説明

石炭ガス化発電設備

【課題】石炭ガス化ガスの乾式ガス精製設備において不純物の除去剤や配管等に炭素が析出することを防止することができる石炭ガス化発電設備を提供する。
【解決手段】石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスを脱硫装置6に送る配管21に、ガスタービンで仕事をした排気ガスを添加する。石炭ガス化ガスに、水蒸気及び二酸化炭素を含む排気ガスを添加することで、脱硫装置6においては、配管表面や脱硫剤に炭素が析出することが防止される。すなわち、排気ガスの添加により、水性シフト反応が促進され(1)、COのモル分率xCO2が増大する(2)。モル分率xCO2が増大すると、一酸化炭素から二酸化炭素及び炭素への反応であるBoudouard反応が抑制され、炭素の析出が抑制される(3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭ガス化発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は世界の広い地域に存在し、可採埋蔵量が多く、価格が安定しているため、供給安定性が高く発熱量あたりの価格が低廉である。かかる石炭を燃料とする火力発電の一つの方式として、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated Coal Gasfication Combined Cycle)が知られている。石炭ガス化複合発電では、石炭を不完全燃焼させて得られた石炭ガス化ガスを燃料としてガスタービンを駆動して電力を得ると共に、ガスタービンの排気熱を回収して蒸気を発生させ、発生した蒸気により蒸気タービンを駆動して電力を得ている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
石炭ガス化炉で発生する石炭ガス化ガスには、燃焼される一酸化炭素の他に、硫黄化合物(硫化物)等の不純物や後続機器に対して影響を与える不純物、微量成分が含まれるため、ガス精製設備により石炭ガス化ガスの不純物を除去して燃料ガスとしている。
【0004】
このようなガス精製設備としては、石炭ガス化ガスの温度を露点を上回る温度に維持して不純物を除去する乾式のガス精製設備がある(例えば、特許文献2参照)。かかる乾式ガス精製設備によれば、石炭ガス化ガスを高温のまま精製することができるので、温度や圧力の昇降を抑えて燃料ガスを得ることができる。
【0005】
しかしながら、石炭ガス化炉で発生した石炭ガス化ガスは1000℃以上であり、乾式ガス精製設備で不純物を除去するために適した温度(450℃程度)にまで降温する必要があるが、このとき、石炭ガス化ガス中の一酸化炭素が固体の炭素として析出してしまうことが懸念される。
【0006】
すなわち、石炭ガス化炉から乾式ガス精製設備に至る配管や、乾式ガス精製設備の反応器の材質は鉄を含むため、鉄を触媒として配管等の表面に炭素が析出し、得られる燃料ガスのカロリーが低下したり、機器の劣化・損傷を誘発する虞がある。また、乾式脱硫プロセスで用いられる剤、例えば硫黄化合物を除去するための亜鉛フェライトなどの脱硫剤が炭素析出の触媒として作用してしまい、炭素析出により脱硫剤の本来の脱硫作用を阻害してしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−171148号公報
【特許文献2】特開2009−173717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、石炭ガス化ガスの乾式ガス精製設備において不純物の除去剤や配管等に炭素が析出することを防止することができる石炭ガス化発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1の態様は、石炭及び酸化剤の反応により石炭ガス化ガスを生成する石炭ガス化炉と、前記石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスの温度を、露点を上回る温度に維持して運転する乾式法により石炭ガス化ガス中の不純物を除去する乾式ガス精製設備と、前記乾式ガス精製設備で得られた燃料ガスを燃焼させる燃焼手段と、前記燃焼手段からの燃焼ガスを膨張することで動力を得るガスタービンと、前記乾式ガス精製設備において炭素の析出を抑制する流体として二酸化炭素ガス及び水蒸気を含む前記ガスタービンの排気ガスを、前記乾式ガス精製設備の上流で前記石炭ガス化ガスに添加する流体添加手段とを備えることを特徴とする石炭ガス化発電設備にある。
【0010】
かかる第1の態様では、乾式ガス精製設備の配管表面や不純物の除去剤に、石炭ガス化ガス中の一酸化炭素から炭素が析出することを防止することができる。これにより、除去剤が有する不純物の除去機能が炭素析出で阻害されることが防止され、確実に石炭ガス化ガスを精製することができる。また、乾式ガス精製設備の配管表面などで炭素析出が抑制されるので、乾式ガス精製設備の劣化損傷が抑えられる。
【0011】
さらに、系内のガスタービンで仕事をした排気ガスを用いることで、脱硫剤の性能と、炭素析出の抑制とを両立することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する石炭ガス化発電設備において、前記排気ガスは、石炭ガス化ガス中の二酸化炭素ガス及び一酸化炭素ガスの反応条件におけるモル分率をそれぞれxCO2及びxCOとし、石炭ガス化ガスの圧力をPとし、下記数1で定義されるKが増大するようにxCO2とxCOとの比を変化させる流体であることを特徴とする石炭ガス化発電設備にある。
【0013】
[数1]
=xCO2/(xCO×P)
【0014】
かかる第2の態様では、炭素析出を抑制するために添加する流体として上記Kが増大するようにxCO2とxCOとの比を変化させる流体を用いることができる。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する石炭ガス化発電設備において、前記ガスタービンの排気ガスの熱を回収して得られた蒸気を膨張することで動力を得る蒸気タービンを備えることを特徴とする石炭ガス化発電設備にある。
【0016】
かかる第3の態様では、蒸気タービンを備えることで、より一層、発電効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、石炭ガス化ガスの乾式ガス精製設備において不純物の除去剤や配管等に炭素が析出することを防止することができる石炭ガス化発電設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る石炭ガス化発電設備の構成図である。
【図2】実施形態1に係る炭素析出防止の原理を示す概念図である。
【図3】石炭ガス化ガスに添加した排気ガスと炭素析出量との関係を示すグラフである。
【図4】石炭ガス化ガスに排気ガスを添加した場合の脱硫性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態では、石炭ガス化発電設備の一例として、ガスタービン及び蒸気タービンを備えた石炭ガス化発電設備について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る石炭ガス化発電設備の構成図である。図示するように、石炭ガス化発電設備1は、石炭ガス化炉2を備えている。石炭ガス化炉2には、系内からの二酸化炭素が供給され、酸化剤(酸素、空気)の反応により石炭ガス化ガスgが生成される。二酸化炭素及び酸素で石炭をガス化することで、二酸化炭素のガス化促進効果により、空気、酸素濃度を高めた空気、または酸素で石炭をガス化することに比べ、炉内炭素転換率が大幅に向上する。
【0021】
石炭ガス化ガスgには、一酸化炭素や水素ガスなどの可燃成分が含まれ、また、水溶性不純物、凝縮性不純物、粒子状不純物、及びガス状不純物が含まれている。二酸化炭素及び酸素で石炭をガス化することで、石炭ガス化ガスgに含まれる一酸化炭素や水素は空気で石炭をガス化することに比べ、高濃度になる。石炭ガス化ガスgは、図示しない除塵手段により除塵されて熱交換器3で所定温度に調整され、乾式ガス精製設備4に送られる。
【0022】
乾式ガス精製設備4は、石炭ガス化ガスgの温度を、露点を上回る温度に維持して運転する乾式法により石炭ガス化ガスgの不純物を除去する。本実施形態では、乾式ガス精製設備4は、不純物を除去する除去装置の一例として、ハロゲン化物除去装置5と脱硫装置6とを備えている。
【0023】
ハロゲン化物除去装置5は、石炭ガス化ガスgに含まれるハロゲン化物と化学反応するハロゲン化物吸収剤を備えている。ハロゲン化物吸収剤としては、アルミニウムとアルカリ物質との複合酸化物であるアルミン酸アルカリを含有すると共に強度補強添加剤を含有するものを用いることができる。また、アルミン酸アルカリ以外のハロゲン化物吸収剤を用いることも可能である。
【0024】
脱硫装置6は、石炭ガス化ガスgに含まれる硫黄化合物と化学反応する金属酸化物系脱硫剤を備えている。金属酸化物系脱硫剤は、硫化カルボニル(COS)や硫化水素(HS)等の硫黄化合物を低濃度まで除去することができる。金属酸化物系脱硫剤としては、硫黄化合物と化学反応する金属酸化物を含んでいれば良く、例えば、酸化鉄を主成分とする脱硫剤、亜鉛フェライトを主成分とする脱硫剤、酸化亜鉛を主成分とする脱硫剤を用いることができる。
【0025】
なお、乾式ガス精製設備4としては、上述したハロゲン化物除去装置5と脱硫装置6の他に、ガスに含まれるアンモニアを除去するアンモニア除去装置や、ガスに含まれる水銀を除去する水銀除去装置を用いてもよい。
【0026】
このような乾式ガス精製設備4に石炭ガス化ガスgが送られると、ハロゲン化物除去装置5でハロゲン化物が除去され、脱硫装置6で硫黄化合物が除去されて精製され、燃料ガスfとされる。
【0027】
燃料ガスfは、燃焼器7に送られる。さらに燃焼器7には、酸素製造装置8で製造された高濃度の酸素が送られ、燃料ガスfが燃焼される。酸素製造装置8で製造された酸素は石炭ガス化炉2にも供給される。酸素製造装置8は、例えば、圧力スウィング吸着により窒素ガスが濃縮されて空気から除去されて加圧された酸素が供給される設備や、深冷設備からの酸素が所定圧力に加圧されて供給される設備を適用することができる。
【0028】
燃焼器7での燃焼により生じた燃焼ガスは、ガスタービン10に送られて膨張され、発電動力が得られる。ガスタービン10で仕事を終えた排気ガスe(二酸化炭素を主成分とする作動流体)は排熱回収ボイラ(HRSG)11で熱回収され、HRSG11で熱回収された排気ガスeは圧縮機9で圧縮され、圧縮機9で圧縮された排気ガスeは、再生熱交換器12で昇温されて燃焼器7に投入される。再生熱交換器12は、ガスタービン10からの排気ガスeの一部が送られ、排気ガスeの熱回収を行う。
【0029】
また、HRSG11で熱回収された排気ガスeの一部は、後述する二酸化炭素回収系で回収される。
【0030】
ガスタービン10の出口側の排気ガスeは、二酸化炭素ガスを主成分とする作動流体であるため比熱比が小さく、圧縮機9及びガスタービン10の出入口温度差が小さくなり、再生熱交換器12による熱効率を大幅に向上させることができる。つまり、再生による熱効率の効果を得やすいシステムとなっている。
【0031】
HRSG11で発生した蒸気は蒸気タービン13に送られ、蒸気タービン13で膨張され、動力が得られる。上述した圧縮機9及びガスタービン10と蒸気タービン13は、同軸状態で接続され、蒸気タービン13には発電機14が接続されている。直列に接続されたガスタービン10及び蒸気タービン13の動力により発電機14が駆動され、ガスタービン10と蒸気タービン13による複合発電が行われる。
【0032】
蒸気タービン13で仕事を終えた排気蒸気は復水器15で復水されて図示しない給水ポンプにより給水加熱器16に送られる。給水加熱器16にはHRSG11で熱回収された排気ガスeの一部が送られ、その回収された熱により復水器15で凝縮された復水が加熱され、HRSG11に供給される。
【0033】
HRSG11で熱回収された排気ガスの一部は、二酸化炭素回収系により二酸化炭素が回収される。すなわち、排気ガスe(COを含むガス)は、給水加熱器16で冷却されたのち、汽水分離器(冷却器)17で水分が分離され、水分が分離された排気ガスe(CO)は圧縮機18で所定圧力に加圧された後、更に、汽水分離器(冷却器)19で冷却される。冷却されて水分が除去された排気ガスe(CO)は圧縮機20で所定圧力に加圧されて石炭ガス化炉2に送られる。余剰のCOは加圧して液化する等により回収される。
【0034】
石炭ガス化炉2には、酸化剤として圧縮機9の流体が抽気されて供給される(A)。熱交換器3には、復水器15からの復水の一部が供給され(B)、石炭ガス化ガスgとの熱交換により蒸気を発生させ、発生した蒸気は蒸気タービン13に送られる(C)。
【0035】
上述した石炭ガス化発電設備1では、石炭ガス化炉2において、酸化剤と石炭と酸素製造装置8から送られる酸素と、回収された二酸化炭素ガスの反応により石炭ガス化ガスgが生成され、石炭ガス化ガスgを乾式ガス精製設備4で精製して燃料ガスfとし、この燃料ガスfを燃焼器7に送り、燃焼器7で酸素燃焼することで二酸化炭素を主成分とする比熱比の小さな燃焼ガス(作動流体)が得られ、燃焼器7からの燃焼ガスはガスタービン10で膨張され発電動力が得られる。ガスタービン10で仕事を終えた排気ガスeはHRSG11で熱回収され、HRSG11及び熱交換器3からの発生蒸気は蒸気タービン13に送られ発電出力が得られる。また、排気ガスeの一部は、再生熱交換器12に送られて熱回収され、石炭ガス化炉2に送られて石炭のガス化に用いられ、又は回収される。
【0036】
ここで、流体添加手段について説明する。流体添加手段は、脱硫装置6において炭素の析出を抑制する流体として、二酸化炭素ガス及び水蒸気を主成分とするガスタービン10の排気ガスeを、脱硫装置6の上流で石炭ガス化ガスgに添加するものである。
【0037】
具体的には、流体添加手段を、圧縮機9で圧縮された排気ガスeの一部を配管21に供給する構成とする(D)。排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加する場所は、脱硫装置6(乾式ガス精製設備4)の上流側であり、かつ、熱交換器3の下流となる配管21とした。
【0038】
配管21に添加される排気ガスeの圧力は、配管21に送られる石炭ガス化ガスgの圧力と同等以上にする。ここで、圧縮機9では、乾式ガス精製設備4で精製された石炭ガス化ガスgの圧力と同等となるように、排気ガスeの圧力を設定している。一方、石炭ガス化ガスgは、乾式ガス精製設備4の前後で大きな圧力損失はない。すなわち、圧縮機9で圧縮された排気ガスeの圧力は、配管21の石炭ガス化ガスgの圧力とほぼ同等である。したがって、流体添加手段の構成としては、圧縮機9から配管21に排気ガスeを供給することが最も好ましい。なお、ガスタービン10で排気された排気ガスeの圧力を配管21の石炭ガス化ガスgの圧力と同等以上にすることができるならば、圧縮機9で排気ガスeを昇圧する場合に限られない。
【0039】
また、配管21に添加される排気ガスeの温度は、配管21に送られる石炭ガス化ガスgの温度と同等であることが好ましい。石炭ガス化ガスgの温度は、乾式ガス精製設備4の運転温度に調整されているからである。なお、排気ガスeの温度は石炭ガス化ガスgの温度と同等には限られない。例えば、配管21の石炭ガス化ガスgに排気ガスeを添加し、その後、乾式ガス精製設備4の運転温度に温度調整してもよい。
【0040】
石炭ガス化ガスgに添加する排気ガスeの流量は、数2に示すKを増大させるのに必要な流量とする。すなわち、石炭ガス化ガスg中の二酸化炭素ガス及び一酸化炭素ガスの流体添加手段を講ずる前のモル分率をそれぞれxCO2及びxCOとし、石炭ガス化ガスgの圧力をPとしたとき、数2のとおりKはそれらモル分率および全圧の関数で表される。乾式ガス精製設備4よりも上流において排気ガスを添加すると、xCO2が増大しxCOが減少する。その際xCO2とxCOの値は石炭ガス化ガスの組成と排気ガスの組成および混合割合から計算できるので、炭素析出の抑制に望ましいKの値にするのに必要な流量の排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加する。
【0041】
[数2]
=xCO2/(xCO×P)
(なお、二酸化炭素の分圧をPCO2、一酸化炭素の分圧をPCOとすれば、PCO2=xCO2×P、PCO=xCO×Pであるので、K=PCO2/(PCOとも表現できる。同式の詳細な説明は、本明細書末のKの説明を参照のこと。)
【0042】
全圧Pは、石炭ガス化炉2の運転条件に応じて決まる高圧の石炭ガス化ガスgを流通して精製する乾式脱硫プロセスの運転圧力であるから、できるだけ高い圧力を保ったまま後流のガスタービンに供給した方が高い発電出力が得られ発電効率も向上するので、Kを増大させる目的でPを低下させることは望ましくない。また、石炭ガス化ガスgの組成は、石炭ガス化炉2の特性で決まるので、流体添加手段を講ずる前のxCO2やxCOを自由に変えることはできない。そこで、排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加することで、Kを増大させるようにxCO2とxCOとの比を変化させることが合理的で適切なKの増大方法である。
【0043】
上述したように排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加することで、脱硫装置6の配管表面や脱硫剤に炭素が析出することが防止される。図2を用いて、脱硫装置6で炭素析出が防止される原理を説明する。
【0044】
図示するように、配管21では、石炭ガス化炉2から送られた石炭ガス化ガスgに、圧縮機9から供給された排気ガスeが添加される。この排気ガスeに含まれる水蒸気は、下記反応式(a)に示す水性シフト反応を左辺から右辺に進ませる(1)。これにより、一酸化炭素のモル分率xCOが減少し、二酸化炭素のモル分率xCO2が増大するため、Kが増大する(2)。モル分率xCO2が増大すると、一酸化炭素から二酸化炭素及び炭素への反応であるBoudouard反応が抑制され、炭素の析出が抑制される(3)。
【0045】
CO+HO→CO+H (a)
【0046】
一方、排気ガスeに含まれる二酸化炭素は、モル分率xCO2を増大させる(2)。そして、水蒸気と同様に、Boudouard反応が抑制される(3)。
【0047】
このようにして、水蒸気及び二酸化炭素を含む排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加することで脱硫装置6において炭素の析出が抑制される。
【0048】
排気ガスeを石炭ガス化ガスgに添加した場合に、炭素析出が抑制されることを定量的に説明する。
【0049】
二酸化炭素及び酸素で石炭をガス化したときの、石炭ガス化ガスgに含まれる主成分の組成を化学平衡計算によって求めると表1の(1)のようになる。石炭ガス化炉の典型的な運転条件から、全圧Pは27.51 barに設定した。このときのKの値は0.0071である。この組成の石炭ガス化ガスgに排気ガスeを添加した。この排気ガスeは二酸化炭素と水蒸気とからなり、二酸化炭素の流量は石炭ガス化ガスの流量の7.6%であり、水蒸気の流量は3.0%である。このような排気ガスeが添加された石炭ガス化ガスgの組成は(2)となる。ここで、排気ガスeの温度は900℃であり、圧力は2.65MPaと設定した。
【0050】
排気ガスeの添加によりxCO2とxCOとの比が変化するため、Kの値は0.0148まで増大し、Boudouard反応の抑制効果がある。さらに、乾式ガス精製設備4で不純物を除去するために適した温度(450℃程度)にまで降温して、数2の水性ガスシフト反応が450℃の化学平衡まで進むと(3)の組成となる。このときのKの値は0.0231まで大幅に増大する。このように二酸化炭素及び水蒸気を含む排気ガスeを添加すること、および水性ガスシフト反応が進むこととの相乗効果によって、Kが大幅に増大するようにxCO2とxCOとの比を変化させることができるため、Boudouard反応の進行を抑制できる。
【0051】
【表1】

【0052】
図3は、排気ガスの添加量と炭素析出量との関係を示したグラフである。縦軸は、脱硫剤の重量に対する炭素析出量の割合(wt%)を表し、横軸は、石炭ガス化ガスの流量に対する排気ガスの流量の割合(%)を表している。
【0053】
同図に示すように、石炭ガス化ガスに排気ガスを添加した場合、排気ガスの添加量が約11%を超えたところで炭素の析出がゼロとなっている。
【0054】
このように、一定量以上の排気ガスを添加すると、脱硫剤に炭素が析出しなくなることが分かる。
【0055】
図4は、排気ガスの添加量と脱硫性能との関係を示したグラフである。縦軸は、脱硫装置6の出口における当該ガスに含まれる硫黄化合物の濃度(ppm)である。横軸は、脱硫剤の除去できる硫黄化合物の理論量を当該ガスで供給できる時間を「1」として、実際に当該ガスを供給した時間を比で表した無次元化時間である。また、石炭ガス化ガスに対する排気ガスの添加量は10%である。
【0056】
同図に示すように、石炭ガス化ガスに排気ガスを添加した場合、無次元化時間が0.8付近まで硫黄濃度はほぼゼロである。無次元化時間が0.9になった時点で、硫黄濃度が上昇傾向を示し始める。その後、無次元化時間が1.0付近を越えても硫黄濃度が引き続き上昇傾向を続け、無次元化時間が1.2付近で上昇傾向が収まっている。
【0057】
このように、石炭ガス化ガスに排気ガスを添加した場合でも、無次元化時間が1に達するまでの一定期間、脱硫剤が脱硫性能を維持していることが分かる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態に係る石炭ガス化発電設備1は、乾式ガス精製に先立ち、石炭ガス化炉2から供給される石炭ガス化ガスgにガスタービン10からの排気ガスeを添加することで、乾式ガス精製プロセスにおいて、脱硫剤や脱硫装置6の配管等に炭素が析出することを防止できる。このような炭素析出抑制効果により、脱硫剤は、脱硫作用が炭素析出により阻害されないので、石炭ガス化ガスgから硫黄化合物を除去して高カロリーの燃料ガスfを精製できる。
【0059】
また、乾式ガス精製設備4には、炭素が析出しにくい石炭ガス化ガスgが供給されるので、脱硫装置6が炭素析出で劣化・損傷することも抑制され、脱硫装置6の保守に要するコストを削減できる。さらに、脱硫装置6の配管等に特殊なコーティングを実施しなくてもよく、脱硫装置6に掛かるコストを更に削減することができる。脱硫剤についても、炭素が析出して交換を要する事態がなくなるので、長期に亘り使用可能となり、脱硫剤に掛かるコストも削減することができる。
【0060】
ここで、図2に示したように、脱硫装置6で炭素析出を抑制する流体として、二酸化炭素のみ、または水蒸気のみを個別に添加することも考えられる。
【0061】
しかし、水蒸気は、石炭ガス化ガスgに添加される濃度が高すぎると、脱硫装置6の脱硫性能が低下してしまう。一方、二酸化炭素は、水蒸気に比べて炭素析出を抑制する効果が少ない。
【0062】
このように、水蒸気及び二酸化炭素は、炭素析出を抑制する効果と脱硫剤の性能とがトレードオフの関係にある。したがって、本発明のように石炭ガス化ガスgに添加する流体として、二酸化炭素と水蒸気とを含む排気ガスを用いることで、脱硫剤の性能と、炭素析出の抑制とを両立することができる。
【0063】
例えば、排気ガスの添加量が石炭ガス化ガスに対して10%であれば、脱硫装置6における炭素析出量をゼロとし、また無次元化時間が「1」に近い時間まで、脱硫性能を維持することができる。
【0064】
さらに、圧縮機9が圧縮した排気ガスeは、石炭ガス化ガスgに添加するのに適した圧力、温度である。したがって、石炭ガス化ガスgの圧力、温度に合わせて排気ガスeの圧力、温度を調整するための特別な圧縮機等を設置する必要がなく、流体添加手段を低コストで構成することができる。
【0065】
〈他の実施形態〉
上述した実施形態では、圧縮機9、ガスタービン10、蒸気タービン13は一軸で配列して発電機14を備えた構成としたが、圧縮機9とガスタービン10の軸と、蒸気タービン13の軸を並列に配置してそれぞれ発電機を備えた構成としてもよい。また、石炭ガス化発電設備1は、ガスタービン10と蒸気タービン13とを備えていたが、必ずしもこのような態様に限られない。少なくともガスタービン10を備えていればよく、蒸気タービン13は必須ではない。
【0066】
〈Kの説明〉
石炭ガス化ガスから炭素が析出する主反応は、Boudouard反応(式1)と考えられている。この反応が進むと2分子の気体が1分子になるため、反応系が圧力を低下させる方向に動く。この作用により、本反応は、圧力が高いほど進みやすいと予測できる。
(1)2CO→CO+C(固体)
実際に本反応の進みやすさを決める基準は、Boudouard反応に寄与する二酸化炭素と一酸化炭素の分圧比(PCO2/(PCO)であり、化学平衡の観点から以下のように説明できる。
炭素析出の進行はある温度Tにおいて、(式2)で決まる化学平衡定数、K(T)が達成されると平衡となりそれ以上の反応は進行しない状態になる。
(2)K(T)=ρCO2/(ρCO
(T)は、圧力平衡定数(温度Tで決まる定数)、ρCO2及びρCOは、化学平衡時の二酸化炭素及び一酸化炭素の分圧である。ガス組成と分圧の関係は(式3)(式4)の通りである。
(3)ρCO2=χCO2×P
(4)ρCO=χCO×P
χCO2及びχCOは、石炭ガス化ガス中の二酸化炭素ガス及び一酸化炭素ガスの平衡におけるモル分率であり、Pは、石炭ガス化ガスの圧力である。
(2)に(3)と(4)を代入すると、圧力平衡定数とガス組成の関係が得られる(式5、数2の式)。
(5)K(T)=χCO2×P/(χCO×P)=χCO2/(χCO×P)
あるガス組成で計算された分圧比K=xCO2/(xCO×P)が、
(6)K(T)>K
の関係にあるときは、xCO2/(xCO×P)が増大するほう、すなわちBoudouard反応が進むことを意味している。逆にあらかじめ
(7)K(T)≦K
の関係となっているときは、Boudouard反応は進まない。K=xCO2/(xCO×P)を増大させることが、Boudouard反応の抑制になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、石炭から石炭ガス化ガスを生成し、乾式で不純物を除去する乾式ガス精製設備を備える石炭ガス化発電設備で利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 石炭ガス化発電設備
2 石炭ガス化炉
3 熱交換器
4 乾式ガス精製設備
5 ハロゲン化物除去装置
6 脱硫装置
7 燃焼器
8 酸素製造装置
9 圧縮機
10 ガスタービン
11 排熱回収ボイラ(HRSG)
12 再生熱交換器
13 蒸気タービン
14 発電機
15 復水器
16 給水加熱器
17、19 汽水分離器
18、20 圧縮機
21 配管
e 排気ガス
f 燃料ガス
g 石炭ガス化ガス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭及び酸化剤の反応により石炭ガス化ガスを生成する石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスの温度を、露点を上回る温度に維持して運転する乾式法により石炭ガス化ガス中の不純物を除去する乾式ガス精製設備と、
前記乾式ガス精製設備で得られた燃料ガスを燃焼させる燃焼手段と、
前記燃焼手段からの燃焼ガスを膨張することで動力を得るガスタービンと、
前記乾式ガス精製設備において炭素の析出を抑制する流体として二酸化炭素ガス及び水蒸気を含む前記ガスタービンの排気ガスを、前記乾式ガス精製設備の上流で前記石炭ガス化ガスに添加する流体添加手段とを備える
ことを特徴とする石炭ガス化発電設備。
【請求項2】
請求項1に記載する石炭ガス化発電設備において、
前記排気ガスは、石炭ガス化ガス中の二酸化炭素ガス及び一酸化炭素ガスの反応条件におけるモル分率をそれぞれxCO2及びxCOとし、石炭ガス化ガスの圧力をPとし、下記数1で定義されるKが増大するようにxCO2とxCOとの比を変化させる流体である
ことを特徴とする石炭ガス化発電設備。
[数1]
=xCO2/(xCO×P)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する石炭ガス化発電設備において、
前記ガスタービンの排気ガスの熱を回収して得られた蒸気を膨張することで動力を得る蒸気タービンを備える
ことを特徴とする石炭ガス化発電設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241095(P2012−241095A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111823(P2011−111823)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新的ゼロエミッション石炭ガス化発電プロジェクト/革新的ガス化技術に関する基盤研究事業/CO2回収型次世代IGCC技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)