説明

研削工具の砥面検査システム及び方法

【課題】砥粒の状態を新たな解析パラメータを用いてより詳しく解析し、これにより砥面の状態をさらに正確に検査できるようにする。
【解決手段】カメラ6により砥石3の砥面を撮像してそのライン画像データを取り込み、各ライン画像データに対し砥粒抽出処理部123により複数種のフィルタリング処理を行うことで上記ライン画像データから砥粒切れ刃候補の画像を抽出する。そして、砥粒解析処理部124の制御の下で、上記抽出された各砥粒切れ刃候補の画像から、砥面全域における各砥粒切れ刃候補の重心の座標と、凸多角形近似データ及び円形度と、内部欠損及び外部欠損と、面積及び欠損度と、すくい角側の稜線形状をそれぞれ算出または検出する。そして、この得られた解析パラメータをもとに、砥石3の幅方向における砥粒分布ヒストグラムと、砥石3の砥面全域における砥粒の分布状態を表す三次元マップを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研削工具の砥面を撮像してその画像データをもとに砥面の状態を検査する研削工具の砥面検査システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研削加工分野においては、研削工具として一般に無気孔砥石と有気孔砥石が使用される。このうち無気孔砥石は、例えば砥石基体の周面に砥粒を結合剤により固着させることにより砥面を形成したものとなっている。このような砥石を使用して研削加工を行う場合には、例えば円盤又は円筒状をなす砥石を高速回転させた状態で、その砥面を被加工物としての工作物の加工面に当接させる。そして、工作物を一定の速度で移動させることにより工作物の表面を研削加工するものとなっている。
【0003】
ところで、この種の研削加工では、工作物の加工面の仕上げ品質が砥石の砥面の状態によって左右される。砥面の状態は、主として切れ刃として機能する砥粒の表面部分の形状や大きさ、砥粒の突出量によって決まり、これら砥粒の状態によっては工作物の加工面に大きな研削条痕が残ってしまう。したがって、高品質の研削加工を行うには、砥面の状態つまり砥粒の形状や大きさ、突出量等を正確に把握することが重要である。
【0004】
そこで従来では、例えばカメラを装着した高倍率の金属顕微鏡を用いて砥石の砥面を撮像し、この撮像された画像データに所定の画像処理を施すことで砥粒部分を他の部分と区別して表示した画像を作成して検査に供する技術が研究されている。また、砥面を撮像する際に焦点位置をステップ的に可変しながら撮像を行い、その各画像データをもとに砥粒の突出量を求める研究もなされている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−45078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、砥面の状態をさらに正確に把握するには、砥粒の突出量を計測するだけでは不十分であり、砥粒の形状やその分布状態についてさらに詳しく解析する必要があった。
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、砥粒の状態を新たな解析パラメータを用いてより詳しく解析し、これにより砥面の状態をさらに正確に検査できるようにした研削工具の砥面検査システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の一つの観点は、工具基体の砥粒を散設した面を砥面として当該砥面と工作物とを相対的に移動させることにより工作物を研削加工する研削工具の上記砥面の状態を検査するシステムにおいて、前記砥面に対向して配置され、前記砥面を撮像してその画像データを出力する撮像装置と、前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動可能に支持する支持装置と、前記撮像装置及び支持装置に接続された制御装置とを具備する。そして制御装置において、先ず前記支持装置を制御して前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動させることにより、前記撮像装置による前記砥面の撮像対象領域を可変設定し、この設定された砥面の撮像対象領域について前記撮像装置が撮像した画像データを取り込んで記憶する。次に、この記憶された画像データから複数の砥粒切れ刃候補となる画像を抽出し、この抽出された砥粒切れ刃候補となる各画像をもとに、当該砥粒切れ刃候補の研削に関与する切れ刃部分の面積と、当該切れ刃部分の画像のうち前記砥面の移動方向に対し前面側となるすくい角側稜線部分の形状のうちの少なくとも一方を算出する。そして、この算出された研削に関与する切れ刃部分の面積又はすくい角側稜線部分の形状を表す画像を、前記砥面の移動方向と直交する方向において同じ位置にあるものどうしで砥面全域にわたり加算することにより、砥面の移動方向と直交する方向における砥粒切れ刃候補の分布を表すヒストグラムデータを生成する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、砥面全域に渡ってその画像データを自動的に取得することが可能となる。また、上記画像データから抽出された各砥粒候補の画像をもとに、当該砥粒候補の研削に関与する切れ刃部分の面積と、当該切れ刃部分の前面側となる部分上記の形状のうちの少なくとも一方を定量化することができる。そして、この解析パラメータをもとに、砥面の幅方向における砥粒の切れ刃部分の面積又は当該切れ刃部分の前面側となる部分の形状のヒストグラムを生成するようにしたので、砥石の幅方向における砥粒の分布のばらつき度合いや分布の粗密の間隔を解析することができ、これらの解析データを研削加工の制御にフィードバックすることで、工作物の仕上げ精度を向上させることが可能となる。
すなわちこの発明によれば、砥粒の状態を新たな複数の解析パラメータを用いてより詳しく解析でき、これにより砥面の状態をさらに正確に検査することができる研削工具の砥面検査システム及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施形態に係る砥面検査システムの全体構成を示す図。
【図2】検査対象となる砥石の構成の一例を示す平面図。
【図3】図2に示した砥石の砥面の一部を拡大して示した斜視図。
【図4】図1に示した砥面検査システムの制御装置の機能構成を示すブロック図。
【図5】図4に示した制御装置による検査制御手順とその処理内容を示すフローチャート。
【図6】砥石の砥面撮像方法を説明するための図。
【図7】図6に示す砥面撮像方法における1回の撮像範囲を示す図。
【図8】図4に示した検査制御手順における砥粒抽出処理の処理手順と処理内容を示すフローチャート。
【図9】図8に示した砥粒抽出処理の過程で得られる画像の一例を示す図。
【図10】図4に示した検査制御手順における砥粒解析処理の処理手順と処理内容を示すフローチャート。
【図11】図10に示した砥粒解析処理により得られる解析画像の一例を示す図。
【図12】図10に示した砥粒解析処理によるすくい角側稜線形状の検出処理を説明するための図。
【図13】図4に示した検査制御手順のうち砥粒分布ヒストグラム生成処理の処理内容を説明するための図。
【図14】砥粒分布ヒストグラムのうち砥石幅に対する砥粒すくい角側稜線の分布を表すヒストグラムの生成処理を説明するための図。
【図15】砥粒分布ヒストグラムのうち砥石幅に対する砥粒面積の分布を表すヒストグラムの生成処理を説明するための図。
【図16】砥石幅に対する砥粒面積の分布を表すヒストグラムの生成結果の一例を示す図。
【図17】砥石幅に対する砥粒すくい角側稜線の分布を表すヒストグラムの生成結果の一例を示す図。
【図18】工作物仕上げ面の形状の解析結果の一例を示す図。
【図19】図4に示した検査制御手順のうち三次元マップ生成処理により生成される、砥面全体における砥粒分布の三次元マップの一例を示す図。
【図20】図4に示した検査制御手順のうち三次元マップ生成処理により生成される個々の砥粒の三次元画像の一例を示す図。
【図21】図8に示した砥粒抽出処理により抽出される砥粒切れ刃候補の種類を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[一実施形態]
(構成)
図1は、この発明の一実施形態を示す砥面検査システムの全体構成を示す図であり、図中1,2はXYテーブルを示している。このXYテーブル1,2はX軸駆動部21及びY軸駆動部22を有している。これらのX軸駆動部21及びY軸駆動部22は後述する制御装置10の制御の下で駆動され、XYテーブル1,2上に固定された被検査工具としての砥石3をXY方向、つまり水平方向に移動させる。
【0011】
砥石3は、例えば図2に示すようにリング状をなす円盤からなり、その砥石基材31の面上に例えばダイヤモンドからなる多数の砥粒32,32,…を結合剤により固着させてこれを砥面としたものである。各砥粒32,32,…の頂部は、図3に示すように平坦面を形成するように加工されている。
【0012】
また、上記XYテーブル1,2上には支柱4が立設されており、この支柱4にはアーム5を介してカメラ6が下向きに取付けられている。上記アーム5はZ軸駆動部23により支柱4に対しZ方向、つまり上下方向に移動可能に構成されており、これにより砥石3の砥面に対するカメラ6の焦点位置を可変できるようになっている。上記Z軸駆動部23も先に述べたX軸駆動部21及びY軸駆動部22と同様に制御装置10の制御の下で駆動制御される。カメラ6は、高倍率の金属顕微鏡にディジタルラインカメラを装着したもので、制御装置10からの駆動指示に従い砥石3の砥面を所定の倍率で撮像し、その撮像画像データを制御装置10へ出力する。
【0013】
さらに、上記砥石3の斜め上方には第1の照明光源7及び第2の照明光源8が配置され、またカメラ6と砥石3との間にはハーフミラー9が配置されている。第1の照明光源7は例えば白色LEDを用いたもので、白色光を上記ハーフミラー9により反射させて砥石3の砥面上に垂直落射光として照射させる。第2の照明光源8は例えば赤色LEDを用いたもので、砥石3の砥面に対し赤色光を斜め上方から照射する。なお、第2の照明光源8は、赤色LEDに限らず、青色LED等の白色以外の有色光を発光するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0014】
ところで、制御装置10は例えばパーソナル・コンピュータからなり、以下のように構成される。図4はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、制御装置10は入出力インタフェースユニット11と、制御ユニット12と、記憶ユニット13とを備えている。入出力インタフェースユニット11は、先に述べたXYZ各軸の駆動部21〜23及びカメラ6との間で制御信号や画像データの入出力処理を行うと共に、入力デバイス24及び出力デバイス25との間で入力データ及び出力データの入出力処理を行う。
【0015】
記憶ユニット13は、記憶媒体として例えばハードディスクやNAND型フラッシュメモリ等の随時書込み読出しが可能な不揮発性メモリを用いたもので、この実施形態を実施するために必要な記憶部として、撮像画像記憶部131と、砥粒抽出結果記憶部132と、砥粒解析結果記憶部133と、砥粒分布ヒストグラム記憶部134と、三次元マップ記憶部135を備えている。
【0016】
制御ユニット12は中央処理ユニット(Central Processing Unit;CPU)を有し、この実施形態を実施する上で必要な制御機能として、XYZ駆動制御部121と、撮像制御部122と、砥粒抽出処理部123と、砥粒解析処理部124と、砥粒分布ヒストグラム生成処理部125と、三次元マップ生成処理部126と、検査データ出力制御部127を備えている。
【0017】
XYZ駆動制御部121は、砥石3の砥面を撮像する際に、撮像制御部122による撮像制御と同期してXYZ各軸の駆動部21〜23を駆動制御するもので、X軸駆動部21及びY軸駆動部22をそれぞれ制御して砥面に対するカメラ6のXY方向におけるライン撮像位置を可変設定すると共に、Z軸駆動部23を制御して砥面に対するカメラ6のZ方向における焦点距離をステップ的に可変設定する処理を行う。
【0018】
撮像制御部122は、上記XYZ駆動制御部121により砥面に対するカメラ6のXY方向における撮像位置及びZ方向における焦点距離が設定されるごとに、カメラ6により撮像された砥面のライン画像データを取り込んで上記撮像画像記憶部131に記憶させる処理を行う。
【0019】
砥粒抽出処理部123は、上記撮像画像記憶部131からライン画像データを読込み、この読込んだライン画像データに対し予め用意された複数種類のフィルタリング処理を実施し、このフィルタリング処理後の画像データについて予め設定したしきい値に従い二値化処理を行うことにより、上記ライン画像データから砥粒の切れ刃候補となる画像データを抽出する。そして、この抽出された砥粒の切れ刃候補となる画像データに対しラベリング処理を行った後、上記砥粒解析結果記憶部133に記憶させる。上記フィルタリング処理には、先に述べた第2の照明光源8の照明光色(赤色)を利用した色フィルタリング処理と、平滑化フィルタリング処理と、縮小処理と、Logフィルタリング処理と、最大値フィルタリング処理と、最小値フィルタリング処理が含まれる。
【0020】
砥粒解析処理部124は、上記砥粒解析結果記憶部133から各砥粒切れ刃候補の画像データを読込み、この読込んだ砥粒切れ刃候補の画像データをもとに当該候補ごとに以下の解析パラメータを求める処理を実行する。
(1) 砥面全域における各砥粒切れ刃候補の重心の座標(X,Y,Z各軸)を算出する処理。
(2) 凸多角形近似及び円形度を算出する処理。
(3) 内部欠損及び外部欠損を検出する処理。
(4) 面積及び欠損度を算出する処理。
(5) 砥面の回転方向に対するすくい角側の稜線形状を検出する処理。
そして砥粒解析処理部124は、上記求められた各解析パラメータのデータを上記砥粒解析結果記憶部133に記憶させる処理を行う。
【0021】
砥粒分布ヒストグラム生成処理部125は、上記砥粒解析結果記憶部133から各砥粒切れ刃候補の面積、すくい角側稜線形状の検出データを読込む。そして、これらの解析パラメータの各々について、その値を砥石3の幅方向において同じ位置にあるものどうしで砥面全面にわたり加算することにより、砥石3の幅方向における面積及びすくい角側稜線形状の各分布を表すヒストグラムデータを生成する。そして、この生成された各ヒストグラムデータを上記砥粒分布ヒストグラム記憶部134に記憶させる処理を行う。
【0022】
三次元マップ生成処理部126は、上記砥粒解析結果記憶部133から、各砥粒切れ刃候補の重心の座標と、凸多角形近似の面積のデータを読込み、この読込んだ解析パラメータをもとに砥石3の砥面全域における砥粒の分布状態を三次元的に表した三次元マップを生成する。そして、この生成した三次元マップデータを上記三次元マップ記憶部135に記憶させる処理を行う。
【0023】
検査データ出力制御部127は、入力デバイス24により検査データの出力指示が入力されたことを入出力インタフェースユニット11を介して認識した場合に、上記砥粒分布ヒストグラム記憶部134及び三次元マップ記憶部135から砥粒分布のヒストグラムデータ及び三次元マップデータを読み出す。そして、この読み出された砥粒分布のヒストグラムデータ及び三次元マップデータを、入出力インタフェースユニット11を介して出力デバイス25へ出力する処理。
【0024】
出力デバイス25は、ディスプレイ、プリンタ又は外部記憶装置等を備え、上記制御装置10から出力された砥粒分布のヒストグラムデータ及び三次元マップデータを表示、印刷或いは記憶する。なお、上記出力デバイス25とは別に制御装置10内又は装置外に通信インタフェースユニットを追加することで、上記砥粒分布のヒストグラムデータ及び三次元マップデータを通信ネットワークを介して他の情報処理装置等に送信することも可能である。
【0025】
(動作)
次に、以上のように構成された砥面状体検査システムの動作を、制御装置10の制御手順に従い説明する。図5は、制御装置10による制御手順とその処理内容を示すフローチャートである。
(1)検査用パラメータの初期設定
制御装置10において、制御ユニット12は先ずステップS11において、検査者が入力デバイス24を操作して入力した検査用パラメータを入出力インタフェースユニット11を介して取り込み、この検査用パラメータを制御ユニット10内の制御用メモリに格納する。
【0026】
検査用パラメータとしては、砥石3の検査対象となる砥面の範囲を表す座標と、砥面をラインカメラで撮像するときの各撮像ライン間のオーバラップ幅Lw と、砥粒32の高さを測定するときのカメラ6の上下方向への最大移動量とステップ幅が挙げられる。このうち撮像ライン間のオーバラップ幅Lw は、例えば図7に示すようにJIS規格により規定される砥粒の平均径より少し広い値に設定される。
【0027】
(2)砥面の撮像
検査に先立ち、検査者は検査対象の砥石3をXYテーブル1,2上の所定の位置にセットする。そして、この砥石3のセット完了後に入力デバイス24から検査開始指示を入力する。
制御ユニット12は、ステップS12により検査開始指示の入力を監視している。そして、この状態で検査開始指示の入力を検出すると、XYZ駆動制御部121の制御の下で、先ずステップS13によりXY各軸の駆動部21,22を駆動制御して、砥石3の砥面の最初の検査対象領域がカメラ6の直下になるように位置を初期設定する。また、それと共にZ軸駆動部23を駆動して、砥石3の砥面に対するカメラ6の光軸方向の位置、つまり焦点位置を初期設定する。このとき、焦点の初期位置は、砥粒3の先端部(頂部)より十分にカメラ6寄りの位置となるように設定する。
【0028】
続いてXYZ駆動制御部121及び撮像制御部122の制御の下で、ステップS14によりXY各軸の駆動部21,22を制御してXYテーブル1,2を移動させながらカメラ6を動作させることで、カメラ6により砥面の検査対象領域を例えば図6に示すようにライン状に順次撮像する。そして、この撮像制御により得られた各ラインL1〜L6の画像データをステップS15により撮像画像記憶部131に順次格納する。
【0029】
ここで、上記各ラインL1〜L6の幅はカメラ6の撮像視野により決まり、また各ラインL1〜L6間のオーバラップ幅Lw は事前に設定した検査用パラメータにより決まる。このオーバラップ幅Lw は、先に述べたようにJIS規格により規定される砥粒の平均径より少し広い値に設定されている。このため、各ラインL1〜L6間にオーバラップ幅Lw を設けたことにより、各ラインL1〜L6間に位置する砥粒を漏れなく撮像することが可能となる。
【0030】
上記焦点の初期位置における各ライン撮像処理が終了すると、制御ユニット12はステップS13に戻って、Z軸駆動部23を駆動することによりカメラ6の焦点位置を予め定めたステップ量だけ光軸方向に移動させる。そして、この状態でXYテーブル1,2を移動させながらカメラ6を動作させることにより、上記検査対象領域に対し上記した各ラインL1〜L6の撮像処理を行い、そのライン画像データを撮像画像記憶部131に格納する。以後同様に、ステップS13〜S15において、カメラ6の焦点位置を光軸方向に一定量移動させるごとに、上記検査対象領域に対し各ラインL1〜L6の撮像処理を行ってそのライン画像データを撮像画像記憶部131に格納する。
【0031】
そうしてすべての焦点距離におけるライン撮像処理が終了すると、制御ユニット12は次にXYZ駆動制御部121及び撮像制御部122の制御の下でXYテーブル1,2を制御し、砥面上のまだ検査が行われていない検査対象領域がカメラ6の直下になるように位置を設定する。そして、この検査対象領域に対し、先に述べたようにカメラ6の光軸方向の位置(焦点位置)をステップ的に移動させるごとにライン撮像処理を行い、そのライン画像データを撮像画像記憶部131に順次格納する。
以上の撮像処理は、砥面のすべての検査対象領域について焦点位置別のライン画像データが得られた時点で終了となる(ステップS16)。
【0032】
(3)砥粒抽出処理
上記撮像処理が終了すると制御ユニット12は、次にステップS17により砥粒抽出処理部123を起動し、この砥粒抽出処理部123の制御の下で、上記撮像画像記憶部131に記憶された各ライン画像データから研削に関与する砥粒32の候補となる画像を抽出するための処理を以下のように実行する。図6はその抽出処理の手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0033】
(3−1)平滑化及び色フィルタリング処理
すなわち、上記撮像画像記憶部131からライン画像データを順次読み出し、この読み出された各ライン画像データに対し先ずステップS21により平滑化処理を行う。平滑化処理は、画像の輝度値を平らに滑らかにする処理であり、画像中のノイズを除去するために行われる。図9(a)は上記読み出された原画像の一例を、また図9(b)は平滑化フィルタ処理後の画像の一例とその輝度分布を示す図である。
【0034】
また、この平滑化処理に先立ち砥粒抽出処理部123は、ライン画像データに対しその色に着目したフィルタリング処理を以下のように実行する。すなわち、砥石3の砥粒32の頂部は図3に示したように平坦でかつ凹凸が少なく鏡面に近い状態となっているのに対し、砥粒32が設けられていない砥石基材31面は平坦であっても凹凸が多い。この点に着目し、図1に示したように砥石3の検査対象領域に対し、第1の照明光源7により白色光を垂直落射光として照明すると同時に、第2の照明光源8により斜め上方から赤色光を照明する。
【0035】
このようにすると、砥粒32の頂部では白色光が強く反射されてカメラ6に入射するが、赤色光はその大部分が第2の照明光源8に対し反対側の斜め上方に反射されるためカメラ6には入射しない。これに対し砥石基材31面では、その凹凸により赤色光が乱反射してその一部が白色照明の反射光と共にカメラ6に入射する。したがって、カメラ6により撮像された砥面の画像の色は、砥粒32の頂部では白色が支配し、砥石基材31面では白色と赤色が混在した色となる。そこで、ライン画像データに対し赤色領域の輝度を抑圧するフィルタリング処理を施すことで、砥石基材31面に対し砥粒32の頂部が強調された画像を得ることができる。
【0036】
(3−2)縮小処理
次に砥粒抽出処理部123は、ステップS22において、上記平滑化及び色フィルタリング処理後のライン画像データに対し、検出誤差に影響がでない程度に画素を減らす処理を行う。この処理はそれ以降の画像処理に対する制御ユニット11のデータ処理量を減らして処理時間を短縮するためのものである。なお、制御ユニット11のCPUの処理能力が十分に高ければ、必ずしも実行しなくてもよい。
【0037】
(3−3)Logフィルタ
続いて砥粒抽出処理部123は、ステップS23において、上記縮小処理後のライン画像データに対し、砥粒32部分のエッジを検出するための処理を行う。このエッジ検出処理にはLogフィルタが使用される。Logフィルタは、ガウシアンフィルタとラプラシアンフィルタを組み合わせたもので、ガウシアンフィルタにより平滑化した後、ラプラシアンフィルタにより2次微分と同様の処理を行い、これにより値が+から−に変化するゼロ交差点をエッジとして検出する。そして、このLogフィルタにより処理された後の画像データAをステップS24で制御ユニット11内のメモリに一旦保存する。図9(c)はこのLogフィルタ処理後の画像の一例とその輝度分布を示す図である。
【0038】
(3−4)最大値フィルタ処理及び最小値フィルタ処理
次に砥粒抽出処理部123は、ステップS25,S26において、上記Logフィルタにより処理された後のライン画像データに対し、砥粒32部分の範囲を強調するための処理を行う。この実施形態で検査対象とする砥石は、図3に例示したように砥石基材31上に砥粒32を独立して突設させているため、その画像は黒いリング内に砥粒32が存在するものとなります。そこで、このリングの範囲を最大値フィルタ及び最小値フィルタにより強調する。そして、この最大値フィルタ及び最小値フィルタにより処理された後の画像データBをステップS27で制御ユニット11内のメモリに一旦保存する。図9(d),(e)はそれぞれ最大値フィルタ及び最小値フィルタによりフィルタリング処理された後の画像の一例とその輝度分布を示している。
【0039】
(3−4)砥粒切れ刃候補の絞り込み及び抽出処理
続いて砥粒抽出処理部123は、ステップS28において、上記Logフィルタ処理後の画像データAと、上記最大値フィルタ及び最小値フィルタによりフィルタリング処理された後の画像データBを読み出し、これらの画像データA,Bをもとに砥粒切れ刃候補の絞り込み及び抽出処理を行う。
【0040】
先ずステップS281において、上記Logフィルタ処理後の画像データAから図9(f)に示すように絶対値が0以上の画素のみを抽出する。これにより砥粒切れ刃候補が絞り込まれる。そして、次にステップS282において、上記最大値フィルタ及び最小値フィルタにより処理された後の画像データBとLogフィルタ処理後の画像データAとの差分を計算し、この差分画像B−Aを予め設定されたしきい値Th1と比較して、輝度がしきい値Th1以上の部位を抽出する。図9(g)は上記画像データB,A間の差分画像の一例とその輝度分布を示し、図9(h)は上記しきい値Th1との比較により抽出された画像の一例を示すものである。同図に示すように、図8に示した砥粒抽出処理を実施することにより、原画像(図9(a))から砥粒切れ刃の候補となる画像を絞り込むことができる。
【0041】
(3−5)抽出された砥粒切れ刃候補の保存
砥粒抽出処理部123は、上記絞り込まれた砥粒切れ刃候補の画像の各々に対しステップS29によりラベリング処理を行い、このラベリング処理により発行された砥粒識別番号に関連付けて上記絞り込まれた砥粒切れ刃候補の画像データを、ステップS30により砥粒抽出結果記憶部132に一旦記憶させる。
【0042】
(3−6)砥粒切れ刃候補の抽出
砥粒抽出処理部123は、最後に、上記絞り込まれた砥粒切れ刃候補の画像がカメラ6の合焦点領域内に存在するか否かを判断するために、上記絞り込まれた砥粒切れ刃候補の画像について輪郭抽出処理を行う。そして、この輪郭抽出処理により抽出された輪郭の円形度を求め、この円形度が予め設定されたしきい値Th2以上であるか否かを判定する。また、上記抽出された輪郭の形状を予め記憶されている砥粒の基本形状と比較することにより輪郭一致度を求め、この輪郭一致度をしきい値Th3と比較して、輪郭一致度がしきい値Th3以上となる砥粒切れ刃候補の画像を最終的に砥粒切れ刃候補の画像として抽出する。そして、この抽出された砥粒切れ刃候補の画像データを砥粒抽出結果記憶部132に記憶させる。
【0043】
なお、カメラ6の合焦点領域内に存在すると判定された砥粒切れ刃候補には、次の3種類がある。図21にその例を示す。
(1) 砥粒の最外面の全面が研削に関与するもの。すなわち、砥粒の頂部全体が切れ刃として機能するもの(図21(a))。
(2) 砥粒の最外面の一部が研削に関与するもの。すなわち、砥粒の頂部の一部のみが切れ刃として機能するもの(図21(b))。
(3) 砥粒の最外面の全面が研削に関与しないもの。すなわち、砥粒の頂部全体が切れ刃として機能しないもの(図21(c))。
【0044】
(4)砥粒解析処理
上記砥粒抽出処理が終了すると、制御ユニット11は次にステップS18により砥粒解析処理部124を起動し、この砥粒解析処理部124の制御の下で、上記抽出された各砥粒切れ刃候補に対し以下のように砥粒解析処理を実行する。図10はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0045】
(4−1)砥粒切れ刃候補の重心の算出
すなわち、砥粒解析処理部124は、先ずステップS31において各砥粒切れ刃候補の画像の重心をX、Y、Zの各軸について計算し、この計算された重心の値を砥石3の砥面全域における当該砥粒切れ刃候補の位置を表す座標情報として、砥粒解析結果記憶部133に記憶させる。
【0046】
(4−2)砥粒切れ刃候補の凸多角形近似及び円形度の算出
砥粒解析処理部124は、次にステップS32により、各砥粒切れ刃候補の画像の各々についてその突出部(角)を直線で結ぶいわゆる凸多角形近似を行う。またそれと共に、上記各砥粒切れ刃候補の画像の円形度を算出する。円形度は、砥粒切れ刃候補の形状がどれだけ円に近いかを表す形状の解析パラメータであり、砥粒切れ刃候補の面積をS、周囲長をLとしたとき、
円形度=4πS/L2
として計算できる。
【0047】
そして砥粒解析処理部124は、上記凸多角形近似された画像データ及び上記円形度の算出データを砥粒解析結果記憶部133に記憶させる。例えば、いま砥粒32の原画像を図11(a)とし、上記砥粒抽出処理により抽出された砥粒切れ刃候補の画像が図11(b)に示すものだったとすると、上記凸多角形近似により図11(c)に示すような画像が得られる。
【0048】
(4−3)内部欠損及び外部欠損の検出
砥粒解析処理部124は、続いてステップS33,S34において、上記凸多角形近似された画像から砥粒頂部の内部欠損及び外部欠損を検出する処理を行う。内部欠損は、凸多角形近似された画像内で正反射していない領域として検出される。外部欠損は、上記凸多角形近似された画像の辺に隣接した正反射していない領域として検出される。そして、この内部欠損及び外部欠損の検出データは、砥粒解析結果記憶部133に記憶される。図11(e)にこの内部欠損及び外部欠損の検出結果の一例を示す。
【0049】
(4−4)面積及び欠損度の算出
砥粒解析処理部124は、続いてステップS35において、上記凸多角形近似された画像の面積St と、この凸多角形近似された画像の面積Stから上記内部欠損及び外部欠損の面積を差し引いた面積Sj を算出する。また、この面積の算出結果から欠損度を算出する。欠損度は、
欠損度=1−(Sj /St )
として算出される。そして、この算出された各面積Sj 、St 及び欠損度は、砥粒解析結果記憶部133に記憶される。
【0050】
ところで、上記面積St 及びSj は、砥粒切れ刃候補抽出処理において抽出されたすべての砥粒切れ刃候補について算出される。しかし、この算出対象となった砥粒切れ刃候補には、先に(3−6)において述べたように、砥粒の最外面の全面が研削に関与するもの(1) ばかりでなく、砥粒の最外面の一部のみが研削に関与するもの(2) や、砥粒の最外面が研削にまったく関与しないもの(3) も含まれる。このため、砥粒切れ刃候補によっては、上記面積Sj は研削に関与する切れ刃の面積を正確に表したものとはなっていない。
【0051】
そこで本実施形態では、当初解析対象とした各砥粒切れ刃候補の中から、研削に関与する切れ刃部分を有する砥粒切れ刃候補を抽出し直し、さらにこの再抽出した砥粒切れ刃候補の各々について、切れ刃部分の実際の大きさに応じて面積Sj を計算し直すようにしている。
【0052】
この砥粒切れ刃候補の再抽出処理と面積Sj の再計算処理は、砥粒切れ刃候補の最外面における画像の輝度又は白色度に基づいて行う。
すなわち、砥粒切れ刃候補の最外面における画像の輝度又は白色度は、図21に例示したように最外面に面していない部位に比べて高くなる。そこで、最外面における画像の輝度又は白色度と、最外面に面していない部位の画像の輝度又は白色度との間にしきい値を設定し、画像の輝度又は白色度がこのしきい値以上の砥粒切れ刃候補を再抽出する。さらに、この再抽出された砥粒切れ刃候補の画像について、上記しきい値以上の輝度又は白色度を有する部位の外形の面積を上記凸多角形近似等の手法で算出すると共に、この凸多角形近似された画像内の内部欠損及び外部欠損部分をその輝度又は白色度に応じて検出してその面積を算出する。そして、上記凸多角形近似により算出された面積から、上記内部欠損及び外部欠損部分の面積を差し引くことにより、実際に研削に関与する切れ刃部分の面積Sj ′を算出し直す。この再計算された砥粒切れ刃候補の切れ刃部分の面積Sj ′も砥粒解析結果記憶部133に記憶される。
【0053】
(4−5)すくい角側の稜線形状の検出
砥粒解析処理部124は、続いてステップS36において、上記凸多角形近似された画像と、事前に検査用パラメータとして設定された砥石3の回転方向の情報とをもとに、砥面の回転方向に対する上記砥粒切れ刃候補のすくい角側の稜線形状を検出する。例えば、砥石3の回転方向が図12に示すように設定されていれば、凸多角形近似された各砥粒切れ刃候補についてすくい角側の稜線形状は同図に示す辺33として検出される。そして、この検出された砥粒切れ刃候補のすくい角側の稜線形状を表す画像データは、砥粒解析結果記憶部133に記憶される。図11(d)はこの検出されたすくい角側の稜線形状を表す画像データの一例を示すものである。
【0054】
なお、上記すくい角側の稜線形状は、上記面積St を算出する際に使用した凸多角形近似された画像ではなく、上記最外面における画像の輝度又は白色度をもとに再抽出された砥粒切れ刃候補の画像をもとに検出するようにしてもよい。このようにすると、実際に研削に関与する切れ刃部分のすくい角側の稜線形状を検出することが可能となる。
【0055】
(5)砥粒分布ヒストグラムの生成
上記砥粒解析処理によりすべての砥粒切れ刃候補についての解析処理が終了すると、制御ユニット12は次にステップS19により砥粒分布ヒストグラム生成処理部125を起動し、この砥粒分布ヒストグラム生成処理部125の制御の下で、以下のように砥粒分布ヒストグラムの生成処理を実行する。
【0056】
すなわち、先ず砥粒解析結果記憶部133から上記再計算により求められた実際に研削に関与する切れ刃部分の面積Sj ′と、当該切れ刃部分のすくい角側稜線形状の検出データを読込む。そして、これらの検出データの各々について、その画素値を砥石3の幅方向において同じ位置にあるものどうしで砥面全域にわたり累積加算することにより、砥石3の幅方向における砥粒の切れ刃部分の面積Sj ′及び当該切れ刃部分のすくい角側稜線形状の各分布を表すヒストグラムデータを生成する。
【0057】
図13及び図15は、切れ刃部分の面積Sj ′のヒストグラム生成処理のイメージを示している。また図14は、切れ刃部分のすくい角側稜線形状のヒストグラム生成処理のイメージを示している。そして、この生成された各ヒストグラムデータを上記砥粒分布ヒストグラム記憶部134に記憶させる。
【0058】
図16及び図17は、それぞれ図2に示したリング状をなす円盤型砥石の試供品に対し実際に砥粒切れ刃候補の抽出及び解析処理を行い、その結果に基づいて生成した切れ刃部分の面積Sj ′及び切れ刃部分のすくい角側稜線形状のヒストグラムを示すものである。これらの図から分かることは、砥粒の分布は砥石の幅方向の位置によってばらつきがあるということと、砥粒の分布量が円盤型砥石3の内周側より外周側の方が多くなっているということである。
【0059】
図18は、同じ円盤型砥石の試供品を用いて工作物を研削加工したときの工作物の仕上げ面形状を示す図である。図16、図17と図18とを比較すると、上記砥粒分布のヒストグラムは工作物の仕上げ面形状と対応していることが分かる。したがって、上記砥粒分布を表すヒストグラムを用いることで工作物の仕上げ面形状を予測することが可能となり、工作物の仕上げ面形状を改善するための種々対策を講じることが可能となる。
【0060】
例えば、研削加工を行う際に、砥石と工作物の相対位置を、上記ヒストグラムから求められる砥石の幅方向における砥粒分布の間隔に応じて設定したピッチで、砥石の幅方向にシフトするように制御する。このようにすると、無駄な研削を行うことなく効率良く、工作物の仕上げ面に発生する条痕の突出量を減らして仕上げ面をより平坦な面にすることが可能となる。
【0061】
(6)砥面の三次元マップの生成
上記砥粒解析処理によりすべての砥粒切れ刃候補についての解析処理が終了すると、制御ユニット12は次にステップS20により三次元マップ生成処理部126を起動し、この三次元マップ生成処理部126の制御の下で、以下のように砥面の三次元マップを生成する。
【0062】
すなわち、先ず上記砥粒解析結果記憶部133から各砥粒切れ刃候補の重心の座標と、当該砥粒切れ刃候補の凸多角形近似された画像の面積St と、上記砥粒切れ刃候補のうち研削に関与する切れ刃部分が検出された砥粒切れ刃候補の切れ刃部分の面積Sj ′を表す解析パラメータを読込む。そして、この読込んだ解析パラメータをもとに砥石3の砥面全域における砥粒の分布状態を三次元的に表した三次元マップを生成する。そして、この生成した三次元マップデータを上記三次元マップ記憶部135に記憶させる処理を行う。
【0063】
図19は、生成された三次元マップの一例を示すものである。このマップでは、研削に関与する切れ刃部分が検出された砥粒切れ刃候補を表すマークを、その重心の位置座標に応じて砥面を表す画像上に表示している。そして、当該砥粒切れ刃候補ごとに研削に対する関与度を求め、この関与度の違いを異なる色で上記各マークに重ねて表示している。
【0064】
関与度は、上記凸多角形近似された画像の面積St に対する、実際に研削に関与する切れ刃部分の面積Sj ′の割合として求めることができる。例えば、図19では切れ刃部分の面積Sj ′が凸多角形近似された画像の面積Stの30%以上であるか、30%未満であるか、0%であるかの3段階で表され、それぞれ異なる色、例えば赤、緑、白が割り当てられる。
【0065】
このような三次元マップを生成することで、砥石3の砥面全域にわたって砥粒の分布状態と各砥粒の状態(研削への関与の度合い)を一目で容易に把握することが可能となる。例えば、図19においてマークが表示されていない場所は砥粒切れ刃候補が抽出できなかったり、また抽出できても研削に関与する切れ刃を持たない砥粒が存在する場所であり、砥粒が大きく欠損したか或いは砥粒自体が脱落した場所であると推測できる。また、マークの色によりその砥粒の研削に対する関与の度合いを一目で把握することが可能となる。なお、上記例では関与度を30%以上、30%未満及び0%の3段階に色を異ならせて表示する場合を例示したが、4段階以上に色を異ならせて表示するようにしてもよく、また色以外にマークの形状や大きさ、表示濃度を異ならせるようにしてもよい。
【0066】
また、本実施形態ではカメラ6の焦点位置をステップ的に可変してそれぞれ画像を撮像し、かつこれらの画像データから砥粒切れ刃候補を抽出してそれぞれ凸多角形近似された図形等を算出するようにしている。そこで、これらの解析パラメータを用いて、個々の砥粒切れ刃候補の三次元画像を生成することもできる。図20はこの生成された三次元画像の一例を示すものである。この砥粒切れ刃候補の三次元画像を用いると、切れ刃候補として抽出されなかった砥粒の状態を詳しく確認することが可能となる。
【0067】
(作用効果)
以上詳述したようにこの実施形態では、XYZ駆動制御部121及び撮像制御部122の制御の下でカメラ6により砥石3の砥面を撮像してそのライン画像データを取り込み、各ライン画像データに対し砥粒抽出処理部123により予め用意された複数のフィルタリング処理を行うことで上記ライン画像データから砥粒切れ刃候補の画像を抽出する。そして、砥粒解析処理部124の制御の下で、上記抽出された各砥粒切れ刃候補の画像から、砥面全域における各砥粒切れ刃候補の重心の座標と、凸多角形近似データ及び円形度と、内部欠損及び外部欠損と、面積及び欠損度と、すくい角側の稜線形状をそれぞれ算出又は検出する。そして、この得られた解析パラメータをもとに、砥石3の幅方向における砥粒分布ヒストグラムと、砥石3の砥面全域における砥粒の分布状態を表す三次元マップを生成するようにしている。
【0068】
したがって、この実施形態によれば以下のような作用効果が奏せられる。
(1) 砥石3の砥面全域に渡ってその画像データを自動的に取得することが可能となる。その際、ラインカメラの機能を用いて検査対象領域の画像を複数のライン画像データとして得るようにしているので、エリアカメラを用いて1枚の画像データとして得る場合に比べて画像データの取得に要する時間を大幅に短縮し、これにより検査の高速化を図ることが可能となる。しかも、ライン画像データを得る際に、各ラインL1〜L6間にJIS規格により規定される砥粒の平均径より少し広い値に設定したオーバラップ幅Lw を設定しているので、各ラインL1〜L6間に位置する砥粒を漏れなく撮像することが可能となる。
【0069】
(2) 砥面を撮像する際に、その検査対象領域に対し第1の照明光源7により白色光を垂直落射光として照明すると同時に、第2の照明光源8により斜め上方から赤色光を照明する。そして、この状態で得られたライン画像データに対し、赤色領域の輝度を抑圧するフィルタリング処理を施すようにしている。したがって、カメラ6により撮像された砥面の画像の色は、砥粒32の頂部では白色が支配し、砥石基材31面では白色と赤色が混在した色となり、このライン画像データに対し赤色領域の輝度を抑圧するフィルタリング処理を施すことで、砥石基材31面に対し砥粒32の頂部が強調された画像を得ることが可能となる。
【0070】
(3) 抽出された各砥粒切れ刃候補の画像をもとに、砥面全域における各砥粒切れ刃候補の重心の座標と、凸多角形近似データ及び円形度と、内部欠損及び外部欠損と、面積及び欠損度と、すくい角側の稜線形状をそれぞれ自動的に定量化することができる。特に、砥粒切れ刃候補の面積を算出する際には、砥粒切れ刃候補の最外面における画像の輝度又は白色度に基づいて、この画像の輝度又は白色度がしきい値以上の砥粒切れ刃候補を抽出し、この抽出された砥粒切れ刃候補について面積を再計算することで、砥粒切れ刃候補の実際に研削に関与する切れ刃部分の面積Sj ′を定量化することができる。
【0071】
(4) 解析パラメータをもとに、砥石3の幅方向における砥粒切れ刃候補の実際に研削に関与する切れ刃部分の面積Sj ′及び当該切れ刃部分のすくい角側稜線形状のヒストグラムを生成するようにしたので、砥石の幅方向における砥粒の切れ刃の分布のばらつき度合いや分布の粗密の間隔等を解析することができ、これらの解析データを研削加工の制御にフィードバックすることで、工作物の仕上げ精度を向上させることが可能となる。
【0072】
(5) 解析パラメータをもとに、砥石3の砥面全域における砥粒の分布状態と、各砥粒の研削加工に対する関与度を表示した三次元マップを生成するようにしているので、砥石3の砥面全域にわたり砥粒の分布状態と各砥粒の状態(研削に関与の度合い)を一目で容易に把握することが可能となる。
【0073】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記一実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態ではリング状円盤型砥石を例にとって説明したが、円筒の周面に砥粒を散設した円筒状砥石にもこの発明は適用可能である。要するに、砥石の種類や形状については如何なるものであってもよい。
【0074】
その他、制御装置の構成をはじめ、XYZ駆動制御部、撮像制御部、砥粒抽出処理部、砥粒解析処理部、砥粒分布ヒストグラム生成処理部、三次元マップ生成処理部及び検査データ出力制御部の制御手順と処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0075】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…Xテーブル、2…Yテーブル、3…砥石、4…支柱、5…アーム、6…カメラ、7…第1の照明光源、8…第2の照明光源、9…ハーフミラー、10…制御装置、11…入出力インタフェース、12…制御ユニット、121…XYZ駆動制御部、122…撮像制御部、123…砥粒抽出処理部、124…砥粒解析処理部、125…砥粒分布ヒストグラム生成処理部、126…三次元マップ生成処理部、127…検査データ出力制御部、13…記憶ユニット、131…撮像画像記憶部、132…砥粒抽出結果記憶部、133…砥粒解析結果記憶部、134…砥粒分布ヒストグラム記憶部、135…三次元マップ記憶部、21…X軸駆動部、22…Y軸駆動部、23…Z軸駆動部、24…入力デバイス、25…出力デバイス、31…砥石基材、32…砥粒、33…すくい側稜線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体の砥粒を散設した面を砥面とし、当該砥面と工作物とを相対的に移動させることにより工作物を研削加工する研削工具の、前記砥面の状態を検査する砥面検査システムにおいて、
前記砥面に対向して配置され、前記砥面を撮像してその画像データを出力する撮像装置と、
前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動可能に支持する支持装置と、
前記撮像装置及び支持装置に接続された制御装置と
を具備し、
前記制御装置は、
前記支持装置を制御して前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動させることにより、前記撮像装置による前記砥面の撮像対象領域を可変設定する撮像対象領域設定手段と、
前記設定された砥面の撮像対象領域について前記撮像装置が撮像した画像データを取り込んで記憶する画像取得手段と、
前記記憶された画像データから複数の砥粒切れ刃候補となる画像を抽出する抽出手段と、
前記抽出された砥粒切れ刃候補となる各画像をもとに、当該砥粒切れ刃候補の研削に関与する切れ刃部分の面積と、当該切れ刃部分の画像のうち前記砥面の移動方向に対し前面側となるすくい角側稜線部分の形状のうちの少なくとも一方を算出する第1の解析処理手段と、
前記第1の解析処理手段により算出された研削に関与する切れ刃部分の面積又はすくい角側稜線部分の形状を表す画像を、前記砥面の移動方向と直交する方向において同じ位置にあるものどうしで砥面全域にわたり加算することにより、砥面の移動方向と直交する方向における砥粒切れ刃候補の分布を表すヒストグラムデータを生成するヒストグラム生成手段と
を備えることを特徴とする研削工具の砥面検査シテスム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記抽出された砥粒切れ刃候補となる各画像をもとに、前記砥面全域における当該砥粒切れ刃候補となる各画像の位置を算出する第2の解析処理手段と、
前記第1の解析処理手段により算出された研削に関与する切れ刃部分の面積又はすくい角側稜線部分の形状を表す画像をもとに、当該各砥粒切れ刃候補の研削に対する関与の度合いを計算する手段と、
前記第2の解析処理手段により算出された砥粒切れ刃候補となる各画像の位置と、前記計算された各砥粒切れ刃候補の研削に対する関与の度合いをもとに、前記砥面全域における各砥粒切れ刃候補の分布と個々の砥粒切れ刃候補の研削に関与する度合いを表すマップ情報を生成するマップ生成手段と
を、さらに備えることを特徴とする請求項1記載の研削工具の砥面検査システム。
【請求項3】
前記撮像対象領域設定手段は、前記支持装置を制御して、前記撮像装置による前記砥面の撮像対象ラインの位置を当該ラインと直交する方向に一定の間隔でシフトさせると共に、このシフト動作において各ライン間に予め規定された前記砥粒の平均径より大きな幅を有するオーバラップ領域を設定することを特徴とする請求項1又は2記載の研削工具の砥面検査システム。
【請求項4】
前記砥面の撮像対象領域を、当該砥面に対し直交する方向から第1の発光色を有する第1の照明光により照明すると共に、前記砥面の撮像対象領域に対し斜め上方から第1の発光色とは異なる第2の発光色を有する第2の照明光により照明する照明装置を、さらに具備し、
前記抽出手段は、前記記憶された画像データから複数の砥粒切れ刃候補となる画像を抽出する際に、前記画像データに対し前記第2の発光色を含む領域と含まない領域との間の信号レベル差を拡大する処理を行う手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の研削工具の砥面検査システム。
【請求項5】
前記第1の解析処理手段は、
前記抽出された複数の砥粒切れ刃候補から、予め設定したしきい値以上の輝度又は白色度を有する画像領域を有する砥粒切れ刃候補を再抽出する手段と、
前記再抽出された砥粒切れ刃候補の画像を多角形近似して得られる多角形の面積を算出する手段と、
前記多角形近似して得られる多角形内に含まれる欠損領域の面積を算出する手段と、
前記算出された多角形の面積から前記算出された欠損領域の面積を引き算することにより、前記砥粒切れ刃候補の研削に関与する切れ刃部分の面積を算出する手段と
を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の研削工具の砥面検査システム。
【請求項6】
前記マップ生成手段は、
前記研削に関与する切れ刃部分を有する砥粒を表すマークを、当該砥粒の重心位置に応じて砥面を表す画像上に表示する手段と、
前記多角形近似して得られる多角形の面積に対する、前記研削に関与する切れ刃部分の面積の割合を、砥粒切れ刃候補の研削に対する関与度を表す情報として算出する手段と、
前記算出された関与度を表す情報に応じて、関与度の違いを異なる色で表した表示画像を上記各マークに重ねて表示する手段と
を備えることを特徴とする請求項5に記載の研削工具の砥面検査システム。
【請求項7】
工具基体の砥粒を散設した面を砥面とし、当該砥面と工作物とを相対的に移動させることにより工作物を研削加工する研削工具の、前記砥面の状態を、前記砥面を撮像してその画像データを出力する撮像装置と、前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動可能に支持する支持装置と、前記撮像装置及び支持装置に接続された制御装置とを備えるシステムを用いて検査する研削工具の砥面検査方法において、
前記制御装置が、前記支持装置を制御して前記研削工具と前記撮像装置とを相対的に移動させることにより、前記撮像装置による前記砥面の撮像対象領域を可変設定する過程と、
前記制御装置が、前記設定された砥面の撮像対象領域について前記撮像装置が撮像した画像データを取り込んで記憶する過程と、
前記制御装置が、前記記憶された画像データから複数の砥粒切れ刃候補となる画像を抽出する過程と、
前記制御装置が、前記抽出された砥粒切れ刃候補となる各画像をもとに、当該砥粒切れ刃候補の研削に関与する切れ刃部分の面積と、当該切れ刃部分の画像のうち前記砥面の移動方向に対し前面側となるすくい角側稜線部分の形状とのうちの少なくとも一方を算出する第1の解析処理過程と、
前記制御装置が、前記算出された研削に関与する切れ刃部分の面積又はすくい角側稜線部分の形状を表す画像を、前記砥面の移動方向と直交する方向において同じ位置にあるものどうしで砥面全域にわたり加算することにより、砥面の移動方向と直交する方向における砥粒切れ刃候補の分布を表すヒストグラムデータを生成する過程と
を備えることを特徴とする研削工具の砥面検査方法。
【請求項8】
前記制御装置が、前記抽出された砥粒切れ刃候補となる各画像をもとに、前記砥面全域における当該砥粒切れ刃候補となる各画像の位置を算出する過程と、
前記制御装置が、前記算出された研削に関与する切れ刃部分の面積又はすくい角側稜線部分の形状を表す画像をもとに、当該各砥粒切れ刃候補の研削に対する関与の度合いを計算する第2の解析処理過程と、
前記制御装置が、前記算出された砥粒切れ刃候補となる各画像の位置と、前記計算された各砥粒切れ刃候補の研削に対する関与の度合いとをもとに、前記砥面全域における各砥粒切れ刃候補の分布と個々の砥粒切れ刃候補の研削に関与する度合いを表すマップ情報を生成する過程と
を、さらに備えることを特徴とする請求項7記載の研削工具の砥面検査方法。
【請求項9】
前記撮像対象領域を可変設定する過程は、前記支持装置を制御して、前記撮像装置による前記砥面の撮像対象ラインの位置を当該ラインと直交する方向に一定の間隔でシフトさせると共に、このシフト動作において各ライン間に予め規定された前記砥粒の平均径より大きな幅を有するオーバラップ領域を設定することを特徴とする請求項7又は8記載の研削工具の砥面検査方法。
【請求項10】
前記システムが、前記砥面の撮像対象領域を当該砥面に対し直交する方向から第1の発光色を有する第1の照明光により照明すると共に、前記砥面の撮像対象領域に対し斜め上方から第1の発光色とは異なる第2の発光色を有する第2の照明光により照明する照明装置をさらに具備する場合に、
前記抽出する過程は、前記記憶された画像データから複数の砥粒切れ刃候補となる画像を抽出する際に、前記画像データに対し前記第2の発光色を含む領域と含まない領域との間の信号レベル差を拡大する処理を行うことを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の研削工具の砥面検査方法。
【請求項11】
前記第1の解析処理過程は、
前記抽出された複数の砥粒切れ刃候補から、予め設定したしきい値以上の輝度又は白色度を有する画像領域を有する砥粒切れ刃候補を再抽出する過程と、
前記再抽出された砥粒切れ刃候補の画像を多角形近似して得られる多角形の面積を算出する過程と、
前記多角形近似して得られる多角形内に含まれる欠損領域の面積を算出する過程と、
前記算出された多角形の面積から前記算出された欠損領域の面積を引き算することにより、前記砥粒切れ刃候補の研削に関与する切れ刃部分の面積を算出する過程と
を備えることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の研削工具の砥面検査方法。
【請求項12】
前記マップ情報を生成する過程は、
前記研削に関与する切れ刃部分を有する砥粒を表すマークを、当該砥粒の重心位置に応じて砥面を表す画像上に表示する過程と、
前記多角形近似して得られる多角形の面積に対する、前記研削に関与する切れ刃部分の面積の割合を、砥粒切れ刃候補の研削に対する関与度を表す情報として算出する過程と、
前記算出された関与度を表す情報に応じて、関与度の違いを異なる色で表した表示画像を上記各マークに重ねて表示する過程と
を備えることを特徴とする請求項11記載の研削工具の砥面検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−2810(P2013−2810A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130553(P2011−130553)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年12月11日 社団法人精密工学会九州支部発行の「2010年度精密工学会九州支部 熊本地方講演会 第11回学生研究発表会講演論文集」に発表、2011年6月1日 公益社団法人砥粒加工学会発行の「砥粒加工学会誌 第55巻 第6号」に発表
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】