説明

磁気テープおよび磁気記録装置

【課題】高い走行耐久性および安定性を有するとともに高SNRを達成し得る磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に、六方晶フェライト磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープ。前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkが30%以下であり、かつ下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲である。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープおよびこれを含む磁気記録装置に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性と、走行耐久性および走行安定性を兼ね備えた磁気テープおよびこれを含む磁気記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高記録密度化が要求されている。そこで高密度記録を達成するために、微粒子磁性体を使用することで磁性層の充填率を高めることが広く行われている。
【0003】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。
【0004】
しかし六方晶フェライト磁性粒子は、針状形態の強磁性金属磁性粒子と異なり、板状形態であり、かつその板面の垂直方向に磁化容易軸を持っているため、スタッキング(磁性体がそろばん玉状に凝集する状態)しやすい。磁性粒子は凝集すると、微粒子であっても磁性層中ではあたかも粗大粒子が存在しているかの状態となってノイズが上昇し、これによりSNRは低下してしまう。これに対する対策として、従来六方晶フェライトの分散性を高めることで粒子間の凝集(スタッキング)を防止することが試みられてきた(例えば特許文献1〜6参照)。
【0005】
また、磁性粒子の粒子サイズを小さくすると走行耐久性の低下(繰り返し走行時の出力変動)や走行安定性低下が生じる。これは磁性粒子の微粒子化により膜強度が低下することが原因と考えられるが、このような現象は、特に、長期にわたり高い信頼性を維持することが求められるデータバックアップテープにおいては回避すべきである。そこで従来、磁気記録媒体の走行耐久性等の改善についても様々な検討がなされており、例えば研磨剤による突起制御(特許文献7参照)、高Tg結合剤の使用(特許文献8参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−178916号公報
【特許文献2】特開平5−283218号公報
【特許文献3】特開平5−144615号公報
【特許文献4】特開2002−298333号公報
【特許文献5】特開2009−99240号公報
【特許文献6】特開2002−373413号公報
【特許文献7】特開2005−243162号公報
【特許文献8】特開2004−319001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、高密度記録用磁気記録媒体にはSNRの向上ならびに走行耐久性および安定性の確保という課題が存在する。
そこで本発明の目的は、高い走行耐久性および安定性を有するとともに高SNRを達成し得る磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
(1)強磁性粉末として六方晶フェライト粉末を含む磁気記録媒体については、SNRを向上するためには凝集(スタッキング)を抑制する必要があるとする技術常識が存在し、例えば上記特許文献1〜6には、凝集(スタッキング)を抑制するための提案がなされている。
これに対し本発明者は、磁気テープにおいてはテープ厚み方向に整列するように六方晶フェライト磁性粒子を適度にスタッキングさせることで、走行安定性と耐久性の確保が可能になるとともに、良好なSNRを維持することができるとの、従来知られていなかった新たな知見を得るに至った。これは、テープ厚み方向に整列した六方晶フェライト磁性粒子は、テープ長手方向では粒子間の磁気的相互作用が小さいため記録時のノイズ成分の広がりが小さくなることで良好なSNRを維持することができ、一方でテープ厚み方向では粒子間の磁気的な相互作用が強いことにより膜強度が向上することによるものと本発明者は推察している。上記特許文献7、8に記載されているように従来の走行耐久性向上の手段は磁性体以外の磁性層成分(研磨剤、結合剤)からのアプローチによるものであり、磁性体からの対策によって走行耐久性等の改善が可能となることは本発明者により新たに見出された事実である。
(2)加えて本発明者は、磁性層の磁気特性そのものではなく磁気特性の分布を高度に制御することでSNR向上が達成されるとのメカニズムを推定し、この推定メカニズムに基づき相当数の試行錯誤を重ねた結果、上記(1)の知見に基づく対策を施した磁性層において、磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkを制御することでSNR向上が達成されることを見出すに至った。磁性層の磁気特性の分布の指標としては、反転磁界分布SFD(Switching Field Distribution)が主に用いられていたが、SFDとSNRとの間に必ずしも良好な相関が得られなかったことから本発明者が更なる検討を重ねた結果、Hkの標準偏差σHkにより磁性層における磁気特性の分布を制御することで、SNR向上が可能となることを見出すに至ったものである。
【0009】
本発明者は上記新たに見出した知見に基づき更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]非磁性支持体上に、六方晶フェライト磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkが30%以下であり、かつ下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲であることを特徴とする磁気テープ。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]
[2]長手記録用磁気テープである、[1]に記載の磁気テープ。
[3]前記磁性層が、分散剤を更に含有する[1]または[2]に記載の磁気テープ。
[4]前記分散剤が、カルボキシル基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つの極性基を有する芳香族化合物である[3]に記載の磁気テープ。
[5]前記芳香族化合物が、芳香族環に前記極性基が直接置換してなる化合物である[4]に記載の磁気テープ。
[6]前記芳香族化合物が、ジヒドロキシナフタレンおよびビフェニル安息香酸からなる群から選択される[5]に記載の磁気テープ。
[7]前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkが15%以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気テープ。
[8]前記磁性層の磁気的相互作用ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.10の範囲である[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気テープ。
[9]前記磁性層が、平均板径10〜30nmの六方晶フェライト磁性粉末を含む[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気テープ。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の磁気テープと、
長手記録用磁気ヘッドと、
を含むことを特徴とする磁気記録装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた走行耐久性および安定性を有する高密度記録用磁気テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、非磁性支持体上に、六方晶フェライト磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープに関する。本発明の磁気テープにおいて、前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkは30%以下であり、かつ下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMは、−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲である。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]
詳細は後述するがΔMはスタッキング状態を表す指標であり、先に説明したように、磁気テープにおいてはテープ厚み方向に整列するように六方晶フェライト磁性粒子を適度にスタッキングさせることで、走行安定性と耐久性の確保が可能になるとともに良好なSNRを維持することができる。一方、σHkは磁性層の磁気特性の分布を表す指標としては従来用いられていなかったものであるが、本発明ではこのσHkを30%以下に制御することで、優れたSNRを得ることができる。
以下、本発明の磁気テープについて更に詳細に説明する。
【0013】
前述のように、本発明によりSNRと走行耐久性、安定性を同時に向上させることができる要因の1つは、六方晶フェライト粉末の粒子同士がテープ厚み方向に整列するようにスタッキングしていることにあり、本発明ではスタッキング状態に関する指標として、下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMを用いる。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。ΔMは、レマネンス曲線から得られる交流消磁状態からのACレマネンスと直流消磁状態からのDCレマネンスとの差分であって、磁性粒子同士のテープ長手方向(走行方向)における相互作用がテープ厚み方向での相互作用よりも強いと正の値を取り、逆の場合に負の値を取る。また、その絶対値が大きいほど当該方向における磁性粒子同士の相互作用が強いこと、即ち当該方向での整列の度合いが強いことを意味する。本発明では六方晶フェライト磁性粒子同士をテープ厚み方向にスタッキングさせることでテープ厚み方向での磁性粒子同士の相互作用をテープ長手方向のそれよりも強くするため、ΔMは負の値を取る。そしてΔMが負の値の中で絶対値が0.03以上であること(即ちΔM≦−0.03)により、繰り返し走行に耐え得る走行耐久性および走行安定性を確保することができる。これは磁性粒子同士の相互作用が強いことにより膜強度が向上することによるものと考えられる。ただしΔMが負の値の中で絶対値が0.20を超えるほど大きくなると、磁性粒子間の磁気的相互作用が強すぎるため実質的な磁化反転体積が増大しノイズが増加し、良好なSNRを確保することが困難となる。以上の点から本発明では磁性層のΔMを、−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲、好ましくは−0.20≦ΔM≦−0.10の範囲に規定する。
【0014】
上記の通り磁性層のΔMは、磁性層中での六方晶フェライト磁性粒子の整列の度合い(スタッキング状態)を示すものである。スタッキング状態に影響を及ぼす要因としては、磁性層における六方晶フェライト磁性粒子の充填率、分散処理、および配向処理が挙げられる。六方晶フェライト磁性粒子が所定密度で高度に分散している湿潤状態の磁性層に垂直配向処理を施すことで、磁性粒子をテープ厚み方向に整列させることができる。したがって本発明では、磁性層における六方晶フェライト磁性粒子の充填率、分散処理、および配向処理によって磁性層のΔMを上記範囲内に制御することができる。以下、これらについて更に詳細に説明する。
【0015】
磁性層における六方晶フェライト磁性粒子の充填率は、所望のΔMを容易に実現する観点から30〜60%であることが好ましい。
【0016】
所望のΔMを容易に実現する観点から、磁性層形成用塗布液では、後述する実施例で測定される分散粒子径が20nm〜50nmとなる分散状態を実現することが好ましい。このような高度な分散条件を実現する手段としては、分散処理条件を強化することが挙げられる。なお、分散処理の詳細については後述する。他の手段としては磁性層の添加剤として分散剤を1種、または2種以上を組み合わせて使用することが挙げられる。所望のΔMを実現するうえで好ましい分散剤としては、カルボキシル基および水酸基からなる群か選ばれる少なくとも一つの極性基を有する芳香族化合物を挙げることができる。該芳香族化合物としては、芳香族環に上記極性基が直接置換してなる化合物を用いることがより好ましい。上記芳香族化合物は、上記極性基により六方晶フェライト磁性粒子表面に吸着することで粒子同士が直接接触し凝集することを妨げることができ、また六方晶フェライト磁性粒子への吸着力が適度であるため、垂直配向処理時に粒子同士が磁気的相互作用によってテープ厚み方向に整列することを妨げず、しかも芳香族環同士の引力(π−π相互作用)によりその整列を促進すると推察される。なお上記芳香族化合物は、芳香族環が連結基を介して例えば5個以上も連なったポリマーでないことが好ましい。ポリマーは立体障害により六方晶フェライト磁性粒子がスタッキングすることを妨げる可能性があるからである。
【0017】
前記芳香族化合物に含まれる環構造は、芳香族環であれば単環構造であっても多環構造であってもよく、炭素環であっても複素環であってもよい。また、多環構造としては、縮合環であっても、2つ以上の環が単結合または連結基を介して連結した環集合であってもよい。上記環構造の具体例としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環、フェナントレン環等を挙げることができ、好ましい環構造としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環、特にナフタレン環を挙げることができる。
【0018】
前記芳香族化合物は、カルボキシル基および水酸基からなる群から選ばれる極性基を有することで、六方晶フェライト磁性粒子に適度に吸着し、凝集を抑制することができる。置換基として吸着力の強い官能基、例えばスルホン酸基またはその塩を有するものでは、六方晶フェライト磁性粒子への吸着力が強すぎる結果、垂直配向処理を施した際に磁性粒子同士がテープ厚み方向に整列することの妨げとなる可能性がある。前記化合物に含まれる上記極性基の数は、1つ以上であればよく、2つまたは3つ以上であってもよい。適度な吸着力を発揮することから好ましくは、1つまたは2つである。
【0019】
前記化合物は、上記極性基の他に置換基を含んでいてもよい。他の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アリール基を挙げることができる。ただし前記した理由から、磁性粒子に対して、水酸基およびカルボキシル基よりも高い吸着性を示す置換基の存在は好ましくない。
【0020】
以上の観点から特に好ましい分散剤としては、ヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン、安息香酸、およびビフェニル安息香酸を挙げることができ、最も好ましい化合物としてはジヒドロキシナフタレンおよびビフェニル安息香酸を挙げることができる。分散剤は、所望のΔMを容易に実現可能とする観点からは、六方晶フェライト粉末100質量部に対して1〜20質量部の量で使用することが好ましく、1〜10質量部の量で使用することがより好ましく、5〜10質量部の量で使用することがより一層好ましい。
【0021】
また、磁性層形成用塗布液調製時には、分散剤は六方晶フェライト粉末および結合剤とともに有機溶媒中で分散処理が施される。ここでの混合順序については、(a)分散剤を六方晶フェライト粉末および結合剤と略同時に有機溶媒に添加する態様、(b)分散剤を予め六方晶フェライト粉末と混合し分散処理を施した後、結合剤を添加する態様、(c)六方晶フェライト粉末と結合剤とを予め混合した後、分散剤を添加する態様を取り得るが、分散剤として芳香族化合物を使用する場合には、六方晶フェライト磁性粒子同士のテープ厚み方向での整列を芳香族化合物に含まれる環構造同士の引力(π−π相互作用)により促進する観点からは、(a)または(c)の態様が好ましい。有機溶媒としては、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0022】
前記したΔMは磁性粒子をテープ厚み方向に積極的に整列させること、即ち垂直配向させることで負の値に制御することができるため、本発明では磁性層に垂直配向処理を施すことが好ましい。磁性層における磁性粒子の配向状態は角型比によって表され、本発明では、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.65以上となるように垂直方向に磁場配向させることが好ましい。なお垂直方向角型比の上限は、原理上1である。また、所望のΔMを実現する観点から、上記角型比は0.80以下とすることが好ましい。磁性層は、磁性層形成用塗布液を被塗布面に塗布した直後に同極対向磁石中を通過させ、同時に熱風を吹き付け乾燥させることにより形成することができる。このときの磁石の強さ、風量、温度、および塗布速度を適宜調整することにより、所望の範囲内の垂直方向角型比を有する磁性層を形成することができる。
【0023】
本発明において磁性層が満たすべき要件の1つであるΔMについては以上説明した通りである。以下、もう1つの要件であるσHkについて説明する。
【0024】
本発明の磁気テープでは、磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkを、30%以下、好ましくは15%以下とする。これはσHkが30%を超えるほど磁性層内でHkの分布が存在すると、前記したように六方晶フェライト磁性粒子をテープ厚み方向に積極的に整列させΔMを制御したとしても、ノイズが増大し良好なSNRを得ることができないからであり、15%以下とすることでより一層のSNR向上が達成できるからである。磁気異方性定数Hkは結晶軸(容易軸)に磁化を向かせようとする力であり、その標準偏差であるσHkは磁性層内での磁気的な分布を示す。本発明においてσHkとは、後述の実施例に記載の方法で測定される磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差をいう。
【0025】
σHkは六方晶フェライト磁性粉末の平均板状比および反転磁界分布SFDにより制御することができる。平均板状比が高いほどσHkが低下する傾向があり、SFDが大きくなるほどσHkが増加する傾向がある。30%以下のσHkを実現する観点から、六方晶フェライト磁性粉末の平均板状比は、2.5〜5.0の範囲であることが好ましく、SFDについては0.1〜1.2の範囲であることが好ましい。前記σHkの値が小さいほど磁性層内の磁気特性が均一でありSNR向上の観点から好ましく、したがってσHkの下限値は最も好ましくは0%であるが、容易に入手または調製可能な六方晶フェライト磁性粒子の特性を考慮すると、実用上の下限値は10%以上となり得る。
【0026】
次に、本発明の磁気テープにおいて、磁性層の強磁性粉末として使用する六方晶フェライト粉末について説明する。
【0027】
六方晶フェライト粉末としては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等が挙げられる。また、六方晶フェライト粉末の平均板径は、10〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜60nmであり、より一層好ましくは10〜50nmであり、特に好ましくは10〜30nmである。特にトラック密度を上げるためMRヘッドで再生する場合、低ノイズにする必要があるため、平均板径は60nm以下、更には50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。10nmより小さいと安定な磁化が望めない。100nmを越えるとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。平均板厚は、4〜15nmであることが好ましい。平均板厚が4nm以上であれば、安定生産が可能であり、平均板厚が15nm以下であれば、十分な配向性を得ることができる。上記粒子サイズを有する微粒子状の六方晶フェライトを含む磁性層では、従来膜強度低下による走行耐久性、安定性の低下という課題が存在したが、本発明では前述の通りこれらを改善することができるため、微粒子状の六方晶フェライトを使用した高密度記録用磁気テープにおいて、良好な走行耐久性および安定性を実現することができる。
【0028】
六方晶フェライトの抗磁力Hcは高い方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。本発明で使用される六方晶フェライトのHcは2000〜4000Oe(160〜320kA/m)程度であることが好ましい。本発明で使用可能な六方晶フェライトの詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0035]〜[0037]を参照できる。
【0029】
なお、六方晶フェライト粉末の平均板径は、以下の方法により測定することができる。
六方晶フェライト粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子の板径を測定する。500個の粒子の板径を測定する。上記方法により測定される板径の平均値を六方晶フェライト粉末の平均板径とする。
【0030】
本発明において、前述の六方晶フェライト粉末等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0031】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0032】
次に、本発明の磁気テープの詳細について更に説明する。
【0033】
前記磁性層は、六方晶バリウムフェライト粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層およびバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0034】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを、所望の性質に応じて適量、市販品または公知の方法により製造されたものの中から適宜選択して使用することができる。また、前述のように分散剤としては芳香族環に水酸基が直接置換してなる化合物を使用することが好ましい。カーボンブラックについては、特開2010−24113号公報段落[0033]も参照できる。
【0035】
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気テープは、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0036】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層に関する公知技術が適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0037】
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0038】
本発明の磁気テープの厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0039】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気テープの非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0040】
本発明の磁気テープには、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0041】
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。いずれの工程についても、個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる各種成分はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。なお磁性層形成用塗布液の調製における六方晶フェライト粉末、結合剤、および前記した芳香族環に水酸基が直接置換してなる化合物の添加順序については、先に説明した通りである。
本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。前述のように本発明では、所望のΔMを容易に実現可能とする観点から、分散処理により磁性層形成用塗布液における六方晶フェライトの分散粒子径を前記した範囲に制御することが好ましい。磁気テープの製造方法のその他詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0042】
以上説明した本発明の磁気テープは、テープ厚み方向に磁性粒子を磁化させる垂直記録方式の磁気記録システムにおいて使用してもよく、長手方向に磁性粒子を磁化させる長手記録方式の磁気記録システムにおいて使用してもよいが、特に、長手記録方式において顕著なSNR向上を示すことができる。これは、六方晶フェライト磁性粒子同士がテープ厚み方向にスタッキングするとテープ長手方向では粒子間の磁気的相互作用が小さくなるため、特に長手方向において、記録時のノイズ成分の広がりが小さくなることによるものと推察される。したがって本発明の磁気テープは、長手記録用磁気テープとして好適である。したがって本発明の更なる態様によれば、本発明の磁気テープと、長手記録用磁気ヘッドと、を含むことを特徴とする磁気記録装置も提供される。
本発明の磁気テープに長手記録方式での記録を行う記録ヘッド(長手記録用磁気ヘッド)としては、磁性層に含まれる六方晶フェライト磁性粒子を長手方向に磁化させ得るものであればよく、具体例としては、リング型インダクティブヘッド、上部磁極および下部磁極を備えたインダクティブ薄膜ヘッドを挙げることができる。また、再生ヘッドとしては高感度のMRヘッドを使用することが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下に記載の「部」、「%」は、特に示さない限り「質量部」、「質量%」を示す。
【0044】
1.磁気テープに関する実施例・比較例
【0045】
1−1.磁性層塗布液処方
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100部
(表1に記載の粒子サイズ、SFDの特性を示す。)
ポリウレタン樹脂(官能基:−SO3Na、官能基濃度180eq/t):14部
2,3−ジヒドロキシナフタレンまたはビフェニル安息香酸(表1参照):6部
アルミナ粉末(平均粒径:120nm):50部
コロイダルシリカ(粒子サイズ 100nm):20部
シクロヘキサノン:110部
メチルエチルケトン:100部
トルエン:100部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0046】
1−2.非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体(α−酸化鉄):85部
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.05μm
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8、DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂(官能基:−SO3Na、官能基濃度:180eq/t):15 部
フェニルホスホン酸:3部
α−Al23(平均粒径0.2μm):10部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0047】
1−3.磁気テープの作製
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、ジルコニアビ−ズ(粒径0.5mm)を用いたサンドミルで720分間または1080分間(表1参照)分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を調製した。
上記非磁性層塗布液を、厚さ5μmのポリエチレンナフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、100℃で乾燥させた。更にその直後に磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.08μmになるようにウェットオンドライ塗布し、100℃で乾燥した。この時、磁性層が未乾燥の状態で300mT(3000ガウス)の磁石で垂直磁場配向を行った。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、70℃で24時間加熱硬化処理を行い1/2インチ幅にスリットし磁気テープを作製した。
【0048】
2.六方晶フェライト粉末および磁気テープの評価
【0049】
2−1.六方晶フェライト粉末のSFD測定
振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界796kA/m(10kOe)で測定した。
【0050】
2−2.六方晶フェライト粉末のサイズ測定
日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて、前述の方法で測定した。
【0051】
2−3.PES(Position Error Signal;位置誤差信号)の評価
リールテスターで、テープを走行させデジタルストレージオシロスコープにてテープからのサーボ信号を取得して解析することで、テープの上下動に対してLTO G5規格の磁気記録ヘッドが追従できなかった量を求めた。上記方法で測定されるPESは走行安定性およびSNRによる影響を受ける値であり、測定される値が100nm以上では、実用上走行安定性が不十分である。
【0052】
2−4.走行耐久性(出力低下)の評価
リールテスターで、テープ走行1パス目の出力およびテープを1万往復走行させた後のテープの出力をスペクトルアナライザーにて測定し、その差分を求めた。上記方法で求められる値が−3dB以下では、実用上走行耐久性が不十分である。
【0053】
2−5.SNR
リールテスターで、リードヘッド(トラック幅1μm、ギャップ200nm)、ライトヘッド(Bs=1.8T)を用いてテープ長手方向に記録密度250kfciの信号を記録再生した後に、テープからの再生信号とノイズのスペクトルをスペクトルアナライザーにて測定して、再生信号とノイズの比(SNR)を求めた。上記方法で求められるSNRが0dB超であれば良好な電磁変換特性を有すると判断することができる。
【0054】
2−6.分散粒子径
磁性層形成用塗布液における六方晶フェライト磁性粒子の分散状態を評価するため、上記方法で作製した磁性層塗布液の一部を採取し、同塗布液調製に使用した有機溶媒により質量基準で1/50に希釈した試料溶液を調製した。調製した試料溶液について、光散乱型粒度分布計LB500(HORIBA製)を用いて測定した算術平均粒子径を液粒径とした。
【0055】
2−7.角型比
作製した各磁気テープについて、VSM(振動試料型磁束計)を用いて外部磁場1194kA/m(15kOe)で磁性層の垂直方向の角型比(垂直SQ)を測定した。
【0056】
2−8.磁気的相互作用ΔM
作製した各磁気テープについて、VSM(振動試料型磁束計)を用いて、直流消磁して残留磁化Id(H)を、交流消磁して残留磁化Ir(H)を、印加磁界を796kA/m(10kOe)として残留磁化Ir(∞)を、それぞれ測定し、前記式(1)によりΔMを求めた。
【0057】
2−9.磁気異方性定数Hkの標準偏差σHk
東英工業製磁気トルクメーターTRT−2を用い、消磁した磁気テープに低磁場から回転ヒステリシス損失Wrの値を測定し、10kOeまで測定した。印加磁界の逆数1/Hに対してプロットし、高印加磁界側においてWrが0になる磁場をWrカーブの直線部分を外挿して求めHkとした。測定値から標準偏差σHkを算出した。
【0058】
2−10.磁性層の充填率
磁性層に使用した強磁性板状六方晶フェライト粉末と同一ロット内の粉末のσs(単位:emu/g)をVSM(振動試料型磁束計)により測定し、同粉末の密度(g/cm3)からσs(単位:emu/cm3)を算出した。
これとは別に、実施例、比較例で作製したテープの厚み(単位:cm)を透過型電子顕微鏡(TEM)画像から算出した。σs(単位:emu/cm3)×厚み(単位:cm)から、(emu/cm2)が求まる。求めた値とテープのVSM測定から求まるφm(単位:emu/cm2)の比から充填率を算出した。
【0059】
以上の結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
評価結果
表1に示すように、磁性層のσHkが30%以下であり、ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲にある実施例1〜8の磁気テープは、良好な電磁変換特性および実用上十分な走行耐久性、安定性を有するものであり、特に磁性層のσHkが15%以下であり、ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.10の範囲であり、磁性層に含まれる六方晶フェライト磁性粉末の平均板径が10〜30nmの範囲の態様において、優れた電磁変換特性と走行耐久性、安定性を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の磁気テープは、長期にわたり高い信頼性と優れた電磁変換特性を示すことが求められるデータバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、六方晶フェライト磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkが30%以下であり、かつ下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.03の範囲であることを特徴とする磁気テープ。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]
【請求項2】
長手記録用磁気テープである、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記磁性層が、分散剤を更に含有する請求項1または2に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記分散剤が、カルボキシル基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つの極性基を有する芳香族化合物である請求項3に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記芳香族化合物が、芳香族環に前記極性基が直接置換してなる化合物である請求項4に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記芳香族化合物が、ジヒドロキシナフタレンおよびビフェニル安息香酸からなる群から選択される請求項5に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記磁性層の磁気異方性定数Hkの標準偏差σHkが15%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記磁性層の磁気的相互作用ΔMが−0.20≦ΔM≦−0.10の範囲である請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記磁性層が、平均板径10〜30nmの六方晶フェライト磁性粉末を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気テープと、
長手記録用磁気ヘッドと、
を含むことを特徴とする磁気記録装置。

【公開番号】特開2013−25853(P2013−25853A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162290(P2011−162290)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】