硫酸濃度の推定方法および装置
【課題】コンクリートまたはモルタルの設置環境における硫酸の濃度を把握するのに好適な硫酸濃度の推定方法および装置を提供する。
【解決手段】コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき(ステップS1)、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置して(ステップS2)、この環境の硫酸による侵食深さを測定し(ステップS3)、この侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定するようにする(ステップS4)。
【解決手段】コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき(ステップS1)、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置して(ステップS2)、この環境の硫酸による侵食深さを測定し(ステップS3)、この侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定するようにする(ステップS4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸濃度の推定方法および装置に関し、例えば、下水道施設などで発生する硫酸濃度の推定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設などにおいて、硫化水素に細菌が作用して硫酸が発生することが知られている。こうした環境下に設置されるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって腐食劣化するが、このコンクリートまたはモルタルを最適に設計するためには、硫酸による侵食速度を予測する必要がある。
【0003】
そのためには、コンクリートまたはモルタルが設置される環境の硫酸の濃度をできるだけ正確に設定する必要がある。しかしながら、こうした下水道施設など硫酸雰囲気での硫酸の濃度を直接測定することは困難であることから、通常、硫酸の濃度を測定する代わりに硫化水素の濃度を測定し、この測定値に基づいて設計する手法を採用している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、硫酸による腐食劣化に対して耐久性を有する耐硫酸性コンクリートまたはモルタルの開発が進められている。例えば、本発明者らは、既に特願2009−120407に示す耐硫酸性に優れたコンクリートおよびモルタルを提案している。このコンクリートおよびモルタルは、下水道施設などの硫酸性雰囲気に晒される環境で使用するのに好適な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−183274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、コンクリートまたはモルタルの設置環境における硫酸の濃度を正確に測定することは困難であることから、設置環境の硫酸濃度をより正確に推定することができる技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、コンクリートまたはモルタルの設置環境における硫酸の濃度を把握するのに好適な硫酸濃度の推定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る硫酸濃度の推定方法は、硫酸の濃度を推定する方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る硫酸濃度の推定方法は、上述した請求項1において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る硫酸濃度の推定装置は、硫酸の濃度を推定する装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、前記相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とを有し、前記相関関係の情報と前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る硫酸濃度の推定装置は、上述した請求項3において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する。
【0013】
つまり、硫酸の濃度は、浸漬期間を推定対象環境に設置した所定期間として、測定した侵食深さに対応する硫酸の濃度を相関関係により求めることで推定することができる。したがって、推定対象環境の硫酸の濃度をより正確に推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る硫酸濃度の推定方法および装置の実施例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】図3は、コンクリートの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【図4】図4は、モルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る硫酸濃度の推定方法および装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る硫酸濃度の推定方法は、まず、室内実験等により予めコンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておく(ステップS1)。
【0017】
次に、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置する(ステップS2)。続いて所定期間経過後にこの環境の硫酸による侵食深さを測定する(ステップS3)。最後に、この侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定する(ステップS4)という手順による。
【0018】
ここで、本発明者らは、図2に示すように、ケイ酸カルシウム系材料を用いた普通コンクリートの硫酸による侵食深さと、硫酸の平均濃度に浸漬時間を乗じた値(積)との間には線形の相関関係が成り立つことを確認している(詳細については後述する)。この図2は、水セメント比(W/C)が25%であるコンクリートと60%であるコンクリートについて、上記の積に応じた侵食深さ測定値のプロットと、各プロットから求めた回帰直線の一例を示したものである。なお、このような線形関係はモルタルの場合にも成り立つ。
【0019】
したがって、硫酸の濃度は、浸漬期間を推定対象環境に設置した所定期間として、測定した侵食深さに対応する硫酸の濃度を相関関係により求めることで推定することができる。このため、この相関関係が既知のコンクリートまたはモルタルの供試体を、硫酸濃度を調べたい現場に設置することで、その侵食深さと、設置期間の長さとに基づいて、その現場環境の硫酸濃度を推定することが可能となる。これにより、これまで性能照査型設計に基づく設計が困難であった下水道施設などの硫酸環境下におけるコンクリートまたはモルタルの設計を、簡便に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る硫酸濃度の推定装置は、硫酸の濃度を推定する装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる侵食深さおよび所定期間の情報とを有し、相関関係の情報と侵食深さおよび所定期間の情報とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えるものである。この推定手段による演算処理はコンピュータを用いて行う。具体的な処理手順および内容については上記の本発明の推定方法の手順および内容と同様である。
【0021】
次に、本発明による硫酸濃度の具体的な推定例について、図2を参照しながら説明する。
図2に示すように、W/C=25%の普通コンクリート供試体を現場に設置して、1年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この侵食深さに対応する硫酸濃度×硫酸浸漬期間の値は回帰直線から1.0(%・年)と読み取れる。したがって、この現場の平均の硫酸濃度は1.0%と推定することができる。なお、2年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この現場の平均の硫酸濃度は0.5%と推定することができる。
【0022】
また、W/C=60%の普通コンクリート供試体を現場に設置して、1年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この侵食深さに対応する硫酸濃度×硫酸浸漬期間の値は回帰直線から約2.2(%・年)と読み取れる。したがって、この現場の平均の硫酸濃度は2.2%と推定することができる。なお、2年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この現場の平均の硫酸濃度は1.1%と推定することができる。
【0023】
次に、硫酸による侵食深さと、硫酸濃度と浸漬期間との積との間の相関関係を把握するために行った実験について説明する。
【0024】
本実験に用いたセメントペースト、モルタルおよびコンクリートの配合を表1に示す。表1に示すように、結合材(B)には、普通ポルトランドセメント(C)(密度:3.15g/cm3、ブレーン値:3400cm2/g)および高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm3、ブレーン値:4150cm2/g)を用いた。細骨材には、川砂(表乾密度:2.60g/cm3、吸水率:2.00%)および高炉スラグ細骨材(表乾密度:2.73g/cm3、吸水率:0.40%)を用いた。粗骨材には、砕石(表乾密度:2.75g/cm3、吸水率:0.38%)を用いた。混和剤には、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いた。コンクリート二次製品を想定し、空気量は2.0%で設定した。
【0025】
【表1】
【0026】
モルタルの硫酸浸漬試験には、φ50×100mmの円柱供試体を、コンクリートの硫酸浸漬試験には。φ100×200mmの円柱供試体をそれぞれ用いた。供試体は、打設から7日間水中養生を行った後、質量パーセント濃度で5%、10%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去した後、質量を測定した。また、供試体を乾式コンクリートカッターで切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、呈色域の直径を測定し、硫酸による侵食深さを求めた。
【0027】
図3および図4は、それぞれ、コンクリートおよびモルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの関係を示したものである。
【0028】
図3および図4中の●は、結合材に普通ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を質量比で40:60の割合で混合したものを用い、細骨材に高炉スラグ細骨材を用いたコンクリート(以下、耐硫酸性水和固化体コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、耐硫酸性水和固化体モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0029】
図3および図4中の黒□は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用い、細骨材に川砂を用いたコンクリート(以下、普通コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、普通モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0030】
図3および図4から、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの間には、直線関係が成り立つことが分かる。すなわち、コンクリートおよびモルタルの硫酸による侵食は、硫酸浸漬期間に比例するとともに、硫酸濃度にも比例することが分かる。また、図3中に示される直線の傾きは、2.9mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体コンクリートは、普通コンクリートの6倍の耐硫酸性があるといえる。また、図4中に示される直線の傾きは、3.5mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体モルタルは、普通モルタルの7倍の耐硫酸性があるといえる。
【0031】
表2に、図4の耐硫酸性水和固化体モルタルおよび普通モルタルの配合を、表3に、図3の耐硫酸性水和固化体コンクリートおよび普通コンクリートの配合を示す。また、参考として表4に、図3のプロット・データを示す。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する。したがって、推定対象環境の硫酸の濃度をより正確に推定することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸濃度の推定方法および装置に関し、例えば、下水道施設などで発生する硫酸濃度の推定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道施設などにおいて、硫化水素に細菌が作用して硫酸が発生することが知られている。こうした環境下に設置されるコンクリートまたはモルタルは、硫酸によって腐食劣化するが、このコンクリートまたはモルタルを最適に設計するためには、硫酸による侵食速度を予測する必要がある。
【0003】
そのためには、コンクリートまたはモルタルが設置される環境の硫酸の濃度をできるだけ正確に設定する必要がある。しかしながら、こうした下水道施設など硫酸雰囲気での硫酸の濃度を直接測定することは困難であることから、通常、硫酸の濃度を測定する代わりに硫化水素の濃度を測定し、この測定値に基づいて設計する手法を採用している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、硫酸による腐食劣化に対して耐久性を有する耐硫酸性コンクリートまたはモルタルの開発が進められている。例えば、本発明者らは、既に特願2009−120407に示す耐硫酸性に優れたコンクリートおよびモルタルを提案している。このコンクリートおよびモルタルは、下水道施設などの硫酸性雰囲気に晒される環境で使用するのに好適な材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−183274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、コンクリートまたはモルタルの設置環境における硫酸の濃度を正確に測定することは困難であることから、設置環境の硫酸濃度をより正確に推定することができる技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、コンクリートまたはモルタルの設置環境における硫酸の濃度を把握するのに好適な硫酸濃度の推定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る硫酸濃度の推定方法は、硫酸の濃度を推定する方法であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る硫酸濃度の推定方法は、上述した請求項1において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る硫酸濃度の推定装置は、硫酸の濃度を推定する装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、前記相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とを有し、前記相関関係の情報と前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る硫酸濃度の推定装置は、上述した請求項3において、前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する。
【0013】
つまり、硫酸の濃度は、浸漬期間を推定対象環境に設置した所定期間として、測定した侵食深さに対応する硫酸の濃度を相関関係により求めることで推定することができる。したがって、推定対象環境の硫酸の濃度をより正確に推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る硫酸濃度の推定方法および装置の実施例を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの相関関係の一例を示すグラフ図である。
【図3】図3は、コンクリートの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【図4】図4は、モルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と、硫酸による侵食深さとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る硫酸濃度の推定方法および装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る硫酸濃度の推定方法は、まず、室内実験等により予めコンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておく(ステップS1)。
【0017】
次に、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置する(ステップS2)。続いて所定期間経過後にこの環境の硫酸による侵食深さを測定する(ステップS3)。最後に、この侵食深さと所定期間と相関関係とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定する(ステップS4)という手順による。
【0018】
ここで、本発明者らは、図2に示すように、ケイ酸カルシウム系材料を用いた普通コンクリートの硫酸による侵食深さと、硫酸の平均濃度に浸漬時間を乗じた値(積)との間には線形の相関関係が成り立つことを確認している(詳細については後述する)。この図2は、水セメント比(W/C)が25%であるコンクリートと60%であるコンクリートについて、上記の積に応じた侵食深さ測定値のプロットと、各プロットから求めた回帰直線の一例を示したものである。なお、このような線形関係はモルタルの場合にも成り立つ。
【0019】
したがって、硫酸の濃度は、浸漬期間を推定対象環境に設置した所定期間として、測定した侵食深さに対応する硫酸の濃度を相関関係により求めることで推定することができる。このため、この相関関係が既知のコンクリートまたはモルタルの供試体を、硫酸濃度を調べたい現場に設置することで、その侵食深さと、設置期間の長さとに基づいて、その現場環境の硫酸濃度を推定することが可能となる。これにより、これまで性能照査型設計に基づく設計が困難であった下水道施設などの硫酸環境下におけるコンクリートまたはモルタルの設計を、簡便に行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る硫酸濃度の推定装置は、硫酸の濃度を推定する装置であって、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる硫酸の濃度と浸漬期間との積と、硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる侵食深さおよび所定期間の情報とを有し、相関関係の情報と侵食深さおよび所定期間の情報とに基づいて推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えるものである。この推定手段による演算処理はコンピュータを用いて行う。具体的な処理手順および内容については上記の本発明の推定方法の手順および内容と同様である。
【0021】
次に、本発明による硫酸濃度の具体的な推定例について、図2を参照しながら説明する。
図2に示すように、W/C=25%の普通コンクリート供試体を現場に設置して、1年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この侵食深さに対応する硫酸濃度×硫酸浸漬期間の値は回帰直線から1.0(%・年)と読み取れる。したがって、この現場の平均の硫酸濃度は1.0%と推定することができる。なお、2年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この現場の平均の硫酸濃度は0.5%と推定することができる。
【0022】
また、W/C=60%の普通コンクリート供試体を現場に設置して、1年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この侵食深さに対応する硫酸濃度×硫酸浸漬期間の値は回帰直線から約2.2(%・年)と読み取れる。したがって、この現場の平均の硫酸濃度は2.2%と推定することができる。なお、2年後に測定した侵食深さが10mmであったとすると、この現場の平均の硫酸濃度は1.1%と推定することができる。
【0023】
次に、硫酸による侵食深さと、硫酸濃度と浸漬期間との積との間の相関関係を把握するために行った実験について説明する。
【0024】
本実験に用いたセメントペースト、モルタルおよびコンクリートの配合を表1に示す。表1に示すように、結合材(B)には、普通ポルトランドセメント(C)(密度:3.15g/cm3、ブレーン値:3400cm2/g)および高炉スラグ微粉末(密度:2.89g/cm3、ブレーン値:4150cm2/g)を用いた。細骨材には、川砂(表乾密度:2.60g/cm3、吸水率:2.00%)および高炉スラグ細骨材(表乾密度:2.73g/cm3、吸水率:0.40%)を用いた。粗骨材には、砕石(表乾密度:2.75g/cm3、吸水率:0.38%)を用いた。混和剤には、ポリカルボン酸系高性能減水剤を用いた。コンクリート二次製品を想定し、空気量は2.0%で設定した。
【0025】
【表1】
【0026】
モルタルの硫酸浸漬試験には、φ50×100mmの円柱供試体を、コンクリートの硫酸浸漬試験には。φ100×200mmの円柱供試体をそれぞれ用いた。供試体は、打設から7日間水中養生を行った後、質量パーセント濃度で5%、10%の硫酸に浸漬させた。7日毎に水で洗浄し、劣化した箇所を除去した後、質量を測定した。また、供試体を乾式コンクリートカッターで切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧した後、呈色域の直径を測定し、硫酸による侵食深さを求めた。
【0027】
図3および図4は、それぞれ、コンクリートおよびモルタルの硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの関係を示したものである。
【0028】
図3および図4中の●は、結合材に普通ポルトランドセメントおよび高炉スラグ微粉末を質量比で40:60の割合で混合したものを用い、細骨材に高炉スラグ細骨材を用いたコンクリート(以下、耐硫酸性水和固化体コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、耐硫酸性水和固化体モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0029】
図3および図4中の黒□は、結合材に普通ポルトランドセメントのみを用い、細骨材に川砂を用いたコンクリート(以下、普通コンクリートと呼ぶ)およびモルタル(以下、普通モルタルと呼ぶ)の結果を示している。
【0030】
図3および図4から、硫酸浸漬期間と硫酸濃度の積と硫酸侵食深さとの間には、直線関係が成り立つことが分かる。すなわち、コンクリートおよびモルタルの硫酸による侵食は、硫酸浸漬期間に比例するとともに、硫酸濃度にも比例することが分かる。また、図3中に示される直線の傾きは、2.9mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体コンクリートは、普通コンクリートの6倍の耐硫酸性があるといえる。また、図4中に示される直線の傾きは、3.5mm/日および0.5mm/日で、耐硫酸性水和固化体モルタルは、普通モルタルの7倍の耐硫酸性があるといえる。
【0031】
表2に、図4の耐硫酸性水和固化体モルタルおよび普通モルタルの配合を、表3に、図3の耐硫酸性水和固化体コンクリートおよび普通コンクリートの配合を示す。また、参考として表4に、図3のプロット・データを示す。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する。したがって、推定対象環境の硫酸の濃度をより正確に推定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸の濃度を推定する方法であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定することを特徴とする硫酸濃度の推定方法。
【請求項2】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項1に記載の硫酸濃度の推定方法。
【請求項3】
硫酸の濃度を推定する装置であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、
前記相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とを有し、
前記相関関係の情報と前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えることを特徴とする硫酸濃度の推定装置。
【請求項4】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項3に記載の硫酸濃度の推定装置。
【請求項1】
硫酸の濃度を推定する方法であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬し、前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係を予め把握しておき、この相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定し、この侵食深さと前記所定期間と前記相関関係とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定することを特徴とする硫酸濃度の推定方法。
【請求項2】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項1に記載の硫酸濃度の推定方法。
【請求項3】
硫酸の濃度を推定する装置であって、
コンクリートまたはモルタルを所定濃度の硫酸に浸漬することによって得られる前記硫酸の濃度と浸漬期間との積と、前記硫酸によるコンクリートまたはモルタルの侵食深さとの相関関係の情報と、
前記相関関係が把握されたコンクリートまたはモルタルを推定対象環境に所定期間だけ設置してこの環境の硫酸による侵食深さを測定することによって得られる前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とを有し、
前記相関関係の情報と前記侵食深さおよび前記所定期間の情報とに基づいて前記推定対象環境の硫酸の濃度を推定する推定手段を備えることを特徴とする硫酸濃度の推定装置。
【請求項4】
前記相関関係は線形の相関関係であることを特徴とする請求項3に記載の硫酸濃度の推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2011−158400(P2011−158400A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21558(P2010−21558)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集 第9巻 発行日2009年10月30日 コンクリート工学(Vol.48 No.1) 発行日2010年 1月 1日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集 第9巻 発行日2009年10月30日 コンクリート工学(Vol.48 No.1) 発行日2010年 1月 1日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】
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