説明

硫化物の検出方法

【課題】固体物中に含まれる硫化物の量を判定可能な硫化物の検出方法を提供する。
【解決手段】固体物中に含まれる硫化物の検出方法であって、前記固体物内の硫化鉄と過酸化水素水とを酸化反応させて3価の鉄イオンと硫酸イオンとに分解する酸化分解工程と、分解された前記3価の鉄イオンを、還元剤を用いて2価の鉄イオンに還元する還元工程と、前記還元工程後に1,10−フェナントロリン溶液により前記2価の鉄イオンの有無を確認することにより間接的に硫化物を検出する検出工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石やコンクリートなどの固体物中に含まれる硫化物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外装材等に用いられる石やコンクリートなどの固体物中には、内部に硫化鉄が含まれているものがある。硫化鉄は水と反応すると、鉄が酸化されて錆が発生して表面が変色したり、硫化物と水とが反応して生成された硫酸が固体物中の炭酸カルシウムと反応して石膏を生成する際の膨張圧によりひび割れやポップアウトを生じさせることがある。このため、施工前に、内部に含まれている硫化鉄が少ない固体物を選定することが望ましい。硫化鉄が少ない固体物を選定する方法の一例としては、塩酸や硫酸を用いて鉄分を検出することにより選定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−160380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体物表面のポップアウトは、硫化鉄の鉄イオンばかりではなく硫化物に含まれる硫黄によっても生じる。具体的には、固体物中に硫化物が含まれていると、水と反応して硫酸が生成され、生成された硫酸が固体物中に含まれるカルシウムと反応して石膏となり体積膨張することによりポップアウトすることがある。このため、内部に硫黄が含まれてない固体物を選定することが求められている。しかしながら、固体物に塩酸や硫酸を直接かける方法は鉄を検出することは可能であるが、硫化鉄が塩酸や硫酸と反応すると、鉄が錆びて発色してしまうとともに、硫黄が硫化水素として気化してしまうため、硫黄(硫化物イオン)が含まれているか否かを現地などで容易に判定することは難しかった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、固体物中に含まれる硫化物の量を簡易に判定可能な硫化物の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の硫化物の検出方法は、前記固体物内の硫化鉄と過酸化水素水とを酸化反応させて3価の鉄イオンと硫酸イオンとに分解する酸化分解工程と、分解された前記3価の鉄イオンを、還元剤を用いて2価の鉄イオンに還元する還元工程と、前記還元工程後に1,10−フェナントロリン溶液により前記2価の鉄イオンの有無を確認することにより間接的に硫化物を検出する検出工程と、を有することを特徴とする硫化物の検出方法である。
【0007】
このような硫化物の検出方法によれば、酸化分解工程により過酸化水素と固体物内に存在する硫化鉄とが酸化分解反応して3価の鉄イオンと硫酸イオンと水とが発生する。すなわち、固体物内に含まれている硫化鉄の量に応じて硫酸イオンと3価の鉄イオンとが所定の割合で発生する。このため、硫化物を直接検出することは難しいが、鉄イオンを検出することにより、間接的に硫酸物を検出することが可能である。そして、3価の鉄イオンは、鉄を検出する試薬としての1,10−フェナントロリン溶液では呈色しないので、還元工程にて3価の鉄イオンを2価の鉄イオンに戻すことにより、1,10−フェナントロリン溶液にて呈色する状態とすることが可能である。そして、還元工程後に、検出工程にて、1,10−フェナントロリン溶液により、2価の鉄イオンが存在する場合には橙色に呈色させることが可能である。このため、固体物内に硫化鉄が含まれている場合には、橙色に呈色するので、鉄イオンが検出され、間接的に硫化物が含まれていることを簡易に検出することが可能である。
【0008】
このとき、固体物に硫化物が含まれていない場合または含まれている硫化物が少ない場合には、過度の変色やポップアウトは生じないので、試験体として使用した部材も施工に用いることが可能である。すなわち、施工に用いる固体物にて直接、内部に含まれる硫化物の量を判定することが可能である。
【0009】
かかる硫化物の検出方法であって、前記過酸化水素水は、飽和水溶液を用いることが望ましい。
このような硫化物の検出方法によれば、過酸化水素濃度が最も高い水溶液を用いるので、より確実に硫化鉄を3価の鉄イオンと硫酸イオンと水とに酸化分解することが可能である。
【0010】
かかる硫化物の検出方法であって、前記還元剤として、アスコルビン酸水溶液を用いることが望ましい。
このような硫化物の検出方法によれば、還元剤として食品等に使用されるアスコルビン酸水溶液を用いるので、より安全に硫化物の検出を行うことが可能である。
【0011】
かかる硫化物の検出方法であって、前記検出工程では、前記還元工程後に前記固体物の表面に存在する液体を、別の媒体に移し取り、前記液体を移し取った媒体に前記1,10−フェナントロリン溶液を加えることが望ましい。
このような硫化物の検出方法によれば、還元工程により固体物の表面に存在する液体を移し取った媒体に1,10−フェナントロリン溶液を付与するので、仮に固体物の表面に存在する液体に鉄イオンが含まれていたとしても固体物の表面にて呈色することを防止することが可能である。このため、硫化物が僅かに含まれていて使用可能な固体物を1,10−フェナントロリン溶液の反応により変色させることなく、使用することが可能である。
【0012】
かかる硫化物の検出方法であって、前記媒体は、濾紙であることが望ましい。
このような硫化物の検出方法によれば、還元工程により固体物の表面に存在する液体を濾紙に移し取るので、液体を吸収させた後に水分と2価の鉄を濾紙に残存させることが可能である。そして、2価の鉄が残存している濾紙に1,10−フェナントロリン溶液を加えるので、水分が除去されてより明確に呈色させることが可能である。
【0013】
かかる硫化物の検出方法であって、前記過酸化水素水、前記還元剤、及び、前記1,10−フェナントロリン溶液は、噴霧にて供給することが望ましい。
このような硫化物の検出方法によれば、過酸化水素水、還元剤、及び、1,10−フェナントロリン溶液を噴霧して供給するので、少量にて固体物表面の広い領域に供給することが可能である。また、噴霧して直接固体物に供給することができるので、別の媒体を介して供給する場合より、純粋な過酸化水素水、還元剤、及び、1,10−フェナントロリン溶液を供給することが可能であり、より正確に反応させることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体物中に含まれる硫化物の量を簡易に判定可能な硫化物の検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る硫化物の検出方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る硫化物の検出方法のフローを示す図である。
【0018】
本実施形態の硫化物の検出方法は、固体中の硫化物(硫化鉄)に含まれる硫化物イオンを直接検出することは難しいため、硫化鉄を鉄イオンと硫化物イオンとに分解して、分解された鉄イオンから、固体中に含まれる硫化物イオンの量を間接的に検出することとしている。
【0019】
本実施形態の硫化物の検出方法では、まず、固体内に含まれている硫化鉄を鉄イオンと硫化物イオンとに酸化分解する。具体的には、固体物としての例えば石材の表面に過酸化水素水を噴霧する(酸化分解工程S1)。このとき、過酸化水素水としては、飽和水溶液である濃度30%の過酸化水素水を用いする。
【0020】
噴霧された石材内では、硫化鉄(FeS)と過酸化水素(H)とが反応し、3価の鉄イオン(Fe3+)と硫酸イオン(SO2−)とに分解されて水(HO)が発生する。
【0021】
化学反応式は、(式1)の通りである。
FeS+4H→Fe3++SO2−+4HO (式1)
ここで、硫化物イオン(S2−)と結合していた鉄イオンを検出する方法としては、金属を検出する試薬として知られている1,10−フェナントロリン溶液を加えて呈色状態を確認する方法があるが、1,10−フェナントロリン溶液は3価の鉄イオンと反応しないため、酸化分解工程S1後では、鉄イオンが含まれていても呈色しない。このため、硫化物イオン(S2−)と分離した3価の鉄イオン(Fe3+)を、1,10−フェナントロリン溶液と反応する2価の鉄イオン(Fe2+)に還元する。
【0022】
具体的には、過酸化水素水が噴霧された後の石材に、還元剤としてアスコルビン酸を噴霧する(還元工程S2)。
アスコルビン酸水溶液が噴霧された石材の表面では、(式2)に示すような化学反応が生じている。
2Fe3++C→C+2Fe2++2H (式2)
その後、アスコルビン酸水溶液が噴霧されて石材の表面に存在している液体を、濾紙に移し取る。
【0023】
そして、石材表面の液体を移し取った濾紙に、1,10−フェナントロリン溶液を噴霧する(検出工程S3)。そして、濾紙が橙色に呈色した場合には、濾紙に移し取った液体に2価の鉄イオンが含まれていることが検出される。鉄イオンが検出されたことにより、石材には検出された鉄イオンと結合した状態、すなわち硫化鉄の状態で硫化物イオンが含まれていたことが検出される。このとき、濾紙に移し取った液体に含まれている2価の鉄イオンの量がより多い場合には、より濃い橙色を示し、2価の鉄イオンの量が少ない場合には淡い橙色を示す。
【0024】
また、濾紙が呈色しない場合には、濾紙に移し取った液体に2価の鉄イオンが含まれていないことが検出される。鉄イオンが検出されないことにより、石材には検出された鉄イオンと結合した状態、すなわち硫化鉄の状態で硫化物イオンが含まれていなかったことが検出される。
【0025】
本実施形態の硫化物の検出方法によれば、酸化分解工程S1により過酸化水素と石材内に存在する硫化鉄とが酸化分解反応して3価の鉄イオンと硫酸イオンと水とが発生する。すなわち、石材に含まれている硫化鉄の量に応じて硫酸イオンと3価の鉄イオンとが所定の割合で発生する。このため、3価の鉄イオンによって、間接的に硫酸イオンを検出することが可能である。ところが、3価の鉄イオンは、鉄を検出する試薬である1,10−フェナントロリン溶液では呈色しない。このため、還元工程S2にて3価の鉄イオンを2価の鉄イオンに戻すことにより、1,10−フェナントロリン溶液にて呈色する状態とすることが可能である。そして、還元工程S2後に、検出工程S3にて、1,10−フェナントロリン溶液により、2価の鉄イオンが存在する場合には橙色に呈色させることが可能である。このため、石材内に硫化鉄が含まれている場合には、橙色に呈色するので、鉄イオンが検出され、間接的に硫化物が含まれていることを検出することが可能である。
【0026】
このとき、石材に硫化鉄が含まれていない場合または含まれている硫化鉄が少ない場合には、過度の変色やポップアウトは生じないので、試験体として使用した石材も施工に用いることが可能である。すなわち、施工に用いる石材にて直接、内部に含まれる硫化鉄の量を判定することが可能である。
【0027】
また、酸化分解工程S1では飽和水溶液である過酸化水素水を用いるので、過酸化水素濃度が最も高いため、より確実に硫化鉄を3価の鉄イオンと硫酸イオンと水とに酸化分解することが可能である。
【0028】
また、還元工程S2では、還元剤として食品等に使用されるアスコルビン酸水溶液を用いるので、より安全に硫化鉄の検出を行うことが可能である。
【0029】
また、検出工程S3では、還元工程S2後に石材の表面に存在する液体を、濾紙に移し取り、液体を移し取った濾紙に前記1,10−フェナントロリン溶液を付与するので、仮に石材の表面に存在する液体に鉄イオンが含まれていたとしても石材の表面にて呈色することを防止することが可能である。このため、硫化鉄が僅かに含まれていて使用可能な石材を1,10−フェナントロリン溶液の反応により変色させることなく、使用することが可能である。また、還元工程S2により石材の表面に存在する液体を濾紙に移し取るので、液体を吸収させた後に水分と2価の鉄を濾紙に残存させることが可能である。そして、2価の鉄が残存している濾紙に1,10−フェナントロリン溶液を噴霧するので、水分が除去されてより明確に呈色させることが可能である。
【0030】
また、酸化分解工程S1において過酸化水素水を、還元工程S2においてアスコルビン酸水溶液を、及び、検出工程S3において1,10−フェナントロリン溶液を、それぞれ噴霧して供給するので、少量にて石材表面の広い領域に供給することが可能である。また噴霧して直接石材に供給するので、別の媒体を介して供給する場合より、純粋な過酸化水素水、アスコルビン酸水溶液、及び、1,10−フェナントロリン溶液を供給することが可能であり、より正確に反応させることが可能である。
【0031】
上記実施形態のおいては、固体物を石材としたが、これに限るものではなく、例えばコンクリート等であっても構わない。
【0032】
また、還元剤は、アスコルビン酸水溶液に限るものではなく、例えば、シュウ酸、クエン酸、フマル酸、蟻酸、ヨウ化カリウム、塩化スズ等であっても構わない。
【0033】
また、上記実施形態において過酸化水素水、アスコルビン酸水溶液、及び、1,10−フェナントロリン溶液を直接石材に噴霧したが、これに限らず、固体物に付与することができれば、直接掛け流したり、刷毛等で塗布する方法であっても構わない。
【0034】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体物中に含まれる硫化物の検出方法であって、
前記固体物内の硫化鉄と過酸化水素水とを酸化反応させて3価の鉄イオンと硫酸イオンとに分解する酸化分解工程と、
分解された前記3価の鉄イオンを、還元剤を用いて2価の鉄イオンに還元する還元工程と、
前記還元工程後に1,10−フェナントロリン溶液により前記2価の鉄イオンの有無を確認することにより間接的に硫化物を検出する検出工程と、
を有することを特徴とする硫化物の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物の検出方法であって、
前記過酸化水素水は、飽和水溶液を用いることを特徴とする硫化物の検出方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の硫化物の検出方法であって、
前記還元剤として、アスコルビン酸水溶液を用いることを特徴とする硫化物の検出方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の硫化物の検出方法であって、
前記検出工程では、前記還元工程後に前記固体物の表面に存在する液体を、別の媒体に移し取り、前記液体を移し取った媒体に前記1,10−フェナントロリン溶液を加えることを特徴とする硫化物の検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の硫化物の検出方法であって、
前記媒体は、濾紙であることを特徴とする硫化物の検出方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の硫化物の検出方法であって、
前記過酸化水素水、前記還元剤、及び、前記1,10−フェナントロリン溶液は、噴霧にて供給することを特徴とする硫化物の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−193991(P2012−193991A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56789(P2011−56789)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】