針状粉末、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)針状粉末等)や、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された針状粉末が挙げられる。中でも、導電性に優れる点で、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された針状粉末が望ましい。
ここで、酸化インジウムにドープされる上記金属酸化物としては、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウム等が挙げられ、これ等単独あるいは複数種類併用してもよい。上記それぞれの金属酸化物がドープされた酸化インジウム針状粉末は、インジウム錫酸化物(ITO)針状粉末、インジウム−ジルコニウム酸化物(IZrO)針状粉末、インジウム亜鉛酸化物(IZO)針状粉末、インジウム−タングステン酸化物(IWO)針状粉末、インジウム−チタン酸化物(ITiO)針状粉末、インジウム−ニオブ酸化物(INbO)針状粉末、インジウム−ハフニウム酸化物(IHfO)針状粉末、インジウム−バナジウム酸化物(IVO)針状粉末であるが、これらの中でもITO針状粉末が最も高特性であるため特に好ましい。
【0024】
以下、酸化錫がドープされた酸化インジウムにより構成された導電性酸化物針状粉末(ITO針状粉末)を一例に挙げ、本発明に係る着色導電膜及び着色導電塗料に適用される導電性酸化物針状粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0025】
まず、インジウムメタルを硝酸に溶解した後、液温130〜150℃で加熱濃縮すると、系内から水および硝酸が蒸発し次第に濃厚な白色のスラリーとなる。この白色スラリーを、高温のままろ過した後、多量の純水で洗浄することで、白色針状インジウム化合物粉末が得られる。この白色針状インジウム化合物粉末は、インジウムの塩基性硝酸塩と考えられ、通常、Inが55〜68重量%、NOが5〜23重量%程度含有している。
【0026】
上記白色針状化合物粉末を大気中300℃以上で仮焼して酸化インジウム針状粉末とする(特許文献5参照)。得られた酸化インジウム針状粉末は、平均粒径0.01〜0.07μm程度の1次粒子で構成された針状の2次粒子からなり、その1次粒子間に細孔が形成されている。
【0027】
次いで、上記酸化インジウム針状粉末の細孔中に四塩化錫を毛管凝縮させた後、大気中の湿度で加水分解させ、更に700℃以上、好ましくは1000〜1300℃で焼成した後、還元性ガス雰囲気下で還元処理を行うと、低抵抗のITO針状粉末が得られる(特許文献7参照)。尚、ITO針状粉末中の錫の含有量は、導電性の観点から、1〜12重量%、好ましくは2〜10重量%が良い。
【0028】
また、別の方法として、上記酸化インジウム針状粉末に仮焼により酸化錫となる錫化合物を被覆して700℃以上(例えば1000℃)で焼成してもITO針状粉末を得ることができる(特許文献6参照)。
【0029】
ここで、上記ITO針状粉末の比表面積は、4〜20m/g、好ましくは7〜20m/gが好ましい。比表面積が4〜20m/gの範囲であれば、導電性に優れると共に、白色(ニュートラル)に近い針状粉末となるためである。比表面積が4m/g未満だと、ITO針状粉末の1次粒子径に起因するためか、黄緑色のITO針状粉末となり、青色系の着色導電膜の場合には鮮やかな色が得にくくなる場合がある。逆に20m/gを超えるとITO針状粉末粒子の色調の問題は生じないが1次粒子径が小さくなるため、1次粒子同士の接触部分が脆弱となりITO針状粉末の導電性や耐久性(特に高温高湿耐久性)を大幅に悪化させるため好ましくない。
【0030】
上記ITO針状粉末を得るためには、その製造工程において、上記焼成温度を500〜900℃程度で行うことが必要で、かつ、得られたITO針状粉末の還元処理条件の制御において還元ガスの種類(水素、アルコールなど)、ガス流量、処理温度、処理時間等を調整することにより達成できる。
【0031】
以上のように、適切な比表面積有し、適度に還元処理されたITO針状粉末においては、針状粉末のL表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°)が、L=82〜91、a=−8〜2、b=0〜10となり、極めて白色(ニュートラル)に近くなる。ここで、L表色系において、Lは明るさを示し、数値が大きいほど明るく、aは色の方向を示し、aは赤方向、−a方向は緑方向、bは黄方向、−bは青方向を示しており、数値が大きいほど色鮮やかになり、両方とも小さくなるほどニュートラルな色(白−灰−黒系)となる。本発明の着色導電膜や着色導電塗料においては、着色する色の種類にもよるが、基本的には、Lが大きく(明るく)、aが小さい(ニュートラルな色)、すなわち白色が好ましい。
【0032】
この製造方法により得られる上記ITO針状粉末は、長径(長さ)5〜300μm程度、アスペクト比5以上で、濃縮条件によりアスペクト比が30程度のものまで得ることができる。また、この粉末を980Pa(100kgf/cm)の圧力を加えてペレット状にしたときの比抵抗(以下、圧粉抵抗値という)は、上述のITO針状粉末を適度に還元処理することにより0.02〜0.2Ω・cm程度が得られるが、好ましくは0.02〜0.12Ω・cmの範囲内に制御するとよい。
【0033】
尚、本発明で適用されるITO針状粉末は、上述した方法以外の製造方法、例えば、硝酸インジウムと硝酸錫の溶液から尿素による均一沈殿法により針状水酸化物を得、その後仮焼する方法等により長さ1〜5μm程度のものも得ることが可能である。
【0034】
また、ITO針状粉末を例に挙げ、本発明に係る着色導電膜及び着色導電塗料に適用される導電性酸化物針状粉末の製造方法について記したが、酸化インジウムにドープされる金属酸化物としては、上記酸化錫以外に、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウム等が挙げられ、これ等単独あるいは複数種類併用してもよい。そして、上記金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された針状粉末は、上記ITO針状粉末と同等の性能を有している。
【0035】
ここで、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された導電性酸化物針状粉末のアスペクト比を5以上とするのは、有色樹脂微粒子が溶融してなるバインダーに対し少量の使用で十分な導電性が得られるようにするためである。アスペクト比が5未満であると、少量の導電性フィラーの添加で高い導電性を得ることができなくなるため、導電性酸化物針状粉末の配合割合が増加して膜の色が鮮やかでなくなったり(くすんだり)、導電性酸化物針状粉末同士の接触を着色成分が阻害しやすくなるからである。尚、アスペクト比は高い方がよく、好ましくは10以上が良い。
【0036】
次に、本発明で適用される導電性酸化物針状粉末の長径(長さ)に関して特に制限はないが、1〜300μm、好ましくは5〜100μmがよい。長径が大きい程、粒子同士の接点の数が少なくて低抵抗の膜が得られることと、例えば、紙等の基材に塗布する場合、その表面に繊維等の数μm程度の凹凸が存在し、長径が1μm以上あると、このような凹凸が存在しても針状粒子同士の接触が保たれ、必要な導電性が得られるからである。一方、長径が300μmを超えると、例えば、スクリーン印刷時にスクリーンの網目を通り難くなり、印刷に支障を来す場合がある。一般的には、100μm以下の長径のものが好ましい。但し、100メッシュ以下の粗い目のスクリーンを用いて印刷する場合はこの限りではない。本発明に係る着色導電塗料では比較的大きな導電性酸化物針状粉末を用いているが、200μm程度の幅の線をスクリーン印刷することは可能である。
【0037】
本発明で適用される加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子は、前述のように、静電粉体塗装法で用いられる有色樹脂微粒子であればよく、該有色樹脂微粒子は、加熱すると半溶融状態で架橋反応する熱硬化性樹脂微粒子であり、具体的には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等の微粒子が挙げられる。
また、流動浸漬塗装法で用いられる有色樹脂微粒子では、加熱すると溶融する熱可塑性樹脂微粒子であり、具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、変性エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA:Ethylene−Vinyl Acetate)樹脂等の微粒子が挙げられる。
尚、上記静電粉体塗装法や流動浸漬塗装法で用いられる有色樹脂微粒子は、ベースとなる上記各種樹脂に着色剤が配合された微粒子であり、上記着色剤としては、例えば、有機顔料(キナクリドン等のキナクリドン系、ピグメントレッド等のアゾ系、フタロシアニンブルー等のフタロシアニン系等)、無機顔料(酸化チタン、酸化鉄、チタン黄、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、コバルトブルー等)、炭素系顔料(カーボンブラック、グラファイト等)等が挙げられる。これら着色剤が配合され、赤、青、黄、緑、白、黒等の種々の色に着色された有色樹脂微粒子は、用途に応じて適宜選択すればよい。
上記有色樹脂微粒子の大きさも、用途に応じて適宜選択すればよいが、有色顔料粒子の塗料中での分散安定性(沈降性)や着色導電塗料の塗布性等を考慮すると、0.5μm〜200μm、好ましくは1μm〜100μmが望ましい。0.5μm未満では顔料自体の微細化が困難になると共に、製造コストが高くなり、200μmを超えると顔料が沈降しやすくなると同時に、例えばスクリーン印刷による塗布において、用いるスクリーンメッシュのサイズによっては目詰まりを生じる可能性があるからである。
【0038】
次に、本発明に係る着色導電塗料の製造方法について以下説明する。
【0039】
まず、導電性酸化物針状粉末を有色樹脂微粒子および溶媒と混合し、必要に応じ分散剤を添加した後、分散処理を行う。
分散剤としては、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤、各種高分子分散剤、アニオン系、ノニオン系、カチオン系等の各種界面活性剤が挙げられる。これら分散剤は、用いる導電性酸化物針状粉末の種類や分散処理方法に応じて適宜選定される。分散処理には、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル、スリーロールミル等の汎用の方法を適用することができる。
【0040】
上記導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子の重量比は、10:90から50:50、好ましくは、15:85から30:70、であることが望ましい。有色樹脂微粒子が導電性酸化物針状粉末:着色成分=50:50より少ないと得られる着色導電膜の着色が不十分な場合があり、有色樹脂微粒子が導電性酸化物針状粉末:着色成分=10:90より多いと針状粒子同士の接触が上手くとれず着色導電膜の抵抗が高くなる場合があるからである。
【0041】
また、着色導電塗料に用いる溶媒としては、特に制限はなく、塗布方法、成膜条件、基板に対する溶解性等を考慮して適宜選定することができる。例えば、水、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3−オクチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等、及びこれらのいくつかの混合液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ただし、着色導電塗料の塗布(印刷)をスクリーン印刷で行う場合には、塗料の粘度を数百〜数千mPa・s以上(20〜25℃)に高める必要があるため、高粘度のジプロピレングリコール(粘度=107mPa・s[20℃]、沸点=232℃)、1、3−ブチレングリコール(1、3−ブタンジオール;粘度=130mPa・s[20℃]、沸点=208℃)、ペンタメチレングリコール(1、5−ペンタンジオール;粘度=128mPa・s[20℃]、沸点=242℃)、1、3−オクチレングリコール(=2−エチル1、3−ヘキサンジオール;粘度=323mPa・s[20℃]、沸点=243℃)等のアルキレングリコールやジアルキレングリコールを溶媒として用いることが望ましい。特に、1、3−オクチレングリコールは粘度が高いため、最も好ましい。
また、用いる溶媒の少なくとも1種類以上の溶媒の沸点が、有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度よりも高いことが好ましい。これは、着色導電塗料を基材に塗布し、有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度程度に加熱した場合にも、高沸点の溶媒は直ぐには完全に揮発せずに、一部がしばらく塗布膜中に残留し、有色樹脂微粒子の溶融を促進して塗布膜の流動性を高め、着色導電膜の均一性(平滑性、ピンホール防止)を向上させる働きを有するためである。
【0042】
次に、本発明に係る着色導電塗料の基板上への塗布は、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、ロールコート法等を用いることができる。
上記塗布方法で基材上に塗布された着色導電塗料は、加熱して溶媒が除去されるとともに、有色樹脂微粒子を溶融又は半溶融させることで、導電性酸化物針状粉末と有色樹脂のバインダーマトリックスからなる着色導電膜とすることができる。
また、前述のように、着色導電塗料において、有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度よりも高い沸点の溶媒を少なくとも1種類以上配合することで、塗布膜中の溶媒を少なくとも一部残留させた状態で、有色樹脂微粒子を溶融又は半溶融させながら溶媒を完全に除去することで、均一な着色導電膜を得ることが可能となる。
【0043】
このように導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶媒中に分散した本発明に係る着色導電塗料を用いて形成される着色導電膜は、導電性を有し、しかも黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を有するため、この着色導電膜が金属等の基板上に形成された着色導電膜付き基材は、優れた意匠性を有する帯電防止材、センサ読み取り用印刷膜付き材料等に適用できる。
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の記述において「%」は、透過率、ヘイズ値の%を除いて「重量%」を示している。
【0045】
尚、L表色系における導電性酸化物針状粉末の粉末色、着色(導電)膜と基材の色は、日本電色工業(株)社製の簡易型分光色差計(NF333)で測定した。
【0046】
塗料の粘度は、塗料温度25℃で、B型粘度計を用いて測定した。また、着色導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)社製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。
【0047】
[実施例1]
導電性酸化物針状粉末としてITO針状粉末(住友金属鉱山製、SCP−X700B;平均長さ:約40μm、長さに対する太さの比(アスペクト比):約15、錫含有量:2.4重量%、比表面積:9.0m/g、L表色系における粉体色(光源:D65、視野角:10°):L=84.6、a=−3.9、b=8.2、圧粉抵抗値(980Pa(100Kgf/cm)で測定):0.05Ω・cm)を用いた。
有色樹脂微粒子として赤橙色のナイロン11微粒子(溶融温度(融点)=約180℃、粒子径:1μm〜数十μmの幅広い粒度分布)を用いた。また、溶媒としては、1、3−オクチレングリコール(粘度=323mPa・s[20℃]、沸点=243℃)を用いた。
【0048】
上記ITO針状粉末を、上記有色樹脂微粒子を配合した上記溶媒に混合し、実施例1に係る着色導電塗料(ITO針状粉末:9.0%、有色樹脂微粒子:36.0%、1、3−オクチレングリコール:55.0%)を得た(導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子=20:80)。また、この着色導電塗料の粘度(25℃)は、約5300mPa・sであった。
【0049】
この実施例1に係る着色導電塗料を、基板としてのステンレス板[厚さ:0.5mm、表面抵抗値:0.002Ω/□、金属光沢(L=50.8、a=−0.1、b=2.2)]上にスクリーン印刷(東京プロセスサービス株式会社製、150メッシュ版[T150S])し、120℃×2分間加熱して、溶媒(1、3−オクチレングリコール)が完全に乾燥していない生乾きの状態で、更に、230℃×5分間加熱し、有色樹脂微粒子を溶融させると同時に溶媒を完全に乾燥除去して実施例1に係る着色導電膜付き基材を得た。
上記着色導電膜にはピンホール等の膜欠陥が見られず均一であった。また、この着色導電膜は基材と強力に密着しており、爪および金属片で擦っても基材からの剥離は生じなかった。
【0050】
この着色導電膜付き基材において、着色導電膜を介して求めた表面抵抗値は約0.14Ω/□、膜厚は約35μmであった。
【0051】
また、着色導電膜の色は、L表色系(光源:D65、視野角:10°)で、L=39.5、a=42.0、b=22.7であり、鮮やかな赤橙色であった。
【0052】
上記着色導電膜及び基板の色については、色彩色差計を用い、まず白色校正板で校正を行った後、着色導電膜及び基板に対し測定した。
【0053】
また、着色導電塗料の粘度は、塗料温度25℃で、B型粘度計を用いて測定した。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、ITO針状粉末を、有色樹脂微粒子を配合した溶媒に混合し、実施例2に係る着色導電塗料(ITO針状粉末:10.0%、有色樹脂微粒子:30.0%、1、3−オクチレングリコール:60.0%)を得た(導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子=25:75)。また、この着色塗料の粘度(25℃)は、約2400mPa・sであった。
【0055】
上記着色導電塗料を用いた以外は実施例1と同様に行い、実施例2に係る着色膜付き基材を得た。
上記着色導電膜にはピンホール等の膜欠陥が見られず均一であった。また、この着色導電膜は基材と強力に密着しており、爪および金属片で擦っても基材からの剥離は生じなかった。
【0056】
この着色導電膜付き基材において、着色導電膜を介して求めた表面抵抗値は約0.07Ω/□、膜厚は約28μmであった。
【0057】
また、着色導電膜の色は、L表色系(光源:D65、視野角:10°)で、L=39.3、a=37.6、b=20.6であり、鮮やかな赤橙色であった。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、導電性酸化物針状粉末を配合せずに比較例1に係る着色塗料(ITO針状粉末:0%、有色樹脂微粒子:33.3%、1、3−オクチレングリコール:66.7%)を得た(導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子=0:100)。また、この着色塗料の粘度(25℃)は、約800mPa・sであった。
【0059】
上記着色塗料を、着色導電塗料の代わりに用いた以外は実施例1と同様に行い、比較例1に係る着色膜付き基材を得た。
上記着色膜にはピンホール等の膜欠陥が見られず均一であった。また、この着色膜は基材と強力に密着しており、爪および金属片で擦っても基材からの剥離は生じなかった。
【0060】
この着色膜付き基材において、着色膜に導電性はなく(着色膜を介して求めた表面抵抗値=>1013Ω/□)、膜厚は約25μmであった。
【0061】
また、着色導電膜の色は、L表色系(光源:D65、視野角:10°)で、L=39.5、a=51.8、b=34.0であり、鮮やかな赤橙色であった。
【0062】
「評 価」
実施例1、2に係る着色導電膜付き基材と比較例1に係る着色膜付き基材を比較すると、膜の色に関しては、実施例1、2のLはそれぞれ39.5、39.3で、比較例1は39.5であり、実施例1、2のaはそれぞれ42.0、37.6で、比較例1は51.8であり、実施例1、2のbはそれぞれ22.7、20.6で、比較例1は34.0であり、実施例1、2および比較例1のいずれにおいても、Lが約40という高い値を示し、かつaが極めて大きいため、いずれも鮮やかな赤色系の色彩を有することが確認された。(実施例1、2および比較例1のいずれも、bが比較的大きいため、鮮やかな赤橙色である。)
一方、膜付き基材の導電性に関しては、実施例1、2の表面抵抗値がそれぞれ0.14Ω/□、0.07Ω/□と優れた導電性を示し、ステンレス基材の導電性(表面抵抗値:0.002Ω/□)を大きく損なっていないのに対し、比較例1の着色膜は表面抵抗値が1013Ω/□より大きく導電性を有していないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る着色導電塗料を用いて形成された着色導電膜は、導電性を有し、しかも鮮やかな着色を示すため、例えば、金属等の導電性の基材に対し、その導電性を大きく損なうことなく、黒のみならず、赤、青等の鮮やかな色の着色を示す導電膜を形成できる。従って、上記着色導電膜が形成された本発明の着色導電膜付き基材は、優れた意匠性を有する帯電防止材、センサ読み取り用印刷膜付き材料等として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に、導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が分散していることを特徴とする着色導電塗料。
【請求項2】
前記導電性酸化物針状粉末のアスペクト比(短径に対する長径の比)が5以上であることを特徴とする請求項1に記載の着色導電塗料。
【請求項3】
前記導電性酸化物針状粉末が、金属酸化物がドープされた酸化インジウムにより構成された針状粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の着色導電塗料。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウムから選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の着色導電塗料。
【請求項5】
前記導電性酸化物針状粉末:有色樹脂微粒子の重量比が、10:90から50:50であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の着色導電塗料。
【請求項6】
前記有色樹脂微粒子が、エポキシ樹脂、エポキシ−ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル−ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン11、ナイロン12)、変性エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、塩化ビニル樹脂から選択された少なくとも一種の有色樹脂微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の着色導電塗料。
【請求項7】
前記溶媒が、前記加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度よりも高い沸点の溶媒を少なくとも1種類以上含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の着色導電塗料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性酸化物針状粉末と加熱溶融性又は加熱半溶融性を有する有色樹脂微粒子が溶媒中に分散している着色導電塗料を基材上に塗布した後、該基材を加熱することにより溶媒の除去および前記有色樹脂微粒子の溶融又は半溶融を行い、前記導電性酸化物針状粉末とバインダーマトリックスとしての有色樹脂からなる着色導電膜を得ることを特徴とする着色導電膜付き基材の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒の除去および前記有色樹脂微粒子の溶融又は半溶融を行うにあたり、前記基材上に塗布された塗布膜中の溶媒を少なくとも一部残留させた状態で、有色樹脂微粒子が溶融又は半溶融する温度に加熱して、有色樹脂微粒子を溶融又は半溶融させながら溶媒を完全に除去することを特徴とする請求項8に記載の着色導電膜付き基材の製造方法。
【請求項10】
前記基材が金属を主成分とする基材であることを特徴とする請求項8または9に記載の着色導電膜付き基材の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10に記載のいずれか1項の方法で得られたことを特徴とする着色導電膜付き基材。

【公開番号】特開2009−179758(P2009−179758A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22028(P2008−22028)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】