説明

硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法

【課題】複数の添加剤を含有する硫酸銅めっき液中に含まれる含窒素有機化合物系添加剤の濃度を再現性よく、高精度に分析できる方法を提供する。
【解決手段】塩化物イオン、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物と及び含窒素有機化合物を含む硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法であって、塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を大過剰に添加しためっき液について、含硫黄有機化合物の濃度を変化させた場合に生じる負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積の変化量又は変化率と、めっき液中の含窒素有機化合物の濃度との関係より検量線を作成し、これを用いて測定対象の硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物の濃度を測定する方法、及び該測定方法による測定結果に基づいて含窒素有機化合物を補給して電気銅めっきを行う事を特徴とする硫酸銅めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法、及び該測定方法を利用した硫酸銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板や半導体の製造時に用いられる硫酸銅めっきには、主として、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物及び含窒素有機化合物の3種類の添加剤が含まれており、得られる製品の品質の維持、管理にはこれらの添加剤の濃度管理が重要である。
【0003】
これらの添加剤の内で、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤はポリマー、サプレッサー、キャリアーなどと称されるものであり、めっき液に添加されている塩化物イオンとの相互作用によって電析を強く抑制する作用があり、均一電着性の向上に寄与する成分である。含硫黄有機化合物はブライトナー、アクセレレーターなどと称されるものであり、電析を促進する作用があり、めっき皮膜の光沢性を向上させる成分である。含窒素有機化合物はレベラーと称されるものであり、ポリマー同様、電析を抑制し、めっき皮膜にレベリング性を与える作用があり、めっきの品質に大きく影響する成分である。
【0004】
これら3種の添加剤の濃度を管理する方法としては、各添加剤のめっき析出の促進、抑制の作用の違いを利用して、サイクリックボルタンメトリー法の一種であるCVS(Cyclic VoltammetricStripping)法を用いて分析管理する方法が知られている。
【0005】
CVS法は、作用極、参照電極、対極を測定液に浸漬して、作用極(一般には白金電極)を一定速度で回転させながら、参照電極を基準に作用極電位を掃引し、作用極上でめっきと剥離を繰り返す方法であり、このときに作用電極と対極間に流れる電流を測定して得られるボルタモグラムから、その剥離電流のピーク面積(Ar)を求めて、添加剤濃度に対応させる方法である(下記非特許文献1参照)。この方法では、ブライトナーのような電析促進作用のある添加剤の濃度が高くなるとArが大きくなり、ポリマーやレベラーのような電析抑制作用のある添加剤の濃度が高くなるとArが小さくなる傾向がある。
【0006】
上記した添加剤の内で、ポリマーは添加される濃度がブライトナーやレベラーと比べてかなり高く、非常に低濃度でArを低下させる電析抑制作用を有しているため、他の添加剤の濃度の影響を無視して分析することが可能である。
【0007】
ブライトナーは硫酸銅めっきの3種の添加剤の中では、唯一、電析促進作用を持つものであり、これも再現性よく分析が可能である。
【0008】
しかしながら、レベラーについては添加量が少ない上に、濃度を変化させた場合のArの変化率が小さく、しかもArの値がポリマーやブライトナーの濃度変化の影響で変化するために分析は容易ではない。例えば、非特許文献1には、ポリマーとブライトナーの影響を排除するためにこれらの成分を飽和する濃度で含む溶液を作製し、この溶液にレベラーを少量ずつ添加してArを測定して検量線を作成し、これに基づいてレベラー濃度を測定するRC(Response Curve)法が記載されている。この方法は、比較的再現性よく分析値が得られるために、工業的にも利用されている方法であるが、この方法でめっき液の添加剤濃度を管理していても、問題が生じる場合がある。特にプリント配線基板で凹部に銅めっきで埋めるめっき技術、いわゆるビアフィリングめっきやダマシンを行う場合、RC法でレベラー濃度を測定して管理しても連続稼働を行うと徐々に埋め込み性が低下するという問題がある。そして、このような凹部への埋め込み性が低下した場合に、RC法で測定したレベラーの減少量を超えて、過剰にレベラーを添加すると埋め込み性が回復することがある。これはすなわち、RC法で管理されているレベラーの濃度が正しくないことを示唆するものといえる。
【0009】
また、CVS法によるレベラーの測定方法において、白金回転電極の回転数を変えてArを測定し、回転数とArとの関係を利用してレベラー濃度を測定する方法も報告されている(下記非特許文献2参照)。この方法は、白金電極の回転数の違いが、ビアホール内外の電析速度の差を擬似的に表しているものと考えて、これを利用してレベラー濃度を測定しようとするものである。しかしながら、この方法は、電析抑制作用が撹拌の強弱で変化する、拡散支配性の顕著な一部のレベラーの分析には利用できるが、電析抑制作用の拡散支配性が弱いタイプのレベラーの分析には適さない。
【0010】
その他、ポリマーやブライトナーの濃度の影響を受けないレベラー濃度分析法として種々の方法が検討され報告されているが、いずれの方法についても、あらかじめポリマーとブライトナーの濃度を分析して決定する必要があり、作業が繁雑である(下記特許文献1〜5参照)。
【非特許文献1】小谷秀人,「CVS分析装置による電解銅めっき液の分析」,表面技術,社団法人表面技術協会,2003年,第54巻,第4号,p.278-280
【非特許文献2】松浪卓史 他3名,「ビアフィリング対応の硫酸銅めっき添加剤」,エレクトロニクス実装学会誌,2001年,Vol.4,No.7,p.629-633
【特許文献1】特公昭60-19455号公報
【特許文献2】特公平8-20417号公報
【特許文献3】特許第3130112公報
【特許文献4】特開2002-195983号公報
【特許文献5】特開2001-73183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、複数の添加剤を含有する硫酸銅めっき液中においてレベラー成分として含まれる含窒素有機化合物系添加剤の濃度を再現性よく、高精度に分析できる方法を提供することである。また、本発明のその他の目的は、プリント配線板や半導体製造において、安定的に凹部へめっきを充填することが可能なめっき液の管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、硫酸銅めっき液を測定対象としてサイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する際に、電析促進作用を有する含硫黄有機化合物(ブライトナー)の濃度を変化させた場合に生じる負電流部分の積分面積、又は正電流部分の積分面積の変化量又は変化率が、めっき液中の含窒素有機化合物(レベラー)の濃度と一定の相関関係を有することを見いだした。そして、この関係を利用して、塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を大過剰に添加してこれらの成分の影響を排除しためっき液について、既知濃度の含窒素有機化合物を含有させ、この液中の含硫黄有機化合物濃度を変化させてサイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラム作成し、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積の変化量又は変化率と、含窒素有機化合物の濃度との関係から検量線を作成し、これを用いて測定対象の硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物の濃度を測定する方法によれば、建浴時だけでなく、連続使用しためっき液についても、精度良く含窒素有機化合物の濃度を分析できることを見出した。そして、この方法で分析した測定値に基づいてめっき液中の含窒素有機化合物濃度管理を行うことによって、凹部に対する良好な埋め込み性を長期間安定に維持できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねた結果完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法、及び該測定方法を利用した硫酸銅めっき方法に関する。
1. 塩化物イオン、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物と及び含窒素有機化合物を含む硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法であって、
下記(I)に示す検量線作成工程に従って検量線を作成した後、下記(II)に示す含窒素有機化合物濃度測定工程に従って測定対象の硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物濃度を求めることを特徴とする、含窒素有機化合物濃度の測定方法:
(I)下記(a−1)〜(a−6)の工程を含む検量線作成工程:
(a−1) 測定対象とする硫酸銅めっき液の建浴組成と比較して塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を大過剰に含み、且つ含窒素有機化合物を含有しない検量線作成用基礎めっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−2) 上記(a−1)工程で用いためっき液に、含硫黄有機化合物を添加しためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する処理を少なくとも一回行う、
(a−3) 上記(a−1)工程と同様にして調製した基礎めっき液に含窒素有機化合物を添加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−4) 上記(a−3)工程で用いためっき液に、更に、(a−2)工程と同様にして含硫黄有機化合物を添加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−5) 上記(a−3)工程において用いためっき液とは含窒素有機化合物の添加量が異なる少なくとも一種のめっき液について、上記(a−3)及び(a−4)工程と同一の処理を行う、
(a−6) 下記(i)又は(ii)の方法によって検量線を作成する:
(i)下記(イ)〜(ハ)を含む含窒素有機化合物濃度測定方法:
(イ) 含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、含硫黄有機化合物の添加量が異なる場合の負電流部分の積分面積の差若しくは比又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める、
(ロ) 上記(イ)のめっき液とは含窒素有機化合物添加量の異なる少なくとも一種のめっき液について、含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、負電流部分の積分面積の差若しくは比、又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める、
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)で求めた負電流部分の積分面積の差若しくは比又は正電流部分の積分面積の差若しくは比と、含窒素有機化合物の濃度との関係から検量線を作成する;
(ii)下記(イ)〜(ハ)を含む方法:
(イ) 含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物の添加量が異なる3種類以上のめっき液についてボルタモグラムを作成した場合に、含硫黄有機化合物の添加量と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求める、
(ロ) 上記(イ)のめっき液とは含窒素有機化合物添加量の異なる少なくとも一種のめっき液について、(イ)工程と同様にして近似一次関数の傾きを求める、
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)で得られた近似一次関数の傾きaと含窒素有機化合物の添加量との関係から検量線を作成する;
(II)下記(b−1)〜(b−4)の工程を含む含窒素有機化合物濃度測定工程:
(b−1) 測定対象の硫酸銅めっき液に、建浴組成と比較して大過剰の塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を添加する、
(b−2) 上記(b−1)工程で得ためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(b−3) 上記(b−2)工程で用いためっき液に、(a−2)工程における添加量と同一量の含硫黄有機化合物を追加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(b−4) 下記(i)又は(ii)の方法によって含窒素有機化合物の濃度を求める:
(i)上記(b−2)工程で作成したボルタモグラムについて求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積と、このめっき液に含硫黄有機化合物を添加しためっき液について作成したボルタモグラムから求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積について、積分面積の差または比を求め、上記(a−6)工程の(i)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める、
(ii)上記(b−3)工程において、含硫黄有機化合物の添加量を変化させて2回以上ボルタモグラムを作成した場合に、含硫黄有機化合物の濃度と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求め、この値に基づいて、上記(a−6)工程の(ii)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める。
2. 上記項1の方法によって求めた硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物の濃度に基づいて、含窒素有機化合物を補給して電気銅めっきを行う事を特徴とする硫酸銅めっき方法。
【0014】
本発明方法の基本的な概念について説明し、次いで、本発明の分析方法について具体的に説明する。
【0015】
(1)分析方法の基本概念
サイクリックボルタンメトリー法にて求められるボルタモグラムにおいて、めっき析出領域に対応する負電流部分の積分面積、又はめっき剥離領域に対応する正電流部分の積分面積は、硫酸銅めっき液中に含まれる塩化物イオン、ポリマー、ブライトナー及びレベラーが有するそれぞれの電析促進作用、抑制作用が相互干渉して得られるものである。この場合、塩化物イオン、ポリマー及びレベラーが一定濃度であれば電析促進成分であるブライトナーの濃度上昇によって上記積分面積は比例的に上昇する。いいかえれば、このブライトナーの濃度変化に対する積分面積の変化率は電析抑制成分の種類、濃度によって変化することになる。このため、ポリマー及び塩化物イオン濃度を一定にし、ブライトナー濃度の変化量を固定すれば、積分面積の変化率はレベラー濃度変化だけに依存することになる。
【0016】
この場合、実際に管理しなければならないめっき液中の塩化物イオン及びポリマー濃度は一定ではないので、塩化物イオン及びポリマーを大過剰添加することで、めっき液中に含まれる両成分濃度の影響をなくし、ブライトナーの濃度変化に対する積分面積の変化量又は変化率をレベラー濃度のみに依存させることが可能となる。
【0017】
ビアフィリングやダマシンでは、めっき液に浸漬したときに電析促進成分であるブライトナーが凹部、平坦部を問わず均一に吸着するが、めっきの成長にともない、凹部では表面積が小さくなることで吸着量が密になる。平坦部では吸着量に変化がないことから、平坦部と凹部で吸着量に差が生じ、電析促進成分であるブライトナーの吸着量が多い凹部の電析が促進され、凹部を埋めると考えられる。この場合、平坦部と凹部におけるブライトナーの吸着量差についてはめっき液中のブライトナー濃度が同じで凹部の大きさ、深さなどが同じであれば同じはずであるが、電析抑制成分であるレベラーの種類や濃度が異なると凹部の埋込み状態は異なる。たとえば、電析抑制効果の弱すぎるレベラーを用いたり、濃度が低すぎる場合には、レベラーの作用が及びにくい凹部底部の電析促進効果に変化がなくても、凹部開口部や平坦部の電析を抑制することができず、ボイドを形成したり、埋め込むことができなくなると考えられる。また、レベラー濃度が高すぎると凹部底部までレベラーの作用が及んでしまい、凹部底部の電析を抑制、平坦部と凹部の電析促進効果の差が小さくなり、埋め込み量が不足してしまうと思われる。これらのことから、ブライトナーの吸着量差によって生じる電析促進効果の差は電析抑制剤の種類や濃度によって変化すると考えられ、制御、管理することが重要である。通常、生産現場においてのビアフィリングめっきやダマシンに用いられるポリマー、ブライトナー、レベラー各成分は、稼働途中に変更することはなく、管理すべきは濃度であり、種類の影響を考慮する必要はない。すなわち、凹部、平坦部の電析促進成分の吸着量差による電析促進効果の差を制御するということは電析抑制剤の濃度管理を行うということになる。
【0018】
本発明によれば、凹部と平坦部の電析促進成分の吸着量差による電析促進効果の差を、サイクリックボルタンメトリーにて求められるボルタモグラムにおいて、ブライトナー濃度変化によって得られる負電流部分の積分面積の差若しくは比、又は正電流部分の積分面積の差若しくは比に置き換えて考え、ブライトナーの濃度変化によって生じる積分面積の差若しくは比を一定に保つようにレベラー濃度を管理することで安定した凹部の埋込性を得ることが可能となった。
【0019】
2)分析対象めっき液
本発明の分析対象とするめっき液は、塩化物イオン、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物及び含窒素有機化合物を含む硫酸銅めっき液である。
【0020】
例えば、この様な硫酸銅めっき液の基本組成としては、硫酸銅五水和物を30〜300g/L程度、硫酸を10〜300g/L程度、塩化物イオンを2〜100mg/L程度含有するめっき液を挙げることができる。
【0021】
非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤は、通常、ポリマー、サプレッサー、キャリアーなどと称されるものであり、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合物などの公知の成分を用いることができる。
【0022】
塩化物イオンについては、例えば、塩酸、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどとして添加することができる。
【0023】
含硫黄有機化合物は、通常、ブライトナー、アクセレレーター等と称されるものであり公知のものを使用できる。具体例としては、3-メルカプトプロパンスルホン酸、そのナトリウム塩、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、その2ナトリウム塩、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸(3-スルホプロピル)エステル、そのナトリウム塩等を挙げることができる。
【0024】
含窒素有機化合物は、通常、レベラーと称されるものであり、公知のものを使用できる。具体例としては、フェナジン化合物、サフラニン化合物、ポリアルキレンイミン、チオ尿素誘導体、ポリアクリル酸アミド等を挙げることができる。
【0025】
(3)検量線の作成方法
本発明の方法では、下記の工程に従って検量線を作成する:
(a−1)ボルタモグラムの作成1:
まず、測定対象とする硫酸銅めっき液の建浴組成と比較して塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を大過剰に含み、且つ含窒素有機化合物を含有しない検量線作成用基礎めっき液を調製し、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する。
【0026】
このめっき液では、硫酸銅及び硫酸の濃度については建浴組成と厳密に同一でなくてもよく、建浴時の濃度に対して、例えば、前後20重量%程度の濃度幅があってもよい。
【0027】
また、ブライトナーとして添加する含硫黄有機化合物としては、測定対象とするめっき液に添加されているものと同一の化合物を添加する。基礎めっき液中の含硫黄有機化合物の濃度についても建浴組成と厳密に同一でなくてもよく、例えば、建浴時の濃度の1/2〜2倍程度の範囲とすることができる。
【0028】
塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤については、建浴組成と比較して大過剰に添加する。これにより、後述するサイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する際に、塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤の濃度の影響を排除することができる。
【0029】
具体的な添加量は、塩化物イオンについては、建浴時の組成の3〜5倍程度以上とすることが好ましい。非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤は、建浴時の組成と比較して3〜5倍程度以上とすることが好ましい。
【0030】
サイクリックボルタンメトリー法の具体的な条件については特に限定的ではなく、例えば、作用極、参照電極、及び対極を測定液に浸漬して、参照電極を基準とした作用電極の電位を、予め設定した正および負の電位限界間の制御された速度で走査されるように制御し、応答電流値を測定する方法を適用できる。この際、作用電極の電位を横軸とし、測定された電流値を縦軸とするグラフであるボルタモグラムを作成することにより、その形状から、電気化学反応の機構、物質の酸化還元電位等を求めることができる。作用極については特に限定はないが、例えば、白金電極を一定速度で回転させながら用いることができる。参照電極としては、例えば、銀−塩化銀電極などを用いることができ、対極としては、ステンレス、銅などを用いることができる。
【0031】
掃引する電位の範囲については、めっき析出領域に対応する負電流を生じる電位範囲としてもよく、或いは、めっき析出領域に対応する負電流を生じる範囲と、めっき剥離領域に対応する正電流を生じる範囲を含めた電位範囲としてもよい。後者は、通常、CVS(cyclic voltammetry storipping(サイクリックボルタンメトリーストリッピン))法と称される方法である。その他、パルス電圧を掃引するCPV(Cyclic Pulse Voltammetry)方式、CPVS(Cyclic Pulse Voltammetric Stripping)方式等を適用することも可能である。
【0032】
上記方法によって、基礎めっき液についてボルタモグラムを作成し、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積を求める。この場合、負電流部分はめっき析出領域に対応するものであり、正電流部分はめっき剥離領域に対応するものである。
【0033】
(a−2)ボルタモグラムの作成2
上記(a−1)工程でボルタモグラムを作成しためっき液に、更に、含硫黄有機化合物を添加し、このめっき液についてサイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積を求める。サイクリックボルタンメトリー法の条件については、上記(a−1)工程と同様でよい。この場合、含硫黄有機化合物量の増加によって、めっき析出量に比例する負電流部分の積分面積及び正電流部分の積分面積はいずれも増加する。
【0034】
(a−2)工程は一回だけ行っても良く、或いは、含硫黄有機化合物を更に添加して二回以上行っても良い。
【0035】
この工程における含硫黄有機化合物の添加量は、特に限定的ではなく、含硫黄有機化合物の添加量(濃度)と積分面積に直線(比例)関係が認められる範囲で決定すればよく、あらかじめ、3点以上の含硫黄有機化合物濃度と積分面積を調査し、比例関係にある範囲を確認しておくことが好ましいが、多くの場合、建浴濃度の1/2程度〜3倍程度で問題はない。
【0036】
(a−3)ボルタモグラムの作成3
上記(a−1)工程と同様にして調製した基礎めっき液に含窒素有機化合物を添加し、このめっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成して、負電流部分の積分面積、又は正電流部分の積分面積を求める。サイクリックボルタンメトリー法の条件については、上記(a−1)工程と同様でよい。
【0037】
この工程では、含窒素有機化合物としては、測定対象とするめっき液で用いる化合物と同一の化合物を用いる。含窒素有機化合物の添加量については、特に限定的ではないが、通常、測定対象のめっき液の建浴時の濃度と比較して1/2〜2倍程度とすればよい。
【0038】
この工程では、電析抑制効果を有する含窒素有機化合物が存在することによって、負電流部分の積分面積、及び正電流部分の積分面積は、いずれも(a−1)工程で測定した値を下回るものとなる。
【0039】
(a−4)ボルタモグラムの作成4
上記(a−3)工程でボルタモグラムを作成しためっき液に、更に、(a−2)工程における添加量と同一量の含硫黄有機化合物を添加し、このめっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成して、負電流部分の積分面積、又は正電流部分の積分面積を求める。(a−4)工程は一回だけ行っても良く、或いは、含硫黄有機化合物を更に添加して二回以上行っても良い。
【0040】
この工程では、含窒素有機化合物を添加しためっき液について、含硫黄有機化合物の濃度を増加させることによるめっき析出量の増加の程度を求めることができる。
【0041】
(a−5)ボルタモグラムの作成5
上記(a−3)工程でボルタモグラムを作成しためっき液と含硫黄有機化合物の添加量が同一であって含窒素有機化合物の添加量が異なるめっき液について、上記(a−3)及び(a−4)工程と同一の方法でボルタモグラムを作成し、それぞれのボルタモグラムについて負電流部分の積分面積、又は正電流部分の積分面積を求める。
【0042】
この工程では、(a−3)工程及び(a−4)工程で用いためっき液とは含窒素有機化合物の添加量が異なるめっき液について、含硫黄有機化合物を添加することによるめっき析出量の増加の程度を求めることができる。
【0043】
この工程は、少なくとも一回行うことが必要であり、含窒素有機化合物の添加量を変えて2回以上行うことが好ましい。これによって、後述する(a−6)工程において検量線を作成することが可能となる。
【0044】
(a−6)検量線の作成
下記(i)又は(ii)の方法によって検量線を作成する。
【0045】
(i)含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、含硫黄有機化合物の添加量が異なる場合の負電流部分の積分面積の差若しくは比、又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める。このめっき液とは含窒素有機化合物添加量の異なるめっき液についても、含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、負電流部分の積分面積の差若しくは比、又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める。この様にして求めた負電流部分の積分面積の差若しくは比又は正電流部分の積分面積の差若しくは比と、含窒素有機化合物の濃度との関係から検量線を作成する、
(ii)含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物の添加量が異なる3種類以上のめっき液についてボルタモグラムを作成した場合に、含硫黄有機化合物の添加量と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求める。含窒素有機化合物の添加量が異なるめっき液についても同様にして近似一次関数の傾きを求める。この様にして得られた近似一次関数の傾きと含窒素有機化合物の添加量との関係から検量線を作成する。
【0046】
4)硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物濃度測定方法:
(b−1)測定対象めっき液の準備
測定対象の硫酸銅めっき液に、建浴組成と比較して大過剰の塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を添加する。
【0047】
(b−2)ボルタモグラムの作成1
上記(b−1)工程で得ためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、負電流部分の積分面積、又は正電流部分の積分面積を求める。
【0048】
(b−3)ボルタモグラムの作成2
上記(b−2)工程で用いためっき液に、更に、上記(a−2)工程における添加量と同一量の含硫黄有機化合物を添加し、得られためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成して、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積を求める。(b−2)工程は一回だけ行っても良く、或いは、含硫黄有機化合物を更に添加して二回以上行っても良い。
【0049】
(b−4)含窒素有機化合物量の測定
上記(b−2)工程で測定したボルタモグラムと(b−3)工程で作成したボルタモグラムから下記(i)又は(ii)の方法によって含窒素有機化合物の濃度を求める。
【0050】
(i)(b−2)工程で作成したボルタモグラムについて求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積と、このめっき液に含硫黄有機化合物を添加しためっき液について作成したボルタモグラムから求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積について、積分面積の差または比を求める。得られた積分面積の差または比に基づいて、上記(a−6)工程の(i)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める。
【0051】
(ii)(b−3)工程において、含硫黄有機化合物の添加量を変化させて2回以上ボルタモグラムを作成した場合には、含硫黄有機化合物に添加量と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求める。傾きaの値に基づいて、上記(a−6)工程の(ii)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める。
【0052】
(5)硫酸銅めっき液の管理方法
一定期間使用した硫酸銅めっき液について、上記した方法によって含窒素有機化合物量を測定し、測定結果に基づいて該めっき液に含窒素有機化合物を補給する。この方法によって定期的に硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物量を管理し、更に、公知の方法に従って、含硫黄有機化合物と非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤の濃度を管理することによって、硫酸銅めっき液中の添加剤量を精度よく管理することができる。その結果、例えば、プリント配線板や半導体を被めっき物として、いわゆるダマシンやビアフィリングを行う場合に、凹部に対する良好な埋め込み性を長期間安定に維持することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の含窒素有機化合物の測定方法によれば、硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物量を再現性よく、高精度に分析できる。この分析方法を利用して、硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物量を管理することによって、プリント配線板や半導体の製造時にめっき処理工程において、安定的に凹部へめっきを充填することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
実施例1
(I)検量線の作成:
下記の工程に従って、検量線を作成した。なお、以下の全ての実施例及び比較例において、サイクリックボルタンメトリーは、ECI TECHNOLOGY社製のCVS(Cyclic Voltammetric Stripping)測定用装置QL-5を用いて下記の条件で行った。
【0056】
作用極:白金回転電極
参照電極:銀/塩化銀電極
対極:銅
Negative Limit :-0.225 V Scan Rate :100 mV/sec
Positive Limit : 1.575 V Rotation Rate:2500 rpm
Integration Limit : 0.475 V
Contamination Potential:1.075 V
Chloride Potential:1.425 V
【0057】
(1) 硫酸銅200g/L, 硫酸50g/L, 及び塩化物イオン50mg/Lを含有する検量線作成用基礎めっき液を作製する。
(2) 上記(1)で作製した基礎めっき液 100mlを採取し、含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナα―2)を100μl添加する。
(3) 塩化物イオン50g/L液(35%HCl:125ml/L)を1mlと、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合物(分子量2400)400g/L液を1ml添加する。
(4) サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)、即ち、正電流部分の積分面積を求める。
(5) 更に、含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナα―2)を100μl添加し、サイクリックボルタンメトリーによってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(6) [(5)工程で求めたAr −(4)工程で求めたAr]を計算する。この値を[Ar差(0)]とする。
(7) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を150μl添加する。
(8) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(9) (6)と同様に計算して、[Ar差(1.5)]とする。
(10) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を300μl添加する。
(11) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(12) (6)と同様に計算して、[Ar差(3.0)]とする。
(13) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を450μl添加する。
(14) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(15) (6)と同様に計算して、[Ar差(4.5)]とする。
(16) 含窒素有機化合物含有添加剤の添加量と、[Ar差(0)]〜[Ar差(4.5)]との関係をグラフ化し、検量線を作成する。
【0058】
上記した方法で作成した検量線を図1に示す。
【0059】
(II)めっき液中の含窒素有機化合物量の測定
下記表1に示すNo.1-1〜1-9の各硫酸銅めっき液を測定対象として、下記工程に従って、めっき液中の含窒素有機化合物含有添加剤量を測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
分析工程
(1)測定対象の硫酸銅めっき液を100ml採取する。
(2)塩化物イオン50g/L液(35%HCl:125ml/L)を1ml、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合物(分子量2400)400g/L液を1ml添加する。
(3)サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(4)含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナα―2)を100μl添加し、サイクリックボルタンメトリーによってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(5)[(4)で求めたAr―(5)で求めたAr]を計算し、[Ar差]とする。
(6)上記方法で作成した検量線を用いて、(6)で求めた[Ar差]に対応する含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を求める。
【0062】
以上の方法で求めた含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を下記表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の結果から明らかなように、実施例1の方法によれば、硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を他の添加剤、塩化物イオン濃度の影響を受けることなく精度よく測定することができる。
【0065】
実施例2
下記工程に従って検量線を作成した。
【0066】
(I)検量線の作成:
(1) 硫酸銅100g/L, 硫酸180g/L, 及び塩化物イオン6mg/Lを含有する検量線作成用基礎めっき液を作製する。
(2) 上記(1)で作製した基礎めっき液 100mlを採取し、含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナNSV-2)を50μl添加する。
(3) 塩化物イオン50g/L液(35%HCl:125ml/L)を1ml、ポリエチレングリコール(分子量16000)500g/L液を 1ml添加する。
(4) サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(5) 更に、含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナNSV―2)を100μl添加し、サイクリックボルタンメトリーによってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(6) [(5)工程で求めたAr −(4)工程で求めたAr]を計算する。この値を[Ar差(0)]とする。
(7) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナNSV―3)を50μl添加する。
(8) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(9) (6)と同様に計算して、[Ar差(0.5)]とする。
(10) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナNSV―3)を100μl添加する。
(11) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(12) (6)と同様に計算して、[Ar差(1.0)]とする。
(13) (1)〜(3)の操作を行い、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナNSV―3)を150μl添加する。
(14) (4)〜(5)の操作を繰り返す。
(15) (6)と同様に計算して、[Ar差(1.5)]とする。
(16) 含窒素有機化合物含有添加剤の添加量と、[Ar差(0)]〜[Ar差(1.5)]との関係をグラフ化し、検量線を作成する。
【0067】
上記した方法で作成した検量線を図2に示す。
【0068】
(II)めっき液中の含窒素有機化合物量の測定
下記表3に示すNo.2-1〜2-9の各硫酸銅めっき液を測定対象として、下記工程に従って、めっき液中の含窒素有機化合物含有添加剤量を測定した。
【0069】
【表3】

【0070】
分析工程
(1)測定対象の硫酸銅めっき液を100ml採取する。
(2)塩化物イオン50g/L液(35%HCl:125ml/L)を1ml、ポリエチレングリコール(分子量16000)500g/L液を1ml添加する。
(3)サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(4)含硫黄有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製ブライトナー、商標名:トップルチナNSV―2)を100μl添加し、サイクリックボルタンメトリーによってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(5)[(4)で求めたAr-(5)で求めたAr]を計算し、[Ar差]とする。
(6)上記方法で作成した検量線を用いて、(6)で求めた[Ar差]に対応する含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を求める。
【0071】
以上の方法で求めた含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を下記表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
以上の結果から明らかなように、実施例2の方法によれば、硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を他の添加剤、塩化物イオン濃度の影響を受けることなく精度よく測定することができる。
【0074】
実施例3
下記表5に示す硫酸銅めっき液について、実施例1と同一の分析方法によって含窒素化合物含有添加剤量を測定した。尚、めっき液No.3-5、3-6及び3-7は、No.3-4のめっき液を浴温23℃で空気攪拌した状態で48、96時間又は144時間放置したものである。
【0075】
【表5】

【0076】
また、比較として、下記比較分析方法によって分析を行った。この方法は、RC法(Response Curve)として知られている公知のレベラー濃度測定方法に従った方法である。
【0077】
比較分析方法
(a)検量線の作成
(1)硫酸銅200g/L, 硫酸50g/L, 及び塩化物イオン50mg/Lを含有する検量線作成用基礎めっき液を作製する。
(2)ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド2ナトリウム30g/L液を1ml、ポリエチレングリコール(分子量16000)500g/L液を1ml添加する。
(3)サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)、即ち、正電流部分の積分面積を求める。
(4)含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を75μl添加し、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)、即ち、正電流部分の積分面積を求める。
(5)更に、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を75μl添加し、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(6)更に、含窒素有機化合物含有添加剤(奥野製薬工業(株)製レベラー、商標名:トップルチナα―3)を75μl添加し、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(7)(3)〜(5)で求めたAr値と含窒素有機化合物含有添加剤の添加量との関係をグラフ化し、検量線を作成する。
【0078】
(b)分析工程
(1)測定対象の硫酸銅めっき液を100ml採取する。
(2)ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド2ナトリウム30g/L液を1ml、ポリエチレングリコール(分子量16000)500g/L液を1ml添加する。
(3)サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成し、剥離電流のピーク面積(Ar)を求める。
(4)検量線の作製工程で作成した検量線を用いて、上記(3)で求めたAr値から含窒素有機化合物含有添加剤量を求める。
【0079】
ビアフィリングめっき性能の評価
また、表5に示したNo.3-1〜3-7の各硫酸銅めっき液を用いて、下記の方法でビアフィリングめっき性能を評価した。
【0080】
テストピースとしては、4層構造のプリント配線板材料にレーザーで径100μm、深さ60μmの 非貫通の孔を形成した後、常法によりデスミア処理、触媒付与した後に無電解銅めっきを1μm形成し、乾燥したものを用いた。このテストピースについて、常法により酸性脱脂及び水洗、酸洗を行い、その後、各めっき液を用いて浴温23℃、空気撹拌2L/min、電流密度1A/dm2で100分間めっきを行った後、非貫通孔部分の断面を観察し、表層平坦部から非貫通孔部までの凹み量を測定した。
【0081】
以上の方法で求めた硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物含有添加剤の濃度及びビアフィリングめっき性能の評価結果を下記表6に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
以上の結果から明らかなように、建浴直後のめっき液であるNo.3-2〜3-4の各めっき液については、実施例1の分析方法及び比較分析方法のいずれの方法で分析を行った場合にも、含窒素有機化合物の濃度は、めっき液中の濃度とほぼ一致する値となった。
【0084】
一方、空気撹拌して放置しためっき液No.3-5、3-6及び3-7については、実施例1の分析方法によれば、比較分析法と比較して、含窒素有機化合物の濃度は低い値となった。ビアフィリング性能の評価結果では、例えば、めっき液3-5については凹み量が15μmであり、含窒素有機化合物含有添加剤の濃度が1ml/Lであるめっき液3-3と同様のビアフィリング性能であり、実施例1の方法で求めた含窒素有機化合物含有添加剤の濃度もめっき液3-3と同一の値となった。これに対して比較分析法では、めっき液3-5についての含窒素有機化合物含有添加剤の濃度は、1.23ml/Lという高い値となった。更に、空気撹拌時間を長くしためっき液No.3-6及び3-7についても、同様に、実施例1の方法で求めた含窒素有機化合物含有添加剤の濃度は、ビアフィリング性能と良く対応する値となった、一方、比較分析法では、含窒素有機化合物含有添加剤の濃度の測定結果は、新液における含窒素有機化合物含有添加剤の濃度とビアフィリング性能との関係と比べると、高い値となる傾向があった。よって、比較分析法では、長期使用しためっき液については、ビアフィリングに有効な含窒素有機化合物以外の成分も分析値に反映するものと思われる。
【0085】
実施例4
表6に記載しためっき液3-5、3-6及び3-7について、実施例1の方法で測定した含窒素有機化合物含有添加剤の濃度に基づいて、めっき液3-4と同一濃度である1.5ml/Lとなるように、含窒素有機化合物含有添加剤を補給した。
【0086】
補給後の各めっき液について、実施例1の分析方法と比較分析方法の各分析方法によって含窒素有機化合物含有添加剤の濃度を測定し、更に、実施例3と同様にして非貫通孔の凹み量を測定した。結果を下記表7に示す。
【0087】
【表7】

【0088】
以上の結果から明らかなように、長期間空気撹拌を行った硫酸銅めっき液について、実施例1の方法で求めた含窒素有機化合物含有添加剤の濃度に基づいて補給を行うことによって、良好なビアフィリング性能を維持できることがわかる。
【0089】
また、補給後の含窒素有機化合物含有添加剤の濃度については実施例1の方法によれば、精度良く測定できることが判る。これに対して比較分析法による分析結果に基づいて含窒素有機化合物含有添加剤を補給する場合には、一定のビアフィリング性能を維持するためには、濃度を徐々に高い値とすることが必要であり、めっき液の維持管理が困難であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1において含硫黄有機化合物量の異なるめっき液について求めたボルタモグラムにおける剥離電流のピーク面積(Ar)の差と、含窒素有機化合物含有添加剤の濃度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2において含硫黄有機化合物量の異なるめっき液について求めたボルタモグラムにおける剥離電流のピーク面積(Ar)の差と、含窒素有機化合物含有添加剤の濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオン、非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物と及び含窒素有機化合物を含む硫酸銅めっき液における含窒素有機化合物濃度の測定方法であって、
下記(I)に示す検量線作成工程に従って検量線を作成した後、下記(II)に示す含窒素有機化合物濃度測定工程に従って測定対象の硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物濃度を求めることを特徴とする、含窒素有機化合物濃度の測定方法:
(I)下記(a−1)〜(a−6)の工程を含む検量線作成工程:
(a−1) 測定対象とする硫酸銅めっき液の建浴組成と比較して塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を大過剰に含み、且つ含窒素有機化合物を含有しない検量線作成用基礎めっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−2) 上記(a−1)工程で用いためっき液に、含硫黄有機化合物を添加しためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する処理を少なくとも一回行う、
(a−3) 上記(a−1)工程と同様にして調製した基礎めっき液に含窒素有機化合物を添加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−4) 上記(a−3)工程で用いためっき液に、更に、(a−2)工程と同様にして含硫黄有機化合物を添加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(a−5) 上記(a−3)工程において用いためっき液とは含窒素有機化合物の添加量が異なる少なくとも一種のめっき液について、上記(a−3)及び(a−4)工程と同一の処理を行う、
(a−6) 下記(i)又は(ii)の方法によって検量線を作成する:
(i)下記(イ)〜(ハ)を含む含窒素有機化合物濃度測定方法:
(イ) 含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、含硫黄有機化合物の添加量が異なる場合の負電流部分の積分面積の差若しくは比又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める、
(ロ) 上記(イ)のめっき液とは含窒素有機化合物添加量の異なる少なくとも一種のめっき液について、含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物量が異なるめっき液について求めたボルタモグラムから、負電流部分の積分面積の差若しくは比、又は正電流部分の積分面積の差若しくは比を求める、
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)で求めた負電流部分の積分面積の差若しくは比又は正電流部分の積分面積の差若しくは比と、含窒素有機化合物の濃度との関係から検量線を作成する;
(ii)下記(イ)〜(ハ)を含む方法:
(イ) 含窒素有機化合物の添加量が同一で含硫黄有機化合物の添加量が異なる3種類以上のめっき液についてボルタモグラムを作成した場合に、含硫黄有機化合物の添加量と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求める、
(ロ) 上記(イ)のめっき液とは含窒素有機化合物添加量の異なる少なくとも一種のめっき液について、(イ)工程と同様にして近似一次関数の傾きを求める、
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)で得られた近似一次関数の傾きaと含窒素有機化合物の添加量との関係から検量線を作成する;
(II)下記(b−1)〜(b−4)の工程を含む含窒素有機化合物濃度測定工程:
(b−1) 測定対象の硫酸銅めっき液に、建浴組成と比較して大過剰の塩化物イオン及び非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤を添加する、
(b−2) 上記(b−1)工程で得ためっき液について、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(b−3) 上記(b−2)工程で用いためっき液に、(a−2)工程における添加量と同一量の含硫黄有機化合物を追加して、サイクリックボルタンメトリー法によってボルタモグラムを作成する、
(b−4) 下記(i)又は(ii)の方法によって含窒素有機化合物の濃度を求める:
(i)上記(b−2)工程で作成したボルタモグラムについて求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積と、このめっき液に含硫黄有機化合物を添加しためっき液について作成したボルタモグラムから求めた負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積について、積分面積の差または比を求め、上記(a−6)工程の(i)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める、
(ii)上記(b−3)工程において、含硫黄有機化合物の添加量を変化させて2回以上ボルタモグラムを作成した場合に、含硫黄有機化合物の濃度と、負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積との関係から得られる近似一次関数(y=ax+b(yは負電流部分の積分面積又は正電流部分の積分面積であり、xは含硫黄有機化合物の添加量である))の傾きaを求め、この値に基づいて、上記(a−6)工程の(ii)で作成した検量線からめっき液中の含窒素有機化合物の濃度を求める。
【請求項2】
請求項1の方法によって求めた硫酸銅めっき液中の含窒素有機化合物の濃度に基づいて、含窒素有機化合物を補給して電気銅めっきを行う事を特徴とする硫酸銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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