説明

磁気記録媒体

【課題】 非磁性支持体を薄型化した場合でもカッピング等の発生を防止するとともに優れた電磁変換特性を達成する。
【解決手段】 非磁性支持体は、少なくとも、他主面を構成する第1の芳香族ポリアミドフィルムと、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム上に形成された第2の芳香族ポリアミドフィルムとを有するとともに、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子が上記第2の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子と比較して大とされてなり、上記非磁性支持体は、上記第1の芳香族ポリアミドフィルムを除いた厚みが2.0μm以上であり、上記非磁性支持体の他主面にバックコート層が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非磁性支持体の一主面上に金属磁性膜が成膜されてなる磁気記録媒体に関し、特に大容量のテープストリーマーとして用いて好適な磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、ミニコンピュータ、パーソナルコンピュータなどのオフィスコンピュータの普及に伴って、外部記憶媒体としてコンピュータデータを記録するための磁気テープ(いわゆる、テープストリーマー)の研究が盛んに行われている。このような用途の磁気テープの実用化に際しては、特にコンピュータの小型化、情報処理能力の増大と相まって記録の大容量化、小型化を達成するために記録容量の向上が強く要求される。
【0003】一方、ビデオカセット用の磁気記録媒体としては、ビデオカセットの小型化に伴い、より一層のコンパクト化と長時間記録化が望まれている。
【0004】また、磁気テープの使用環境の広がりによる幅広い環境条件下(特に、変動の激しい温湿度条件下など)での使用、データ保存に対する信頼性、更に高速での繰り返し使用による多数回走行におけるデータの安定した記録、読み出し等の性能に対する信頼性なども従来にまして要求されている。
【0005】一般に、磁気テープは、合成樹脂などの可撓性材料の非磁性支持体上に磁性層が設けられた構成である。そして、上述したような大きい記録容量(体積記録容量)を達成するためには、磁性層を強磁性金属薄膜にすることにより磁性層自体の記録密度を高めると共に、磁気テープの全厚を薄くすることが有効な方法であるとされている。すなわち、磁気テープとしては、非磁性支持体上に、金属磁性薄膜を成膜してなる、いわゆる蒸着テープが有効である。
【0006】この蒸着テープにおいて、非磁性支持体としては、ポリエステル、主としてポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられている。特に、ホームビデオカセットテープ、例えば、8mmテープに用いられる非磁性支持体としては、7〜10μm程度のポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられ、コンピュータのデータバックアップ用のテープストリーマーには5〜7μm程度のポリエチレンフィルムが用いられている。
【0007】また、ビデオテープに使用される磁気記録媒体の記録時間を延長するための方法としては、例えば、特開平6−215350号公報に記載されるように、非磁性支持体としてポリエステルを主成分とし、更に具体的にはポリエチレンナフタレートを用いるのが望ましいとされている。一方、上述したようなポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートフィルムに比べ強度が高いポリアミドフィルムを用いる検討もなされている。このポリアミドフィルムを非磁性支持体として用いた磁気記録媒体は、非磁性支持体の強度が高いため、非磁性支持体の厚さを薄くすることが可能であり、ビデオカセットテープの長時間記録化、テープストリーマーの大容量化に対応した磁気記録媒体として注目されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、特に、テープストリーマーの分野では、容量が高密度化される傾向にあり、それに伴って益々磁気テープの更なる薄型化が望まれる。しかしながら、非磁性支持体の厚さを半分にした場合、磁気テープのスティフネスが全厚の3乗に比例することを考慮すると、同等のスティフネスを得るためには、非磁性支持体の材料のヤング率を8倍にしなければならない。したがって、非磁性支持体を単に薄くしただけでは、磁気テープの機械的強度が不十分となってしまう。
【0009】また、磁気テープでは、非磁性支持体の厚さを薄くすると、いわゆるカッピングが大きくなる傾向にある。このように、磁気テープにカッピングが生ずると、磁気ヘッドとの当たりが取れにくくなり、電磁変換特性の大幅な低下を引き起こしたり、磁気ヘッドと接触しやすい縁部は摩耗しやすく、ドロップアウトの原因となったり、出力低下やエラーレート劣化を起こしたすることがある。
【0010】このように、磁気テープでは、記録容量を向上させるのに伴って、機械的強度及びカッピングといった不都合が生じている。すなわち、従来の磁気テープには、薄型化して記録容量を向上させると、機械的強度が低下してしまったり、出力低下やエラーレート劣化を生じさせてしまったりするといった問題点かあった。
【0011】そこで、本発明は、このような技術的背景に基づいて創案されたものであり、非磁性支持体を薄型化した場合でもカッピング等の発生を防止することができ、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上述した目的を達成した本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体の一主面上に、少なくとも金属磁性膜が成膜されてなる磁気記録媒体において、上記非磁性支持体は、少なくとも、他主面を構成する第1の芳香族ポリアミドフィルムと、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム上に形成された第2の芳香族ポリアミドフィルムとを有するとともに、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子が上記第2の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子と比較して大とされてなり、上記非磁性支持体は、上記第1の芳香族ポリアミドフィルムを除いた厚みが2.0μm以上であり、上記非磁性支持体の他主面にバックコート層が形成されたことを特徴とする。
【0013】以上のように構成された本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体における金属磁性膜が形成された面と反対側の他主面の表面が、第1の芳香族ポリアミドフィルムに含有される不活性粒子の影響を受けることとなる。このため、この磁気記録媒体においては、この他主面が所望の表面粗度を示す。また、この磁気記録媒体では、第1の芳香族ポリアミドフィルムと金属磁性膜との間に、少なくとも第2の芳香族ポリアミドフィルムを有している。このため、金属磁性膜が形成される一主面の表面に対しては、第1の芳香族ポリアミドフィルムに含有される比較的大きな不活性粒子の影響が小となっている。したがって、この磁気記録媒体では、金属磁性膜の表面が所望の優れた表面性を有することとなる。
【0014】また、この磁気記録媒体では、他主面にバックコート層が形成されているため、非磁性支持体のカッピングを防止することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る磁気記録媒体の好適な実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】本実施の形態として示す磁気記録媒体は、図1に示すように、非磁性支持体1と、この非磁性支持体1の一主面1a上に成膜された金属磁性膜2と、非磁性支持体1の他主面1b上に形成されたバックコート層4とを備えるものである。また、この磁気記録媒体において、非磁性支持体1は、少なくとも、比較的大きな不活性粒子を有し、他主面1bを構成する第1の芳香族ポリアミドフィルム5と、比較的小さな不活性粒子を有し、第1の芳香族ポリアミドフィルム5上に形成された第2の芳香族ポリアミドフィルム6とから構成されている。さらに、この磁気記録媒体において、非磁性支持体1は、第1の芳香族ポリアミドフィルム5を除いた厚みが2.0μm以上とされなる。
【0017】以下、非磁性支持体1、金属磁性膜2及びバックコート層4、並びに、これら各層に用いられる結合剤及び添加剤について順に詳述する。
【0018】非磁性支持体1先ず、非磁性支持体1は、上述したように、第1の芳香族ポリアミドフィルム5及び第2の芳香族ポリアミドフィルム6から構成されている。この非磁性支持体1は、芳香族ポリアミドフィルムを用いることにより、引っ張り強度などの物性において優れており、全体としての厚みが非常に薄い場合でも充分耐え得る強度を有している。
【0019】第1の芳香族ポリアミドフィルム5及び第2の芳香族ポリアミドフィルム6は、例えば、下記式(I)及び/又は(II)で表される芳香族ポリアミドを、50%モル以上、好ましくは70モル%以上含有している。
【0020】
【化1】


【0021】なお、上記式において、X、Yは、−O−,−CH2−,−CO−,−SO2−,−S−,−C(CH32−等から選ばれるが、これに限定されるものではない。さらに、上記式において、芳香環上の水素原子の一部が、ハロゲン基(特に、塩素)、ニトロ基、炭素数1から3のアルキル基(特に、メチル基)、炭素数1から3のアルコキシ基などの置換基で置換されているものであってもよく、また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていても良い。
【0022】また、第1の芳香族ポリアミドフィルム5及び第2のポリアミドフィルム6は、剛性を高くする観点から、芳香環がパラ位で結合されたものが、全芳香環の60%以上、より好ましくは80%以上を占める重合体であることが好ましい。また、吸湿性を小さくする観点から芳香環上の水素原子の一部がハロゲン基(特に、塩素原子)、ニトロ基、炭素数1から3のアルキル基(特に、メチル基)、炭素数1から3のアルコキシ基などで置換された芳香環が全体の30%以上を占める重合体であることが好ましい。
【0023】さらに、芳香族ポリアミドとしては、上記式(I)及び/又は上記式(II)で表される繰り返し単位を50モル%以上含むものであって、50モル%未満は他の繰り返し単位、例えば、芳香族ポリイミド単位や他の芳香族ポリアミド単位などが共重合、またはブレンドしてなる重合体を使用することができるが、全芳香族ポリアミド(アラミド)を用いることが好ましい。
【0024】さらにまた、この非磁性支持体1においては、芳香族ポリアミドフィルムの構成は少なくとも2層以上からなる複合構造であり、各層が上記式で表される重合体を主体とするものであれば、各層が同一組成であっても、異なっていても差し支えない。しかしながら、生産性の観点から、各層が同一組成である方が有利である。
【0025】さらにまた、第1の芳香族ポリアミドフィルム5及び第2の芳香族ポリアミドフィルム6を形成するには、第1の芳香族ポリアミドフィルム5に相当する原液と、第2の芳香族ポリアミドフィルム6に相当する原液の2種類を公知の方法、例えば、特開昭56−162617号公報に記載されるように、合流管で積層したり、口金内で積層して形成することができる。
【0026】一方、この非磁性支持体1中に添加する不活性粒子としては、SiO2、TiO2、Al23、CaSO4、BaSO4、CaCO3、カ−ボンブラック、ゼオライト、その他の金属微粉末などの無機粒子や、シリコン粒子、ポリイミド粒子、架橋共重合体粒子、架橋ポリエステル粒子、テフロン粒子などの有機高分子などを使用することができる。なかでも、耐熱性の観点からは、上述した無機粒子を使用することが好ましい。
【0027】この不活性粒子の添加方法としては、粒子を予め溶媒中に十分スラリ−化した後、重合用溶媒または希釈用溶媒として使用する方法や、各層を形成する原液を調製した後に直接添加する方法などがある。
【0028】また、この磁気記録媒体において、第1の芳香族ポリアミドフィルム5中に含有される不活性粒子は、その平均一次粒径が第2の芳香族ポリアミドフィルム6に含有される不活性粒子と比較して大となっている。
【0029】具体的に、第1の芳香族ポリアミドフィルム5に含有される不活性粒子の平均粒径は、0.03〜1.5μmであることが好ましい。第1の芳香族ポリアミドフィルム5に含有される不活性粒子の添加量は、0.05〜2.0wt%であることが好ましく、更には、0.1μm〜1.0μmであることがより好ましい。
【0030】このように、第1の芳香族ポリアミドフィルム5に含有される不活性粒子の平均粒径及び含有量を規定することによって、バックコート層4が形成される面の表面を所望の表面粗さとすることができる。これにより、磁気記録媒体は、ハンドリング特性に優れたものとなる。また、この非磁性支持体1を使用した磁気記録媒体では、走行性に優れたものとなり、長期に亘って良好に走行することができる。
【0031】また、第2の芳香族ポリアミドフィルム6に含有される不活性粒子は、金属磁性膜2表面の平滑性と易滑性を向上させるため、平均粒径が、0.03〜0.15μm、添加量が、0.01wt%〜1wt%であることが好ましい。
【0032】第2の芳香族ポリアミドフィルムに含有される不活性粒子の平均粒径が0.03未満の場合には、易滑性を向上するための十分な突起が形成されないといった不都合が生じる虞がある。また、この不活性粒子の平均粒径が0.15μmより大である場合には、金属磁性膜の平滑性を劣化させる虞がある。さらに、第2の芳香族ポリアミドフィルムにおける不活性粒子の添加量が0.01wt%未満の場合には、易滑性を向上するための十分な突起数を確保することができないといった不都合が生じる虞があり、また、1wt%より大の場合には、突起数が過剰となり金属磁性膜の表面性に悪影響を及ぼすといった不都合を生じる虞がある。
【0033】更に一方、この非磁性支持体1においては、第1の芳香族ポリアミドフィルム5を除いた全厚が2.0μm以上とされている。また、好ましくは、2.5μm以上とされている。ここで、本実施の形態では、非磁性支持体1が第1の芳香族ポリアミドフィルム5及び第2の芳香族ポリアミドフィルム6からなるため、第1の芳香族ポリアミドフィルムを除く全厚とは、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みと同義である。
【0034】なお、本発明において、非磁性支持体1は、このような構成に限定されず、3層以上の芳香族ポリアミドフィルムからなるような構成であってもよい。この場合、第1の芳香族ポリアミドフィルムを除く全厚とは、バックコート層4が形成される面を構成する芳香族ポリアミドフィルムを除いた非磁性支持体1の厚みのことを示している。
【0035】このように、第1の芳香族ポリアミドフィルム5を除いた全厚が2.0μm以上と規定することによって、第1の芳香族ポリアミドフィルム5に含有される比較的大きな不活性粒子が第2の芳香族ポリアミドフィルム6の表面に対して与える影響を極力小とすることができる。言い換えると、第1の芳香族ポリアミドフィルム5を除いた全厚が2.0μm以上と規定すると、第2の芳香族ポリアミドフィルム6における表面性(うねり等)の劣化、第2の芳香族ポリアミドフィルム6中のボイドの形成、或いは第2の芳香族ポリアミドフィルム6表面における粗大突起の形成を防止することができる。したがって、この第2の芳香族ポリアミドフィルム6上方に形成される金属磁性膜2は、所望の表面性を有し、電磁変換特性に優れたものとなり、ドロップアウトの発生が減少して信頼性に優れたものとなる。
【0036】また、この非磁性支持体1では、金属磁性膜2を成膜する一主面表面における、0.12μm以上の粗大突起が250個/100cm2以下であることが好ましく、更には、200個/cm2以下であることがより好ましい。なお、この粗大突起は、非磁性支持体1の一主面を3D−MIRAU法により測定することができる。
【0037】このように、金属磁性膜2を成膜する一主面表面における、0.12μm以上の粗大突起が250個/100cm2以下とすることによって、金属磁性膜2表面には、この粗大突起に起因した表面性の劣化等が発生し難くなる。このため、この磁気記録媒体では、ドロップアウトの原因となる突起等を減少させることができる。
【0038】さらに、この非磁性支持体1では、金属磁性膜2を成膜する一主面表面の表面粗さ(SRa)が1.5nm〜5.0nmであることが好ましく、更には、2.0〜3.5nmであることがより好ましい。この表面粗さ(SRa)は、第2の芳香族ポリアミドフィルム6中に添加される不活性粒子の大きさや添加量、或いは非磁性支持体1の層構成によって調節される。このように、金属磁性膜2を成膜する一主面表面の表面粗さ(SRa)を1.5nm〜5.0nmとすることによって、磁気記録媒体の良好な電磁変換特性と走行耐久性を確保することができる。
【0039】さらにまた、この非磁性支持体1では、金属磁性膜2を成膜する一主面表面の表面うねりが2.5nm以下であることが好ましく、更には2.0nm以下であることがより好ましい。この表面うねりは、表面粗さ(SRa)を測定した際に得られたデータをFFT(Fast Fourier transfer)解析することにより測定することができる。すなわち、(SRa)測定時に得られたデータをFFT解析し、波長20μm以下の振幅値を求めることによって、非磁性支持体1の一主面の表面うねりを測定する。このように、金属磁性膜2を成膜する一主面表面の表面うねりを2.5nm以下とすることによって、磁気記録媒体の良好な電磁変換特性と走行耐久性を確保することができる。
【0040】さらに、この非磁性支持体1において、バックコート層4形成面側の表面の表面粗さ(SRa)は、第1の芳香族ポリアミドフィルム5中に添加される不活性粒子の大きさ及び添加量によって調節され、生産工程におけるハンドリング性の観点から、できるだけ大きい方が望ましい。しかしながら、この表面粗さ(SRa)が大きすぎると、金属磁性層2を成膜した後、巻き取ってロール状にした際の裏移りの影響が大きくなるため、4nm〜15nm、好ましくは5nm〜10nmとされる。
【0041】さらにまた、この非磁性支持体1は、厚さ2.5μm〜5.0μmとすることにより、必要な強度が得られるとともに、磁気記録媒体の厚みを薄くして大容量化に対応させることができる。
【0042】さらにまた、この非磁性支持体1は、金属磁性膜2が成膜される一主面側の表面に103〜105個/mm2の密度で突起が形成されていることが好ましい。
【0043】このように、一主面側の表面に103〜105個/mm2の密度で突起が形成されることによって、金属磁性膜の表面性を所望な状態とすることができる。言い換えると、一主面側の表面に103〜105個/mm2の密度で突起が形成されることによって、金属磁性膜2の表面は、所望の表面粗さを有することになる。これにより、磁気記録媒体は、走行耐久性及び電磁変換特性に優れたものとなる。
【0044】金属磁性膜2次に、金属磁性膜2は、上述した非磁性支持体1における第2の芳香族ポリアミドフィルム上に成膜されるものである。
【0045】このとき、金属磁性膜2は、例えば、図2に示すような連続巻き取り式の真空蒸着装置等を用いて形成される。
【0046】この真空蒸着装置11は、いわゆる斜方蒸着用として構成され、内部が例えば約10-3(Pa)程度の真空状態とされた真空室12内に、例えば−20℃程度に冷却され、図中の反時計回り方向(矢印A方向)に回転する冷却キャン13と対向するように金属磁性膜2用の蒸着源14とが配置されている。
【0047】蒸着源14は坩堝等の容器にCo等の強磁性金属材料が収容されたものであり、この蒸着源14(強磁性金属材料)に対し、電子ビーム発生源15から電子ビーム16を加速照射して強磁性金属材料を加熱、蒸発させ、これを図中の反時計回り方向に回転する供給ロール18から図中の矢印B方向に繰り出され、冷却キャン13の周面に沿って走行する非磁性支持体1上に付着(蒸着)させることによって金属磁性膜2を形成する。そして、金属磁性膜2が形成された非磁性支持体1は、巻取りロール19に巻き取られる。
【0048】このとき、蒸着源14と冷却キャン13との間には防着板20を設け、この防着板20にシャッタ21を位置調整可能に設けて、非磁性支持体1に対して所定の角度で入射する蒸着粒子のみを通過させる。こうして斜め蒸着法によって金属磁性膜2が形成されるようになされている。
【0049】なお、供給ロール18と冷却キャン13との間、及び冷却キャン13と巻取りロール19との間にはそれぞれガイドローラー22、23が配置され、供給ロール18から冷却キャン13、及びこの冷却キャン13から巻取りロール19に従って走行する非磁性支持体1に所定のテンションをかけ、非磁性支持体1が円滑に走行するようになされている。
【0050】さらに、このような金属磁性膜2の蒸着に際し、図示しない酸素ガス導入口を介して非磁性支持体1の表面に酸素ガスが供給され、これによって金属磁性膜2の磁気特性、耐久性及び耐候性の向上が図られている。また、蒸着源14を加熱するためには、上述のような電子ビームによる加熱手段の他、例えば、抵抗加熱手段、高周波加熱手段、レーザ加熱手段等の公知の手段を使用できる。
【0051】以上は、斜め蒸着法によりCo等からなる強磁性金属材料を用いて成膜する例について説明したが、強磁性金属材料を用いて成膜する方法としては、この例の他に垂直蒸着法やスパッタリング法等の公知の薄膜形成法が適用でき、また、強磁性金属材料としては、Coの他にNi、Fe等やこれらの合金を使用することができる。ただし、非磁性支持体1との付着強度改善、あるいは金属磁性膜自体の耐性、耐摩耗性改善等の目的から、蒸着時の雰囲気を酸素ガスが支配的となる雰囲気としたとき得られる酸素を含む金属磁性膜2を使用することが望ましい。また、金属磁性膜2の厚さは、0.01〜0.2μm程度、好ましくは、0.1〜0.2μm程度である。
【0052】また、この磁気記録媒体は、金属磁性膜2の摩耗を防止するため、金属磁性膜2上に、図3に示すようなマグネトロンスパッタ装置30等を用いて、カーボン保護膜を形成することが望ましい。
【0053】このマグネトロンスパッタ装置30は、外側がチャンバ31にて覆われている。そして、チャンバ31内は、真空ポンプ32にて約10-4(Pa)まで減圧された後、真空ポンプ32側へ廃棄するバルブ33の角度を全開状態から10度まで絞ることにより排気速度を落とし、ガス導入管34からArガスを導入して、真空度が約0.8Paとされる。
【0054】マグネトロンスパッタ装置30は、このチャンバ31内に、例えば−40℃程度に冷却され、図中の反時計回り方向(矢印A方向)に回転する冷却キャン35と、この冷却キャン35と対向配置されるターゲット36とがそれぞれ設けられている。
【0055】ターゲット36は、カーボン保護膜の材料となるものであり、カソード電極を構成するバッキングプレート37に支持されている。そして、バッキングプレート37の裏側には、磁場を形成するマグネット38が配設されている。このマグネトロンスパッタ装置30によりカーボン保護膜を形成する際は、ガス導入管34からArガスを導入するとともに、冷却キャン35をアノード、バッキングプレート37をカソードとして約3000(V)の電圧を印加し、1.4Aの電流が流れる状態を保つようにする。
【0056】この電圧の印加により、Arガスがプラズマ化し、電離されたイオンがターゲット36に衝突することにより、ターゲット36の原子がはじき出される。このとき、バッキングプレート37の裏側にはマグネット38が配設されており、ターゲット36の近傍に磁場が形成されるので、電離されたイオンはターゲット36の近傍に集中されることになる。
【0057】ターゲット36からはじき出された原子は、図中の反時計回り方向に回転する供給ロール39から図中の矢印B方向に繰り出され、冷却キャン35の周面に沿って走行する金属磁性膜2が成膜された非磁性支持体1上に付着し、カーボン保護膜が形成される。そして、カーボン保護膜が形成された非磁性支持体1は、巻取りロール41に巻き取られる。
【0058】このカーボン保護膜は、スペーシングロスを小さくし、かつ、金属磁性膜2の摩耗防止の効果を得ることができるように、その厚さを3〜15nm程度、特に5〜10nm程度とすることが好ましい。
【0059】以上は、マグネトロンスパッタによりカーボン保護膜を形成する例について説明したが、カーボン保護膜を形成する方法としては、この例の他に、イオンビームスパッタやイオンビームプレーティング法、CVD法等の公知の薄膜形成方法を用いることができる。
【0060】また、この磁気記録媒体は、カーボン保護膜の表面に滑剤を存在せしめることが望ましい。これにより、磁気記録媒体は、微細突起の形状に基づく走行性改善効果をさらに高めることが可能である。
【0061】さらに、この磁気記録媒体は、その表面、裏面、またはそれらの近傍あるいはカーボン保護膜、金属磁性膜2内の空隙、カーボン保護膜と金属磁性膜2との界面、金属磁性膜2と非磁性支持体1との界面、非磁性支持体1内等に、必要に応じて公知の手段で防錆剤、帯電防止剤、防かび剤等の各種添加剤を存在せしめることができる。
【0062】バックコート層4この磁気記録媒体では、非磁性支持体1における金属磁性膜2が形成される面とは反対側の面にバックコート層4が形成されている。このバックコート層4は、電子線硬化型樹脂を含有する電子線硬化膜からなる、或いは、有機プラズマ重合型樹脂を含有する有機プラズマ重合膜からなることが好ましい。
【0063】まず、バックコート層4が電子線硬化膜からなる場合を説明する。
【0064】電子線硬化膜とは、電子線により重合可能な化合物を含む層を電子線照射することによって得られた層である。ここで、電子線による重合が可能な化合物とは、一般に、「電子線硬化型樹脂」と呼ばれるものを指し、電子線を照射することにより重合が可能なπ結合を有する化合物のことを指す。例示するならば、電子線硬化型樹脂としては、ビニル及びビニリデン等の炭素−炭素二重結合を複数個有する化合物が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基等を含む化合物及び不飽和ポリエステル等の化合物を挙げることができる。
【0065】特に好ましくは、電子線硬化型樹脂としては、アクリロイル基、メタクロイル基を直鎖の両末端に有し、骨格がポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエーテル、ポリカーボネートである化合物が挙げられる。また、電子線硬化型樹脂の分子量は約500〜20000が好ましい。
【0066】さらに、電子線硬化型樹脂には、不飽和の炭素−炭素結合を分子内に有するモノマーを添加することができる。このモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸メチル及びその同族体であるアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル及びその同族体であるメタクリル酸アルキルエステル、スチレン及びその同族体であるα―メチルスチレン、β―クロルスチレンなど、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが挙げられる。このモノマーでは、分子内に不飽和結合が2個以上あってもよい。特に、ポリオールの不飽和エステル類、例えばエチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセロールトリメタクリレート、エチレンジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレートなど及びエポキシ環を有するグリシジルメタクリレートなどを使用することがが好ましい。
【0067】さらにまた、電子線硬化型樹脂としては、分子内に単数の不飽和結合を有する化合物と2個以上の不飽和結合を有する化合物とを混合して用いてもよい。モノマーではを添加する場合、ポリマーとの比は、ポリマー/モノマー=2/8以上であるのが好ましい。この範囲を外れると、紫外線硬化型樹脂の硬化に多大なエネルギーが必要となる。
【0068】そして、このような電子線硬化型樹脂に対しては、電子線加速器等を用いて電子線を照射する。電子線加速器としては、バンデグラーフ型のスキャニング方式、ダブルスキャニング方式あるいはカーテンビーム方式のものが使用できるが、好ましいのは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が100〜1000(kV)、好ましくは150〜300(kV)であり、吸収線量としては0.5〜20メガラッド、好ましくは2〜10メガラッドである。加速電圧が100kVより小さい場合は、エネルギーの透過量が不足し十分な硬化反応が進行せず、1000kVを超えると重合に使われるエネルギー効率が低下し経済的ではない。また、吸収線量として、0.5メガラッド未満では硬化反応が不十分で、所望の塗膜強度が得られず、20メガラッドを超えると硬化に使用されるエネルギー効率が低下したり、被照射体が発熱し、特に非磁性支持体1が変形する虞があり好ましくない。
【0069】さらに、このバックコート層4には、通常の結合剤を単独あるいは混合して加えてもよい。ここで結合剤としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0070】さらにまた、バックコート層4には、無機顔料粉末を必要に応じて添加することができる。無機顔料粉末としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、カオリン、酸化クロム、硫化カドミウム、ゲータイト、シリカアエロジル、無水アルミナ微粉末、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン等が用いられる。同様に、バックコート層内には必要に応じて帯電防止剤、潤滑剤等を含有させることも可能である。
【0071】さらににまた、バックコート層4の厚さとしては、0.1〜0.6μmであるのが好ましい。バックコート層4の厚みが0.1μm未満では、カッピングを小さくすることができず、カッピングを防止する効果が得られない虞がある。また、バックコート層の厚みが1.0μmを超えると、逆向きのカッピングが大きくなる虞があり、また、磁気記録媒体の厚み自体が厚くなり、磁気記録媒体の薄型化が困難となる虞がある。
【0072】次に、バックコート層4が有機プラズマ重合膜からなる場合を説明する。
【0073】有機プラズマ重合体膜は、非常に薄く且つ均一に付着することができ、三次元に発達した緻密な膜であり、非磁性支持体に密着した強固な組織であるという特徴を有する。これにより、有機プラズマ重合体膜をバックコート層4として使用することによって、カッピングの発生を抑制することができる。
【0074】この有機プラズマ重合体膜は、いわゆるプラズマ重合法により形成される。プラズマ重合法とは、Ar、He、H2、N2等のキャリアガスの放電プラズマとモノマーガスとを混合し、被処理基体表面にこれら混合ガスを接触させることにより形成するものである。
【0075】以下にプラズマ重合法の原理を説明する。
【0076】先ず、キャリアガスを低圧に保ちながら電場を作用させると、常圧に比べ分子間距離が非常に大きいため、キャリアガス中に少量存在する自由電子が電界加速を受け、5〜10eV程度の速度エネルギー(電子温度)を獲得する。そして、この速度エネルギを獲得した自由電子が混合ガス中の原子や分子に衝突すると、原子や分子は、原子軌道や分子軌道が分断されて電子、イオン、中性ラジカル等の不安定な化学種に解離する。また、解離した電子は、再び電界加速を受けて別の原子や分子を解離させるといった連鎖反応を生じさせる。この連鎖作用によれば、混合ガスは、高度の電離状態となり、これはプラズマガスと呼ばれる状態となる。しかしながら、気体分子と電子との衝突頻度が少ない場合には、気体分子がエネルギーをあまり吸収せず、常温に近い温度に保たれている。このように電子の速度エネルギー(電子温度)と分子の熱運動(ガス温度)が分離した系は低温プラズマと呼ばれ、この低温プラズマの状態では、化学種が比較的原形を保ったまま重合等の加成的化学反応を進めることができる。そして、上述した混合ガスを低温プラズマの状態とすることにより、非磁性支持体1の他主面上に有機プラズマ重合体膜を形成することができる。このように、低温プラズマを利用する場合には、非磁性支持体1の他主面に対する熱影響は殆どないといった利点がある。
【0077】ここで、モノマーガスとしては、プラズマ重合性を有する、炭素−水素系、炭素−水素−酸素系、炭素−ハロゲン系、炭素−酸素−ハロゲン系、炭素−水素−ハロゲン系、有機金属等を含めて有機化合物一般がいずれも使用できるが、特にエチレン、アセチレン、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、ブタジエン、ベンゼン等の不飽和結合を有する有機化合物が好ましい。この他、シロキサン結合を有する各種シラン等の有機珪素化合物や、硫黄あるいは窒素を含有する各種有機化合物を使用しても良い。
【0078】また、プラズマ発生源としては、高周波放電の他に、マイクロ波放電、直流放電、交流放電等いずれも使用できる。またプラズマ重合時の真空度は1〜1000Pa程度であるのが好ましい。
【0079】さらに、有機プラズマ重合体膜の厚さは、0.1〜1.0μmであるのが好ましい。有機プラズマ重合体膜の厚みが0.1μm未満ではカッピングを小さくすることができない虞がある。有機プラズマ重合体膜の厚みが1.0μmを超えると、逆向きのカッピングが大きくなる虞があり、磁気記録媒体の厚み自体が厚くなり、磁気記録媒体の薄型化が困難となる虞がある。
【0080】
【実施例】以下、上述した磁気記録媒体の具体的な実施例及び比較例を記載し、本発明を更に具体的に説明する。なお、本実施例における種々の物性値及び特性は以下に示す方法により測定したものである。
【0081】<フィルム厚の測定>フィルム厚の測定はミクロトーム法により、フィルム断面の切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率5千倍で10箇所撮影し、10箇所の平均値をもって層厚とした。
【0082】<表面粗度の測定>SRaとは下記式にて定義されるもので、
【0083】
【数1】


【0084】バックコート層を形成する面の表面粗さ(SRa)を測定する際には、小坂研究所製の表面粗さ測定器「ET−30HK」を用い、触針径2μmR、触針圧10mg、カットオフ値0.25mm、X方向測定長は、0.8mm、Y方向は0.12μmの条件で測定して求めた。
【0085】また、金属磁性膜を形成する面の表面粗さ(SRa)を測定する際には、小坂研究所製の表面粗さ測定器「ET−30HK」を用いた非接触方式による測定を行い、カットオフ値0.08μm、X方向測定長は、0.1mm、Y方向は0.02μmの条件で測定して求めた。なお、この非接触方式による測定とは、一般的に高度に平坦化された面の表面粗さを測定する際に用いられ、臨界角焦点エラー検出方式を利用した光学式意匠変位センサーによる測定のことである。
【0086】<表面突起個数>ポリアミドフィルム中に不活性粒子を添加することにより形成される突起の個数は、高走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率5千倍以上にてカウントし、1mm2当たりの個数に換算した。
【0087】<テープ特性>実施例及び比較例における磁気記録媒体の特性評価は、ソニー株式会社製のAITドライブSDX−S300C(商品名)を改造したものを用いて行った。記録は、相対速度10.04m/sec、最短記録波長0.35μmで行った。
【0088】ドロップアウトの測定ドロップアウトの測定は、出力減衰が6dB、継続時間が1μsec以上のドロップアウトを1分間ドロップアウトカウンターで測定した。
【0089】走行耐久性走行耐久性としては、170m長を100パス走行させ、1パス走行後のエラーレート、100パス走行後のエラーレートを評価した。
【0090】<ヘッドとの当たり特性>ヘッドとの当たり特性としては、磁気テープ170mを10000パス走行させ、テープ再生時の出力信号(当たり波形)を1トラック分で見た場合の出力信号の最小値/最大値(%)を1パス走行後および10000パス走行後それぞれ測定した。
【0091】<カッピングの測定>カッピングの測定は、図4に示すような光学顕微鏡50を有するカッピング測定装置を用いて行った。このカッピング測定装置では、先ず、所定のテンションが負荷された磁気テープ51を一対のロール52に掛け渡す。次に、光学顕微鏡50(倍率100倍)を駆動手段53にて、磁気テープ51の幅方向の中心部又は両端部に位置決めする。そして、このカッピング測定装置では、光学顕微鏡50が上下方向に駆動することによって、磁気テープ51の幅方向の中心部或いは両端部において、それぞれ焦点を合わせる。このとき、カッピング測定装置では、光学顕微鏡50の上下駆動に連動するマイクロメータ54にて、磁気テープ51の幅方向の中心部と両端部との高さ違いを測定する。
【0092】このとき、金属磁性膜を凸とする状態を負のカッピングとし、逆に、金属磁性膜を凹とする状態を正のカッピングとする。
【0093】実施例1先ず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で平均粒径0.1μmの乾式シリカ粒子を分散させたスラリーを用意した。
【0094】次に、重合槽にNMPと上記スラリーを仕込み、この中に芳香族ジアミン成分として80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエ−テルとを溶解させ、これに100モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間攪拌して重合を完了した。これを水酸化リチウムで中和して、金属磁性膜が成膜される側の層、すなわち第2の芳香族ポリアミドフィルム用のポリマー溶液(A液を呼ぶ。)を得た。なお、粒子の含有量は芳香族ポリアミドに対して0.1wt%であった。
【0095】また、同様の方法で平均粒径1.5μmのシリカ粒子を芳香族ポリアミドに対して0.05wt%含有するバックコート形成面側の層、すなわち第1のポリアミドフィルム用のポリマ−溶液(B液と呼ぶ。)を調整した。
【0096】A液及びB液も、ポリマー濃度10重量%、30℃での溶液粘度を3000ポイズに調整して製膜原液とした。
【0097】そして、これらA液及びB液の製膜原液を5μmカットのフィルタ−を通した後、2層に積層して金属ベルト上に流延してフィルムを作製した。押し出し量を同量にして最終フィルムの厚みが4μmになるようにした。この流延されたフィルムを180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得たフィルムをベルトから連続的に剥離した。
【0098】次に、NMPの濃度勾配をつけた水槽内へフィルムを導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行ない、テンターで水分の乾燥と熱処理を行なった。この間にフィルム長手方向と幅方向に各々1.1倍、1.5倍延伸を行ない、280℃で1.5分間乾燥と熱処理を行なった後、20℃/秒の速度で徐冷し、非磁性支持体を得た。
【0099】次に、このようにして作製された非磁性支持体を用いて、下記のような手法にて、磁気テープ原反を作製した。
【0100】すなわち、図2に示したような連続巻き取り式の蒸着装置を、その内部が10-3(Pa)程度の真空状態となるように排気し、高分子被膜が形成された非磁性支持体を、この蒸着装置にセッティングした。そして、連続真空斜め蒸着法により、微量の酸素存在下において、この非磁性支持体における第2の芳香族ポリアミドフィルム表面にCoからなる金属磁性膜を形成した。蒸着の入射角は、非磁性支持体の法線方向が90〜45度までであり、非磁性支持体の走行速度が50m/分で、金属磁性膜の厚さが0.18μmとなるように、電子ビームの強さを調節して作製した。
【0101】次に、図3に示したようなマグネトロンスパッタリング装置を、その内部が10-4(Pa)程度になるまでまで減圧した後、Arガスを導入し、0.8Pa程度にした。そして、このマグネトロンスパッタリング装置に金属磁性膜が形成された非磁性支持体をセッティングし、−40℃に冷却した冷却キャン上を5m/分の速度で走行させて金属磁性膜上にカーボン保護膜を形成した。
【0102】次に、下記の組成に準じてバックコート塗料を調製した。
【0103】
<バック塗料組成>カーボンブラック :100重量部ポリウレタン樹脂 : 50重量部エステルアクリレートオリゴマー : 20重量部ジエチレングリコールジアクリレート : 20重量部ブトシキエチルアクリレート : 20重量部メチルエチルケトン80%、トルエン20% :300重量部そして、このバックコート塗料を、非磁性支持体の強磁性金属薄膜が形成された面とは反対側の面に塗布し、吸収線量が5メガラドになるように電子線を照射し、厚さ0.4μmのバックコート層を形成した。
【0104】次に、カーボン保護膜上に、潤滑剤としてパーフルオロポリエーテルを塗布した。このようにして得られたテープ原反を、8mm幅にスリットした後にカセット本体に収納してカセットテープを作製した。
【0105】実施例2及び実施例3実施例2及び実施例3では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0106】その結果、実施例2では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.2μmとなっており、実施例3では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.0μmとなっている。
【0107】実施例4実施例4では、B液に添加されるシリカ粒子として平均粒径0.5μmのものを用い、0.1wt%となるように調整した以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0108】実施例5及び実施例6実施例5及び実施例6では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、実施例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0109】その結果、実施例5では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.5μmとなっており、実施例3では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.1μmとなっている。
【0110】実施例7実施例7では、非磁性支持体の強磁性金属薄膜が形成された面とは反対側の面に以下の条件で厚さ0.3μmのプラズマ重合膜を形成した以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0111】
モノマーガス: エチレンモノマーガス流量: 30ml/分キャリアーガス: アルゴンキャリアーガス流量: 70ml/分真空度: 70Pa高周波電源: 13.56MHz、300W
【0112】実施例8及び実施例9実施例8及び実施例9では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、実施例7と同様にして磁気テープを作製した。
【0113】その結果、実施例8では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.2μmとなっており、実施例9では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.0μmとなっている。
【0114】実施例10実施例10では、B液に添加されるシリカ粒子として平均粒径0.5μmのものを用い、0.1wt%となるように調整した以外は実施例7と同様にして磁気テープを作製した。
【0115】実施例11及び実施例12実施例11及び実施例12では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、実施例10と同様にして磁気テープを作製した。
【0116】その結果、実施例11では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.5μmとなっており、実施例12では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.1μmとなっている。
【0117】比較例1比較例1では、非磁性支持体の強磁性金属薄膜が形成された面とは反対側の面に、下記の組成に準じて調製されたバックコート塗料を塗布して乾燥後の厚みが0.4μmとなるようにバックコート層を形成した以外は実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0118】
カーボンブラック(旭社製,#50) 100重量部ポリエステルポリウレタン 100重量部(ニッポラン社製 商品名N−2304)
溶剤:メチルエチルケトン 500重量部トルエン 500重量部
【0119】比較例2及び比較例3比較例2及び比較例3では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、比較例11と同様にして磁気テープを作製した。
【0120】その結果、比較例2では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.2μmとなっており、比較例3では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.0μmとなっている。
【0121】比較例4比較例4では、B液に添加されるシリカ粒子として平均粒径0.5μmのものを用い、0.1wt%となるように調整した以外は比較例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0122】比較例5及び比較例6比較例5及び比較例6では、A液の押し出し量とB液の押し出し量と調節して、全厚が4μmとなるように非磁性支持体を作製した以外は、比較例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0123】その結果、比較例5では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが2.5μmとなっており、比較例6では、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚みが3.1μmとなっている。
【0124】特性評価以上のように作製された実施例1乃至実施例12に関して、金属磁性膜を成膜する面の表面粗さ(SRa)、波長20μm以下のうねりの最大振幅値及び0.12μm以上の粗大突起の密度を測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0125】
【表1】


【0126】この表1に示した結果から、実施例1乃至実施例12では、優れた表面性を有していることが解った。このことから、非磁性支持体の他主面にバックコート層として電子線硬化膜或いは有機プラズマ重合体膜を形成しても、金属磁性膜を成膜する面の表面粗さ(SRa)に影響を及ぼさないことがわかる。
【0127】また、これら実施例1乃至実施例12と比較例1乃至比較例6に関して、上述したような特性を評価した結果を表2に示す。
【0128】
【表2】


【0129】この表2に示した結果から、実施例1乃至実施例12、比較例1乃至比較例6ともに、第1の香族族ポリアミドフィルム中の不活性粒子が第2の芳香族ポリアミドフィルム中の不活性粒子と比較して大であって、第2の芳香族ポリアミドフィルムの厚さが2.0μm以上である場合には、十分な走行耐久性を有するとともに優れた信頼性を有していることがわかる。
【0130】また、バックコート層として、実施例1乃至実施例6のように電子線硬化型膜或いは実施例7乃至実施例12のように有機プラズマ重合体膜を有する場合には、比較例1乃至比較例6と比較して、多数回走行後のエラーレート及びヘッドとの当たり特性が大幅に優れていることがわかる。このことから、実施例1乃至実施例12では、4.0μmといった薄型化された非磁性支持体を用いた場合でもカッピングが発生していないことがわかる。実施例1乃至実施例12では、カッピングが発生しないことから、磁気ヘッドとの当たりが良好なものとなるために電磁変換特性に優れたものとなる。また、実施例1乃至実施例12では、カッピングが発生しないことから、磁気テープ幅方向の両端部における偏摩耗が防止されるため、ドロップアウト発生の防止、出力低下やエラーレート劣化の防止を達成することができる。
【0131】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明に係る磁気記録媒体では、非磁性支持体における金属磁性膜が成膜される面とは反対側の面に所定のバックコート層を形成することによって、カッピングを防止することができる。このため、この磁気記録媒体では、走行耐久性及び電磁変換特性に優れ、且つ、ハンドリング特性にも優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の要部断面図である。
【図2】金属磁性膜を成膜する際に用いられる連続巻き取り式の真空蒸着装置の概略構成図である。
【図3】カーボン保護膜を形成する際に用いられるマグネトロンスパッタ装置の概略構成図である。
【図4】カッピング測定装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1 非磁性支持体、2 金属磁性膜、4 バックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性支持体の一主面上に、少なくとも金属磁性膜が成膜されてなる磁気記録媒体において、上記非磁性支持体は、少なくとも、他主面を構成する第1の芳香族ポリアミドフィルムと、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム上に形成された第2の芳香族ポリアミドフィルムとを有するとともに、上記第1の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子が上記第2の芳香族ポリアミドフィルム中に含有される不活性粒子と比較して大とされてなり、上記非磁性支持体は、上記第1の芳香族ポリアミドフィルムを除いた厚みが2.0μm以上であり、上記非磁性支持体の他主面にバックコート層が形成されたことを特徴とする磁気記媒体。
【請求項2】 上記バックコート層は、電子線硬化型樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 上記バックコート層は、有機プラズマ重合型樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 上記非磁性支持体は、上記金属磁性膜が成膜される一主面の0.12μm以上の突起の密度が250個/100cm2以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 上記非磁性支持体は、上記金属磁性膜が成膜される一主面の表面粗さ(SRa)が1.5〜5.0nmであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項6】 上記非磁性支持体は、上記金属磁性膜が成膜される一主面の表面うねりが、波長20μm以下のうねりの最大振幅値が2.5nm以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 上記第1の芳香族ポリアミドフィルムに含有される不活性粒子の平均粒径は、0.03〜1.5μmであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項8】 上記第1の芳香族ポリアミドフィルムの不活性粒子は、0.05〜2.0wt%となるように含有されたことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項9】 上記第2の芳香族ポリアミドフィルムの不活性粒子は、上記第1の芳香族ポリアミドフィルムに含有される不活性粒子の平均粒径よりも小であり、且つ、その平均粒径が0.03〜0.15μmであり、0.01〜1.0wt%となるように含有されたことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項10】 上記非磁性支持体の厚みが2.5〜5.0μmであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項11】 上記非磁性支持体は、金属磁性膜が成膜される一主面と反対側に位置する他主面の表面粗さ(SRa)が4〜20nmであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−285438(P2000−285438A)
【公開日】平成12年10月13日(2000.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−86779
【出願日】平成11年3月29日(1999.3.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】