説明

磁気記録用六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法

【課題】 実施するのが容易でありながらも効率良く、有機酸とりわけ酢酸成分を除去するための方法を提供することであり、さらにその方法により有機成分、すなわち炭素が低減された六方晶フェライト粉末を提供すること。
【手段】 ガラス結晶化法による六方晶フェライト粉末の製造方法において、有機酸による酸処理によってガラス成分とフェライト成分とを溶解分離した後、フェライト成分に200℃以上熱処理を施すことにより、有機成分を脱離あるいは分解することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に使用される六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、塗布型の高密度磁気記録媒体に用いられる磁性体としては、主としてメタル磁性粉が用いられている。しかし、メタル磁性粉は金属を主体とするものであり、微細な粒子になるのに伴い、長期間にわたりその磁力を保持するため、酸化膜を多く必要とするようになってきた。その結果、磁力を司る金属部分が減少し、粉末そのものの磁力の低下が避けられない状況にある。
【0003】
これは、高密度磁気記録にとっては看過できないものであり、最近になって酸化膜の影響を受けない磁性粉、すなわち酸化物磁性粉末の検討が行われるようになってきた。その代表例が、六方晶フェライトからなる磁性粉末である。
【0004】
六方晶フェライトに関する検討は、今までも継続して広くなされてきた。特に最近では、例えば特許文献1などに記載されるように、微粒子でありながらも高い磁気特性を有した磁性粉末について開示がなされてきており、高密度磁気記録における有望な材料として認識されるようになってきた。
【0005】
一例として、特許文献1には平均板径は18〜30nmと微細でありながらも、その粒子径および板厚がそれぞれ均一になるように規定された磁性粉末について開示がなされている。特許文献2には、微細な六方晶フェライトを調整するための手段として、酸で処理したスラリーに対して温水を添加し、デカンテーションあるいは濾過を行うことで残留酸成分を除去する方法について開示がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−340690号公報
【特許文献2】特開2005−340673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微粒子の六方晶フェライト粒子は、特許文献1もしくは2などに記載のように様々な手法の中でも特にガラス結晶化法により得られている。ガラス結晶化法はそれぞれの特許文献に記載されているように、微粒子でかつ高い磁気特性を与える磁性粉末を方法として知られている。
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、与えられる粒子が微粒子であるが故の問題があることがわかってきた。その問題の端緒は特許文献2においても認識されている。すなわち、ガラス成分を除去するときに使用する酸成分、具体的には酢酸の除去に関することである。
【0009】
ガラス成分を除去した後の粉末を、弱酸である酢酸の希釈水溶液によって洗浄する手法は、ガラス結晶化法が考案されてから現在に至るまで、大きな技術的革新を経ることなく行われてきた方法である。しかし、対象とする磁性粉末が微粒子、とりわけ30nm以下の領域になると、いくら洗浄を強化しても、完全に除去することは難しくなってくる。
【0010】
このことは、特許文献2に指摘があるとおり、酸成分が残存すると、金属塩を形成する原因となり、それが元となって磁気ヘッドに著しい影響を与えることになる。また、酸成分の吸着が多いことは、磁性塗料とする際バインダーの吸着サイトに酸成分が吸着し、バインダーに対する分散を阻害する危険がある。
【0011】
そこで特許文献2では、スラリーに対する洗浄方法に着目した上で、洗浄を強化し酸成分を除去することを提案している。しかし、本発明者らの検討によれば、この方法で除去を行ったとしても、必ずしも酸成分が常に除去されるとは限らないことが知見され、常に効率良く除去される方法を見いださなければ、六方晶フェライトの品質を均一に保つことは難しいという可能性に行きついた。
【0012】
そこで、本発明の解決すべき技術的課題は、実施するのが容易でありながらも効率良く、有機酸とりわけ酢酸成分を除去するための方法を提供することであり、さらにその方法により有機成分、すなわち炭素が低減された六方晶フェライト粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述の課題の解決のため鋭意検討したところ、下記のような手法を以てすれば解決できうることを見いだし、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、ガラス結晶化法による六方晶フェライト粉末の製造方法において、有機酸による酸処理によってガラス成分とフェライト成分とを溶解分離した後、フェライト成分に200℃以上熱処理を施すことにより、有機成分を脱離あるいは分解することを特徴とする。
【0015】
該脱離あるいは分解は、フェライト粉末を転動させながら行うことが更に好ましい。また、該熱処理は200〜500℃の範囲で行うことがより好ましい。
【0016】
該脱離あるいは分解は、新鮮な気体が供給される通風状態下でなされることがより好ましい。
【0017】
得られる六方晶フェライト磁性粉は、炭素が500ppm未満であって、板径が10〜30nmであり、BET一点法により算出される比表面積が50〜120m/gである、磁性粉末である。
【0018】
また該粉末は、本発明を構成する粉末は、鉄、ビスマス、2価の金属(M1と表記する)、4価の金属(M2と表記する)と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、鉛のいずれか一種(Aと表記する)の少なくとも五元系、好ましくは希土類元素の少なくとも一種(Rと表記する)を含んだ六元系の六方晶フェライト粉末である。これを組成式として示せば、(Ba,Sr,Ca,Pb)FeBiM1M2と表記することができる磁性粉末である(ただし、a+b+c+d+e+f=1(場合によりf=0であることもある)、かつa,b,c,d,e,f≠0)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、残存しやすい有機酸成分が低減される六方晶フェライト磁性粉末を効果的に得ることができるようになり、磁気記録密度の向上に寄与することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1〜5と比較例1〜2にかかる粉末で測定されたHc値とSFD値と単層媒体で測定したHcx値とSFDx値を比較して、各々の向上率(%)を対比して示した図。
【図2】実施例6〜7と比較例3にかかる粉末で測定されたHc値とSFD値と単層媒体で測定したHcx値とSFDx値を比較して、各々の向上率(%)を対比して示した図。
【図3】転動させながら熱処理を行う際のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ガラス結晶化法による六方晶フェライトの製造方法に適用されるものであり、ガラス体除去時に付着する有機酸(主として酢酸)を200℃以上の熱処理により分解もしくは脱離させることを特徴とするものである。
【0022】
上記の形態に従って、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
本発明に従う粒子構成は、主組成となる鉄とアルカリ土類金属(A)の他、保磁力を調整するための2価、4価の添加元素(M1,M2)や、形状を制御するための添加元素であるビスマスの組成を含んでいても良い。また、さらなる添加元素として希土類元素が含むことも好ましい構成である。このような構成とすることで、希土類元素の添加は粒子の微粒子化が促進されるようになり、小粒子体積化(高比表面積化)が図れるようになる。
【0024】
あわせて、その構成は、鉄以外に添加するアルカリ土類金属(A)と添加元素(M1とM2)の添加量合計は、全体に占める構成割合が、0.20未満、好ましくは0.15未満である。言い換えれば(Ba,Sr,Ca,Pb)FeBiM1M2と表記したとき、(a+d+e)が0.20未満、好ましくは0.15未満である。あまりに添加成分が多すぎる場合には磁気特性のバランスがとれにくくなるので好ましくない。一方で添加量が少なすぎると、添加の効果が生じないので好ましくない。
【0025】
ビスマスは、添加することにより、フェライト化の温度を低くすることができるので、粒子同士の焼結を減らすことができるようになり、結果として粒子の小粒子化に寄与するようになる。また、板厚を大きくするためにこの添加量を調整することも可能である。従って、この添加量を高くしすぎてしまうと、板径の厚い粒子が生じるようになり、結果として粒子が大きくなる可能性があるので注意を要する。
【0026】
発明者らの検討によれば、これらのバランスのとれるビスマスの添加量は、鉄に対するモル比が10%未満、好ましくは5%未満である(当然、ビスマスは必須の構成成分であるので、0%よりも大であることは言うまでもない)。言い換えれば(Ba,Sr,Ca,Pb)FeBiM1M2と表記したとき、c/bが0.1未満、好ましくは0.05未満とするのがよい。
【0027】
製造方法としては次の方法が採用される。すなわち、ガラスの母材と、主構成原料である鉄、アルカリ土類金属と添加物であるCo、Ti、Zn、Nb、Biなどを混合する。この主構成成分の添加割合は、鉄に対して構成狙い量に合致した量とする。ただし希土類元素のみは、後述の理由により鉄の投入量に対して等モル以下であり、最終的に含有すると見込まれる量よりも過剰の量を添加する。
【0028】
具体的には希土類元素は鉄の仕込み量に対して等モル以下、好ましくは15モル%以下、一層好ましくは1.5〜12.5モル%の範囲以下とすると良い。かような量を添加することでガラス体を形成した後に、熱処理を行う際に粒子間の焼結防止剤として働くようになる。また、こうすることで六方晶フェライトを形成する時、フェライト粒子が個々に独立し、本発明のような小体積である粒子を形成することができるようになる。原料としては、塩の形態となっていることが好ましく、具体的には硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩あるいは酸化物等から選択できるが、酸化物が適している。
【0029】
混合は原料とガラスの母材が均一に混合されていれば良く、混合の手法は制限されないが、乾式の手法を採用することが好ましい。
【0030】
これらの混合物を電気炉にて溶融する。この時の溶融温度は1000〜1600℃、好ましくは1100〜1500℃、一層好ましくは1150〜1450℃とする。この時の溶融は混合しながら行っても構わない。溶融はガラスとフェライト及び添加剤成分が均一に溶融されれば足りるので、溶融時間は6時間以内、好ましくは4時間以内、一層好ましくは2時間以内である。
【0031】
得られた溶湯を急冷し、ガラス体を形成する。この時の急冷方法は特に限定されるものではないが、急冷速度の速い双ロール法、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法が採用できる。また、ホウ素化合物、ケイ素化合物の他、場合によりアルカリ金属酸化物、例えば酸化ナトリウム、酸化カリウムといったものを、磁気特性に影響を与えない程度添加して溶融してもよい。この時の添加量は全体に対して多くとも10質量%以下、好ましくは5質量%以下、一層好ましくは2質量%未満である。
【0032】
得られたガラス体を粉砕してもよい。この時の粉砕は公知の方法を採用でき、例えばボールミルによる解砕を施せばよいが、スケールにより適宜変更することが可能である。その後、篩いにより粉砕時に残存している粗大粒子を除去することが、均一な磁気特性を有する磁性粉末を得るために好ましい。
【0033】
こうして得たガラス体、あるいはその粉砕物に対して熱処理を加え、フェライトを析出させる。こうして得られたガラス体を熱処理することで、ガラス体中にフェライトを析出させる。この時の熱処理は、ガラス体は静置させておいても良いし、場合によっては転動させながら熱処理をしても構わない。
【0034】
熱処理の温度は、ガラス体中にてフェライトが形成できる程度であれば良く、具体的には、450℃以上900℃以下、好ましくは500℃以上850℃以下、一層好ましくは550℃以上700℃以下である。熱処理は単一の温度で行う、いわゆる一段での加熱でも良いし、異なる処理温度で数段に分けて行う、いわゆる多段処理であっても良い。熱処理の時間は30分以上、好ましくは1時間以上行うのがよい。
【0035】
次に得られたフェライト含有ガラス体から、ガラス成分を除去する。この時には10質量%程度に希釈された希酢酸を用いるのが良く、処理温度は50℃以上で行うのがよい。ガラス体を除去できれば良いので、酢酸は場合によって煮沸させてもよいし、また均一除去のため攪拌しても良い。
【0036】
得られたフェライト磁性粉から洗浄により表面に付着した酢酸などを除去する。純水を用いて洗浄し、あるいは純水を煮沸させて付着成分を除去しても良いが、場合により、アンモニア水により洗浄の際に付着した酢酸を中和させつつ洗浄するのも好ましい。その後は、洗浄液を純水として、濾液のpHが6〜8程度になるまで十分に洗浄を施す。粒子は凝集体の形状を呈することが多く、粒子の隙間に酢酸や反応の残存物が存在することもあるので、除去、洗浄の工程を通じて、超音波をあて、ガラス体の除去や洗浄を行うことも好ましい。
【0037】
この工程の後の熱処理工程が本願発明においては重要な意味を持つ。熱処理は静置で行っても良いし、転動させながら行っても良い。熱処理を転動させながら行う場合には、熱処理炉自体が自転する方式であっても、炉心のみが自転する方式であってもいずれでも構わない。回転速度は1〜50回転/分、好ましくは5〜45回転/分、一層好ましくは10〜40回転/分であることが好ましい。
【0038】
また、例えば図3に示すように、回転軸は地面に対して若干傾斜していることが好ましい。図3にはθとして表記したが、この傾斜角θは1〜45度、好ましくは5〜40度、一層好ましくは5〜30度であるのがよい。こうすることによって、炉の回転との相互作用により、試料への熱のかかり方が比較的均一になるため、熱が局所的にかかることによる粒子の焼結を低減することができるようになる。
【0039】
該熱処理の温度は200℃以上、好ましくは200℃以上500℃以下、さらに好ましくは200℃以上300℃以下とするのがよい。熱処理時間は酸成分の除去の程度に応じて選択すればよいが、好ましくは30分以上、好ましくは1時間以上行うのが好ましい。
【0040】
この時の熱処理は、洗浄工程後に行われるものなので、一挙に200℃以上で行っても良いし、一旦水蒸気を除去するため80〜100℃で処理してから昇温させて有機酸除去工程(本願で言う熱処理)を与えても良い。
【0041】
そして、粒子の表面を整えるため、水蒸気の含まれる環境下において粉末を曝すことにより、0.5〜5.0質量%、好ましくは1.0〜2.0質量%の水分を付着させ、フェライト粉末を得ても良い。
【0042】
<磁性粉の評価>
得られた磁性粉を、以下に示す方法により物性を評価した。
【0043】
<粒子の形態>
粒子の平均板径および板状比は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM−100CXMark−II型)を使用し、100kVの加速電圧で、明視野で磁性粉末を観察した像を写真撮影し、平均板径については約300個の、平均板状比については約100個の粒子を測定した。
【0044】
<粒子のBET値の算出>
粒子の比表面積はBET法により算出する。具体的にはユアサイオニクス株式会社の4ソーブUSを使用して算出した。
【0045】
<粒子の粉体pHの算出>
粒子の粉体測定は、JIS規格K−5101−17−1:2004(顔料試験方法−第17部:pH値−第1節:煮沸抽出法)に記載の方法を採用して測定する。概略としては下記に従う。
【0046】
ガラス製容器に、液中から炭酸ガスを除いた純水を用い、被検粉末の10%懸濁液を作成する。その後、蓋を開放状態として5分程度加熱することにより煮沸して、煮沸状態になってから、更に5分間煮沸を継続する。その後、蓋をしてから常温まで放冷し、煮沸により減少した量の水を補って、1分間振り混ぜた後、5分間静置した後、懸濁液のpHを測定することによって値を得た。なお、煮沸液導電液の算出は、本法に従って得られる懸濁液の導電率である。
【0047】
<粒子のステアリン酸吸着量の算出>
ステアリン酸吸着量は、窒素で置換したグローブボックス中において、本実施例で得られた磁性粉末を30メッシュで解粒した試料2.0gを、2質量%のステアリン酸が溶解したメチルエチルケトン溶液15.0gに添加し、下部から永久磁石を用いて試料を凝集させ、上澄み液10gを分取してホットプレート上において90℃で3時間加熱した後の残分の重量を測定して、ステアリン酸吸着量をA=1000×B×(C/100)×[1−E/{(C/100)×D}]/Fから算出した。但し、Aはステアリン酸吸着量(mg/g)、Bは溶液の全重量(g)(ここでは15.0g)、Cは溶液中のステアリン酸濃度(質量%)(ここでは2質量%)、Dは上澄み液の重量(g)(ここでは10g)、Eは90℃で3時間加熱した後の残分の重量(g)、Fは試料の重量(g)(ここでは2g)である。この式中、B×(C/100)は当初の溶液中のステアリン酸の重量(g)を示し、[1−E/{(C/100)×D}]は上澄み液中に残存するステアリン酸の割合を示している。
【0048】
<粉末中の炭素含有量評価>
粉末中の炭素含有量は、堀場製作所製のC/S同時分析装置EMIA−220Vを使用して測定した。
【0049】
<粉末磁気特性評価>
磁性粉末をφ6mmのプラスチック製容器に詰め、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して、外部磁場10kOe(795.8kA/m)で、保磁力Hc(Oe、kA/m)、飽和磁化σs(Am/kg)、角形比SQ、粉体のBSFD(バルク状態におけるSFD値)を測定した。
【実施例】
【0050】
ガラス結晶化法による六方晶フェライト製造の代表例として、バリウムフェライトを例にして本発明の効果について説明する。ここで示した組成はあくまでも例示であって、適宜調整することが可能である。
【0051】
<単層磁気テープ評価>
得られた磁性粉末(最終製品としての磁性粉末)0.35gを秤量して(内径45mm、深さ13mmの)ポットに入れ、蓋を開けた状態で10分間放置した後、マイクロピペットでビヒクル(日本ゼオン株式会社製の塩化ビニル系樹脂MR−555(20質量%)と、東洋紡株式会社製のバイロン(登録商標)UR−8200(30質量%)、シクロヘキサノン(50質量%)と、アセチルアセトン(0.3質量%)と、ステアリン酸−n−ブチル(0.3質量%)の混合溶液)0.7mLを添加し、その直後にスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットに加えて、蓋を閉じた状態で10分間静置した。
【0052】
その後、ポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げて600rpmに調整し、60分間分散させた。遠心式ボールミルを停止した後、ポットを取り出し、予めメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合した調整液1.8mLをマイクロピペットで添加した。その後、再びポットを遠心式ボールミルにセットし、600rpmで5分間分散させ、磁性塗料を作製した。
【0053】
次に、ポットの蓋を開けてナイロンボールを取り除き、スチールボールごと磁性塗料をアプリケータ(550μm)に入れ、ベースフィルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム15C−B500、膜厚15μm)上に磁性塗料を塗布した。時間をおかず迅速に5.5kGの配向器のコイル中心に置いて磁場配向させた後、乾燥させて磁気テープを作製した。乾燥後の塗膜厚みは3μmである。なお、ここでは金属磁性粉末の効果をより鮮明に確認するため、非磁性層を設けず、磁性層単層のテープを作製した。また、カレンダ処理は行っていない。
【0054】
このようにして作製した媒体としての磁気テープについて、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して磁気測定を行い、保磁力Hcx(Oe、kA/m)、磁性層表面に平行な方向の保磁力分布SFDx、最大エネルギー積BHmax、磁性層表面に平行な方向の角形比SQx、磁性層表面に垂直な方向の角形比SQz、配向比ORを求めた。
【0055】
バルク体の磁気特性値(Hc、SFD)は、媒体化することによってHc値については高くなり、SFD値については低くなって改善する。これらの改善幅を示すため、次のような算出式を用いて示した。
【0056】

【0057】

【0058】
(比較例1)
六方晶フェライト成分として、酸化鉄162.04g(株式会社鉄源製/HRT)、炭酸バリウム(堺化学工業株式会社製/BW−P)289.69gを秤量し、ガラス形成成分として酸化ホウ素(Borax製/工業用)89.47g、添加物として酸化コバルト(和光純薬工業株式会社製/特級試薬)6.08g、二酸化チタン(和光純薬工業株式会社製/特級試薬)6.48g、酸化ビスマス(関東化学株式会社製/試薬)18.91g、酸化ネオジム(キシダ化学製、3N)27.32gをそれぞれ秤量した。
【0059】
得られた混合物を、自動乳鉢で10分間処理し混合物が均一になるように処理した。こうして得られた混合物を白金製るつぼに挿入し、1400℃で溶解させた上、60分間維持することで、完全に混合物を溶解させた。
【0060】
得られた溶湯はガスアトマイズ法を用いて急冷し、固化物を得た。篩い分けによって得られた急冷固化物から粗大粒子を除いた後、650℃で1時間にわたり熱処理を行った。
【0061】
その後60℃に加熱した10質量%酢酸に熱処理後の粉末を粉末濃度が20質量%になるように浸漬し、60分保持して酸処理してガラス成分を除去した。
その後、固形物濃度が0.4質量%になるように室温の純水を加えてろ過する工程をろ液導電率が0.5mS/m以下になるまで繰返して洗浄を行った。
【0062】
こうして得られた粉末を大気中110℃で4時間乾燥することにより、フェライト乾燥粉末とした。この工程で得られた磁性粉末は、熱処理条件をおこなわないものである。得られた磁性粉末の物理特性、粉体磁気特性、単層媒体特性を表1〜3にあわせて示した。
【0063】
(比較例2)
比較例1にて作成した磁性粉末を、厚さ4mmのSUS304板上に得られたフェライト粉末を層厚5mmになるように敷き、大気中にて150℃で240分間熱処理を加えてバリウムフェライト磁性粉末を得た。そして、上述の方法に従って磁気特性等を測定した。得られた磁性粉末の物理特性、粉体磁気特性、単層媒体特性を表1〜3にあわせて示した。
【0064】
(実施例1〜5)
熱処理の時間および熱処理温度を表1に示した条件とした以外は同様にして、比較例2を繰り返した。得られた結果について表1〜3に示す。
【0065】
(比較例3)
比較例1において、希土類元素である酸化ネオジムを加えなかった以外は同様の条件で比較例1を繰り返して実施した。ここで、本比較例にて得られる磁性粉末は、後述の実施例6〜7にも使用する。得られた磁性粉末の物理特性、粉体磁気特性、単層媒体特性を表1〜3にあわせて示した。
【0066】
(実施例6〜7)
熱処理の時間および熱処理温度を表1に示した条件とした以外は同様にして、比較例2を繰り返した。得られた結果について表1〜3に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
実施例と比較例1または3を対比することにより明らかなように、ガラス体除去処理後に熱処理を加えた場合には、炭素吸着(残存量)が少ない粉末が得られている。比較例1または3のように、熱処理を与えない場合と比較しても大きく低下していることが明白であり、酸成分を粉末表面から効率良く分離除去できることがわかる。
【0071】
一方で、熱処理温度を高くしてしまうと、ガラス体のような表面被覆成分がないことに起因して、粒子間の焼結が進んでしまい、保磁力の分布を示すSFDの値が大きくなり、媒体としての特性が悪化していることを示す。また、温度を低くしすぎても、炭素分を除去する効果が低いことがわかる。
【0072】
また、図1または2に示したように(図1は比較例1〜2と実施例1〜5との比較、図2は比較例3と実施例6〜7との比較)本発明に従う方法で得られる磁性粉は、バルク体からテープ状にした場合の保磁力(Hc)値の増加割合とSFD値の減少割合がともに改善傾向を示したバランスの良い磁性粉末となった。図1および2においては、右上側が好ましい改善方向であり、Hcが高くなり、かつ保磁力の分布が狭くなる。図を参照すると明らかなように、図1、図2とも本発明に従う粒子の方がHcが高く、SFDの小さい傾向を示すことがわかる。なお、図1において、▲は実施例、△は比較例であり、図2において■は実施例、□は比較例である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に従う磁性粉末によれば、高密度磁気記録に適した磁気記録媒体を提供できるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス結晶化法による六方晶フェライト粉末の製造方法において、有機酸による酸処理によってガラス成分とフェライト成分とを溶解分離した後、フェライト成分に200℃以上熱処理を施す、六方晶フェライト粉末の製造方法。
【請求項2】
前記脱離あるいは分解は、フェライト粉末を転動させながら行う、請求項1に記載の六方晶フェライトの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は200〜500℃の範囲で行う、請求項1または2に記載の六方晶フェライトの製造方法。
【請求項4】
前記脱離あるいは分解は、新鮮な気体が供給される通風状態下でなされる、請求項1ないし3のいずれかに記載の六方晶フェライトの製造方法。
【請求項5】
炭素残存量が500ppm未満、板径が10〜30nmであり、BET一点法により算出される比表面積が50〜120m/gである、六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項6】
鉄、ビスマス、2価の金属(M1と表記する)、4価の金属(M2と表記する)と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、鉛のいずれか一種(Aと表記する)及び希土類元素の少なくとも一種(Rと表記する)の少なくとも六元系からなる、請求項5に記載の六方晶フェライト粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−181130(P2011−181130A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42762(P2010−42762)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】