説明

石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法

【課題】石炭の燃焼時に排出される粒子状物質(PM)を粗大化させて捕集し、人体に悪影響を及ぼすPMの大気中への排出量を低減するための石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法を提供する。
【解決手段】石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、Mg系化合物、Ca系化合物、Fe系化合物、Al系化合物又はSi系化合物を主成分として含有することを特徴とする。石炭添加用粒子状粗大化剤は、粗大化剤全量に対して、主成分となる化合物を70質量%以上含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭の燃焼時に排出される粒子状物質(Particulate Matter、以下「PM」と称する。)を粗大化させて、人体に悪影響を及ぼすPMの大気中への排出量を低減するための石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等において、発電源として利用する石炭や石油等の化石燃料を燃焼させると、燃焼に伴い、二酸化炭素(CO)や硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、PM等の種々の物質が排出される。
中でもPMは、肺胞等の気道の奥に沈着し、喘息や気管支炎の原因となって、人体に悪影響を及ぼすことが知られており、環境保全の面から問題視されている。
【0003】
内燃機関等において燃料油を燃焼した際に排出されるPM、特にディーゼルエンジンからの排ガス中のPMを低減するために、燃料油に熱分解開始温度が200℃以上であるアルカリ土類金属塩を添加した燃料油組成物(特許文献1)が提案されている。
その他に、ディーゼルエンジンの排ガス中のPMを低減するためのアルカリ土類金属錯体からなる燃料油添加剤(特許文献2)や、アルカリ金属酸化物と酸化鉄の複合酸化物等を含む触媒(特許文献3)等も提案されている。
【特許文献1】特開2002−302686号公報
【特許文献2】特開2005−225966号公報
【特許文献3】特開2007−1330934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで燃焼油のみならず、石炭等を炉内で燃焼させると高温過程において燃料の性状に基づき、固体燃料の揮発成分由来のすす、揮発成分放出後の未反応チャー粒子、固体燃料中に含まれる鉱物粒子や気相析出した微粒子(灰分)等が生成される。
これらの微粒子が大気中に排出されると、燃料油等を燃焼した際に排出されるPMと同様に、人体に影響を及ぼすことが知られている。
しかし、特許文献1〜3に記載されているように、燃料油を燃焼させた排ガス中からPMを低減するための添加剤等は種々提案されているものの、石炭を燃焼させた排ガス中からPMを低減する添加剤等は殆ど提案されていない現状である。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、石炭を燃焼させた際に、大気中に排出される粒子状物質を抑制する石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、石炭の燃焼過程において生成される種々の粒子状物質の成分等を検討した結果、特定の無機系化合物を石炭に添加することによって、燃焼時に生成される粒状物質を粗大化させて、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、Mg系化合物、Ca系化合物、Fe系化合物、Al系化合物又はSi系化合物を主成分として含有することを特徴とする。石炭添加用粒子状粗大化剤は、該粗大化剤全量に対して、主成分となる化合物が70質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0008】
本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、粉体のまま石炭に添加し、水に溶解若しくは分散させて石炭に添加し、又は、石炭の燃焼雰囲気中に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子状物質粗大化剤を石炭に添加することにより、石炭の燃焼過程おいて排出される種々の粒径及び成分の粒子状物質(PM)を粗大化させて、確実に捕集できるようにするので、大気中に排出されるPM量を抑制することができる。
また、本発明の粒子状物質粗大化剤は、粉体のままでも、水に溶解若しくは分散させても石炭に添加することができ、更には、炉内の石炭燃焼雰囲気中に添加することもできるので、煩雑な工程を必要とすることなく容易に粗大化剤を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法について説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0011】
本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、Mg系化合物、Ca系化合物、Fe系化合物、Al系化合物又はSi系化合物を主成分として含有するものである。ここで言う「主成分」とは、粗大化剤全量に対して、上記無機系化合物から選択された1種の化合物を70%以上含有するものを意味する。
例えば、水70%に対して、石炭添加用粒子状物質粗大化剤30%を添加してスラリーを形成した場合は、スラリーに添加した石炭添加用粒子状物質粗大化剤全量(30%)に対して、上記無機系化合物から選択された1種の化合物が70%(即ち、スラリー中に上記無機系化合物から選択された1種の化合物が21%(0.3×0.7×100=21))以上含有されていればよい。
【0012】
石炭添加用粒子状物質粗大化剤中、該粗大化剤全量に対して、主成分となる化合物は、好ましくは70%以上、より好ましく80%以上、更に好ましくは90%以上含有される。
粗大化剤全量に対して、主成分となる化合物の含有率が70%未満であると、石炭の燃焼過程において排出される種々の粒径や、種々の成分を有するPMを粗大化することが難しい。
なお、石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、Mg系化合物、Ca系化合物、Fe系化合物、Al系化合物又はSi系化合物のうち1種類の無機系化合物100%から成るものであってもよい。
【0013】
石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、上記無機系化合物の1種を主成分として含有するものであれば、主成分以外の無機系化合物を含有するものであってもよい。また、後述するように、例えばタルクのように2種類の無機元素を含む化合物を用いてもよい。
【0014】
上記Mg系化合物として、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸水素マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウムアンモニウム、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸水素マグネシウム、次亜リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、4ケイ酸マグネシウム、タルク、3ケイ酸マグネシウム、オルトケイ酸マグネシウムカルシウム、ニオルトケイ酸マグネシウムカルシウム、メタケイ酸マグネシウムカルシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、酒石酸水素マグネシウム、コハク酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、及びグルコン酸マグネシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のMg系化合物を含有することが好ましい。
【0015】
上記Ca系化合物として、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸水素カルシウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸水素カルシウム、チオ硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、重過リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸水素カルシウム、次亜リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸三石灰、ケイ酸二石灰、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、ギ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、酒石酸水素カルシウム、コハク酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、及びアルギン酸カルシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のCa系化合物を含有することが好ましい。
【0016】
上記Fe系化合物として、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)水和物、炭酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、亜硫酸鉄(II)、亜硫酸鉄(III)、チオ硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)アンモニウム、硫酸鉄(III)アンモニウム、三硫酸鉄(III)三アンモニウム、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(II)、ピロリン酸鉄(III)、ピロリン酸水素鉄(III)、亜リン酸鉄(II)、亜リン酸鉄(III)、次亜リン酸鉄(III)、オルトケイ酸鉄(II)、メタケイ酸鉄(II)、メタケイ酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、クエン酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)、クエン酸鉄(II)アンモニウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)アンモニウム、安息香酸鉄(II)、安息香酸鉄(III)、ギ酸鉄(II)、ギ酸鉄(III)、酒石酸鉄(II)、酒石酸鉄(III)、乳酸鉄(II)、乳酸鉄(III)、及びグルコン酸鉄(II)から成る群より選ばれた少なくとも1種のFe系化合物を含有することが好ましい。
【0017】
上記Al系化合物として、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム・1水和物(ベーマイト)、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、亜硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、リン酸ニ水素アルミニウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸水素アルミニウム、次亜リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、カオリン、活性白土、パーライト、マイカ、酢酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムアンモニウム、安息香酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、及び乳酸アルミニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のAl系化合物を含有することが好ましい。
【0018】
上記Si系化合物として、二酸化ケイ素、非晶質シリカ、珪石(石英)、天然ケイ砂粉、人工ケイ砂粉、珪藻土粉、焼成珪藻土粉、ケイ酸ジルコニウム、シリコーンエマルジョン、及び変性シリコーンオイルから成る群より選ばれる少なくとも1種のSi系化合物を含有することが好ましい。変性シリコーンオイルとしては、例えばポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0019】
石炭添加用粒子状物質粗大化剤に用いる無機系化合物は、特に限定されないが、1次粒子の平均粒径が10μm以下であることが好ましく、燃焼させる石炭粒子よりも細かい粒子であることがより好ましい。
石炭添加用粒子状物質粗大化剤として、水溶性の無機系化合物(例えば水溶性Ca)、又は、コロイダル型の無機系化合物(コロイダルシリカ、コロイダル鉄、コロイダルマグネシウム)等を用いる場合は、平均粒径(又は無機化合物の長さ)が0.1〜数10nmのものを使用することが好ましい。
石炭添加用粒子状物質粗大化剤を構成する無機系化合物の平均粒子径が10μmを超えると、PMとの反応性が低く、PMを粗大化し難くなるため好ましくない。
【0020】
次に、石炭の燃焼過程において生成される粒子状物質(PM)について説明する。
石炭には、元素周期律表に表された殆ど全ての元素が含まれている。石炭中には、石炭炭素質中に存在する鉱物粒子(Included mineral)と、石炭炭素質とは独立して存在する鉱物粒子(Excluded mineral)に分けられる。これらの鉱物粒子中に、元素周期律表に表された元素、特に微粒元素の多くが含まれる。
元素の一部は、石炭炭素質表面の官能基とイオン結合し、又は、石炭中の有機質と結合した形態を有している。
【0021】
石炭炭素質中に存在する鉱物粒子(Included mineral)は、粗粒子を形成し易い傾向にある。しかし、石炭炭素質中に存在する鉱物粒子の一部は、揮発分放出過程又はチャー(未燃炭素と灰分からなる微粒子)燃焼過程において、炭粒から独立して気相へ放出され、微粒子(PM)を生成する。
【0022】
石炭炭素質とは独立して存在する鉱物粒子(Excluded mineral)は、急速昇温条件で高温場に曝されると、その一部が分裂して、微粒子(PM)を生成する。
【0023】
石炭炭素質又は石炭中の有機質と結合している元素は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、更にSi、Al等の高沸点元素でさえ、石炭の燃焼時に蒸気状となり、PM10(粒子径10μm以下の粒子群の総称)、PM2.5、PM等の微粒子を生成する。
【0024】
その他、揮発分放出終了後に生成されるチャー粒子に着目すると、生成されたチャー粒子は、燃焼源となる石炭の種類によって、バルーン状、網目状、中実状等の種々の構造を有するものが生成されている。
これらのチャー粒子のうち、バルーン状、網目状の構造を有するものは、中実状の構造を有するものに比べて、微粒子(PM)を生成し易いことが知られている。
【0025】
このように微粒子(PM)は、すす粒子、熱分解ガス、蒸気化した無機成分、チャー粒子、灰粒子等を源として生成される。これらのうち、蒸気化した無機成分は、石炭燃焼プロセス内の温度分布やガス雰囲気によって強く影響され、微粒子の生成量が異なる。燃焼・ガス化過程における粒子の最高温度は、1600〜1700℃にも達し、元素及びその化合物の蒸気圧曲線から、蒸気化する元素を分類すると、次の(1)〜(3)の3タイプに分けることができる。
【0026】
(1)揮発性が小さく、大部分が固体残渣や粒子径の大きい粒子に集まり易い元素:(Ba),Ce,Cs,Eu,Fe,Hf,K,La,Mg,Mn,Rb,Sc,Sm,Th、Ti
(2)揮発性を有するが、プロセス内で粒子径の小さい粒子に凝縮又は濃縮し易い元素:As,Cd,(Ba),Be,Ca,Co,Cr,Cu,Ge,Mo,Na,Ni,P,Pb,Sb,(Se),Sr,Zn
(3)揮発性が高く、ガス中に残存し易い元素:B,Br,Cl,F,Hg,I,(Se)
【0027】
上記(2)及び(3)に属する元素は、燃焼炉の高温部で蒸気化後、暫くはガス状で存在するが、燃焼ガスが熱交換器を通過し、温度が低下すると、気相成分の凝縮、核生成、及び粒子の凝集等によって微粒子(PM)が生成される。この場合、既存の微粒子が細かく表面積が大きい程、凝縮の割合が高く成る傾向がある。また、粒径が小さくなる程、濃度が高くなる。この傾向は、特にAs,Cd,Se等の(2)に属する元素が顕著である。
【0028】
このように粒子状物質(PM)を生成する元素は種々の性状を有することが知られている。また、石炭燃焼のプロセス中に生成されるPMは、燃焼時に使用する装置(ボイラ)によってもその粒径も異なる。
【0029】
上述のように、石炭の燃焼時に排出される排ガス中には、種々のPMが生成される。これらのPMは、燃料油等を燃焼する際に排出される排ガス中のPMと比較して、上述の無機物質を由来とする灰分量が多いという性状を有する。例えば、石炭の灰分量は石炭全量の10%程度であり、燃料油の灰分量は燃料油全量の0.01〜0.02%程度であるので、石炭を燃焼した際に排出されるPMと、燃料油が燃焼する際に排出されるPMとでは、それぞれ灰分量が異なる。
このように灰分が比較的大きいPMを排出する石炭に対して、本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤を添加することによって、PMの粒径を増大させることができ、粗大化されたPMを捕集し易くなるので、大気中に排出されるPMの量を低減することができる。
【0030】
石炭添加用粒子状物質粗大化剤の添加量としては、石炭中の灰分(100%)に対して、石炭添加用粒子状物質粗大化剤中の灰分が、好ましくは0.005(50ppm)〜10%、より好ましくは0.01〜10%、更に好ましくは0.1〜10%、特に好ましくは2.5〜10%になるように添加する。
石炭添加用粒子状物質粗大化剤の添加量が石炭中の灰分に対して0.005%未満であると、添加量が少なすぎて、石炭燃料のプロセスにおいてPMを粗大化することができない。一方、添加量が10%を超えると、灰の総量が多くなりすぎる場合がある。
なお、経済的には、石炭添加用粒子状物質粗大化剤の添加量(g)が、石炭の1/3000〜1/20000(g)となるように添加することが好ましい。
【0031】
次に、本発明の石炭添加用粒子状物質粗大化剤を用いた粗大化方法について説明する。
石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、燃焼前に石炭に粉体のまま添加してもよく、又は、石炭添加用粒子状物質粗大化剤を水に溶解若しくは分散させて、石炭に添加してもよい。
また、石炭添加用粒子状物質粗大化剤は、石炭自体に添加するのではなく、燃焼炉の石炭燃焼雰囲気中に添加してもよい。
【0032】
通常、石炭は、燃焼装置(ボイラ)等で燃焼される。燃焼装置から排出される排ガスは、サイクロン、電気集塵機(EP)、バグフィルタ等の捕集手段に流通され、排ガス中に含まれる細かい灰や微粒子等が捕集される。なお、捕集手段で捕集される微粒子の量は、使用する燃焼装置(ボイラ)等によっても異なる。
燃焼装置(ボイラ)として、例えば微粉体燃焼ボイラを使用した場合は、石炭を燃焼しながら吹き飛ばすため、排ガス中に含まれる微粒子の80〜90%は、サイクロンから電気集塵機(EP)に送られるが、流動層・ストーカーボイラを使用する場合は状況が異なる。
サイクロンで分離される微粒子の最小粒径は1μmであり、電気集塵機(EP)で分離される微粒子の最小粒径は0.02μmであり、バグフィルタで分離される微粒子の最小粒径は0.01μmである。
【0033】
石炭添加用粒子状物質粗大化剤及び粗大化方法によれば、石炭の燃焼時に生成されるPM、例えばPM10やPMを粗大化して、サイクロン、電気集塵機(EP)、バグフィルタ等の捕集手段でPMを捕集し易くし、大気中に排出されるPMの量を低減することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
産地の異なる2種類の石炭(A,B)に、次の4種類の石炭添加用粒子状物質粗大化剤を添加し、石炭を燃焼炉(ドロップチューブファーネス)に供給して燃焼した後、排ガス中の燃焼灰を二つのサイクロンで捕集した後、排ガス中のPMをカスケードインパクターで捕集した。
石炭添加用粒子状物質粗大化剤を添加した場合(実施例1〜4)と、添加しない場合(比較例)の石炭を燃焼した排ガス中のPM、PM2.5、PM10の量を測定した。
【0036】
[使用した石炭]
石炭 A
石炭 B
【0037】
[石炭添加用粒子状物質粗大化剤:無機系化合物]
(a)Fe系化合物:クリトニック PC−1003S(KT PC−1003、タイホーコーザイ社製)
(b)Mg系化合物:タイトニック 201HW(TT 201HW、タイホーコーザイ社製)
(c)Ca系化合物:クリトニック ハイコン1(KT HC−1、タイホーコーザイ社製)
(d)Si系化合物:コールファイア 8000(CF8000、タイホーコーザイ社製)
【0038】
[添加量]
石炭A,Bの灰分100%に対して、各石炭添加用粒子状物質粗大化剤の灰分が2.5〜10%となるように、石炭に石炭添加用粒子状物質粗大化剤を添加した。
具体的には、次にように(1)石炭添加量粒子状物質粗大化剤中に含まれる無機系化合物(酸化物換算)の濃度を測定し、(2)この無機系化合物(酸化物換算)中に含まれる灰分が、石炭の灰分に対して所定の量(無機系化合物(酸化物換算)の灰分:石炭の灰分=5:100)となるように、無機系化合物の量を算出して、無機系化合物を石炭に添加した。
【0039】
(1)無機系化合物(酸化物換算)の濃度測定
まず、上記(a)〜(d)の無機系化合物の試料2gをビーカーに入れ、105℃の乾燥機で4時間乾燥させた。試料中に含まれる水が全て蒸発したことを確認した後、815℃まで昇温し、残留物の質量を測定した。試料の質量と残留物の質量の比から試料の濃度を測定した。上記(a)〜(d)の試料濃度の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(2)無機系化合物の添加量の算出方法
上記試料濃度の測定結果に基づき、石炭に添加する無機系化合物(酸化物換算)の添加量の算出方法の一例を説明する。本例においては、Ca系化合物の添加量の算出方法を示す。
石炭A(灰分:2.8%)50gに、無機系化合物の灰分:石炭の灰分=5:100になるようにCa系化合物(CaOの濃度:10%)溶液を添加する場合は、次式(1)にそれぞれの数値を代入して、Ca系化合物の添加量を算出する。式(1)に各数値を代入し、表1に示す濃度のCa系化合物の溶液の添加量を算出したところ、0.7gであった。
【0042】
【数1】

【0043】
(実施例1)
各石炭A,Bの灰分に対して、Ca系化合物(酸化物換算:CaO)の灰分の量が5:100(=Ca系化合物の灰分:石炭の灰分)になるようにCa系化合物を添加し、100〜200mLの水を加えて良く振り混ぜた後、ロータリーエバポレータを使用して、水を蒸発させた。その後、更に乾燥機で1時間程度乾燥させて、Ca系化合物から成る粗大化剤を添加した石炭A,Bを得た。
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様にして、Si系化合物(酸化物換算:SiO)から成る粗大化剤を添加した石炭A,Bを得た。
【0045】
(実施例3)
各石炭A,Bの灰分に対して、Mg系化合物(酸化物換算:MgO)の灰分の量が2.5:100(=Mg系化合物の灰分:石炭の灰分)に成るように粗大化剤を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、Mg系化合物から成る粗大化剤を添加した石炭A,Bを得た。
【0046】
(実施例4)
各石炭A,Bの灰分に対して、Fe系化合物(酸化物換算:Fe)の灰分の量が10:100(=Fe系化合物の灰分:石炭の灰分)に成るように粗大化剤を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、Fe系化合物から成る粗大化剤を添加した石炭A,Bを得た。
【0047】
(比較例)
無機系化合物を主成分とする粗大化剤を加えないこと以外は、実施例1と同様にして、石炭A,Bを得た。
【0048】
実施例1〜4及び比較例の石炭A,Bを図1に示す燃焼炉(ドロップチューブファーネス)で燃焼し、排ガス中のPMを図2に示すカスケードインパクターで捕集した。
【0049】
[燃焼炉:ドロップチューブファーネス]
図1にドロップチューブファーネスの概略構成図を示す。
図1に示すように、石炭A,Bの燃焼炉に使用したドロップチューブファーネス1(以下「DTF」と略称する。)は、試料供給部2(ボールフィーダー及びバーナー)と、反応加熱部3と、サンプリング部4(サンプリングプロッブ)を備えている。
試料(石炭A,B)は、一次ガスと共に、試料供給部2から反応加熱部3へと導かれる。
反応加熱部3には、図示を省略したスポットヒータ予熱器で約500℃に加熱された二次ガスも供給され、バーナーの先端部7で試料を含む一次ガスと合流されて、反応加熱部3を流通する。この一次ガスと二次ガスが合流したガスによって、装置全体のガス流量が決定される。
石炭をDTFで燃焼することによって得られた燃焼灰は、DTFの下方に配置された2つのサイクロン5,6によって捕集した。サイクロン5,6で捕集されなかった排ガス中のPMはカスケードインパクター10で捕集した。
サンプリング部4は、中間生成物と完全燃料灰を採取可能となるように、反応加熱部3中に挿入される高さの変更が可能である。
【0050】
[DTFの燃焼条件]
DTFの燃焼条件を以下に記載する。
試料供給速度:約0.2g/分
燃焼雰囲気 :空気
空気比 :1.5
燃焼温度 :1200℃,1450℃
滞留時間 :約3秒
【0051】
[カスケードインパクター]
図2は、カスケードインパクター10の概略構成を示す説明図である。
カスケードインパクター10は、慣性衝突法により複数のインパクター11を使用して排ガス中の微小粒子を分級捕集できるようにしたものである。
慣性衝突法とは、粒子が運動するに際して有している慣性力を利用して、物体に粒子を衝突させて、粒子を気流(排ガス)中から分離捕集させる方法である。
カスケードインパクター10は、この慣性衝突法により、粒子を捕集板(インパクター11)に衝突させて気流(排ガス)中から分離する際に、気流の衝突速度が次第に大きくなるようにインパクター11を複数段重ねたものである。カスケートインパクター10は、希釈エアーを流通させる流量計12と、複数段積層させたインパクター11の圧力を測定する測定計13と、ポンプ14とを備えている。
このカスケードインパクターを用いることによって、排ガス中の微粒子の粒径分布を求めることができる。本例においては、低圧条件下(最大−550mmHg)で微粒子をインパクターに慣性衝突させ、粒径0.05μmの微小粒子まで分級捕集可能なロープレッシャーインパクター(LPI)を用いて測定した。
【0052】
表2に石炭Aを1450℃のDTFで燃焼させた際の排ガス中から捕集されたPM量を示す。また、表3に石炭Bを1200℃のDTFで燃焼させた際の排ガス中から捕集されたPM量を示し、表4に石炭Bを1450℃のDTFで燃焼させた際の排ガス中から捕集されたPM量を示す
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、粗大化剤を添加した石炭Aを1450℃で燃焼させた場合は、粗大化剤を添加しない場合(比較例)と比べて、PMの量が低減しており、PMとPM2.5の低減量が顕著であった。
特に、Mg系化合物から成る粗大化剤を添加した場合は、粗大化剤を添加しない場合と比べて、PM2.5が40%低減しており、逆にPM10が若干増えていることから、微小PMを粗大化して捕集することができ、排ガス中のPM量を低減できることが確認できた。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示すように、粗大化剤(実施例1〜4)を添加した石炭Bを1200℃で燃焼させた場合は、粗大化剤を添加しない場合(比較例)と比べて、PMの量が30〜60%程度低減していた。
一方、実施例1〜4の粗大化剤を添加した石炭BのPM10は増量する傾向にあった。この理由としては、石炭Bは灰分量が少なく、凝集される灰分量が少ないためにPM10の量が増大したと推測される。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示すように、粗大化剤(実施例1〜4)を添加した石炭Bを1450℃で燃焼させた場合は、1200℃で燃焼させた場合(表3参照)と同様に、粗大化剤を添加しない場合(比較例)と比べて、PM1の量が50〜60%程度低減しており、微小なPMの低減量が大きくなった。
一方、実施例1〜4の粗大化剤を添加した石炭BのPM2.5、PM10は増量する傾向にあった。この理由としては、石炭Bは灰分量が少なく、凝集される灰分量が少ないためにPM2.5、PM10の量が増大したと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】燃焼炉であるドロップチューブファーネスの概略構成を示す説明図である。
【図2】カスケードインパクター10の概略構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 ドロップチューブファーネス
2 試料供給部(ボールフィーダー及びバーナー)
3 反応加熱部
4 サンプリング部(サンプリングプロッブ)
5 サイクロン
7 バーナーの先端部
10 カスケードインパクター
11 インパクター
12 流量計
13 圧力計
14 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg系化合物、Ca系化合物、Fe系化合物、Al系化合物又はSi系化合物を主成分として含有することを特徴とする石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項2】
粗大化剤全量に対して、上記主成分となる化合物を70質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項3】
上記Mg系化合物として、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸水素マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウムアンモニウム、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸水素マグネシウム、次亜リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、4ケイ酸マグネシウム、タルク、3ケイ酸マグネシウム、オルトケイ酸マグネシウムカルシウム、ニオルトケイ酸マグネシウムカルシウム、メタケイ酸マグネシウムカルシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、酒石酸水素マグネシウム、コハク酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、及びグルコン酸マグネシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のMg系化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項4】
上記Ca系化合物として、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸水素カルシウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸水素カルシウム、チオ硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、重過リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸水素カルシウム、次亜リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸三石灰、ケイ酸二石灰、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、ギ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、酒石酸水素カルシウム、コハク酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、及びアルギン酸カルシウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のCa系化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項5】
上記Fe系化合物として、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化二鉄(III)鉄(II)、酸化鉄(III)水和物、炭酸鉄(II)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、亜硫酸鉄(II)、亜硫酸鉄(III)、チオ硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)アンモニウム、硫酸鉄(III)アンモニウム、三硫酸鉄(III)三アンモニウム、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(II)、ピロリン酸鉄(III)、ピロリン酸水素鉄(III)、亜リン酸鉄(II)、亜リン酸鉄(III)、次亜リン酸鉄(III)、オルトケイ酸鉄(II)、メタケイ酸鉄(II)、メタケイ酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、クエン酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)、クエン酸鉄(II)アンモニウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)アンモニウム、安息香酸鉄(II)、安息香酸鉄(III)、ギ酸鉄(II)、ギ酸鉄(III)、酒石酸鉄(II)、酒石酸鉄(III)、乳酸鉄(II)、乳酸鉄(III)、及びグルコン酸鉄(II)から成る群より選ばれた少なくとも1種のFe系化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項6】
上記Al系化合物として、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム・1水和物、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、亜硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、リン酸ニ水素アルミニウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸水素アルミニウム、次亜リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、カオリン、活性白土、パーライト、マイカ、酢酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムアンモニウム、安息香酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、及び乳酸アルミニウムから成る群より選ばれた少なくとも1種のAl系化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項7】
上記Si系化合物として、二酸化ケイ素、非晶質シリカ、珪石、天然ケイ砂粉、人工ケイ砂粉、珪藻土粉、焼成珪藻土粉、ケイ酸ジルコニウム、シリコーンエマルジョン、及び変性シリコーンオイルから成る群より選ばれる少なくとも1種のSi系化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭添加用粒子状物質粗大化剤。
【請求項8】
上記請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の粒子状物質の粗大化剤を粉体のまま石炭に添加することを特徴とする粒子状物質の粗大化方法。
【請求項9】
上記請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の粒子状物質の粗大化剤を水に溶解又は分散させてスラリーとし、このスラリーを石炭に添加することを特徴とする粒子状物質の粗大化方法。
【請求項10】
上記請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の粒子状物質の粗大化剤を、石炭の燃焼雰囲気中に添加することを特徴とする粒子状物質の粗大化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59297(P2010−59297A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225536(P2008−225536)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000108546)株式会社タイホーコーザイ (28)
【出願人】(503388670)
【Fターム(参考)】