説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】 高保磁力で、熱揺らぎの影響を受けにくく、かつ大幅なS/N比の改善をもたらす磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 基板上に少なくとも、下地層及び磁性層を順次積層してなる磁気記録媒体において、前記下地層と前記基板との間にプリコート層を介在させ、前記プリコート層がNiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とを順次積層することにより構成されることを特徴とする磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンピューターの外部記憶装置に搭載されるハードディスク等の磁気記録媒体に係り、特に、基板と下地層との間に下地層と磁性層の結晶粒の微細化と、粒子サイズの分散を抑えるプリコート層を設けた高保磁力且つ低ノイズの磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】この種の磁気記録媒体としては、例えば、本出願人の先願である特願平11−094391号の明細書に記載されているような磁気記録媒体が提案されている。この磁気記録媒体は、基板上に少なくとも2層以上からなる非磁性膜間に中間層を介在させたシード層、Cr又はCr合金下地層、Co合金磁性層を順次積層してなるもので、高保磁力且つ低ノイズを達成するものである。
【0003】この磁気記録媒体における高保磁力化は、シード層が、下地層であるCr又はCr合金の体心立方晶(bcc)における(110)面の結晶配向性を高め、その上にエピタキシャル成長するCo磁性層の磁化容易軸(c軸)が面内と平行となる(100)面の結晶配向性が向上して達成される。また、この磁気記録媒体はシード層を設けたことにより下地層の膜厚を薄くすることができるので、下地層の薄膜化により、その上のCo磁性粒子が微細化し、記録ビット間の磁化遷移領域(磁壁幅)を小さくできるため、ノイズを低減することができるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年、磁気記録媒体のより一層の高記録密度化に供ないノイズを低減させ、S/N比を向上させた磁気記録媒体の開発が望まれている。このためには磁性層を結晶粒径を可能な限り微細化する必要があるが、磁性層の結晶粒径を非常に微細化すると、磁化が熱的に不安定となり、記録された信号が時間とともに減衰し、しまいには記録された信号が消滅してしまう現象、即ち熱揺らぎと呼ばれる現象が起こるという問題がある。ノイズと熱揺らぎとはトレードオフの関係にあり、磁性層の結晶粒径を微細化していくと、ノイズは低減するが、熱揺らぎによる信号減衰は大きくなり、記録された信号が時間とともに減衰又は消滅し易くなる。熱揺らぎが起こると、信号減衰(再生出力の低下)の他に、媒体ノイズの増加や、PW50値(孤立再生信号の半値幅)の値が劣化する。
【0005】高密度記録に望ましい媒体の微細構造としては、磁性層の結晶粒子を微細化するとともに、粒子サイズの分散(粒径分布)を小さくし、熱揺らぎの影響を受けやすい過度に微細な粒子の生成を抑えることが重要になってきている。磁性層の結晶構造は下層の結晶構造を引継いで得られるものであるから、下層の結晶粒子をより微細化するとともに、粒径分布を小さくする必要がある。
【0006】本発明者等は、基板と下地層との間にプリコート層を介在させることにより磁性層の結晶粒子の微細化と粒子サイズの分散性の改善とをはかることが出来るのではないかとの知見に基づき、鋭意検討を重ねた結果、本発明をなすに到った。したがって、本発明は高保磁力で、熱揺らぎの影響を受けにくく、かつ大幅なS/N比の改善をもたらす磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)基板上に少なくとも下地層と、磁性層とを順次形成された磁気記録媒体において、前記基板と下地層との間に、下地層及び磁性層の結晶粒の微細化と、粒子サイズの分散を抑えるプリコート層を介在させ、前記プリコート層が、前記基板側からNiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とが順次積層されていることを特徴とする磁気記録媒体。
(構成2)前記プリコート層の結晶構造は、アモルファス構造か、或いは、殆どアモルファス構造であることを特徴とする構成1記載の磁気記録媒体。
(構成3)前記プリコート層は、窒素が含まれていることを特徴とする構成1又は2記載の磁気記録媒体。
(構成4)前記窒素は、1〜20at%含まれていることを特徴とする構成3に記載の磁気記録媒体。
(構成5)前記上層は、Crと、Zr、Wの何れかを含むCr合金であることを特徴とする構成1乃至4の何れか一に記載の磁気記録媒体。
(構成6)前記プリコート層と下地層との間に、下地層及び磁性層の結晶粒径を制御するシード層が形成されていることを特徴とする構成1乃至5の何れか一に記載の磁気記録媒体。
(構成7)前記下層の膜厚が、50〜2000Åであることを特徴とする構成1乃至6の何れか一に記載の磁気記録媒体。
(構成8)前記上層の膜厚が、5〜300Åであることを特徴とする構成1乃至7の何れか一に記載の磁気記録媒体。
(構成9)前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする構成1乃至8の何れか一に記載の磁気記録媒体。
(構成10)線記録密度が300kfci以上の条件下で使用することとを特徴とする構成1乃至9の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【0008】(構成11)基板上に少なくとも下地層と、磁性層とをスパッタリングによって順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記基板と下地層との間に、NiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とを有するプリコート層を、順次、スパッタリングによって形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(構成12)前記プリコート層は、不活性ガスと窒素とを含有する混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることを特徴とする構成11記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成13)混合ガス中に含まれる窒素の含有量は、20〜80%とすることを特徴とする構成12記載の磁気記録媒体の製造方法。
(構成14)前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする構成11乃至13の何れか一に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0009】上記構成1によれば、プリコート層は、NiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とから構成されている。下層のNiとPとを含む層は、基板表面の有機汚染物質や基板から浸出するアルカリ不純物を遮断する役割と、基板表面の表面状態(結晶構造など)をキャンセル(上に形成する膜に対し結晶成長に影響を与えないように遮断する)役割がある。下層のNiとPとを含む層には、上記効果を逸脱しない範囲で、他の元素を添加することができる。例えば、Al、B、Zr、Tiなどが挙げられる。これらの元素の含有量は、50at%以下に抑えることが好ましい。また、下層に含まれるP(リン)の含有量は、上記効果を有するために、10〜30at%が好ましい。
【0010】上層のCr合金からなる層は、その上に形成する膜の初期成長膜の働きを持たせる。初期成長膜の働きを持たせるためにはCrに添加する元素としては、Zr,Nb,W,V,Ti,Mo,Ta,Ni,Hfから選ばれる少なくとも1種を選択することができる。Crと上記元素を含む材料は、微結晶粒径を得ることができ、しかも粒径分布が非常に小さくなる性質を有する。従って、熱揺らぎの影響を回避しつつ、S/N比を2〜4dB程度、大幅に向上させ、かつPW50値(孤立再生信号の半値幅)の改善を図ることができる。上述と同様に、上層のCr合金には、上記効果を逸脱しない範囲で、他の元素を添加することができる。例えば、B,C,Oなどが挙げられる。ごれらの元素の含有量は、10at%以下に抑えることが好ましい。また、上層に含まれる上記元素(Zr、Nb,W,V,Ti,Mo,Ta,Ni,Hfから選ばれる少なくとも1種の元素)の含有量は、上記効果を有するために、10〜50at%が好ましい。また、上記プリコート層は、下層と上層との積層構造となっていることが重要であって、下層のみの単層とした場合には、S/N比は0.8dB程度、上層のみの単層とした場合には、0.3dB程度しか改善されないが、下層と上層との積層構造にすることにより、2〜4dB程度の大幅な改善が得られる。また、上記プリコート層は、これらのS/N比の大幅な改善効果を逸脱しない範囲であれば、下層と上層との間に中層を設けてもかまわない。
【0011】上記構成2にあるように、前記プリコート層の結晶構造は、アモルファスか、殆どアモルファス構造とする。ここで、アモルファス、殆どアモルファス構造とは、X線ディフラクトメーターで測定したとき、明確なX線回折ピークがないか、X線回折ピークが極めてブロードになっている状態を指す。このような結晶構造とするために、プリコート層(下層、上層)に、窒素が含有される。窒素は、結晶粒を微細化させる働きを有し、上記効果を引き出す役割がある。プリコート層に含まれる窒素の含有量は、1〜20at%が好ましい。1at%未満の場合、微細化の効果がなくなるので好ましくなく、20at%を超えると成膜(スパッタリング)速度が著しく低下するので好ましくない。好ましくは、3〜20at%が望ましい。 尚、プリコート層の形成方法には特に限定されない。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法などが挙げられる。
【0012】また、上記構成5にあるように、上層のCr合金をCrと、Zr、Wの何れかを含む材料とすることにより、結晶粒の微細化と粒径の均一化がさらに図れるので、ノイズ低減、PW50値の改善、熱揺らぎ耐性の点で好ましい。また、上記構成6にあるように、プリコート層と下地層との間に、下地層及び磁性層の結晶粒径を制御するシード層を形成することにより、さらに結晶粒径の均一化が促進され、S/N比、熱揺らぎ耐性が向上するので好ましい。シード層の材料には特に制限はない。例えば、NiAl,AlCo,FeAl,FeTi,CoFe,CoTi,CoHf,CoZr,NiTi,CuZn,AlMn,AlRe,AgMg,CuSi,NiGa,CuBe,MnV,NiZn,FeV、CrTi,CrNi,NiAlRu,NiAlW,NiAlTa,NiAlHf,NiAlMo,NiAlCr,NiAlZr,NiAlNb,Al2FeMn2などが挙げられる。
【0013】また、上記構成7にあるように、下層の膜厚は、50〜2000Åとすることが好ましい。より好ましくは、300〜1500Åとすることが望ましい。50Å未満の場合,基板表面の汚染物質の影響を受け、また、基板表面の表面状態(結晶構造など)おキャンセル(上に形成する膜に対し結晶成長に影響を与えないように遮断する)効果がなくなり、上層の初期成長膜の結晶粒径分布の均一化が得られなくなるので好ましくなく、また、2000Åを超える場合、下層の結晶粒径が大きくなり、その影響で、磁性層の結晶粒径も大きくなりS/N比が低下するので好ましくない。また、NiPの膜応力が大きくなり、上層の付着強度が低下するので好ましくない。膜厚とS/N比との関係は、磁性層の材料によりS/N比のピークは変化するが、300〜1500Åの間でS/N比のピークを持つ。
【0014】また、上記構成8にあるように、上層の膜厚は、5〜300Åであることが好ましい。より好ましくは、15〜200Åとすることが望ましい。5Å未満の場合、膜が極めて薄く、上述の上層の効果が発揮しないので好ましくなく、また、300Åを超える場合、結晶粒径が大きくなり、その影響で、磁性層の結晶粒径も大きくなりS/N比が低下するので好ましくない。膜厚とS/N比との関係は、磁性層の材料とは無関係に30Å付近でS/N比のピークを持つ。
【0015】また、上述した本発明の磁気記録媒体において、基板の材質には、特に制限はない。例えば、ガラス基板(結晶化ガラス基板を含む)、アルミニウム合金基板、セラミックス基板、カーボン基板、シリコン基板等を使用することができる。中でも、構成9にあるように、基板材料がガラス基板(結晶化ガラス基板を含む)の場合、ガラスがアモルファス構造を有するため、下層のアモルファス構造のNiとPを含む膜との相性が良く、NiとPとの結晶の偏析がなくなる。ガラス基板の硝種としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、アルミノポロシリケートガラス、ポロシリケートガラス、結晶化ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0016】また、構成10にあるように、本発明の磁気記録媒体は、線記録密度が300kfci以上の条件下で使用する場合に、特に有用である。磁気記録媒体の高密度化は、線記録密度および、トラック記録密度を上げることが一般的である。より高密度記録再生が要求される近年において、高い線記録密度で特性の良い媒体(磁気ディスク)であることは、大変意味のあることであり、本発明の磁気記録媒体はこのような線記録密度が300kfciという高密度記録再生で使用する環境において特に効果を発揮する。
【0017】また、構成11にあるように、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に少なくとも下地層と、磁性層とをスパッタリングによって順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記基板と下地層との間に、NiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とを有するプリコート層を、順次、スパッタリングによって形成することを特徴とする。プリコート層をスパッタリングによって形成することにより、純度の高いNiとPとを含むアモルファス相を均一な膜厚で形成することができるからである。スパッタリング時の条件(基板温度、ガス圧力、成膜時間等)については、適宜調整して行う。
【0018】また、構成12にあるように、プリコート層は、不活性ガスと窒素ガスとを含有する混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることにより、窒素がプリコート層の結晶粒径の微細化と均一化させることができる。本発明の効果を逸脱しない範囲内で、不活性ガス(Ar,He,Kr等)と窒素ガス以外に、反応性ガス(例えば、酸素、水素等)を含有させても良い。混合ガス中に含まれる窒素の含有量は、20〜80%とすることが好ましい。さらに好ましくは、30〜60%とすることが望ましい。20%未満の場合、結晶粒径が微細化できないので好ましくなく、80%を超えると、著しいスパッタリングレートの低下と、多層への窒素の回り込みによる保磁力の低下、PW50値の低下になるので好ましくない。尚、窒素の含有量が50%付近で、PW50値、S/N比の値が最適値を持つ。。また、上述の理由で、基板の材料は、ガラス基板とすることが好ましい。
【0019】本発明の上記記録媒体において、下地層、磁性層は特に制限されない。下地層は、磁気特性を向上させる目的で形成され、Coを主成分とする磁性層の場合、Cr単体やCr合金が使用される。Cr合金としては、CrV,CrW,CrMo,CrTiなどが挙げられる。下地層は、単層でも、複数層としても良い。磁性層としては、例えば、Coを主成分とするCoPt,CoCr,CoNi,CoNiCr,CoCrTa,CoPtCr,CoNiPtやCoNiCrPt,CoNiCrTa,CoCrPtTa,CoCrPtB,CoCrPtTaNb,CoCrPtTaBなどの磁性膜などが挙げられる。磁性層は、磁性膜を非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV、CrMnCなど)で分割してノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)や、磁性膜を非磁性膜を介さず、直接形成した積層構造としても良い。
【0020】磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)又は巨大(大型)磁気記抵抗型ヘッド(GMRヘッド)対応の磁性層としては、Co系合金に、Y、Si希土類元素、Hf、Ge、Sn、Znから選択される不純物元素、またはこれらの不純物元素の酸化物を含有させたものなども含まれる。また磁性層としては、上記のほか、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO2 やBNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子が分散された構造のグラニュラーなどであっても良い。また、磁性層は、面内型、垂直型の何れの記録形式であっても良い。また、下地層と磁性層との間に、磁性層の結晶配向を制御する中間層を形成しても良い。中間層としては、CoCr,CoCrNbなどが挙げられる。
【0021】磁性層上には、必要に応じて、保護層、潤滑層を形成することができる。保護層は、磁性層を磁気ヘッドの接触摺動による破壊から防護する目的で形成する。保護層は、1層又は2層以上から構成することができる。保護層としては、例えば、クロム膜、酸化ケイ素膜、カーボン膜、水素化カーボン膜、窒化カーボン膜、水素窒素化カーボン膜、ジルコニア膜、窒化珪素膜、炭化珪素膜等を挙げることができる。なお、保護層は、スパッタリング法等の公知の成膜方法で形成することができる。潤滑層は、磁気ヘッドとの接触摺動による抵抗を低減する目的で設けられ、例えば、液体潤滑剤であるパーフルオロポリエーテル等が一般的に用いられる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の磁気記録媒体について実施例によりさらに説明する。
実施例1本実施例の磁気記録媒体は、図1に示す通り、ガラス基板1上にプリコート層2、シード層3、下地層4、中間層5、磁性層6、保護層7、潤滑層8を順次積層してなる磁気ディスクである。ガラス基板1は、化学強化されたアルミノシリケートガラスからなり、その表面粗さはRmax=3.2nm、Ra=0.3nmで鏡面研磨されている。プリコート層2は2層の合金膜21と22とからなり、下層の合金膜21はNiPの窒化膜(膜厚300Å)からなり上層の合金膜はCrZrの窒化膜(膜厚30Å)からなる。合金膜21におけるNiとPとの原子重量組成比は80:20である。また合金膜22におけるCrとZrとの原子重量組成比は60:40(実施例1)又は80:20である。合金膜21,22に含まれる窒素の含有量は、4at%である。(ESCA分析値)
【0023】合金膜21および合金膜22はそれぞれAr50%、N2 50%の混合ガス雰囲気中でスパッタリングにより連続して形成される。基板1を200℃に加熱した後、予熱下で合金膜21と22とを連続してスパッタリングにより成膜する。なお基板加熱時に220℃以上に温度を上げると、NiPが磁化し、ノイズ源となるため、温度管理が重要である。なお合金膜21のPの一部をAlで置換してNiP1-x Alx とすることも出来る。また合金膜22のZrに替えて、W,Nb,Hfを用いても良い。また合金膜21,22の作製時に基板1に−200V〜−300VのDC基板バイアスをかけても良い。さらに基板1は等方性基板に限らず、周方向異方性を持つものであっても良い。
【0024】シード層3は基板1を再度200℃に加熱した後、NiAl薄膜により形成される。NiAl薄膜はNi:50at%、Al:50at%の組成比で構成される。下地層4は、CrV薄膜(膜厚:100Å)で、磁性層の結晶構造を良好にするために設けられている。このCrV薄膜は、Cr:80at%、V:20at%の組成比で構成されている。また、中間層5は、CoCr薄膜(膜厚:30Å)で、磁性層のC軸の配向を良好にするために設けられている。なお、このCoCr薄膜は、Co:65at%、Cr:35at%でHCP結晶構造の非磁性膜である。
【0025】磁性層6はCoCrPtB合金薄膜(膜厚:200Å)でCo,Cr,Pt,Bの含有量はCo:62at%、Cr:20at%、Pt:12at%、B:6at%である。保護層7は、磁性層6が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのものであり、膜厚45Åの水素化カーボン膜からなる。潤滑層8は、パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤からなり、この膜によって磁気ヘッドとの接触を緩和している。なお、膜厚は8Åである。
【0026】次に、上述の構成からなる磁気ディスクの製造方法について説明する。まず、イオン交換によって化学強化したガラス基板1の主表面を精密研磨によって鏡面(Rmax=3.2nm、Ra=0.3nm)にする。次に、このガラス基板1の主表面上にインライン方式のスパッタリングによって、プリコート層2、シード層3、下地膜4、中間層5、磁性層6、保護層7を順次成膜した。次いで、保護層7上にパーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑剤をディップ処理することによって潤滑層8を形成し磁気ディスクを得た。
【0027】この得られた磁気ディスクのS/N比、PW50値(孤立再生信号の半値幅)を測定した結果、S/N比は27.44dB、PW50値も12.97nsecと良好であった。S/N比の値は大きい程ノイズが小さいので好ましく、例えば、0.5dB程度違うと記録密度で約0.6Gb/inch2 の差があるといわれている。PW50値(孤立再生信号の半値幅)値は小さい程好ましく、0.6nsec程度違うと記録密度で約0.8Gb/inch2 の差があるといわれている。
【0028】なお、S/N比及びPW50値は以下の測定方法により測定した。S/N比は、記録再生出力の測定を次のようにして行い、求めた。磁気ヘッド浮上量が0.02μmの巨大磁気抵抗型ヘッド(以後、GMRヘッドと称す)を用いて、GMRヘッドと磁気ディスクの相対速度を10m/secとして線記録密度426kfcl(1インチあたり426000ビットの線記録密度)における記録再生出力を測定した。また、キャリア周波数82.3MHzで、測定帯域を98.76MHzとしてスペクトラムアナライザにより、信号記録再生時のノイズスペクトラムを測定した。本測定に用いたMRヘッドは、書き込み/読み取り側にそれぞれトラック幅0.85/0.6μm、磁気ヘッドギャップ長は0.25/0.14μmである。
【0029】PW50値(孤立再生信号の半値幅)の測定は次のようにして行った。PW50値測定用のMRヘッドを搭載した電磁変換特性測定機(GUZIK)で孤立再生信号を抽出し、グランド(0)に対する出力信号のピーク値の50%における孤立波形の幅をPW50値とした。なお、このPW50値は高記録密度のためには、小さければ小さいほど良い。これは、パルス幅が狭いと同一面積上により多くのパルス(信号)を書き込めることになるからである。一方、PW50値が大きいと、隣り合うパルス(信号)同士が干渉しあい、信号を読み出すときにエラーとなって現れる。この波形干渉がエラーレートを悪くする。これらから、PW50値は19.2nsec以下にする必要がある。
【0030】実施例2、3磁性層6をCo:62at%、Cr:20at%、Pt:12at%、B:6at%としたものを実施例2とし、Co:61.5at%、Cr:20at%、Pt:12at%、Ta:0.5at%、B:6at%としたものを実施例3とし、他は実施例1と同様とし、プリコート層2を構成する合金膜(NiP窒化膜)21の厚さを30Å〜2000Åに変化させてS/N比を測定し、表1及び図2を得た。
【0031】
【表1】


【0032】その結果、NiP窒化膜の膜厚の増加とともに、S/N比は改善していくが、磁性層がもつポテンシャルに達したところで、S/N比が飽和していることがわかる。すなわち、磁性層材料がもつ特性によって、S/N比が飽和する膜厚が異なることを表1、図2は示している(実施例2のCoCrPtB磁性層の場合は600〜900Å付近から、CoCrPtTaB磁性層の場合は1300Å付近でS/N比の値が飽和している。)。
【0033】実施例4、5また、プリコート層2を構成する合金膜(CrZr窒化膜)22の厚さを20〜400Åに変化させてS/N比を測定し表2及び図3を得た。尚、磁性層の組成は、実施例2のものと同じ合金膜を使用したものを実施例4、実施例3のものと同じ合金膜を使用したものを実施例5とし、他は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。その結果、CrZr窒化膜の膜厚が30Åの時、S/N比のピークを持つことがわかった。尚、この最適値は磁性層の材料によらない。このことは、CrZr窒化膜がシード層の核として作用する膜厚が30Å前後であることを意味し、CrZr窒化膜の膜厚を正確にコントロールする必要があることを示している。つまり、プリコート層上に形成されるシード層などの結晶粒径の分布において、分散の小さい(結晶粒径がそろった)ものとするためには、上層であるCrZr窒化膜の膜厚を正確に制御する必要があることを示している。
【0034】
【表2】


【0035】実施例6〜8プリコート層2成膜時の雰囲気ガス中に占めるN2ガスの量をそれぞれ10%(実施例6)、20%(実施例7)、50%(実施例1)、70%(実施例8)に変化させ、他は実施例1と同様としてPW50値及びS/N比を測定し、表3及び図4、図5を得た。
【表3】


その結果、PW50値、S/N比共にプリコート層2成膜時の雰囲気ガス中に占めるN2ガスの量が50%のとき、最適点を持つことがわかる。
【0036】実施例9、10及び比較例1、2、3プリコート層を形成しなかった場合(比較例1、2、3)とプリコート層を形成した場合(実施例9(実施例1の上層のCrとZrの比率を(Cr:60at%、Zr:40at%)に変更した他は同じ。)、実施例10(実施例1の上層の膜厚を50Åに変更した他は同じ。))とについてそれぞれ磁気ディスクを作製し、線記録密度に対する規格化メディアノイズを測定して図6の結果を得た。尚、規格化メディアノイズは、出力(LF)が大きいと、ノイズも大きくなることから、LF(出力)で規格化したもので、((ノイズ)^2/(LF)^2)*10000で表わされる。単位は、Pn/(Vo^2)*10000(Pn:ノイズパワー、Vo:出力電圧)である。測定方法は、スペクトラムアナライザーを使用して測定され、ノイズ範囲(Noise Span)は、0.6〜98.76MHzで測定を行った。
【0037】尚、比較例1,2,3の磁気ディスクの膜構造は以下の通りである(/は順に積層していることを示す。また、元素記号の下付きは、原子比(単位:at%)を示す。)。
比較例1:Ni50Al50(膜厚:350Å)/Cr9010(膜厚:10Å)/Ni50Al50(膜厚:350Å)/Cr8020(膜厚:100Å)/Co65Cr35(膜厚:30Å)/Co62Cr20Pt126(膜厚:120Å)/Cr19Mn92(膜厚:30Å)/Co63.5Cr20Pt10Ta0.56(膜厚:120Å)/水素化カーボン(膜厚:45Å)/パーフルオロポリエーテル(膜厚:8Å)。
比較例2:(Ni50Al50)N2(膜厚:350Å)/Cr9010(膜厚:10Å)/Ni50Al50(膜厚:350Å)/Cr8020(膜厚:100Å)/(Co65Cr35)O0.1(膜厚:30Å)/Co62Cr20Pt126(膜厚:120Å)/Cr19Mn92(膜厚:30Å)/Co63.5Cr20Pt10Ta0.56(膜厚:120Å)/水素化カーボン(膜厚:45Å)/パーフルオロポリエーテル(膜厚:8Å)。
比較例3:Ni50Al50(膜厚:400Å)/Cr8020(膜厚:60Å)/Co65Cr35(膜厚:15Å)/Co63.5Cr20Pt10Ta0.56(膜厚:190Å)/水素化カーボン(膜厚:45Å)/パーフルオロポリエーテル(膜厚:8Å)。
【0038】その結果、図6に示すように実施例7,8と比較例1,2,3の磁気記録媒体の線記録密度に対する規格化メディアノイズの特性を比べてみると、比較的小さい(200kfci程度)線記録密度での規格化メディアノイズの値は、実施例7,8と比較例1,2,3との間の差は最大で0.5[Pn/Vo2*e-4]程度だが、高線記録密度(300kfci以上)での規格化メディアノイズの値は、実施例7,8と比較例1,2,3との間で、最大1.5[Pn/Vo2*e-4]程度となった。これは、本発明の磁気記録媒体が、特に高線記録密度(300kfci以上)において特に有効であることを示している。
【0039】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、高記録密度においてS/N比を大幅に改善した磁気記録媒体を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の断面構造を模式的に示す図。
【図2】プリコート層の下層の厚さとS/N比との関係を示す図。
【図3】プリコート層の上層の厚さとS/N比との関係を示す図。
【図4】プリコート層成膜時の雰囲気ガス中に占めるN2 ガス含有量とPW50値との関係を示す図。
【図5】プリコート層成膜時の雰囲気ガス中に占めるN2 ガス含有量とS/N比との関係を示す図。
【図6】線記録密度と規格化メディアノイズとの関係を示す図。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 プリコート層
21 NiP窒化膜
22 CrZr窒化膜
3 シード層
4 下地層
5 中間層
6 磁性層
7 保護層
8 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に少なくとも下地層と、磁性層とを順次形成された磁気記録媒体において、前記基板と下地層との間に、下地層及び磁性層の結晶粒の微細化と、粒子サイズの分散を抑えるプリコート層を介在させ、前記プリコート層が、前記基板側からNiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とが順次積層されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】 前記プリコート層の結晶構造は、アモルファス構造か、或いは、殆どアモルファス構造であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 前記プリコート層は、窒素が含まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 前記窒素は、1〜20at%含まれていることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 前記上層は、Crと、Zr、Wの何れかを含むCr合金であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】 前記プリコート層と下地層との間に、下地層及び磁性層の結晶粒径を制御するシード層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 前記下層の膜厚が、50〜2000Åであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】 前記上層の膜厚が、5〜300Åであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】 前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】 線記録密度が300kfci以上の条件下で使用することとを特徴とする請求項1乃至9の何れか一に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】 基板上に少なくとも下地層と、磁性層とをスパッタリングによって順次形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記基板と下地層との間に、NiとPとを含む下層と、Cr合金からなる上層とを有するプリコート層を、順次、スパッタリングによって形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】 前記プリコート層は、不活性ガスと窒素とを含有する混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることを特徴とする請求項11記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】 混合ガス中に含まれる窒素の含有量は、20〜80%とすることを特徴とする請求項12記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】 前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする請求項11乃至13の何れか一に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−56522(P2002−56522A)
【公開日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−245977(P2000−245977)
【出願日】平成12年8月14日(2000.8.14)
【出願人】(000113263)ホーヤ株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】